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抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

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脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

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学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 佐藤雄哉 論文審査担当者 主査田中真二 副査三宅智 明石巧 論文題目 Relationship between expression of IGFBP7 and clinicopathological variables in gastric cancer (

報告にも示されている. 本研究では,S1P がもつ細胞遊走作用に着目し, ヒト T 細胞のモデルである Jurkat 細胞を用いて血小板由来 S1P の関与を明らかにすることを目的とした. 動脈硬化などの病態を想定し, 血小板と T リンパ球の細胞間クロストークにおける血小板由来 S1P の関与につ

学位論文の要約

関係があると報告もされており 卵巣明細胞腺癌において PI3K 経路は非常に重要であると考えられる PI3K 経路が活性化すると mtor ならびに HIF-1αが活性化することが知られている HIF-1αは様々な癌種における薬理学的な標的の一つであるが 卵巣癌においても同様である そこで 本研究で

子として同定され 前立腺癌をはじめとした癌細胞や不死化細胞で著しい発現低下が認められ 癌抑制遺伝子として発見された Dkk-3 は前立腺癌以外にも膵臓癌 乳癌 子宮内膜癌 大腸癌 脳腫瘍 子宮頸癌など様々な癌で発現が低下し 癌抑制遺伝子としてアポトーシス促進的に働くと考えられている 先行研究では ヒ

られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

インプラント周囲炎を惹起してから 1 ヶ月毎に 4 ヶ月間 放射線学的周囲骨レベル probing depth clinical attachment level modified gingival index を測定した 実験 2: インプラント周囲炎の進行状況の評価結紮線によってインプラント周囲

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

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能性を示した < 方法 > M-CSF RANKL VEGF-C Ds-Red それぞれの全長 cdnaを レトロウイルスを用いてHeLa 細胞に遺伝子導入した これによりM-CSFとDs-Redを発現するHeLa 細胞 (HeLa-M) RANKLと Ds-Redを発現するHeLa 細胞 (HeL

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図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

ルグリセロールと脂肪酸に分解され吸収される それらは腸上皮細胞に吸収されたのちに再び中性脂肪へと生合成されカイロミクロンとなる DGAT1 は腸管で脂質の再合成 吸収に関与していることから DGAT1 KO マウスで認められているフェノタイプが腸 DGAT1 欠如に由来していることが考えられる 実際

考えられている 一部の痒疹反応は, 長時間持続する蕁麻疹様の反応から始まり, 持続性の丘疹や結節を形成するに至る マウスでは IgE 存在下に抗原を投与すると, 即時型アレルギー反応, 遅発型アレルギー反応に引き続いて, 好塩基球依存性の第 3 相反応 (IgE-CAI: IgE-dependent

Wnt3 positively and negatively regu Title differentiation of human periodonta Author(s) 吉澤, 佑世 Journal, (): - URL Rig

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の活性化が背景となるヒト悪性腫瘍の治療薬開発につながる 図4 研究である 研究内容 私たちは図3に示すようなyeast two hybrid 法を用いて AKT分子に結合する細胞内分子のスクリーニングを行った この結果 これまで機能の分からなかったプロトオンコジン TCL1がAKTと結合し多量体を形

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

平成14年度研究報告

テイカ製薬株式会社 社内資料

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学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 山田淳 論文審査担当者 主査副査 大川淳野田政樹 上阪等 論文題目 Follistatin Alleviates Synovitis and Articular Cartilage Degeneration Induced by Carrageenan ( 論文

60 秒でわかるプレスリリース 2006 年 4 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 敗血症の本質にせまる 新規治療法開発 大きく前進 - 制御性樹状細胞を用い 敗血症の治療に世界で初めて成功 - 敗血症 は 細菌などの微生物による感染が全身に広がって 発熱や機能障害などの急激な炎症反応が引き起

大学院博士課程共通科目ベーシックプログラム

研究目的 1. 電波ばく露による免疫細胞への影響に関する研究 我々の体には 恒常性を保つために 生体内に侵入した異物を生体外に排除する 免疫と呼ばれる防御システムが存在する 免疫力の低下は感染を引き起こしやすくなり 健康を損ないやすくなる そこで 2 10W/kgのSARで電波ばく露を行い 免疫細胞

< 背景 > HMGB1 は 真核生物に存在する分子量 30 kda の非ヒストン DNA 結合タンパク質であり クロマチン構造変換因子として機能し 転写制御および DNA の修復に関与します 一方 HMGB1 は 組織の損傷や壊死によって細胞外へ分泌された場合 炎症性サイトカイン遺伝子の発現を増強

ASC は 8 週齢 ICR メスマウスの皮下脂肪組織をコラゲナーゼ処理後 遠心分離で得たペレットとして単離し BMSC は同じマウスの大腿骨からフラッシュアウトにより獲得した 10%FBS 1% 抗生剤を含む DMEM にて それぞれ培養を行った FACS Passage 2 (P2) の ASC

共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

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ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク (FABP)4 FABP 5 の影響 糖尿病 肥満の病態解明と脂肪幹細胞再生治療への可能性 ポイント 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP5( 表皮型 ) が発現亢進し 分泌されることを確認しました トランスク

Mincle は死細胞由来の内因性リガンドを認識し 炎症応答を誘導することが報告されているが 非感染性炎症における Mincle の意義は全く不明である 最近 肥満の脂肪組織で生じる線維化により 脂肪組織の脂肪蓄積量が制限され 肝臓などの非脂肪組織に脂肪が沈着し ( 異所性脂肪蓄積 ) 全身のインス

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第6号-2/8)最前線(大矢)

スライド 1

脂肪滴周囲蛋白Perilipin 1の機能解析 [全文の要約]

2019 年 3 月 28 日放送 第 67 回日本アレルギー学会 6 シンポジウム 17-3 かゆみのメカニズムと最近のかゆみ研究の進歩 九州大学大学院皮膚科 診療講師中原真希子 はじめにかゆみは かきたいとの衝動を起こす不快な感覚と定義されます 皮膚疾患の多くはかゆみを伴い アトピー性皮膚炎にお

日本標準商品分類番号 カリジノゲナーゼの血管新生抑制作用 カリジノゲナーゼは強力な血管拡張物質であるキニンを遊離することにより 高血圧や末梢循環障害の治療に広く用いられてきた 最近では 糖尿病モデルラットにおいて増加する眼内液中 VEGF 濃度を低下させることにより 血管透過性を抑制す

平成24年7月x日

博第265号

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前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

ヒト胎盤における

報道発表資料 2006 年 6 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 アレルギー反応を制御する新たなメカニズムを発見 - 謎の免疫細胞 記憶型 T 細胞 がアレルギー反応に必須 - ポイント アレルギー発症の細胞を可視化する緑色蛍光マウスの開発により解明 分化 発生等で重要なノッチ分子への情報伝達

を確認しました 本装置を用いて 血栓形成には血液中のどのような成分 ( 白血球 赤血球 血小板など ) が関与しているかを調べ 血液の凝固を引き起こす トリガー が何であるかをレオロジー ( 流れと変形に関わるサイエンス ) 的および生化学的に明らかにすることとしました 2. 研究手法と成果 1)

グルコースは膵 β 細胞内に糖輸送担体を介して取り込まれて代謝され A T P が産生される その結果 A T P 感受性 K チャンネルの閉鎖 細胞膜の脱分極 電位依存性 Caチャンネルの開口 細胞内 Ca 2+ 濃度の上昇が起こり インスリンが分泌される これをインスリン分泌の惹起経路と呼ぶ イ

PowerPoint プレゼンテーション

83.8 歳 (73 91 歳 ) であった 解剖体において 内果の再突出点から 足底を通り 外果の再突出点までの最短距離を計測した 同部位で 約 1cmの幅で帯状に皮膚を採取した 採取した皮膚は 長さ2.5cm 毎にパラフィン包埋し 厚さ4μmに薄切した 画像解析は オールインワン顕微鏡 BZ-9

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Peroxisome Proliferator-Activated Receptor a (PPARa)アゴニストの薬理作用メカニズムの解明

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( 様式甲 5) 氏 名 忌部 尚 ( ふりがな ) ( いんべひさし ) 学 位 の 種 類 博士 ( 医学 ) 学位授与番号 甲第 号 学位審査年月日 平成 29 年 1 月 11 日 学位授与の要件 学位規則第 4 条第 1 項該当 Benifuuki green tea, containin

博士論文 考え続ける義務感と反復思考の役割に注目した 診断横断的なメタ認知モデルの構築 ( 要約 ) 平成 30 年 3 月 広島大学大学院総合科学研究科 向井秀文

博士学位論文審査報告書

く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

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オクノベル錠 150 mg オクノベル錠 300 mg オクノベル内用懸濁液 6% 2.1 第 2 部目次 ノーベルファーマ株式会社

研究の背景 1 細菌 ウイルス 寄生虫などの病原体が人体に侵入し感染すると 血液中を流れている炎症性単球注と呼ばれる免疫細胞が血管壁を通過し 感染局所に集積します ( 図 1) 炎症性単球は そこで病原体を貪食するマクロファ 1 ージ注と呼ばれる細胞に分化して感染から体を守る重要な働きをしています

のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

るマウスを解析したところ XCR1 陽性樹状細胞欠失マウスと同様に 腸管 T 細胞の減少が認められました さらに XCL1 の発現が 脾臓やリンパ節の T 細胞に比較して 腸管組織の T 細胞において高いこと そして 腸管内で T 細胞と XCR1 陽性樹状細胞が密に相互作用していることも明らかにな

Microsoft Word - 運動が自閉症様行動とシナプス変性を改善する


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氏名 ( 本籍 ) 鈴木桂子 学位の種類薬 A 子 博士 学位記番号用 下 E コ王 学位授与の日付昭和 54 年 3 月 6 日 学位授与の要件学位規則第 5 条第 2 項該当 学位論文題目 ラット卵巣におけるステロイドホルモン合成に関する研究 ( 主査 ) ー論文審査委員教授近, f~i 雅日

時間がかかる.DOSS は妥当性が検証されておらず, 更に評価に嚥下造影検査が必要である. FOSS や NOMS は信頼性と妥当性が評価されていない.FOIS は 7 段階からなる観察による評価尺度で, 患者に負担が無く信頼性や妥当性も検証されている. 日本では Food Intake LEVEL

生物時計の安定性の秘密を解明

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血漿エクソソーム由来microRNAを用いたグリオブラストーマ診断バイオマーカーの探索 [全文の要約]

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今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

リーなどアブラナ科野菜の摂取と癌発症率は逆相関し さらに癌病巣の拡大をも抑制する という報告がみられる ブロッコリー発芽早期のスプラウトから抽出されたスルフォラフ ァン (sulforaphane, 1-isothiocyanato-4-methylsulfinylbutane) は強力な抗酸化作用

九州大学病院の遺伝子治療臨床研究実施計画(慢性重症虚血肢(閉塞

界では年間約 2700 万人が敗血症を発症し その多くを発展途上国の乳幼児が占めています 抗菌薬などの発症早期の治療法の進歩が見られるものの 先進国でも高齢者が発症後数ヶ月の 間に新たな感染症にかかって亡くなる例が多いことが知られています 発症早期には 全身に広がった感染によって炎症反応が過剰になり

犬の糖尿病は治療に一生涯のインスリン投与を必要とする ヒトでは 1 型に分類されている糖尿病である しかし ヒトでは肥満が原因となり 相対的にインスリン作用が不足する 2 型糖尿病が主体であり 犬とヒトとでは糖尿病発症メカニズムが大きく異なっていると考えられている そこで 本研究ではインスリン抵抗性

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ランゲルハンス細胞の過去まず LC の過去についてお話しします LC は 1868 年に 当時ドイツのベルリン大学の医学生であった Paul Langerhans により発見されました しかしながら 当初は 細胞の形状から神経のように見えたため 神経細胞と勘違いされていました その後 約 100 年

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研究の詳細な説明 1. 背景病原微生物は 様々なタンパク質を作ることにより宿主の生体防御システムに対抗しています その分子メカニズムの一つとして病原微生物のタンパク質分解酵素が宿主の抗体を切断 分解することが知られております 抗体が切断 分解されると宿主は病原微生物を排除することが出来なくなります

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ピルシカイニド塩酸塩カプセル 50mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにピルジカイニド塩酸塩水和物は Vaughan Williams らの分類のクラスⅠCに属し 心筋の Na チャンネル抑制作用により抗不整脈作用を示す また 消化管から速やかに

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の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

ス化した さらに 正常から上皮性異形成 上皮性異形成から浸潤癌への変化に伴い有意に発現が変化する 15 遺伝子を同定し 報告した [Int J Cancer. 132(3) (2013)] 本研究では 上記データベースから 特に異形成から浸潤癌への移行で重要な役割を果たす可能性がある

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学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小島光暁 論文審査担当者 主査森尾友宏 副査槇田浩史 清水重臣 論文題目 Novel role of group VIB Ca 2+ -independent phospholipase A 2γ in leukocyte-endothelial cell interactions: an intravital microscopic study in rat mesentery ( 論文内容の要旨 ) < 要旨 > ホスホリパーゼ A 2( 以下 PLA 2) は 炎症病態においてアラキドン酸 ( 以下 AA) をはじめとする脂質メディエーターを産生する重要な酵素である これまでに PLA 2 が好中球と血管内皮細胞の相互作用に関与することが報告されているが 細胞質型 ( 以下 cpla 2) 分泌型( 以下 spla 2) カルシウム非依存性 PLA 2( 以下 ipla 2) のうち どのタイプの PLA 2 が作用するかは明らかでなかった 0 生物活性 ( 接着および接着分子発現 ) への影響について検討した 方法は ラットに各 PLA 2 阻害剤を投与した後 腸間膜を血小板活性化因子 ( 以下 PAF) で刺激した 生体顕微鏡下に腸間膜細静脈における白血球のローリングおよび接着を観察した さらに in vitro 実験で fmlp あるいは PAF によって誘導されるヒト好中球の接着能および接着分子発現に対する各 PLA 2 阻害剤の影響を評価した その結果 ipla 2γに対する特異的阻害剤のみが白血球および好中球の接着 Mac-1 の発現を有意に抑制した 一方 cpla 2 spla 2 および ipla 2βに対する特異的害剤はいずれの生物活性にも効果を示さなかった 以上から ipla 2γは 急性炎症病態において好中球と血管内皮細胞の相互作用を制御する重要な酵素であることが示唆された < 緒言 > 好中球の炎症局所への集積には 好中球と血管内皮細胞との相互作用が不可欠である この相互作用は 好中球が血管内皮細胞上を転回するローリング 血管内皮細胞への接着 血管外への遊走の段階に分類され 組織の感染や損傷に対する重要な生体防御反応である しかしながら 過剰な好中球浸潤は急性呼吸促迫症候群や多臓器不全を惹起することから 好中球が集積する機序の解明は 敗血症や出血性ショックなどの過大侵襲に続発する多臓器不全に対する新たな治療法の確立に寄与する可能性がある PLA 2 は グリセロリン脂質の sn-2 位を加水分解し 遊離脂肪酸とリゾリン脂質の生成を触媒する酵素である cpla 2 や spla 2 は AA やエイコサノイドの産生に関与する酵素として急性炎症との関連性が指摘されているが ipla 2 の炎症病態における役割はほとんど知られていない Gilroy らは胸膜炎モデルを用いて ipla 2 が炎症早期から発現し 炎症細胞を局所に誘導することによって 炎症過程の開始 に関与する酵素であることを報告した さらに 我々は ipla 2γがヒト好 - 1 -

中球の生物活性 ( 活性酸素産生 エラスターゼ放出 走化性 ) の発現や出血性ショック後の肺傷害に関与することを明らかにした また PLA 2 と好中球と血管内皮細胞の相互作用との関連性が報告されているが PLA 2 のタイプやその機序の解明には至っていない したがって 本研究の目的は 好中球と血管内皮細胞の相互作用における主要な三種類の PLA 2 の役割を明らかにすることである < 方法 > 生体顕微鏡実験では 吸入麻酔下においた雄性 Wistar ラットに 特異的 PLA 2 阻害剤 (ipla 2 β: S-BEL ipla 2γ: R-BEL cpla 2: pyrrophenone spla 2: varespladib) あるいは dimethyl sulfoxide を腹腔内投与した 投与 30 分後に Krebs-Ringer 溶液を持続潅流した観察用チャンバーに腸間膜を展開した 観察対象の腸間膜細静脈を選定した後 潅流液に PAF を添加して 60 分間刺激し ローリングおよび接着した白血球数を測定した また sham 群では PAF を添加しなかった in vitro 実験では ヒト好中球あるいはヒト全血に特異的 PLA 2 阻害剤を投与した後に活性化物質 (fmlp PAF) で刺激した 接着能はフィブリノーゲンを固定化したウェルに接着した細胞数を計り CD11a/CD18(LFA-1) および CD11b/CD18(Mac-1) の発現はフローサイトメトリで定量した < 結果 > 生体顕微鏡実験では PAF 投与後 60 分で白血球のローリングは有意に増加したが いずれの PLA 2 阻害剤も抑制しなかった また PAF 刺激は白血球の接着を明らかに増加させたが R-BEL のみが その接着を有意に阻害した 同様に in vitro 実験においても 活性化物質によって惹起されたヒト好中球の接着や Mac-1 の発現は R-BEL 投与群のみで有意に抑制された 一方 LFA-1 の発現に関して 活性化物質による刺激や PLA 2 阻害剤の投与では明らかな発現の変化は認められなかった < 考察 > ipla 2γが PAF 刺激によるラット白血球の血管内皮細胞への接着やヒト好中球のフィブリノーゲンへの接着や Mac-1 の発現に関与することを明らかにした 好中球の血管内皮細胞への接着にはβ 2-integrin の細胞表面への発現やコンフォメーション変化が大きく関与している PLA 2 は炎症刺激に対するβ 2-integrin の発現機序において重要な酵素であることが知られているが 関与する PLA 2 のタイプについては検証されていない 今回の研究で spla 2 酵素が好中球の接着能や接着分子の発現に影響しないことを明らかにしたが これは過去の報告と矛盾しない 一方 cpla 2 は好中球の接着のメカニズムとの関連性が報告されている しかし その根拠となるいずれの研究では 特異性の低い cpla 2 阻害剤を使用していた そこで 本研究では cpla 2 に高い特異性を示す阻害剤 (pyrrophenone) を使用した その結果 pyrrophenone は PAF や fmlp による好中球の接着や接着分子の発現を阻害しなかった さらに cpla 2 酵素のノックアウトマウスを用いた研究においても 本研究の結果と一致して PMA や fmlp に対するノックアウトマウスの好中球の CD11b 発現は抑制されなかった また 好中球の炎症局所への集積の過程における ipla 2 酵素の役割に - 2 -

関して ipla 2γの特異的阻害剤である R-BEL が PAF や fmlp によって誘導されるヒト好中球の接着や Mac-1 の発現を抑制したが ipla 2β 阻害剤はいずれの実験においても抑制効果は認められなかった 以上より cpla 2 spla 2 ipla 2βではなく ipla 2γが PAF 刺激による白血球の血管内皮細胞への接着を制御する中心的な酵素であることが示唆された Mac-1 はβ 2-integrin の主要な構成分子であり 血管内皮細胞上のリガンドと結合することで好中球の強固な接着を引き起こす Mac-1 は非刺激時には好中球の顆粒に貯蔵されているが 活性化によって細胞表面に発現する つまり Mac-1 の発現は好中球の脱顆粒と密接に関連する ipla 2 に対する阻害剤やその酵素のノックダウンは PAF や PMA の刺激による前単球の脱顆粒を抑制する 最近の我々の研究でも ヒト好中球からのエラスターゼの遊離に ipla 2γが関与することを報告している これらのことから ipla 2γ は脱顆粒の過程を介して Mac-1 の発現を制御することが示唆された ipla 2γは sn-2 位に AA などの不飽和脂肪酸を含有するリン脂質に対しては PLA 1 作用を示し 飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸含有リゾリン脂質を産生する 不飽和脂肪酸含有リゾホスファチジルコリン ( 以下 LPC) は ヒト好中球の活性酸素の産生や顆粒の分泌に誘導することから シグナル伝達分子の一つであることが示唆されている 特に 2-AA-LPC は 好中球に対して生物活性を示すだけでなく 重要なシグナル伝達物質である 2-AA-glycerol の前駆体でもある また ipla 2 γのもう一つの代謝産物である遊離飽和脂肪酸も好中球の活性化との関連性が報告されている 一方 不飽和脂肪酸である AA も好中球の接着過程において重要な脂質メディエーターであると考えられてきた しかし それは AA を外投与することによって 好中球の生物活性を誘導することを証明した研究や特異性の低い cpla 2 阻害剤を使用した研究を根拠としており 細胞内シグナル伝達における AA の位置づけは確定されていない 本研究の in vivo および in vitro の実験において 高い特異性を示す cpla 2 阻害剤は接着の過程に影響を与えなかった したがって ipla 2 γの活性化によって産生された不飽和脂肪酸含有 LPC あるいは飽和脂肪酸が 細胞接着の機序におけるシグナル伝達物質として働いている可能性がある < 結論 > カルシウム非依存性 PLA 2γは 急性炎症における白血球や好中球の接着および接着分子の発現を制御する酵素であることが示唆された 本研究は阻害剤を使用した実験であることから 遺伝子改変動物を用いた更なる検証が必要であろう - 3 -

論文審査の要旨および担当者 報告番号甲第 4908 号小島光暁 論文審査担当者 主査森尾友宏 副査槇田浩史 清水重臣 論文審査の要旨 1. 論文内容本論文は白血球と血管内皮細胞の相互作用に対するカルシウム非依存性ホスホリパーゼ A2 γの役割に関して 腸間膜細静脈における白血球のローリングと接着 ヒト好中球の接着能と接着分子発現から検討した研究である 2. 論文審査 1) 研究目的の先駆性 独創性ホスホリパーゼ A2(PLA2) は炎症病態においてアラキドン酸 (Arachidonic acid:aa) をはじめとする脂質メディエータ産生に重要な酵素である PLA2 は好中球と血管内皮細胞の相互作用に関与するが 細胞質型 (cpla2) 分泌型(sPLA2) のカルシウム非依存性(iPLA2) のうちどのタイプが作用するかは今まで明らかではなかった 申請者は今まで PLA2 の好中球に対する作用等について検討を進め 十分な知識と技術を有していたが このような背景の下 主要な PLA2 に対する特異的阻害薬を使用し 白血球及び好中球の生物活性について 生体顕微鏡と接着因子発現解析を用いて解析を行っており その着眼点は優れたものである 2) 社会的意義本研究で得られた主な結果は以下の通りである 1. cpla2 spla2 ipla2γ ipla2βに対する阻害薬のうち ipla2γに対するもののみが 白血球の接着を抑制した 2. ipla2γに対する阻害薬のみが ヒト好中球のMAC-1 発現を優位に抑制した 以上のように申請者は 急性炎症における白血球と血管内皮細胞の相互作用において ipla2γ が重要であることを初めて明らかにしている これは臨床的にも極めて有用な研究成果であると言える 3) 研究方法 倫理観研究にはラット腸間膜細静脈における白血球のローリングと接着を生体顕微鏡下で観察する手法が用いられ 血行動態を数値化し またローリングと接着を定量化した またヒト好中球を分離して fmlp や PAF で刺激しフローサイトメータにて接着分子の発現を定量化した 生体顕微鏡下 ( 1 )

観察は十分な動物実験技術と基礎画像解析知識の下で行われ また好中球機能解析も十分に手技を修得した上で実施されている 動物実験における各種指針も適切に遵守して行われていることが窺われる これらは申請者の研究法に対する知識と技術が高いことを示すと共に 本研究が極めて周到な準備の上で実施され またその結果が適切に解析されていることを示している 4) 考察 今後の発展性さらに申請者は 本研究結果についてiPLA2γは不飽和脂肪酸を有するリン脂質に対してPLA1 作用を示し 飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸含有リゾリン脂質を産生すること アラキドン酸ではなく これらの代謝産物 ( 不評輪脂肪酸含有リゾホスファチジルコリンや飽和脂肪酸 ) が好中球接着過程におけるシグナル伝達分子であると考察している これは先行研究と照らし合わせて 新規性はあるが極めて妥当な考察であり 今後の研究にてさらに発展することが期待される 3. その他 4. 審査結果以上を踏まえ 本論文は博士 ( 医学 ) の学位を申請するのに十分な価値があるものと認められた ( 2 )