相続税・贈与税の基礎と近年の改正点

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[2] 税率構造の見直し 相続税の税率構造が現行の6 段階から8 段階に変更されるとともに 最高税率が 50% から 55% に引き上げられることとなりました ただし 各法定相続人の取得金額が2 億円以下の場合の税率は と変わりありません この改正は 平成 27 年 1 月 1 日以後に相続または遺

平成 25 年度税制改正解説相続税 ~ 基礎控除の引き下げ 税率構造の見直し等 法定相続人の数と基礎控除法定相続人の数と基礎控除 法定相続人の数 1 人 2 人 3 人 4 人 5 人 60,000 千円 70,000 千円 80,000 千円 90,000 千円 100,000 千円 36,000

相続税の節税対策としての生前贈与 相続税 贈与税はともに相手に渡る財産の金額に対して累進的な税率により税金がかかりま す そこで 相続税の税率よりも低い税率で贈与をすれば 相続税の節税になります 下の 図で相続税と贈与税税率を確認して下さい 贈与税は 相続税に比べ 基礎控除額が低く さらに税率が高く

2015 年 1 月いよいよ施行! 相続税増税の影響と対策 Part 1 相続税はどう変わる? 影響は? Part 2 相続税の負担を軽減するには?

(2) みなし相続財産ものか13 第1 章12 2 課税される 相続財産 の範囲 海外にある財産も課税対象となる 贈与税の暦年課税適用財産も 3 年以内は課税対象となる 葬式費用 墓地や墓碑 仏壇 仏具等は非課税 相続税の課税対象となる相続財産は (1) 被相続人が亡くなったときに所有していた財産

目 次 最近における相続税の課税割合 負担割合及び税収の推移 1 地価公示価格指数と基礎控除(58 年 =100) の推移 2 最近における相続税の税率構造の推移 3 小規模宅地等の課税の特例の推移 4 相続税負担の推移( 東京都区部のケース ) 5 ( 補足資料 ) 相続税の概要 6 相続税の仕組

ラリーマン 相続税の申告は? 45 相続税の申告はどのようにすればよいのでしょうか 相続が開始したことを知った日 ( 通常は被相続人が死亡した日 ) の翌日から 10 か月以内に 被相続人の住所 地の所轄税務署に申告し 相続税を納付する必要があります 申告書を提出する人が 2 名以上いる場合は 共同

第 5 章 N

おき 太郎様 Inheritance Report 相続診断書 税理士法人おき会計 平成 28 年 7 月 20 日作成

(1) 相続税の納税猶予制度の概要 項目 納税猶予対象資産 ( 特定事業用資産 ) 納税猶予額 被相続人の要件 内容 被相続人の事業 ( 不動産貸付事業等を除く ) の用に供されていた次の資産 1 土地 ( 面積 400 m2までの部分に限る ) 2 建物 ( 床面積 800 m2までの部分に限る

Microsoft Word - 第53号 相続税、贈与税に関する税制改正大綱の内容

東京太郎様 Inheritance Report 相続診断書 弁護士法人 税理士法人リーガル東京 平成 30 年 8 月 20 日作成

土地の譲渡に対する課税 農地に限らず 土地を売却し 譲渡益が発生すると その譲渡益に対して所得税又は法人税などが課税される 個人 ( 所得税 ) 税額 = 譲渡所得金額 15%( ) 譲渡所得金額 = 譲渡収入金額 - ( 取得費 + 譲渡費用 ) 取得後 5 年以内に土地を売却した場合の税率は30

テキスト編 第 1 章相続税 贈与税とはなにか 目次 1 相続税が課税される理由 1 2 どれくらいの遺産がある場合 相続税は課税されるか 2 3 贈与税が課税される理由 3 4 相続税と贈与税の関係 4 第 2 章相続人と相続分 1 相続人と相続順位 5 2 相続の承認と放棄 14 3 相続人の相

税法入門コース 相続税 学習スケジュール 回数学習テーマ内容 第 1 回 第 2 回 第 3 回 第 4 回 第 4 回 第 1 章 第 2 章 第 2 章 第 3 章 第 4 章 第 4 章 第 5 章 テーマ 1 相続税 贈与税とは? テーマ 2 用語の説明 テーマ 1 相続人となれる人は? テ

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一戸建ての自宅を所有している人のデータ 東京都内やその近郊など路線価の高い宅地に一戸建ての自宅を所有し その他に預貯金や有価証券を保有している人の相続税シミュレーションになります 路線価が高いと自宅の敷地の面積が広くなくても その宅地の評価額は高額になりますので この宅地に対して小規模宅地等の特例が

住宅取得等資金贈与の非課税特例 教育資金一括贈与の非課税特例 結婚 子育て資金贈与の非課税特例 相続時精算課税制度 贈与者 贈与年の 1 月 1 日現在で 60 歳以上の父母または祖父母 受贈者 贈与者の直系卑属 ( 子 孫 ひ孫等 ) で贈与の年の 1 月 1 日現在 20 歳以上 受贈年の合計所

未成年者控除 障害者控除の見直し 未成年者控除 障害者控除 6 万円 20 歳に達するまでの年数 6 万円 ( 特別障害者 :12 万円 ) 85 歳に達するまでの年数 10 万円 20 歳に達するまでの年数 10 万円 ( 特別障害者 :20 万円 ) 85 歳に達するまでの年数 小規模宅地等につ

相続税 贈与税の基本がよくわかる! 誰が相続人になるの? 税額はどのようにして求めるの? 土地 建物の評価はどうするの? 住宅取得資金の贈与は最大 3,000 万円が非課税に? 教育資金や結婚 子育て資金の贈与は非課税に? 新しくできる配偶者居住権ってどんなもの? etc.

2. 二世帯住宅と特定居住用宅地等 [1] 区分所有なし : 外階段 / 親族が取得する場合 Q. 被相続人 A が所有する宅地の上に A の所有する建物があり 1 階に A が居住し 2 階に子 B とその家族が居住しています ( 建物内部では行き来ができない構造 ) A と B は別生計です こ

経 ViewPoint 営相談 相続時における小規模宅地等の特例の改正 谷口敬三相談部東京相談室 小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例 ( 以下 小規模宅地等の特例 ) は 一定の要件を満たす宅地等 ( 特定事業用等宅地等 特定居住用宅地等 貸付事業用宅地等 ) につ

(2) 父母 ( 祖父母 ) から子 ( 孫 ) への住宅取得等資金の贈不 父母 ( 祖父母 ) など直系尊属から その子 ( 孫 ) へ居住用の家屋の新築 取得または増改築のための金銭 ( 住宅取得等資金 ) を贈不した場合 表の通りの金額について贈不税が非課税となります また 贈不税の基礎控除

Microsoft Word - 第67号 来年からの贈与税改正と相続時精算課税を選択する際の注意点

相続税計算 例 不動産等の評価財産の課税評価額が 4 億 8 千万円 生命保険金の受取額が 2 千万円 現金 預金等が 4 千万円 ローン等の債務及び葬式費用等が 3 千万円である場合の相続税を計算します 相続人は妻と 2 人の子供の 3 人です ( 評価額を計算するには専門知識を要します 必ず概算

給与所得控除額の改正前後の比較 改正前 改正後 給与等の収入金額給与所得控除額給与等の収入金額給与所得控除額 180 万円以下 収入金額 40% 65 万円に満たない場合は 65 万円 180 万円以下 収入金額 40%-10 万円 55 万円に満たない場合は 55 万円 180 万円超 360 万

住宅取得等資金の贈与に係る贈与税の非課税制度の改正

2011年税制改正のポイント

相続税に関するチェックリスト

13. 平成 29 年 4 月に中古住宅とその敷地を取得した場合 当該敷地の取得に係る不動産取得税の税額から 1/2 に相当する額が減額される 14. 家屋の改築により家屋の取得とみなされた場合 当該改築により増加した価格を課税標準として不動産 取得税が課税される 15. 不動産取得税は 相続 贈与

Microsoft Word 常発041号 改正相続税法等の周知について(・

自宅の他に賃貸マンションと駐車場を所有している人のデータ 自宅の他に賃貸マンションと駐車場を所有している人の 法定相続人の数と相続財産および債務のデータから相続税を試算します 賃貸マンションについては全室が賃貸用かどうか 駐車場については舗装がしてあるかどうかで評価額が違ってくることがあります また

暦年課税の贈与を毎年する人のデータ 暦年課税の贈与は 現金を贈与するのか不動産を贈与するのかで違ってきます 土地は路線価方式または倍率方式で評価し建物は固定資産税評価額で評価しますので 現金での贈与の場合よりも税率は低くなります ただし不動産の贈与では 土地や建物の贈与または共有持分の贈与になります

配偶者がいる人の一次相続と二次相続のデータ 被相続人に配偶者がいる一次相続と 配偶者がいない二次相続の相続税シミュレーションを行います 配偶者の税額軽減は その節税効果が大きいために一次相続で相続税を大幅に減額することができますが 次の二次相続では想定外の相続税が発生することがあります 配偶者がいる

平成16年版 真島のわかる社労士

2 税額控除等の計算 ( 単位 : 円 ) 項目対象者計算過程金額 答案用紙 Chapter2 問題 3 課税価格の計算 Ⅰ 相続人及び受遺者の相続税の課税価格の計算 1 分割財産価額の計算 ( 単位 : 千円 ) 2 みなし取得財産価額の計算 ( 単位 : 千円 ) 取得者財産の種類計算過程金額

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コピー又は web からダウンロードしてご使用ください 答案用紙 Chapter1 問題 1 個人とみなされる納税義務者 Ⅰ 相続人及び受遺者の相続税の課税価格の計算 1 遺贈財産価額の計算 ( 単位 : 千円 ) 取得者財産の種類計算過程金額 2 生前贈与加算される贈与財産の額の計算 ( 単位 :

法人会の税制改正に関する提言の主な実現事項 ( 速報版 ) 本年 1 月 29 日に 平成 25 年度税制改正大綱 が閣議決定されました 平成 25 年度税制改正では 成長と富の創出 の実現に向けた税制上の措置が講じられるともに 社会保障と税の一体改革 を着実に実施するため 所得税 資産税についても

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税制改正を踏まえた生前贈与方法の検討<訂正版>

小規模宅地等の評価減の特例 1. 概要 居住用や事業用宅地を相続した場合 小規模とされる一定面積までを 50%~80% 評価減できる特例があります ( 措置法 69 条の 4) 区分宅地の区分事業や居住の見込減額割合対象面積 1 号特例特定事業用等宅地等 1 親族が相続して事業を継続 80% 400

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配偶者の税額軽減特例の有利な受け方 配偶者がいる場合の 相続税の具体的な計算例は以下の通りです 1. 設例 自宅 預貯金等の相続財産の遺産額 =2 億円 法定相続人 = 配偶者 + 子 2 人の合計 3 人 実際の遺産分割は 法定相続分の通りとする 未成年者控除 外国税額控除 生命保険金の非課税枠金

である 12 遺留分とは 遺言の内容にかかわらず一定の相続人が確実に受け取ることができる一定の 割合のことである 直系尊属のみが相続人である場合は 被相続人の財産の 1/3 その 他の場合には 被相続人の財産の 1/2 である ただし 兄弟姉妹には遺留分はない 13 相続の放棄は 被相続人の生前に行

12. 小規模宅地等の特例の見直し 1. 改正のポイント (3) 適用時期平成 30 年 4 月 1 日以後に相続又は遺贈により取得する宅地等に係る相続税について適用される ただし (2)1 の改正について 平成 30 年 3 月 31 日においての別居親族の要件を満たしていた宅地等を平成 32 年

相続財産の評価P64~75

4.住宅取得等資金の非課税の適用を受ける場合編

野村資本市場研究所|顕著に現れた相続税制改正の影響-課税対象者は8割増、課税割合は過去最高の8%へ-(PDF)

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平成 31 年度住宅関連税制改正の概要 ( 一社 ) 住宅生産団体連合会 平成 31 年 3 月 (1) 住宅ローン減税の拡充 ( 所得税 個人住民税 ) 消費税率 10% が適用される住宅取得等をして 2019 年 10 月 1 日から 2020 年 12 月 31 日までの間にその者の居住の用に

(3) 年金所得者公的年金等の収入金額が400 万円以下であり かつ その公的年金等の全部が源泉徴収の対象となる場合において公的年金等に係る雑所得以外の所得金額が20 万円以下である場合には 確定申告の必要はありません また 上記 (2) 又は (3) に該当する方であっても 医療費控除や住宅借入金

1. 相続税 (1) 基礎控除額の引き下げ 1) 改正の趣旨現在 ( ) の相続税の仕組みは 下図の通りです すなわち 合計課税価格から 基礎控除額を除いた課税遺産総額が相続税の計算の対象となるため 合計課税価格が基礎控除額の範囲内である場合には 相続税が課税されません その結果として 現状の相続税

4.住宅取得等資金の非課税の適用を受ける場合編

Microsoft Word - 東日本大震災により被害を受けた場合の相続税・贈与税の取扱い

2.配偶者控除の特例の適用を受ける場合(暦年課税)編

[2] 株式の場合 (1) 発行会社以外に譲渡した場合株式の譲渡による譲渡所得は 上記の 不動産の場合 と同様に 譲渡収入から取得費および譲渡費用を控除した金額とされます (2) 発行会社に譲渡した場合株式を発行会社に譲渡した場合は 一定の場合を除いて 売却価格を 資本金等の払戻し と 留保利益の分

102 第 4 章 農業 農地の承継時の特例 資価格は 国税庁 HPの路線価ページから確認できます なお 平成 30 年度税制改正において 対象となる農地の範囲等が改正されました 詳細は 後記 6を参照してください 3 適用要件 (1) 被相続人この特例の対象となる被相続人は 次のいずれかに該当する

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1.一般の贈与の場合(暦年課税)編

第 6 回令和元年度固定資産評価実務者勉強会 第 3 部 税理士による最近の各種課税評価に関するお話 講師 : 税理士 不動産鑑定士 赤川明彦 ( 株式会社土地評価センター取締役 ) copyright 2019 KOTOBUKI PROPERTY ASSESSMENT all rights res

2.配偶者控除の特例の適用を受ける場合(暦年課税)編

5 適用手続 ⑴ 相続時精算課税の適用を受けようとする受贈者は 贈与を受けた財産に係る贈与税の申告期間内に 相続時精算課税選択届出書 ( 贈与者ごとに作成が必要 ) を贈与税の申告書に添付して 納税地の所轄税務署長に提出する ( 相法 21の92) なお 提出された当該届出書は撤回することができない

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2.配偶者控除の特例の適用を受ける場合(暦年課税)編

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3.相続時精算課税の適用を受ける場合編

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土地建物等の譲渡損失は 同じ年の他の土地建物等の譲渡益から差し引くことができます 差し引き後に残った譲渡益については 下記の < 計算式 2> の計算を行います なお 譲渡益から引ききれずに残ってしまった譲渡損失は 原則として 土地建物等の譲渡所得以外のその年の所得から差し引くこと ( 損益通算 )

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個人版事業承継税制の創設について 現行税制上の事業承継支援特例を踏まえた検討

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このうち 申告納税額がある方 ( 納税人員 ) は640 万 8 千人で は41 兆 4,298 億円 申告納税額は3 兆 2,037 億円となっており 平成 28 年分と比較すると 人数 (+0.6%) (+ 3.4%) 及び申告納税額 (+4.6%) はいずれも増加しました 所得者区分別の状況イ

相続税を計算してみましょう!

スライド 1

税金のいろいろ所得税の計算の税金サラリーマン20 生活の税金株式の税金事業の税金不動産の税金贈与の税金相続の税金(2) 適用を受けるための主な要件 取得又は増改築等をした日から6か月以内に居住すること 住宅の床面積が50m 2 以上で取得又は増改築後の家屋の床面積の1/2 以上が居住用であること 中

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2011年度税制改正大綱(相続・贈与税)

1. 贈与税のながれ はじめに行う作業 1 データの 新規追加 2 税理士登録 3 受贈者登録 4 贈与者登録 贈与税申告書の作成 5 贈与税申告書 の作成 その他の帳票作成 印刷 6 税務代理権限証書 の作成 印刷 2

事業承継税制の概要 事業承継税制は である受贈者 相続人等が 円滑化法の認定を受けている非上場会社の株式等を贈与又は相続等により取得した場合において その非上場株式等に係る贈与税 相続税について 一定の要件のもと その納税を猶予し の死亡等により 納税が猶予されている贈与税 相続税の納付が免除される

この特例は居住期間が短期間でも その家屋がその人の日常の生活状況などから 生活の本拠として居住しているものであれば適用が受けられます ただし 次のような場合には 適用はありません 1 居住用財産の特例の適用を受けるためのみの目的で入居した場合 2 自己の居住用家屋の新築期間中や改築期間中だけの仮住い

問題 1 1 問題 1 1 納税義務者 相続税の納税義務者及び課税財産の範囲 課税価格 1 納税義務者 ⑴ 次に掲げる者は 相続税を納める義務がある 1 居住無制限納税義務者 ( 法 1 の 3 1 一 ) 相続又は遺贈により財産を取得した個人でその財産を取得した時において法施行地に住所を有するもの

注 1 認定住宅とは 認定長期優良住宅及び認定低炭素住宅をいう 注 2 平成 26 年 4 月から平成 29 年 12 月までの欄の金額は 認定住宅の対価の額又は費用の額に含まれる消費税等の税率が 8% 又は 10% である場合の金額であり それ以外の場合における借入限度額は 3,000 万円とする

1 検査の背景 (1) 租税特別措置の趣旨及び租税特別措置を取り巻く状況租税特別措置 ( 以下 特別措置 という ) は 租税特別措置法 ( 昭和 32 年法律第 26 号 ) に基づき 特定の個人や企業の税負担を軽減することなどにより 国による特定の政策目的を実現するための特別な政策手段であるとさ

5 配偶者控除等 配偶者控除 配偶者特別控除 扶養控除及び勤労学生控除の合計所得金額の要件 について 一律 10 万円ずつ引き上げられます 6 青色申告特別控除正規の簿記の原則により記帳している者に係る控除額が 55 万円に引き下げられ 正規の簿記の原則により記帳し かつ e5tax 等により確定申

事業承継関連税制について 関東経済産業局 平成 30 年 6 月 中小企業金融課


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( 相続時精算課税適用者の死亡後に特定贈与者が死亡した場合 ) (6) 相続時精算課税適用者 ( 相続税法第 21 条の9 第 5 項に規定する 相続時精算課税適用者 をいう 以下 (6) において同じ ) の死亡後に当該相続時精算課税適用者に係る特定贈与者 ( 同条第 5 項に規定する 特定贈与者

契約をするとき 契約書に貼る印紙税不動産取引で取り交わす契約書は 印紙税の対象となります 具体的には 不動産の売買契約書や建物の建築請負契約書 土地賃貸借契約書 ローン借入時の金銭消費貸借契約書等がこれに当たります 印紙税の額は 契約書に記載された金額によって決定されます 原則として 収入印紙を課税

所得税確定申告セミナー

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事例 父 ( ) が 年 5 月 9 日に亡くなり ( 亡くなられた人のことを 被相続人 といいます ) 母 ( 国税花子 ) 私 ( 国税一郎 ) 妹 ( 税務幸子 ) の 人で父の財産を相続しました 父が残した財産は 自宅のある土地と家屋 上場株式 現金 預金 生命保険金です 父が亡くなった年分

事業承継税制の全体像は ( 図表 1) の通りである ( 図表 1) 事業承継税制の全体像 経営者 1 代目 経営者 2 代目 一括贈与 大臣認定 贈与税の課税 贈与税の納税猶予の適用 相続税の納税猶予制度と同様 雇用確保を含む 5 年間の事業継続を行い その後も株式を継続保有 生前贈与により株式の

相続人の居住用または事業用の宅地については2 割または5 割評価にするという小規模宅地等の評価減の特例があるが 平成 22 年度税制改正により 原則として申告期限まで居住または事業を継続していなければ適用が認められなくなっている 今回 基礎控除額が引き下げられることと合わせ 都市部の独居老人が亡くな

Transcription:

平成 30 年 9 月 22 日 相続税 贈与税の基礎と 近年の改正点 拓殖大学商学部袴田裕二

1. 相続税

相続税の課税割合 (%) 10.0 8.0 6.0 8.0 8.1 4.0 2.0 0.0 4.1 4.2 4.1 4.2 4.3 4.4 21 年 22 年 23 年 24 年 25 年 26 年 27 年 28 年 出典 : 国税庁 HP 平成 29 年 12 月平成 28 年分の相続税の申告状況について

27 年 1 月 1 日からの主な改正点 基礎控除額 改正前 : 5,000 万円 +1,000 万円 法定相続人の数 改正後 : 3,000 万円 + 600 万円 法定相続人の数 法定相続人が配偶者と子二人の場合 改正前 :5,000 万円 +1,000 万円 3 人 =8,000 万円 改正後 :3,000 万円 + 600 万円 3 人 =4,800 万円

法定相続人と優先順位 第一順位 配偶者あり 配偶者 1/2 子 1/2 配偶者なし 子がすべて相続 第二順位 配偶者 2/3 父母 ( 祖父母 ) 1/3 父母 ( 祖父母 ) が すべて相続 第三順位 配偶者 3/4 兄弟姉妹 1/4 兄弟姉妹が すべて相続

基礎控除金額 ( 計算例 ) 被相続人 ( 亡くなった人 ) 配偶者 1/2 被相続人 ( 亡くなった人 ) ( ) 子 (A)1/4 子 (B)1/4 子 (A)1/2 子 (B) 1/2 基礎控除額 =3,000 万円 +600 万円 3 =4,800 万円 基礎控除額 =3,000 万円 +600 万円 2 =4,200 万円

基礎控除正味の遺産額相続税の計算 第一段階 : 正味の遺産額から基礎控除額を引く 1 本来の相続財産 ( 非課税財産を除く ) + 2 みなし相続財産 ( 保険金等 ) + 3 3 年以内の贈与財産 - 4 債務 葬式費用 マイナス

( 計算例 ) 正味の遺産額 12,000 万円 法定相続人が配偶者 (A) 子 (B C D) の場合 : 課税遺産額 =12,000 万円 -(3,000 万円 +600 万円 4) = 6,600 万円

第二段階 : 各相続人の法定相続分に税率を適用し その額の合計額を計算する 取得金額 税率 控除額 1,000 万円以下 10% ー 1,000 万円超 3,000 万円以下 15% 50 万円 3,000 万円超 5,000 万円以下 20% 200 万円 5,000 万円超 1 億円以下 30% 700 万円 1 億円超 2 億円以下 40% 1,700 万円 2 億円超 3 億円以下 45% 2,700 万円 3 億円超 6 億円以下 50% 4,200 万円 6 億円超 55% 7,200 万円

( 計算例 ) 法定相続分は 配偶者 3,300 万円 (1/2) 子は各 1,100 万円 (1/6) ずつ 税率を適用すると 配偶者 : 3,300 万円 20%-200 万円 =460 万円子 : 1,100 万円 15%-50 万円 =115 万円合計は 460 万円 +115 万円 3=805 万円

第三段階 合計額を相続割合で案分 ( 比例配分 ) する ( 計算例 ) 実際の遺産分割が Aは6,000 万円 (50%) Bは2,400 万円 (20%) C と D は各 1,800 万円 (15%) の場合 納付する税額は 配偶者 : 805 万円 50%=4,025,000 円 B : 805 万円 20%=1,610,000 円 C と D : 805 万円 15%=1,207,500 円

財産の評価 ( 主なもの ) 土地 路線価方式 ( 倍率方式 ) 建物 固定資産税評価額で評価 株式 上場株式の場合最終価格の平均値

土地の評価 路線価方式 出典 : 国税庁タックスアンサー

上場株式の評価 原則として 次の三つの価額のうち最も低い価額により評価する 1 課税時期の月の毎日の最終価格の平均額 2 課税時期の月の前月の毎日の最終価格の平均額 3 課税時期の月の前々月の毎日の最終価格の平均額

申告の際のポイント ( 主な軽減制度 ) 配偶者の税額の軽減 保険金の非課税限度額 小規模宅地の特例 地積規模の大きな宅地の評価

配偶者の税額の軽減 申告時にこの制度を選択すれば 被相続人の配偶者が遺産分割や遺贈により実際に取得した正味の遺産額が 次の金額のどちらか多い金額までは配偶者に相続税はかからない (1) 1 億 6 千万円 (2) 配偶者の法定相続分相当額 ( 但し 二次相続が大変にならないように注意!)

保険金の非課税限度額 相続により相続人が得た生命保険金などの金 額 ( 被相続人が保険料を負担していた部分 ) は 500 万円 法定相続人の数 まで非課税になる

小規模宅地の特例 宅地等の種類 限度面積減額割合 居住用 特定居住用宅地等 330m2 80% 特定事業用宅地等事業用特定同族会社事業用宅地等 400m2 80% 貸付事業用宅地等 200m2 50% ( 注 1) 限度面積までの部分に限り 特例を受けることができる ( 注 2) 貸付事業とは 不動産貸付業 駐車場業など

小規模宅地の特例 ( 主な条件 ) 特定居住用宅地等の要件 (1) 被相続人の配偶者 (2) 同居していた親族 (3) 相続開始前 3 年以内に自己または配偶者の所有する家屋 三親等内の親族が所有する家屋 または特別の関係にある法人の所有する家屋のいずれにも居住したことがない者 ( 下線部分は平成 30 年 4 月 1 日以後の相続 遺贈から )

小規模宅地の特例 ( 主な条件 ) 貸付事業用宅地の要件 相続開始前 3 年以内に新たに貸付事業の用に供さ れたものが除かれた ( 平成 30 年 4 月 1 日以後の相続 遺贈から )

地積の大きな宅地の評価 ( 三大都市圏は 500 m2以上 それ以外は 1,000 m2以上 ) ( 三大都市圏の場合 ) 500 m2以上の宅地の場合 路線価の計算の中で 規模格差補正率 を掛けることができる ( 平成 30 年 1 月の課税期間から ) 規模格差補正率 (A) (B) + (C) = 対象の宅地の地積 (A) 0.8 B C 500m2以上 1,000m2未満 0.95 25 1,000m2以上 3,000m2未満 0.90 75 3,000m2以上 5,000m2未満 0.85 225 5,000m2以上 0.80 470

( 計算例 ) 1,000 m2の宅地の場合 (1,000 0.9)+75 1,000 m2 0.8 = 0.78 1,000 m2 500 m2以上 1,000 m2未満 0.95 25 1,000 m2以上 3,000 m2未満 0.90 75 3,000 m2以上 5,000 m2未満 0.85 225 5,000 m2以上 0.80 470 B C

相続税の申告期限 相続税の申告期限は 相続の開始を知った日の翌日から10か月以内 遺産分割がされていない場合は 法定相続分で財産を取得したものとして課税価格を計算することとされている ( 相法 55 条 ) 配偶者控除や小規模宅地の特例などは 相続税の申告書を提出 することが必要 これらの特例により相続税額がゼロになる場合 でも 相続税の申告書を提出しなければならない

2. 贈与税

贈与税の概要 ( 暦年課税 ) 贈与税額 一年間の贈与財産の合計額 基礎控除額 110 万円 税率 控除額 ( 一般税率 ) 基礎控除後の課税価格 200 万円以下 300 万円以下 400 万円以下 600 万円以下 1,000 万円以下 1,500 万円以下 3,000 万円以下 3,000 万円超 税率 10% 15% 20% 30% 40% 45% 50% 55% 控除額 - 10 万円 25 万円 65 万円 125 万円 175 万円 250 万円 400 万円 ( 例 ) 贈与財産の合計額が 510 万円のとき (510 万円 -110 万円 ) 20%-25 万円 =55 万円

贈与税についての注意点 子供名義で預金口座を作り 子供の知らないところで 毎年 110 万円ずつ自分 ( 親 ) の口座から子の口座へ資金を移していました 毎年贈与をしていたことになりますか 子供が贈与があったことを知らない場合には 贈与があったこ とにはなりません 通帳や印鑑を親が管理している場合も 贈与 をしていないと認定される可能性があります

配偶者控除 20 年以上結婚していた夫婦の間で居住用不動産又は居住用不動産の購入資金の贈与があったときには 贈与税の申告等をすれば 基礎控除 110 万円のほかに最高 2,000 万円の配偶者控除を受けることができる この配偶者控除は 同じ配偶者間において一生に一度しか受けられない

住宅取得の際の贈与税の特例 平成 33 年 12 月までの間に父母や祖父母などから住宅取得等のための金銭の贈与を受けた場合 一定の要件を満せば 表の非課税限度額までの金額につき 贈与税が非課税になる 省エネ等住宅 それ以外の住宅 平成 28 年 1 月 ~ 平成 32 年 3 月 1,200 万円 700 万円 平成 32 年 4 月 ~ 平成 33 年 3 月 1,000 万円 500 万円 平成 33 年 4 月 ~ 平成 33 年 12 月 800 万円 300 万円

教育資金の一括贈与についての贈与税の非課税 平成 31 年 3 月末までに 30 歳未満の子や孫が 教育資金に充てるため 金融機関等との教育資金管理契約に基づき 祖父母や父母から贈与を受けて銀行等に預入をした場合などには 子や孫ごとに1,500 万円までが非課税となる 贈与を受けた子や孫が30 歳に達した場合などには 教育資金管理契約は終了し 残額がある場合には 契約の終了の日の属する年の贈与税の課税価格に算入される

結婚 子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税 平成 31 年 3 月末までの間に 20 歳以上 50 歳未満の子などが 結婚 子育て資金に充てるため 金融機関等との結婚 子育て資金管理契約に基づき 父母や祖父母から金銭等の贈与を受けて銀行等に預け入れをした場合などには 子などごとに金銭等の価額のうち 1,000 万円までが非課税となる

贈与税の概要 ( 相続時精算課税制度 ) 父母や祖父母 (60 歳以上 ) が 子や孫 (20 歳以上 ) に贈与をする際 相続時精算課税制度を選べば 1 贈与は2,500 万円まで非課税になり 2,500 万円を超えた部分は20% の税率で課税 2 贈与者が亡くなったときに 贈与した財産を加えて相続税を計算 贈与時に納税した税額は相続税から控除される 一度この相続時精算課税を選択すると その後 同じ贈与者からの贈与について 暦年課税 へ変更することができない点に注意

企業承継税制 ( 贈与税の猶予制度 ( 特例措置 )) 後継者が贈与により取得した株式等に係る贈与税が猶予される 都道府県知事の 認定 を受け 原則として5 年間は代表者として経営を行う等の要件を満たす必要がある 先代経営者 後継者が死亡した場合 次の後継者に贈与した場合などでは 猶予された贈与税が免除される ( 注 ) 中小企業庁 HP 参照 (http://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/2018/shoukei_manual_1.pdf)

企業承継税制 ( 相続税の猶予制度 ( 特例措置 )) 後継者が相続又は遺贈により取得した株式等に係る相続税が猶予される 都道府県知事の 認定 を受け 原則として5 年間は代表者として経営を行う等の要件を満たす必要がある 後継者が死亡した場合 次の後継者に贈与した場合などでは 猶予された相続税が免除される ( 注 ) 中小企業庁 HP 参照 (http://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/2018/shoukei_manual_1.pdf)

企業承継税制 30 年改正 ( 特例措置 ) のポイント 対象株式数の上限を撤廃 (2/3 100%) 猶予割合を80% から 100% に拡大することで 事業承継時の贈与税 相続税の現金負担をゼロにする 改正前は 一人の先代経営者から一人の後継者へ贈与 相続 される場合のみが対象だった 改正で 親族外を含む複数の株 主から 代表者である後継者 ( 最大 3 人 ) への承継も対象に

居住用財産 ( 空き家 ) に係る譲渡所得の特別控除の特例 ( 平成 28 年度税制改正 ) 相続税 贈与税ではないですが ( 所得税の特例 ) 相続 遺贈により取得した被相続人居住用家屋又は敷地等を 平成 31 年 12 月までの間に売って 一定の要件に当てはまるときは 譲渡所得の金額から最高 3,000 万円まで控除できる 1 相続の開始日から3 年を経過する日の属する年の12 月末までに売却 2 売却代金が1 億円以下 などが要件 取得原価は 相続税の評価額ではなく 被相続人の取得原価になる

おことわり 今日の説明は さまざまな制度の紹介が目的でしたので 適用条件など細部については説明しておりません 実際の適用に際しましては 税理士などの専門家に適用条件等を確認するなど よくご確認くださるようお願いいたします