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Transcription:

3 酵素 1. はじめに生体内のほとんどの化学変化は酵素 (enzyme) というタンパク質によって触媒される 近年, タンパク質以外の物質が生体内で触媒作用を発揮する例が見つかっている 例えば, 一部の RNA( リボ核酸 ) には, 触媒作用がある 2. 酵素のはたらき方 (1) 酵素作用のモデル酵素と結びつき変化を受ける物質を基質 (substrate) という 基質は酵素分子の表面の特定の部位 ( 活性部位, active site) に結合し, 酵素タンパク質が作りだす特殊な環境により, いったんエネルギーの高い状態の ( ただし, 触媒がない場合よりは低いエネルギーで済む ) 酵素 - 基質複合体を形成する この状態から, 基質は生成物 (Product) へと化学形を変え, 酵素から離れる それと同時に, 酵素は元の分子状態に戻り, 再び次の基質と結合する 酵素反応の一般的な表し方 E + S ES E + P E: 酵素 S: 基質 ES: 酵素 - 基質複合体 P: 生成物 (2) 酵素の構造キモトリプシンはすい臓から分泌される消化酵素で, タンパク質を加水分解する 活性部位は Ser 195, His 57, Asp 102 で構成される 基質が結合する部位 ( 基質結合ポケット ) は疎水的な環境にあり, ここに芳香族アミノ酸の芳香環を収納する 一方, キモトリプシンと良く似た酵素であるトリプシンの基質結合ポケットの底には Asp 残基, エラスターゼでは 2 つの Val 残基があり, それぞれ, 塩基性の側鎖や Ala を特異的に結合する 酵素反応は酵素と基質が複合体をつくることから始まる図の a, b, c が活性部位に相当 (3) 酵素反応と活性化エネルギーキモトリプシンの 3 次構造酵素は反応の活性化エネルギーを下げ, 反応の速さを数百万 ~ 数億倍に上昇させる このために, 反応の温度を上げる必要がなく, 温和な条件で反応が進行する

[ 活性化エネルギーと触媒 ] E a,e a ': 活性化エネルギー 触媒の効果 反応 触媒 なし H 2 O 2 の分解白金コロイドカタラーゼ水素イオンショ糖の分解スクラーゼ 活性化エネルギー [cal/mol] 18,000 11,000 5,500 26,500 11,500 2.303log a /RT k = + -E C k, 速度定数. 0, k無触媒 c ;, k カタラーゼとすると,37 (310 K) では, log(k c /k 0 )=(18000-5500)/(2.303x1.99x3 k c /k 0 = 8.8 10= 6.3x10 8 6.3 億倍です! 3. 酵素反応の性質 (1) 酵素と基質の相性 基質特異性 酵素は特定の反応だけを触媒する また, 特定の化合物または一群の化合物にしか作用しない この性 質を酵素の基質特異性 (substrate specificity) という 以下, 例を示す ペプシン, トリプシン : タンパク質やペプチドの特定のアミノ酸残基のペプチド結合を加水分解する α-アミラーゼ : デンプンを加水分解し, マルトースに変える しかし, セルロースや寒天など, 他の多糖類には作用しない リパーゼ : 脂質を加水分解する タンパク質や糖には作用しない マルタ-ゼはマルトースだけを, スクラーゼはスクロースだけを,β-ガラクトシダーゼはラクトースだけを加水分解する また, ウレアーゼは尿素だけを分解する これらの酵素は, 基質特異性が高いと言う 酵素の表面には基質が結合する溝状のくぼみがある 基質はこのくぼみに結合し, 変化を受ける このような酵素の立体構造の領域を活性部位または活性中心という 一般に, 活性部位の立体構造は 鍵と鍵穴の関係のように特定の基質とぴったり合うようになっている 従って, 酵素は基質の立体構造を認識することができる分子といえる ある酵素では, 特定の基質と結合する時に活性部位の立体構造が少し変化する このように, 基質によって立体構造が変化する現象を誘導適合 (induced fit) という 鍵と鍵穴説 誘導適合説 基質が結合する前の酵素の活性部位 (a-c) の立体構造が, 両者で異なる事に注意 (2) 酵素反応は ph 依存的 至適 ph 酵素の本体はタンパク質であるから, その触媒作用にはタンパク質としての性質が反映される 酵素が作用を発揮する最適の ph を至適 ph (optimum ph) という 酵素の活性には種々のアミノ酸の解離性原子団が関与する 酵素活性が ph に依存するのは, それらの原子団の解離が ph によって変化するためである [ 酵素反応速度と ph] 酵素反応速度と温度

(3) 酵素反応は温度にも依存 至適温度 酵素が作用を発揮する最適の温度を至適温度 (optimum temperature) という 一般に, 反応速度は温度とともに上昇するが, 酵素はタンパク質であるから高温では変性するため, 活性が逆に低下す る 至適温度 一応の目安であり, 例外はいくらもある 動物の酵素では 40~50, 植物の酵素では50~60 である 好熱性細菌のように, 80~90 ( 超高熱菌には90 以上 ) のものもある (4) 酵素の能力は基質濃度を変えると見えてくる酵素反応の速さは, 酵素濃度や基質濃度に依存する 酵素反応を理論的に取り扱ったものとして, 次のミカエリス メンテンの式が有名である ミカエリス メンテンの式 V max [S] v = ( ミカエリス メンテンの式 ) [S]+K m K m はミカエリス定数で 次式で与えられる +k cat k 2 K m = 1 k 基質濃度と反応速度の関係を図で示すと, 右のようになる V max は最大反応速度で, 酵素が基質で飽和された状態での反応速度に相当する V max は代謝回転数を計算するのに用いられる 1 基質濃度が低いとき :[S]<<K m ミカエリス メンテンの式から,v =(V max /K m )[S] となり, 反応速度は [S] に比例する 1 次反応 2 基質濃度が高いとき :[S]>>K m v =V max となり, 反応速度は [S] に無関係に一定となる 0 次反応 ミカエリス定数の意味 K m が v=(1/2)v max を与える基質濃度になることは ミカエリス メンテンの式から容易に分かる 同じ基質に対して,K m が異なる酵素の場合, K m が小さいほど作用が強いといえる 同様に, 同じ酵素に対して,K m が異なる基質の場合,K m が小さい基質ほど作用を受けやすいといえる 酵素 - 基質複合体 (ES) の解離定数 K S は次のようになる K S =k 2 /k 1 もし k 2 k cat であれば ( つまり ES E+Pが律速段階 ) K m =K S となり K S は酵素 Eと基質 Sの親和性を表わすパラメーターと考えてよい事になる 従って K m 値が小さい程 ESの解離が起きにくい つまり 酵素と基質が結合し易いことになる 一般に E + S = ES の反応は極めて速い平衡にあり k 1 k 2 k cat の条件が満たされていることが分かっている これを準平衡の取り扱いと呼ぶ [S] K m の場合 ( 低濃度の基質 ): ミカエリス メンテンの式より v =(V max /K m )[S] 0 となり 反応は基質濃度に比例し, 一次反応となる K m [S] の場合 ( 高濃度の基質 ): v =V max なので,0 次反応になり, 反応速度は基質濃度に無関係である ミカエリス定数の測定 ( ラインウィーバー バークプロット ) ミカエリス定数を求めるには, ミカエリス メンテンの式から導かれる次の式を利用する

1/v =(K m /V max [S]) + 1/V max この次は, ラインウィーバー バークの式と呼ばれ, 縦軸に 1/v, 横軸に 1/[S] をとってグラフにすると直線になる この直線と横軸の交点から K m が, 傾き =K m /V max から V max が求まる (5) 酵素反応の阻害酵素は種々の化学物質によって阻害 (inhibit) される 多くの医薬品の基本 = 阻害剤 1 拮抗阻害 ( 競合阻害 ) 酵素の活性部位に結合し, 基質の結合を妨げる阻害様式 基質とよく似た化学構造を持つ阻害剤 基質もどき ( 本物のりんごとプラスチックのりんご ) 特徴は 阻害剤の濃度を上げると, 阻害の程度は小さくなる V max は変わらず,K m だけが増加する 2 非拮抗阻害 ( 非競合阻害 ) 酵素の活性部位以外の部位に結合する阻害 従って, 阻害剤は E とも EI とも結合 酵素のもつ金属イオンと錯塩を形成するもの: CN -, H 2 S, CO 重金属イオン,Hg, Ag, 酸化剤や界面活性剤など 特徴 阻害剤の濃度を上げても, 阻害の程度は変わらない K m は変わらず,V max だけが減少する

4. 酵素の変わった側面 (1) 助け ( 補酵素 ) がないとはたらかない酵素酵素の触媒作用は, タンパク質だけでなく, しばしば他の分子を必要とする その 1 つが補酵素である これらアミノ酸以外の成分 ( 補助因子,cofactor) をという また, タンパク質部分をアポ酵素 (apoenzyme), 補欠分子団を結合した状態の酵素をホロ酵素 (holoenzyme) と呼ぶ 青はアポ酵素 ( 不活性 ) を表す 補欠分子族 ( ) がアポ酵素に結合すると活性型になり, 基質に作用できる 補助因子 1. 金属イオン Ca 2+ ( アミラーゼ ),Mg 2+ ( ヘキソキナーゼ ),Zn 2+ ( 金属プロテアーゼ ),Cu 2+ 2. 補酵素 (coenzyme): ビタミン B 類が補酵素の原料になる 1 非共有結合でアポ酵素に結合した補酵素 大部分の補酵素 NAD +, NADP +, FAD, FMN, TPP など 2 共有結合でアポ酵素に結合した補酵素 ( 補欠分子族という ) 酵素タンパク質のアミノ基, チオール基などに共有結合 FAD, ヘム, ビオチン, リポ酸など (2) 酵素タンパク質の構造がわずかに変わることにより活性が変化する酵素 アタマやシッポが切られるとはたらく酵素不活性な前駆タンパク質としてつくられ, ペプチド鎖の一部が切られて活性型の酵素に変化するものもある ペプシノーゲン ペプシントリプシノーゲン トリプシンキモトリプシノーゲン キモトリプシンプロエラスターゼ エラスターゼプロトロンビン トロンビン リン酸基がついたり離れたりするとはたらく酵素タンパク質中のセリン, トレオニン, チロシン残基は OH 基をもつ OH 基はリン酸化されることがある リン酸化されると活性型の酵素になるものや, 逆に, リン酸基が外れると活性型になる酵素がある (3) 何かが付着することにより活性が変わる酵素 ( アロステリック酵素 ) 酵素タンパク質の立体構造は硬い固定したものではなく, 状況に応じて構造は変化する アロス

テリック酵素と呼ばれる酵素では, 活性部位の近辺に効果物質 ( アロステリック因子 ) が結合する部位が存在 これにより, アロステリック酵素は立体構造が変化し, 活性が大きく変化する (a) フィードフォワード調節多段階の代謝過程において, 前の反応の基質や生成物が, 後の反応の酵素活性を上昇させる ( 活性化する ) 調節機構 アミドホスホリボシルトランスフェラーゼ 5-ホスホリボシル-1 α- PRPP 5-ホスホ- 二リン酸 (PRPP) β-リボシルアミン (b) フィードバック調節多段階の代謝過程において, 後の反応の生成物が, 前の反応の酵素活性を低下させる ( 阻害する ) 調節機構 負のフィードバック調節という 逆に, 活性を上昇させる場合には, 正のフィードバック調節という 5. 酵素の命名と分類酵素は, その触媒反応の形式によって, 次の 6 つに分類される 酵素の分類と名称 ホスホフルクトキナーゼは解糖の律速酵素 解糖で生じる ATP の濃度が上昇すると ATP がアロステリック因子としてはたらき,K m を増加させてこの酵素を阻害する また, クエン酸も阻害剤となる 一方,AMP,cAMP, フルクトース -1.6- 二リは活性化剤となる

酵素反応の形式例 酸化還元反応 1. 酸化還元酵素 (Oxidoreductase) デヒドロゲナーゼ群, シトクロム群, カタラーゼ, オキシダーゼ群, オキシゲナーゼ群, 脂肪酸不飽和化酵素 原子団転移反応 2. 転移酵素 (Transferase) アシル転移酵素 [ アシル基転移 ], キナーゼ群 [ リン酸基転移 ], アミノトランスフェラーゼ群 [ アミノ基転移 ] 3. 加水分解酵素加水分解反応 (Hydrolase) タンパク質分解酵素群 ( プロテアーゼ ), 脂質分解酵素群 ( リパーゼ ), 糖質分解酵素群 ( アミラーゼ, リゾチーム,β ガラクトシダーゼ ) リン酸分解酵素群 ( ヌクレアーゼ群, ホスファターゼ群, 制限酵素 ) その他 ( ウレアーゼ,ATP 加水分解酵素 ) 4. 脱離酵素 (Lyase) 5. 異性化酵素異性化反応 (Isomerase) 付加および脱離反応炭酸ヒドラターゼ, ピルビン酸デカルボキシラーゼ ラセマーゼ群, ホスホグリセリン酸ホスホムターゼ, グルコース 6- リン酸イソメラーゼ C-C, C-O, C-N 結合 6. 合成酵素 DNAリガーゼ, アミノアシルtRNA 合成酵素, などの生成反応 (Ligase, アシルCoAシンテターゼ, カルボキシラーゼ群 (ATPを要求) Synthetase)