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第 3 節心筋梗塞等の心血管疾患 , % % % %


Transcription:

酒井ほか A型大動脈解離に対する弓部置換術 1997年8月 血管に直接吻合を行い 慢性期の1例はelephant 表2 trunk法にて再建したためフェルトラッピング法は用 は フェルトラッピング法を用いた HAR 大動脈 遮断 一 52±18 体外循環 96±26 (n 7) GRF糊を用いた症例では断端部の解離腔内にGRF TAR 糊を注入し吻合部の補強を行った 結 HARとTARの比較 手術と補助 循環停止 一 16±4 いなかった. Double barrelに再建した慢性期の1例で 603 15±10 62±58 153±45 手術 255±45 393±123 (n=7) 果 HAR : hemiarch replacement 1. HARとTARの比較 1 手術と補助 表2 表3 TARのうち,Piehler法で再建を行ったMarfan症例 はaortic buttan法で再建した左冠動脈からの出血の コントロールが困難であったためPiehler法による再 GRF glue円 (n 5) 建法に変更した症例であり 検討から除外した 循環 停止 大動脈遮断には両群で差を認めなかっ た.体外循環,手術はいずれもTAR群で有意 19±5 P<0.05 に長を要した. 2 手術成績 GRF TAR P<0.05 : totalarch replacement GRF糊使用の有無による比較 循環停止 11±5 GRF glue(-) (n=9) P<0.01 大動脈 遮断 42±11 66±44 体外循環 121±35 126±51 手術 290±83 ±129 343 gelatine- esorcine-formaldehyde 全症例のうち1例を失い死亡率は7 であった 死 亡例はTARの1例であり 術後低心拍出症候群で失 のみで可能か, HARで再建が可能か, TARを選択す った 合併症についてはTARのl例で再開胸止血術 る必要があるかの判断は大動脈造影のみでは必ずしも を行った 出血部位は末梢側吻合部であった 両群と 容易ではない われわれはentryの存在部位,弓部分枝 もに脳合併症 呼吸不全は認めず 全例が社会復帰し の解離所見により手術術式の選択を行っている. た. 部の正確な確認のために人工心肺開始後常温下に瘤を Entry 2. GRF糊使用の効果 表3 切開し 短の循環停止下に弓部大動脈内を観察す GRF糊を使用した5例とGRFを使用しなかった9 るようにしている 術中所見よりentry部位が上行大 例について手術と補助について検討した 動脈にとどまる症例では上行大動脈人工血管置換術を GRF糊使用例では循環停止は有意に短縮された entry部位が左鎖骨下動脈までにとどまる症例では上 大動脈遮断 手術についてもGRF糊使用例 行弓部部分置換術を 左鎖骨下動脈分枝部より末梢に では短い傾向を示した. およぶ例では弓部分枝全置換術を選択する方針をとっ ている 3.フェルトラッピング法の効果 最近の弓部置換術の手術成績をみるとKazuiらlo 本法を用いると吻合部および針の刺入点からの出血 のコントロールが容易であり 手術の短縮の一因 はA型急性解離に対するTARの死亡率は23.3%で となった あり 術前ショック例や臓器虚血のない症例の手術成 績は良好で 死亡率8.7%と報告している. 考 察 Tabayashi ら11 はHARを14例に行い 1例(7.1%)の死亡率 TARを6例に行い2例(33.3 近年 A型大動脈解離の手術成績の向上に伴い 大 %)の死亡率であり 死 動脈弓部にまでentryが存在する症例では 積極的に 亡例3例はいずれも破裂例であったと報告している 弓部を含めた人工血管置換を行う症例が増加している Andoら12 は慢性期例を含めた42例中 3例(7.1 それは補助循環法の確立やopen の死亡率であったと報告している 欧米の報告では急 distalanastomosis法 に寄与するところが大きい しかしながら A型大動 性例に対する弓部置換術の死亡率は10 20 であ 脈解離の手術手技の選択にあたって 上行大動脈置換 る13-15)われわれの症例では15例中8例が急性期症 27 %)

日血外会誌 604 6巻5号 考えられる 例で 急性期例の1例をLOSにて失い 死亡率12.5% 補助手段は20 Cの超低体温 循環停止下に行って であり ほぼ満足のいく手術成績であると思われる また予後の面からみるとCrawfordら16)は急性期に いる 全例で脳合併症を認めず 満足のいく成績であ entryが弓部に存在した10例のうち 上行弓部置換を った TARでは右の肢裔送血と20 Cの超低体温法の 行った9例では再手術を要した症例がなかったのに対 併用を基本としている これは 超低体温法のみでは し 上行置換のみを行った1例では再手術を要したと 末梢の断端形成と3本の分枝再建を循環停止下で行う 述べ 危険因子のない年齢の若い症例では上行弓部置 のは的に困難であると判断しているからである 換術を推奨している 今回の検討によるとGRF糊を使用すれば循環停止時 間および大動脈遮断を短縮することが可能である A型大動脈解離の手術成績を向上するためには術 式の選択に加えて 出血のコントロールを確実に行い ことが明らかとなった したがって 今後症例によっ 体外循環をできる限り短縮させることが肝要であ ては肢窓送血を行わなくても循環停止下にno る われわれは図2に示したようなフェルトストリッ 法にて各分枝毎の再建を行うTARが可能であると考 プを用いたラッピングを行い 吻合部出血のコントロ えている touch 今回,検討を行った15例は全例胸部正中切開にて到 ールに工夫を行っている 従来より吻合終了時にフェ ルトストリップを外側に巻いて圧迫止血することは試 達しており 1例では末梢側吻合部からの出血を圧迫 みられているが 連続糸で後壁を3点固定し 人工血 止血するために正中創から胸膜の切開を行った 肋間 管吻合とラッピングを同時に行う方法は報告されてい 開胸を追加した症例はない 術後呼吸不全を1例も認 ない 本法では止血する際 技術的に困難となる後壁 めなかったのは胸部正中切開で到達したことがー困で からの出血を確実に止血する点で有用である 同時に あると思われる 加瀬川ら17)は6例の弓部下行置換術 吻合線からフェルトが移動しない点ですぐれている を正中切開のみの到達法で行っており 呼吸不全を認 本法は中枢側再建の際に冠動脈口部の狭窄の発生に注 めず,術後平均在院期間は23日であったと報告してい 意を要するが 冠動脈の移植を余儀なくされる症例で る. Matsudaら18)は正中切開で行った弓部大動脈手術 は問題なく施行可能である 末梢側吻合に際しては 生存例の人工呼吸器の平均装着期間は1.6日であり HAR例では急性期 慢性期にかかわらず施行可能で 呼吸不全が少なかった理由に左開胸を行わなかったこ 止血の効果は良好であった. とを挙げている TAR例ではelephant 今回の対象例は慢性期例が半数を占めたが 今後は trunk法を用いた2期的手術が考慮される症例では適 応にはならない 胸骨正中切開でTARを行う際,視野 本法を急性解離例にも積極的に用いることにより さ が不良である末梢側吻合部からの出血のコントロール らに手術成績の向上が期待されるものと考える が最大の課題であるが フェルトラッピング法を用い 結 語 ると同部位での止血は比較的容易であった しかしな がら 近位下行大動脈まで置換を要した1例では末梢 1 A型大動脈解離に対する弓部置換術15例に対 側からの出血に対し 再開胸止血術を経験しており し常温短循環停止下にentry確認を行い術式を決 止血の確認については注意が必要である 定した TARの際の分枝再建についてはグラフトによる分 2 弓部置換術(HAR7例, 枝再建を主に用い, en bloc再建は1例しか施行しなか TAR 8例 を行い, TAR の1例が術後LOSにて死亡した った これは 解離が分枝基部を含め分枝にまでおよ 3 手術は胸骨正中切開 20 C超低体温循環停止下 んでいる症例が多かったことにもよるが 出血のコン に行い 脳合併症および呼吸器合併症は認めなかった トロールの面からすると, en bloc例ではフェルトによ 4 フェルトストリップを用いた,吻合線のラッピン るラッピングは困難であり 吻合部の止血効果は不十 グ法は吻合部出血のコントロールに有用であった 分であった. En bloc再建の際,弓部大動脈の切開線が 5) GRF糊使用5例においては 断端形成が迅速 弓部分枝の起始部に近接する例では吻合線近傍は平面 簡便に行え 循環停止が有意に短縮された にならないため ラッピングの効果は期待しがたいと 28