総日本呼吸ケア リハビリテーション学会誌 2016 年第 26 巻第 1 号 39-43 説緒言 国立病院機構松江医療センター呼吸器内科 教育研修部 門脇 徹 要旨 VAP(Volume Assured Pressure upport) モードは従圧式と従量式の特長を活かした hybrid モードであり, 現在 NPPV 専用機で 4 つの VAP モードが使用可能である./T モードなどの固定圧モードで治療効果が上がらない場合や, 不快感が強い場合にその効果を発揮する. それにはターゲットとする 1 回換気量の定め方が極めて重要となる. また, ラージリークやライズタイム設定により本来の機能通りに作動しない可能性もある点について理解する必要 がある. まだ明らかにされていない点が多いが, 機能的に期待値の高いモードであり, これまでの固定圧モードに加えて使いこなしていきたいモードである. Key words:nppv(non-invasive positive pressure ventilation),vap(volume assured pressure support),/t モード,T モード 第 ₂₅ 回日本呼吸ケア リハビリテーション学会学術集会ランチョンセミナー Ⅹ VAP は Tailor-made になりうるか? 3 固定圧モードで患者が不快感を訴えるとき 4 閉塞型睡眠時無呼吸の合併 現在 NPPV 専用機では ₄ つの VAP(Volume Assured Pressure upport) モード,(₁)AVAP(Average Volume Assured Pressure upport),(₂)tgv(target Volume), (₃)iVAP(intelligent Volume Assured Pressure upport),(₄)avap-ae(average Volume Assured Pressure upport-auto expiratory positive airway pressure EPAP ) が使用可能となっている. 現時点では VAP モードの有用性についてはエビデンスが不十分ではあるが, 経験症例数が増してきており, 有効な症例や使用上注意すべき点なども少しずつ明らかになってきている. 固定圧モードのみではなく各種 VAP モードについてもその特長を理解し, 状況に応じてその使い分けができることが求められる時代となってきている. 本稿は各種 VAP モードの特長 相違点や臨床研究の結果などを示しながら現時点での NPPV の VAP モードの トリセツ ( 取扱説明書 ) としたい. VAP をはじめるとき NPPV 導入時には固定圧モード (/T(pontaneous/ Timed) モード T(Timed) モードなど ) の使用が標準的と考えられるが, 下記のような場合に VAP モードが検討される. 1 固定圧モードで治療効果が得られないとき 2 固定圧モードで思うように Inspiratory positive airway pressure(ipap) があげられないとき (1にも関連) 1 2については COPD 急性増悪による CO ₂ ナルコーシス患者を対象として /T モードを使用して NPPV を行う群と /T モード+AVAP モード 群の ₂ 群間において治療効果や意識レベルの改善について検討した研究がある ₁). この論文によると /T モード+AVAP モード 群において有意に速やかに意識レベルや PaCO ₂, 呼吸回数が改善しており, 同群においては /T モード群 と比較して最大 IPAP が有意に高く, ₁ 回換気量も多かった.AVAP を上乗せすることにより設定した ₁ 回換気量を保つよう自動的に IPAP が上昇し, 速やかに治療効果が得られたものと考えられる.3について報告は ivap モードのみ ₂,₃) ではあるが, その他の VAP モードにおいても固定圧モードからの切り替えを行った症例や, 新規導入症例においても適切な設定を行えば, 固定圧モードより不快感は少ないことを経験している.4については, このような症例では後述する AVAP-AE モードの auto EPAP 機能により無呼吸の改善が見込めるため, 導入を検討する必要がある. VAP の基本的な作動固定圧モードでは設定された IPAP,EPAP は変化しない. そのため夜間睡眠時など呼吸努力の低下, 睡眠ステージの変化, 体位などによって換気量低下の時間帯が発生する可能性がある. 各種 VAP モードは基本的には固定圧モード同様に従 2016 The Journal of the Japan ociety for Respiratory Care and Rehabilitation 39
圧式であるが, ₁ 回換気量 ( 分時換気量 ) を保証するように吸気圧を自動で上下させる従圧式と従量式のいいとこどりの "hybrid モード である. 各種モードによりアルゴリズムに違いはあるものの, 設定換気量が維持でき Pressure (cmh2o) 20 10 4 Pressure (cmh2o) 20 10 4 換気量を維持するように IPAP(P) が自動で上昇 図 1 設定換気量が維持できないとき IPAP(P) は自動で低下 図 2 設定換気量が維持できているとき Time Time ないときには図 ₁ のように設定された圧力の範囲内で換気量を維持するように IPAP が自動で上昇し, 維持できているもしくは上回っている場合には IPAP を現状維持するか, 図 ₂ のように IPAP を自動で低下させる. ログデータから見た IPAP の動きについて図 ₃ に示す (ivap モード導入症例 ). このような自動圧調整により設定換気量を維持する仕組みとなっている.AVAP-AE モードのみ auto EPAP 機能がついており, 気道抵抗に応じて EPAP を自動で上下させる機能を持っている. 4 つの VAP モードの特徴と使い分け NPPV 専用機に搭載されている VAP モードは AVAP, TgV,iVAP,AVAP-AE の ₄ モードである. それぞれ使用できる機器が異なっているため注意を要する. 表 ₁ に全 ₄ モードの特徴をまとめた. それぞれのモードについて特徴を挙げていきたい. AVAP モードではターゲットは分時換気量 ( 設定は ₁ 回換気量で行う ) であり,IPAP の作動は ₁ ~ ₂ 分かけてゆっくり上昇 低下する./T や T などのモードに上乗せして使用するため ( バックアップ ) 呼吸回数は基本モードでの設定通りとなる. また他の VAP モードに先 図 3 ログデータでみる IPAP の動き (ivap 導入症例 ) 表 1 VAP モードの特徴 AVAP TgV ivap AVAP-AE 登場年 ₂₀₀₀ ₂₀₀₈ ₂₀₁₂ ₂₀₁₃ 設定 全モードに上乗せ可能 全モードに上乗せ可能 ivap モードとして設定 AVAP-AE モードとして設定 ターゲット 分時換気量 分時換気量 肺胞換気量 分時換気量 EPAP 固定 固定 固定 可変 圧の作動 バックアップ呼吸 ₁ -₂ 分かけて上昇 低下基本モードでの設定どおり breath by breath で上昇 低下基本モードでの設定どおり breath by breath で上昇 低下 ibr 機能 AVAP rate として設定可能 auto 設定あり 自動設定 なし なし あり なし 臨床研究 OH 関連多い かなり少ない 少ない かなり少ない 搭載機器 V₆₀ など VIVO シリーズ NIP ネーザル V A₄₀ 40 The Journal of the Japan ociety for Respiratory Care and Rehabilitation
駆けて登場したため, 論文報告が最も多いモードである. 急性期専用機である V₆₀ にも搭載されており, 急性期から慢性期まで幅広く使用できる. TgV は₂₀₀₈ 年に登場した. 設定やターゲット, 基本モードに上乗せするという点において AVAP モードに似るが, 圧の作動が breath by breath で行われる点が異なる. また, 実際の換気量と設定換気量を比較し, 実際の換気量が ₅ % 下回れば IPAP を₀.₅ cmh ₂ O 上昇, ₅ % 上回るようなら IPAP を₀.₅ cmh ₂ O 低下させ, その他の場合には IPAP を変えない というシンプルなアルゴリズムを公開しているため, 使用のしやすさがある. ivap モードは₂₀₁₂ 年に登場したモードであり, 他の VAP モードと比較して異なる点が ₃ 点ある. ₁ 点目はターゲットが解剖学的死腔を除いた 肺胞換気量 となっている点, ₂ 点目は設定した目標肺胞換気量を維持するように IPAP の上下動だけでなく, バックアップ呼吸回数も変化させる (intelligent back-up rate: ibr) 機能を持つ点, そして ₃ 点目は, 患者の自発呼吸を元に自動的に目標肺胞換気量やバックアップ呼吸数を定めることのできる 測定モード を持っている点である. 測定モードでは IPAP,EPAP だけではなく, 既知のデータ ( ₁ 回換気量など ) をマニュアルで入力し, 肺胞換気量などを計算させることができる. また各種設定をマニュアルで入力することもできる. AVAP-AE が直近に登場した VAP モードであり, 全てにおいて AVAP モードの進化版と言ってよい. 最大の特徴は auto EPAP 機能を持っていることである. また, AVAP モードでは圧の作動が ₁ ~ ₂ 分かけてゆっくり, であったが,AVAP rate として作動スピードを調整することができるため,TgV や ivap のようにほぼ breath by breath で作動させることも可能となった. AVAP モードは前述のように実績が多く, 急性期用機器にも搭載されていることから急性呼吸不全から慢性呼吸不全まで幅広くカバーすることが可能である.TgV モードは論文報告が少ないが,AVAP モードと同様に慢性呼吸不全においては幅広く対応が可能と考えられる. ivap モードは前述のように快適性に優位性が期待できるモードであり, 慢性呼吸不全を幅広くカバーできる. AVAP-AE は ₂ 年前に登場したため論文報告がほとんどないが, 慢性呼吸不全に閉塞型睡眠時無呼吸の合併がある場合や, 肥満肺胞低換気症候群にはよい適応と考えられる. 使ってみよう ( 簡単設定ガイド ) VAP モードにおいては, 目標換気量 ( 実際には ₁ 回換気量で設定 ) をどう定めるか? が極めて重要なポイントとなる. 固定圧モードですでに導入されたケースからの切り替えか, 新規導入かにより設定の仕方が異なる. 1 固定圧モードからの切り替えの場合急性期 慢性期にかかわらず,/T モードや T モードからの切り替えの場合には, 前モードで安定した治療効果が得られていた ₁ 回換気量をターゲットに設定すればよい. また前モードより治療効果を上げたい ( 例 :PaCO ₂ を下げたい ) 場合には, ターゲットの ₁ 回換気量を増やすか, 使用していた IPAP を最低圧として設定するとよい. 患者の使用感に応じて最低 IPAP(P) や最高 IPAP (P) を調整する.iVAP モードで 測定モード を使用して目標肺胞換気量を自動計算させた場合には設定した IPAP(P) の幅がかなり広くなることがある.IPAP の上昇 下降幅が大きいと患者が不快感を訴えることが稀にあるため, その際にはさらに調整が必要である. 2 新規導入の場合最近の報告では急性期においても慢性期においても新規導入する際には理想体重あたり₁₀ ml 程度を目標 ₁ 回換気量として定めることが多いようである ₁,₄). または, 固定圧モードとほぼ同様に, 患者が耐えうる IPAP を探りながら最低 IPAP(P) と最高 IPAP(P) を定めていく方法もある. ivap モードの場合には測定モードを利用する方法, 上記のように理想体重あたりの ₁ 回換気量を入力する方法, 全く利用せずマニュアルで最低 IPAP(P) と最高 IPAP(P) を定める方法がある. 測定モードを利用する際にも複数の報告がある. まず最も簡便な方法として, CPAP ₄ cmh ₂ O で ₁ 時間安静呼吸させたデータを元に, 目標肺胞換気量を計算させる方法がある ₂). その方法により熟練者が設定した /T モードと同様の治療効果が得られた, という報告がある. しかしながら慢性呼吸不全患者の低圧 CPAP 下の安静呼吸での測定結果を, そのまま ivap の運転条件としてよいかどうかは若干の疑いが残る. 堀内らは, ほぼマニュアルでの ivap モード設定について報告している ₅). これは NIP ネーザル V に搭載されている 標準 閉塞性 拘束性 肥満低換気 の ₄ つのデフォルト設定をまず選択し, 続いて患者の身長を入力する. その後患者の自発呼吸数を入力し, 現体重 (kg) ₈~₁₀ ml を ₁ 回換気量として入力し, 最後に Vol.26 No.1 2016 41
EPAP,P max/min というものである. このように新規導入で VAP を使用する際には, ターゲットとなる換気量が明らかでないために初期設定に迷うことがある. 当院では慢性期導入をする際には下記のような "mode rotation( モードローテション )( 図 ₄ ) という手法を用いている. 1まず モードで圧力設定し, 夜間導入まで行う. 治療効果は動脈血液ガス分析で確認する. 2 /T モードに変更する. その際, 上記 1の間のログデータを参考にしながらバックアップ呼吸回数を設定する. 治療効果を動脈血液ガス分析で確認する. 3 治療効果を動脈血液ガス分析で確認する. 上記 2の間のログデータから治療効果が得られる ₁ 回換気量を参考にし, 各種 VAP モードへと切り替える. (4 拘束性胸郭疾患の場合には T モードもチャレンジする.) それぞれのモードを使用する期間は ₃ ~ ₄ 日程度である. この "mode rotation" によりスムーズかつ, 根拠を持った VAP モード導入が可能と考えている. 安全にお使いいただくために ( 使用上の注意点 ) 既述のように VAP モードはうまく使用できれば 従圧式と従量式のいいとこ取り のモードであり, 固定圧モードの治療効果と, 圧が必要に応じて上下動する特性から快適性が期待されるが, 使用に際しては下記の ₂ 点を注意する必要がある. 1ラージリークがあると正常作動しないことがある. 当然ながらマスクからのリーク量が多くなると換気量が減るため, 減量分は VAP では圧力上昇で補填 ( 換気量保証 ) して欲しいところである. しかしながら, モデル肺を用いた研究では各種 VAP モードにおいて 逆に吸気圧が下がってしまい ₁ 回換気量も減ってしまうという現象 (=ラージリークによる P 低下現象 ) が起こることが報告されている ₆). 当院でも実際の症例でこの現象を確認している ( 図 ₅ : 提示症例は ivap モード ). NPPV においてはマスクからのリークコントロールは基本であるが,VAP モードにおいてはマスクフィッティングなど, その基本遵守をより徹底する必要がある. 圧設定と夜間導入 /T バックアップ呼吸 AVAP ivap TgV AVAP -AE 図 ₄ 慢性期の VAP モード設定に ~ Mode rotation ~ /T のデータを利用して TV(P の範囲 ) を定める 図 ₅ Pt. leak による P 低下現象 42 The Journal of the Japan ociety for Respiratory Care and Rehabilitation
表 2 VAP モードを持つ NPPV 機器における Rise time のパターン 呼吸器の設定範囲内であっても吸気時間の ₆₇% が,rise time 設定の上限値となる NIP ネーザル V 2ライズタイムの設定に注意する必要がある. 設定した吸気圧まで上昇させるにはライズタイムは吸気時間を超えてはいけないが, 実はこれを自動調整してくれる機種とそうでない機種が存在するため注意が必要である ( 表 ₂ ). 当院では, ライズタイム設定が吸気時間設定を超えていたために,VAP モードで定めた上限圧まで到達せず, 目標 ₁ 回換気量に達しないため PaCO ₂ 上昇が起こった症例 (AVAP モード使用 ) を経験している. こんなときは ( トラブルシューティング ) 1 設定した換気量が維持できないとき 2 治療効果が上がらないとき全ての VAP モードにおいて ラージリークによる P 低下現象 が起こっていないかどうかを確認する必要がある. モニター上に表示されるデータだけではなく, ログデータが確認できる機種では確認する必要がある. また,AVAP,TgV,AVAP-AE の ₃ モードにおいてはライズタイムの設定が適切かどうかを確認する必要がある. 3 圧上昇を患者が不快に感じるとき特に ivap モードの測定モードを利用した場合には IPAP(P) の幅がかなり広くなることがある. その際には IPAP(P)max から min の幅を患者の意見を聞きながら狭くするとよい. 改善に向けて ( 問題点 ) Rise time は呼吸器の設定範囲内を自由に設定できる. 吸気時間を越えた設定が可能 V₆₀ A₄₀ Trilogy ₁₀₀/₂₀₀ BiPAP AVAP BiPAP ynchrony BiPAP ynchrony ₂ ViVO ₄₀/₅₀ VAP モードの問題点は下記の ₅ 点と考える. 1 長期使用のデータがまだない. 2 慢性期で治療効果が /T モードを上回るというデータがない. 3 T モードとの比較試験がない. 4 VAP モード同士の比較試験がない. 5ラージリークによる P 低下現象などの tricky な動きが少ないながら認められる. 今後症例の蓄積によりこれらの問題点が解決されることを望みたい. おわりに 今後も auto EPAP 機能を追加した VAP モードが開発中であり,NPPV においても人工呼吸器の自動化がさらに進んでいくものと思われる.VAP モードはかなりの勢いで普及はしてきているものの, まだまだデータ不足であり長期間にわたる使用成績や適切な初期設定方法など不明な点も多い. 重要な点は各種換気モードの特性を理解しておくこと, 病態や状況に応じて VAP モードだけではなく, これまでの固定圧モードも合わせて全てのモードを使いこなせることである. 本論文の要旨は, 第 ₂₅ 回日本呼吸ケア リハビリテーション学会学術集会のランチョンセミナー ₁₀ VAP は Tailor-made になりうるか? の中で発表した. 著者の COI(conflicts of interest) 開示 : 本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない. A short review of VAP Toru Kadowaki Department of Pulmonary Medicine, National Hospital Organization Matsue Medical Center 文 献 ₁)Briones Claudett KH, Briones Claudett M, ang MC, et al.: Noninvasive mechanical ventilation with average volume assured pressure support(avap)in patients with chronic obstructive pulmonary disease and hypercapnic encephalopathy. BMC Pulm Med ₁₃: ₁₂, ₂₀₁₃. ₂)Jaye J, Chatwin M, Dayer M, et al.: Autotitrating versus standard noninvasive ventilation: a randomised crossover trial. Eur Respir J ₃₃: ₅₆₆-₇₁, ₂₀₀₉. ₃)Kelly JL₁, Jaye J, Pickersgill RE, et al.: Randomized trial of intelligent autotitrating ventilation versus standard pressure support non-invasive ventilation: impact on adherence and physiological outcomes. Respirology ₁₉: ₅₉₆-₆₀₃, ₂₀₁₄. ₄)torre JH, Matrosovich E, Ekkernkamp E, et al.: Home mechanical ventilation for COPD: high-intensity versus target volume noninvasive ventilation. Respir Care ₅₉: ₁₃₈₉-₉₇, ₂₀₁₄. ₅) 堀内武志, 深松伸明, 西井和也, 他 :II 型慢性呼吸不全患者に対して,iVAP モードを用いた NPPV の治療効果とその設定方法.Therapeutic Research ₃₅: ₇₅-₈₀, ₂₀₁₄. ₆)Lujan M, ogo A, Grimau C, et al.: Influence of dynamic leaks in volume-targeted pressure support noninvasive ventilation: A bench study. Resp Care ₆₀: ₁₉₁-₂₀₀, ₂₀₁₅. Vol.26 No.1 2016 43