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第 3 節結果 114 1) 不定胚およびカルス誘導に及ぼす花粉発達段階および葯の採取時期の影響 114 2) 葯培養によって誘導した不定胚由来の幼植物体およびカルス組織の性識別 115 3) 不定胚およびカルス誘導に及ぼす遺伝子型 ( 系統 ) の影響 116 4) 不定胚由来植物体の倍数性検定 117 5) 不定胚由来植物体の初期生育特性 118 第 4 節考察 119 第 4 章総合考察 122 1) 授粉 受精適期の解明と育種年限の短縮 122 2) 胚培養による育種年限の短縮 122 3) 葯培養による育種年限の短縮 122 4) まとめ 123 謝辞 124 引用文献 124 要約 128 英文要約 128

序 章 パパイア (Carica papaya L.) は, 熱帯および亜熱帯地域における重要な草本性果樹の 1 つである. パパイアは, 雌性株, 両性株および雄性株の 3 つの異なる性表現型を示す三性花異株性植物である ( Hofmeyr, 1938; Storey, 1938). 成熟果実は, ビタミン C および A の含量が高く, 果物として消費され ( Ali and Lazan, 1998; Manshardt, 1992), ジュース, ピューレおよびジャムの原料としても利用されている ( Nakasone and Paull,1998;Samson,1986). さらに, アメリカでは, 1 日当たり推奨栄養所要量 (USRDA) に基づいたビタミン A, ビタミン C, カリウム, 葉酸, ナイアシン, チアミン, リボフラビン, 鉄, カルシウムおよび食物繊維の割合は,38 種類の一般的な果物の中で第 1 位にランクされている (Ming ら,28). 未熟な果実は, サラダ, 炒め物等の野菜やピクルスとしても利用されている (Ali and Lazan,1998). また, マレー諸島, アジアおよびアフリカ地域では, 若い葉, 茎および雄性花も野菜として利用されている. さらに, パパイアの未熟果実の乳液に含まれるタンパク質分解酵素 ( パパイン ) は, 食肉軟化剤, ビールの清澄剤, 医薬品および衣類のクリーニング等に利用されている (Ali and Lazan,1998;Nakasone and Paull, 1998). 国際連合食料農業機関 (FAO) によると,28 年における全世界のパパイア生産量は 999 万トンで世界的に重要な果樹と位置付けられている. 果実生産量の第 1 位はインドで, 世界のパパイア果実総生産量の約 4 割に相当する 363 万トンを生産している. 第 2 位はブラジルで 189 万トン, 第 3 位はナイジェリアの 69 万トンである (FAOSTAT, 28). 国内では, おもに沖縄県で生産され,28 年の沖縄県中央卸売市場における取扱量は,53 トンとなっている. その約 9 割 (474 トン ) は野菜 ( 未熟果実 ) として消費されている ( 沖縄県中央卸売市場,21). 沖縄県では, 両性株および雌性株が果実生産用に栽培されている. これらはウイルス感染および台風による被害を軽減するため, 無加温の施設内で栽培されている. パパイアの生長は早く, その樹体頂部は定植後 1 年半 ~2 年以内に施設の屋根に達するので, 長期の連続的な栽培が困難である. そのため, 株を斜めに栽植し栽培する倒伏栽培が行われている. この栽培法では, 倒伏仕立てに要する労力や単位面積当たり栽植本数の減少に伴う収量の低下が欠点である. 現在, 沖縄県で栽培されている品種はハワイで育成された Sunrise Solo, 台湾で育成された 台農 2 号, Red lady および 農友 1 号 などで, 育成品種の数は多くない ( 沖縄県農林水産部,23). これらの品種における問題点は, 節間長が長いこと, 両性株の花の性型変化 (Nakasone and Paull,1998) に伴う奇形花の発生によって果実収量が低下することおよびこれら品種の雌性株における単為結果性が弱い (Rimberia ら,26b) ことなどである. そのため, 本県の施設栽培に適した花性型の安定性, 矮性, 長果梗枝性, 短葉柄, 強単為結果性などの形質を備えた品種の育成が望まれている. パパイアの両性株における受粉 結実性および果実収量は, 遺伝子型と栽培環境の間の相互作用による花の性型変化と密接に関係している (Nakasone and Paull,1998). さらに, 性型変化には季節性があることも報告されている (Hofmeyr,1939;Nakasone,1986;Nakasone and Paull, 1998;Nakasone ら,1972;Ray,22;Singh ら,1963; Storey,1941,1953,1969). また, 雄性株の花粉発芽能力に季節性 (Allan,1963b;Cohen ら, 1989) があることも報告されている. しかし, 沖縄県の施設栽培条件下における奇形花の発生頻度, 種子および果実収量, 花粉発芽能力および雌ずいの生殖機能の季節変動に関する報告はない. そのため, 本県の施設栽培条件下で効率的な育種を行うためには, 性型変化, 花粉発芽能力および結実性を把握し, 最適な受粉環境温度を明らかにする必要がある. パパイアの生育期間は, 他の草本性植物に比較して長い. すなわち, 1 世代は, 採種 ~ 実生育成まで約 3 ヶ月, 定植 ~ 開花までに 4~6 ヶ月, 開花 ~ 果実成熟までに 5~8 ヶ月, 全体で 12~17 ヶ月を要する (Storey,1953). 本種の育種法には, おもに, 両性品種育成のための Hawaiian 法と雌性および雄性品種育成のための Yarwun 法がある (Aquilizan,1987;Manshardt, 1992). これらの育種法は, 本種の生育期間が長いので, 純系育種までに 7~8 世代 ( 約 15 年 ) を要する (Ray, 22). そのため, 効率的な育種を行うためには, 育種年限の短縮が重要な課題となる. パパイアの育種年限の短縮を考える上で, まず, 採種 ~ 実生育成までの期間の短縮が課題となる. 本種の種子は,orthodox 種子および recalcitrant 種子との中間タイプに分類されている (Ellis ら, 1991). 特に, 肉質種皮の存在下では, 種子発芽性が不均一になることが知られている ( Arumugam and Shanmugavelu, 1977). 肉質種皮を除去した場合でも, ある一定期間の休眠期間があるとされている ( Lange, 1961a; Yahiro,1979). 種子発芽率の改善および休眠打破のために, 低温前処理 ( Yahiro,1979), 乾燥処理 (Chan and Tan,199),KNO 3 および GA 3 処理 (Furutani and Nagao, 1987 ; Nagao and Furutani, 1986 ), matricnoditioning および GA 3+7 の併用処理 (Andreoli and Khan,1993), hydropriming および chemopriming (Bautista-Calles ら,28) などの種子処理が行われている. このような種子処理も採種 ~ 実生育成までの期間の短縮法とみなされる. パパイアの生育期間のなかで, 特に開花 ~ 果実収穫までの期間が長い. この期間を未成熟胚の in vitro 培養によって短縮できる可能性がある. 本種における胚培養は, 種間雑種作出における胚救出 (Manshardt and Wenslaff,1989), 体細胞不定胚形成によるクローン増殖 (Castillo ら 1998;Clarindo ら,28;Fitch,1993;Renukdas ら,26), 遺伝子組み換え (Fitch ら,1993) などに適用されている. しかし, 胚培養による生育期間の短縮については報告がない. パパイアの果実は, 果実発達のある段階で呼吸および内生エチレンの増大を示すクライマクテリック型果実に分類されている (Abeles ら,1992;Fabi ら,27). パパイア果実へのエチレン処理による果実成熟促進 (An and Paull,199;Fabi ら,27) が報告されている. また, 数種の植物では, エチレン処理による果実の成熟促進 (Abeles ら,1992), 種子発芽促進 (Kucera ら,25;Matilla, 2), 胚成長および胚発芽の促進 (Fountain and Outred, 199;Hershkovitz ら,29;Kepczynski ら,1977), 新芽 - 91 -

の伸長促進 (Abeles ら,1992;Jackson,27) が報告されている. しかし, 種子発達促進および胚発達促進については報告がない. 本研究では, 開花 ~ 果実収穫までの期間短縮を目的に, 果実へのエチレン処理による胚発達および胚発芽促進効果を調べた. 花粉および葯培養は, 有効な育種年限短縮技術として知られている (Datta,25;Germanà,26). すなわち, 花粉 ( 小胞子 ) から直接的にまたはカルスを経て半数体または 2 倍体を育成し, 短期間にヘテロ接合体の両親から完全なホモ接合体 (doubled haploid) を得ることができる最も効果的な手法として利用されている (Germanà,211). Litz and Conover(1978) はパパイアの葯培養によって, 初めて半数体の誘導に成功しているが, その誘導率は.4% と低い.Tsay and Su (1985) も葯培養によって半数体を誘導しているが, 不定胚の誘導率は.7% と低い. 近年, Rimberia ら (25,26a) は不定胚誘導率を 13.8% に高めている. また, 葯培養由来植物はすべて雌性株となることも報告している. 小胞子から雌性株のみが出現する現象は, 雄性および両性遺伝子のホモ接合体における致死性に起因していることが示唆されている (Hofmyer,1938;Rimberia ら,25, 26a;Storey,1938,1953). このような葯培養による雌性株のみの出現は, 葯培養および花粉培養による純系雌性株のみが育成される可能性を意味し, 超雄性 (M1M1) または超両性株 (M2M2) の育成が困難であることを示している. すなわち, 育成系統の経済的維持 増殖や F 1 種子生産が難しいことを示している. さらに,Rimberia ら (26a) による葯培養法では,3 倍体の出現頻度が著しく高く,2 倍体または半数体の出現頻度が低い. 葯培養をパパイアの育種体系に組み込むためには, 少なくとも 2 倍体の出現頻度を高めるよう葯培養条件を改善する必要がある. 本研究では, パパイアの育種年限短縮技術の確立を目的とし, 第 1 章では, パパイアの花粉発芽能力, 雌ずいの生殖機能, 種子および果実生産における季節変動について調査し, 果実および種子生産性における最適受粉環境を明らかにした. 第 2 章では, 未成熟果実へのエスレル処理および胚培養による育種年限短縮を検討した. 第 3 章では, 2 倍体の出現に及ぼす花粉発達段階, 季節性および遺伝子型の影響を調査し, 葯培養の改善を試みた. 第 4 章では, 第 1 章, 第 2 章および第 3 章において得られたパパイアの育種年限短縮に関する成果を総合考察した. - 92 -

第 1 章 パパイアの花粉発芽能力, 雌ずいの生殖機能, 種子および果実生産の季節的変化 第 1 節緒言パパイア (Carica papaya L.) は三性花異株性植物で, 雌性株, 両性株および雄性株の 3 つの異なる性型を示す (Hofmeyr,1938;Storey,1938). 沖縄県では両性株および雌性株が果実生産に用いられている. これらはウイルス感染および台風による被害を軽減するため, 無加温の施設内で栽培されている. 両性株の花の性型は季節によって変化する ( Hofmeyr,1939;Nakasone,1986;Nakasone and Paull, 1998;Nakasone ら,1972;Ray,22;Singh ら,1963; Storey,1941,1953,1969). 花の性型が正常な両性花から奇形花 (carpelloid 型花および pentandoria 型花 ) または雌性不稔花 ( 雌ずい退化花 ) へ変化することによって, 果実品質および収量に直接的に影響を及ぼす (Arkle and Nakasone,1984;Nakasone, 1986). 両性株における奇形花および雌性不稔花の発生には, 土壌水分および肥料 (Awada and Ikeda,1957), 温度および栽培地域 (Awada,1958;Lange,1961b), 気温の平均日較差 (Lange,1961b), 相対湿度 (Singh ら,1963), 摘葉または摘花 (Awada,1967), 品種および系統 (Chan,1984) および季節性 (Hofmeyr,1939; Nakasone,1986;Nakasone and Paull,1998;Nakasone ら,1972;Ray,22;Singh ら,1963;Storey,1941, 1953,1969) などの環境的および遺伝的要因の関与が報告されている. しかし, これら奇形花の発生に関する統一的な見解は報告されてない. すなわち, 奇形花および雌性不稔花の発生に関する温度または季節性について, 相反する結果が報告されている. Arkle and Nakasone( 1984), Awada( 1958), Lange, ( 1961b), Nakasone and Paull( 1998), Nakasone ら (1972) および Storey(1941) は,carpelloid 型花は冬季に発生頻度が高まり, 雌性不稔花は夏および秋季に増加することを報告している. 一方,Singh ら ( 1963 ) は, 奇形花 ( carpelloid 型花および pentandoria 型花 ) は夏季に増加し, 雌性不稔花は冬季に増加すると報告している. このように, 奇形花および雌性不稔花の発生に関する環境要因について統一した見解は示されてない. 花粉発芽性および種子生産性の季節変動に関する報告も少ない. Allan(1963a) は, 雄性株における葯当たりの花粉量および花粉稔性に関する季節的変動を報告している. Allan(1963b) および Cohen ら (1989) は, 雄性株の花粉発芽率に関する季節変化を示している. さらに,Ram and Ray(1992) は, 雌性および両性品種の種子生産性に関する季節変動を報告している. しかし, 両性株における花粉発芽率および雌性株および両性株における雌ずいの生殖機能の季節性に関する報告はない. さらに, Allan (1963b) および Cohen ら (1989) は, 保存花粉による授粉によって果実収量増加の可能性を示唆しているが, 夏および冬季における雌ずいの生殖機能に関して, 詳細な調査は行われていない. 本研究では, パパイアの果実および種子生産性を改善する目的で, 施設栽培条件における奇形花の発生頻度, 種子および果実収量, 花粉発芽能力および雌ずいの生殖機能の季節性を調査するとともに, 人 工授粉技術の改良を試みた. 第 2 節材料および方法 1) 奇形花率, 果実収量および種子数の季節変動 Sunrise Solo の両性株を供試した. 実験は, 沖縄県農業研究センター (OPARC) 名護支所内のビニルハウス内で行った.1999 年 6 月 11 日に, ビニルハウス内の圃場に堆肥を 3kg/a を施した.1 年目に有機入り 76 号 (N:P:K=7:1:6) を 1.5 kg / 株,2 年目に 2.25 kg/ 株を施した. 1999 年 6 月 24 日に, 実生苗 ( 高さ約 3cm) を条間 3 m, 株間 2 m の植栽距離で植え穴当たり 2 本植付けた. 発蕾時に植物の性型を確認した後, 雌性株を間引きし, 両性株 34 株を栽培した. そのうち,1 株を試験に供試した. 灌水は土壌の乾燥状態により適宜行った. パパイア ( Carica papaya L.) には, 雌性株 ( 第 1 図 A,D), 両性株 ( 第 1 図 B,E) および雄性株 ( 第 1 図 C,F) の 3 つの異なる性型がある (Hofmeyr,1938; Storey,1938). 本研究では, 両性株における花の性型の季節的変化を調査する目的で, 頂端の両性花の形態を Storey(1941) に従って, 正常花 ( 第 2 図 A1 ), 奇形花 [pentandoria 型花 ( 第 2 図 A2 ), carpelloid 型花 ( 第 2 図 A3)] および雌性不稔花 ( 第 2 図 A4,A5) の 3 花型に分類した. 正常花は花冠の中央に 1 本の雌ずい, 子房の周辺に 1 本の雄ずいを有する. 子房は, 成熟果実の形状を反映し, 細長型または洋なし型の形状を示す. Pentandoria 型花は筒状花冠が短く,5 本の雄ずいを有し, 子房は深い溝をもつ五角形を示し, その果実も五角型の形状を示す. また,carperoid 型花は 2~8 本の雄ずいを有し, 花糸が子房壁に合着して心皮化し, その果実は歪な奇形となる. それぞれの花型の発生数は, 2 年 2 月 1 日 ~ 21 年 1 月 3 日にかけて 1 週間毎に調査し,1 ヶ月当たりの花数を算出した. 奇形花率は, すべての調査小花数に対する奇形花の割合を求めた. また, 雌性不稔花率も同様にして算出した. 果実重, 果実収量 / 株および成熟種子数 / 果実も花性型の調査と同じ期間に調査した. 果実はその表面の 6 割が黄化した時期に収穫した. 調査期間における気温は温度記録計 ( おんどとり TR-71,T and D 社製 ) をハウス中央の地表から 1.5 m の位置に設置し, ビニルハウス内の気温を計測した. 計測値は, 月平均最高気温 ( AMaxT), 月平均気温 (AMeanT) および月平均最低気温 (AMinT) に換算した. 本研究で得られた温度データと国外のパパイア栽培地域における温度データを比較するため, Honolulu( 21 19 N,157 5 E;USA),New Delhi ( 28 58 N,77 2 E;India)( Singh ら,1963), および Patna( 25 36 N,85 68 E;India) における温度データを参照した.Honolulu および Patna の温度データは,1996 年 ~ 2 年の米国気候データセンター ( National Climatic Data Center: NCDC) の気象データベース (http://www7.ncdcnoaa.gov/cdo /cdo) から参照した. New Delhi の気温データは, Singh ら ( 1963) の気温データを参照した. なお, 本論文中で特別な記載がない場合は, 括弧内の温度数値は月平均気温とした. - 93 -

A B C D E F Fig. 1. Flowers of female (A), hermaphrodite (B), and male papaya (C); fruits of female (D), hermaphrodite (E), and male papaya (F). A B 1 2 3 4 5 C Fig. 2. Flower types of hermaphrodite (A), female (B) and male papaya (C). Hermaphrodite flowers were morphologically classified into three types: normal (A1), abnormal misshapen [pentandoria flower (A2) and carpelloid flower (A3), and female sterile flowers (A4, A5). - 94 -

2) 花粉発芽に及ぼす季節および温度の影響両性株における花粉発芽能力の季節変化を調査した. Sunrise Solo の両性株を 1 株供試した.2 年 2 月 ~21 年 1 月の期間に,1 ヶ月間隔で開花当日の頂端花を採取した. 頂端花から開葯直後の新鮮な花粉を採集し, 花粉発芽培地上に散布した. 花粉発芽培地は,15 g L 1 ショ糖, 5 g L 1 寒天,1 mg L 1 ホウ酸を含む組成とした. 発芽培地上に散布した花粉は, 25 に設定したインキュベーター (MIR-553,SANYO) 内で 3 時間培養した. 培養後, 光学顕微鏡下で発芽花粉を観察した. また, 接眼マイクロメーターを用いて花粉管長を測定した. 発芽花粉は, 花粉管が花粉の長径以上伸長したものとした. 約 4 粒の観察花粉数当たりの発芽花粉率を求め, その 6 反復の平均値を花粉発芽率とした. 花粉管長は, 花粉 2 粒当たりの平均花粉管長とした. 雄性株における花粉発芽能力の季節変化に関する調査には,3 系統 (FT-WI,KC4-WI および KC16-WI) をそれぞれ 1 株供試した. FT-WI は, Fruit Tower ( 雌性株 ) WI (Wonder Flare( 雌性株 ) 石垣島在来雄性系統 ) の組み合わせにより育成した系統である. KC4-WI は, KC4 ( 沖縄県農業研究センター育成系統 )( 雌性株 ) WI の組み合わせにより育成した系統である. KC16-WI は, KC16 ( 沖縄県農業研究センター育成系統 )( 雌性株 ) WI の組み合わせにより育成した系統である. 沖縄県農業研究センター ( 本所 ) のビニルハウス内で栽培を行った.27 年 11 月 26 日に基肥として堆肥 3 kg/a および化成肥料 (N:P2O5:K2O=15: 15:15) を 1 kg/a 施した. 定植 (12 月 4 日 ) の 3 ヶ月後から配合粉末液肥 (N:P2O5:K2O=19:19: 19) の 2 倍液を 1~2 週間毎に追肥した. 灌水は土壌の乾燥状態により適宜行った. 花粉発芽能力の調査は,28 年 4 月 ~29 年 3 月にかけて, 両性株の花粉発芽試験と同様な方法で行った. Sunrise Solo の両性株の花粉発芽に及ぼす温度の影響を調査した.2 年 6 月に小花から花粉を採取し, 上記の方法で作成した花粉発芽培地に散布した. 培養花粉はインキュベーター (MIR-553,SANYO) で設定した温度条件下 ( 1,15,2,25,3,35 および 4 ) で, それぞれ 3 時間処理した. 花粉発芽率の調査および花粉管長の測定は, 上記の方法に従って行った. 3) 雌ずいの生殖機能に及ぼす季節の影響夏季における雌ずいの生殖機能の調査には Sunrise Solo の両性株を供試した. 2 年 8 月 18 日 ~9 月 1 日 (28.2~3.5 ) の間に, 露地栽培の在来雄性株から花粉を採取し, 両性株の小花に授粉した. 試験区として無授粉区および人工授粉区を設けた. 無授粉区では, 人工授粉せず小花を袋掛けした. 人工授粉区では, 雄性花から採取した花粉を両性花の柱頭上に授粉した. 授粉は, 午前 9:3~ 11: の間に実施した. 開花から 1 ヶ月目に結実率を調査した. 結実率は結実果実数 / 小花数の割合で示した. 果実重および種子数 / 果実は果実収穫日に調査した. なお, 授粉に用いた花粉の発芽率は約 35% であった. 雌性品種 Wonder Flare を夏季および冬季における雌ずいの生殖機能の調査に供試した. 授粉用の 花粉は, 上記の野外栽培の雄性系統から採取した. 24 年 6 月および 12 月に花粉を採取し, 授粉まで - 2 条件下で保存した. 授粉は, 冬季には 25 年 1 月 21 日 ~2 月 17 日の間および夏季には 25 年 9 月 2 日 ~9 日の間に実施した. 授粉時の保存花粉の花粉発芽率は約 4% であった. 試験区として,(1) 無授粉区,(2) 低密度花粉授粉区 ( 約 3 花粉粒 / L),(3) 高密度花粉授粉区 ( 約 58 花粉粒 / L) の 3 区を設定した. 花粉密度は,.25% ショ糖溶液 (Bala, 1996) 中の花粉密度とした. 低密度花粉授粉区では, 雄性花の 4 小花から採取した花粉を 1 ml の.25% ショ糖溶液で懸濁した. 高密度花粉授粉区では,8 小花から採取した花粉を.25% ショ糖溶液の 1 ml で懸濁した. 花粉密度は, 5 L の花粉懸濁溶液をスライドガラス上に滴下し, 光学顕微鏡下で溶液中のすべての花粉粒数を数え測定した.1 反復の密度測定値を L 当たりの花粉密度に換算し, 処理区の花粉密度とした. 授粉時に, 所定の花粉密度のショ糖懸濁溶液をハンドスプレーで雌性花当たり約 2 ml を散布した. 冬季の授粉実験において結実した果実は 25 年 7 月 11 日 ~8 月 12 日に収穫した. 夏季の実験において結実した果実は 26 年 2 月 24 日 ~3 月 28 日に収穫した. 結実率は, 開花後 1 ヶ月目に調査した. 果実重および果実当たりの種子数は果実収穫日に調査した. 得られた果実重および種子数 / 果実のデータは, Tukey の多重検定法 (P <.1) により解析した. 冬季における試験期間中のビニルハウス内の AMaxT,AMeanT および AMinT は, それぞれ, 22.6, 16.7 および 14.7 であった. また, 夏季におけるそれらの気温は, それぞれ,35.9,29.5 および 25.7 であった. 第 3 節結果 1) 奇形花率, 果実収量および種子数の季節変動 Ram and Ray(1992) は, North Bihar(India) の Patna(25 98 N,85 68 E) に近接した Pusa で, 種子および果実生産に関する実験を実施している. Singh ら (1963) は,New Delhi(India) で奇形花の発生に関する試験を実施している.Awada(1958), Lange( 1961b), および Arkle and Nakasone(1984) は,Honolulu(USA) で奇形花の発生に関する試験を実施している. しかし, これらの研究では, 詳細な月平均気温のデータが示されていない. 沖縄 ( 施設内気温 ) における AMaxT,AMeanT および AMinT は, それぞれ年間を通して大きく変動した ( 第 3 図 ). すなわち, 施設内の AMaxT は 7~9 月に高く 36.~41.2 であり,AMinT は 1~3 月に低く 1.8~13.5 であった. また, 年間の平均日較差は, 12.5 であった ( データ省略 ). 施設内の気温および年間の平均日較差は,Patna(CDO Website) および New Delhi(Singh ら, 1963) のそれらに類似した. 一方,Honolulu(CDO Website) における AMaxT は 7 ~9 月に高く 31.4~34. であり, AMinT は 1 月に低く 19. 以上であった. また, 年間の平均日較差は,12.5 であった.Honolulu の最も高い AmaxT は, 沖縄,Patna および New Delhi のそれと比べて低く, 最も低い AMinT は高く, 年間の平均日較差は低かった. 施設内の両性株における奇形花発生率は,2 月 ~ 3-95 -

月 (AMeanT:14.6~16.8 ) および 12 月 ~1 月 (16.9 ~18.1 ) に 1% 以下であった. しかし,7 月 ~ 1 月 (25.6~3.5 ) には 42~66% に増加した ( 第 4 図 A). 雌性不稔花率は,3 月 ~ 11 月 (16.8~3.5 ) に 1% 以下で低かった. しかし,12 月 ~2 月 (14.6 ~18.1 ) には 13~37% に増加した.7 月 ~9 月 (28.2 ~3.5 ) および 1 月 ~ 3 月 (14.6~8.1 ) に受粉 結実した果実の重量および収量は低かった ( 第 4 図 B,C). 果実当たりの種子数の季節変動は, 果実重および果実収量と同様に変動した ( 第 4 図 D). すなわち, 5 月および 11 月に受粉 結実した果実は重く, 種子数も多かった. しかし,2 月 ~3 月および 7 月 ~ 9 月に受粉 結実した果実内の種子数は少なかった. また,7 月 ~9 月に受粉した小花は, 果実数の約 8% は無種子の小型の果実となった. 5 O Average temperature ( C ) 4 3 2 1 Feb Mar Apr May Jun Jul Aug Sept Oct Nov Dec Jan 2 21 Fig. 3. The average maximum ( ), mean ( ), and minimum ( ) monthly temperatures in Okinawa (in the greenhouse). Temperature data were recorded from February 2 to January 21. Rate of flower types ( % ) 1 8 6 4 2 A : Normal : Abnormal misshapen flower : Female sterile flower Fruit weight ( g ) 6 5 4 3 2 1 B Fruit yield per plant ( kg ) 15 1 5 C No. of seeds per fruit 6 5 4 3 2 1 D Feb Mar Apr May Jun Jul Aug Sept Oct Nov Dec Jan 2 21 Month of flowering Feb Mar Apr May Jun Jul Aug Sept Oct Nov Dec Jan 2 21 Month of flowering Fig. 4. Seasonal variations in frequency of flower types (A), fruit weight (B), fruit yield (C), and number of seeds (D) of hermaphrodite Sunrise Solo. Data were collected from February 2 to January 21. Vertical bars indicate SE. - 96 -

2) 花粉発芽に及ぼす季節および温度の影響両性株の Sunrise Solo における花粉発芽率は, 4 月 ~6 月 (22.2~27.2 ) および 1~11 月 (19.4 ~25.6 ) には 52~87% で高かった. しかし, 1 月 ~3 月 (14.6~18.1 ) の低温期には 5~32% に低下した ( 第 5 図 ). また, 7 月 ~9 月 (28.2~3.5 ) の高温期には発芽花粉は全く観察されなかった. 花粉管長の季節変動は, 花粉発芽率の変動と同様な傾向を示した. すなわち, 花粉管長は,4 月 ~6 月および 1 月 ~12 月 (28~ 272 m) に長く,1 月 ~3 月には 63~134 m と短かった. すでに示したように, Sunrise Solo の花粉は 7 月 ~ 9 月の高温期 (28.2~3.5 ) に完全に発芽能 1 力を失った. 一方, 供試した雄性株の 3 系統における花粉発芽率は, いずれも低温期の 12 月 ~1 月 (18.6 ~19.7 ) に高くなる傾向にあったが, 8 月 ~ 1 月 (27.3~3. ) の高温期にも 2.6~32.9% の発芽率を示した ( 第 6 図 ). 温度制御下における Sunrise Solo の花粉発芽率は,2 および 25 で最も高く, それぞれ 71.6 および 8.1% であった. 次いで 3,15 および 35 の順で低くなった ( 第 1 表 ).1 および 4 では, 花粉発芽率は著しく低かった. 花粉管は, 25 で最も長く (248 m) 伸長し, 次いで 2,3,15 および 35 の順で短くなった. しかし,4 では, 花粉管は最も短かった. 4 Pollen germination rate ( % ) 8 6 4 2 3 2 1 Pollen tube length ( m ) Fig. 5. Feb Mar Apr May Jun Jul Aug Sept Oct Nov Dec Jan 2 21 Seasonal variations in pollen germination ability and pollen tube growth of hermaphrodite Sunrise Solo. Tests were performed from February 2 to January 21. : Pollen germination rate, : Pollen tube length. Vertical bars indicate SE. 1 Pollen germination rate ( % ) 8 6 4 2 Fig. 6. Apr May Jun Jul Aug Sept Oct Nov Dec Jan Feb Mar 28 29 Month of flowering Seasonal variations in pollen germination rates of three different male strains. Tests were performed from April 28 to March 29. : FT-WI, : KC4-WI, and : KC16-WI. Vertical bars indicate SE. - 97 -

Table 1. Effect of temperature on pollen germination and pollen tube growth in hermaphrodite Sunrise Solo. Incubation temperature ( C) Pollen germination rate(%) Pollen tube length (μm) 1. 15 51. b z 123.1cd 2 71.6 a 21.2 b 25 8.1 a 248.3 a 3 55.6 b 152.3 c 35 5.2 b 98.6 d 4 2. c 26.8 e z Different letters indicate statistical significance by Tukey s-test at P <.1. 3) 雌ずいの生殖機能に及ぼす季節の影響夏季 (8 月 ~9 月 ) に Sunrise Solo の両性花における授粉の効果を調査した. 無授粉区および授粉区の間で, 結実率に関する明確な差異は認められなかった ( 第 2 表 ). しかし, 授粉区における果実重は, 無授粉区のそれに比較して有意に重たかった. また, 種子数 / 果実も人工授粉区で有意に多かった. Wonder Flare の雌性花を用いた試験において, 無授粉区の結実率 ( 単為結実率 ) は, 夏季 (9 月 2 日 ~ 9 日 ) よりも冬季 (1 月 21 日 ~2 月 17 日 ) に高 かった ( 第 3 表 ). また, 冬季に単為結実した果実は夏季のそれより重かった. 低または高密度花粉授粉区では, 夏季および冬季の結実率の間には有意な差異がなかった. また, 夏季および冬季の果実重の間にも有意な差異がなかった. しかし, いずれの授粉区でも夏季に授粉した果実は, 冬季のそれらより有意に多くの種子を有していた. また, 高密度花粉授粉区における果実重および種子数 / 果実は, 低密度花粉授粉区のそれより有意に高い値を示した ( 第 7 図 ). Table 2. Effect of hand pollination on fruit setting, fruit weight, and the number of seeds per fruit in hermaphrodite Sunrise Solo. Pollination methods No. of fruits tested Fruits set z Fruit weight (g) No. of seeds per fruit Unpollinated 26 18 (69.2) Hand pollinated 2 14 (65.) 12.9 b y.7 b 436.6 a 23. a z Data in parentheses shows percentage of fruit setting. y Different letters indicate statistical significance by Mann Whitney s U-test at P <.1. - 98 -

Table 3. Reproductive function of pistils in female Wonder Flare during summer and winter. Pollination Pollination No. of Fruits Fruit No. of methods seasons Fruits set z Weight seeds tested (g) Unpollinated Winter 76 75 55.1 d y ( 98.7) Summer 3 21 279. e ( 7.) Spraying with Winter 77 77 1144.1 c 147.1 c low density (1.) pollen Summer 27 27 123.5 bc 235.9 b solution (1.) Spraying with Winter 8 8 135.2 ab 276. b high density (1.) pollen Summer 24 22 1428.2 a 37.1 a solution ( 91.7) Analysis of two-way ANOVA x Pollination methods (a) * * * * Season (b) NS * * a b * * NS z Data in parentheses indicate the percentages of fruit set. y Different letters indicate statistical significance by Tukey s-test at P<.5. x NS and ** indicate non-significant and significant at P <.1, respectively. - 99 -

Fig. 7. A B C D Effect of artificial pollination on fruit size and number of seeds per fruit. The florets were not pollinated (A, B), pollinated by spraying with low density pollen solution (C) and by spraying with high density pollen solution (D). Scale bar shows 1cm. 第 4節 考 察 パ パ イ ア の両 性 株に お け る両 性 花か ら 雌 性花 へ の ま た は 両 性花 か ら雄 性 花 雌 性 不稔 花 への 性 型変 化 に 関 して 相反 す る結 果 が報 告 され て いる Awada 1958, Lange 1961b Arkle and Nakasone 1984 お よ び Storey 1958 は Hawaii にお い て季 節 的な 花 性 型 変化 を 調査 し てい る 一 方 Singh ら 1963 は India の New Delhi で 同様 な 実験 を 行な っ てい る そ の うち Awada 1958 は carpelloid 型花 の 出 現 頻度 は 冬 季 の 15 以下 の 温度 で 高く な るこ と を 報 告 し Lange 1961b も 同 様に carpelloid 型 花 は 最 低気 温 が 18 以 下で 平 均日 較 差が 大 きい 条 件 で 発 生 す る こ と を 報 告 し て い る ま た Arkle and Nakasone 1984 も carpelloid 型 花 は低 温 条件 下 で 発 生 頻度 が 高く な る こと を 報告 し て いる さら に 雌 性 不稔 花 の 発生 に つい て Storey 1958 は 長 日 温 暖な 気 候 条 件 下 でそ の 花性 型 の 発生 率 が高 く な る こと を 示し て いる また Arkle and Nakasone 1984 は 高 温で 土 壌 水分 お よび 窒 素 濃度 が 高い 条 件 で 雌 性不 稔 花が 増 加 する こ とを 報 告 して い る 一 方 Singh ら 1963 は 奇形 花 carpelloid お よ び pentandoria 型 花 の 発生 頻 度は 5 月 6 月の 高 温 AMaxT 39. 39.5 AMeanT 31.3 33.6 AMinT 23. 28.2 で高 く なり 雌 性不 稔 花 は 平 均 最 低 気 温 が 23 以 下 で 増 加 す る こ と を 報 告 し ている 本 研 究 で は 奇 形 花 carpelloid お よ び pentandoria 型 花 の 発 生率 は 平 均 気 温 が 26 以上 の 7 月 1 月に 増 加し た ま た 雌 性 不稔 花 は 17 以下 の 12 月 2 月に 増 加し た こ れ らの 結 果 は Singh ら 1963 の報 告 と一 致した しかし その結果は ハワイ州の研究者 Arkle and Nakasone 1984 Awada 1958 Lange 1961b Storey 1958 によ って 得 られ た それ ら とは 明 ら か に異 な って い た Lange 1961b は 平 均 日較 差 の大 き さ が両 性 花 の 形 態 変 化に 影 響し て い る可 能 性を 示 唆 して い る 沖 縄 県 施 設 内 お よ び New Delhi の平 均 日較 差 は そ れ ぞれ 12.5 お よび 13. で Honolulu の 7.5 よ り も 大 きか っ た こ の よう な 気温 の 日 較差 が 性変 化 の 要 因 の一 つ なっ て い る 可 能 性も あ る と思 わ れる 本 研 究 にお け る試 験 結果 と ハワ イ 州の 研 究者 Arkle and Nakasone 1984 Awada 1958 Lange 1961b Storey 1958 によ る 結 果の 間 の矛 盾 に つい て は さ ら に 検討 す る必 要 があ る Ram and Ray 1992 は India の North Bihar に 位 置 す る Patna に 近 い Pusa で Pusa Dwarf の 雌性 株 お よ び Pusa Delicious の 両性 株 の 種子 収 量に お け る 季 節変 動 を調 査 し てい る 彼 ら は 種 子 数 果 実 は 8 月 1 月 27.3 29.7 に 最 も多 く 4 月 3.5 お よび 5 月 32.5 に 減 少し 2 月 3 月 19.5 25.1 では 種 子が ま っ たく 得 られ - 1 -

ないことを報告している. 本研究では, 種子数 / 果実および果実収量 / 株は, 5 月 (24.6 ) および 11 月 (19.4 ) に受粉 結実した小花で増加し,7 月 ~ 9 月 (28.2~3.5 ) および 1 月 ~ 3 月 (14.6~18.1 ) に受粉した小花で減少した. 特に 7 月 ~ 9 月に受粉した小花では, 種子が極めて少ないか, またはまったく形成されなかった. これらの結果は, 種子および果実収量における最適温度は,19.4~24.6 の範囲にあり, この温度以上または以下では, 種子数および果実収量が減少することを示している. しかし,Ram and Ray(1992) は, 種子および果実収量における最適温度は 27.3~ 29.7 の範囲にあることを報告している. 本研究で推定した種子および果実収量の最適温度域と Ram and Ray(1992) が示したそれらの違いについて明確に説明するのは難しい. 供試した品種や栽培環境要因の違いによるのかも知れない. 受粉および受精における最適温度条件をさらに明確にするために, 花粉発芽性および雌ずいの生殖機能の季節性を調査した. 雌ずいの生殖機能は果実重および種子数 / 果実で評価した. Sunrise Solo の花粉発芽率および花粉管長は, 4 月 ~6 月 (22.2~ 27.2 ) および 1 月 ~11 月 (19.4~25.6 ) に高い値を示したが,1 月 ~3 月 (14.6~18.1 ) に低くなった. また,7 月 ~9 月 (28.2~3.5 ) に採取した花粉は完全に発芽能力がなかった. これらの花粉発芽能力および花粉管伸長の季節変動は種子および果実収量の季節変動と一致した. Allan(1963a) は,South Africa において, 雄性株における花粉量 / 葯および花粉稔性は, 3 月 ~5 月 (AMaxT:32.8,AMeanT:18.9,AMinT:6.4 ) および 6 月 (AMaxT:28.,AMeanT:14.1,AMinT: 3.4 ) に増加するが,9 月 ~ 11 月 (AMaxT:37.6, AMeanT:18.1,AMinT:5.1 ) に減少することを報告している. さらに, Allan(1963b) は, 雄性株の花粉発芽における最適温度は 18~ 24 の範囲にあるが, 最適温度範囲でも最低気温が 1 以下で, 最高気温が 32 以上になると花粉発芽率が低下することを報告している. 圃場および温度制御下での試験結果を基に, Cohen ら (1989) は, 花粉発芽における最適温度域は 22~ 26 であると報告している. 本研究では 19.4~27.2 の範囲で雄性株からの花粉の発芽率は高くなった, この結果は Allan (1963b) および Cohen ら ( 1989) による試験結果とほとんど一致した. 温度制御下で実施した花粉発芽試験の結果は, 施設栽培条件での花粉発芽における季節変動の結果とほぼ一致した. 温度制御下の実験では, 花粉発芽の最適温度は 2~25 の範囲にあり,15 以下および 3 以上で花粉発芽は抑制された. したがって, Sunrise Solo の種子および果実収量の減少は, 高温および低温条件下での花粉発芽能力の低下によ るものと考えられた. 雄性株および両性株の間で花粉発芽能力の季節変化の程度を比較した報告はない. 本研究では, Sunrise Solo の両性株の花粉発芽力は夏季の高温期に完全に消失することがわかった. しかし, 本研究に供試した雄性株 3 系統では,27.3~3. の高温条件下でも 1.4~ 23.1% の花粉発芽能力を維持した. したがって, 雄性系統は, Sunrise Solo の両性株に比較して, 耐高温発芽性の花粉を生産する能力を有していると思われる. Sunrise Solo の両性株は, 開花前に受粉 受精する閉花受精の能力が高い自殖性植物に分類されている (Pastor ら,199). また,Allan(1963a) は, 高温または低温条件下では葯内の花粉生成量が減少し, 花粉発芽力も低下することを報告している. したがって, 不適な低温または高温条件下では, 花粉生成量の減少, 花粉発芽力の低下およびそれらに関連した閉花受精力の低下により, 種子数および果実収量が減少すると思われる. 施設内の高温条件下において, 露地栽培の雄性株から採取した新鮮花粉を Sunrise Solo の両性花の雌ずいに授粉することにより, 種子および果実収量を改善することが可能であった. これらの結果は, 雌ずいは高温条件下でも高い生殖機能を維持していることを示していると思われる. Allan( 1963b) および Cohen ら ( 1989) は, 冬季における雌性株の果実収量を増加させるために, - 5~ - 18 における保存花粉を利用した人工授粉が有効であることを提案している.Bala(1996) は, 両性花および雌性花に.25% ショ糖 新鮮花粉懸濁溶液を散布する授粉法を開発し, 果実収量を向上させている. 本研究では,-2 で保存した花粉のショ糖懸濁溶液で授粉を行い, 低温および高温期における雌性株の種子および果実収量を改善できることを示した. 両性花に対するショ糖 保存花粉懸濁溶液による授粉法の有効性を示してないが, 本授粉法はすでに両性品種の果実生産において適用されている. 本章をまとめると, 以下のことが明らかになった. (1) Sunrise Solo 両性株において, 奇形花は高温 (25.6~3.5 ) で発生し, 雌性不稔花は低温 (16.9 ~18.1 ) で発生する.(2) Sunrise Solo 両性株の夏季および冬季における果実および種子収量の減少には, おもに高温および低温による花粉発芽力および閉花受粉能力の低下が関与している.( 3 ) Sunrise Solo の両性花および Wonder Flare の雌性花の雌ずいは, 低温 (16.7 ) および高温 (29.5 ~3.5 ) 条件下でも生殖機能を保持している. これらの結果は, パパイアの果実生産性の向上だけでなく, 沖縄県におけるパパイアの育種研究における基本的な資料として重要であると思われる. - 11 -

第 2 章 未成熟果実へのエスレル処理および胚培養による世代促進 第 1 節緒言一般的に, パパイアの生育期間は, 他の草本性作物に比較して長い. パパイアの代表的な育種法には, Hawaiian 法および Yarwun 法の 2 種類がある ( Aquilizan, 1987; Manshardt, 1992). Hawaiian 法は, アメリカで適用されている両性品種育成のための育種法である.Yarwun 法は, オーストラリアで適用されている雌性および雄性品種育成のための育種法である. これらの育種法は, 純系育種までに 7 ~8 世代 ( 約 15 年 ) の自殖および戻し交雑が必要である (Ray,22). そのため, パパイアの育種を効率化するためには, その生育期間を短縮することが重要な課題になると思われる. パパイアの生育期間は, 採種 ~ 実生育成までの期間 ( ステージ Ⅰ), 定植 ~ 開花までの期間 ( ステージ Ⅱ) および開花 ~ 果実収穫までの期間 ( ステージ Ⅲ) の 3 段階に分けられる. 一般的に, ステージ Ⅰは採種 ~ 実生苗育成まで約 3 ヶ月を要し, 採種 ~ 種子発芽までの期間の短縮が課題となると思われる. ステージ Ⅱでは 4~6 ヶ月, ステージⅢでは 5~8 ヶ月を必要とし, 全体で 12~17 ヶ月を要する (Storey, 1953). ステージⅠにおける種子発芽および発芽力に関連した多くの報告がある (Salomão and Mundim,2). パパイアの種子は,Orthodox 種子及び recalcitrant 種子との中間タイプに分類されている (Ellis ら, 1991). 特に, 肉質種皮の存在下では, 種子発芽性が抑制されることが知られている ( Arumugam and Shanmugavelu,1977). しかし, 肉質種皮を除去した場合でも, ある一定期間の休眠期間があることが知られている ( Lange,1961a;Yahiro,1979). 種子休眠打破や種子発芽率の改善のために, 低温での前処理 (Yahiro,1979), 乾燥処理 (Chan and Tan,199), KNO 3 および GA 3 処理 (Furutani and Nagao,1987; Nagao and Furutani, 1986), matricnoditioning および GA 3+7 の併用処理 (Andreoli and Khan,1993), hydropriming および chemopriming( Bautista- Calles ら,28) などの発芽促進法がなされている. ステージⅡの定植 ~ 開花までの期間短縮は, 無加温ハウス内で栽培を行うならば, 定植時期を初春に行い, 晩秋に収穫することにより最短期間で1サイクルを終えることが可能である. しかし, 夏季 ~ 冬季に定植すると, ステージⅡの期間は長くなる. ステージⅢの開花 ~ 果実収穫までの期間は, 胚培養によって短縮できる可能性がある. パパイアの胚培養は, 種間雑種作出における胚救出 ( Manshardt and Wenslaff,1989), 体細胞不定胚形成によるクローン増殖 (Castillo ら,1998;Clarindo ら,28; Fitch,1993;Renukdas ら,26), 遺伝子組み換え (Fitch ら,1993) などに適用されている. しかし, 未成熟胚の培養による生育期間短縮に着目した報告は少ない. エチレンには, 植物の老化および果実成熟を促進する作用がある (Abeles ら,1992). パパイアは, クライマクテリック型の果実として分類され (Abeles ら, 1992;Fabi ら,27), 果実成熟前に果実空洞内部でエチレンが生成される (Akamine and Goo,1979). また, パパイアの果実成熟促進, 果肉の軟化および果肉色の均一化に対するエチレンの効果も報告されている (An and Paull,199;Fabi ら, 27). さらに, エチレンには, いくつかの作物において種子発芽促進効果が認められている ( Kucera ら, 25;Matilla, 2). また, リンゴ ( Kepczynski ら,1977), インゲンマメ (Fountain and Outred, 199) およびアボカド ( Hershkovitz ら,29) では, エチレン処理による胚成長および胚発芽率の促進効果が認められている. 水生および水陸両性植物 (Abeles ら, 1992;Jackson,27) では, エチレン処理による新芽の伸長促進効果が報告されている. しかし, パパイアの胚発達および成長に及ぼすエチレン処理の効果に関する報告はない. 本研究では, 未成熟胚の培養による生育期間短縮を目的に, エスレル処理による未成熟果実の成熟促進, 種子発達促進および胚発達促進の効果を調査した. 第 2 節材料および方法 1) 果実内空洞部のエチレン生成に及ぼすエスレル処理の影響種子親として Fruit Tower を供試した. 花粉親は Wonder Flare と沖縄在来系統を交配して得られた雄性系統 (WI) を供試した. 試験は, 沖縄県農業研究センター ( 本所 ) のビニルハウス内で実施した.27 年 11 月 26 日に基肥として堆肥 3 kg/a および化成肥料 (N:P 2 O 5 :K 2 O=15:15:15) を 1 kg/ a 施した. 27 月 12 月 4 日に, Fruit Tower の雌性株の 38 植物体および WI の雄性株の 4 植物体を条間 2 m および株間 2 m の植栽密度で定植した. 追肥は, 定植の 3 ヶ月後から配合粉末液肥 ( N:P 2 O 5 :K 2 O = 19:19:19) の 2 倍液を 1~2 週間毎に行った. 灌水は土壌の乾燥状態により適宜行った. 人工授粉は, 第 1 章で確立した保存花粉 ショ糖溶液授粉法を用い,28 年 8 月 12 日 ~ 9 月 9 日の間に実施した. 人工授粉に用いた花粉は,28 年 6 月に WI の開花当日の小花から採取し, 授粉時まで - 2 で保存した..25% のショ糖溶液 ( Bala, 1996) に 57.9 花粉粒 / L の密度で保存花粉を懸濁し, ハンドスプレーを用いてその懸濁液を小花に散布した. 授粉後 75 日目の樹上着果状態の果実 [75 DOF(days old fruit)] へエスレル処理を行った. 果実へのエスレル処理は以下の方法で行った. まず, 5 ml の 1 L L 1 濃度のエスレル ( エテホン, 石原産業 ( 株 )) 溶液をビニル袋 (3 cm 4 cm) に入れた. 対照区では, 同量の蒸留水を入れた. 次いで, 果実をそのビニル袋内に封入した. ビニル袋はビニルテープで果梗に固定し密閉した. 密閉したビニル袋は, ビニル袋内の温度上昇を防止するため, アルミフォイルで覆った. 授粉後のそれぞれの果実は,1 または 2 日間のエスレル処理 [1 または 2 DET(days of ethrel treatment)] または蒸留水処理 [DWT(days of water treatment)] を行った. これら処理後の果実を収穫し果実重を測定したあと, 果実を 25 で 1 時間静置 - 12 -

し, 果実空洞内部のエチレン生成量を測定した. 果実空洞内部のエチレン濃度は以下のようにして測定した. まず水中で果実にコルクボーラー ( 直径 6.5 mm) を用いて穴を開け, 果実空洞内の気体を果実 1 個体当たり 2 本のバイアル瓶 ( 5 ml) に集めた. エチレン量は, それぞれのバイアル瓶から気体 1.5 ml をシリンジで抜き取り, ガスクロマトグラフ (GC-17A;Shimadzu) に注入して測定した. 気体サンプルはバイアル瓶 1 本当たり 1 回注入し,2 本のバイアル瓶における測定値の平均値を求め, その果実のエチレン生成量の値とした. ガスクロマトグラフのカラムは Rt-QPLOT( 内径.53mm,Shimadzu) を使用し, インジェクターおよびディテクター温度を 12, カラム温度を 6 に設定した. ヘリウムガスの流量は 1 ml min 1 とした. 検量線はエチレン標準ガス ( 99.5%) を用いて作成し, 気体 1 ml 当たりのエチレン生成量を算出した. エスレル処理の 1 日間または 2 日間区において, それぞれ対照区では 6 果, エスレル処理区では 1 果を供試した. 処理区間の有意差は, Mann Whitney s U 検定法 ( P <.1) で検定した. 2) 果実重, 種子重および種皮色に及ぼすエスレル処理の影響授粉後 45,6 および 75 日目の未成熟果実へ 1 日間または 2 日間のエスレル処理または蒸留水処理 ( 対照区 ) を行った. エスレル処理は実験 1) の方法に従って行った. 対照区およびエスレル処理区の果実の果実重, 種子重および種皮色を調査した. これらの調査には, 対照区で 7 果およびエスレル処理区では 1 果を用いた. 未成熟種子は, 種皮色を基 準に白色, 薄茶色, 褐色, 黒色の 4 色に分類し, 成熟程度を調査した. 2 粒 / 果実の未成熟種子を調査し, それぞれの種皮色グループの割合を求めた. 処理区間の有意差は,Mann Whitney s U 検定法 (P <.1) で検定した. 3) 胚発達および胚サイズに及ぼすエスレル処理の影響実験には, 授粉後 45~75 日目の未成熟果実を用い, 実験 2) と同様にしてエスレル処理を行った. それぞれの処理区当たり 5 果実から未成熟種子を摘出し混合したあと, 12 粒の未成熟種子を無作為に摘出した. これらの未成熟種子から胚を摘出し, 胚の発達段階を調査した. Dhekney(24) の胚の発達区分に従って, 摘出胚を heart 型 ( 第 8 図 A),torpedo 型 ( 第 8 図 B) および cotyledon 型胚に分類した. また, cotyledon 型胚は, さらに子葉横径が.3~.4 mm の immature cotyledon 型 ( 第 8 図 C) および子葉横径が.5 mm 以上の mature cotyledon 型胚 ( 第 8 図 D) に区分した. 摘出胚は最終的に 4 型の発達段階に分類し, それぞれの発達段階の胚数割合を算出した. 処理区間の有意差は,Kolmogorov Smirnov 検定法 ( P <.1) で検定した. 未成熟種子の胚サイズを測定するため, 種子を酢酸アルコール液中 ( 酢酸 1:99% エタノール 3) で固定し,-18 の冷凍庫内に保存した. その後, 顕微鏡下で胚を摘出し, mature cotyledon 型胚のみの胚長, 子葉横径および幼根長を計測した. 調査個体数は, 各処理区当たり 3 個体とした. 処理区間の有意差は,Mann Whitney s U 検定法 (P <.5) で検定した. A B.5 mm.5 mm C D Fig. 8..5 mm.5 mm Morphological classification of embryos. Embryos were classified into four developmental stages, heart (A), torpedo (B), immature cotyledon (C), and mature cotyledon (D). - 13 -

4) 胚発芽および胚実生の生育に及ぼすエスレル処理の影響胚を無菌的に摘出するため, 収穫後の果実表面を中性洗剤で洗浄した. 次いで, 果皮をナイフで除去した後,7% アルコールで 5 分間殺菌した. 果実をクリーンベンチ内で二分割し, 種子を取り出したあと, 胚を無菌的に摘出した. 胚の発達段階別の in vitro 培養での成否を明らかにするため, 摘出胚を発達段階別に分けて培養した. 培養には MS 基本培地組成にショ糖 ( 3g L - 1 ), 寒天 (8 g L - 1 ) および.25 mg L 1 の N-(2-chloro-4-pyridyl)-N -phenylurea(cppu) を添加した培地を用いた. 培地は, ph 5.8 に調整した後に,1.6 kpa (121 ) で 15 分間滅菌した. 培養器として直径 9 mm 高さ 2 mm のシャーレを用いた. 培養胚は 25, 植物育成用蛍光灯 ( プラントルクス, TOSHIBA) 照明下の 18 時間日長 (27 mol m - 2 s - 1 ) 条件下に置いた. 胚発芽の調査のため, エスレル処理区では,55 DOF (45 DOF+1 DET),65 DOF(45 DOF+2 DET),7 DOF (6 DOF+1 DET),8 DOF(6 DOF+2 DET),85 DOF (75 DOF+1 DET) および 95 DOF(75 DOF+2 DET) から胚を摘出し培養した. また, 対照区では,55 DOF (45DOF+1 DWT),65 DOF(45 DOF+2 DWT),7 DOF (6 DOF+1 DWT),8 DOF(6 DOF+2 DWT),85 DOF (75 DOF+1 DWT) および 95 DOF(75 DOF+2 DWT) に加え, 無処理の 15,12,14,16 および 18 DOF も胚培養に供試した. 培養胚数は, 処理区当たり約 12 個体とした. 幼根長が 5 mm 以上に伸長した胚を発芽胚とし, 培養後 15 日目に発芽胚数を計測した. また, エスレル処理区および対照区の 55,65,7, 8,85 および 95 DOF から摘出した胚の培養後 15 日目に胚の生体重, 胚軸長および最大根長を調査した. 調査には処理区当たり 3 胚を供試した. 処理区間における胚発芽率の有意差は,χ 2 test 検定法 ( P <.1) で検定した. 胚の生体重, 胚軸長および最大根長の差異は,Mann Whitney s U 検定法 (P <.5) で検定した. 第 3 節結果 1) 果実空洞内部のエチレン生成に及ぼすエスレル処理の影響エスレル処理区の 85 および 95 DOF におけるエチレン生成量は, それぞれ 13.8 および 8.6 L kg 1 h 1 で, 対照区の果実に比べて有意に高い生成量を示した ( 第 9 図 ). 対照区における 85 DOF(75 DOF+ 1 DWT) および 95 DOF(75 DOF+2 DWT) の果実では, それぞれ.5 および.9 L kg 1 h 1 のエチレン生成量で, 両区間にエチレン生成の差異は認められなかった. Ethylene production ( l kg h ) 1 1 2 15 1 5 a b Control Ethrel a b Control Ethrel Fig. 9. 1 DT 2 DT Ethylene production in the cavity of 75-day-old immature fruits treated with water (control) or 1 L L 1 ethrel for 1 or 2 days. Vertical bars represent the mean ± SE from 7 1 fruits. DT indicates the days of treatments.mean values within the same duration of treatments with different letters are significantly different at P <.1 by Mann Whitney s U-test. 2) 果実重, 種子重および種皮色に及ぼすエスレル処理の影響エスレル処理区の 65 DOF(45 DOF+2 DET) および 7 DOF(6 DOF+1 DET) の果実は, 対照区の果実に比べ有意に軽くなったが, 8 DOF(6 DOF+2 DET),85 DOF(75 DOF+1 DET) および 95 DOF(75 DOF+2 DET) の果実では対照区の果実に比較して有意差は認められなかった ( 第 4 表 ). エスレル処理区の 55,65,7 および 8 DOF の種子重は, 対照区に比べ有意に軽かった. しかし, エスレル処理区の 85 および 95 DOF の種子重は, 対照区のそれらと比較し有意な差はなかった. また, 対照区では落果はなかった. しかし, エスレル処理区では,55 DOF で 12.5%,65DOF で 66.7%, および 8 DOF では 41.6% の果実が落下した ( データ省略 ). エスレル処理区および対照区の 55 DOF,65 DOF, - 14 -

7 DOF および 8 DOF では, 種皮はすべて白色で種皮色の変化は認められなかった ( データ省略 ). 対照区の 85 DOF(75 DOF+1 DWT) では, 種子はすべて白色であった. エスレル処理区における 85 DOF(75 DOF+1 DET) では, 薄茶色種子の割合が 7% に増加した. 対照区の 95 DOF(75 DOF+2 DWT) では, 白 色および薄茶色種子の割合は 55.5% および 44.5% で, 薄茶色種子はさらに増加した ( 第 1,11 図 ). エスレル処理区の 95 DOF(75 DOF+2 DET) では, 白色, 薄茶色, 褐色および黒色種子の割合は, それぞれ 3.5%,55.6%,38.7% および 2.2% で, 褐色 ~ 黒色の種子の割合が増加した. Table 4. Effects of ethrel treatments of immature fruits on fruit and seed weight. Treatment (DOF + DWT or DET) z Fruit weight (g) Seed weight (mg) Control (45 + 1) 713.6 ± 55.3 a y 54. ± 1.1 a Ethrel (45 + 1) 593.4 ± 45.4 b 45. ± 1. b Control (45 + 2) 99.6 ± 5.2 a 75.7 ± 1.5 a Ethrel (45 + 2) 586.9 ± 68. b 57.2 ± 1.7 b Control (6 + 1) 1196.5 ± 71.9 a 95.6 ± 2.2 a Ethrel (6 + 1) 99.6 ± 5.2 b 81.3 ± 1.7 b Control (6 + 2) 1173.4 ± 48.4 a 115.4 ± 2.2 a Ethrel (6 + 2) 167.4 ± 1.3 a 87.8 ± 2. b Control (75 + 1) 1599.4 ± 118. a 134.4 ± 2.8 a Ethrel (75 + 1) 1586.8 ± 85.9 a 126.2 ± 3. a Control (75 + 2) 1712.6 ± 127.1 a 135.7 ± 1.7 a Ethrel (75 + 2) 166.5 ± 6.4 a 134. ± 3.5 a z DOF, DWT, and DET indicate day-old fruits, days of water treatment, and days of ethrel treatment, respectively. y Values are means ± SE. Values within the same duration of treatments with different letters are significantly different at P <.1 by Mann Whitney s U-test. Percentage of seeds (%) 1 8 6 4 2 Black Brown Light brown White Control Ethrel Control Ethrel 75 DOF + 1 DT 75 DOF + 2 DT Fig. 1. Effect of ethrel treatments on seed coat coloration. Immature fruits of 75 days old (DOF) were treated with water or 1 L L 1 ethrel for 1 or 2 days. DT indicates the days of treatments. - 15 -

Control Ethrel 75 DOF+1 DWT 75 DOF+1 DET 75 DOF+2 DWT 75 DOF+2 DET Fig. 11. Effect of ethrel treatments on seed coloration. Immature fruits of 75 days old (DOF) were treated with water (DWT) or 1 L L 1 ethrel (DET) for 1 or 2 days. 3) 胚発達および胚サイズに及ぼすエスレル処理の影響エスレル処理した 55 DOF(45 DOF+1 DET) から摘出した胚は, 対照区のそれよりも mature cotyledon 型胚の割合が多かった ( 第 5 表 ). しかし, 両処理区における 65 DOF 以上の果実では, 多くの胚はすでに mature cotyledon 型胚に発達していた. また, エスレル処理区の 55 DOF では, 胚のサイズは対 照区のそれに比べ有意に大きかった ( 第 6 表 ). さらに, エスレル処理区の胚の幼根は, 対照区のそれに比べ有意に長く伸長した. しかし,65 DOF 以上の果実齢では, 対照区およびエスレル処理区の間に胚サイズに関する有意差は認められなかったが, 対照区のそれに比べ胚のサイズは小さく, 幼根は短くなる傾向にあった. - 16 -

Table 5. Effects of ethrel treatments of immature fruits on embryo development. Treatment Developmental stage of embryo (%) (DOF + DWT or DET) z Immature Mature Heart Torpedo cotyledon cotyledon Control (45 + 1) 3 (2.6) 15 (13.) 43(37.4) 54 (147.) b y Ethrel (45 + 1) 1 (.7) 8 (5.5) 36(24.8) 1 (169.) a Control (45 + 2) 12 (1.) a Ethrel (45 + 2) 3 (2.5) 5(4.1) 113 (193.) a Control (6 + 1) 12 (1.) a Ethrel (6 + 1) 12 (1.) a Control (6 + 2) 12 (1.) a Ethrel (6 + 2) 12 (1.) a Control (75 + 1) 12 (1.) a Ethrel (75 + 1) 12 (1.) a Control (75 + 2) 12 (1.) a Ethrel (75 + 2) 12 (1.) a z DOF, DWT, and DET indicate day-old fruits, days of water treatment, and days of ethrel treatment, respectively. y Values within the same duration of treatments with different letters are significantly different at P <.1 by Kolmogorov Smirnov test. Table 6. Effects of ethrel treatments of immature fruits on embryo size. Treatment (DOF + DWT or DET) z Embryo length (mm) Embryo width (mm) Radicle length (mm) Control (45 + 1).8 ±.7 b y.5 ±.5 b.3 ±.4 b Ethrel (45 + 1) 1.2 ±.14 a.7 ±.8 a.5 ±.5 a Control (45 + 2) 2.1 ±.1 a 1.2 ±.6 a.7 ±.3 a Ethrel (45 + 2) 1.7 ±.16 a 1.1 ±.1 a.6 ±.5 b Control (6 + 1) 3. ±.4 a 1.9 ±.4 a 1. ±.3 a Ethrel (6 + 1) 2.7 ±.11 a 1.8 ±.7 a.9 ±.4 a Control (6 + 2) 3.1 ±.3 a 2. ±.2 a 1. ±.1 a Ethrel (6 + 2) 2.9 ±.7 a 1.8 ±.5 a.9 ±.3 a Control (75 + 1) 3.2 ±.3 a 2.2 ±.2 a 1. ±.2 a Ethrel (75 + 1) 3.2 ±.4 a 2.1 ±.2 a 1.1 ±.1 a Control (75 + 2) 3.2 ±.2 a 2.2 ±.2 a 1.1 ±.1 a Ethrel (75 + 2) 3.2 ±.4 a 2.1 ±.2 a 1.1 ±.1 a z DOF, DWT, and DET indicate day-old fruits, days of water treatment, and days of ethrel treatment, respectively. y Values are means ± SE. Values within the same duration of treatments with different letters are significantly different at P <.5 by Mann Whitney s U-test. - 17 -

4) 胚発芽および胚実生の生育に及ぼすエスレル処理の影響形態的に分類した 4 段階の胚のうち, mature cotyledon 型胚のみが発芽し, それより若い heart 型, torpedo 型および immature cotyledon 型胚は発芽しなかった. したがって, 本研究では, mature cotyledon 型胚のみを胚発芽実験に供試した. 対照区における 55 DOF(45 DOF+1 DWT) では, 発芽胚はなかった. しかし,65 DOF(45 DOF+2 DWT) では 45% の胚が発芽した. エスレル処理区の 55 DOF (45 DOF+1 DET) では,6% の個体が発芽した. また, 65 DOF(45 DOF+2 DET) では 73% の胚が発芽し, 対照区に比べて有意に発芽率が向上した ( 第 12 図 A). しかし, エスレル処理区の 7 DOF(6 DOF +1 DET),8 DOF(6 DOF+2 DET),85 DOF(75 DOF +1 DET) および 95 DOF(75 DOF+2 DET) では, 対照区との間に発芽率の有意な差異は認められなか った ( 第 12 図 B,C). 対照区の 15 DOF における成熟胚は,8% 以上の高い発芽率を示した. しかし, 12 DOF における胚発芽率は約 4% に低下し,14 DOF では, 発芽胚は認められなくなった. しかし, 16 および 18 DOF では, 胚発芽率は再び約 4% に上昇した ( 第 12 図 D). エスレル処理区の果実から摘出した胚は, 対照区のそれに比較し旺盛に生育する傾向にあった ( 第 7 表 ). エスレル処理区の 65 DOF(45 DOF+2 DET), 7 DOF(6 DOF+1 DET),8 DOF(6 DOF+2 DET), 85 DOF( 75 DOF+1 DET) および 95 DOF(75 DOF+ 2 DET) において, 培養胚から発達した実生の生体重および胚軸長は, 対照区におけるそれらに比較し, 有意に高い値を示した. また, 最大根長も対照区の胚実生のそれに比べ有意に長くなった ( 第 13 図 A, B). Embryo germination rate (%) Embryo germination rate (%) 1 8 6 4 2 A * * Control Ethrel Control Ethrel Control Ethrel Control Ethrel 45 DOF+1 DT 45 DOF+2 DT 6 DOF+1 DT 6 DOF+2 DT 1 1 C D 8 6 4 2 Control Ethrel Control Ethrel 75 DOF+1 DT 75 DOF+2 DT Embryo germination rate (%) Embryo germination rate (%) 1 B 8 6 4 2 15 12 14 16 18 DOF Fig. 12. Effect of ethrel treatments on in vitro embryo germination. The immature fruits at 45 (A), 6 (B), and 75 (C) days old (DOF) were treated with water (control) or 1 L L 1 ethrel for 1 or 2 days. The rate of germinated embryos from 15 18 DOF in the control (D). DT indicates the days of treatments. * * indicates a significant difference at P <.1 by χ 2 -test. 8 6 4 2-18 -

Table 7. Effects of ethrel treatments of immature fruits on weight, hypocotyl, and root length of in vitro seedlings. Treatment (DOF + DWT or DET) z Fresh weight (mg) Hypocotyl length (mm) Longest root length (mm) Control (45 + 1) - - - Ethrel (45 + 1) 26 ± 6 1.5 ±.4 6.2 ±.3 Control (45 + 2) 34 ± 4 b y 2.5 ±.2 b 7.5 ±.5 b Ethrel (45 + 2) 74 ± 5 a 4.4 ±.4 a 9.4 ±.7 a Control (6 + 1) 61 ± 3 b 7.3 ±.8 b 11.5 ±.8 a Ethrel (6 + 1) 82 ± 6 a 1.1 ±.8 a 13.4 ± 1. a Control (6 + 2) 56 ± 2 b 1.3 ±.5 b 9.4 ±.4 b Ethrel (6 + 2) 85 ± 4 a 13.1 ±.7 a 19.4 ± 1.3 a Control (75 + 1) 8 ± 4 b 12.6 ±.6 b 12.4 ±.7 b Ethrel (75 + 1) 91 ± 3 a 15.4 ±.4 a 15.2 ±.5 a Control (75 + 2) 78 ± 2 b 15.6 ±.4 a 13.5 ±.4 b Ethrel (75 + 2) 86 ± 3 a 15.9 ±.3 a 16.2 ±.5 a z DOF, DWT, and DET indicate day-old fruits, days of water treatment, and days of ethrel treatment, respectively.values are means ± SE. y Values within the same duration of treatments with different letters are significantly different at P <.5 by Mann Whitney s U-test. A a B b Fig. 13. In vitro seedling growth promoted by ethrel treatment of immature fruits. Seedlings were established from embryos excised from 6 day-old fruits treated for 2 days with water (control) (A) or 1 L L 1 ethrel (B). Embryos were cultured in vitro for 15 days. Scale bar shows 1 cm. - 19 -

第 4 節考察パパイアはクライマクテリック型の果実に分類されている (Abeles ら,1992;An and Paull,199). Akamine and Goo(1979) は, パパイアの果実内の空洞部における内生エチレンの濃度を測定している. すなわち, 果皮表面の 1% が黄化した果実 (131 DOF) においてエチレン生成がはじまり, その表面の約 8% が黄化した果実 (14 DOF) で生成量 ( 約 3 L L 1 ) が最も高くなった後, 急激に生成量が低下することを報告している. An and Paull (199) は, 果皮表面の 1 % が黄化した果実にエチレンガス (1 L L 1 ) を 24 または 48 時間処理することによって, 果実成熟が促進され果皮色, 果肉の軟化および果肉色の均一化が図れることを報告している. Fabi ら ( 27) は,15 DOF の果実へエチレンガスを処理すると, 呼吸速度の上昇とエチレン生成量の増加に伴い果実成熟が促進されるが,1-MCP( エチレン作用阻害剤 ) 処理により成熟が阻害されることを報告している. 本研究では,75 DOF の未成熟果実へ 1 日間または 2 日間のエスレル処理を行った. この果実齢は, Akamine and Goo( 1979),An and Paull(199) および Fabi ら ( 27) が実験に供試した果実齢よりも若く, また, 収穫後の果実への処理ではなく, 樹上に着果している果実へのエチレン処理である. 対照区の 85 DOF(75 DOF+1 DWT) および 95 DOF(75 DOF+2 DWT) の果実では, エチレン生成量における著しい変化は認められなかった. 一方, エスレル処理区の 85 DOF(75 DOF+1 DET) および 95 DOF(75 DOF+2 DET) では, 対照区のそれらより, エチレン生成量が多かった. エチレンには, 器官離脱促進効果があることが知られており (Abeles ら,1992), 器官離脱は, 細胞壁分解酵素 (β-1,4-glucanase,polygalacturonase および pectin methylesterase) の活性化によって誘導される (Brown,1997;Roberts ら,22). これらの酵素の存在は, パパイアの果実でも確認されており (Ali ら,24), 酵素活性はエチレン生成に依存している (Brown,1997;Roberts ら,22). 本研究では, 無処理区では落果個体は認められなかった. しかし, エスレル処理区では,12.5~66.7% の果実が落果した. また, エスレル処理区の果実重および種子重は, 対照区のそれらに比べ軽くなる傾向にあった. このようなエスレル処理区の果実重および種子重の減少には, 果梗枝部の離層形成により, 果実への養分, 水分および光合成産物の移動が阻害されたことによるものと推察される. 自然条件下では, 9 DOF で種皮は白色から茶色へと変化し始め,114~14 DOF では黒色へと変化する (Calegario ら,1997;Zhou and Paull,21). 本研究では, 対照区における 85 DOF(75 DOF+1 DWT) の種皮は白色であった.95 DOF(75 DOF+2 DWT) では, 薄茶色および褐色の種皮色割合が増加した. これらの結果は,Calegario ら,(1997) および Zhou and Paull(21) の報告と一致した. 一方, エスレル処理によって, 85 DOF(75 DOF+1 DET) および 95 DOF(75 DOF+2 DET) における種皮の着色は明らかに促進した. しかし,55 DOF(45 DOF+1 DET), 65 DOF(45 DOF+2 DET),7 DOF(6 DOF+1 DET) および 8 DOF(6 DOF+2 DET) では, 種皮変化に 対するエスレルの効果は認められなかった. An and Paull(199) も, 未成熟果実 ( 授粉後日数は不明 ) へエチレンを処理した場合, 種皮および果肉色はまったく変化しないことを観察している. Zhou and Paull(21) は, 種子の生長速度 ( 乾物重 ) は, 開花後 7~112 日の間に増加するが, 種皮の着色は, 生長速度が低下する開花後 112 日以降に開始することを報告している. 本研究では,85 DOF 以降の果実に対し, エスレル処理によって種皮の着色が促進したが, 8 DOF(6 DOF+2 DET) 以前の果実では, その効果が認められなかった. このような種皮着色に関するエチレンの反応には, 種子発達段階におけるエチレン感受性の差があるのかも知れない. 55 DOF(45 DOF+1 DET) へのエスレル処理により, 胚の発達促進, 胚サイズ ( 縦径および横径 ) の増大および幼根長の伸長促進効果が認められた. しかし,6,7,8,85 および 95 DOF では, それらへの促進効果は認められなかった. 種子の発達過程でエチレン生成量が異なることがいくつかの植物で報告されている.Johnson -Flanagan and Spencer(1994) は, カラシおよびセイヨウナタネにおける内生エチレン生成と種子発達の関係を調査し, エチレンは torpedo 型胚のステージで増加し, 胚発達に関与していることを示唆している.Fernández-Otero ら (26) は,damson plum において種子の発達初期にエチレンの生成量が増加し, 発達後期に減少することを報告している. Hershkovitz ら (29) は, アボカドの果実へのエチレン処理は胚発芽に効果がないが, 胚のサイズを著しく増大させることを報告している. 本研究では, 授粉後 55~95 日目の果実を供試し, それぞれの胚発達段階におけるエスレル処理の胚発達および胚発芽に及ぼす促進効果を調べた. エスレル処理による胚サイズの増大効果は, 果実発達の初期段階 (55 DOF) でのみ確認され, 65 DOF 以上の果実齢では胚サイズへの影響は認められなかった. 55 DOF の果実には, 胚発達段階の heart, torpedo, immature および mature cotyledon 型胚が認されたが, 65 DOF 以上の果実では, すべての胚が mature cotyledon 型胚に達していた. Johnson-Flanagan and Spencer( 1994) がカラシおよびセイヨウナタネで示したように, パパイアにおいてもエチレンは特定の胚発達段階で作用し, 胚サイズの増大をもたらしたと推察される. しかし, 65~8 DOF では, エスレル処理による離層形成に起因すると思われる落果率の増加があった. また, 55 DOF 以下の未成熟果実へのエスレル処理効果を調査していない. したがって, 本研究では, 胚発達過程におけるエスレル処理の効果を詳細に調べることができなかった. 胚発達に及ぼすエスレル処理効果を明らかにするためには, 果実齢とエスレル処理時間を考慮し試験する必要がある. エチレン処理による胚発芽促進効果は, リンゴ ( Kepczynski ら, 1977 ) およびインゲンマメ (Fountain and Outred,199) で報告されている. Fountain and Outred(199) は, エチレン処理による胚発芽率向上の原因として, エチレンによる ABA 異化作用の促進または組織への透過性の変化の可能性を指摘している. 本研究では, エスレル処理によ - 11 -

る胚発芽促進効果は 55 DOF(45 DOF+1 DET) および 65 DOF(45 DOF+2 DET) においてのみ確認された. しかし,7 DOF 以上の果実齢では, エスレル処理による発芽促進効果は認められなかった. Abeles ら (1992) は, 水性植物における茎と根の伸長促進に及ぼす内生エチレンの影響を報告している. Jackson(27) は, 深水イネ ( Oryza sativa) の節間伸長, 冠水耐性ギシギシ ( Rumex palustris) の葉柄伸長およびイネ実生の葉の伸長促進に関する生理学的機構を紹介している. Hershkovitz ら (29) は, アボカド果実へのエチレン処理によって胚発芽後の実生 ( 胚実生 ) の生育が促進することを報告している. また, このようなエチレン処理による胚実生の生育促進は, エチレン処理による胚サイズの増大と関係していることも示唆している. 本研究では, 授粉後 55~95 日目の未成熟果実において, エスレル処理による胚実生の生育促進効果が確認された. このようなエチレンの胚実生における生育促進効果は, アボガドの胚実生における効果と類似の現象であると思われるが, その作用機作については明らかにできなかった. パパイアの種子には, 一定の休眠期があり, 休眠覚醒後の種子発芽のバラツキも問題となっている (Lange,1961a;Yahiro,1979). そのため, 休眠打破および発芽勢強化を目的とした多くの試験研究が行われている ( Andreoli and Khan, 1993 ; Bautista-Calles ら,28). 本研究では, 無処理の 55~95 DOF および 15~18 DOF から摘出した胚の休眠性を調査した.7~95 日目の果実から摘出した胚の発芽率は約 9% であった. また, 15 日目の果実では,9% の胚発芽率を示した. しかし,12~18 日目の果実では ~4% に胚発芽率が低下した. すなわち, これらの結果は,12~18 日目の果実内の胚が休眠状態にあることを示唆している. このような胚の休眠現象がパパイアの種子発芽率や発芽勢の低さの要因になっているものと推察される. 本章をパパイアの育種年限短縮の観点から以下のようにまとめた. 本研究では, 生育ステージの Ⅰ および Ⅲ における期間短縮の可能性を検討した. 生育ステージ Ⅰ における採種 ~ 実生育成までの期間は約 3 ヶ月で, この期間中には, 種子発芽率および発芽勢の低さなど解決すべき課題がある. これらの課題に対しては胚培養の適用が考えられる. すなわち, 発芽率および発芽勢の向上に対しては, 授粉後 7~ 95 日目の果実から胚を摘出し培養すると, 培養後 2 週間で約 9% の胚が発芽するので, 発芽率および発芽勢の向上を図ることが可能である. さらに, ステージ Ⅲ における開花 ~ 果実収穫までの期間は通常 5 ~8 ヶ月である. この期間の授粉後 6~75 日目の果実へエスレル処理し, 果実内の胚を培養すると, 胚実生の生育は旺盛になり, 開花 ~ 果実収穫までの期間を約 3 ヶ月に短縮することが可能である. すなわち, 全生育期間の 12~17 ヶ月を 7~1 ヶ月に短縮することが可能である. - 111 -

第 3 章 葯培養における 2 倍体の出現に及ぼす花粉発達段階, 季節性および遺伝子型の影響 第 1 節緒言パパイアは三性花異株の性表現型 [ 雄性 ( M1m), 両性 ( M2m), および雌性 ( mm) ] を示す. 本種の育種サイクルは, 他の草本性作物のそれに比較して長いので, 育種年限の短縮が望まれている. 葯培養は作物の育種サイクルを短縮するための重要な育種技術の 1 つとして知られている ( Datta, 25; Germanà,26). 近年,Rimberia ら (25,26a) は, パパイアの葯培養について報告している. これら葯培養に関する報告からは, パパイア育種における葯培養の利用に関するいくつかの問題点が指摘できる. まず, 第 1 に葯培養における植物体再生率の低さである. 第 2 は, 小胞子から超雄性 (M1M1) および超両性 ( M2M2) 植物が分化することなく, 雌性 (mm) 植物のみが出現することである. すなわち, 純系雄性株または純系両性株を育成できなければ, 葯培養によって育成した雌性系統との F1 品種育種が難しい. 第 3 に, 小胞子から育成される植物体のほとんどが 3 倍体となることである. すなわち, 葯培養によって 2 倍性純系が育成できなければ交雑育種が困難になる. パパイアにおける葯培養からの植物体再生率は低い ( Litz and Conover, 1978; Rimberia ら, 25, 26a;Tesy and Su,1985). それは, 主に雄性遺伝子または両性遺伝子のホモ接合体における植物体再生能力の欠如に関連していると思われる ( Hofmyer, 1938;Rimberia ら, 26a; Storey, 1938, 1953). 本研究では, 性遺伝子に関連した植物体再生率の低下は予想されるものの, その再生率向上の可能性を検討した. 一般的に, 葯培養における植物体再生の正否には, 花粉発達段階, 植物体材料の遺伝子型, 培地の栄養組成, 培養期間の温度, 花芽または葯の前処理および植物体の生理状態など多くの要因が関与している ( Datta, 25; Germanà,26, 211; Reynolds, 1997;Smýkal,2). 小胞子供給源としての母本の生理状態は, 季節的な温度, 光, 日長および湿度の変動によって影響を受け (Maheshwari ら,198; Wang ら,2), 植物体再生に関係する小胞子の質に影響する (Heberle-Bors,1985,1989;Ercan ら, 26). 例えば, タバコ (Heberle-Bors and Reinert, 1981), カリフラワー (Yang ら,1992), ジャガイモ ( Tiainen, 1992), トウガラシ ( Kristiansen and Anderson, 1993 ; Ercan ら, 26 ) およびコムギ (Jacquard ら,26) では, 小胞子からの植物体再生率の変動に季節性が関与していることが報告されている. 第 1 章において, パパイアの花粉発芽能力には季節性があり,2~25 ( 春および晩秋 ) で発芽能力が高く,15 以下 ( 冬季 ) および 3 以上 ( 夏季 ) の気温で発芽率が低下することを明らかにした. このような花粉の質に関する季節変動は, 葯培養における植物体再生率に影響することが予想される. カリフラワー (Phippen and Ockendon,199), コムギ (Lu ら,1991), トウガラシ ( Ercan ら, 26) および mexican husk tomato(escobar-guzmán ら, 29) では, 遺伝子型は葯培養における植物体再生率に影響することが報告されている. Tsay and Su (1985) はパパイアの葯培養におけるカルス形成率は, 品種により大きく異なることを指摘している. しかし, 胚形成および植物体誘導に関する品種間差に関する報告はない. 葯培養由来の植物体における倍数体の出現は, Datura innoxia Mill( Engvild ら, 1972), ペチュニア ( Engvild,1973) およびタバコ ( Engvild,1974), Citrus clementina(germanà ら,25) および mexican husk tomato( Escobar-Guzmán ら, 29) などのいくつかの植物種で報告されている. Rimberia ら (26a) は, パパイアの雄性株における葯培養から, 多くの 3 倍体および少数の 4 倍体を得ている. Litz and Conover(1978) は雄性株の葯培養から半数体を得ている. また, Tesy and Su(1985) も両性株の葯培養から半数体を得ている. このような葯培養由来の植物体における倍数体の出現には花粉発達段階が関係していることが Datura innoxia Mill, ペチュニアおよびタバコ ( Engvild,1973,1974;Engvild ら,1972;Sunderland,1974) で報告されている. また, 葯 花粉培養における倍数体出現の機作として, 核内倍加 (endoreduplication) または核融合 ( nuclear fusion ) によることも推定されている ( Gupta,1982;Kasha,25;Seguí-Simarro,28; Shim ら, 26;Sunderland,1974;Sunderland ら, 1974). 本章では, 葯培養における植物体再生率の向上および 2 倍体の誘導を目的に, 葯の採取時期, 花粉発達段階および品種間差の影響について調査した. 第 2 節材料および方法 1) 植物材料および栽培方法雄性株 5 系統 (WI,FT-WI,KC4-WI,KC16-WI および WB2) を系統当たり 1 株供試した. WI は, Wonder Flare ( 雌性株 ) 石垣島在来雄性系統の交配により育成した. FT-WI は, Fruit Tower ( 雌性株 ) WI の交配により育成した. KC4-WI は, KC4 ( 沖縄県農業研究センター育成系統 )( 雌性株 ) WI の交配, KC16-WI は, KC16 ( 沖縄県農業研究センター育成系統 )( 雌性株 ) WI の交配により育成した. WB2 は, Wonder Bright ( 雌性株 ) 沖縄本島在来雄性系統の交配により育成した. 栽培は, 沖縄県農業研究センター ( 本所 ) 内のビニルハウス内で行った.27 年 11 月 26 日に基肥として堆肥 3kg/a および化成肥料 (N:P:K=15: 15:15) を 1kg/a 施した. 追肥として, 定植 (12 月 4 日 ) の 3 ヶ月後から配合粉末液肥 (N:P:K=19: 19:19) の 2 倍液を 1~2 週間毎に施した. 灌水は土壌の乾燥状態により適宜行った. 2) 不定胚およびカルス誘導に及ぼす花粉発達段階および葯の採取時期の影響雄性系統 WI を供試した. 長さ 6.1~ 13.9 mm の小花を約 1 mm 間隔で 8 段階 (6.1~6.9,7.1~7.9, 8.1~ 8.9,9.1~ 9.9,1.1~ 1.9,11.1~ 11.9,12.1 ~ 12.9 および 13.1~ 13.9 mm) に区分した. 28 年 12 月 5 日 ~15 日,29 年 5 月 5 日 ~15 日および 8 月 2 日 ~28 日の異なる時期に, それぞれの区分した小花を採取し葯培養に供試した. 採取時期の 12-112 -

月, 5 月および 8 月における施設内平均気温は, それぞれ 19.7,26.1 および 3. であった. これらの採取時期における WI の花粉発芽率は, それぞれ 42%,67% および 2% であった. 葯培養は以下のように実施した. まず, 収集した小花を 7% エタノールで 1 秒間殺菌した後, 15 分間 1% 次亜塩素酸ナトリウム溶液でそれらを殺菌した. 次に, クリーンベンチ内において, 小花を滅菌水で洗浄した後, 光学顕微鏡下で無菌的に葯を摘出し, 寒天培地上に置床した. 培養には MS 基本培地組成にショ糖 (3 g L - 1 ), 寒天 (8 g L - 1 ),.1 mg L 1 NAA および.5 mg L 1 または.1 mg L 1 の N-(2-chloro-4-pyridyl)-N -phenylurea(cppu) を添加した培地を用いた. 培地は,pH 5.8 に調整した後に,1.6 kpa(121 ) で 15 分間滅菌した. 培養器として直径 9 mm 高さ 2 mm のシャーレを用いた. 培養室の温度および光条件は, それぞれ 25 および植物育成用蛍光灯 ( プラントルクス,TOSHIBA) 照明下の 18 時間日長 ( 光量子量 :27 mol m - 2 s - 1 ) とした. 供試葯数は,4 葯 / シャーレ / 小花区分の 4 反復 ( 合計 16 葯 ) とした. 小花長と花粉発達段階との関係を調査するため, 区分した小花から葯を摘出し, 酢酸アルコール ( 酢酸 1:99% エタノール 3) で 1 時間以上固定した. その後, これら固定葯を 99.5% エタノールで置換して-2 の冷凍庫内に保存した. 保存した葯は観察時に蒸留水に数十秒間浸漬し, スライドグラス上に置床した後, 濾紙で水分を拭き取った. 次に,1 g ml 1 の 4, 6-diamino-2-phenylindole dihydrochlo -ride(dapi) 溶液を 1 滴滴下し, 柄付き針で葯を押しつぶした後, 葯壁を取り除き, カバーガラスを被せ, 蛍光顕微鏡 (BX5;OLYNPUS 社製 ) 下で小胞子の発達段階を観察した. 花粉発達段階は, 減数分裂期,4 分子期,1 核期, 有糸分裂期および 2 核期の 5 段階に区分した. 小胞子の観察には 1 小花 / 小花区分を供試し,3 葯 / 小花を摘出した後, それぞれ 3 小胞子を観察して, 小花 ( 長 ) 区分当たり合計 9 の小胞子における発達段階の調査を行った. 3) 葯培養によって誘導した不定胚由来の幼植物体およびカルス組織の性識別異なる雄性系統の葯培養によって育成した 64 植物体は, 対照植物の雄性系統 ( 材料植物体 ) および雌性系統 (WI) とともに, 性識別 DNA マーカー (SCAR マーカー ) による性判別試験に供試した. 葯培養由来の植物体のうち,24 植物体は WI,11 植物体は FT-WI, 23 植物体は KC4-WI, 6 植物体は KC16-WI から育成した. さらに, KC4-WI の 19 個の葯上に形成したカルス組織も性識別試験に供試した. 性型の識別には, Urasaki ら ( 22) の手法に従って, パパイン遺伝子と SCAR マーカーの同時増幅による Multiplex-PCR 法を用いた. パパイン遺伝子は内部コントロールとして使用した. ゲノム DNA は, DNeasy Plant Mini Kit(Qiagen) を用い, 新葉から抽出した. SCARpm プライマーには,SDP-3(5 -GGTAAGAGTTTT TCCCAAGC-3 ) および SDP-2( 5 -GGATAGCTTGCCCAG GTCAC-3 ) を用いた. パパイン遺伝子のプライマーとして,P5 (5 -GGGCATTCTCAGCTGTTGTA-3, nr 52 to 539) および P3 (5 -CTCCCTTGAGCGACAATA AC-3,nr 74 to 721) を用いた. ポリメラーゼ連鎖反応 (PCR) は,DNA 増幅キット KOD FX(TOYOBO) を用いて行った.PCR 反応液の組成は,1 L ゲノム DNA,.5 M P5 および P3 プライマー, 1. M SDP-2 および SDP-3 プライマーに,KOD FX のプロトコールに従って KOD FX,dTNPs および PCR バッファーを混ぜた 25 L 混合液とした. PCR は, Mastercycler epgradients ( Eppendorf 社製 ) を用い,92 (1 分 ),55 (1 分 ) および 72 (1 分 ) を 1 サイクルとして 3 サイクル行った. その後,75,5 分間の最終増幅を行った.DNA 増幅断片は,2% アガロースゲルで電気泳動し, エチジウムブロマイド溶液に浸した後に紫外線照射装置 Alpha Digidoc System(Alpha Innotech) で検出した. 4 ) 不定胚およびカルス誘導に及ぼす遺伝子型 ( 系統 ) の影響葯培養における植物体再生率および倍数体発生に関する系統間差を調査するために, 雄性株の 5 系統 (WI,FT-WI,KC4-WI,KC16-WI および WB2) を供試した. 28 年 12 月 16 日 ~25 日および 29 年 5 月 16 日 ~ 25 日の期間に各系統から, 長さ 8.1~11.9 mm の小花を採取した. 採取した小花から摘出した葯の花粉発達段階は,4 分子期 ~ 1 核期であった. 葯培養および花粉発達段階の調査方法は, 上記と同様に行った. 供試葯数は, 4/ シャーレ / 系統とし, シャーレ当たり 4 植物体の 12 反復 ( 合計 48 植物体 ) とした. 5) 不定胚由来植物体の倍数性検定 Rimberia ら ( 26a) の手法に従って, すべての葯培養由来植物の倍数性を検定した. 成熟葉から直径 6.5 mm のコルクボーラーを用いて葉切片 ( 約 33 m2 ) を切り出した. 葉切片は,4 L の核抽出バッファー (High resolution DNA staining kit A 液, Partec) 液中で, カミソリの刃を用いて細断した. 核の抽出時間は 5 分間とした. 核を抽出後,3 m ナイロンメッシュのフィルター ( Partec) により残渣を取り除き, サンプルチューブに移し替えた. その後, 2 ml の DAPI 染色液 ( High resolution DNA staining kitb 液,Partec) 中で抽出核を 1 分間の染色をし, 試料溶液とした.2 倍性の雌性系統 WI を内部コントロールとして用い, それぞれの育成植物体の相対的倍数性をプロイディーアナライザー (Partec) によって検定した. 6) 不定胚由来植物体の初期生育特性不定胚由来の植物体のうち, KC4-WI から育成した 2 倍性の 4 植物体 (KC4-2E-1~4) および 3 倍性の 5 植物体 (KC4-3E-1~5), WI から育成した 3 倍性の 2 植物体 (WI-3E-1~2), FT-WI から育成した 3 倍性の 3 植物体 (F-WI-3E-1~3), KC16-WI から育成した 3 倍性の 3 植物体 (KC16-WI-3E-1~3) を供試した. 比較品種に Sunrise Solo の両性株 5 株を供試した. 栽培は, 沖縄県農業研究センター ( 本所 ) 内のビニルハウス内で行った.21 年 7 月 1 日に基肥として堆肥 3kg/a および CDU555(N:P:K=15:15: - 113 -

15) を 1kg/a 施し,7 月 19 日に定植した. 定植 2 ヶ月後の 9 月 19 日に生育調査を行った. 調査項目は, 草高, 節間長, 葉柄長および葉長とした. 節間長は頂部から 13~15 節の 3 ヶ所を測定し, 平均節間長を求めた. 葉柄長および葉長は, 同節の成熟葉の 3 葉を測定し, 平均値を求めた. 第 3 節結果 1) 不定胚およびカルス誘導に及ぼす花粉発達段階および葯の採取時期の影響 12 月および 5 月には, 長さ 6.1~6.9 mm の小花の葯では, 観察した小胞子の 9% 以上が 4 分子期であった ( 第 14 図 ). また, 小花長 7.1~7.9 mm のものでは,8% 以上小胞子は 1 核期の段階にあった. 一方, 8 月には, 長さ 6.1~6.9 mm の小花からの小胞子はすべて減数分裂期にあった. また,7.1~7.9 mm の小花では,1 核期の小胞子の割合は 23% であった. 8.1~11.9 mm の小花では, 12 月,5 月および 8 月のいずれの時期も小胞子の 9% 以上が 1 核期であった. 12 月および 5 月において, 長さ 12.1~12.9 mm の小花の葯では, 有糸分裂期の割合が高く,12 月で 54%, 5 月では 81% であった. また, 小花長 13.1~13.9 mm のものでは,2 核期の割合が高く,12 月で 81%,5 月では 68% であった. 一方,8 月において, 長さ 12.1 ~12.9 mm の小花の葯では, 6% の小胞子が 1 核期であった. また, 小花長 13.1~13.9 mm のものでは, 52% の小胞子が有糸分裂期であった. これらの結果 から,8 月の花粉発達は 12 および 5 月に比較して遅延していることがわかった. 葯培養における葯当たりの不定胚形成率またはカルス形成率は, 花粉発達段階および採取時期によって変動した ( 第 15 図 )..5 mg L 1 および.1 mg L 1 のいずれの CPPU 濃度でも,5 月における不定胚形成率は,12 月におけるそれに比べ高かった. 特に, 1.1~13.9 mm の小花 (1 核期 ~2 核期 ) からの葯における不定胚形成率は最も高く 4.2% であった. 一方, 12 月の.5 mg L 1 CPPU 濃度区における不定胚形成率は,8.1~8.9 mm 小花 (4 分子期 ~1 核期 ) で.8% および 12.1~12.9 mm の小花 ( 有糸分裂期 ~2 核期 ) では 1.7% であった..1 mg L 1 CPPU 濃度区では,8.1~8.9 mm の小花で 2.5% であった. さらに, 8 月では,.1 mg L 1 CPPU 濃度区の 12.1~ 12.9 mm の小花においてのみ, 1 つの葯 (.8%) から不定胚形成が観察された ( データ省略 ). いずれの CPPU 濃度区でも,12 月のカルス形成率は 5 月および 8 月のそれよりも高かった ( 第 15 図 ). 12 月の.5 mg L 1 CPPU 濃度区におけるカルス形成率は,7.1~11.9 mm の小花 ( 4 分子期 ~ 1 核期 ) で.8~9.2% であり,.1 mg L 1 CPPU 濃度区では, 6.1~9.9 mm の小花で.8~5.8% であった. しかし,5 月の.1 mg L 1 CPPU 濃度区および 8 月の.5 mg L 1 CPPU 濃度区における 13.1~13.9 mm の小花において, それぞれ 1 つの葯 (.8%) からカルスが形成された ( データ省略 ). 1 a Me Te Un Mi Bi Percentages of pollen developmental stage (%) 8 6 4 2 1 8 6 4 2 1 8 6 4 2 b c December May August 6.1-6.9 7.1-7.9 8.1-8.9 9.1-9.9 1.1-1.9 11.1-11.9 12.1-12.9 13.1-13.9 Floret length (mm) Fig. 14. Percentages of microspores at each developmental stage in different-sized florets. Me: meiosis, Te: tetrad, Un: uninucleate, Mi: mitosis, Bi: binucleate microspore. - 114 -