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PET n = 7 AD n = 20 図 3 PiB AD A 3. わが国のアミロイド PET の現状 PET 100 PiB 15 BF 図 4 J-ADI 105 図 5 20%MCI 60% AD 90% MCI AD AD E ApoE 4 AD 4 図 6 4.

2 2. 研究の方法と結果本研究では 2 つの in vivo PET 実験を行った 実験 1.AD 様の脳機能低下が出現する血中グルコース濃度 ( 血糖値 ) の閾値方法 : 空腹時血糖値 mg/dl の高齢者 51 名と AD 患者 17 名 ( 年齢 :67.4±9.7 歳 ) を

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前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

第三問 : 認知症の主な症状にどのようなものがあるか 下枠に二つ記入してください 例 ) 同じことを何度も言うなど ( 答えはたくさんあります ) 例 ) ささいなことで怒るなど ( 答えはたくさんあります ) 第四問 : 次の認知症に関する基礎知識について正しいものには を 間違っているものには

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さらに, そのプロセスの第 2 段階において分類方法が標準化されたことにより, 文書記録, 情報交換, そして栄養ケアの影響を調べる専門能力が大いに強化されたことが認められている 以上の結果から,ADA の標準言語委員会が, 専門職が用いる特別な栄養診断の用語の分類方法を作成するために結成された そ

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いて認知 社会機能障害は日々の生活に大きな支障をきたしますが その病態は未だに明らかになっていません 近年の統合失調症の脳構造に関する研究では 健常者との比較で 前頭前野 ( 注 4) などの前頭葉や側頭葉を中心とした大脳皮質の体積減少 海馬 扁桃体 視床 側坐核などの大脳皮質下領域の体積減少が報告

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報道関係者各位 9 年 月 7 日 国立大学法人筑波大学 株式会社 MCBI 認知機能の低下を評価する有効な血液バイオマーカーの発見 認知症発症の前兆を捉える 研究成果のポイント. アルツハイマー病など認知症の発症に関わる3 種類のタンパク質の血液中の変化が 軽度認知注障害 (MCI) ) における脳イメージングの変化と一致し 認知機能の低下の評価に有効なバイオマーカーとなることを発見しました. 発症前の早い段階から血液中のこれらのタンパク質の量をモニタリングすることにより 効果的な認知症の予防につながることが期待されます 国立大学法人筑波大学医学医療系内田和彦准教授 株式会社 MCBI 鈴木秀昭研究員らの研究 注 ) グループは アルツハイマー病 (AD) 等認知症の発症に関わるアミロイドβタンパク質 (Aβ) の脳内からの排出に働く 3 つのタンパク質が 早期の認知機能低下を評価するバイオマーカーと して有効であることを見出しました AD の発症には 脳内に蓄積された Aβ が関わっていることがわかっています 本研究では Aβ クリアランス注 3) の低下に関与する 3 つのタンパク質を血液バイオマーカーとして用い その臨床 有用性を検討しました その結果 これらのタンパク質の血中量が 軽度認知障害 (MCI) にお ける認知機能低下および脳イメージングの変化と一致することを明らかにしました 本研究の成果は 8 年 月 8 日付 Alzheimer's & Dementia: Diagnosis, Assessment & Disease Monitoring でオンライン公開されました 研究の背景 5 年の世界の認知症の患者数は4,68 万人で このまま何もしなければ高齢化社会の進行とともにその数は 年ごとに倍になり 3 年には7,47 万人 年には 億 3, 万人になるといわれています 認知症の6-8% はアルツハイマー型認知症 ( アルツハイマー病 )(AD) です 国際的に権威のある Alzheimer's Associationによる報告書 8 Facts and Figuresで 米国では 7 年現在 6 万人の家族 介護者が8 億時間を認知症のケアに割いており そのコストは,3 億ドル ( 約 兆 5 千億円 ) と推計されています ADは 認知症の6-8% を占め ゆっくりと進む認知障害が特徴です Aβの脳内での蓄積はADの発症に関わることが分かっていますが 正常な状態でもAβは常に脳内で産生されており 脳から血液へと排出されています ADでは Aβクリアランスの低下が発症の原因ではないかと考えられています ( 図 ) Aβクリアランスには3つのタンパク質 ( アポリポタンパク質 (ApoA-I) トランスサイレチン(TTR)

補体タンパク質 (C3)) が関与しており これらの量の低下がAβクリアランスの低下につながります ( 図 ) 研究内容と成果本研究ではMCIのバイオマーカーとして Aβクリアランスに関わるタンパク質 ApoA-I TTR C3の臨床有用性を検討しました 73 名の被験者を対象に血清中のApoA-I TTR C3およびコレステロール量を注 4) 測定し その中でMCIおよびADと診断された63 名の被験者を対象にMRIおよびSPECT 脳画像を検査しました ApoA-I TTRおよび C3の比は 認知機能健常者とMCIとの間で有意に差が見られ これら3つのタンパク質を組み合わせたときの判別精度は約 9% でした ( 図 3) MRI 検査による海馬の萎縮は ApoA-I およびコレステロール (HDL) の量の低下と一致しました SPECT 検査による脳血流量の減少は C3 ApoA-I HDLおよび総コレステロール量と相関しました ( 図 4) さらに ADの患者の剖検脳を調べ C3タンパク質の有意な変化を明らかにしました このことから これらのタンパク質が認知機能低下を評価する上で 有効なバイオマーカーとなることが明らかとなりました 今後の展開認知症の前駆段階である軽度認知障害 (MCI) は認知症の発症を予防する潜在的介入のための重要な機会と考えられます このため 血液バイオマーカーによって認知機能低下の評価を行うことは アルツハイマー病 (AD) など認知症の予防において重要であると考えられます 本研究に用いた3つのタンパク質を対象とする MCI スクリーニング検査は 株式会社 MCBI がすでに実用化しており 今回の研究で早期 MCI の認知機能低下とそれに伴う脳血流低下や脳萎縮と関連することが明らかになったことで 認知症の予防につながる血液検査として期待されます 今後 より多くの症例を用いた臨床研究を行うとともに 運動などの予防介入による効果と血液バイオマーカーの関連性について研究を進める予定です

参考図 図. アルツハイマー病の病態アミロイドβ(Aβ) は AD 発症の 年以上前から蓄積され それを防ぐ Aβ クリアランスが重要である 本研究では MCI を早期 MCI と後期 MCI とわけて解析したところ 早期 MCI で血液マーカーの変化があることがわかった 図. Aβ クリアランスに働く 3 つのタンパク質 アポリポタンパク質 ApoA-I トランスサイレチン TTR 補体タンパク質 C3 が Aβ を排除するように 働く ApoA-I は炎症を TTR は Aβ の凝集や神経毒性を抑制する役割がある 3

Concentration (mg/dl) TTR Concentration (mg/dl) Triple-marker Concentration (mg/dl) Ratio of ac3/nc3 ApoA Concentration Concentration (mg/dl) (mg/dl) Concentration (unit/ml) nc3 (Unit/ L) ApoA-I P =.667 P =.5368 nc3 4 P =.94 3 ac3 TTR 8 6 ac3 Concentration (mg/dl)4 4 3 P =.7376 P =.73 ac3/nc3 Value Ratio 3 Triple-maker.75..5..75..5. P =.74 P =.77 P =.47 P = 3.9E-4 P =.6 -.5 図 3. 早期 MCI における血液バイオマーカーの変化図中 NDC: 正常 EMCI: 早期 MCI LMCI: 後期 MCI nc3: 非活性型 C3 ac3: 活性型 C3 Triple-marker: ApoA-I, TTR, C3 の組み合わせ を示す 早期 MCI の段階で血液バイオマーカーが低下している 出典 :Lui S et al, Alzheimer Dement (Amst) Published online Dec 8 (8) 4

TTR Concentration (mg/dl) Triple-marker Ratio of ac3/nc3 Concentration ( g/ml) ApoA Concentration (mg/dl) nc3 (Unit/ L) ApoA-I Concentration ( g/ml) Value Concentration ( g/ml) Ratio Concentration (unit/ L) P =.96 P =.3 P =.664 nc3 4 P =.3498 3 ac3 8 6 ac3 Concentration (mg/dl)4 P =.468 P =.9 P =.483 ac3/nc3 3 P =.468 P =.38 P =.693 TTR 4 Triple-maker P =.39 P = 8.7E-4.75 P =.65 P =.939..5 3..75..5. -.5 図 4 脳 SPECT による脳血流の低下と血液バイオマーカーの関係図中 SPECT A: 正常 SPECT B: 軽微な脳血流低下 SPECT C: 脳流低下 nc3: 非活性型 C3 ac3: 活性型 C3 Triple-marker: ApoA-I, TTR, C3 の組み合わせ を示す 脳血流が低下すると血液マーカーが低下することがわかる 出典 :Lui S et al, Alzheimer Dement (Amst) Published online Dec 8 (8) 5

用語解説注 ) 軽度認知障害 (MCI: Mild Cognitive Impairment) MCI は アルツハイマー病など認知症の前駆状態です MCI は病気ではなく状態です 物忘れは目立つものの 日常生活に支障はありません MCI の約 4% が 4 年後にアルツハイマー病などの認知症を発症するといわれています 注 ) アミロイドβタンパク質 (Aβ) Aβ 沈着 ( 老人斑 ) がアルツハイマー病の病理的病変です Aβ は神経細胞毒性を示し Aβ の産生および蓄積の異常がアルツハイマー病の発症に深く関係しているといわれています アルツハイマー病など認知症は 中年期以降の生活習慣の改善により予防できることが分かってきました 発症から 年以上前から Aβ が脳内に蓄積しはじめ 臨床症状がでる前の段階であるプレクリニカル期での介入 治療が期待されています そのためには Aβ の蓄積に関わる バイオマーカー が重要です 注 3) Aβ クリアランスアルツハイマー病では Aβ が脳内に蓄積しはじめるのは 主に脳から血液やリンパ液への Aβ の排出 すなわち Aβ クリアランスの能力が落ちてくるからと考えられています 最近の研究では 脳内における Aβ の産生は正常な生体反応と考えられており 産生を促進する原因や Aβ クリアランスについての研究が盛んに行われつつあります 注 4) SPECT 脳血流シンチグラフィである Single photon emission computed tomography( 単一光子放射断層撮影 ) の略 アルツハイマー病などの認知症では 脳と特定の領域の血流が低下することが知られており 臨床診断の補助として日常診療に使われています 掲載論文 題名 Serum levels of proteins involved in amyloid-β clearance are related to cognitive decline and neuroimaging changes in mild cognitive impairment ( 血液中のアミロイド β クリアランスに働くタンパク質は MCI において認知機能低下と脳イ メージングと相関する ) 著者名 劉珊 内田和彦 ( 国立大学法人筑波大学医学医療系 ) 鈴木秀昭 伊藤ひとみ 是永龍巳 目野浩二 ( 株式会社 MCBI 研究開発本部 ) 赤津裕康 ( 医療法人さわらび会福祉村病院 ) 現在の所属 : 株式会社 MCBI 研究開発本部 現在の所属 : 公立大学法人名古屋市立大学医学部 掲載誌 Alzheimer's & Dementia: Diagnosis, Assessment & Disease Monitoring DOI:j.dadm.8..3 6

問合わせ先内田和彦 ( うちだかずひこ ) 筑波大学医学医療系准教授 35-857 茨城県つくば市天王台 -- E-mail: kazuhiko.uchida@cbiri.org Tel: 9-853-36 鈴木秀昭 伊藤ひとみ株式会社 MCBI つくば検査センター 3-36 茨城県つくば市花畑 -5- TEL: 9-899-443 7