鳥取砂丘でのファルトレクトレーニングにおける事例的研究 永井好和 * 関耕二 ** *** 高橋優一 The Case Study of Fartlek Training in Tottori Sand Dunes NAGAI Yoshikazu *, SEKI Koji **, TAKAHASHI

Similar documents
<8E CC88E78A778CA48B E696E6464>

スポーツトレーニング科学 11:15-20,2010 心拍数の長期記録による中距離走トレーニング法の改善 李玉章 1,2) 3), 松村勲 福永裕子 4), 藤田英二 2) 2), 西薗秀嗣 1) 上海体育学院 2) 鹿屋体育大学スポーツトレーニング教育研究センター 3) 鹿屋体育大学スポーツパフォ

™…0ケ0ン0?トyム[f}

中国卓球プロ選手プレー中における運動強度に関する研究

大学女子長距離選手の最大酸素摂取量、vVO2maxおよびOBLAの変化

Microsoft Word R.{.....doc

untitled

4 身体活動量カロリズム内に記憶されているデータを表計算ソフトに入力し, 身体活動量の分析を行った 身体活動量の測定結果から, 連続した 7 日間の平均, 学校に通っている平日平均, 学校が休みである土日平均について, 総エネルギー消費量, 活動エネルギー量, 歩数, エクササイズ量から分析を行った

最高球速における投球動作の意識の違いについて 学籍番号 11A456 学生氏名佐藤滉治黒木貴良竹田竣太朗 Ⅰ. 目的野球は日本においてメジャーなスポーツであり 特に投手は野手以上に勝敗が成績に関わるポジションである そこで投手に着目し 投球速度が速い投手に共通した意識の部位やポイントがあるのではない

スポーツ教育学研究(2013. Vol.33, No1, pp.1-13)

運動習慣の有無が運動時の生体応答および主観的強度に及ぼす影響159 二(RPE) などがある これらの指標は互いに比例的なその結果 すべての協力予定者が同意書に署名し 関係にあることから RPE など特別な機器を使用し被検者として参加した (NH 群 ; 平均 20.2 ± 0.97 才 ない簡便な

ロペラミド塩酸塩カプセル 1mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにロペラミド塩酸塩は 腸管に選択的に作用して 腸管蠕動運動を抑制し また腸管内の水分 電解質の分泌を抑制して吸収を促進することにより下痢症に効果を示す止瀉剤である ロペミン カプセル

04_高橋.indd

Effects of running ability and baton pass factor on race time in mr Daisuke Yamamoto, Youhei Miyake Keywords track and field sprint baton pass g

PowerPoint プレゼンテーション

TDM研究 Vol.26 No.2

School of Health &Physical Education University of Tsukuba

1. 緒言 p 問題の所在 ) p

11号02/百々瀬.indd

Microsoft Word - 02_論文_07大森・奥本.doc

シプロフロキサシン錠 100mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにシプロフロキサシン塩酸塩は グラム陽性菌 ( ブドウ球菌 レンサ球菌など ) や緑膿菌を含むグラム陰性菌 ( 大腸菌 肺炎球菌など ) に強い抗菌力を示すように広い抗菌スペクトルを

Microsoft Word - 博士論文概要.docx

Ⅱ 方法と対象 1. 所得段階別保険料に関する情報の収集 ~3 1, 分析手法

untitled

学生による授業評価のCS分析

The Journal of the Japan Academy of Nursing Administration and Policies Vol 12, No 1, pp 49 59, 2008 資料 看護師におけるメンタリングとキャリア結果の関連 Relationship between M

順天堂大学スポーツ健康科学研究第 7 号 (2003) external feedback) といった内的標準を利用した情報処理活動を促進することを意図したものであった. 上記のように, 運動学習におけるフィードバックの研究は, フィードバックそのもののみに焦点が当てられてきた. そこで, 学習場面

PowerPoint Presentation

研究報告 国内トップリーグ男子バレーボール選手における一側性トレーニングが 両側性筋力および跳躍能力に及ぼす影響 Effect of Single legged Squat Exercises on Bilateral Strength and Physical Ability in the Top

<4D F736F F F696E74202D EC08F4B CF58BB48C92816A205B8CDD8AB B83685D>

原著論文 81 体育実技におけるテスト前後の気分の変化 藤田勉 * (2010 年 10 月 26 日受理 ) Mood Change before and after Testing in Physical Fitness Classes FUJITA Tsutomu 要約 本研究の目的は 体育実

小野寺孝一 三辺忠雄 小川耕平 山崎先也 /JLAS(vol.41,2013)11-18 トレーニングの効果判定 : トレーニングによる発揮筋力の改善を評価するため トレーニン グ前後において最大努力で 30 回の等速性下肢伸展を角速度 60 度 / 秒で行い 発揮筋力 (Nm) を 測定した トレ

る~ややきつい と感じていると報告している また 運動処方 という観点からの心拍数とRPEの対応関係についての報告もある ( 表 1) 2) このことは 長距離走を1500~30 00mに限定しようという考えと矛盾する データである つまり 最初から 非常にきつい という距離では 健康ジョギングとは

あった AUCtはで ± ng hr/ml で ± ng hr/ml であった 2. バイオアベイラビリティの比較およびの薬物動態パラメータにおける分散分析の結果を Table 4 に示した また 得られた AUCtおよび Cmaxについてとの対数値

表紙.indd

Microsoft Word - 08_吉野先生.docx

早稲田大学大学院日本語教育研究科 修士論文概要書 論文題目 ネパール人日本語学習者による日本語のリズム生成 大熊伊宗 2018 年 3 月

スライド 1

報道関係者各位 平成 29 年 1 月 17 日 国立大学法人筑波大学 短時間の運動で記憶力が高まる ヒトの海馬が関連する機能の働きが 10 分間の中強度運動で向上! 研究成果のポイント 分間の中強度運動によって 物事を正確に記憶するために重要な 類似記憶の識別能力 が向上することを ヒ

研究組織 研究代表者西山哲成 日本体育大学身体動作学研究室 共同研究者野村一路 日本体育大学レクリエーション学研究室 菅伸江 日本体育大学レクリエーション学研究室 佐藤孝之 日本体育大学身体動作学研究室 大石健二 日本体育大学大学院後期博士課程院生

共同研究組織成果報告 (2009 年度 ) 大学を拠点とした総合型地域スポーツクラブにおける会員の行動変容に関する社会的実験 Study on behavior change of University-based Community Sports Club Members 主任研究員名 : 國本明

Microsoft Word B.._j.doc


1. はじめに 福島県の学校現場では, 平成 22 年の東日本大震災によって生じた津波により東京電力福島第一原子力発電所の事故による放射能放出の被害を受け, 長期にわたり屋外での体育活動が困難となった 原発事故発生 3 ヶ月後の時点では, 全小学校 484 校の 15% にあたる 71 校が校庭での

<31302D8EC091488CA48B862D8E E7190E690B691BC2D3296BC976C2E706466>

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 長谷川智之 論文審査担当者 主査丸光惠副査星治 齋藤やよい 論文題目 Relationship between weight of rescuer and quality of chest compression during cardiopulmonary r

ータについては Table 3 に示した 両製剤とも投与後血漿中ロスバスタチン濃度が上昇し 試験製剤で 4.7±.7 時間 標準製剤で 4.6±1. 時間に Tmaxに達した また Cmaxは試験製剤で 6.3±3.13 標準製剤で 6.8±2.49 であった AUCt は試験製剤で 62.24±2

untitled

長距離走トレーニングとハーフマラソン記録の関係 : 走行距離と走速度の追跡からみたトレーニングのあり方

ピルシカイニド塩酸塩カプセル 50mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにピルジカイニド塩酸塩水和物は Vaughan Williams らの分類のクラスⅠCに属し 心筋の Na チャンネル抑制作用により抗不整脈作用を示す また 消化管から速やかに

Strength and How to Obtain It 1938 [104] 15.1: [105]

SICE東北支部研究集会資料(2011年)

第5部門_06_入口 豊.indd

Ⅰ. 緒言 Suzuki, et al., Ⅱ. 研究方法 1. 対象および方法 1 6 表 1 1, 調査票の内容 図

03_髙橋篤志.indd

Microsoft Word doc

Kumamoto University Center for Multimedia and Information Technologies Lab. 熊本大学アプリケーション実験 ~ 実環境における無線 LAN 受信電波強度を用いた位置推定手法の検討 ~ InKIAI 宮崎県美郷

Microsoft Word - Ⅲ-11. VE-1 修正後 3.14.doc

高齢者におけるサルコペニアの実態について みやぐち医院 宮口信吾 我が国では 高齢化社会が進行し 脳血管疾患 悪性腫瘍の増加ばかりでなく 骨 筋肉を中心とした運動器疾患と加齢との関係が注目されている 要介護になる疾患の原因として 第 1 位は脳卒中 第 2 位は認知症 第 3 位が老衰 第 4 位に

学位論文審査結果報告書


05-takahasi.indd

ランニング ( 床反力 ) m / 分足足部にかかる負担部にかかる負担膝にかかる負担 運動不足解消に 久しぶりにランニングしたら膝が痛くなった そんな人にも脚全体の負担が軽い自転車で 筋力が向上するのかを調査してみました ロコモティブシンドローム という言葉をご存知ですか? 筋肉の衰えや

jphc_outcome_d_014.indd

様式 Ⅰ 平成 28 年度オリンピック パラリンピック教育推進校 事業実施報告書 学校名 井手町立泉ヶ丘中学校 全校児童 生徒数 154 名 テーマ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅴ 当てはまるもに 複数可 Ⅰ スポーツへの誘い自己肯定感の醸成 Ⅱ 障害者や高齢者への理解共生社会の形成 Ⅲ スポーツへの関心や競技

MedicalStatisticsForAll.indd

国士舘大学体育研究所報第29巻(平成22年度)

.A...ren

小学生のカルシウム摂取量に寄与する食品の検討 小学生のカルシウム摂取量に寄与する食品の検討 小川瑞己 1 佐藤文佳 1 村山伸子 1 * 目的 小学生のカルシウム摂取の実態を把握し 平日と休日のカルシウム摂取量に寄与する食品を検討する 方法 2013 年に新潟県内 3 小学校の小学 5 年生全数 3

ダンゴムシの 交替性転向反応に 関する研究 3A15 今野直輝

スライド 1

平成 28,29 年度スポーツ庁委託事業女性アスリートの育成 支援プロジェクト 女性アスリートの戦略的強化に向けた調査研究 女性アスリートにおける 競技力向上要因としての 体格変化と内分泌変化の検討 女性アスリートの育成 強化の現場で活用していただくために 2016 年に開催されたリオデジャネイロ

<4D F736F F D B B835E82C5836E F08F6F82BB82A452335F8F4390B38CE35F2E727466>

2) エネルギー 栄養素の各食事からの摂取割合 (%) 学年 性別ごとに 平日 休日の各食事からのエネルギー 栄養素の摂取割合を記述した 休日は 平日よりも昼食からのエネルギー摂取割合が下がり (28~31% 程度 ) 朝食 夕食 間食からのエネルギー摂取割合が上昇した 特に間食からのエネルギー摂取

高強度定常負荷運動時の音楽刺激が 運動継続時間, 呼吸循環応答, 自覚的運動強度に与える影響 15m Endurance Shuttle Walking and Run Test を用いて 川満愛理 田渕優衣 宮崎成美 [ 目的 ]15m Endurance Shuttle Walking and

EBNと疫学

Microsoft Word - cjs63B9_ docx

実習指導に携わる病棟看護師の思い ‐ クリニカルラダーのレベル別にみた語りの分析 ‐

横浜市環境科学研究所

1

152 荒金圭太 斎藤辰哉 高木祐介 高原皓全 野瀬由佳 吉岡哲 小野寺昇 タ運動の特性を明らかにすれば, 選択的な上肢運動の適応の機会も増加するものと考える. そこで本研究は, ハンドエルゴメータ運動の特性を明らかにするために, 自転車エルゴメータ運動とハンドエルゴメータ運動が心拍数および酸素摂取

<4D F736F F D208EC08CB18C7689E68A E F AA957A82C682948C9F92E82E646F63>

無党派層についての分析 芝井清久 神奈川大学人間科学部教務補助職員 統計数理研究所データ科学研究系特任研究員 注 ) 図表は 不明 無回答 を除外して作成した 設問によっては その他 の回答も除外した この分析では Q13 で と答えた有権者を無党派層と定義する Q13 と Q15-1, 2 のクロ

3. 安全性本治験において治験薬が投与された 48 例中 1 例 (14 件 ) に有害事象が認められた いずれの有害事象も治験薬との関連性は あり と判定されたが いずれも軽度 で処置の必要はなく 追跡検査で回復を確認した また 死亡 その他の重篤な有害事象が認められなか ったことから 安全性に問

<4D F736F F F696E74202D ED089EF959F8E838A7789EF C835B BB82CC A332090DD92758EE591CC8F4390B38CE3205

理科教育学研究


簿記教育における習熟度別クラス編成 簿記教育における習熟度別クラス編成 濱田峰子 要旨 近年 学生の多様化に伴い きめ細やかな個別対応や対話型授業が可能な少人数の習熟度別クラス編成の重要性が増している そのため 本学では入学時にプレイスメントテストを実施し 国語 数学 英語の 3 教科については習熟

01伊藤森年.indd

東邦大学理学部情報科学科 2014 年度 卒業研究論文 コラッツ予想の変形について 提出日 2015 年 1 月 30 日 ( 金 ) 指導教員白柳潔 提出者 山中陽子

untitled

博士論文 考え続ける義務感と反復思考の役割に注目した 診断横断的なメタ認知モデルの構築 ( 要約 ) 平成 30 年 3 月 広島大学大学院総合科学研究科 向井秀文

60 1. 緒言 110m 110mH ,9,11,12, mH 12s 16s 152 9,11, mH 11,12 11, s 16s 12s 13s 14s 15s 16s s 19 14s 3

湘南工科大学紀要第 48 巻第 1 号 1. はじめに陸上競技において 長距離走とは 3000m 以上の距離を走る種目のことをいう 日本では主に 3000m 走,5000m 走,10000m 走を意味し その他にハーフマラソンやフルマラソン 3000m 障害走 駅伝等が含まれる 長距離走の結果は 定

< 研究の背景 > 運動に疲労はつきもので その原因や予防策は多くの研究者や競技者 そしてスポーツ愛好者の興味を引く古くて新しいテーマです 運動時の疲労は 必要な力を発揮できなくなった状態 と定義され 疲労の原因が起こる身体部位によって末梢性疲労と中枢性疲労に分けることができます 末梢性疲労の原因の

NODERA, K.*, TANAKA, Y.**, RAFAEL, F.*** and MIYAZAKI, Y.**** : Relationship between rate of success and distance of shooting on fade-away shoot in fe

<30388DE288E42E696E6464>

療養病床に勤務する看護職の職務関与の構造分析

大学野球の期分けにおける一般的準備期のランニング トレーニングが試合期の大学生投手の実戦状況下 パフォーマンスに与える影響

八戸学院大学紀要 第 55 号 図 1 : 50 m 走の実験配置図 陸上競技連盟公認審判資格 B を有する 1 名が らったスタート後は 図 2 の ① ② ③ の順で 行い フライング スタート合図前に身体が動 走ってもらい フィニッシュライン上に設置し き出すこと と判断された場合には試技を中

Transcription:

鳥取砂丘でのファルトレクトレーニングにおける事例的研究 永井好和 * 関耕二 ** *** 高橋優一 The Case Study of Fartlek Training in Tottori Sand Dunes NAGAI Yoshikazu *, SEKI Koji **, TAKAHASHI Yuichi *** キーワード : ファルトレク, ランニング, 砂丘 Key Words:Fartlek,Running, Sand Dunes Ⅰ. 緒言陸上競技のランニングトレーニングにおいては, その多くが陸上競技トラックにおいて実践されているが, トラックのような平坦な地形だけでなく, 起伏のある自然地形を利用したトレーニングも実践されている 自然地形を利用したランニングトレーニングには, クロスカントリー, ヒルトレーニング及びファルトレクなどがある これらのランニングトレーニングは, 自然地形を活用することで上り下り, 急カーブなどの要素が加わるため平坦な陸上競技トラックを走る以上に脚筋力や心肺機能を高めることができるといった共通点がある また, 陸上競技トラック以外でのトレーニングを取り入れることで, トレーニングのバリエーションを増やし, 心身のリフレッシュにも効果があるとされている 1) このような自然地形を利用したランニングトレーニングは, 森の中の小道や自然道などで実践されているほか, 柔らかい足場の砂浜や砂丘においても実践されている 砂上でのランニングトレーニングについては, 半世紀以上前からオーストラリアの陸上競技指導者であったパーシー セラティ (Percy Cerutty) が, 砂浜や砂丘が続くポートシー (Port Sea) においてファルトレクを実践し, 数多くの選手を育成していた セラティが育成した代表的な選手は, 1960 年に開催されたローマオリンピックにおいて, 男子 1500m 走で優勝したハーブ エリオット (Herb James Elliott) がおり, その他の選手によっても, 多くの世界記録が樹立されていた さらに, セラティは自身の著書において, ポートシーの自然環境には, トラックに欠けているものが満たされており, どんな科学的方式もこの自然で本能的な練習方法と置き換えることはできない と記している 2) ハーブ エリオットらが実践したファルトレクとは, speed play や changing speed とも呼ばれるスウェーデン発祥のトレーニングであり, 連続性のあるランニングを変化に富んだ自然地形や小道で行うものであり, ポートシーのような砂上においても実践されている ファルトレクは起伏ある自然地形において自由なスピード変化を加えることで, 普段使うことのない筋群を鍛 * 出雲市立第一中学校 ** 鳥取大学地域学部地域教育学科 *** ビクトリア大学運動科学 健康教育学部

78 地域学論集第 13 巻第 1 号 (2016) えることや, 有酸素性エネルギー供給機構及び無酸素性エネルギー供給機構の両方を鍛えることなどを目的としている 3,4) ファルトレクのトレーニング効果については, 起伏のある地形において疾走速度に変化をつけながら一定時間ランニングを持続することから, 心肺持久力の向上や 5,6), スピード及び筋力が向上する 7,8) トレーニング効果が報告されている このように, ファルトレクは速いランニングと遅いランニングを繰り返すため, インターバルトレーニングの一種とされているが, 速度変化や運動強度に一定の規定がなく, ランナーの感覚にたよる点が, 一般的なインターバルトレーニングとは大きく異なる特徴 9) とされ, 今日でもトレーニング現場で活用されている 一方, 観光地としても有名な大小さまざまな起伏が存在する鳥取砂丘は, ハーブ エリオットらがファルトレクを行ったポートシーの地形と類似していると考えられる ファルトレクを行う上で楽しみながら走るということは重要な要素の 1 つであるが, 鳥取砂丘の雄大な景観はランナーの意欲や快感情につながるものと考えられ, この点においても鳥取砂丘はファルトレクを行う環境として適していると推察される しかし, 鳥取砂丘を含む砂上でのファルトレクトレーニングにおいてはこれまで検討されていない そこで, 本研究では鳥取砂丘でのファルトレクトレーニングにおける特性を事例的に検討することを目的とした Ⅱ. 方法 1. 被験者被検者はT 大学陸上競技部の中 長距離走を専門種目とする者のうち, 鳥取砂丘でのファルトレクトレーニングをこれまでに実施したことのない男子学生 9 名とした 被検者には研究の目的及び内容について十分に説明した後, 書面にて同意を得た 分析対象の被検者における身体特徴及び 5000 走のシーズンベスト (SB) 記録を Table 1 に示す 2. 被験者の体力特性の評価について被検者の体力特性を評価するためにトレッドミルを用いた漸増負荷試験を実施した 漸増負荷試験では, 室温が 22 度に設定された実験室内において 20 分間の安静座位による安静時心拍数の測定を行った後,3 分間の走運動セットと 3 分間の休憩セットを交互に繰り返した 最初のセットを 125m/min とし, 各セットにおいて 20m/min ずつ速度を増加し, 終了の条件を満たすセットまで継続した 尚, 終了の条件は, 被検者の予想最大心拍数を超えたとき, 疾走速度が増加したにも関わらず心拍数に増加が認められなくなったとき, 主観的運動強度 (Rate of Perceived Exertion:Borg Scale 10) ; 以下,RPE と示す ) が 19 の 非常にきつい となったときのいずれか 1 つに当てはまった場合とした 漸増負荷試験での測定項目は, 血中乳酸濃度,RPE および心拍数とした 血中乳酸濃度は, 漸増負荷試験の開始前及び各走運動セット後に, 簡易血中乳酸濃度測定器 (Lactate Pro2;ARKRAY) を用いて測定した また,RPE は各走運動セット直後に回答させ, 心拍数は漸増負荷試験の開始から終了まで 5 秒間隔で心拍計 (RS800; POLAR) により測定した 以上の測定項目から, 乳酸値解析ソフトウェア (MEQNET LT;ARKRAY) を用い LT(Lactate Threshold) を判定した さらに, LT における %HRR(%maximum Heart Rate reserve) を以下の式を用いて算出した 尚, 最大心拍数には, 208-0.7 年齢 ( 拍 / 分 ) から導いた予想最大心拍数を用いた 11-13) %HRR=( 運動時の心拍数 - 安静時の心拍数 )/( 最大心拍数 - 安静時の心拍数 ) 100

永井好和 関耕二 高橋優一 : 鳥取砂丘でのファルトレクトレーニングにおける事例的研究 79 3. ファルトレク試験についてファルトレク試験 ( 以下, ファルトレクと示す ) は, 鳥取砂丘全体において 50 分間実施した また, ランニングシューズなどは履かず, 裸足でのファルトレクを実施した ファルトレクにはっきりとした定義はないため, 本研究におけるファルトレクの定義を 自然の中で楽しみながら自由な速度変化を加えるトレーニング と定め試験を行った また, 本研究におけるファルトレクの定義に従い, 被検者にはスタート位置及びゴール位置のみを指定し, 試験中は被検者の感覚をたよりに走らせた また, 本研究におけるファルトレクでは, 被検者の楽しいという感覚を超えない限りは, 10 分間に 1 度の頻度で 30 秒程度のスピードアップ走を課した ファルトレクでの測定項目は, 血中乳酸濃度,RPE, 心拍数, 疾走速度及び走行位置とした 血中乳酸濃度は, ファルトレクの前後に, 簡易血中乳酸濃度測定器 (Lactate Pro2;ARKRAY) を用い測定した また,RPE はファルトレク終了後に, 被検者の口答により回答させ, 心拍数はファルトレクの開始から終了まで 5 秒間隔で心拍計 (RS800; POLAR) を使用し測定した 疾走速度及び走行位置においては, ファルトレク開始から終了まで GPS センサー (G5 GPS センサー ; POLAR) を使用し測定した さらに, ファルトレク終了後にファルトレクを行った感想について自由に記述させた 尚, ファルトレクの比較のために鳥取砂丘における比較的平らな場所 ( 以下, 砂丘平地と示す ) において, ジョギング試験 ( 以下, ジョギングと示す ) をファルトレクと同条件で実施した また, 本研究においては, 気象条件や地表の状態による研究結果への影響を最小限にするために, 地表の状態が雨等で濡れているときは避けてファルトレク及びジョギングを実施した 野外での実験は平成 27 年 11 月 4 日から平成 27 年 12 月 18 日の間に実施した 尚, 気温及び湿度と本研究における測定結果の相関について分析を行った結果, 気温及び湿度と各測定値に有意な相関はみられなかった 従って, 気象条件の違いによる実験結果への影響は無いと仮定し以下の検討を行った 4. 統計処理結果はすべて平均値 ± 標準偏差で表記した ファルトレクとジョギングにおける測定値の関係性を検定するために Pearson の積率相関係数の算出を行った また, ファルトレクとジョギングの測定結果の差異について比較するために Wilcoxson の符号付順位検定を行い, 被検者の LT における %HRR, 疾走速度及び血中乳酸濃度と, Table 1 被験者の身体特性

80 地域学論集第 13 巻第 1 号 (2016) ファルトレク及びジョギングにおける測定値との差異について比較するために Wilcoxson の符号付順位検定を行った さらに, 鳥取砂丘でのファルトレクの特性を検討するために, 被検者をグループに分類し, グループ間の測定結果の差異を比較するために Mann-Whitney の U 検定を行った 尚, 有意水準は 5% 未満とし, 統計処理には IBM SPSS Statistics 23 を用いた Ⅲ. 結果及び考察 1. ジョギングと比較したファルトレクの運動強度の検討ファルトレク及びジョギングにおける各指標の結果を Table 2 に示す ファルトレク後の RPE は, ジョギング後の RPE よりも有意に高値を示した (P<0.05) また, 本研究におけるファルトレクは楽しいと感じる範囲で被検者の感覚を頼りに走らせたが,RPE は 12.8±2.1 の ややきつい 程度であり, ジョギング及びファルトレクにおける生理学的指標である %HRR 及び血中乳酸濃度の比較においても, ファルトレクはジョギングよりも有意に高値を示した ( それぞれ P<0.05) さらに, ファルトレク後に集めた感想には, 坂がきつい 上りで疲労がたまる といった言葉が多くみられた これらの結果より, 鳥取砂丘全体を利用したファルトレクは, 砂丘平地でのジョギングと比較し, 主観的及び生理学的強度において高強度であることが明らかとなった 一方, 疾走速度及び走行距離においては, ジョギングとファルトレクの間に明らかな差はみられなかった このように, 本研究におけるファルトレクではジョギングと比較して生理学的及び主観的な運動強度が高かった一方で, 疾走速度及び走距離に明らかな差がみられなかったことから, 各被検者が鳥取砂丘の起伏を活用し, 上り坂及び下り坂でのランニングを取り入れていたことが考えられる 2. ファルトレクにおける各指標の差異からの検討本研究ではファルトレクの定義を自然の中で楽しみながら自由な速度変化を加えるトレーニングとして試験中は被検者の感覚を頼りに走らせたため, 走行位置や走行距離などに各被検者の特徴が表れると予想した しかし,GPS センサーによって測定したファルトレクにおける各被検者の走行位置を解析した結果, 多くの被検者が鳥取砂丘のほぼ全域を走行しており, 被検者間の走行位置において顕著な傾向は見いだせなかった また, 各被検者のファルトレクにおける平均疾走速度と比較し 50m/min 以上差のあった走行時間の合計である累積速度変化時間の上位 5 名を Much 群, 下位 4 名を Little 群と分類した つまり, 速度変化を多用した被検者が Much 群, 速度変化をあまり取り入れていなかった被検者が Little 群である この結果, ファルトレクにおける %HRR,RPE, 疾走速度, 上りの速さ, 下りの速さ 及び Table 2 ファルトレク及びジョギングにおける各指標の測定結果 血中乳酸濃度 (mmol/l) %HRR (%) RPE 疾走速度 (m/min) 走距離 (km) ジョギング 2.2±0.6 56.2±11.4 9.2±2.3 157.2±16.0 7.7±0.9 * * * ファルトレク 4.5±2.8 65.8±11.3 12.8±2.1 157.3±27.5 7.8±1.4 Mean±SD *P<0.05

永井好和 関耕二 高橋優一 : 鳥取砂丘でのファルトレクトレーニングにおける事例的研究 81 累積上昇高度において,Much 群と Little 群の間に明らかな差はみられなかった (%HRR;Much 群 64.3±13.7%,Little 群 67.6±9.1%,RPE;Much 群 12.6±2.9,Little 群 13.0±0.8, 疾走速度 ;Much 群 151.6±35.3m/min,Little 群 164.5±15.2m/min, 上りの速さ ;Much 群 16.3±1.2m/min,Little 群 20.5±7.9m/min, 下りの速さ ;Much 群 19.2±2.2m/min,Little 群 22.9±8.8m/min, 累積上昇高度 ; Much 群 209.4±47.0m,Little 群 300.0±160.7m) 尚, 本研究における累積上昇高度とは 1 つ 1 つの上りにおける上昇高度を合計した高度であり, 上りの速さ とは累積上昇高度を 1 つ 1 つの上りにおける走行時間を合計した時間で除した値である ( 下りの速さ も同様に算出した ) 本研究における累積速度変化時間での分類では, 各被検者の平均疾走速度は加味されておらず, 速度変化は多用しているものの全体としてゆっくりとした走りを行った被検者は Much 群に分類された 一方, 全体として速く走った被検者でも速度変化が少なければ Little 群と分類された このように, 速度変化を多く取り入れた被検者は, より高強度のファルトレクを行っていたと予想したが, 本研究では速度変化の大小によって, 運動強度や起伏の活用との関係は認められなかった 次に,1 つ 1 つの上りにおける上昇高度を合わせた累積上昇高度を上りに要した走行時間で除した値である 上りの速さ 上位 5 名を Fast 群, 下位 4 名を Slow 群と分類した つまり, 同じ累積上昇高度であれば短い時間で上った被検者が Fast 群に分類された Fast 群及び Slow 群のファルトレクにおける各指標の測定結果を Table 3 に示す この結果, 疾走速度については,Fast 群は Slow 群より有意に高値を示した (P<0.05) また, 累積上昇高度及び 下りの速さ についても Fast 群は Slow 群より有意に高値を示した ( それぞれ P<0.05) 一方,%HRR 及び RPE についえは, 両群間に明らかな差はみられなかった 本研究におけるファルトレクでは, スタート位置とゴール位置のみを指示し試験中は被検者の感覚を頼りに走らせたが, 指示したスタート位置とゴール位置は鳥取砂丘における同位置である そのため, 各被検者のファルトレクにおける累積上昇高度の大きさは, 累積下降高度の大きさと言い換えることができる つまり,Slow 群と比較し累積上昇高度が有意に大きかった Fast 群は, 累積下降高度も Slow 群よりも大きかったことを示している これらの結果から,Fast 群の被検者は Slow 群と比較し, 主観的及び生理学的な運動強度に差はないものの, 上り下りを多用しただけでなく, 速く昇降していたことが考えられ, 鳥取砂丘の起伏を十分に活用することのできた被検者とそうではない被検者の存在が示唆された Table 3 Fast 群及び Slow 群における各測定値の結果 * * * * Fast 群 : ファルトレクにおける累積上昇高度を上りに要した走行時間で除した値である, 上りの速さ上位 5 名. Slow 群 : ファルトレクにおける累積上昇高度を上りに要した走行時間で除した値である, 上りの速さ下位 4 名. Mean±SD *P<0.05

82 地域学論集第 13 巻第 1 号 (2016) 3. ファルトレクと競技レベルの関係についての検討ファルトレクでの走行と被検者の陸上競技トラックでの競技レベルとの関係について検討を行った 5000m 走のシーズンベスト (SB) における平均疾走速度とファルトレクにおける各指標の測定結果との相関を Fig.1 に示す その結果, ファルトレク後の RPE, ファルトレク中の %HRR 及びファルトレクにおける走距離においては競技レベルとの間に明らかな相関はみられなかった (Fig. 1-a~Fig.1-c) 一方, 被検者の競技レベルとファルトレクにおける 上りの速さ の間に有意な正の相関が認められた (r=0.776,p<0.05,fig.1-d) また, 被検者の競技レベルとファルトレクにおける 下りの速さ の間に有意な正の相関が認められた(r=0.849,P<0.01,Fig.1-e) さらに, 累積上昇高度においても被検者の競技レベルとの間に有意な正の相関が認められた (r=0.801,p<0.01,fig.1-f) 各被検者における 5000m 走シーズンベストの平均疾走速度と正の相関があったこれらの項目は, 上りの速さ における Fast 群が Slow 群よりも有意に高い値を示した項目と同様であった これらの結果から, 競技レベルの高い被検者ほど鳥取砂丘の起伏を十分に活用するとともに速く昇降するというダイナミックなファルトレクを行ったことが考えられる a b c d e f Fig. 1 競技レベルとファルトレクにおける各指標の相関

永井好和 関耕二 高橋優一 : 鳥取砂丘でのファルトレクトレーニングにおける事例的研究 83 4.LT における %HRR と比較したファルトレクの %HRR からの検討本研究のファルトレクにおける %HRR(65.8±11.3) は, LT における %HRR(79.1±10.9) よりも有意に低値を示した (P<0.05) そこで, 各被検者におけるファルトレクでの %HRR を,LT における %HRR( 以下,%HRR@LT と示す ) の上下 5% 以内であった %HRR,%HRR@LT より高い %HRR,%HRR@LT より低い %HRR の 3 つに分類し検討を行った その結果, 平均では %HRR@LT での走行が 15.4%,%HRR@LT より高い %HRR での走行が 10.5%,%HRR@LT より低い %HRR での走行が 74.1% であった これらの結果より, 本研究における鳥取砂丘でのファルトレクは主として有酸素性エネルギー供給系での走行であったことが考えられる また, ファルトレクにおける %HRR について,%HRR@LT 及び %HRR@LT より高い %HRR の割合が走行中の 25% 以上あった被検者を High 群 (4 名 ),%HRR@LT 及び %HRR@LT より高い %HRR での走行割合が 25% より低かった被検者を Low 群 (5 名 ) と分類し検討を行った つまり, 自身の LT 以上での走行が多かった被検者が High 群である その結果, ファルトレクにおける %HRR,RPE, 疾走速度, 上りの速さ, 下りの速さ 及び累積上昇高度において High 群と Low 群の間に明らかな差はみられなかった (%HRR;High 群 69.1±16.0,Low 群 63.1±6.5,RPE;High 群 12.8±3.3,Low 群 12.8±0.8, 疾走速度 ;High 群 150.8±40.8m/min,Low 群 162.5±13.5 m/min, 上りの速さ ;High 群 16.5±1.5m/min,Low 群 19.5±7.2m/min, 下りの速さ ;High 群 19.2±1.8m/min,Low 群 22.1±8.0m/min, 累積上昇高度 ;High 群 220.5±52.4m,Low 群 273.0±150.1m) しかし, 競技レベルの上位 2 名が Low 群に分類されていたことから,Low 群の被検者は %HRR@LT 以上の走行において,High 群よりも高強度で坂を駆け上がるなど, 運動強度にメリハリあるファルトレクを行っていた可能性が考えられる 5. 各被験者におけるファルトレクの総合的な検討 これまでの検討における各被検者の分類を Table 4 に示す この結果, 上りの速さ での分類における Fast 群は, 競技レベルの高い被検者に集中しているが明らかとなり, 競技レベルによって起伏の活用に差がみられることが考えられる 一方で,%HRR からみた相対的な運動強度及び累積速度変化時間は競技レベルとの関係がみられず, 個人差が大きいことが明らかとなった Table 4 ファルトレクにおける各被験者の分類 5000m 走累積速度変化時間上りの速さ %HRR @LT 以上の SB タイムでの分類での分類走行割合での分類 (min sec ) a 15 19 Little 群 Fast 群 Low 群 b 15 47 Much 群 Fast 群 Low 群 c 16 46 Much 群 Fast 群 High 群 d 17 22 Little 群 Fast 群 Low 群 e 17 39 Much 群 Slow 群 High 群 f 17 44 Much 群 Slow 群 High 群 g 17 48 Much 群 Slow 群 Low 群 h 17 54 Little 群 Fast 群 High 群 i 17 58 Little 群 Slow 群 Low 群

84 地域学論集第 13 巻第 1 号 (2016) そのため, ファルトレクにおいて重要な要素であるとされる起伏の活用, 疾走速度変化及び %HRR を基準に各被検者の走りについて総合的な検討を行った 各被検者における %HRR からみた相対的な運動強度, 累積上昇高度及び速度変化時間を Fig. 2 及び Fig. 3 に示す 競技レベルの最も高い被検者 a は, 全被検者の中で最も累積上昇高度が大きく (Fig. 3-a) 細かい上り下りを繰り返している (Fig. 4) また, ファルトレクでの %HRR と LT における %HRR を比較すると,%HRR@LT での走行が 4.3%,%HRR@LT より低い %HRR での走行が 96.6% であり (Fig. 2), ほとんどが LT 以下の運動強度であったことが伺える つまり, 競技レベルの高い被検者 a は鳥取砂丘の起伏を十分に活用しながらも,% HRR からみた相対的な運動強度では低強度の運動であったと考えられる また, 被検者 a の次に競技レベルの高い被検者 b においても %HRR@LT 以上の %HRR での走行はみられなかった ファルトレクでは, 有酸素性エネルギー供給系及び無酸素性エネルギー供給系の両方の向上が目的の 1 つとされていることから, 本研究における競技レベルの高い被検者においては,%HRR@LT 以上での走行が不足していたと考えられる このような被検者において, より効果的なファルトレクとするためには, トレーニングを行う前に, 起伏の活用において速く疾走することを意識させるといった工夫が必要だと考えられる また, 被検者 c は全被検者の中で唯一 %HRR@LT 以上の %HRR での走行が主であった (Fig.2) 本研究におけるファルトレクでは, 楽しいと感じる範囲で被検者の感覚を頼りに走らせたが, 被検者 c のファルトレク終了後の RPE においては 楽である と ややきつい の間である 12 を示し, 普段では見られない風景の中で走ることができて, 心地よかった とコメントしていた したがって, 被検者 c は主観的に高強度のファルトレクを行っていないと推察されるにも関わらず,%HRR からみた生理学的な運動強度は高強度を示している これらの結果より, 被検者 c においては日頃のトレーニングにおいて %HRR@LT 以上でのランニング量が多いと考えられ, 同一速度のランニングであれば他の被験者よりも主観的に 楽に 感じた可能生があることや, 鳥取砂丘の雄大な景観のなかを走り回ることで気分が高揚し, 主観的な運動強度の選択が普段のトレーニングとは異なった可能生が推察される 100% 90% 80% 70% 60% 50% 40% 30% 20% 10% 0% a b c d e f g h i Fig. 2 各被験者における %HRR 構成 %HRR@LT よりも高い %HRR LT における %HRR の上下 5% 以内 HRR (%HRR@LT) %HRR@LT よりも低い %HRR

永井好和 関耕二 高橋優一 : 鳥取砂丘でのファルトレクトレーニングにおける事例的研究 85 被検者 e 及び f においては, 累積上昇高度が少ないものの %HRR@ LT 以上での走行がみられた (Fig. 2 Fig. 3-a) また, 被検者 e 及び f の平均疾走速度と比較し 50m/min 以上差のある走行時間の合計である累積速度変化時間は, 他の被検者と比較して多いことから速度変化を多用していたと考えられた (Fig. 3-b) したがって, 被検者 e 及び f は, 起伏をあまり活用しない代わりに速度変化を心がけることで, 無酸素性エネルギー供給系に頼る走行も行っていたと推察される これらのことから, 比較的競技レベルの低い選手にとって鳥取砂丘でのファルトレクが不向きということではなく, 各選手の競技レベルや目的に合わせて鳥取砂丘の変化に富んだ地形の活用方法や疾走ペースを工夫することが必要だと考えられる また, 被検者 h は,%HRR@LT での走行みられるものの, 速度変化をほとんど取り入れていなかった (Fig. 2, Fig. 3-b) ファルトレクにおいて, Fig.3 各被験者における累積上昇高度及び累積速度変化時間 Fig. 4 被験者 a における走行図

86 地域学論集第 13 巻第 1 号 (2016) 自由な速度変化は非常に重要な要素であるため被検者 h のような選手に対しては, 個人の感覚を重視するファルトレクにおいて ある回数全力走を加える などの条件設定を行う工夫が必要であると考えられる このように, 本研究におけるファルトレクでは, 競技レベルの高い被検者をはじめ, 全体的に %HRR@LT 以上の %HRR での走行が少ない傾向であった また, 被検者ごとに起伏の活用や疾走速度変化と取り入れ方など走りの様相はさまざまであり, 競技レベルの低い被検者にとっても効果的なトレーニングと成り得ることが示唆された 今後, 実際のトレーニングとして活用していく際には, 各選手の競技レベルなどの特性に合わせた条件設定により運動強度を変化させる工夫が必要であると考えられる Ⅳ. 結語本研究では, 鳥取砂丘でのファルトレクトレーニングにおける特性を明らかにすることを目的と事例的に検討を行った 結果を要約すると以下の通りである 1) 鳥取砂丘平地でのジョギングと比較して鳥取砂丘でのファルトレクは,%HRR,RPE 及び血中乳酸濃度が有意に高値を示したことより, 主観的及び生理学的に高強度であったと考えられた 2) 被検者の競技レベルとファルトレクにおける 上りの速さ, 下りの速さ 及び 累積上昇高度 の間に有意な正の相関が認められたことから, 競技レベルの高い被検者ほど上り坂及び下り坂での疾走を多用するとともに速く昇降するといったダイナミックなファルトレクを行っていたことが考えられた 3) ファルトレクにおける被験者の全体的な傾向としては,LT における %HRR の上下 5% 以内での走行が約 15%, それより高い %HRR での走行が約 10%, それより低い %HRR での走行が約 75% であったことから, 有酸素性エネルギー供給系の動員が大きい低強度から中強度のランニングであったことが考えられた 4) 各被検者のファルトレクにおける %HRR や疾走速度変化の取り入れ方などを基準に総合的な走りの様相を検討した結果, 鳥取砂丘の変化に富んだ地形を各選手の競技レベルや目的に合わせて十分に活用することで, 多様なトレーニング効果が期待できると考えられた 以上から, 鳥取砂丘でのファルトレクでは主に持久力の向上が期待されるが, 実際のトレーニングとして活用していく際には, トレーニングの目的に合わせて変化に富んだ地形を活用したスピード変化の頻度など, 各選手の特性に合わせた条件設定により運動強度を調整する工夫が必要であると考えられる さらに, 本研究における鳥取砂丘でのファルトレク後の感想においては 新鮮である 気持ち良い などの言葉が多くみられ, 鳥取砂丘の雄大な環境は, 各選手が楽しいと感じながら行うことを重視するファルトレクを実践する環境としては適していると考えられる 今後は, 他環境でのファルトレクと比較し, 鳥取砂丘でのファルトレクの特性をより詳細に検討することが課題である 謝辞本研究の一部は, 文部科学省特別経費事業 (H25-27) 地域再生を担う実践力ある人材の育成及び地域再生活動の推進 の助成を受けたものです また, 本研究の実施に際して, 被験者としてT 大学陸上競技部の皆様にご協力をいただきました 記して感謝申し上げます

永井好和 関耕二 高橋優一 : 鳥取砂丘でのファルトレクトレーニングにおける事例的研究 87 引用 参考文献 1) デビッド マーティン, ピーター コー : 征矢英昭, 尾縣貢監訳.(2001) 中長距離ランナーの科学的ト レーニング. 大修館書店.150-157,175-176 2) パーシー セルッティ : 加藤橘夫, 小田海平訳.(1963) チャンピオンへの道. ベースボール マガジン社. 10-15 3) Ahmed AZ,Hashem DMS. (2011) Effect of Using Fartlek Exercises on Some Physical and Physiological Variables of Football and Volleyball Players.World Journal of Sport Sciences, 5(4):255-231 4) Hazar F,Gevat C.(2009) Running speed development by non-specific methods to athletes girls of 12 years old. Ovidius University Annals,Series Physical Education and Sport Science,Movement and Health,Vol.10(1):40-43 5) P T Joseph,Binoy K.Comparative effect of parcours,fartlek and continuous training on cardiovascular endurance. Analysis of sports achievement motivation between physical education,vol.1(1):61-69 6) Louis AA., Vallimurugan V. (2014) Effect of Fartlek Training on Vital Capacity among Hockey Players. International Journal of Recent Research and Applied Studies,Vol.1,Issue 1(10) :37-39 7) Manikandan S.(2014) Effect of combination of speed and endurance training programme on selected physical and physiological variables of women handball players.international Journal of physiological Education,Sports and Health,Vol.1(1):26-28 8) M Sudhakar Babu,PPS Paul Kumar.(2014)Effect of continuous running fartlek and interval training on speed and coordination among make soccer players.journal of Physical Education and Sports Management,Vol.1(1):33-41 9) ジャック ダニエルズ : 篠原美穂, 前河洋一監訳.(2012) ダニエルズのランニング フォーミュラ. 株 式会社ベースボール マガジン社.47-52 10) 日本体力医学会体力科学編集委員会監訳.(2011) 運動処方の指針 運動負荷試験と運動プログラム ( 原 書第 8 版 ). 真興社. 80-82 11) 山地啓司.(2013) こころとからだを知る心拍数. 杏林書院. 179-184 12) Gellish RL,Goslin BR,Olson RE,et al.(2007) Longitudinal modeling of the relationship between age and maximal heart rate.medicine and Science in Sports and Exercise,39:822-829 13) Tanaka H,Monahan KD,Seals DR.(2001) Age predicted maximal heart rate revisited.journal of the American College of Cardiology,37:153-156 (2016 年 6 月 3 日受付,2016 年 6 月 23 日受理 )