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シーズンから シーズンまでに検出されたノロウイルス GⅡ の遺伝子型解析と流行状況の分析 藤井慶樹則常浩太八島加八山本美和子 松室信宏 石村勝之 シーズンから シーズンまでの間に, 広島市で発生した食中毒, 有症苦情及び散発の胃腸炎事例の患者便から検出されたノロウイルス (NoV)GⅡについて遺伝子型解析と流行状況の分析を行った 遺伝子型解析においては,ORF の RNA 依存性 RNA ポリメラーゼ領域から ORF の NS 領域にかけての一連の遺伝子配列を解析し,ORF と ORF の遺伝子領域を組換えたキメラウイルスの検出も含めた解析を行った また, 遺伝子型別の流行状況を分析するに当たり, 各検出株にスコアを割り当て, 算定されたスコアをもとに流行状況を評価した 検出された NoV GⅡの多くがキメラウイルスであることが判明するとともに, NoV GⅡの流行に関しては,GⅡ. の NS 領域分類における新たな遺伝子型亜型の出現がリスク要因として最も重要であり,GⅡ. 以外の遺伝子型 ( 特に,GⅡ. 及び GⅡ.3) では, 新たな組換えパターンのキメラウイルスの出現がリスク要因となることが推察された キーワード : NoV GⅡ, 遺伝子型解析, キメラウイルス, 流行状況の分析, ス コア はじめに NoV はカリシウイルス科に分類されるプラス一本鎖の RNA ウイルスであり, そのゲノムは約 7, 塩基からなり,ORF~3 の 3 つの翻訳領域が存在する ORF はウイルス粒子を構成するカプシド蛋白質 (VP) をコードしており,ORF の NS 領域の塩基配列を用いた遺伝子型分類が抗原性を反映しているとされる ) また,NoV では,ORFORF ジャンクション領域を基点として遺伝子の組換えが起こり ),ORF と ORF の遺伝子領域を組換えたキメラウイルスが出現するため, これらのキメラウイルスの存在も加味した流行状況の解析が必要とされている 3) 今回, シーズンから シーズンまでの間に, 広島市で発生した食中毒, 有症苦情等の集団発生事例 ( 以下, 集団事例 ) 及び散発の胃腸炎事例 ( 以下, 散発事例 ) の患者便から検出された NoV GⅡについて ORF の RNA 依存性 RNA ポリメラーゼ (RdRp) 領域及び ORF の NS 領域を含めた遺伝子型解析を行うとともに, 集団事例及び散発事例で検出された各遺伝子型の検出株にスコアを割り当て, 流行状況の分析を行ったので報告する 方法 供試検体 シーズンから シーズンまでの間に広島市で発生した集団事例の患者便 検体, 散発事例の患者便 検体を用いた なお, 集団事例については各事例から 名の患者便を選択した これらの 7 検体の患者便から検出された計 株の NoV GⅡ( 種類の異なる遺伝子型の株が検出された 検体を含む ) について, 遺伝子型の解析を行った 遺伝子型の解析方法 ORF の RdRp 領域から ORF の NS 領域にかけての一連の遺伝子を増幅するため,P ) GSKR プライマー組を用いた PCR を行い, 約,bp の PCR 産物を得た PCR 産物を ExoSAP-IT(Affymetrix) により精製した後, BigDye Terminator v3. Cycle Sequencing Kit (ABI) を用いて, サイクルシークエンスを行った シークエンス用プライマーとしては,P,GSKR の他に, インナープライマーとして,COGF 及び COGR を使用した場合もあった その後, BigDye Xterminator Purification Kit(ABI) で

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域と NS 領域の遺伝子型が一致したのは,NoV G Ⅱ.P Den Haag b-gⅡ. Den Haag b,nov GⅡ.P New Orleans -GⅡ. New Orleans, NoV GⅡ.P3-GⅡ.3,NoV GⅡ.P-GⅡ. の 種類の遺伝子型のみであり, これら以外に検出された NoV GⅡは, すべてキメラウイルスであった なお, NoV GⅡ.P7-GⅡ.7 については, 検出された当初は ORF 領域の遺伝子型は不明とされ, その後, 新しく P7 型と登録された遺伝子型であるため, キメラウイルスとみなした 系統樹解析 (RdRp 及び NS 領域 ) 最も検出数の多い遺伝子型である NoV GⅡ. とそれ以外の遺伝子型に分けて,RdRp 領域の塩基配列に基づく系統樹解析を行った結果をそれぞれ図 及び に, 同様に NS 領域の塩基配列に基づく系統樹解析を行った結果をそれぞれ図 3 及び に示した NoV GⅡ. 及びそれ以外の遺伝子型ともに,NS 領域では同一の枝に分岐する株が,RdRp 領域では異なる枝に分岐するなど,NS 領域は変異が少なく安定しているのに対して,RdRp 領域では点変異が散見された 3 系統樹解析 ( 同一遺伝子型の RdRp 領域を有する NoV GⅡの比較 ) RdRp 領域が同一の遺伝子型 (P7,, 型 ) に分類されたキメラウイルスについて,RdRp 領域の塩基配列に基づく株間の比較を系統樹解析により行った P7 型に分類された 3 種類のキメラウイルス (NoV GⅡ.P7-GⅡ.,GⅡ.P7-GⅡ.,GⅡ.P7-GⅡ.) は, それぞれ異なる系統に分岐し, 各系統間の塩基配列相同性は.~3.% であった ( 図 ) P 型に分類された 種類のキメラウイルス (NoV GⅡ.P-GⅡ.3,GⅡ.P-GⅡ. Asia 3) は, それぞれ異なる系統に分岐し, 各系統間の塩基配列相同性は.~7.% であった ( 図 ) P 型に分類された 種類のキメラウイルス (NoV GⅡ.P-GⅡ.,GⅡ.P-GⅡ.3) は, それぞれ異なる系統に分岐し, 各系統間の塩基配列相同性は.~.% であった ( 図 7) NoV GⅡの流行状況の分析 シーズンから シーズンまでの間に広島市内で発生した集団事例及び散発事例の件数を図 に示した 7 シーズンは全国的に NoV GⅡ. が大流行したシーズンであり, 集団事例, 散発事例ともに発生件数が突出して多かった また,3 シーズンも同様に, 全国的に NoV GⅡ. が大流行したシーズンであり, 前シーズンと比較すると集団事例の発生件数が増加した 集団及び散発事例から検出された NoV GⅡの各遺伝子型の検出株について, 前述のとおりスコアを割り当て, 数値化したグラフを図 ~ に示した なお, 調査対象シーズン中に, 組換えパターンの異なるキメラウイルスが検出された 3 種類の遺伝子型 (NoV GⅡ.,GⅡ.3,GⅡ.) とそれ以外の遺伝子型に分けて図示した NoV GⅡ. では, シーズンに新たなキメラウイルス (NoV GⅡ.P-GⅡ.) が出現し, 3 シーズンにかけて, 小規模な流行が認められた ( 図 ) NoV GⅡ.3 では, シーズンの途中で, 新たなキメラウイルス (NoV GⅡ.P-GⅡ.3) が出現し, 小規模な流行が認められ, さらに, シーズンに新たなキメラウイルス (NoV GⅡ.P- G Ⅱ.3) が出現し, 小規模な流行が認められた ( 図 ) NoV GⅡ. では, シーズンに ORF の NS 領域分類における新たな遺伝子型亜型 (NoV GⅡ. Den Haag b) が出現し,7 シーズンに際立った大流行が認められ, 以降, シーズンにかけて大流行が持続した シーズンにも NS 領域分類における新たな遺伝子型亜型 (NoV GⅡ. New Orleans ) が出現したが, 散発的な検出に留まった 3 シーズンには, キメラウイルスであり, かつ,NS 領域分類における新たな遺伝子型亜型となる NoV GⅡ.Pe-GⅡ. Sydney が出現し,3 シーズンにかけて大流行が認められた ( 図 ) その他に検出された NoV GⅡは, すべてキメラウイルスであり,3 シーズンに,NoV G Ⅱ.P7-GⅡ.,NoV GⅡ.P7-GⅡ. による小規模な流行, シーズンに NoV GⅡ.P7-GⅡ.7 による小規模な流行が認められたものの, これら以外の遺伝子型の NoV GⅡは散発的な検出に留まった ( 図 ) 考察 シーズンから シーズンまでの間に, 広島市で検出された NoV GⅡについて,RdRp 領域から NS 領域までの一連の塩基配列を解析し, キメラウイルスの検出を含めた遺伝子型解析を行うとともに, 流行状況の分析を行った 通常,NoV の遺伝子型解析の際には,PCR による増幅が良好

3F F 7F 7F 3F F F 7F F F F F 7F F F F F F 3 F F 77 F F F F 3 F F cloning Gll.P AB Gll.P AB3 Gll.P AF7 73 F 3 7F F 3 7 F 7F 7F F 7F F 7 F 7F 7 Gll.P Den Haag b EF Gll.Pg DQ377 3 F 3F Gll.Pg GQ37 7F 7F F Gll.P AY Gll.P Den Haag b EF 3F 77F 7F F 7 7F 3F F 33F 73F 3 F 3 F 3F F 3F 3 Gll.P AY3 7F 7F 77F 3 7F 7F 3 73F 77F 37 773F Gll.P X7 73F 3F F F F 7F 7 F 3F 3 3F Gll.P DQ Gll.P3 U3 Gll.P3 U 3F 3F 7 7F F 7 F 3F 3F 7 F F 3F 7F 7F Gll.P a EF3 F Gll.P NewOrleans JN7 Gll.P 3 AB3 Gll.P 3 AB77 Gll.P 7JP GQ3 Gll.P Brist X77 F Gll.P AB F F Gll.P AF7 Gll.P AB3 Gll.Pe AB377 Gll.Pe JF7 33F 3F 7F 7F 7 7F F F Gll.Pe JX7 3F 3F 7 7F 3 F 3 3F F 3 3 F Gll.P7 AB3 7F F 7 Gll.P7 LC37 F cloning Gll.P AY Gll.P AY7773 3F 73 F F 7 F F F 7 F 7F F Gll.P AB3 Gll.P AB337 Gll.P AB37 F 7 33F 3F F Gll.P7 AB3777 Gll.P7 AB33 7 73F 7F 7 77 F 7F 3 37F F 3F F. 図 RdRp 領域における系統樹 (NoV GⅡ. 7 塩基 ). 図 RdRp 領域における系統樹 (NoV GⅡ. 以外 塩基 )

3F 7F 7F 7F 77F 73F 7F 37F F F F F 3F 3F 7F F 7F F F F F Gll. AY37 F 3 Gll. Brist X77 Gll. Den Haag b EF F F 3F F 3F 7F F 7F 7F Gll. Sydney JX Gll. Asia 3 AB Gll. Hunter AY3 33 Gll. US AJ Gll. Farmington Hills AY Gll. Yerseke a EF3 3 Gll. NewOrleans GU3 3F 7F 7F F 7F F F F Gll. Den Haag b EF 7F F Gll. AY3 Gll. AF 7 F Gll. AJ77 3F 7 33F Gll.7 AJ77 7 F F F 3F Gll. EU373 Gll. AB37 Gll.3 U3 7F F 3F 3F F 7F 3F 3 F 3 F 3F F F F 7F 7 7 3F 7F 77F 773F 73F 7F 7F 7F 77F F F F 3F 33F 3F F F F 7F F 73F F F Gll. Brist X77 33 Gll. Farmington Hills AY F 7 F F F 3 Gll. US AJ 7 F Gll. NewOrleans GU3 Gll. Yerseke a EF3 F cloning F Gll.7 LC37 Gll. Hunter AY3 Gll. Asia 3 AB 37 F F F 7 7 7F Gll.7 AB3 Gll.7 AY Gll. AY7 3 F F F 3 3F 7F 3F F 3F 3F 37 33F F 7F 7F 7F Gll. Sydney JX Gll. AY37 Gll. AY33 Gll. AB73 Gll. AY33 Gll. AB73 Gll. AY33 Gll. AY33 F cloning Gll.3 AY3 Gll. AY Gll. U7 Gll. AJ77 3F 7F F 7F 3 7F F Gll. AJ777 3 3 Gll. AY37 Gll. EU373 Gll. AJ77 Gll. AB37 Gll.3 U3 Gll. AF Gll. AY3 Gll.7 AJ77 Gll.7 AY Gll. AY7 Gll.3 AY3 Gll. U7 7 Gll. AJ77 Gll. AY 3 Gll. AF7 7 F Gll. X7 7 73F 3F 7 F 7 F 3F F F F 7 Gll. AJ777 Gll. X7 Gll. AF7 F Gll. AY37. 図 3 NS 領域における系統樹 (NoV GⅡ. 77 塩基 ). 図 NS 領域における系統樹 (NoV GⅡ. 以外 塩基 )

. Gll.P7-Gll. Gll.P7-Gll. Gll.P7-Gll. 7 7F F 37F F 3F 7 73F 7F F Gll.P7 AB33 Gll.P7 AB3777 F F 7 3F 33F Gll.P X7 図 キメラウイルス (P7 型 ) の RdRp 領域における系統樹 ( 塩基 ) 件数 7 7 集団 散発 図 広島市における集団及び散発事例件数の推移 (~ シーズン ) 3 3 Gll.P-Gll.3 Gll.P-Gll. Asia 3 F F 7F F F F F 7 7 F F F F cloning F F 7 F 3 Gll.P AB Gll.P AB3 7 Gll.P AF7 Gll.P X7. 図 キメラウイルス (P 型 ) の RdRp 領域における系統樹 (7 塩基 ) スコア Gll.P Gll. Gll.P Gll. 3 3 図 NoV GⅡ. 型のスコア推移 Gll.P-Gll. 7 F 3 F F 7 F 3F F F Gll.P AY スコア Gll.P3 Gll.3 Gll.P Gll.3 Gll.P Gll.3 Gll.P-Gll.3 Gll.P AY7773 F cloning Gll.P X7. 図 7 キメラウイルス (P 型 ) の RdRp 領域におけ る系統樹 ( 塩基 ) 7 図 NoV GⅡ.3 型のスコア推移

Gll.P Gll. Asia 3 Gll.P Den Haag b Gll. Den Haag b Gll.P New Orleans Gll. New Orleans Gll.Pe Gll. Sydney スコア 3 7 7 3 3 図 NoV GⅡ. 型のスコア推移 Gll.P7 Gll. Gll.P7 Gll. Gll.P7 Gll. Gll.Pg Gll. Gll.P Gll. Gll.P Gll.3 Gll.P7 Gll.7 スコア 7 3 3 図 NoV GⅡ( 上記以外の遺伝子型 ) のスコア推移 で, 簡便に遺伝子型分類を行うことができる NS 領域の塩基配列を利用した解析を実施してきた 同領域は比較的多様性の低い領域であることから, 図 3, の系統樹に示したように点変異の情報が得られにくいという欠点があるが,RdRp 領域では, 図, の系統樹に示したように点変異が散見された 食中毒発生時, 調理従事者及び患者から検出された NoV の比較を行う際や NoV による広域的な食中毒事例が発生した場合,NS 領域の解析だけでは, 塩基配列の差異が乏しく, 関連性を検証するための情報としては不十分である ) 点変異の情報を生かし, 事例間の関連性等を検証するためには,ORF 領域の中でも遺伝子多様性に富んだ P ドメイン領域の解析等を実施することが有用であ るが ),), 点変異が散見される RdRp 領域の解析を実施することも,NS 領域単独の解析よりは有用な情報が増えると推察された 調査対象シーズン中に 種類の遺伝子型の NoV GⅡが検出され, この内 種類はキメラウイルスであることが明らかとなった キメラウイルスは, 複数の遺伝子型の NoV GⅡが同時に人に感染し, 腸管の細胞内で増殖する際に, 遺伝子の組換えを起こすことで出現すると考えられる NoV GⅡ., GⅡ.3,GⅡ. は, 組換えパターンの異なるキメラウイルスが検出されたが, これら以外の遺伝子型については, 単一シーズンのみ検出された遺伝子型を除き, 複数シーズンにわたり, 組換えパターンが変化することなく現在まで推移していた 以

上のことから, 人に複数の遺伝子型の NoV GⅡが感染した場合, 様々な組換えパターンのキメラウイルスが出現する可能性はあるものの, 塩基配列の相同性等の問題で組換え自体が起こりにくい場合や一時的にキメラウイルスが出現しても, 人への適合性や増殖能力等の生存性の問題で自然淘汰され, 特定の組換えパターンのキメラウイルスのみが長期にわたって存続しているのではないかと推察された RdRp 領域が同一の遺伝子型 (P7,, 型 ) に分類されたキメラウイルスについて, 同領域の塩基配列に基づく株間の比較を系統樹解析により行った その結果, 同一の遺伝子型であっても, 各キメラウイルスはそれぞれ異なる系統に分岐することが明らかとなった ただし, 過去のある時点で起源を同一とする RdRp 領域遺伝子を有するキメラウイルスが出現し, それぞれ独自の変異を遂げていったのか, 変異の蓄積された RdRp 領域遺伝子を組換えにより獲得した後, さらに独自の変異を遂げていったのかは不明である 集団事例, 散発事例で検出された各遺伝子型の検出株にスコアを割り当てるという手法で,NoV G Ⅱの流行状況の分析を行った NoV GⅡ.,GⅡ.3 は, 組換えパターンの異なる新たなキメラウイルスが出現したことにより, 明らかにスコアが増加し, 小規模な流行が認められた これらの遺伝子型では, 今後も組換えパターンの異なるキメラウイルスが突如出現することが予想される その場合は小規模な流行が起こることも懸念されるため, 組換えパターンの変化に注視した解析を続ける必要性がある 一方, 最も検出数の多い NoV GⅡ. では,NS 領域分類における新たな遺伝子型亜型である NoV GⅡ. Den Haag b,nov GⅡ. Sydney の出現により,7 及び 3 シーズンに際立った大流行が認められた ORF はウイルス粒子を構成するカプシド蛋白質 (VP) をコードしているため,ORF の変異は抗原性の変化につながると考えられる ) ORF の全長を解析することは困難であるが,NS 領域に重点を置いた解析により, 新たな遺伝子型亜型の出現を監視し, 出現を探知した場合には, 情報提供と予防啓発を行っていくことが重要であると考えられる ただし,NoV GⅡ. New Orleans のように,NS 領域分類における新たな遺伝子型亜型が出現しても流行しない場合もあるため, その点は留意しておかなければならない また,NoV GⅡ.Pe-GⅡ. Sydney の流行時, デンマークでは NoV GⅡ.P New Orleans -GⅡ. Sydney のキメラウイルスが検出されていたことも報告されている 7) その後, この型のキメラウイルスが流行したという報告はないが, 組換えにより性質の全く異なるウイルスが出現する可能性はあるため,NoV GⅡ. についてもキメラウイルスを視野に入れた解析を継続していく必要がある NoV GⅡ.P7-GⅡ.,NoV GⅡ.P7-GⅡ. は複数シーズンにわたって検出されており,3 シーズンには小規模な流行を起こしている また, シーズンには, 過去に検出例のない NoV G Ⅱ.P7-GⅡ.7 が突如出現し, 小規模な流行を起こした これらの型については, 今後も動向を注視していく必要がある 以上のことから,NoV GⅡの流行に関しては, リスク要因として,NoV GⅡ. の NS 領域分類における新たな遺伝子型亜型の出現がリスク要因としては最も高く,NoV GⅡ. 以外では, 組換えパターンの変化による新たなキメラウイルスの出現がリスク要因として高くなると推察された これらの流行状況分析を踏まえた上で, 今後も遺伝子型解析, 特に ORF から ORF の一連の遺伝子解析を行っていくことが重要である 文献 ) 片山和彦他 : ノロウイルス中空粒子および抗血清の作製, ウイルス定量システム法の開発, 厚生労働科学研究費補助金 ( 食品の安心 安全確保推進研究事業 ) 食品中の病原ウイルスのリスク管理に関する研究 平成 年度研究分担報告書,~(3) ) Jiang X et al.: Characterization of a novel human calicivirus that may be a naturally occurring recombinant, Archives of Virology, (), 377 ~ 37() 3) 片山和彦 : ノーウォークウイルス ( ノロウイルス ) の遺伝子型 年版, 病原微生物検出情報,3(7),73~7() ) 山崎謙治他 :~ 年に日本国内で検出された Norwalk-like viruses(nlvs) の遺伝的特徴および統一プライマーの検討, 感染症学雑誌,7(),7~7() ) 野田衛他 : ノロウイルス食中毒事例調査の精度向上のための塩基配列データと疫学

情報の共有化 -GⅡ 変異株の検出の探知とその後の対応を中心として-, 厚生労働科学研究費補助金 ( 食品の安全確保推進研究事業 ) 食中毒調査の精度向上のための手法等に関する調査研究 平成 年度研究分担報告書,7~3(3) ) 阿部勝彦他 : 広島市におけるノロウイルス GⅡ のカプシドタンパク質 P ドメインの 解析 (~ 年 ), 広島市衛生研究所年報,3,3~7() 7) Fonager J et al.: Emergence of a new recombinant Sydney norovirus variant in Denmark, December to March 3, Eurosurveillance, (), ~ (3)