縄文時代の海岸線復元と遺跡動態 岡山平野のボーリング調査を踏まえて 2018 年 2 月山本悦世 山口雄治 鈴木茂之

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す 遺跡の標高は約 250 m前後で 標高 510 mを測る竜王山の南側にひろがります 千提寺クルス山遺跡では 舌状に 高速自動車国道近畿自動車道名古屋神戸線 新名神高速道路 建設事業に伴い 平成 24 年1月より公益財団法人大 張り出した丘陵の頂部を中心とした 阪府文化財センターが当地域で発掘調査

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Ⅳ-3 層土層の一部 ( 幅 113 cm 高さ 29 cm 奥行き 7 cm ) 土壌となった土層(Ⅳ-2 層 ) の下底面の凹み ( 長さ 50 cm 幅 30 cm 厚さ 15 cm ) を切り取り発泡ウレタンで固定して観察を行った 水分が一定程度抜けた状態で詳細な観察ができるようになり 発掘

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【論文】

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縄文時代の海岸線復元と遺跡動態 岡山平野のボーリング調査を踏まえて 2018 年 2 月山本悦世 山口雄治 鈴木茂之

研究の目的と調査の概要 瀬戸内沿岸における縄文時代の人間活動を理解するためには 古地形復元と遺跡動態との関連を分析することが重要な視点となる その第一歩として 同地域で有数の縄文遺跡密集地である岡山平野において ボーリングコアを採取する調査を実施し その地質調査から 津島岡大遺跡のボーリング調査 津島岡大遺跡は 岡山市に所在する岡山大学津島キャンパス内に広がる 縄文時代の集落遺跡として注目される遺跡である 岡山平野の中央を南流する旭川下流域西岸に位置する 調査は 同敷地の南西部 ( 岡大農学部農場内 ) に 2 箇所の地点を設定し 2015 年 9 月に実施した 掘削は ( 株 ) ウエスコに委託した 油圧式ロータリーボーリング 鹿田遺跡ボーリングコアの分析 鹿田遺跡は 岡山大学鹿田キャンパスに広がる弥生時代中期以降の集落遺跡である 津島岡大遺跡から南に約 5 kmに位置する 同遺跡のボーリングコアは 2013 年に ( 株 ) 東京ソイルリサーチによって採取され 岡山大学埋蔵文化財調査研究センターが所蔵していた 特に海岸線に現れる環境変化の復元を試みた その結果 縄文海進のピーク以降も 相対的な海水準変動が海岸線の変化をもたらし 人間活動に影響を与えた可能性が 遺跡動態の検討からも予想されることとなった マシーンを使用して 掘削口径 φ66mmのオールコアボーリングを行った 掘削深度は更新世に対応する礫層を目指した 西側の No.1 地点は地表下 13mまで 東側の No. 2 地点は同 8 mまでの地層を 1 m 単位で13 本と 8 本に分割して採取した 縄文海進の内陸部への侵入状況と 縄文時代の人間活動域との関係を探る上で重要なデータを得た 更新世層におよぶ地表下 10mまでのコアが 1 m 単位で 10 本に分割されていた 本遺跡は旭川下流域で最南部の遺跡であり 海に最も近い環境から 縄文海進の状態を知る上で注目される調査となった ボーリングコアの自然科学的分析 両遺跡のボーリングコアの分析にあたっては 地質学の視点から観察を実施するとともに 海成か陸成かを検討する手がかりとして 各地層の電気伝導率を測定した 測定は ボーリングコアから採取した30g の試料を蒸留水 150mlで攪拌し 30 分以上 3 時間以内静置したのち実施した 測定は3 回行い その平均値の値を採用した 装置は EUTECH INSTRUMENTS 製 CyberScan 導電率計 CONWP400を使用した その他に ( 株 ) パレオ ラボに依頼して 年代測定と珪藻分析を実施した ボーリングコアの調査風景 鹿田遺跡のボーリングコア 1

木質ボーリングコアは何を語る? ボーリング調査に際しては 炭素同位体年代測定や火山灰の検出によって年代を判定すると同時に 河原に見られる礫や塩分を含んだ泥など その地層の特徴から土地環境を復元した また 珪藻化石からは生息環境に 津島岡大遺跡 : 南西部 ボーリング調査を実施した地点は 岡山平野の北縁の山際にあたる 調査の結果 東側では陸域の状況が確認され 西側では海の影響が確認された 西側の No.1 地点のボーリングコアについて見てみたい 標高約 -3.2mより下は 締まった礫層である 岡山平野の地下に広がっている 氷河期の扇状地をなした地層とみなされる この上部を 塩分を含む泥層が被う 約 8 千年前の地層で 珪藻化石から浅い海だったこと よって種類が異なることを利用し海水や淡水などの古環境推定を試みた このように地層に残された情報から そこでいつ何があったかを調べることができる ボーリング試料を読み解くことでタイムトラベリングが可能となる がわかる 津島キャンパスにまで海が達したことを初めて確認した また 約 6 千年前の縄文海進ピーク時より前に 海になったことが明らかになったのは大きな発見である その後 河の影響が強くなったり 海になったりと変化しながら 海際の環境が約 3 千年前まで続く ボーリングが刳り貫いた材 ( 木質 ) は海辺に打ち寄せられた木だったと推測される 標高 1m 弱から上は 約 2 千年前の弥生時代以降の水田の地層と考えられる 地表下 5884-5743 cal BC 標高 1m 1012-908 cal BC これより上層は沖積層木質-2 ~ -3m -3 ~ -4m -4 ~ -5m -5 ~ -6m -6 ~ -7m -7 ~ -8m 4333-4234 cal BC 3126-5575- 3018 cal BC 木5487 cal BC 質 2348-2199 cal BC 4210-4154 cal BC 質3117-2928 cal BC 3241-3104 cal BC 0m -1m -2m -3m 6370- -4m 6230 cal BC 洪積層2

-2 ~ -3m -3 ~ -4m -4 ~ -5m -6 ~ -7m -7 ~ -8m -8 ~ -9m 0m -1m 洪積層 1770-1645 cal BC 1831-1733 cal BC -2m -4m -5m -6m 地表下これより上層は沖積層砂層が厚く堆積 乾燥した陸域乾燥した陸域乾燥した陸域乾燥した陸域乾燥した陸域乾燥した陸域乾燥した陸域乾燥した陸域 陸域陸域標高アナジャコなどの生痕アナジャコなどの生痕3 鹿田遺跡 採取したコアのうち 地表下 -2~9m について報告する なお 地表下 -5~-6m のコアは砂層の連続のため省略した 標高 -6.5m 余りより下部は締まった礫層である この地層はビルの基礎地盤になっている 同層中からは AT 火山灰が検出されており 約 2 万年前の氷河期の地層であることがわかった 当時は砂利の河原が広がる扇状地だったようである 旧石器時代の人々はここで狩をしたであろう その上部は 塩分を含む軟弱な泥の層に変化しており 海の生物の巣穴が残る部分も確認される 波や潮流の影響がない おそらく内湾の浅海だったのであろう ところが 約 7 千数百年前に噴火したアカホヤ火山灰が積もった直後から 急に地層は変化する 塩分を含まない粒がそろったきれいな砂層が標高約 -4.5m から -0.7m まで堆積している これは海水準が急に下がって河口部になったためだと推測される 同層上部には 約 3 千数百年前の塩分を含む泥質な砂層が被う 海進があって波の弱い澱んだ海際になったと想像される 弥生時代になると現在の標高 0m より上に塩分を含まない砂混じりの泥層が堆積し 細い根の跡が残っている これは今の水田と同じものであり 岡山平野の氾濫原の一部となっている

縄文時代後期の微地形復元と集落構造 - 津島岡大遺跡 - 本図は 津島岡大遺跡における発掘等の調査データとボーリングデータをもとに復元した微地形と 河口付近に立地した縄文集落の土地利用状況を示す 海岸線と地形 : 縄文後期中葉 ( 彦崎 K2 式 3800 年前 ) 段階を示す 海岸線は 津島岡大遺跡の南側 ~ 西側に復元される 東側の旧旭川との間には自然堤防状の高まりが予想され 扇状地を中心に広がる津島岡大遺跡の多くの範囲には 海進は及ばなかった可能性が高い 敷地内には 河道 1 条が集落中央を北東から南西部の河口に向けて走る 本地形復元には 2014 年度に同遺跡南東部で実施したボーリング調査の成果 ( 文献 1) も参考にした 集落構造の復元 : 縄文時代後期初頭 ~ 中葉の各時期の遺構竪穴住居 : 後期前葉貯蔵穴 : 後期前葉 ~ 中葉火処 : 中期後半 ~ 後期中葉杭列 : 後期中葉 ( 杭の年代測定から ) 後期前葉 ~ 中葉の集落 集落規模は約 1 km 約 700m 高位部の北東部に居住域 その周囲の低位部に貯蔵穴を配した貯蔵空間 さらに集落の南 ~ 西側の周縁部に火処を形成する加工作業空間がめぐり 河口付近に杭列が打たれる 文 法 経 <23 24 次 > 杭列 <34 次 > <12 次 > 図書館 西門 <11 次 > <13 次 > 理学部 留学生等宿泊施設 農場 No.1 No.2 農場 <30 次 > <8 次 > <33 次 > 薬学部 事務局 <26 27 次 > 農学部 保健管理センター <14 次 > <10 次 > 学生会館 体育館 館陸上競技場 農場 実験研究圃場 グラウンド 正門 <2 8 次 > 宿舎 工学部 <21 次 > <19 次 > 一般教育棟 <7 次 > <28 次 > <5 次 > 野球場 <6 9 次 > <17 22 次 > 環境理工学部 <31 次 > <3 15 次 > <32 次 > 教育学部 東門 サッカー場 住居貝塚 貯蔵穴火処 ボーリング調査地点 調査次 < 番号 > 高 低 BB-8 体育4

海岸線の復元と遺跡の分布 本研究では 縄文海進のピーク時以降にも 相対的 な海水準の上下動が生じていた可能性が注目される こととなった 縄文海進が進行する早期 ピークとなる 前期 海退の可能性が予想される中期 再度海進状態 が認められる後期中葉 そして再び海退が想定される 晩期後半 ~ 弥生時代前期の 5 時期について海岸線を復元し 遺跡動態の背景を探る手がかりとしたい 沖積層基底面は高橋達郎 1983 地形環境 岡山県史第一巻自然風土 岡山県を基に作成 前期 ボーリング調査から早期末 ~ 前期の海進の状況が復元される 早期末には 鹿田遺跡は内湾状態となる 海は津島岡大遺跡まで入り込み 同地域に海域 ( 沿岸域 ) の環境を生み出す 前期には 津島岡大遺跡でも内湾状態へと海進が進行し 海進のピークを迎える 海岸線の復元では 前期の朝寝鼻貝塚の発掘データから現地表までの堆積層の厚さを求め ボーリング調査 海岸線復元の手がかり対象時期の海水準と同時期の地表面から現地表面までの堆積層の厚さに注目し 両値を加算して得た作業上の海水準値を 現地形に対応させて 海岸線を求める方法を試みた 海水準はボーリング調査成果から見かけ上の値を求めた 後者の数値は 発掘等の調査成果を主とし ボーリング調査も参考にした ここで問題となるのは データの精度や限定性である こうした点から生じる誤差については 現地形の高低差の基準を1m 単位とし その誤差を1mの幅のなかで吸収することとした さらに 最終的には 以上の作業によって得られる海岸線に対して 遺跡分布との整合性を確認し 図上で補正を行った 早期( 黄島式段階 ) ボーリング調査から海の影響を示すデータは確認できていない 黄島周辺の貝塚の分布を踏まえると 海進によって 海は牛窓沖に近づいている状態が予想される および周辺の調査成果から 見かけ上の海水準を 1 m~ 1.5mに想定し 作業上の海水準を4.5mに設定した その結果得られた海岸線は 遺跡分布と整合性の高い状態を示した 貝塚に注目すると その分布は吉井川河口域や高梁川河口域の沿岸に多い 一方 旭川下流では確認されておらず 海浜部の環境の違いが予想される 貝塚散布地以下同じ 5

中期 海水準については 津島岡大遺跡のボーリング調査から海の影響が及ぶレベルを考慮し 標高 -0.5~ -0.7mに想定した また 本時期の包含層のレベルが 同遺跡の発掘調査から標高 1.5~ 2 mに求められることから 堆積層の厚さは約 2.5mとし 作業上の海水準を標高 2mに設定した その結果 遺跡分布との整合性も確認された 全体として 海退傾向が顕著となる 海岸線の復元となった 貝塚の分布域は前期と共通するが 比較的規模が大きく 前期からの拡大傾向を窺わせる 特に 高梁川河口域では 干潟の発達が予想される 一方 吉井川下流域では 海環境は河川状へと変化しており 出土貝種が汽水域中心となる調査データと整合的な環境変化が認められる 中期末 後期中葉 ボーリングの結果は 後期中葉に両遺跡周辺で再び海の影響が強まる状態を示すこととなった こうしたデータや周辺遺跡の調査から海水準と堆積層の厚さを想定し さらに遺跡分布状況を勘案した上で 作業上の海水準を 4 mに求めた その結果 海進の状態が復元された また 本時期に大量の土砂の堆積が進行し 土地の起伏を弱めたことも確認された 貝塚散布地貯蔵穴以下同じ遺跡動態では 新たな土地変化を背景とするような集落遺跡や貯蔵穴の形成が特徴となる 貝塚は中期とは場所を変える例が増加し 小規模で 集落に付随する貝塚も確認される 安定的な前 中期とはやや異なる状況である そして 遺跡は後期後葉に激減し 沿岸部では極めて希薄となる 6

白いドットは縄文時代晩期黄色いドットは弥生時代前期 No.1 No.2 津島遺跡 津島岡大遺跡 岡山駅 鹿田遺跡 旭川 縄文時代晩期後半 ~ 弥生時代前期 海水準は瀬戸内東部の調査成果を参考とし 現地表までの堆積層の厚さは 岡山平野の主要な発掘成果および岡山駅付近の地層データから求めた その上で 遺跡分布との整合性を図り 作業上の海水準を 3 mと 2 mに設定した これは 場所によって堆積層に 1 m 程度の違いが確認されたためである 海岸線には海退の傾向が現れており 狭いながらも沖積平野が姿を現しはじめる 旭川東岸では 海の影響が汽水域として内陸部に残る状態が想定される 遺跡動態では 一部の貝塚は散布地に変化するなど 貝塚の激減と 散布地を含む集落関連遺跡の増加が特徴である 貝塚以外の遺跡は扇状地の末端など 平地部に増加する傾向が強い 弥生時代前期以降に継続する遺跡も多い 貝塚は小規模で 後期と同様に集落に付随する遺跡が確認される ボーリング調査の位置 本冊子は 岡山県南部地域における縄文 ~ 弥生時代の古地形復元と遺跡動態に関する考古学的研究 を課題とした 2015 年度 ( 平成 27 年度 )~2017 年度 ( 平成 29 年度 ) の研究成果の一部で JSPS 科研費 15K02980 の助成を受けたものである 研究組織研究代表者山本悦世 ( 岡山大学埋蔵文化財調査研究センター教授 ) 研究分担者岩﨑志保 山口雄治 ( 岡山大学埋蔵文化財調査研究センター助教 ) 研究協力者鈴木茂之 ( 岡山大学大学院自然科学研究科教授 ) 本文は 協議のもとに 2 3 頁を鈴木が それ以外を山本が執筆し 図版は全てを山口が作成した 本報告は暫定的なものであり 更なる検討によって変更する可能性がある 地形図は 国土地理院発行の基盤地図情報数値標高モデル (5m) を使用した なお 4 頁の微地形復元図作成については有賀紅美氏の協力を得た 鹿田遺跡のボーリングコアおよび岡大構内遺跡の資料の使用については 岡山大学埋蔵文化財調査研究センターの了解を得た 文献 1: 山本悦世 鈴木茂之 山口雄治 岩﨑志保 2018 岡山市津島岡大遺跡南東部におけるボーリング調査成果 岡山大学埋蔵文化財調査研究センター紀要 2016 岡山大学埋蔵文化財調査研究センター 刊行 : 2018 年 2 月編集 : 山本 山口印刷 : 西尾総合印刷株式会社 7