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特集 : ものづくり FEATURE : MONODZUKURI (Art of Design and Manufacturing) ( 解説 ) 航空機向けチタン合金の鍛造工程設計技術 Process Designing Technologies for Titanium Alloy Forging for Aircraft Parts *1 長田卓 Takashi CHODA 大山英人 *2 ( 工博 ) Dr. Hideto OYAMA *3 村上昌吾 Shogo MURAKAMI Titanium alloys are widely used for aircraft parts because of their high specific strength. It is important to control the history of temperature and plastic strain to obtain the necessary microstructures and mechanical properties for titanium alloy forgings. This paper describes the technique of the β process design for Ti-6246 jet engine disks using FEM analysis. まえがき=チタン合金は, 比強度 (=0.2% 耐力 / 密度 ) において他の金属素材より優れており, 世界で使用されているチタン合金鍛造品の50% 以上は軽量化と強度が要求される航空機向け部材である 1 ) 近年の旺盛な旅客需要を背景に民間航空機市場は年率 4 ~ 5 % で拡大しており, リプレースを含めると今後 20 年間で現在の 2 倍以上の航空機が必要になると予想されている 2 ) さらに, 航空機 1 機あたりに使用されるチタン合金の使用割合は近年増加しており, チタン合金鍛造品の需要は増大傾向にある 一方, チタン合金は一般的に難鍛造材料であるといわれているように, 金型への充満性が低く, 形状を確保することが難しい さらに, 航空機向けチタン合金鍛造品, なかでもエンジンディスク, シャフトなどの回転体部品では高い信頼性が要求され, 鍛造時の温度やひずみ, ひずみ速度を制御して材料特性および品質検査の仕様を達成することが必要である また, チタン合金は他の金属素材と比較して, 原料が高価なことに加えて被削性 ( 機械加工性 ) が悪く, 加工費も高い そのため, 航空機用途以外も含めた需要拡大のためには, 品質を確保しつつ, ニアネット化して歩留りを高めることも鍛造技術の観点からは重要となる 本稿では航空機向けチタン合金部品の鍛造技術について述べる 1. 航空機に用いられているチタン合金鍛造品チタン合金鍛造品は様々な航空機機体構造部品およびエンジン部品に使用されている 例えばBoeing 787 型機の構造部材においては, チタン合金の比率は約 15% と従来機種の 2 倍以上に上り,1 機あたりのチタン合金の使用量 ( 推定 ) は100t 前後になる 2 ) これは, 機体重量削 減による燃費改善を目的に, アルミ合金に代えて大量に使用されるようになった炭素繊維強化樹脂 (CFRP) とチタン合金の適合性が良いためである チタン合金は CFRP 部材と締結してもガルバニック腐食が生じにくく, また, 熱膨張率がCFRPと近いために温度変化によるひずみを抑制できる 機体構造部品に用いられる一般的なチタン合金は, Ti-6Al-4V( 略称 Ti-64) 合金であり,80~90% を占める Ti-64は最も汎用的なα-β 合金であり, 各種特性のバランスが良く, これまでの豊富なデータや使用実績がある 一方, 機体構造部品のなかでもランディングギヤと呼ばれる航空機の脚部には, およそ200~400tもの重量の中大型航空機を支え, かつ着陸時の衝撃に耐える必要があるため, 高強度 高靭 ( じん ) 性の材料が求められる 現行 NiCrMo 鋼が主流であるが,Boeing 777 型機やエアバスA380 型機ではNearβ(α-β 合金の中でβ 安定化元素濃度が高い合金 ) の高強度チタン合金 Ti-10V-2Fe- 3Al, またBoeing 787 型機ではTi-5Al-5Mo-5V-3Crといった新しいチタン合金が適用されている 3 ) これらのチタン合金はTi-64より高価であるが, 鍛造性に優れるとともに, 鍛造後に溶体化時効処理を行うことで強度を向上させることができる 航空機エンジンでは, 使用温度が590 以下のファンや圧縮機の部分にチタン合金が多く使用されている 2 ) ファンディスクや低圧圧縮機ディスクにはTi-64 合金が用いられ, 中圧圧縮機ディスクにはNearβのTi-6Al- 2Sn-4Zr-6Mo(Ti-6246) 合金やTi-5Al-2Sn-2Zr-4Cr-4Mo (Ti-17) 合金を溶体化時効処理したものが使用される さらに, 高温となる高圧圧縮機ディスクにはNearα (α-β 合金の中でβ 安定化元素濃度が低い合金 ) のTi- 5.8Al-4Sn-3.5Zr-0.7Nb-0.5Mo-0.35Si 合金 (IMI834) などの * 1 鉄鋼事業部門 チタン本部チタン研究開発室 * 2 鉄鋼事業部門チタン本部 * 3 鉄鋼事業部門チタン本部チタン工場 28 KOBE STEEL ENGINEERING REPORTS/Vol. 64 No. 2(Oct. 2014)

耐熱チタン合金鍛造品が使用されている ファンや圧縮機のディスク, シャフト, ブレードなどの回転体には, 静的強度や疲労強度, 破壊靭性のほか, 超音波探傷試験 (UT) における欠陥検出のしやすさなど, 様々な特性に対して高いレベルが要求される 4 ) 2. チタン合金の熱間鍛造特性チタン合金は図 1 に示すように, 添加元素の種類と添加量によって,α 合金,α-β 合金,β 合金の三つに大別できるが 5 ), 最も一般的に使用されているのはα-β 合金である いずれの合金も結晶構造が最密六方格子の α 相と体心立法格子のβ 相の 2 相から形成され, 各相の量やサイズ, 形態が異なることで鍛造性や機械的特性に大きな違いが生じる Mo,V,Cr,Feなどのβ 安定化元素が多いほどβ 相が多くなり, 一般的に鍛造性が良くなる 一方,β 安定化元素が多くなり過ぎるとβ 変態点 (α+βの 2 相域とβ 単相との遷移温度 ) が低下するために,α-β 鍛造 (α+β 相の 2 相域で鍛造する方法 ) の場合には変形抵抗が高くなり, 鍛造時により大きな力量を要する したがって, 用途や要求特性に応じて適切な合金と鍛造方法の組み合わせを選択する必要がある チタン合金と一般の鉄鋼材料の熱間加工における円柱圧縮試験による応力 -ひずみ線図の例を図 2 に示す 鉄鋼材料が一般に加工硬化挙動を示すのに対し, チタン合金の特に高ひずみ速度での加工においては, ひずみの増加に伴って変形抵抗値が低下する挙動を示している このような加工軟化挙動を示す材料においては, 最初に変形が生じた部位の変形抵抗が下がるため, さらに加工を続けるとその後もその部位が優先的に変形を続けることとなる その結果, 鍛造品内部では不均一なひずみ分布が生じることとなるほか, 型鍛造においては型充満が起こり難くなる また, チタンは比較的熱伝導率が低い材料であるため, 加工中のひずみの不均一によって加工発 熱による温度分布が維持増長されることにより, ひずみに加えて温度分布も不均一となる 一方, チタン合金鍛造品の代表的な製造工程は図 3 に示すとおりであるが, 鍛造後の熱処理温度が通常 β 変態点以下であるため, 鍛造ままの組織状態が製品の組織形態, ひいては特性に大きく影響を及ぼす それゆえチタン合金では, 製品形状を得ることのみならず, 所望の組織 特性を得るためには, 鍛造中の温度やひずみ, ひずみ速度ならびに鍛造後冷却速度のコントロールが極めて重要になる 次章では, 特に鍛造中の温度およびひずみの影響に着目し, 具体的な事例を取り上げながらチタン鍛造品の工程設計の考え方, ならびにそれに必要な技術について紹介する 図 2 チタン合金と鉄鋼材料の高温変形抵抗の模式図 Fig. 2 Schematic illustration of flow stress curve in high temperature 5 ) 図 1 チタン合金の種類と状態概念図 Fig. 1 Phase diagram of titanium alloy 5 ) 図 3 チタン合金鍛造品の製造工程例 ( 模式図 ) Fig. 3 Schematic illustration of titanium forging process 神戸製鋼技報 /Vol. 64 No. 2(Oct. 2014) 29

3. チタン合金の熱間鍛造技術 3. 1 航空機用 Ti-6246 合金ディスクのβプロセス鍛造前述のとおり, 航空機用ジェットエンジンの圧縮機には軽量高強度材としてチタン合金が多く用いられている なかでも, 外周部に動翼を取り付ける回転体ディスク材には, 高度な信頼性が要求されるため鍛造品が使われている ディスクに要求される材料特性は高疲労強度と優れた靭性であり, 適用される合金の一つがTi-6246 である β 変態点以下の温度域 (α+β 域 ) で鍛造加工する方法であるα+β 域鍛造で得られる組織は, 伸長 α 粒が分断されて再加熱により等軸化するため, 等軸 α 粒とマトリックスが微細な針状 αを含むα+β の 2 相組織となるが ( 図 4(a)), この組織は破壊靭性値が低いという特性上の問題がある それを改善する製造法として,β 域加熱による鍛造法 ( 以下,βプロセス鍛造法という) がある このプロセスで得られる組織は, 鍛造中にα 相の析出が少なく, 鍛造後の冷却中にα 相が析出することで図 4(b) のように全面針状組織となり, 高い破壊靭性値が得られる 従来のα+β 域鍛造ディスクの室温での破壊靭性値が30MPa m 1/ 2 レベルである 6 ), 7 ) のに対し,βプロセス鍛造材は50MPa m 1/ 2 以上の値が得られる 8 ), 9 ) 一方,βプロセスにおいては, 鍛造前のβ 域加熱により組織が変態してそれまでの加工履歴の影響がほとんどなくなるため, 鍛造材の特性は最終鍛造時の温度および加工ひずみに大きく左右される そのため, 適正な材料特性を得るためには,βプロセス鍛造加工条件の高度な制御が必要となる 10) 3. 2 βプロセス鍛造の適正条件 ~ 組織 ~ βプロセス鍛造のコンセプトは, 延性と疲労強度を低下させる直線状の粒界 αの抑制と破壊靭性を高める針状 αの促進の観点から, 加工硬化させたβ 相から粒界への α 相の優先析出を抑制することで全面的に針状のα 相を析出させることにある 図 5 に組織面からのプロセス条件範囲を示す 図 5 上図の縦軸は加工温度, 横軸は圧縮率である 実験時の不均一ひずみを考慮するために, 上部の横軸にはFEM 解析により求めた組織観察部 ( 厚さ中心, 半径の 1 / 2 R 部 ) の相当ひずみも示した 図 5 の下部に実験時の代表的なプロセス条件でのミクロ組織を示す 温度が高い領域 (b) では再結晶粗大 β 粒が生成する また, 温度が低くても加工ひずみの少ない領域 (c) では直線状粒界 α の残留する組織となる 温度が低く, 加工ひずみの大きい領域 (d) では針状 αのアスペクト比 ( 長さと幅の比 ) が小さく, 等軸化が進んでいる このように粒内のα 組織が等軸化してしまうと,α+β 域鍛造材の組織と同様になるため破壊靭性値が低下し, き裂伝播速度も速くなる これに対し, 図 5 上図の網掛けを施したプロセス条件範囲では図 5 下のミクロ組織 (a) に代表されるように, 粒界 αが不連続であり, かつ粒内はアスペクト比の大きい ( 細長い ) 針状組織が得られ, 疲労特性が向上できる 10) 3. 3 βプロセス鍛造の適正条件 ~ 材料特性 ~ 前節の金属組織と鍛造条件の関係に加え, 材料特性に及ぼす影響を調査した まず, 加熱温度 1,000, 金型温度 850 の条件で, 圧下率を33% および67% として圧縮加工することによって外径 φ230 厚さ80mmの円柱圧縮鍛造材を製作して機械的特性を調査した ここでは 図 4 チタン合金 Ti-6246 のミクロ組織 Fig. 4 Microstructure of forged Ti-6246 図 5 Ti-6246 合金の β プロセス鍛造条件とミクロ組織 Fig. 5 Influence of temperature and strain on microstructure of Ti- 6246 β processed forging 30 KOBE STEEL ENGINEERING REPORTS/Vol. 64 No. 2(Oct. 2014)

ひずみによる顕著な影響の見られた引張および疲労試験結果を示す なお, 室温での破壊靭性値は, 今回の試験範囲ではひずみ量によらず50MPa m 1/ 2 以上であった 引張試験片は鍛造材の厚さ中心 ( 1 / 2 t ), 1 / 4 t, および表層 10mmの各位置から引張軸が接線方向となるように切り出した後,930 1 hの溶体化および595 8 hの時効処理を施した試料を用いて試験した 図 6 (a) に, 圧縮率 33% および67% の鍛造材における各試験片位置の相当ひずみをFEM 解析により求め, 相当ひずみに対する室温引張特性を示した 引張強度 (UTS), 降伏強度 (YS) には相当ひずみの影響は見られないが, 絞り値 (RA) は相当ひずみが0.5 以下で低下する したがって, 十分な延性を確保するためには少なくとも0.5 以上の相当ひずみを加える必要がある 図 6(b) にジェットエンジンのディスク材で重要な特性の一つである低サイクル疲労 (LCF) の破断寿命に対する相当ひずみの影響を示した 破断寿命は相当ひずみが大きくなると向上する傾向がある 相当ひずみが少ない場合は延性が低いこと, および鍛造相当ひずみの少ない直線状粒界 αを持つ組織では, 負荷応力による転位が粒界 αに堆積しやすいために疲労き裂の発生が粒界 α に沿って起こることで, 疲労寿命が短くなると考えられる 3. 4 βプロセス鍛造解析技術による工程設計上述のように適正条件範囲に温度, ひずみを制御しながら目標のディスク形状を得る鍛造工程を決定するため には変形 - 温度連成 FEM 解析による温度 ひずみ予測を活用することが不可欠である このFEM 解析を高精度に行うための重要な項目の一つがFEM 解析に適用する変形抵抗データの取り扱いである 円柱圧縮試験での荷重 -ストローク測定結果からTi- 6246 の応力 -ひずみ線図を作成すると図 7 のようになり, 前述のとおり, 特に低温では加工軟化の様相を示す しかし, 実際には加工発熱による試験片素材の温度上昇があるため, 温度変化の影響を受けた結果である FEMによる変形 - 温度連成解析では, 加工発熱は別途計算されているため変形抵抗値としては温度一定 ( 恒温 ) 条件での値が必要である そこで, 下記の手法により加工発熱による温度上昇の影響を取り除いた まず, 変形抵抗 σとひずみεの関係を式 ( 1 ) のように仮定した σ=a(t) ( 1.0+Fε n ) ( 1 ) ここに,A(T): 初期変形抵抗値 ( 温度 T とひずみ速度の関数 ),n: 加工硬化指数,F: 係数である 低ひずみ域であれば加工発熱の影響が少ないため, 図 7 の応力 -ひずみ線図の降伏点から変形抵抗の温度とひずみ速度依存性データを構築し, 式 ( 1 ) のA(T) を決定する つぎに, 圧縮試験のストローク- 荷重線図と一致するように変形 - 温度連成解析を行って, 加工硬化指数 n と係数 F の最適化を行った 以上により得られた式 ( 1 ) を用いることで, 図 8 に示すように各温度, ひ 図 7 Ti-6246 の圧縮応力歪線図 Fig. 7 Stress-strain curves of Ti-6246 as measured 図 6 Ti-6246 合金 β プロセス鍛造材の材料特性と加工歪の関係 Fig. 6 Influence of forging strain on tensile properties of Ti-6246 β processed forging 図 8 Ti-6246 の恒温変形抵抗 Fig. 8 Isothermal flow stress of Ti-6246 神戸製鋼技報 /Vol. 64 No. 2(Oct. 2014) 31

図 9 ディスク部品 β プロセス鍛造の温度および歪解析結果 Fig. 9 Calculated results of temperature and strain during disk forging 図 10 Ti-6246β プロセス鍛造ディスクのミクロ写真 Fig.10 Microstructure of β processed disk forging ずみ速度, ひずみにおける恒温変形抵抗が算出可能となる 恒温変形抵抗データを適用したFEM 解析により, 直径約 700mmの実鍛造ディスク品を対象にしてプロセス設計を行った 図 9 に, 決定したβプロセス鍛造条件における鍛造後の形状, 温度 相当塑性ひずみ分布, および鍛造品各部位における鍛造中の温度, 相当塑性ひずみ履歴の解析結果を示す 各部位において, 組織および材料特性の観点から求めた適正条件範囲内にて変形が完了している 以上のような工程設計技術を適用して試作した鍛造品の組織写真の一例を図 10に示す このような針状 α 組織とすることで,50MPa m 1/ 2 を超える高い室温破壊靭性値が得られている むすび= 本稿では, 航空機エンジン用ディスクの鍛造事例を中心に, チタン合金鍛造品の特徴となる鍛造技術を紹介した チタンは, 温度やひずみの精緻な制御による組織, 材料特性の造り込みが必要な, 加工の難しい材料である反面, 鍛造技術による差別化の余地が大きい材料であるといえる 日本国内では,2013 年から日本エアロフォージ株式会社において待望の超大型 5 万トンプレスが稼働し始めた これを活用することで, 日本の航空機向けチタン合金鍛造品の生産量が今後一層向上することが期待されている そのためにも, 形状や温度に留まらず鍛造後の組織や材料特性の高精度な予測も可能とする解析技術の構築, ならびにチタンに代表されるような熱間難加工材の鍛造技術のさらなる高度化を進めていく 参考文献 1 ) 荒木重臣. チタン. 2008, Vol.57, No.1, p.3-7. 2 ) 森口康夫. 金属. 2012, Vol.82, No.3, p.211-217. 3 ) R. R. Boyer et al. Ti-2007 Science and Technology. 2007, Vol.2, p.1255-1262. 4 ) 村上昌吾ほか. 金属. 2013, Vol.83, No.4, p.33. 5 ) 林利昭ほか. R&D 神戸製鋼技報. 1982, Vol.32, No.1, p.36-39. 6 ) 西村孝ほか. R&D 神戸製鋼技報. 1984, Vol.34, No.2, p.89-92. 7 ) H. Yano et al. Titanium Science and Technology. 1984, p.507. 8 ) T. Krull et al. Ti-2003 Science and Technology. 2003, Vol.Ⅲ, p.1871. 9 ) G. Terlinde et al. Ti-2003 Science and Technology. 2003, Vol.Ⅴ, p.2891. 10) 石外伸也ほか. R&D 神戸製鋼技報. 2005, Vol.55, No.3, p.52. 32 KOBE STEEL ENGINEERING REPORTS/Vol. 64 No. 2(Oct. 2014)