Ⅰ-A Crista Terminalis 起源の心房頻拍に対して Non-Contact Mapping System が有用であった 3 症例 天理よろづ相談所病院臨床病理部 CE 部門 柴田正慶 杉村宗典 高橋清香 木村優友 橋本武昌 吉田秀人天理よろづ相談所病院臨床病理部循環器内科吉谷和泰

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Ⅰ-A ICD 頻回作動した Brugada 症候群に対して Quinidine で VF 抑制に著効した一例 京都大学医学部附属病院循環器内科 八幡光彦 早野護 加藤義紘 土井孝浩 静田聡 症例は 36 歳男性 父親が 34 歳で睡眠中に突然死されている患者で, 夜間から早朝にかけて の睡眠中の下

A B V1 Ⅱ Ⅲ 45 V1 Ⅱ V3 Ⅲ V3 avr V4 avr avl avl V4 V5 V5 V6 V6 図 1 体表面12誘導心電図 A 発作時 心拍数220bpm 右軸偏位のregularなwide QRS頻拍を認めた B 非発作時 ベラパミル投与後 洞調律に服した 心拍数112

心臓 ol.42 SUPPL メインテートÑ ワソランÑ タンボコールÑ 21 メインテートÑ アーチストÑ ヘルベッサーÑ メインテートÑ ワソランÑ ベプリコールÑ サンリズムÑ シベノールÑ プロノンÑ ピメノールÑ 2001年 2009年 1st session 心房中隔起源P

頻拍性不整脈 tachyarrhythmias 速く異常な電気興奮が頻拍性不整脈の原因となります. 様々な種類の頻拍性不整脈を鑑別する上で 12 誘導心電図が有用です. その原因の発生部位により以下のように分類されます. 心室性頻拍 : 心室内に頻拍の発生源が存在. 心室頻拍 心室細動 上室性頻拍

AT Termination

Ventricular tachycardia recurrence as an electrical storm three years after radiofrequency ablation in a non ischemic cardiomyopathy and apical aneury

10041 採用口述合併症 O51 10:00-11:00 カテーテルアブレーションによる洞結節動脈障害及び洞結節機能不全の検討 採用 Poster AF P85 14:20-15:20 心房細動カテーテルアブレーション中のヘパリン投与量の検討 採用口述 PVC3 O81 1

恒久型ペースメーカー椊え込み術

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1. 期外収縮 正常なリズムより早いタイミングで心収縮が起きる場合を期外収縮と呼び期外収縮の発生場所によって 心房性期外収縮と心室性期外収縮があります 期外収縮は最も発生頻度の高い不整脈で わずかな期外収縮は多くの健康な人でも発生します また 年齢とともに発生頻度が高くなり 小学生でもみられる事もあ

を示しています これを 2:1 房室ブロックと言います 設問 3 正解 :1 ブルガダ型心電図正解率 96% この心電図の所見は 心拍数 56/ 分 P-P 間隔 R-R 間隔一定の洞調律 電気軸正常です 異常 Q 波は認めません ST 部分をみると特に V1 V2 誘導で正常では基線上にあるべき

Ⅰ-B 右側に移植したペースメーカ上での Cardioversion により リード不全 ペースメーカ本体の故障を生じた VT AV ブロック合併拡張型心筋症の一例 奈良県立医科大学循環器腎臓代謝内科西田卓 御領豊 中嶋民夫 石神賢一 川田啓之 堀井学 上村史朗 斎藤能彦 症例は 68 歳 女性 2


22...J.e.A.u.Q01-07_.O.t

Ⅰ-A 三尖弁輪峡部のブロックライン作成中に頻拍様式が変化し 右心房側壁の切開線 を同定して治療し得た開心術後心房頻拍の 1 例 国立病院機構京都医療センター循環器内科 (1) 臨床工学科 (2) 安珍守 (1) 柳澤雅美 (2) 中村健志 (2) 小川尚 (1) 赤尾昌治 (1) 背景 Super

カテーテルアブレーション治療のご説明


37表紙

更生相談・判定依頼のガイド

口述抄録発作性心房細動に対するクライオバルーンアブレー カテーテルアブレーション関連秋季大会 205 OS3 心房細動アブレーション中に冠攣縮による左右冠動脈 同時閉塞を来し心肺停止に陥った 症例 中村俊博, 麻生明見 国立病院機構九州医療センター循環器内科 症例は 5X 歳, 男性 発作性心房細動

心電図読解入門

Ⅰ-A His 束近傍起源の PVC 非持続性 VT に対してカテーテルアブレーションを行った 3 症例 高清会高井病院 循環器科 夏山謙次 山口和重 篠原昇一 上田一也山崎雅裕 佐々木靖之 久我由紀子 辻本充吉田尚弘 浅輪浩一郎 木戸淳道 西田育功 臨床工学技師 山口千晶 古賀和也 小川聡 His

1 正常洞調律 ;NSR(Normal Sinus Rhythm) 最初は正常洞調律です P 波があり R-R 間隔が正常で心拍数は 60~100 回 / 分 モニター心電図ではわかりにくいのですが P-Q 時間は 0.2 秒以内 QRS 群は 0.1 秒以内 ST 部分は基線に戻っています 2 S

Microsoft Word - 12川口_不整脈.doc

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心内膜側アプローチのみでは根治できず、心外膜アブレーションが有用であった特発性心室頻拍の一例

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カテーテルアブレーション関連秋季大会 205 CP3 部分肺静脈還流異常を伴った心房細動の一例 下條将史, 淡路喜史, 石原敏和, 風間信吾, 岩田悦男, 近藤清乃, 岩川直樹, 青山盛彦, 谷村大輔, 加藤俊昭, 佐野宏明, 加藤林也 名古屋掖済会病院循環器内科 症例は 68 歳男性 数か月前より

登録演題採否結果 HP.xls

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心電図判読講座  ~第一回 肥大・拡大~

心電図33-3

心房細動1章[ ].indd

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本文(第38回).smd

第18回阪神アブレーション電気生理研究会

Clinical Training 2007

大学教職員の心臓検診の現状 * 和井内由充子 大学保健管理センターの主要業務のひとつに 健康診断とそれに基づく健康管理がある 突然 死にもつながる心疾患の早期発見と管理は重要 である 大学生の心疾患管理に関しては以前報 告 1-6) した 大学のもうひとつの主要構成員で ある教職員の管理の現状を今回

2. 心房細動 心房粗動 心房頻拍 上室性頻脈性不整脈に対する房室ブロック作成術 心室期外収縮 心室頻拍 小児における特殊性 15 Implantable Cardioverter-Defibrillator; ICD 15 1.ICD に

P. 1 P9. Introducer P10. ) ) 2 P11. 1 P12. polytetrafluoroethylene 1 P13. P14. P15. 1 P16. twiddler syndrome 1 P1. h 141

心電図がキライな理由 胸部誘導の肋間がわかりにくい 電極の付け間違いをしていないか不安 結果を聞かれるのがイヤ 患者が女性だと ちょっと 難解な用語ばかり AF? AFL? VT? VF? PSVT? SPVC? PVC? VPC? APC? あぁぁー??? 2

21...J.e.A.u.Q07_28_.v...O....

26 回カテーテルアブレーション委員会公開研究会述抄録第 O23 心尖部瘤の心外膜側アブレーションが奏功した中部閉 塞性肥大型心筋症に伴う心室頻拍の 例 水谷吉晶, 因田恭也, 伊藤唯宏, 長尾知行, 奥村諭, 加藤寛之, 柳澤哲, 山本寿彦, 石川真司, 吉田直樹, 平井真理 2, 室原豊明 名古

第18回阪神アブレーション電気生理研究会

埼玉医科大学電子シラバス

Microsoft Word (発出版)適正使用通知案(冷凍アブレーション)

心臓血管外科・診療内容

循環器 Cardiology 年月日時限担当者担当科講義主題 平成 23 年 6 月 6 日 ( 月 ) 2 限目 (10:40 12:10) 平成 23 年 6 月 17 日 ( 金 ) 2 限目 (10:40 12:10) 平成 23 年 6 月 20 日 ( 月 ) 2 限目 (10:40 1

生理検査部門 ( 日 ) 富山市民病院検査科浅井泰代

第 3 節心筋梗塞等の心血管疾患 , % % % %

マネージャー

障害程度等級表 心臓機能障害 1 級 心臓の機能の障害により 自己の身辺の日常生活活動が極度に制限されるもの 2 級 - 3 級 心臓の機能の障害により 家庭内での日常生活活動が著しく制限されるもの 4 級 心臓の機能の障害により 社会での日常生活活動が著しく制限されるもの

受給者番号 ( ) 患者氏名 ( ) 告示番号 72 慢性心疾患 ( ) 年度小児慢性特定疾病医療意 書 新規申請用 経過 ( 申請時 ) 直近の状況を記載 2/2 薬物療法 強心薬 :[ なし あり ] 利尿薬 :[ なし あり ] 抗不整脈薬 :[ なし あり ] 抗血小板薬 :[ なし あり

 台東 不整脈セミナー

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超音波セミナー「症例から学ぶ」 ~こんな技術・知識が役立った!!検査から報告書作成まで~ 心臓領域

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35表紙

心臓血管外科カリキュラム Ⅰ. 目的と特徴心臓血管外科は心臓 大血管及び末梢血管など循環器系疾患の外科的治療を行う診療科です 循環器は全身の酸素 栄養供給に欠くべからざるシステムであり 生体の恒常性維持において 非常に重要な役割をはたしています その異常は生命にとって致命的な状態となり 様々な疾患

d 運動負荷心電図でSTの低下が0.1mV 以上の所見があるもの ( イ ) 臨床所見で部分的心臓浮腫があり かつ 家庭内での普通の日常生活活動若しくは社会での極めて温和な日常生活活動には支障がないが それ以上の活動は著しく制限されるもの又は頻回に頻脈発作を繰り返し 日常生活若しくは社会生活に妨げと

スライド 1

第 4 回桜ヶ丘循環器カンファレンス 最新の不整脈治療 ~ おねだん以上 選べるしあわせ ~ 鹿児島大学病院心臓血管内科助教市來仁志 Reprint is prohibited. / 本資料の無断転載 複写を禁じます.-----

第5章 体液

P001~017 1-1.indd

36プログラム.indd

2005年 vol.17-2/1     目次・広告

心房細動の機序と疫学を知が, そもそもなぜ心房細動が出るようになるかの機序はさらに知見が不足している. 心房細動の発症頻度は明らかに年齢依存性を呈している上, 多くの研究で心房線維化との関連が示唆されている 2,3). 高率に心房細動を自然発症する実験モデル, 特に人間の lone AF に相当する

心電図検査 設問 歳 女性 右胸心の 12 誘導心電図を図 1 に示す 正しいものはどれか a. I 誘導で P 波 QRS 波 T 波は陰性である b. avr 誘導で T 波は陽性である c. 胸部誘導 V1~V6 のすべてで R/S>1 である d. 広範囲な前壁中隔心筋梗塞を疑う

臨床研究実施計画書

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改訂にあたって Sicilian Gambit J-RHYTHM Ⅰ 序文 CAST Na Vaughan Williams Sicilian Gambit Sicilian Gambit CD-ROM ガイドライン作成の基本方針. Sicilian Gambit... 2

監修 作成作成ご協力者 氏名 有本貴範 所属 山形大学医学部内科学第一講座助教

01 表紙

日本内科学会雑誌第106巻第2号

直接還流するように血行動態を修正する手術 ) を施行する ただ 順調なフォンタン循環であっても通常の慢性うっ血性心不全状態であるため いつかは破綻していくこととなる フォンタン型手術は根治的手術ではない また フォンタン型手術適応外となった群には 効果的な薬物治療はなく ACE 阻害薬 利尿薬の効果

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図 1 来院時 12 誘導心電図 12 誘導心電図 : 洞調律 HR 73 bpm 上室性期外収縮の頻発を認める 繰り返す心房細動が検出されていた ( 図 3, C) 外来診察時に家人も含めて詳細に病歴を聴取したところ, 以前より重度のいびきを認めていることが明らかとなった そこでPulsleep

188-189

口述抄録アブレーションカテーテルの単極誘導電位におけるノ カテーテルアブレーション関連秋季大会 2015 CO-O1 心室性不整脈に対する PaSo TM の新しい使用方法 一柳宏 1, 因田恭也 2, 佐藤有紀 1, 服部哲斎 1, 吉田直樹 2, 相木一輝 1, 西本暁彦 1, 藤掛祐美 1,

Microsoft Word - 日本語要約_4000字_.docx

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第4回平岡不整脈研究会 プログラム

心臓弁膜症とはどんな病気 心臓にある弁の異常による病気の総称です 心臓には4つの部屋があり 各部屋の間には血液が 一方向に流れるよう片開きの扉の働きをする弁 逆流防止弁 があります 弁膜の異常は狭窄と逆 流 閉鎖不全 の2つがあります 狭窄は扉の開きが悪くなり 心臓の次の部屋や動脈に血液が送 り出さ

日産婦誌59巻7号研修コーナー

背景心房細動 (AF) では その持続及び病態の進行により 心房筋の電気的 構造的リモデリングと総称される心房筋の不応期の短縮 伝導時間の延長及び心房筋の脱落 線維化などの変化が生じることが知られており それを反映した電気生理学的 解剖学的諸指標によるカテーテル アブレーション後の再発予測が報告され

また カスタムメイドの 1Fr 電極カテーテルを用いて in vivo で心臓電気生理学検査を施行し His 束心電図記録を行った さらに ex vivo の検討として 摘出心を Langendorff 還流し 電位感受性色素 (di 4-ANEPPS) および高速 CMOS カメラシステムを用いて

J 波を隣接する 2 誘導以上における QRS 終末部の 0.1mV 以上のスラーあるいはノッチ型の上昇を認める場合と定義した 10-13,16,17 WPW 症候群症例では 高周波心筋焼灼術前後で J 波の評価を行った カルディアックメモリーの影響を検討するため 高周波心筋焼灼術直後および術後最も

症例_佐藤先生.indd

第 26 回 カテーテルアブレーション 委 員 会 公 開 研 究 会 CP3 新 たに 出 現 した 室 房 伝 導 路 の 診 断 にペーシング 周 期 の 異 なるpara Hisian pacingが 有 用 であった 例 金 山 純 二, 野 田 崇, 木 村 義 隆, 丸 山 将 広,

058 肥大型心筋症

概要 214 心室中隔欠損を伴う肺動脈閉鎖症 215 ファロー四徴症 216 両大血管右室起始症 1. 概要ファロー四徴症類縁疾患とは ファロー四徴症に類似の血行動態をとる疾患群であり ファロー四徴症 心室中隔欠損を伴う肺動脈閉鎖 両大血管右室起始症が含まれる 心室中隔欠損を伴う肺動脈閉鎖症は ファ

「手術看護を知り術前・術後の看護につなげる」

ケ心ア房ガ細イド動患者さんとご家族の方へ

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8. 胸部 X 線写真 (4 月 11 日 ) 心臓 大血管陰影 ( 右第 1 2 弓 左第 1 4 弓 ) X 線像 : 拡大 の意義 左房拡大所見 心臓の血行力学的回転 心胸郭比の求め方と正常値 心不全における X 線写真の肺野所見 ( 血流の再分布 間質性肺水腫 肺胞性肺水腫 ) 9. 心臓超

循環器系疾患 特発性拡張型心筋症 1. 概要拡張型心筋症は 心筋収縮と左室内腔の拡張を特徴とする疾患群であり 高血圧 弁膜性 虚血性 ( 冠動脈性 ) 心疾患など原因の明らかな疾患を除外する必要がある 2. 疫学 1998 年に施行された厚生省の特発性心筋症調査研究班による全国調査では 拡張型心筋症

心不全とは?(Fig.3) 心機能低下に起因する循環不全 と定義され 心臓が全身の組織における代謝の必要量に応じて 血液を十分駆出できない状態です 発症の仕方により 急性心不全 (acute heart failure:ahf) と慢性心不全 (chronic heart failure:chf)

Transcription:

Ⅰ-A Crista Terminalis 起源の心房頻拍に対して Non-Contact Mapping System が有用であった 3 症例 天理よろづ相談所病院臨床病理部 CE 部門 柴田正慶 杉村宗典 高橋清香 木村優友 橋本武昌 吉田秀人天理よろづ相談所病院臨床病理部循環器内科吉谷和泰 花澤康司 貝谷和昭 中川義久 Non-Contact Mapping System(EnSite) は非持続性 多源性の頻拍および血行動態が不安定な頻拍に対して有用であるとされている 今回 Crista Terminalis(CT) が関与していると考えられた持続性および非持続性心房頻拍 (AT) に対して EnSite が有用であった 3 症例を経験したので報告する この 3 症例の EnSite Array の留置場所は いずれも SVC に向けて垂直に留置した 症例 1 60 歳女性 Non-sustained AT に対して EnSite を使用した EPS では ISP 負荷下で右房 AT が誘発され EnSite 上では CT の低位起源の focal AT が疑われた Exit と思われる部位は洞調律下で推測された CT のやや前方にあり同部位を通電した後 CT 後側からも breakout する頻拍も認め追加焼灼を加えて誘発不能となった 術後の詳細な解析結果から どちらの AT も起源は同じものと推定された 症例 2 62 歳女性 ECG 上 LongRP の非持続性頻拍が捕らえられており EPS では CSos からの期外刺激で同様の頻拍が容易に誘発された RV 期外刺激では V-A-A-V のシーケンスで頻拍が出現 再現性をもって誘発され AT と診断 EnSite 上 AT 起源は CT の高位にあり その前方に Preferential pathway が確認された 頻拍中に Exit と思われる部位を通電すると頻拍は一時的に acceleration した後停止した 症例 3 65 歳女性 EPS のプログラム刺激では頻拍は誘発されず ISP 負荷に伴い AT は spontaneous に出現 その後はカテ刺激でも頻拍は容易に誘発されるも持続性には乏しかった EnSite 上 AT 起源は CT の高位と低位の少なくとも 2 つの起源があると考えられた 頻拍中は T 波の overlap があり明らかな preferential pathway の同定は出来なかったが Exit と思われる部位を通電し ISP 負荷下でも誘発不能なことを確認し終了とした 考察 以上 3 症例はその後 AT の再発無く順調な経過である 右房起源の心房頻拍では CT がその好発部位であるが 今回の 3 症例からも推察されるように 機序は micro-reentry や automaticity など症例によって様々であると考えられる しかし EnSite を用いれば Array が近接していることもあり詳細な解析が可能である 結語 Non-Contact Mapping System により Crista Terminalis 起源の心房頻拍は非持続性 多源性のものであっても高い有効性で根治が可能であると考えられる

Ⅰ-B 2 種類の非通常型心房粗動および通常型心房粗動に対して Carto XP を用いてアブレーションを施行した僧帽弁置換術後の 1 症例 滋賀県立成人病センター循環器科 天谷直貴 西尾壮示 張田健志 石井充 武田晋作 竹内雄三 岡田正治 羽田龍彦 小菅邦彦 池口滋 症例は 60 歳女性 2001 年 12 月感染性心内膜炎 うっ血性心不全および僧帽弁閉鎖不全 (severe MR) にて入院となり 内科的治療にて軽快 2002 年 3 月 20 日に僧帽弁置換術を施行 同年 4 月心房粗動のため DC にて洞調律に回復 2006 年 8 月には心房粗動がみられ DC にて洞調律化 以後サンリズムを服用していたが 2008 年 3 月に心房粗動再発 アミサリンおよびワソランが無効なためカテーテルアブレーション目的にて入院となった 入室時に認められていた非通常型心房粗動 (AFL1) はカテーテル操作にて洞調律化したため 右心房からの期外刺激にて誘発を行ったところ通常型心房粗動 (AFL2) が出現した AFL2 に対して 三尖弁下大静脈峡部を通電している最中に AFL2 から非通常型心房粗動 (AFL3) に移行した AFL3 を Carto でマッピングを行ったところ 右心房の前側壁を後方から前方に旋回する回路が同定された 僧帽弁置換術の際に 右房切開 ( 前側壁を切開 ) による経心房中隔アプローチを行っていたため AFL3 は右房の切開線と下大静脈側の脱血管挿入部の間を channel とするマクロリエントリーと考えられた そこで channel の間を通電したところ AFL3 の停止が得られた AF3 停止後に channel の一方向性ブロック ( 後方から前方 ) を Carto にて確認した さらに 右心房からの期外刺激にて誘発を行ったところ非通常型心房粗動 (AFL4) が出現した AFL4 を Carto でマッピングを行ったところ 右心房の前側壁を前方から後方に旋回する回路が同定されたが AFL3 の channel よりも上方に channel が存在した カテーテル操作にて AFL4 は容易に停止したため 洞調律下で channel の間を通電した 最終的に Carto にて AFL4 の channel のブロック ( 前方から後方 ) および三尖弁下大静脈峡部のブロックラインを確認した ベースラインおよびイソプロテレロール負荷にて 心房から高頻度刺激および期外刺激 (3 連 ) を施行しても 心房粗動は誘発されなくなった

Ⅰ-C electro-anatomical map(carto) guide に SVC isolation を行った発作性心房細動の症例 /CARTO を利用した CFAE map 枚方公済病院循環器科天理よろづ相談所病院循環器内科 樋口貴文 貝谷和昭 吉谷泰和 症例は 57 歳, 女性 頻回に認める動悸症状のため近医受診しホルター心電図にて発作性心房細動の診断を受けた 心房細動は incessant form で日中頻回に洞調律と心房細動の移行を繰り返していた 抗不整脈薬による治療を開始され数種類の抗不整脈薬が試されたが効果不十分であったためカテーテルアブレーション目的に紹介された 電気生理学的検査中も心房細動は自然に出現し心房電位のシークエンスより右房あるいは左房中隔由来の期外収縮から心房細動に移行する focal fib. と考えられた ここで CARTO の activation map を使用し心房細動中の心房電位を目視的に 4 段階に分類した CFAE 電位を指標とする CFAE map を両心房に行った (4mmtip-NAVISTAR 使用 ) これにより心房細動に関わる arrhythmogenic area は SVC 中隔側と診断され SVC の隔離を行う事とした 高出力 pacing により横隔膜神経の走行を確認しながら SVC 後壁から自由壁にかけて SVC isolation を行った 洞結節近傍のカテのンタクトにて隔離が完成するとともに心房細動は出現しなくなった 本症例に対しては肺静脈隔離も追加したが治療後ヶ月の経過で再発は認めずアブレーションは有効であったと判断した Focal fib. 症例に対する CARTO map の有用性について考察を加え報告したい

Ⅱ-A 異常自動能とリエントリー機序とが混在した心房頻拍に対しアブレーションを行った2 症例 天理よろづ相談所病院循環器内科 貝谷和昭 花澤康司 吉谷和泰 坂本二郎 三宅誠 本岡真琴 和泉俊明 泉知里 玄博允 中川義久 背景 心房性不整脈の診断において entrainment pacing や electroanatomical mapping(carto) の有用性は多数報告されている しかし複数の頻拍機序や substrate をもった複雑な症例では治療が困難となる症例も存在する 今回異常自動能を機序とする頻拍とリエントリーを機序とする二種の頻拍が同時に認める症例に対し CARTO が有用であった 2 症例について報告する 症例 1 65 歳の女性 器質的心疾患の既往なく高脂血症で近医加療中 2-3 年前より動悸の自覚はあったものの一過性で放置していた 今回全身倦怠感を主訴に近医受診したところ narrow QRS tachycardia を認めアデホスの急速静注が行われたが頻拍の停止に至らず当院に紹介となる 心電図上頻拍は約 150bpm の比較的 regular な頻拍に思われたが 時により短い頻拍周期 (CL) の頻拍も混在し粗細動様であった 多剤薬剤抵抗性であり心房頻拍の疑いで EPS RFCA の適応と考え入院となる 入院時より頻拍は持続 まず CARTO で mapping とした 心房電位のシークエンスより左房由来の頻拍と推定し左房のマッピングから開始 CS 上の心房興奮のシークエンスおよび CL は常に変動を繰り返し安定した頻拍の mapping は困難であった しかし mapping を継続したところ左房の中隔と左心耳周辺に double potential を連続性に認めその間に低電位でかつ fragment した電位が集中する area を認めた これとは別に右上肺静脈入口部 roof 付近に電位として早期性のある point を認めたがこの部位はまず location のみ採用し左房前壁の異常な電位が捉えられる area を substrate とし figure 8 に旋回する macro-reentry が存在すると診断しこの部位の線状焼灼から開始した これにより頻拍のシークエンスは次第に一定の傾向を示すようになり最終的に変動は消失し CL が一定となった しかし頻拍は停止しないため re-map を行ったところ先ほどの右上肺静脈付近から propagation する focal pattern を示した この最早期興奮部位の単回通電にて頻拍は停止した 症例 2 41 歳の女性 3 歳時に Fallot 四徴症で根治術をうけ経過は安定していたが数年前より動悸発作の自覚を認める様になる 非持続性の心房頻拍および心室不整脈の混在を指摘され薬物的加療を行われるも徐脈傾向となるためアブレーション目的で紹介となる ホルター心電図上症状の主たる原因は心房頻拍と考えまず心房頻拍に対しターゲットを絞りアブレーションを行う方針

とし本症例も CARTO を使用し背景より右房の mapping から開始した EPS 中頻拍の誘発は困難で非持続性で複数のパターンのシークエンスと CL が混在する頻拍が誘発された 頻拍は安定して持続しなかったものの誘発を繰り返しながら右房電位を検索した 拡大した右房であったものの低電位で fragment した電位が集中する area は右房自由壁の一部に限局していた 短時間の mapping でこの部位を substrate とする macro-reentry の activation map が一つ得られたためこの area の通電を行い一度頻拍は停止した この後は CSos 近傍を focus とする異常自動能を機序と推測する頻拍が単一再現性をもって誘発されるのみとなりこちらは容易にアブレーションが行えた この後通常型心房粗動が誘発され isthmus 焼灼を加え頻拍は誘発されなくなりセッション終了したが 本症例は当初自由壁の substrate を antidromic に旋回するものと orthodromic に旋回するものおよび CSos の focal tachycardia が混在して誘発されていたものと推測された 結語 どちらの症例も focal tachycardia が臨床的には支配的であった可能性があり治療順序は検討が必要であるが 異常自動能とリエントリーを機序が混在するいわゆる double tachycardia に対し substrate map の有用性を示すものであったと思われる

Ⅱ-B 慢性心房細動に通常型房室結節回帰性頻拍を合併した一例 京都大学医学部附属病院 循環器内科 早野護 静田聡 西山慶 土井孝浩 根津知行 木村剛 北徹 症例 62 才男性 1992 年頃より 飲酒後に動悸を自覚することがあり 2006 年頃より慢性的に脈の不整を自覚するようになった 同年 6 月 健診にて心房細動 (AF) を指摘され 近医を受診 Cibenzoline Pilsicainide Aprindine 等で薬物的除細動を試みられたが 洞調律に復帰せず レートコントロールの方針となった 転居に伴い 2007 年当科に転医 カテーテルアブレーションによる AF 根治を希望され 2007 年 11 月当科入院となった まず電気的除細動を行った上で両肺静脈隔離及び上大静脈隔離を行い 三尖弁輪峡部の線状焼灼を行った 術中 regular narrow QRS tachycardia が頻発し EPS にて通常型の房室結節回帰性頻拍 (AVNRT) であることが確認されたため slow pathway ablation も施行した 術後は合併症なく順調に経過 術後 6 ヶ月現在も洞調律が維持されている 本症例は AF が慢性化する上で AVNRT が影響していた可能性があり 若干の文献的考察を加え報告する AVNRT 右房期外刺激 jump

Ⅱ-C 房室ブロック様の心電図を呈した心房頻拍の一症例 神戸市立医療センター中央市民病院循環器内科 小堀敦志 舟越俊介 木村紀遵 金基泰 安珍守 山根崇史 北井豪 片山美奈子 江原夏彦 民田浩一 木下愼 加地修一郎 山室淳 谷知子 古川裕 30 才男性 以前より労作時動悸 息切れ 立ちくらみを自覚し 会社健診にて心電図異常を指摘された 健診時心電図 ( 下図 ) では 心房期外収縮を伴う II 度房室ブロック として 徐脈の精査および治療目的で紹介入院となった 身体所見 胸部 X 線 心エコー 血液データなどには異常を認めなかった 心臓電気生理検査では 不規則な周期を有する心房興奮が持続し その全心房興奮は左肺静脈を起源としていることが判明した 本症例の全調律はこの心房頻拍であり これにより洞調律が完全に抑制されていると診断した 左肺静脈内の再早期興奮部位は複数箇所みられたため 左肺静脈開口部の電気的隔離焼灼術を施行した 合計 12 回の焼灼により左房 左肺静脈間伝導の消失とともに 洞調律に復した その後の経過観察期間中 洞調律を維持し自覚症状もみられていない 本例は 肺静脈を起源とする不規則な心房頻拍が洞調律を完全に抑制し 特異な心電図を呈した興味深い症例と考え報告する 健診時心電図 (V5)

Ⅱ-D 3 回目のアブレーションにより根治し得た WPW 症候群の一例 滋賀医科大学医学部附属病院循環器内科 不整脈センター 城日加里 八尾武憲 中澤優子 伊藤英樹 芦原貴司 杉本喜久 伊藤誠 堀江稔 副伝導路が心外膜側に斜走して存在する B 型 WPW 症候群に対し 初回アブレーションから 10 年経過後に CARTO system と 8mm tip カテーテルを用いて成功した症例を経験したので報告する 症例は 37 歳男性 1995 年頃から数時間から半日持続する動悸を自覚 1997 年 1 月 23 日同様の動悸出現したため近医受診し ECG にて WPW 症候群と診断され 1 月 27 日当院紹介受診となった 3 月 7 日一度目の EPS およびアブレーション施行 副伝導路は右後側壁に存在し orthodromic AVRT が誘発された 計 39 回の通電を行うも副伝導路の離断には至らず 以後ジソピラミド内服にて経過観察されていた しかし PSVT 再度出現したため同年 5 月 23 日二度目の EPS/ アブレーションを施行 頻拍中および右室心尖部刺激での最早期心房波は右房側壁であったが 洞調律および右房刺激時の最早期心室波は右室下壁側であった AV 時間 40ms と早期性良好な部位での VA 時間は 150ms であり 同部位での焼灼も無効であった また 右房マッピングで右室刺激時の最短 VA 時間は 55ms( 右房側壁 ) であり 同部位での焼灼も無効であった 二度の EPS/ アブレーションで 副伝導路は心房付着端が右房側壁 心室付着端が右室下壁で心外膜側に斜走して存在すると考えられた 以後 medication にて 2-3 回 / 年の発作頻度に安定していたが 2007 年になり発作頻回となったため同年 6 月 8 日 3 度目のアブレーション施行となった CARTO system を用い右室刺激下で右房マッピングを行い副伝導路の心房付着端の検索を行った マッピングの結果 最早期興奮部位は三尖弁輪 7-8 時の方向で電気生理学的弁輪から約 8mm 離れた部位であり 局所電位では fragmented potential を認めた Navistar(D) にて同部位に通電を行ったところ 副伝導路離断に至るもすぐに再発 周辺から弁輪にかけて追加通電を行うも離断には至らず 8mm tip (Ablaze Fantasista M/L) カテーテルに変更し 良好な早期性が得られ且つ X 線透視上 4mm tip での一過性成功部位とほぼ同じ部位で焼灼を行ったところ通電開始数秒で副伝導路を介する室房伝導は消失した なお 焼灼には 40W 50 と高出力を要した 周囲に追加通電を行い終了 現在再発なく経過は良好である

Ⅲ-A Middle cardiac vein 内でのアブレーションが有効であった AVRT の一例 彦根市立病院 循環器科 夏山謙次 綿貫正人 二宮智紀 山田美穂 宮澤豪 益永信豊 日村好宏 我々は Middle cardiac vein 内でのアブレーションが有効であった後中隔 slow Kent の症例を経験したので報告する 症例は 57 歳女性 30 歳頃より動悸発作を自覚していた 発作の頻度が徐々に増加し 近年はベラパミルの内服治療にもかかわらず ほぼ毎日頻脈発作を認めていたためカテーテルアブレーション目的にて紹介となった 頻脈時の心電図では心拍数 138bpm の RP が比較的長い narrow QRS tachycardia であった EPS では心房期外刺激にて容易に頻脈が誘発され 心房の最早期興奮部位は後中隔であった 室房伝導は減衰伝導特性を有し ATP 急速静注により伝導途絶を認めた 頻脈中の右室心尖部刺激にて paradoxical atrial capture が陽性であり 房室結節様の特性を持つ後中隔の slow Kent と診断した 三尖弁輪おより僧帽弁輪後中隔を mapping したが 発作中に冠静脈洞の心房電位より先行する部位は見られなかった また比較的早いと思われる部位での通電も無効であった そこで Middle cardiac vein の mapping を行い 最早期心房興奮部位で通電したところ室房伝導が消失した しかし 3 日後に頻脈が再発したため 1 週間後に再度治療を行い 同部位に対して 8mm チップカテーテルにてアブレーションを施行した その後頻脈の再発を認めていない

Ⅲ-B 多形性非持続心室頻拍を合併した tachycardia induced cardiomyopathy において 1 個所の高周波通電により頻拍が消失した例 高清会高井病院循環器科 臨床工学科 山口和重 辻本充 吉田尚弘 木戸淳道 佐々木靖之 山崎雅裕 久我由紀子 上田一也 篠原昇一 西田育功古賀和也山口千晶 年齢 55 歳男性 coronary に狭窄はなく EF 33% であり DCM と診断されていた NSVT/PVC が holter において 53000beats/day 存在し カテーテルアブレーション目的で入院となった アブレーション時 monofocal PVC が頻発していた為 conventional method で左室内をマッピングした 左室自由壁に PVC に先行すろ pre-potential を認めた 同部位でペーシング施行すると 2 種類の QRS 波形が alternative に capture された 1 つの QRS 波形は頻発している PVC と同じであった QRS に先行する pre-potential が得られたこと perfect pace mapping が得られたことから 同部位で高周波通電開始すると速やかに出現していた PVC は消失し pace mapping で得られた もうひとつの QRS 波形と同じ PVC が出現しその後消失した 3 ヶ月後に施行した hoter 心電図では PVC 357beats/day 心エコーで EF:55% に改善していた Bidirectional VT は時に見かけるが pace mapping で 2 種類の QRS morphology が交互に得られることは珍しいと考え報告する

Ⅲ-C 多形性心室頻拍と複数単形性頻拍に対してカテーテルアブレーションが有効であった陳旧性心筋梗塞の一症例 近畿大学医学部奈良病院循環器内科 高の原中央病院 大林内科 循環器科クリニック 横田良司 上森宜嗣 清水良栄 溝部道生 羽場一直 胡内一郎 城谷学平井拓大林和彦 症例は 56 歳男性 既往歴に高血圧 糖尿病 高脂血症があり 51 歳時に急性心筋梗塞 ( 下壁 ) を起こした #2 にステントが留置され その後 #6 にもステントが留置され狭心症はなかった 入院中の心電図で WPW 症候群を指摘されたがそれまでに動悸の既往はなかった その後短時間の動悸を自覚していたが次第に増悪 外来で心電図上右脚ブロック左軸偏位の wide QRS tachycarida を認めプロカインアミド静注が有効であった wide QRS tachycarida は 12 誘導上少なくとも 2 種類あり 左脚ブロック型もあった 単形性で持続するが途中に QRS が変化し 多形性を呈することがあった また 冠動脈造影検査では冠動脈に有意な狭窄はなかった 電気生理学的検査で右室心尖部からの単発期外刺激で wide QRS tachycardia が誘発された 頻脈中の冠状静脈洞からのペーシングでは房室解離を示したため wide QRS tachycarida は心室頻拍と診断した 比較的血行動態は安定していたため 頻拍時の拡張期電位 concealed entrainment post-pacing interval termination without capture などを指標に中隔よりの下壁中部付近を通電し頻拍は停止した 再度誘発を試みると 血行動態の安定した多形性頻拍が生じた 拡張期電位は QRS 波形の変化に応じて明瞭な場合と不明瞭な場合があったが その部位で通電した 焼灼中にまず拡張期電位の見られる波形が消失し 単形成心室頻拍に収束した後に停止した 右室心尖部刺激で持続性頻拍は誘発されなくなり終了した 複数の持続性単形性頻拍および多形性心室頻拍を示しカテーテルアブレーションにより治療された陳旧性心筋梗塞の一例を経験したので報告する