第 76 回東海人工透析談話会 腎性貧血治療における 看護師の役割 偕行会岐阜中津川共立クリニック野溝明弘
腎性貧血により透析患者の QOL を低下させないために 医師 看護師 臨床工学技士 栄養士
腎性貧血治療における看護師の役割 1. 腎性貧血による透析患者の QOL の低下を防止するために : 異常の早期発見のための貧血関連項目の観察 : 採血データの評価 (Hb Ht MCV MCH Fe TSAT フェリチンなど ) 身体の観察 ( 出血の観察 : 便の色, 痔出血, 生理出血など, 胃腸症状の観察, 貧血症状の観察 ) 2. 貧血治療時の患者の安全確保のために : 医師の指示に基づく正確で安全な薬剤の投与 : ESA 鉄剤ビタミン剤亜鉛カルニチンなど ESA: erythropoiesis stimulating agent 赤血球造血刺激因子製剤
1. 貧血関連項目の観察 採血データの評価 Hb 10~11g/d 11g/dL ( 若年者 11~12g/d 12g/dL ) Ht 30~33% 33% ( 若年者 33~36% 36% ) どちらも値の経時的推移を見て ESA 投与量変更の影響についても評価する低下傾向がみられる場合はまず鉄欠乏の関連マーカーを見てみる ESA: erythropoiesis stimulating agent 赤血球造血刺激因子製剤
鉄関連マーカーの評価トランスフェリン飽和率 (TSAT( TSAT) 20% 血清フェリチン ng/ml であれば鉄剤補充について医師に相談 ( ただし HCV HBV 症例は除外 ) TSAT(%)= 血清鉄 (μg/dl)/tibc (μg/d( g/dl) MCV MCH の経時的変動の観察
赤血球恒数 ( MCV MCH ) の経過をみる MCV(μm 3 ) = Ht(%) / RBC(10 6 /μl) L) 10 MCH (pg) = Hb(g/dL (g/dl) / RBC(10 6 /μl) L) 10 これらは透析患者特有の水分貯留 除水の影響をほとんど受けず健常者と同様に評価できる鉄欠乏性貧血の場合は小球性低色素性貧血のパターンになるため MCV で小球性を MCH で低色素性を評価する (Hb( は水貯留の影響が大きいため適さない )
MCV と MCH MCH 42 40 38 36 34 32 30 28 26 24 22 y = 0.3401x - 1.1617 R 2 = 0.8232 80 85 90 95 105 110 115 120 MCV n=121 一般男性の正常範囲 一般女性の正常範囲
フェリチンと MCV 120 115 110 105 y = 0.0165x + 94.047 R 2 = 0.0566 MCV 95 90 85 80 41 39 0 50 150 200 250 300 37 350 400 フェリチン 35 MCH 33 31 29 27 フェリチンと MCH y = 0.0062x + 30.749 R 2 = 0.058 25 0 50 150 200 250 300 350 400 フェリチン
血清鉄と MCV 110 105 y = 0.0435x + 93.064 R 2 = 0.0396 MCV 95 90 血清鉄と MCH 85 80 0 20 40 60 80 120 35 140 160 Fe 33 MCH 39 37 31 29 y = 0.0271x + 29.703 R 2 = 0.1111 27 25 0 20 40 60 80 120 140 160 Fe
TSAT と MCV 110 105 y = 15.878x + 91.689 R 2 = 0.0931 MCV 95 90 TSAT と MCH 85 39 37 80 0.0% 10.0% 20.0% 30.0% 40.0% 50.0% 35 60.0% 70.0% TSAT MCH 33 31 y = 8.1104x + 29.307 R 2 = 0.1763 29 27 25 0.0% 10.0% 20.0% 30.0% 40.0% 50.0% 60.0% 70.0% TSAT
MCV と MCH MCH 42 40 38 36 34 32 30 28 26 24 22 鉄欠乏の疑いが大きい y = 0.3401x - 1.1617 R 2 = 0.8232 80 85 90 95 105 110 115 120 MCV n=121 透析患者の一般的範囲か? 一般男性の正常範囲 一般女性の正常範囲
38 37 36 35 34 33 Hb*3 Ht MCV/3 MCH MCVとMCHTSAT*10 の変動を症例で見てみましょう 26.9 105 203.6 34.0 フェリチン鉄この患者の場合は MCV: 以下では鉄欠乏 MCH:33 以下では鉄欠乏 350 300 250 200 150 32 31 30 29 Feb-07 Mar-07 Apr-07 May-07 剤投与Jun-07 Jul-07 Aug-07 Sep-07 Oct-07 Nov-07 76.5 MCV MCHは症例毎の適正値があり これを把握した上でこのトレンドをチェックできれば半月に一度の鉄欠乏性貧血の評価ができる Dec-07 Jan-08 32.3 12.6 鉄剤投与Feb-08 50 0
300 250 TSAT*10 VitC MCV/3 フェリチン Hb*3 MCH フェリチンが高くても 247.4 Fe TSAT MCV MCHが低い場合はどうでしょうか? 39 37 200 150 50 0 Apr-07 96 30.3 May-07 Jun-07 Jul-07 13.6 Aug-07 20.4 101 31.1 74.4 44.9 9.0 剤シナール減量投0.6 与シナール経口投与が低い場合はVitC 欠乏を疑ってみる鉄Sep-07 Oct-07 17.8 Nov-07 98 Dec-07 Jan-08 11.2 フェリチンが高くても Fe TSAT MCV MCH Feb-08 35 33 31 29 27 25
250 200 150 50 Hb*10 CRP* Fe フェリチン MCV MCH*3 MCV MCH が高くても Hb が低い場合はどうでしょうか? 96 750 4500 EPO:6000 3000 750 31.0 33.0 葉酸 :3.9 VitB12:125 7.7 メチコバール経口投与 フォリアミン経口投与 12.3 30.3 94 110 105 95 90 85 0 Nov-02 Dec-02 Jan-03 Feb-03 Mar-03 Apr-03 MCV MCHが高い場合はVitB12 欠乏 葉酸欠乏を疑ってみる May-03 Jun-03 Jul-03 Aug-03 Sep-03 Oct-03 Nov-03 Dec-03 80
採血結果に基づく身体症状の観察次の様な場合は消化管出血等を疑い 便の色 痔出血の有無 腹部症状などを観察必要時は便潜血検査の実施 ( 抗血小板薬を定期服用している場合は特に注意が必要 ): 半月で 2% 以上の Ht 低下 (0.7g/d( 0.7g/dL 以上の Hb 低下 ) がある ESA 投与量を減量していないのに Hb(Ht Ht) ) 低下傾向が続き MCV MCH の低下がある ダイアライザー 血液回路内に残血が多く PLT の上昇がある ( 異常の早期発見のための便の観察や 胃への副作用などからみれば 鉄剤補充は静注投与がありがたい )
栄養摂取状況の評価とアドバイス貧血や鉄欠乏傾向がみられた場合 栄養摂取状況の観察 評価を行なう 同じように食べてるよ と言っていても栄養摂取量が低下している患者は多い 定期採血項目から評価するとよい : npcr は蛋白摂取量の評価ができるが 利尿やシャント狭窄による AV 再循環などがあると評価に用いることができない T-Cho, TG, Ch-E は それらの影響を受けずに栄養評価ができる ( 肝不全では T-Cho,Ch-E は利用できない )
Jul-07 Aug-07 Aug-07 Sep-07 Sep-07 Oct-07 Oct-07 Oct-07 Nov-07 Nov-07 Dec-07 Dec-07 Jan-08 Jan-08 Feb-08 Feb-08 Mar-08 300 250 200 150 50 npcr* KT/V* BUN Cr*10 T-Cho TG Ch-E Hb*10 CTR Alb*10 269 46.4 187 50.3 45.6 261 1.87 55 50 217 45 165 1.60 121 40 120 3.6 1.00 シャント V 側狭窄による AV 再循環あり 3.2 94 35 30
2. 医師の指示に基づく正確で安全な薬剤の投与 正確な薬剤投与 : ESA 鉄剤など静注剤の正確な投与 ビタミン剤亜鉛剤などの服薬指導 安全な薬剤の投与おそらく ESA 投与の場合は注入速度による副作用の心配はなさそうしかし鉄剤の場合は注入速度により副作用の発現に影響する
ガイドラインには 鉄剤の静脈投与は透析終了時に ゆっくり回路内に投与する と記されているが 静注鉄剤の能書には 40mg を2 分以上かけて徐々に静脈内注射する と記されているが 透析終了時は困難 副作用として ショック の記載あり 最も時間に追われる終了時の鉄剤静注は危険 鉄剤の静注投与は透析終了直前よりも透析中の余裕 のある時間帯のほうが良い
110 90 HD 前後の Fe 値の推移 HD 前後の Fe の変化 ( 鉄剤未使用 ) p<0.01 Fe はトランスフェリンと結合した状態で血中を流れており 分子量約 8 万のトランスフェリンは HD ではほとんど抜けない HD 前後の TSAT の推移 HD 前後の TSAT の変化 ( 鉄剤未使用 ) Fe (μg/dl) 80 70 60 50 40 30 n=122 n=122 透析前 透析後 Fe(HD 前 ) Fe(HD 後 ) TSAT でみることで 水分貯留による希釈や除水による濃縮を補正して評価することができる やはり HD 前後での差は認められない TSAT (%) 40 35 30 25 20 15 10 n=122 n=122 透析前 透析後 TSAT(HD 前 ) TSAT(HD 後 )
鉄剤投与は透析終了時でなければいけないのか? 鉄剤静注 5 分後の透析液廃液中の鉄含有量は? 1μg/dL HD1.5h に鉄剤静注 40mg 鉄剤静注 15 分後の透析液廃液中の鉄含有量は? 0μg/dL 鉄の損失量はほんのわずかだ! 透析液廃液全量中の鉄含有量は? 0~1μg/dL =0~1.2mg/120L
Fe 400 350 300 250 200 150 50 0 フェシ ン静注後の Fe TSAT の推移 ( 症例 2) フェシ ン 40mg iv Fe 250 200 150 0 0.25 0.5 0.75 1 1.25 1.5 1.75 2 2.25 2.5 2.75 3 3.25 3.5 3.75 4 HD 経過時間 Fe(μg/dl) HD 廃液 Fe(μg/dl) TSAT(%) 透析液廃液全量中 Fe = 1μg/dL = 1.2mg/120L 50 0 TSAT 140 120 80 60 40 20 0 透析液廃液全量中 Fe = 0μg/dL = 0mg/120L フェシ ン静注後の Fe TSAT の推移 ( 症例 1) フェシ ン 40mg iv 0 0.25 0.5 0.75 1 1.25 1.5 1.75 2 2.25 2.5 2.75 3 3.25 3.5 3.75 4 HD 経過時間 Fe(μg/dl) HD 廃液 Fe(μg/dl) TSAT(%) TSAT 140 120 80 60 40 20 0
300 フェシ ン投与症例における透析前後の Fe 値 Fe 値 250 フェシ ン投与症例における透析前後の TSAT 値 TSAT 値 Fe(μg/dl) 200 150 70% 60% 50% 50 0 透析前 透析前 透析後 透析後 TSAT 40% 30% 20% 10% 0% 透析前 透析後
安全な鉄剤の静注法 ( 当施設の方法 ) 鉄剤静注は透析中の余裕のある時間帯に透析中の余裕のある時間帯に 患者さんとおしゃべりをしながら 40~50mg を2 分間かけて徐々に注入する ゆっくり注入するために 5% ブドウ糖液か 生理食塩液で 10~20m 20mLに希釈しておく どんなに忙しくても 1 分間以上の注入時間を かける
HCV HBV の症例にはできる限り鉄剤を用いない 鉄欠乏状態にすることで トランスアミナーゼ低下, 肝硬変 肝癌の発症頻度を低下させるとの報告がある 当施設においてもフェリチンを 20 未満 ( できれば 10 未満 ) にしたところ GPT が低下した症例を経験している 鉄欠乏性貧血状態で管理するので 鉄利用能を高めるために適量の VitC を補充し ESA は上限量で使用することが多い その他 必要に応じて 亜鉛剤, 他の Vit 剤, カルニチンなどを補充する
85 鉄剤投与600 500 GPT*10 Fe*3 TIBC TSAT*10 フェリチン Vit*10 Hb*3 MCV/3 MCH 106 53 37 35 33.6 418 101 400 10.8 33 300 25.8 31.6 30 31 200 247 170.7 9.6 15 8.6 12.2 29 51 27 13.6 2.2 0 Apr-06 Jun-06 Aug-06 Oct-06 Dec-06 Feb-07 Apr-07 Jun-07 Aug-07 Oct-07 シナール経口投与 Dec-07 Feb-08 25
薬剤血中濃度からみた栄養補助剤の安全 な投与量は? VitC: シナール シナール200mg を毎日か隔日で経口投与 ( 基準値 4.7~17.8 17.8μg/mL) VitB12: メチコバール メチコバール1~1.5mg を毎日経口投与 ( 基準値 233~914pg/mL 914pg/mL) 葉酸 : フォリアミン フォリアミン5mg を週 1~2 回経口投与 ( 基準値 3.6~12.9ng/mL 12.9ng/mL) 亜鉛 : プロマック プロマック0.5~1.0 1.0g を毎日経口投与 ( 基準値 59~135 135μg/dL) カルニチン : 400~600mg 400~600mg を毎 HD 後経口投与 ( 遊離カルニチン基準値 36~74 74μmol/L)
まとめ 腎性貧血による透析患者の QOL の低下を防止するために 異常の早期発見のための貧血関連項目の観察は重要である 特に採血データの評価は大切であり これに基づき身体の観察や栄養評価 指導がなされるべきである Hb Ht フェリチン TSAT だけでなく MCV MCH による評価や Ch-E E TG T-ChoT による栄養評価も日常で見ておきたい 透析時の鉄剤の静注投与は ゆっくりと注入されなければならず 注入速度が不適切であることから起こりうる副作用を避けるためには 多忙な終了時間よりも透析中の余裕のある時間帯のほうがよいと思われる トランスフェリンと結合した鉄が透析により捨てられる量はわずかである