ミャンマー ヤンゴン市における常時微動を用いた地盤構造の推定 廣川夕貴 1) 松島信一 2) 川瀬博 3) Tun Naing 4) Myo Thant 5) 1) 学生会員京都大学大学院工学研究科修士課程 修士課程学生学士 ( 工学 ) e-mail : yuki.hirokawa@zeisei.dpri.kyoto-u.ac.jp 2) 正会員京都大学防災研究所 准教授博士 ( 工学 ) e-mail : matsushima@zeisei.dpri.kyoto-u.ac.jp 3) 正会員京都大学防災研究所 教授工博 e-mail : kawase@zeisei.dpri.kyoto-u.ac.jp 4) ヤンゴン大学地質学部 講師 Ph.D.( 現ダーウエイ大学地質学部 准教授 ) e-mail : tunnaing1972@gmail.com 5) ヤンゴン大学地質学部 講師 Ph.D.( 現マンダレー大学地質学部 准教授 ) e-mail : myothant05@gmail.com 要約ミャンマーの最大都市であるヤンゴン市近郊では近い将来に大地震が発生することが予測されているにも拘らず 十分な地震災害対策がとられていない そこで本研究では同市の地震防災性向上にむけたマイクロゾーネーションを行うことを目的として 市内中心部における地盤の S 波速度構造推定を行った 推定には 微動の水平上下スペクトル比及び微動アレイ観測から得られる位相速度を用いた 微動観測は市内の 26 地点での単点観測および 1 地点での複数サイズのアレイ観測を実施した その結果 同市内市街地域では地盤の 1 次 2 次ピーク振動数は 0.7~1.3Hz 20~40Hz にそれぞれ分布しており また S 波速度は最表層では 140m/s で 1~2m の層厚があり それが深度 100m 程度で 800m/s に達することが明らかになった キーワード : S 波速度 水平上下スペクトル比 常時微動 アレイ観測 ヤンゴン 1. はじめに 本研究の対象国ミャンマーは プレート境界近傍の地震多発地域に位置している 特に 図 1 のミャンマー周辺の地図を見ると 国土中央をサガイン断層と呼ばれる巨大な横ずれ断層が走っていることが分かる このサガイン断層は活動度が高く また近い将来に大地震が発生することが予測されている 古川 (2011) 1) は 1918 年以降にサガイン断層近傍において発生したとされてきたミャンマー国内の歴史地震についてその震源を再決定し 分析を行っている これによると Yangon の位置する南ミャンマーでは 1929 年から 1930 年にかけて空間的に連続した地域において大地震が 3 つ発生して以来 連続的な大地震が起きていない地域であり 近い将来最大 M7.7 程度の大地震が発生する可能性があることを指摘している また Pailoplee and Choowong (2012) 2) は ミャンマーを中心とした東南アジア地域を 8 つの - 49 -
地域に分割し それぞれの地域において今後起こりうる地震について分析を行った この研究では 今回の調査対象地域であるYangonを含むサガイン断層地域について 地域内に震源を持つM7.2~M7.5 規模の地震が次に起こるのは20 年以内であるということが指摘されている さらに 地震の規模はM8.0 程度となる可能性もあるという 対象都市ヤンゴンはこのサガイン断層南部の西方 30kmに位置し また人口約 500 万人を擁する国内最大の都市であることから 地震発生時には強震動に見舞われる可能性が高く甚大な被害が想定される 一方 ミャンマーは民主化以降建設ラッシュにある 高層建築物を含め これらの多くは枠組組積造で建設されているが ミャンマー国内には現在地震を考慮した建設基準法は整備されておらず また適切な入力地震動を用いた設計はほとんど成されていない状況である また市内の地盤構造に関する既存の情報として ごく表層の地質図と 市内構造物建設時に行われた深度 30から50m 程度のボーリング調査結果とがあるが 後者については公表されているものは少ない 図 1 ミャンマー周辺の地図同市内で行われてきたボーリング結果等からVs30は大体 350m/sec 程度であろうと言われているが その地盤速度構造はほとんど明らかになっていないと言える そこで本研究では サガイン断層を震源とした地震による強震動の予測 さらに建造物の地震防災力向上の基準となる地震ハザードマップ作成を視野に入れ 同市内の地盤の S 波速度構造の推定を行った 地盤のS 波速度構造の推定のため 単点観測とアレイ観測の2 種の方法で常時微動の観測を行った 観測記録の解析において 観測位相速度推定にはnc-CCA 法を また理論水平上下スペクトル比 (HVRs) の計算には拡散波動場理論に基づいたHVRsを各々適用した nc-cca 法は 非定常ノイズの影響による位相速度の過小評価を防ぐようCCA 法に改良を加えたもので いずれも中心観測点無しでのアレイ観測を可能としたSPAC 法の拡張手法である 特に既存の手法と比較し観測可能波長域が広いことがTada et al. (2007) 3) により経験的に示されていることから アレイ数 アレイ半径の限られている本研究でより広い周波数域の位相速度を推定するのに最適である また拡散波動場理論に基づいたHVRsは Sánchez-Sesma et al. (2011) 4) により提案されたHVRsの新しい解釈に基づいたものである これは既存の解釈によるHVRs と異なり HVRsの振動数のみでなく振幅についても考慮したS 波速度構造の推定が可能となる 2. 常時微動単点観測 2.1 単点観測の概要常時微動観測のうち単点観測では 各観測地点につき 1 台の微動計で常時微動の観測を行った 観測記録から HVRs を算出し そのピーク振動数を把握することで地盤の震動特性を評価した 図 2 のヤンゴン市内地図上に赤円で示すように 同市内市街地域を中心に 南北測線 1 本 ( 以下 YGNns) 上に約 1km 間隔で 17 点 (YGNns-11 は欠番 ) 東西測線 2 本 ( 以下 南側が YGNwe1 北側が YGNwe2) 上にそれぞれ約 2km 間隔で 4 点 約 1km 間隔で 4 点 さらに YGNns と YGNwe1 との交点付近に位置するヤンゴン大学地質学部棟前 (YGNdep) に 1 点の計 26 点に単点観測地点を設置した 観測地点情報を表 1 に示す 観測には アカシ ( 現ミツトヨ ) 社製の 0.1 倍 ~10000 倍のアンプ付き可搬型 3 成分加速度地震計 SMAR-6A3P と白山工業社製データロガー LS-8800 を組み合わせて用いた サンプリング振動数は 200Hz アンプ振幅増幅は 500 倍とし 時刻校正は GPS により行った 単点観測点の観測地点名 観測点位置 観測時間などの情報を表 1 に示す - 50 -
表 1 単点観測の観測点情報 図 2 ヤンゴン市内地図 2.2 単点観測記録の解析手法観測記録の解析に先立ち 非定常ノイズの除去を行った まず観測記録全体の全成分から基線トレンドを差し引き 全体の RMS(RMS all) を計算した 一方 得られた観測記録を 50% オーバーラップさせ 40.96 秒のセグメントに分割した その各セグメントの各成分に対し 基線トレンドを差し引き RMS を計算した この RMS を RMS all で規格化したものを各セグメントの RMS(RMS seg) とした 次に全ての RMS seg について 0.1 刻みでヒストグラムを作成し 最頻値を同定した そして 全成分の RMS seg が同時に最頻値となるセグメントを使用するセグメントとして抽出した 次に各セグメントの前後にセグメント長の 0.5% の長さのコサインテーパをかけた上でスペクトル解析を行い 各成分のパワースペクトルを算出した これらに対し 0.1Hz の Parzen window で平滑化を行ったものを S X S Y S Z とし 式 (1) で定義した HVRs を求めた 本研究ではこの HVRs のセグメント平均を各観測地点の観測 HVRs とし 得られた観測 HVRs の 1 次 2 次ピークを各地点での固有な増幅振動数と見なし抽出した (1) 2.3 単点観測点での解析結果単点観測記録の解析結果から 市内観測点での地盤の 1 次ピーク振動数は 0.7~1.3Hz 2 次ピーク振動数は 20~40Hz にそれぞれ分布していることが分かった 特に 1 次ピーク振動数についてはそのピーク振幅は低く全体的に明瞭に見られない傾向があり 深層のインピーダンスコントラストが小さいことを示唆している 解析結果の例として YGNns-1 YGNwe2-1 の HVRs をそれぞれ図 3 図 4 に示す なお 黒線が解析に使用した全セグメントの平均 灰色線が平均 ± 標準偏差である これらの図には青軸 赤 - 51 -
軸で 1 次 2 次ピーク振動数を示し 軸下にその振動数値を記載した また これらの 1 次 2 次ピーク振動数の分布をそれぞれ図 5 図 6 に示す 各観測地点について読み取ったピーク振動数の値を 図内カラースケールに従って色でヤンゴン市内地図にプロットしている 各観測点のピーク振動数から 調査対象地域の地盤構造が空間的に複雑に分布していることが推測される なお ピークが見られなかった一部観測地点についてはプロットをしておらず また 4 章でも地盤構造推定の対象外とした 図 3 観測 HVRs(YGNns-1) 図 4 観測 HVRs(YGNwe2-1) 図 5 観測 HVRs の 1 次ピーク振動数分布図 図 6 観測 HVRs の 2 次ピーク振動数分布図 3. 常時微動アレイ観測 3.1 アレイ観測の概要アレイ観測では 複数の地震計を配置し同時に微動観測を行った 観測記録から微動に含まれる Rayleigh 波の位相速度を推定し その分散性を利用してアレイ直下の地盤構造をトライアンドエラーにより求めた 本研究におけるアレイ配置は図 7 に示すように 中心点 1 点と同心円上 3 点の計 4 点で構成され 円周上 3 点は正三角形となるよう設計した なお 構造物等により正三角形状に観測点を設置できない場合には 同一円周上でなるべく円周上 3 観測点間の距離が等しくなる場所に観測点を設けた 地理的制 - 52 -
約の中で設置 観測の可能な最大アレイ半径を上限とし 観測可能振動数域が十分に重なるよう 3m 10m 30m 89m の全 4 サイズを設定した 中心点は全アレイで共通の位置とした 観測時間はアレイサイズに応じて 15 分から 35 分の間で変化させた 観測地点は Yangon 大学のグラウンド ( 以下 YGNgro) で図 2 の青四角で示している なお用いた観測システムは単点観測と同様である 図 7 アレイ配置図 3.2 アレイ観測記録の解析手法および解析結果 3.2.1 位相速度の推定アレイ観測記録の上下動観測記録から Rayleigh 波の位相速度の分散曲線を求めた 解析には Tada et al. (2007) 3) が提案している手法を用いた 解析に先立ち 単点観測記録と同様に非定常ノイズの除去を行った セグメントの長さは単点観測と同様 40.96 秒とし 使用する各セグメントに対し nc-cca 法を用いて Rayleigh 波の位相速度を算出し そのセグメント平均を各アレイの位相速度とした 得られた各アレイの位相速度分散曲線から観測可能振動数域内で分散性を示す振動数域を取捨選択 平均化することで最終的な位相速度を求め これを観測分散曲線とした このようにして得られた YGNgro の観測分散曲線を図 8 に黄太線で示す なお細実線は 各アレイサイズから得られた分散曲線である 図 8 YGNgro の観測分散曲線 3.2.2 S 波速度構造の推定位相速度解析で推定された観測分散曲線とアレイ構成点における微動の観測 HVRs とを同時に満足するようなアレイ観測地点の地下構造をトライアンドエラーにより推定した 初期モデルは最上層 1 層 浅部 2 層 深部 2 層 最下層 1 層の計 6 層とした この層数はパラメータスタディを行うことで確認した 得られた観測分散曲線の実現に要する最低数である 初期モデルの最上層 1 層及び浅部 2 層の設定では YGNgro 近傍 ( 図 2 の黄星 ) で Suntec Engineerings Co. Ltd によって実施された到達深度 50m のボーリング調査結果を参照した また深部 2 層は 観測分散曲線を式 (2) に示す Ballard の方法 5) で S 波速度に換算し その 50m 以深を 2 層に平均化することで得た Ballard の方法は 探査資料に乏しい地域における S 波速度構造逆探査の初期モデル設定を目的とした 位相速度分散曲線から S 波速度構造を直接的に求める換算式である - 53 -
(2) ここに Z: 深さ (m) λ:rayleigh 波の波長 (m) V SZ: 深さ Z における S 波速度 C λ: 波長 λ の Rayleigh 波の位相速度 (m/s) とする このようにして得られた初期モデルの物性値を表 2 に示す なお P 波速度と密度は Ludwig et al. (1970) 6) による S 波速度との経験的関係式から換算した この初期モデルに対し 観測分散曲線とアレイ観測点での微動の観測 HVRs とを同時に満足するよう 層厚と S 波速度とをトライアンドエラーにより修正を重ねた 特に HVRs の 1 次ピークが 2~5 層を 2 次ピークが最上層をそれぞれ反映するものと仮定して修正を行った 修正の結果得られたモデルを YGNgro の地盤構造モデルとし その物性値を表 3 に示す YGNgro での HVRs( 図 10) からは他単点観測点同様に 1 次ピークの振幅が小さく深層のインピーダンスコントラストが小さいことが示唆されていたが これは表 3 の第 5 層 第 6 層の S 波速度に反映されている また得られたモデルの物性値のうち S 波 P 波速度構造を修正前と比較したのが図 9 であり 図中の黄緑線は Ballard の方法による分散曲線の S 波速度換算値である 表 2 初期モデルの物性値 表 3 YGNgro 地盤構造モデルの物性値 図 9 YGNgro の S 波 P 波速度構造 ここで 地盤構造モデルからの理論分散曲線の算出には公開されている理論的地震動計算プログラム 7) の一部を用いた これは層内のポテンシャル係数の伝達により指数項の積を避けた一般化 TR マトリックス法に基づき理論分散曲線を求めるものである また 理論 HVRs は拡散波動場理論に基づく HVRs の新しい解釈に従い 式 (3) から算出した (3) なお式 (3) で x は加振点 受振点の位置ベクトル ω は角周波数であり グリーン関数 Gij(x,x;ω) は x 点に i 方向に単位インパルス力を作用させた時の x 点における j 方向変位応答に相当する また lm[*] - 54 -
は * の虚数部である YGNgro の地盤構造モデルから求めた理論 HVRs 及び理論分散曲線を観測値と比較したものを図 10 図 11 に示す 分散曲線 HVRs 共に概ね理論値は観測値を説明していることが分かる 分散曲線において 1Hz 以下の低周波数域における整合性が低くなっているのは S 波速度 1100m/s の層をモデルの最下層としているためである この低周波数域における位相速度の漸増を再現するには 本研究より深部の地盤構造を反映する調査が必要となる また HVRs の 1 次ピークについては ピークが明瞭でなかったため 近傍の単点観測点 (YGNdep YGNns-10) での観測 HVRs も合わせて参照した また 0.2Hz あたりに見られるピークについては 他の観測地点の HVRs で YGNgro ほど明瞭にこのピークが見られているものが無いこと 標準偏差が大きいことから ノイズの影響であろうと考えられる YGNgro のみに拘わらず さらに深い構造による影響が 1 次ピーク以下の振動数域に反映されている可能性は大いにあるが アレイによる観測可能振動数域外のため 構造を決定づける十分な情報が無いということで本研究では検討の範囲外とした これら 2 つのピーク値を合わせることで概形をおおよそ再現することができた ピークの鋭さについて整合性を高めるためには 拡散波動場に基づくと HVRs の谷に影響を与える P 波速度を調整する必要があると考えられる またより詳細な形状を再現するためには さらに細かな層分割を行うことが有効であるが 本研究での調査ではこれ以上細かな層分割を十分な妥当性をもって行うほどの情報量は得られていない 図 10 HVRs の理論値 ( 緑 ) と観測値 ( 黒 ) の比較 ( 左 :1 次ピーク振動数周辺の HVRs 右 :2 次ピーク振動数周辺の HVRs) 図 11 分散曲線の理論値と観測値との比較 4. 広域地盤構造の推定 YGNgro の地盤構造モデルを基に 各単点観測地点直下の S 波速度を同一に固定した地盤構造モデル ( 以下 同一 S 波速度構造モデル ) を作成した ここでは HVRs のピーク振動数を対象として 層厚のみをパラメータとした 同一 S 波速度構造モデルは 波長とピーク振動数との関係をもとに 対象地点と YGNgro でのピーク振動数の観測値の比を YGNgro の地盤構造モデルの層厚に式 (4) のようにかけ合わせることで作成した (4) なお H o H i はそれぞれ YGNgro の地盤構造モデル 対象地点の同一 S 波速度構造モデルの層厚 f o - 55 -
f i はそれぞれ YGNgro のピーク振動数 対象地点でのピーク振動数である モデルを構成する 6 層うち 1 次 2 次ピーク振動数がそれぞれ第 2~5 層全体の層厚および最上層の層厚を反映するものと仮定した 例えば ある対象地点の 3 層目の層厚は YGNgro の地盤構造モデルの 3 層目の層厚に YGNgro と対象地点との 1 次ピーク振動数の比を掛けたものとなる このようにして作成した各単点観測地点の同一 S 波速度構造モデルと HVRs の理論値と観測値との比較の例を表 4 図 12 に示す また 1 次 2 次共にピーク振動数が得られた全単点観測地点およびアレイ観測地点について S 波速度構造を 2 次元的にまとめ 測線ごとに図 13 に示す また 1 次ピークの読み取れなかった観測地点は YGNns-6 YGNns-9 YGNwe2-2 YGNwe2-4 であったが 特に YGNns-6 YGNwe2-2 YGNwe2-4 周辺に位置する観測点 (YGNns-3 YGNns-4 YGNns-5 YGNwe2-3) でも 1 次ピークの振幅が他観測点より小さい値となっていた このことから これらの観測点一帯で深部のインピーダンスコントラストが他地域より小さくなっていることが考えられる 本研究では S 波速度構造を決定づけるためのアレイ観測を 1 か所のみで実施しているために 全観測地点に対し S 波速度を同一に固定した地盤構造モデルを構築した しかし このような複雑に起伏している地盤構造をより忠実に再現するためには 更なるアレイ観測点を設けるといった方法で 各観測点の HVRs のピーク振幅も考慮できるよう S 波速度モデルを複数パターン作成して適用することも必要と考えられる ピーク振動数を一致させたことで HVRs の大まかな形状は類似させることができた 本研究では第 2 ~5 層の層厚を 1 次ピーク振動数の値を基準として一様に拡大 縮小しているが ピーク振動数の値によらず観測 HVRs の形状に重点をあて各層の層厚を最適化することによって形状の整合性を高めることができると考えられる またヤンゴン市内観測地域においては 最表層の S 波速度は 140m/s でその層厚は 1~2m に分布し それが深度 100m 程度で 800m/s に 深度 200m から 300m 程度を中心に本モデルの最下層である S 波速度 1100m/s の層に達することが分かった 表 4 同一 S 波速度構造モデル (YGNns-7 YGNns-14 YGNwe2-3) 図 12 HVRs の理論値と観測値との比較 (YGNns-7 YGNns-14 YGNwe2-3) 5. まとめ 本研究では ミャンマーの最大都市ヤンゴンにおいて強震動に対する防災性向上を目的とした地盤構造の推定を行った 地盤構造の推定にあたって ヤンゴン市内の市街地域を中心に 3 成分加速度微動計を設置し 26 地点で単点観測を 1 地点で三角アレイ観測 (4 アレー ) をそれぞれ実施した 微動の HVRs から得られる各地点のピーク振動数とアレイ観測から推定された Rayleigh 波の位相速度分散曲線 およびボーリング情報等を基に 各観測地点下の地盤構造モデルを構築した 結果として 市内観測点で地盤の 1 次ピーク振動数は 0.7~1.3Hz 2 次ピーク振動数は 20~40Hz にそれぞれ分布し また深層のインピーダンスコントラストは小さいことが推定された さらに得られた地盤構造モデルから 市内観測地域では S 波速度が 140m/s の最表層が表層 1~2m 程度に分布しており それが深度 200m から 300m 程度を中心に本モデルの最下層である S 波速度 1100m/s の層に達することが明らかに - 56 -
なった また 工学的基盤と見なせる S 波速度 520m の層については大体深度 30m から 50m 程度に分布していることも分かった 得られた地盤構造モデルの S 波速度のインピーダンスコントラストは浅部で大きく 深部で小さい結果となった 今後は本研究では観測を行わなかった箇所についても観測を行い 市内全域を網羅したマイクロゾーニングができるよう調査を進める また各観測点の HVRs のピーク振幅も考慮した より詳細な地盤構造再現のために 更なるアレイ観測点を設けるといった方法で S 波速度モデルを複数パターン用意し 本研究で構築した地盤構造モデルの精度向上に努めたい さらに 現在は市内で地震動観測点を設置し地震動の観測を開始したところであり またより深部の地盤構造を反映する常時微動の速度アレイ観測の実施を予定している これらの観測記録により本研究の地盤構造モデルの妥当性の検証を行い また得られた地盤構造モデルを検証するとともに さらに深部まで拡張することを計画している 将来的には得られた地盤構造モデルを用いて 近い将来の発生が想定されているサガイン断層を震源とした地震のシナリオ型強震動シミュレーションを実施する予定である 謝辞ミャンマーでの微動観測に当たっては京都大学防災研究所およびヤンゴン大学から多くの関係各位にご協力頂きました また本研究の一部は JICA AUN/SEED-net の CRC プロジェクト ( 研究代表者 :Tun Naing) および文部科学省 研究大学強化促進事業による京都大学融合チーム研究プログラム (SPIRITS) 国際型の支援により実施しました 理論微動 HVR の計算には F. J. Sánchez-Sesma 教授により開発されたプログラムコードを用いました ここに記して感謝の意を表します 参考文献 1) 古川信雄 : プレート境界である ミャンマーのサガン断層近傍の M7 クラス地震の震源再決定によるサガン断層の地震履歴 歴史地震 第 26 号 2011 年 p101. 2) Pailoplee, S. and M. Choowong : Probabilities of earthquake occurrences in Mainland Southeast Asia, Arab J. Geosci., 2012, DOI: 10.1007/s12517-012-0749-5. 3) Tada, T., I. Cho, and Y. Shinozaki : Beyond the SPAC method: exploiting the wealth of circular-array methods for microtremor exploration, Bull. Seism. Soc. Am, 2007, pp.2080-2095. 4) Sánchez-Sesma, F. J., M. Rodríguez, U. Iturrarán-Viveros, F. Luzón, M. Campillo, L. Margerin, A. García-Jerez, - 57 -
M. Suárez, M. A. Santoyo, and A. Rodríguez-Castellanos : A Theory for microtremor H/V spectral ratio: Application for a layered medium, Geophysical Journal International, Vol. 186, 2011, 221-225. 5) Ballard, R. F., Jr. : Determination of soil shear moduli at depth by in-situ vibratory techniques, U.S. Army Engineer Waterways Experiment Station, Vicksburg, Miss., Misc. Paper, 1964, No. 4-691. 6) Ludwig. W. J, Nafe, J. E, and Drake. C. L : Seismic Refraction, The sea, 4, edited by Maxwell. A, Wiley InterScience, New York, 1970, pp.53-84. 7) 久田嘉章 : 成層地盤における正規モード解及びグリーン関数の効率的な計算法 日本建築学会構造系論文集 第 501 号 1997 年 pp.49-56. ( 受理 :2015 年 5 月 7 日 ) ( 掲載決定 :2015 年 11 月 15 日 ) Estimation of underground structures in Yangon City, Myanmar using single-station and array microtremors Yuki HIROKAWA 1), Shinichi MATSUSHIMA 2), Hiroshi KAWASE 3), Tun NAING 4), and Myo THANT 5) 1) Student Member, Graduate Student, Graduate School of Engineering, Kyoto University, Kyoto, B. Eng. 2) Member, Associate Professor, DPRI, Kyoto University, Dr. Eng. 3) Member, Professor, DPRI, Kyoto University, Dr. Eng. 4) Lecturer, Dept. of Geology, University of Yangon, Ph.D (present: Associate Professor, Dawei University) 5) Lecturer, Dept. of Geology, University of Yangon, Ph. D (present: Associate Professor, University of Mandalay) ABSTRACT This study focuses on S-wave velocity structures in Yangon City, Myanmar, where the seismic safety of constructions is insufficient while strong ground shaking due to earthquakes nearby are expected in the near future. In this study, we investigated underground structures based on the horizontal-to-vertical spectral ratios (HVRs) of single-station microtremors as well as phase velocity estimated by array measurement of microtremors inside Yangon City, which can be used to simulate strong ground motions during future crustal earthquakes or used as information for microzonation studies. Microtremor explorations were conducted at 27 sites including one array site at the ground of University of Yangon. The observed results showed the consistent HVR peaks for the fundamental mode in the lower frequencies ranging from 0.7 to 1.3 Hz, while they showed also the other peaks at higher frequencies ranging from 20 to 40 Hz. The final S-wave velocity structures showed that the topmost layer may have a thickness of 1 to 2m with the S-wave velocity of 140m/s and that the 5 th deepest layer exists at around 100m below the surface throughout the observed area, as the engineering bedrock with the S-wave velocity of 800m/s. Keywords: S-wave velocity, horizontal-to-vertical ratio, microtremors, array measurement, Yangon - 58 -