第 6 節砂防施設の復旧 1 被害の特徴 震度 7の地震により中山間地を中心に地盤災害受け 地すべりや斜面崩壊などの土砂災害が多数発生し 空中写真から判読された斜面崩壊箇所数は3,791 箇所 うち362 箇所は崩壊幅 50m 以上の大規模崩壊であった また 芋川をはじめとして地震によって崩れた土砂が河道を閉塞した現象が多数発生した さらには 住宅宅地の擁壁等が転倒 倒壊したり クラックが発生するなどの被害が多数生じ 小規模な宅地地盤の被災も多数発生した 2 復旧対策の特徴 土石流や地すべり がけ崩れの発生箇所においては 再度災害の防止と民生の安定を確保する必要から以下の事業対応を行った また 多数発生した宅地擁壁等の崩壊災害に対しては 特例措置により補助要件が緩和されて対策を行った 復旧工事種別 1 公共土木施設災害復旧工事 * 県事業 2 災害関連緊急事業 ( 砂防施設 地すべり防止施設 急傾斜崩壊防止施設 ) * 県事業 3 災害関連地域防災がけ崩れ対策事業 * 市町村事業 4 小規模急傾斜地崩壊対策工事 * 表 5-6-1 災害関連緊急事業 事業 箇所数 事業費 災害関連緊急砂防事業 6 20.2 災害関連緊急地すべり事業 52 174.4 災害関連緊急急傾斜地崩壊対策事業 13 26.7 災害関連緊急急傾斜地崩壊対策事業 ( 特例 ) 7 6.5 合計 78 227.8 ( 億円 ) 特例 : 補助要件を緩和し, 宅地擁壁に特例適用が認められた. 3 砂防設備等の復旧事例 表 5-6-2 市町村事業 事業 箇所数 事業費 災害関連地域防災がけ崩れ対策事業 20 6.8 災害関連地域防災がけ崩れ対策事業 ( 特例 ) 22 4.0 小規模急傾斜地崩壊対策事業 184 11.9 合計 226 22.7 ( 億円 ) 災害関連地域防災がけ崩れ対策事業 [ 小規模ながけ崩れ災害箇所 ( 保全対象人 家 2 戸 ~4 戸 ) について実施する市町村事業を県が補助 (90%, ただし国からの 間接補助が 50% あり )] 特例 : 補助要件を緩和し, 高さ 3m 以上の宅地擁壁に特例適用が認められた. 地震により被災した砂防設備等を 公共土木施設災害復旧事業により復旧した 施設区分 事業箇所 決定額 ( 百万円 ) 砂防設備 油夫川 ( 山古志村 ) など計 40 箇所 1,991 地すべり防止施設 川口 ( 川口町 ) など 計 21 箇所 558 急傾斜地崩壊防止施設 薭生 ( 小千谷市 ) など 計 13 箇所 556 計 74 箇所 3,105 5-111
(1) 油夫川砂防災害復旧事業の事例一級河川朝日川の左支渓流油夫川では 地すべりに伴う崩壊土砂により砂防施設災害が発生し 砂防施設 ( 砂防えん堤 4 基 床固工 3 基 計 7 基 ) が完全に埋塞した 崩壊土砂量は約 23 万m3と推定され 流路延長約 1.1km の流路が閉塞した 堆砂の深さは深いところで15.0m 以上と推定され 掘削を伴う原形復旧工事が極めて困難であるため 現在 これら崩壊土砂の下流への流出を防止するためにいくつかの砂防対策を進めている 工事概要砂防えん堤 1 基 (H=14.5m,W=121.0m) 床固工 18 基盛土工 350,000m 3 堰堤 H=9.0m 山古志中学校 床固工 H=3.0m 堰堤 H=10.0m 堰堤 H=14.0m 山古志村役場 油夫川 写真 5-6-1 油夫川の崩壊斜め写真 写真 5-6-2 7 砂防えん堤 H=9.0m 上 : 県砂防台帳写真より ( 被災前撮影 ) 下 : 完全に埋塞している状況 (H16.12.7 撮影 ) 写真 5-6-3 砂防えん堤施工状況 ( 高さ 14.5m, 幅 121.0m) 写真 5-6-4 床固工 (5,6,7 群 ) 5-112
4 地すべり対策施設の復旧事例 (1) 虫亀地区 ( 長岡市 ) 工事概要開渠工 114m 大型ふとん籠工 37m 横孔ボーリング工 250m 写真 5-6-5 虫亀地区 (2) 村中地区 ( 長岡市 ) 工事概要横孔ボーリング工 6 群排水路工 77m 写真 5-6-6 虫亀地区 写真 5-6-7 村中地区 5 急傾斜地崩壊防止施設の復旧事例 (1) 浦ノ山地区 ( 小千谷市 ) 工事概要アンカー工 51 本 写真 5-6-8 村中地区 写真 5-6-9 浦ノ山地区 写真 5-6-10 浦ノ山地区 5-113
(2) 樽沢雪崩予防柵 ( 十日町市 ) 工事概要雪崩予防柵 2 基 写真 5-6-11 樽沢雪崩予防策 写真 5-6-12 樽沢雪崩予防策 6 災害関連緊急砂防事業の事例 (1) 法師ヶ沢川災害関連緊急砂防事業の事例中越地震により 小千谷市小栗山地内を流れる法師ヶ沢川本川上流部と下流にて合流する支川に沿って複数の斜面崩壊が発生し 河道内に土砂が流入 堆積した この河道内の不安定土塊が土石流となり下流域の寺沢地区に流出し 人家 4 戸が破損 国道 291 号上に堆積し 一時通行止めとなった 工事概要砂防えん堤 2 基 ( 本川 :H=14.0m,L=108m) ( 支川 :H= 9.0m,L=50.0m) 床固工 2 基 写真 5-6-13 法師ヶ沢川崩壊状況 ( 小千谷市小栗山地区 H16.10.26 撮影 ) 写真 5-6-14 本川えん堤等 (H18.12.25 撮影 ) 5-114
(2) 相川川災害関連緊急砂防事業の事例当河川は川口町の魚野川左岸側に位置する砂防指定の一級河川である 中越地震により右岸川斜面で発生した地すべり土塊が県道山の相川内ヶ巻停車場線を乗り越え 相川川に達した これにより 既設砂防えん堤 1 基を巻き込んだ河道閉塞による土石流発生により被害を受ける危険性の高い小高集落の32 戸 131 人に避難勧告が出された 工事概要砂防えん堤 1 基 (H=14.0m,W=56.0m) 写真 5-6-15 河道閉塞状況 ( 川口町小高地区 H16.11.8 撮影 ) 写真 5-6-16 (H18.12.25 撮影 ) (3) 三石川災害関連緊急砂防事業の事例長岡市 ( 旧山古志村 ) 桂谷地内を流れる三石川上流では 中越地震により尾根付近の急斜面における崩壊が河川沿いに多数発生して河道に流入し異常堆積した その後 これらの土砂が流下し 県道柏崎高浜堀之内線を寸断した これにより竹沢集落と虫亀集落を往来するためには 大きく迂回しなくてはならなくなった 工事概要砂防えん堤 1 基 (H=14.5m,L=60.0m) 写真 5-6-17 崩壊状況 ( 長岡市桂谷地区 H16.10.30 頃撮影 ) 写真 5-6-18 (H18.12.25 撮影 ) 5-115
7 災害関連緊急地すべり対策事業の事例 (1) 油夫川油夫地区 ( 長岡市 ) 当地区は 一級河川信濃川水系油夫川の右岸斜面に位置し 馬蹄形の地すべりブロックが複数並列する 斜面内には人家 18 戸が立地するほか 頂部に山古志中学校と山古志村役場資料庫の公共施設がある 中越地震により これらの地すべりブロック群が一斉に滑動したため 斜面中腹部にあった人家 6 戸が全壊した また 地すべりによる亀裂は尾根頂部まで達しており 他の人家や中学校 役場資料庫にも亀裂が生じる等の被害が発生した 地すべりの規模幅 500m 長さ 250m 移動土塊量約 125 万 m3 工事概要盛土工 470,000m3 集水井工 4 基横孔ボーリング工 6,400m 法枠工 10,600 m2グラウンドアンカー工 180 本植生工 16,000 m2 写真 5-6-19 油夫川地区 写真 5-6-20 油夫川地区 5-116
(2) 樽沢地区 ( 十日町市 ) 当地区は一級河川信濃川水系樽沢川の左岸斜面 信濃川左岸側河岸段丘上部に位置する 中越地震により大規模地すべりが発生し 人家 6 戸一部損壊 市道 700mの多大な被害を受けた また 唯一のアクセス道である市道の被災による樽沢地区の孤立化 樽沢川の河道閉塞による被害拡大の恐れなどから 避難指示が発令された このため県では 当該事業により対策工事を早急に実施し 地すべりの安定を図ることとし 工事により地区の安全が確保された平成 17 年 10 月 25 日に避難指示は解除された 地すべりの規模幅 740m 長さ 200m 土砂量 160 万 m3 工事概要集水井工 4 基横孔ボーリング工 2,615m 法枠工 11,400 m2グラウンドアンカー工 635 本ロックボルト工 269 本植生工 9,300 m2 写真 5-6-21 樽沢地区 写真 5-6-22 樽沢地区 5-117
8 災害関連緊急急傾斜地崩壊対策事業の事例 (1) 滝谷北地区 ( 長岡市 ) 工事概要法枠工 2,600 m2鉄筋挿入工 270 本植生基材吹付け 1,430 m2 写真 5-6-23 滝谷北地区 写真 5-6-24 滝谷北地区 (2) 上ノ山 3,5 丁目地区 ( 特例小千谷市 ) 工事概要 法枠工 842 m2 グラウンドアンカー 45 本 厚層基材吹付け 454 m2 大型ふとん籠 35m 水路工 54m 明暗渠 51m 写真 5-6-25 上ノ上 3,5 丁目地区 写真 5-6-26 上ノ上 3,5 丁目地区 5-118
9 災害関連地域防災がけ崩れ対策事業の事例 (1) 一日市地区 ( 魚沼市 ) 工事概要法枠工 256 m2厚層基材吹付け 151 m2落石防護柵 19m 水路工 10m 写真 5-6-27 一日市地区 (2) 丸山町地区 ( 特例十日町市 ) 工事概要法枠工 93 m2鉄筋挿入工 50 m2水路工 18m 写真 5-6-28 一日市地区 写真 5-6-29 丸山町地区 写真 5-6-30 丸山町地区 5-119
10 急傾斜地対策に関する特例対応 この震災により多くのがけ崩れが発生し 被害は過疎化 高齢化が急速に進んでいる中山間地に集中したため 自力での再建が困難な状況となった また 都市部でも丘陵地や河岸段丘の斜面に展開する住宅宅地の擁壁等が転倒 倒壊したり クラックが発生するなど 住宅そのものの被害に加え 宅地擁壁被害の復旧が個人の大きな負担となり自力再建が困難な箇所が多数発生した ここでは 国と県におけるこれらの災害への対応を述べる (1) 国土交通省による対応国土交通省は, 従来から実施されている災害関連緊急急傾斜地崩壊対策事業及び災害関連地域防災がけ崩れ対策事業に特例を設け 擁壁等の崩壊対策を事業の対象とすることとした ( 表 -5-6-3, 表 -5-6-4) この特例措置により 県内 29 箇所における対策事業が採択された 新潟県では, 新潟県災害関連地域防災がけ崩れ対策事業補助金交付要網 及び 急傾斜地崩壊危険区域指定要領 についても一部改正し, 平成 17 年 2 月 1 日に各市町村長へ通知した 新潟県中越地震に係る特例措置の概要 表 -5-6-3 災害関連緊急急傾斜地崩壊対策事業 項目現行新潟県中越地震に係る特例措置 表 -5-6-4 災害関連地域防災がけ崩れ対策事業 項目現行新潟県中越地震に係る特例措置 斜面 自然斜面を対象 自然斜面に加え, 人工斜面 ( 宅地擁壁等 ) も対象 斜面 自然斜面を対象 自然斜面に加え, 人工斜面 ( 宅地擁壁等 ) も対象 がけ高 10m 以上人家に被害があった箇所は 5m 以上 人家に被害があり, 更に周辺住民に二次的被害を生じるおそれがある場合は,3m 以上 がけ高 5m 以上 人家に被害があり, 更に周辺住民に二次的被害を生じるおそれがある場合は,3m 以上 保全対象人家 5 戸以上現行と同じ 保全対象人家 2 戸以上現行と同じ その他 ライフライン等の公共施設等に被害のおそれがあること その他 ライフライン等の公共施設等に被害のおそれがあること (2) 県による対応国土交通省では特例措置を講じたものの 被害の程度が比較的小さいことや 保全対象人家が基準に満たない等の理由から 採択されなかった箇所が相当数存在した 関係市町村からこれらの被災箇所について強い救済要望があったこと またこれらを放置すれば 移転等による集落人口の減少 消滅及び隣地への崩壊拡大などにより 地域コミュニティの再生が不可能となり復興計画に支障を来すことから県は関係市町村と連携して対応することとした 具体的には 補助事業に採択されない箇所に対し 市町村が事業主体となって行うがけ崩れ対策工事に対し その1/2を補助する 小規模急傾斜地崩壊防止事業補助金 によ 5-120
り対応した この事業は がけ高 5m 以上かつ 保全人家 2 戸以上 5 戸未満となる事業の他に 必要な場合は保全人家 1 戸の事業についても対象とすることが認められている これに加え 国土交通省の特例に準じて 人工がけや 高さ 5m 未満 (3m~5m) のがけに対しても 同様に特例扱いの事業対象とし 平成 18 年度末までに 184 箇所において約 12 億円の工事を実施した 11 災害に強い砂防施設の形成方針 (1) 生活基盤の復旧 ( 土砂災害の復旧 ) 中山間地域で特に全国有数の地すべり多発地域において強い地震が発生したことにより 地盤災害に加えて中山間地における斜面災害が顕著であった そこで 復興の基礎となる安全 安心な生活基盤を確保するために 地震により発生した地すべり がけ崩れ 土石流等の土砂災害対策については 被災地の復興計画 集落再生計画等と調整を図りながら 早期の完成を目指し事業を推進する 具体的には 県事業では災害関連緊急事業 ( 砂防 地すべり対策 急傾斜地崩壊対策 ) 等を実施し 市町村事業では災害関連地域防災がけ崩れ対策事業 小規模急傾斜地崩壊対策事業を実施する また 緊急事業をフォローする特定緊急砂防事業等を引き続き実施する また 油夫地区においては地すべり対策の押さえ盛土として山古志地区の建設発生土約 35 万 m3 を受け入れ 油夫地区集落再生計画により盛土地の有効活用を図る (2) 災害に強い県づくり ( 防災基盤施設整備と強化 ) 近年多発する局地的な豪雨や 地震により広域的に同時多発するおそれのある土砂災害などに備えた防災事業を着実に推進する また 災害による被害を軽減 ( 減災 ) し 県民の生命 財産を守るために ハザードマップの作成や土砂災害に関する防災情報の提供や伝達手段の充実を図る 具体的には 総合流域防災事業の基礎調査によりハザードマップの基図を作成し 市町村を支援している また 土砂災害防止法に基づき土砂災害 ( 特別 ) 警戒区域を指定し 土砂災害の危険を周知 警戒避難態勢の整備 住宅等の新規立地の抑制等のソフト対策を実施する 5-121