2015 年 3 月 26 日放送 第 29 回日本乾癬学会 2 乾癬本音トーク乾癬治療とメトトレキサート 名古屋市立大学大学院加齢 環境皮膚科教授森田明理 はじめに乾癬は 鱗屑を伴う紅色局面を特徴とする炎症性角化症です 全身のどこにでも皮疹は生じますが 肘や膝などの力がかかりやすい場所や体幹 腰部

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膿疱性乾癬の効能追加 ( 承認事項の 部変更承認 ) に伴う改訂 改訂内容 ( 該当部のみ抜粋 ) 警告 1.~3. 4. 関節リウマチ患者では, 本剤の治療を行う前に, 少なくとも 1 剤の抗リウマチ薬等の使用を十分勘案すること. また, 本剤についての十分な知識とリウマチ治療の経験をもつ医師が使

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乾癬と掌蹠膿胞症の診断と最新の治療 福岡大学医学部皮膚科学教室今福信一 (2016 年第 17 回博多リウマチセミナー ) 乾癬はかつては慢性の炎症により角化の異常が生じる 炎症性角化症 と理解されてきたが その後の治療の進歩により皮膚のみならず関節炎や症状を呈する炎症性疾患と認識されるようになって

2018 年 10 月 4 日放送 第 47 回日本皮膚アレルギー 接触皮膚炎学会 / 第 41 回皮膚脈管 膠原病研究会シンポジウム2-6 蕁麻疹の病態と新規治療法 ~ 抗 IgE 抗体療法 ~ 島根大学皮膚科 講師 千貫祐子 はじめに蕁麻疹は膨疹 つまり紅斑を伴う一過性 限局性の浮腫が病的に出没

通常の単純化学物質による薬剤の約 2 倍の分子量をもちます. 当初, 移植時の拒絶反応抑制薬として認可され, 後にアトピー性皮膚炎, 重症筋無力症, 関節リウマチ, ループス腎炎へも適用が拡大しました. タクロリムスの効果機序は, 当初,T 細胞のサイトカイン産生を抑制するということで説明されました

1. 医薬品リスク管理計画を策定の上 適切に実施すること 2. 国内での治験症例が極めて限られていることから 製造販売後 一定数の症例に係るデータが集積されるまでの間は 全 症例を対象に使用成績調査を実施することにより 本剤使用患者の背景情報を把握するとともに 本剤の安全性及び有効性に関するデータを

日本皮膚科学会雑誌第117巻第14号

使用上の注意 1. 慎重投与 ( 次の患者には慎重に投与すること ) 1 2X X 重要な基本的注意 1TNF 2TNF TNF 3 X - CT X 4TNFB HBsHBcHBs B B B B 5 6TNF 7 8dsDNA d

乾癬の要因 遺伝的要因乾癬の原因ははっきりとはまだわかっていませんが発症にはサイトカインの TNFα IL-17 等の関連があり 近年 乾癬は関節リウマチやクローン病と並ぶ代表的な Th17 細胞性慢性炎症疾患と捉えられています 環境的要因 外的要因 : 気候 ストレス 感染 ( 風邪など ) 喫煙

乾癬なら新しい皮膚科学|皮膚病全般に関する最新情報を載せた皮膚科必携テキスト

序 乾癬治療は,2010 年に皮膚科領域で初となる抗体医薬 ( 抗 TNF- α 抗体製剤 ) が承認されたのを皮切りに, エポックメイキングな 生物学的製剤時代 に突入した. その 1 年後には抗 IL-12/23 p40 抗体も後を追うように承認の運びとなり, それら計 3 剤について, 使用マ

汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

10038 W36-1 ワークショップ 36 関節リウマチの病因 病態 2 4 月 27 日 ( 金 ) 15:10-16:10 1 第 5 会場ホール棟 5 階 ホール B5(2) P2-203 ポスタービューイング 2 多発性筋炎 皮膚筋炎 2 4 月 27 日 ( 金 ) 12:4

改訂後改訂前 << 効能 効果に関連する使用上の注意 >> 関節リウマチ 1. 過去の治療において 少なくとも1 剤の抗リウマチ薬 ( 生物製剤を除く ) 等による適切な治療を行っても 疾患に起因する明らかな症状が残る場合に投与すること 2. 本剤とアバタセプト ( 遺伝子組換え ) の併用は行わな

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日本内科学会雑誌第98巻第12号

ルミセフによる治療を受ける方へ

治験だより(2010年春号)No.13

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汎発性膿庖性乾癬の解明

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かん せん 乾癬とは? おもに皮膚に症状が現れ よくなったり悪くなったりを繰り返します 関節に痛みや腫れ 変形がみられることもあります 乾癬の人はどのくらいいるのでしょう? 本の患者さんは約 43 万人 増加傾向にあるといわれています 皮膚が赤く盛り上がり 銀白色のフケのようなものがポロポロとはがれ

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D961H は AstraZeneca R&D Mӧlndal( スウェーデン ) において開発された オメプラゾールの一方の光学異性体 (S- 体 ) のみを含有するプロトンポンプ阻害剤である ネキシウム (D961H の日本における販売名 ) 錠 20 mg 及び 40 mg は を対象として

第1回肝炎診療ガイドライン作成委員会議事要旨(案)

会が認定した主研修施設 研修施設, および同様の施設条件を満たすことを日本皮膚科学会生物学的製剤検討委員会が承認した施設 ( 主に基幹病院 ) が該当し, また TNFα 阻害薬使用可能施設としてこれまでに承認されている施設を, ウステキヌマブを含めた生物学的製剤使用承認施設とする なお, 夜間休日

抗ヒスタミン薬の比較では 抗ヒスタミン薬は どれが優れているのでしょう? あるいはどの薬が良く効くのでしょうか? 我が国で市販されている主たる第二世代の抗ヒスタミン薬の臨床治験成績に基づき 慢性蕁麻疹に対する投与 2 週間後の効果を比較検討すると いずれの薬剤も高い効果を示し 中でもエピナスチンなら

資料 3 1 医療上の必要性に係る基準 への該当性に関する専門作業班 (WG) の評価 < 代謝 その他 WG> 目次 <その他分野 ( 消化器官用薬 解毒剤 その他 )> 小児分野 医療上の必要性の基準に該当すると考えられた品目 との関係本邦における適応外薬ミコフェノール酸モフェチル ( 要望番号

未承認薬 適応外薬の要望に対する企業見解 ( 別添様式 ) 1. 要望内容に関連する事項 会社名要望された医薬品要望内容 CSL ベーリング株式会社要望番号 Ⅱ-175 成分名 (10%) 人免疫グロブリン G ( 一般名 ) プリビジェン (Privigen) 販売名 未承認薬 適応 外薬の分類

また 同じく本調査を監修した日本最大の乾癬患者支援団体である日本乾癬患者連合会の柴崎弘之会長は このたびの調査から 50% の中等症 重症の乾癬患者さんが皮膚病変の完全な消失を達成したいという治療目標を本当は持っていることが示されました 患者さんご自身が 疾患と治療オプションについて正しい知識を得て

性の症例や 関節炎の激しい症例に推奨されるが 副作用 ( 肝障害 骨髄抑制 間質性肺炎など ) に留意し 十分なインフォームドコンセントに配慮する必要がある 妊娠までの最低限の薬剤中止期間は エトレチナートでは女性 2 年間 男性 6か月 メトトレキサートでは男女とも3か月とされている TNFα 阻

ある ARS は アミノ酸を trna の 3 末端に結合させる酵素で 20 種類すべてのアミノ酸に対応する ARS が細胞質内に存在しています 抗 Jo-1 抗体は ARS に対する自己抗体の中で最初に発見された抗体で ヒスチジル trna 合成酵素が対応抗原です その後 抗スレオニル trna

2017 年 2 月 1 日放送 ウイルス性肺炎の現状と治療戦略 国立病院機構沖縄病院統括診療部長比嘉太はじめに肺炎は実地臨床でよく遭遇するコモンディジーズの一つであると同時に 死亡率も高い重要な疾患です 肺炎の原因となる病原体は数多くあり 極めて多様な病態を呈します ウイルス感染症の診断法の進歩に

2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

2011 年 9 月 29 日放送第 74 回日本皮膚科学会東京支部学術大会 6 教育講演 4-1( 膠原病 ) 皮膚限局型エリテマトーデスの病型と治療 埼玉医科大学皮膚科教授土田哲也 本日は 皮膚限局性エリテマトーデスの病型と治療 についてお話させていただき ます 言葉の問題と病型分類エリテマトー

己炎症性疾患と言います 具体的な症例それでは狭義の自己炎症性疾患の具体的な症例を 2 つほどご紹介致しましょう 症例は 12 歳の女性ですが 発熱 右下腹部痛を主訴に受診されました 理学所見で右下腹部に圧痛があり 血液検査で CRP 及び白血球上昇をみとめ 急性虫垂炎と診断 外科手術を受けました し

(別添様式1)

関節リウマチ ( RA) 治療薬の効果評価法と応答性の個人差に関する 遺伝要因の検討 Studies on Scoring Methods of Drug E fficac y and G enetic Factors Associat ed with Inter-p atient Variab i

線に及ぶ 4 パッチテスト 光パッチテストで多数の陽性物質が検出されるが それらの抗原によるアレルギー反応は直接原因ではない 5 病理組織学的に湿疹 皮膚炎群の所見を示し 時に真皮内に異型リンパ球の浸潤がみられる などです なお 現在までに本疾患の原因は解明されていません 慢性光線性皮膚炎の臨床像次

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知っておきたい関節リウマチの検査 : 中央検査部医師松村洋子 そもそも 膠原病って何? 本来であれば自分を守ってくれるはずの免疫が 自分自身を攻撃するようになり 体のあちこちに炎 症を引き起こす病気の総称です 全身のあらゆる臓器に存在する血管や結合組織 ( 結合組織 : 体内の組織と組織 器官と器官

佐賀県肺がん地域連携パス様式 1 ( 臨床情報台帳 1) 患者様情報 氏名 性別 男性 女性 生年月日 住所 M T S H 西暦 電話番号 年月日 ( ) - 氏名 ( キーパーソンに ) 続柄居住地電話番号備考 ( ) - 家族構成 ( ) - ( ) - ( ) - ( ) - 担当医情報 医

の主要な治療薬として日本ならびに世界で広く使用されている MTX の使用により 関節リウマチの臨床症状の改善 関節破壊進行抑制 QOL 改善のみならず 生命予後の改善や心血管合併症リスクが軽減されることが示されており 現在の関節リウマチ治療においては必要不可欠な薬剤である 1990 年前後から MT

B型肝炎ウイルスのキャリアで免疫抑制・化学療法を受ける患者さんへ

アトピー性皮膚炎の治療目標 アトピー性皮膚炎の治療では 以下のような状態になることを目指します 1 症状がない状態 あるいはあっても日常生活に支障がなく 薬物療法もあまり必要としない状態 2 軽い症状はあっても 急に悪化することはなく 悪化してもそれが続かない状態 2 3

東邦大学学術リポジトリ タイトル別タイトル作成者 ( 著者 ) 公開者 Epstein Barr virus infection and var 1 in synovial tissues of rheumatoid 関節リウマチ滑膜組織における Epstein Barr ウイルス感染症と Epst

ン (LVFX) 耐性で シタフロキサシン (STFX) 耐性は1% 以下です また セフカペン (CFPN) およびセフジニル (CFDN) 耐性は 約 6% と耐性率は低い結果でした K. pneumoniae については 全ての薬剤に耐性はほとんどありませんが 腸球菌に対して 第 3 世代セフ

リウマチ対策(H17~)の評価 と現在の問題点

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2014 年 10 月 30 日放送 第 30 回日本臨床皮膚科医会② My favorite signs 9 ざらざらの皮膚 全身性溶血連鎖球菌感染症の皮膚症状 たじり皮膚科医院 院長 田尻 明彦 はじめに 全身性溶血連鎖球菌感染症は A 群β溶連菌が口蓋扁桃や皮膚に感染することにより 全 身にい

ヒュミラ を投与されている 投与を検討されている皆様へ 体調管理ノート 受診時には必ず持参しましょう 監修 : 東京慈恵会医科大学名誉教授中川秀己先生 No. 使用開始年月年月 お名前

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販売名 製造販売業者 インフリキシマブ BS 点滴静注用 100mg CTH に係る医薬品リスク管理計画書 (RMP) の概要 インフリキシマブ BS 点滴静注用 100mg CTH セルトリオン ヘルスケア ジャパン株式会社 ( 選任製造販売業者 ) 提出年月 有効成分 インフリキシマブ ( 遺伝

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CQ1: 急性痛風性関節炎の発作 ( 痛風発作 ) に対して第一番目に使用されるお薬 ( 第一選択薬と言います ) としてコルヒチン ステロイド NSAIDs( 消炎鎮痛剤 ) があります しかし どれが最適かについては明らかではないので 検討することが必要と考えられます そこで 急性痛風性関節炎の

ACR RA 治療ガイドラインの主な追加 変更点 1) 予後不良因子の有無が除外された 2) 疾患活動性が 3 分割から 2 分割へ変更された 3) 初期治療が DMARD 単独療法に統一された 4) 生物学的製剤として TNF Non-TNF が併記された 5) TOF が追加され

検査項目情報 6475 ヒト TARC 一次サンプル採取マニュアル 5. 免疫学的検査 >> 5J. サイトカイン >> 5J228. ヒトTARC Department of Clinical Laboratory, Kyoto University Hospital Ver.6 thymus a

コセンティクスとは? かんせん コセンティクスは乾癬の症状を引き起こす原因の一つ IL-17A のはたらきをおさえるお薬です 投与できる方 できない方 コセンティクスは 投与できる方とできない方がいらっしゃいます じんじょうせいかんせんかんせつしょうせいかんせんのうほうせい コセンティクスは 尋常性

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ず一見蕁麻疹様の浮腫性紅斑が初発疹である点です この蕁麻疹様の紅斑は赤みが強く境界が鮮明であることが特徴です このような特異疹の病型で発症するのは 若い女性に多いと考えられています また スギ花粉がアトピー性皮膚炎の増悪因子として働いた時には 蕁麻疹様の紅斑のみではなく全身の多彩な紅斑 丘疹が出現し


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られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

「             」  説明および同意書

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2017 年 12 月 28 日放送 第 116 回日本皮膚科学会総会 8 教育講演 14-5 血管性浮腫の診断と治療 横浜市立大学大学院環境免疫病態皮膚科学 准教授猪又直子 はじめに血管性浮腫は 皮膚や粘膜の限局した範囲に生じる深部浮腫で 蕁麻疹の類縁疾患です 近年 国際ガイドラインが発表され メ

抗菌薬の殺菌作用抗菌薬の殺菌作用には濃度依存性と時間依存性の 2 種類があり 抗菌薬の効果および用法 用量の設定に大きな影響を与えます 濃度依存性タイプでは 濃度を高めると濃度依存的に殺菌作用を示します 濃度依存性タイプの抗菌薬としては キノロン系薬やアミノ配糖体系薬が挙げられます 一方 時間依存性

皮疹が出現するメカニズムは不明のものが多いのですが 後天性魚鱗癬を除き 腫瘍細胞が産生する TGF-aや EGF により表皮細胞の増殖が誘導されることが一因であろうとの推測がなされています Leser trélat 兆候は 有名な病態であり 実際 多くの症例が報告されています 最近は皮膚科以外の診療

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(2) レパーサ皮下注 140mgシリンジ及び同 140mgペン 1 本製剤については 最適使用推進ガイドラインに従い 有効性及び安全性に関する情報が十分蓄積するまでの間 本製剤の恩恵を強く受けることが期待される患者に対して使用するとともに 副作用が発現した際に必要な対応をとることが可能な一定の要件

MTX を使用している患者に発症するリンパ増殖性疾患は WHO 分類では 移植後リンパ増殖性疾患や HIV 感染に伴うリンパ増殖性疾患と類縁の Other iatrogenic immunodeficiency associated LPD に分類されている 関節リウマチの治療は 近年激変し 早期の

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2017 年 8 月 9 日放送 結核診療における QFT-3G と T-SPOT 日本赤十字社長崎原爆諫早病院副院長福島喜代康はじめに 2015 年の本邦の新登録結核患者は 18,820 人で 前年より 1,335 人減少しました 新登録結核患者数も人口 10 万対 14.4 と減少傾向にあります

Ⅰ. 改訂内容 ( 部変更 ) ペルサンチン 錠 12.5 改 訂 後 改 訂 前 (1) 本剤投与中の患者に本薬の注射剤を追加投与した場合, 本剤の作用が増強され, 副作用が発現するおそれがあるので, 併用しないこと ( 過量投与 の項参照) 本剤投与中の患者に本薬の注射剤を追加投与した場合, 本

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化膿性汗腺炎におけるアダリムマブの使用上の注意 / 化膿性汗腺炎の診療の手引き アダリムマブ 化膿性汗腺炎診療の手引き策定委員会 照井 1 正 6 鳥居秀嗣 2 大槻マミ太郎 林 7 伸和 3 黒川一郎 8 森田明理 4 佐藤伸一 5 高橋健造 目的 アダリムマブは皮膚科領域において尋常性乾癬, 関

より詳細な情報を望まれる場合は 担当の医師または薬剤師におたずねください また 患者向医薬品ガイド 医療専門家向けの 添付文書情報 が医薬品医療機器総合機構のホームページに掲載されています

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はじめに 全身性エリテマトーデス (SLE) は患者数が少なく 治療法の確立が難しいことから 難病 に指定されています かつては命にかかわることも少なくない病気でしたが 現在では治療法が進歩して 長く付き合うことになる病気に変わってきています この冊子では SLE の病態とその治療法をまとめました

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コセンティクスを使用される患者さんへ

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1 10 年相対生存率に明らかな男女差は見られない わずかではあ

コセンティクスとは? かんせん コセンティクスは乾癬の症状を引き起こす原因の一つ IL-17A のはたらきをおさえるお薬です 投与できる方 できない方 コセンティクスは 投与できる方とできない方がいらっしゃいます じんじょうせいかんせんかんせつしょうせいかんせんのうほうせい コセンティクスは 尋常性

染症であり ついで淋菌感染症となります 病状としては外尿道口からの排膿や排尿時痛を呈する尿道炎が最も多く 病名としてはクラミジア性尿道炎 淋菌性尿道炎となります また 淋菌もクラミジアも検出されない尿道炎 ( 非クラミジア性非淋菌性尿道炎とよびます ) が その次に頻度の高い疾患ということになります

とが多いのが他の蕁麻疹との相違点です 難治例ではこの刺激感のために日常生活に支障が生じ 重篤な随伴症状としてはまれに血管性浮腫 気管支喘息 めまい 腹痛 嘔気 アナフィラキシーを伴うことがあります 通常は暑い夏に悪化しますが 一部の症例では冬期の運動 入浴で皮疹が悪化することがあり 温度差や日常の運

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2015 年 3 月 26 日放送 第 29 回日本乾癬学会 2 乾癬本音トーク乾癬治療とメトトレキサート 名古屋市立大学大学院加齢 環境皮膚科教授森田明理 はじめに乾癬は 鱗屑を伴う紅色局面を特徴とする炎症性角化症です 全身のどこにでも皮疹は生じますが 肘や膝などの力がかかりやすい場所や体幹 腰部や下腿などが好発部位になります 被髪頭部 顔面 臀部 爪などは 難治な部位ですが 被髪頭部では頭部乾癬として 初発症状となることがあります また 爪 ( 爪母 爪床 ) 病変も皮疹が広がるにつれて生じますが 爪乾癬として初発症状となることもあります 乾癬の病型には 尋常性乾癬 関節症性乾癬 乾癬性紅皮症 膿疱性乾癬 滴状乾癬などがあり 皮疹 症状 罹患する病変によって 病型がわかれます 日本における発症率は 0.1 0.2% であるとされますが 大規模疫学調査が行われたことは少なく 正確な患者数の把握はまだできてはおりません 最近では 乾癬の免疫病態が明らかになるとともに 多数の生物学的製剤 ( 抗体療法 ) が行われるようになり 乾癬の発症メカニズムを考え ピンポイントにターゲットを絞った治療が可能となりました 現在の治療方針治療方針の立て方としては 4つの治療が基軸になります 外用 ( ステロイド ビタミン D3) 内服( シクロスポリン エトレチネート ) 光線療法(PUVA ナローバンド UVB) 生物学的製剤 ( アダリムマブ インフリキシマブ ウステキヌマブ ) があります 皮疹が限局性で軽症の場合は ステロイドや活性型ビタミン D3( ビタミン D3) もしくは両剤を配

合した外用薬を中心とした外用療法から開始し 皮疹の範囲の拡大や外用療法ではコントロールが難しい場合には 全身療法としてシクロスポリンやエトレチネートの投与 また光線療法として PUVA(PUVA バス ) やナローバンド UVB を用います 生物学的製剤の登場によって 高い効果となる PASI90, PASI100 の達成や DLQI 寛解が 可能な目標となりました また 関節症性乾癬に対しては 本邦および海外でのガイドラインでも抗 TNFα 阻害薬の投与が第 1 選択です 早期乾癬という概念はまだありませんが 関節炎を起こさないためにも 早い段階での生物学的製剤の導入は 皮疹と症状から考慮する必要があり さらに全身療法となる光線 内服 生物学的製剤をどのように選択していくか またどの時点で光線や内服から生物学的製剤にスイッチするか すなわちトランジションについても今後の課題となります 生物学的製剤 2010 年 1 月から 生物学的製剤 ( 抗 TNFα 阻害薬 ) の使用が可能となり さらに 2011 年 1 月には 抗 IL-12/23 p40 抗体が 使用可能となりました 詳細は 乾癬における生物学的製剤の使用指針および安全対策マニュアル (2011 年版 ) にありますが 生物学的製剤の使用は 成人 (16 歳以上 ) の乾癬患者 ( 全身療法を考慮すべき患者に限る ) が対象患者となっています そこでは 尋常性乾癬および関節症性乾癬 ( 乾癬性関節炎 )( 以下のいずれかを満たす患者 ) 1 紫外線療法を含む既存の全身療法 ( 紫外線療法を含む ) で十分な効果が得られず 皮疹が体表面積 (Body Surface Area:BSA) の 10% 以上に及ぶ患者 2 既存治療抵抗性の難治性皮疹または関節症状を有し QOL が高度に障害されている患者 膿疱性乾癬 ( 汎発型 ) 乾癬性紅皮症が対象となります 投与にあたっては 副作用として注意すべきものは 感染症です 感染症の中でも 呼吸器感染症として細菌性肺炎 結核 ニューモシスティス肺炎など B 型肝炎既感染患者における再活性化 (de novob 型肝炎 ) にも十分な注意が必要です 乾癬における生物学的製剤の使用指針および安全対策マニュアルに従い 適切な使用を行わなければなりません 乾癬治療と MTX 先行する関節リウマチ (RA) では 生物学的製剤をはじめとしてあらたな治療薬が開発されるとともに 治療体系にパラダイムシフトがもたらされました 早期からメトトレキサート (MTX) による積極的な治療を行い 効果不十分の場合 生物学的製剤と併用し タイトコ

ントロール 寛解を目指す治療戦略が考えられるようになりました メトトレキサートとは 葉酸代謝拮抗剤に分類される抗悪性腫瘍薬 ( 抗がん剤 ) と抗リウマチ薬にカテゴリーされるお薬です 1999 年に MTX は リウマトレックスカプセル 2mg として それまでの 2.5mg( 抗がん剤 ) から用量をかえ RA 治療として承認されました 現在では 16mg/ 週まで投与が可能となりました 乾癬治療では 以前から MTX は治療としては用いられていましたが 副作用のマネージ モニタリングの方法が決まっておらず また現在の投与方法である低用量間欠療法では 効果が十分に出ないため その前後に発売されたシクロスポリンに大きく治療の座を渡したかたちとなっていました そのため 生物学的製剤が登場するまで RA の類縁疾患として関節症性乾癬 (PsA) の治療に用いられ 少数指趾型にある程度の効果が得られたことは 経験からもまた報告からも明らかでしたが 使用頻度は高くありませんでした では 生物学的製剤が登場した現在 MTX はどのような乾癬の病態や治療に必要か 再考する必要が生じてきました また その必要性も十分に検討しなければなりません さらには 今後 使用することが可能となるならば 生物学的製剤の使用マネージメントとあわせ さらに併用下での細心の注意を払わなければならなりません 私たち 皮膚科医が 安全にしかも有効性を高く使用するには 乾癬に対する MTX の承認が必要なことはもちろんのこと 十分な診療能力を身につけなければならないと思います MTX 併用による生物学的製剤の使用インフリキシマブとメトトレキサート (MTX) との併用は British association of Dermatologists guideline では インフリキシマブに対する抗体産生を抑制することから 血中濃度が維持され 効果改善が期待されます 使用される MTX は 低用量であり 週に 7.5mg です また European S3-guideline では 7.5-10mg/week の併用で インフリキシマブの長期の効果を維持するとされますが 乾癬での有用性や安全性は明らかではなく 推奨度は +/ となっています 2011 年に発表された American Academy of Dermatology の Guideline (section 6) では 低用量の MTX の併用によって 抗体産生が抑制され 特に 関節症性乾癬において 有用性が期待されるとされます アメリカでは MTX の併用は 関節リウマチ以外 関節症性乾癬でも一般的であり安全に使用されています 関節症性乾癬で MTX が併用される場合 インフリキシマブ投与前から MTX が投与さ

れていることが多く 2 次無効 ( 効果減弱 ) になってからの MTX 投与の有用性は 明らかとなっていませんでした 名古屋市立大学病院において 尋常性乾癬 8 例 関節症性乾癬 9 例 膿疱性乾癬 3 例 膿疱性乾癬と関節症性乾癬を合併した 2 例の合計 22 例の2 次無効例に対して MTX 週に 4-6mg の併用をしたところ 明らかな皮疹 (PASI) の改善がみられました 実際の MTX の併用は 週に 4mg で開始し 効果が十分ではない場合に 6mg/week まで増量を行いました また 副作用軽減のため 葉酸 ( フォリアミン )5mg を MTX の投与の 24 時間後に行いました 2 次無効例に対する有効な一つの対応策になると思われますが 今後 十分な安全性の検討が必要になると思います なお 現在 本邦では MTX は乾癬に対しては適応外使用となります MTX の使用方法 MTX の投与にあたっては 十分に副作用に注意する必要があります 特に 腎機能が低下し egfr が 30ml/min の場合は投与禁忌となります egfr60ml/min 未満では 慎重投与となり 低用量からの開始を行います 併用薬としての非ステロイド系消炎薬の場合や脱水 高齢者の場合にも MTX 投与に際して注意が必要で 投与日には禁酒 水分を多めにとることをお願いしています また 葉酸の投与は MTX の投与量に対して 葉酸 ( 週に 5mg) が 1 以上となるような投与量 すなわち MTX 4mg では効果が減少する可能性がありますが MTX の投与の 24 時間後に全症例で投与し 副作用の軽減をはかるようにしています

また 肝障害や骨髄抑制は用量依存的に対して 日本人に多い 間質性肺炎や MTX 関連リンパ腫は 用量非依存的であるため 検査値のモニタリングを含め 注意が必要となります リンパ腫やリンパ増殖性疾患については 早期に発見して MTX を中止することによって 自然消退が 30% 程度でみられることが知られています また 間質性肺炎は 免疫応答と考えられ 頻度は 1~2% といわれます 用量依存性はなく 葉酸で予防はできないことも知られています 関節リウマチ治療においては 発症者のうち 6 ヶ月以内に 80% が 1 年以内に 90% が発症するといわれており 投与開始初期には十分注意を要します 胸部レントゲン写真 胸部単純 CT KL-6 や SP-D を用いて評価することが重要です