Microsoft Word - 講演会原稿

Similar documents
Microsoft PowerPoint - elast.ppt [互換モード]

Microsoft PowerPoint - 知財報告会H20kobayakawa.ppt [互換モード]

コンクリート工学年次論文集 Vol.29

強化プラスチック裏込め材の 耐荷実験 実験報告書 平成 26 年 6 月 5 日 ( 株 ) アスモ建築事務所石橋一彦建築構造研究室千葉工業大学名誉教授石橋一彦

<4D F736F F F696E74202D CC95E28F4390AB82C98AD682B782E98AEE CA48B862E >

Microsoft PowerPoint - zairiki_7

第 14 章柱同寸筋かいの接合方法と壁倍率に関する検討 510

第 2 章 構造解析 8

Microsoft PowerPoint - zairiki_3

Microsoft PowerPoint 発表資料(PC) ppt [互換モード]

Microsoft PowerPoint - Engmat111Y14V1pdf.ppt

材料の力学解答集

使用した装置と試料 装置 : 位相差測定装置 KOBA-W 使用ソフト : 位相差測定 Eソフト 専用治具 : 試料引張治具 試料 : 表 1の各フィルムを測定 ( 測定は室温 3 ) 表 1 実験に用いた試料 記号 材質 厚さ (μm) 光軸角 Ω( ) 備考 pc4 ポリカーボネート 6 87.

第 5 章 構造振動学 棒の振動を縦振動, 捩り振動, 曲げ振動に分けて考える. 5.1 棒の縦振動と捩り振動 まっすぐな棒の縦振動の固有振動数 f[ Hz] f = l 2pL である. ただし, L [ 単位 m] は棒の長さ, [ 2 N / m ] 3 r[ 単位 Kg / m ] E r

Microsoft Word - 第5章.doc

炭素繊維複合糸から成る織物を活用したCFRTP製品の事業化試験

< B837B B835E82C982A882AF82E991CF905593AE90AB8CFC8FE382C98AD682B782E988EA8D6C8E40>

<4D F736F F D208D5C91A297CD8A7793FC96E591E6328FCD2E646F63>

構造力学Ⅰ第12回

Microsoft Word - 建築研究資料143-1章以外

Microsoft PowerPoint - zairiki_11

本日話す内容

DURACON POM グレードシリーズ ポリアセタール (POM) TR-20 CF2001/CD3501 ミネラル強化 ポリプラスチックス株式会社

Microsoft PowerPoint - 修論発表.ppt [互換モード]

PowerPoint Presentation

軸受内部すきまと予圧 δeff =δo (δf +δt ) (8.1) δeff: 運転すきま mm δo: 軸受内部すきま mm δf : しめしろによる内部すきまの減少量 mm δt: 内輪と外輪の温度差による内部すきまの減少量 mm (1) しめしろによる内部すきまの減少量しめしろを与えて軸受

Microsoft PowerPoint - H24 aragane.pptx

PowerPoint プレゼンテーション

PowerPoint プレゼンテーション

PowerPoint Presentation

第1章 単 位

< B795FB8C6094C28F6F97CD97E12E786477>

と 測定を繰り返した時のばらつき の和が 全体のばらつき () に対して どれくらいの割合となるかがわかり 測定システムを評価することができる MSA 第 4 版スタディガイド ジャパン プレクサス (010)p.104 では % GRR の値が10% 未満であれば 一般に受容れられる測定システムと

<4D F736F F D208E9197BF A082C68E7B8D A815B82CC8D5C91A28AEE8F C4816A2E646F63>

問題 2-1 ボルト締結体の設計 (1-1) 摩擦係数の推定図 1-1 に示すボルト締結体にて, 六角穴付きボルト (M12) の締付けトルクとボルト軸力を測定した ボルトを含め材質はすべて SUS304 かそれをベースとしたオーステナイト系ステンレス鋼である 測定時, ナットと下締結体は固着させた

複合構造レポート 09 FRP 部材の接合および鋼と FRP の接着接合に関する先端技術 目次 第 1 部 FRP 部材接合の設計思想と強度評価 第 1 章 FRP 構造物の接合部 FRP 材料 FRP 構造物における各種接合方法の分類と典型的な部位 接合方法

屋根ブレース偏心接合の研究開発

強化 LVL 接合板および接合ピンを用いた木質構造フレームの開発 奈良県森林技術センター中田欣作 1. はじめに集成材を用いた木質構造で一般的に用いられている金物の代わりに スギ材単板を積層熱圧した強化 LVL を接合部材として用いる接合方法を開発した この接合方法では 集成材と接合板である強化 L

PowerPoint Presentation

航空機複合材部品の紫外線劣化加速評価法の開発,三菱重工技報 Vol.51 No.4(2014)


Microsoft PowerPoint - 講義PPT2019.ppt [互換モード]

スライド タイトルなし

Microsoft Word - 建築研究資料143-1章以外

Autodesk Inventor 改造解析結果の検証

SMAワイヤー補強によるCFRP製高圧力容器の開発と最適構造設計

Microsoft PowerPoint - zairiki_10

<4D F736F F F696E74202D AB97CD8A E631318FCD5F AB8D5C90AC8EAE816A2E B8CDD8AB B83685D>

Microsoft PowerPoint - ‚æ2‘Í.ppt

T ダイの流動解析 HASL 社 FlatCAD を使用した池貝製 T ダイの流動解析事例 各種の樹脂粘度を考慮した T ダイの流路設計 Rich Green on Land Deep Blue in Sky and Sea 株式会社池貝開発室横田新一郎

コンクリート工学年次論文集 Vol.29

問題-1.indd

破壊の予測

研究成果報告書

PowerPoint プレゼンテーション

道路橋の耐震設計における鉄筋コンクリート橋脚の水平力 - 水平変位関係の計算例 (H24 版対応 ) ( 社 ) 日本道路協会 橋梁委員会 耐震設計小委員会 平成 24 年 5 月

目次 1. 適用範囲 1 2. 引用規格 1 3. 種類 1 4. 性能 2 5. 構造 2 6. 形状 寸法 3 7. 材料 3 8. 特性 4 9. 試験方法 検査 6 ( 最終ページ :11)

強度のメカニズム コンクリートは 骨材同士をセメントペーストで結合したものです したがって コンクリート強度は セメントペーストの接着力に支配されます セメントペーストの接着力は 水セメント比 (W/C 質量比 ) によって決められます 水セメント比が小さいほど 高濃度のセメントペーストとなり 接着

コンクリート工学年次論文集 Vol.29

材料強度試験 ( 曲げ試験 ) [1] 概要 実験 実習 Ⅰ の引張り試験に引続き, 曲げ試験による機械特性評価法を実施する. 材料力学で学ぶ梁 の曲げおよびたわみの基礎式の理解, 材料への理解を深めることが目的である. [2] 材料の変形抵抗変形抵抗は, 外力が付与された時の変形に対する各材料固有

. 実験方法 ヒノキ板を断面形状を高さ 8mm および 16mm の 種類としいずれも幅 mm として用意した 試験片長さを 1mm mm 3mm mm mm に切断し 写真 1, のように万能試験機で垂直になるように設置後 圧縮荷重をかけ最大圧縮荷重値を最大座屈荷重値としてデータを収集した 折れ曲

全学ゼミ 構造デザイン入門 構造解析ソフトの紹介 解析ソフト 1

木村の理論化学小ネタ 理想気体と実在気体 A. 標準状態における気体 1mol の体積 標準状態における気体 1mol の体積は気体の種類に関係なく 22.4L のはずである しかし, 実際には, その体積が 22.4L より明らかに小さい

事例2_自動車用材料

<4D F736F F F696E74202D20824F DA AE89E682CC89E696CA8DED8F9C816A2E >

Microsoft PowerPoint - 第8章 [互換モード]

<4D F736F F D C082CC8BC882B08B7982D182B982F192668E8E8CB12E646F63>

Microsoft PowerPoint - (四国電力)JASMiRT CV構造評価_r2.ppt [互換モード]

. 軸力作用時における曲げ耐力基本式の算定 ) ここでは破壊包絡線の作成を前提としているので, コンクリートは引張領域を無視した RC 断面時を考える. 圧縮域コンクリートは応力分布は簡易的に, 降伏時は線形分布, 終局時は等価応力ブロック ( 図 -2) を考えることにする. h N ε f e

3D プリンタにより作製した樹脂部品の強度に関する研究 尾形正岐 阿部治 長田和真 西村通喜 山田博之 渡辺誠 Study on Strength of Resin Materials Processed by Fused Deposition Modeling Printer Masaki OGA

<4D F736F F F696E74202D AB97CD8A E630398FCD5F8AC C896E291E8816A2E B8CDD8AB B83685D>

CLT による木造建築物の設計法の開発 ( その 3)~ 防耐火性能の評価 ~ 平成 26 年度建築研究所講演会 CLTによる木造建築物の設計法の開発 ( その 3) ~ 防耐火性能の評価 ~ 建築防火研究グループ上席研究員成瀬友宏 1 CLT による木造建築物の設計法の開発 ( その 3)~ 防耐

参考資料 -1 補強リングの強度計算 1) 強度計算式 (2 点支持 ) * 参考文献土木学会昭和 56 年構造力学公式集 (p410) Mo = wr1 2 (1/2+cosψ+ψsinψ-πsinψ+sin 2 ψ) No = wr1 (sin 2 ψ-1/2) Ra = πr1w Rb = π

国土技術政策総合研究所 研究資料

Autodesk Inventor Skill Builders Autodesk Inventor 2010 構造解析の精度改良 メッシュリファインメントによる収束計算 予想作業時間:15 分 対象のバージョン:Inventor 2010 もしくはそれ以降のバージョン シミュレーションを設定する際

<4D F736F F D208D7E959A82A882E682D18F498BC78BC882B B BE98C60816A2E646F63>

4) 横桁の照査位置 P.27 修正事項 横桁 No07~No18 ( 少主桁のNo01からNo06は格子計算による 断面力が発生しないので省略 ) 照査点 No 溶接部名称 継手名称 等級 1 横桁腹板上 主桁腹板 すみ肉 F H 2 横桁腹板下 主桁腹板 すみ肉 F H ただし 上記の 2 つ照

コンクリート工学年次論文集 Vol.30

Microsoft PowerPoint - シミュレーション工学-2010-第1回.ppt

コンクリート実験演習 レポート

コンクリート工学年次論文集 Vol.25

Microsoft PowerPoint - 01_内田 先生.pptx

Microsoft PowerPoint - マグネ協会.ppt

テレコンバージョンレンズの原理 ( リアコンバーター ) レンズの焦点距離を伸ばす方法として テレコンバージョンレンズ ( テレコンバーター ; 略して テレコン ) を入れる方法があります これには二つのタイプがあって 一つはレンズとカメラ本体の間に入れるタイプ ( リアコンバーター ) もう一つ

RSS Higher Certificate in Statistics, Specimen A Module 3: Basic Statistical Methods Solutions Question 1 (i) 帰無仮説 : 200C と 250C において鉄鋼の破壊応力の母平均には違いはな


第 5 章大型有開口パネル実大構面水平加力実験 83

周期時系列の統計解析 (3) 移動平均とフーリエ変換 nino 2017 年 12 月 18 日 移動平均は, 周期時系列における特定の周期成分の消去や不規則変動 ( ノイズ ) の低減に汎用されている統計手法である. ここでは, 周期時系列をコサイン関数で近似し, その移動平均により周期成分の振幅

第 1 章 機械構造概論 1.1 質量と重量について 質量と重量に ートンの法則により である. 重量の場合 長さ 混同することが多いので, まず最初にふれておく. 重量は力である. 力はニュ 力 = 質量 加速度 1 オングストローム (A )=10 1ミリミクロン (mμ)=10-9 m -6

スライド 1

Microsoft Word - 4_構造特性係数の設定方法に関する検討.doc

資料 2 輪荷重走行試験の既往データ 1. 概要 道路橋 RC 床版の損傷メカニズムの解明には, 輪荷重走行試験機を活用した研究が大きく寄与してきた. 輪荷重走行試験機は, 任意の荷重を作用させながら往復運動するもので国内に十数機が設置され, 精力的な研究が行なわれてきた. 輪荷重走行試験機はその構

国土技術政策総合研究所 研究資料

付着割裂破壊の検討の概要と取り扱いの注意点

CLT による木造建築物の設計法の開発 ( その 2)~ 構造設計法の開発 ~ 平成 26 年度建築研究所講演会 CLT による木造建築物の設計法の開発 ( その 2)~ 構造設計法の開発 ~ 構造研究グループ荒木康弘 CLT による木造建築物の設計法の開発 ( その 2)~ 構造設計法の開発 ~

<4D F736F F D E682568FCD CC82B982F192668BAD93785F F2E646F63>

論文

EBNと疫学

<4D F736F F F696E74202D A B5A8F7090E096BE89EF947A957A8E9197BF81698D CF688EA816A2E707074>

Microsoft Word - PCシンポ論文(シース)090819

Transcription:

B06 CFRP 円筒の座屈試験 岡本瑞希 ( 神奈川大 学 ), 宮島侑冬 ( 神奈川大 学 ), 高野敦 ( 神奈川大 ) Mizuki Okamoto, Yuuto Miyajima, Atushi Takano (Kanagawa University) 1. 目的衛星やロケット 航空機などに軽量化のため複合材料の円筒殻が使われている 複合材料の中では CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics) と呼ばれる炭素繊維と樹脂との複合材料が最も多く用いられている 円筒殻は軽量化のため薄肉にすると座屈と呼ばれる不安定現象を起こすが この強度にはばらつきがあり理論との差異も大きい 理論値との差異の原因を追及する事を目的として 積層の重なり及びギャップ 円筒の長さに着目し 当研究室の過去の試験に対し追加の試験を行った 2. これまでの CFRP 円筒殻の試験結果 2.1 既往の研究における試験結果 CFRP 円筒殻の座屈強度の研究は既に多くなされている 表 1 (1) に既往の研究での座屈試験の結果を示す ノックダウンファクタのばらつき及び理論との差異は大きい ノックダウンファクタは 50%~100% の間で大きくばらついている 図 1 r/t に対するノックダウンファクタ 2.2 当研究室の過去の試験結果当研究室でこれまでに行った座屈試験の理論値と実験結果を表 2に示す 直径 D はいずれも 150mm( 内径 ) である 表 1 6 層及び 3 層の座屈計算と実験値 素材 (TR/HSX, 詳細後述 ) にかかわらず円筒殻が長くなるほどノックダウンファクタが小さくなっている HSX 型 3 層に関してノックダウンファクタが比較的高い数字となった これはギャップの許容の有無が関係すると考えられる あるいは板厚の違いによってノックダウンファクタが影響を受けていることも考えられる そこで今回は 積層の重なり及びギャップが円筒殻座屈強度に及ぼす影響に着目して試験を行った 同時に 円筒殻の長さの違いによる影響についても試験を行った 3.CFRP 円筒殻の設計 製作 3.1 円筒殻の積層材円筒殻を製作する際に使用したプリプレグは三菱レイヨン製 (2) の TR350J075S( 以下 TR 型と呼ぶ ) HSX350C075S ( 以下 HSX 型と呼ぶ ) であり これは過去の試験片も同様である 厚さは TR 型 0.081mm HSX 型 0.056mm となっている TR 型は事前に引張試験を行っており その際得られた実測値から弾性率 E 11 は 114000MPa を用いた HSX 型は繊維の弾性率 E f はカタログ値より 繊維の体積含有率 V f は 55% と仮定し計算した結果から弾性率 E 11 は 249652MPa を用いた 3.2 円筒殻の設計 製作

TR 型 HSX 型ともに過去に製作した試験片と同じ積層構成の (-70/70/0/0/70/-70) で 6 層の円筒殻を設計した 円筒殻成形のためプリプレグを切り出し マンドレル ( 心金 ) に積層させ加熱 成形した 積層の重なりによる影響を調べるため プリプレグを切り出す際に 5mm 多く切り出した 実際にマンドレルに積層させる際には 人の手による巻きつけであることから 0~5mm の積層重なりとなった 成形した円筒殻を L/D=1 及び 3 に切り分け 圧縮試験用の治具を上端 下端に市販の接着剤で接着した 3 軸の歪ゲージを上段 中段 下段の周方向 90 毎に計 12 枚貼り付けた 上段 下段は治具から 5mm の点に貼り 中段は L/2 の位置に貼った 4. 圧縮試験 4.1 試験方法位置調整のため方眼紙を敷き 均一に荷重をかけるため試験片の上部にゴムとシリコンゴムを重ねその上に鉄板をのせ 下部にはゴムを敷いた 鉄板には丸頭のボルトがあり 一点で荷重を負荷できる 図 2 に試験機に設置した試験片の外観を示す し 偏りがある場合位置調整を行った これを繰り返し 偏りがなくなるまで位置調整を行った ただし 動かしても変化がない場合や 位置調整によって荷重点と荷重軸中心が著しくずれる場合は歪の偏りを無視し 座屈試験を行う まず 座屈荷重予想値 ( ノックダウンファクタを 0.5 とみなし それを考慮した値 ) の半分の荷重を負荷し データに異常がないか確認した 次に座屈が起きるまで荷重を負荷し そのまま座屈時の変位の 1.5 倍まで荷重を負荷し 除荷した 4.2 実験結果 4.2.1 TR 型 6 層 L/D=1 今回試験を行った積層重なりを許容した試験片の試験結果を図 3 図 5 に示す 積層ギャップを許容した試験片の試験結果を図 4 図 6に示す 図 3 荷重と変位 ( 重なり許容 ) 図 4 荷重と変位 ( ギャップ許容 ) 図 2 圧縮試験準備 はじめに十分小さい荷重を負荷し 試験片中段の機軸方向に生じている歪に偏りがないか確認

図 5 中央部の荷重と軸方向歪 ( 重なり許容 ) 図 8 荷重と変位 ( ギャップ許容 ) 図 6 中央部の荷重と軸方向歪 ( ギャップ許容 ) 図 9 中央部の荷重と軸方向歪 ( 重なり許容 ) 軸方向歪についてギャップを許容した試験片はばらつきが大きいが ノックダウンファクタは重なりを許容した試験片がわずかに小さい値となった 4.2.2 TR 型 6 層 L/D=3 今回試験を行った積層重なりを許容した試験片の試験結果を図 7 図 9 に示す 積層ギャップを許容した試験片の試験結果を図 8 図 10に示す 図 7 荷重と変位 ( 重なり許容 ) 図 10 中央部の荷重と軸方向歪 ( ギャップ許容 ) 図 8 に比べ図 7 のグラフは早期の座屈が発生していることがわかる 試験直後に試験状態を確認したところ 試験機と試験片の荷重点のズレによる荷重オフセットがあることが判明した 図 9 にある軸方向歪のばらつきも荷重オフセットによるものであると考えられる 4.2.3 HSX 型 6 層 L/D=3 今回試験を行った積層重なりを許容した試験片の試験結果を図 11 図 13 に示す 積層ギャップを許容した試験片の試験結果を図 12 図 14 に示す

今回得られた実験結果と比較対象のデータを表 3 に示す 表 2 実験結果と積層ギャップによる比較 図 11 荷重と変位 ( 重なり許容 ) 積層重なりによるノックダウンファクタの向上は見られなかった TR 型 L/D=3 重なり 5mm の試験においては荷重オフセットがあり 正確なデータが得られなかった 5. 考察 5.1 荷重オフセットの影響 図 12 荷重と変位 ( ギャップ許容 ) TR 型 L/D=3 重なり 5mm の試験において位置調整は円筒下端中心で位置合わせしていたため 円筒上部中心と圧縮試験機の荷重軸中心が 8mm ずれていた これによって曲げ応力が発生し早期の座屈に至ったのではないかと考えた 曲げ応力を算出し 座屈応力との比率を計算すると 21% の曲げ応力が発生していた これを補正率として実験値に加算するとノックダウンファクタは 0.481 図 13 中央部の荷重と軸方向歪 ( 重なり許容 ) となった これは統計的な下限値 (99% 下限の 95% 信頼度による推定値 0.479) を超え 表 3 に示 すように他の TR6 層の値 0.525~0.600 に近づいた しかしこれらの値は依然として低いため 他の要因によって早期の座屈が起きた可能性がある 素材, 供試体名 表 3 積層構成 曲げ応力補正後の実験値 板厚実測長さ座屈理論値実験値 t [mm] L [mm] P a [N] P a [N] ノックダウン積層ギャップファクタ TR 6 層 L/D=1 (-70/70/0/0/70/-70) 0.488 136 21983 13197 0.600 許容 TR 6 層 L/D=1 (-70/70/0/0/70/-70) 0.488 136 21983 12665 0.576 重なり5mm 図 14 中央部の荷重と軸方向歪 ( ギャップ許容 ) TR 6 層 L/D=3 (-70/70/0/0/70/-70) 0.488 436 21987 11537 0.525 許容 TR 6 層 L/D=3 (-70/70/0/0/70/-70) 0.488 436 21987 10573 0.481 重なり5mm 図 13 のグラフにおいて荷重に対する歪の非線形性がみられる これにより積層板として破損が生じ ノックダウンファクタの低下につながった可能性がある 4.3 評価 また TR 型だけではあるが 長さによるノックダウンファクタの減少が見られた 5.2 積層応力の影響局所的な応力によって材料破壊が起き 早期の座屈に至ったのではないかと考え 座屈時の荷重

を用いて積層ごとの安全余裕を求めるため 一様板厚とした場合の異方性円筒殻の線形理論解 (3) を用いて計算した 計算結果を表 5 表 6 に示す 表 4 TR 型の積層毎の安全余裕 表 5 HSX 型の積層毎の安全余裕 MS_Tsai_Wu(Tsai-Wu の強度則による積層ごとの安全余裕 ) の欄はいずれも正であるため 計算上は積層板としての材料破壊は起きていない したがって TR 型 L/D=3 重なり許容の試験片において早期の座屈は荷重軸中心のズレによる要因が大きいと考えられる HSX 型 L/D=3 の試験片は積層重なりによって荷重に対する歪の非線形性が生じ 積層板としての破損が生じた可能性がある 5.3 積層角のズレによる影響マンドレルに積層する際 重なりを 5mm にするために角度を調節しながら巻いていた これによって積層角にズレが生じ 座屈強度が低くなった可能性があると考え 角度を用いて強度解析を行った 巻き始めから 1 周した際に 5mm の重なりを設けると 重なりを設けなかった時に比べ積層角度に 0.608 のズレが生じる 積層構成を (-70.608/70.608/0/0/70.608/-70.608) として強度解析を行った 計算結果を表 6 に示す した したがって 積層時に生じる積層角のズレが座屈強度の減少の大きな要因とは考え難い 6. 結言本研究において 積層重なりによる座屈強度の向上は見られなかった 逆に今回の試験ではすべての試験片において座屈強度が減少する結果となった これは積層の重なりによる局所的な荷重の偏心によって歪の非線形性が生じ 積層板としての局所的な破損が生じ 座屈を誘発したものと考えられる また TR 型のみだが円筒殻の長さの違いによる座屈強度への影響を確認する事が出来た HSX 型に関しても今後同様の試験を行い検証していく 今回の実験では考慮しなかった板厚の違いによる影響についても検討し 今後追加の試験を行う必要がある 参考文献 1) A. Takano, Statistical Knockdown Factors of Buckling Anisotropic Cylinders Under Axial Compression, Journal of Applied Mechanics, 2012, Vol. 79 / 051004-1 2) 三菱レイヨンパイロフィル部 https://www.mrc.co.jp/pyrofil/product/pre.html 3) 高野, 一般異方性円筒殻の軸圧縮 ねじりおよび複合荷重に対する閉じた解, Transactions of the JSME, Vol.80, No.812 (2014) 素材, 供試体名 表 6 積層角のズレによる座屈強度 積層構成 座屈理論値 P a [N] 座屈応力 x0 [MPa] 積層角度のズレ TR 6 層 L/D=3 (-70/70/0/0/70/-70) 21987 95.7 考慮せず TR 6 層 L/D=3 (-70.608/70.608/0/0/70.608/-70.608) 21725 94.5 考慮 HSX 6 層 L/D=3 (-70/70/0/0/70/-70) 19689 124.3 考慮せず HSX 6 層 L/D=3 (-70.608/70.608/0/0/70.608/-70.608) 19253 121.6 考慮 ズレを考慮した場合 座屈理論値は低下しているが 5mm の重なりによって生じる積層角のズレは小さく 座屈強度に及ぼす影響も少ないと判明