ビオトープ論 9. 問題土壌 (3) 酸性硫酸塩土壌編
酸性硫酸塩土壌
土壌断面の例 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ 泥炭土壌 塩類土壌 塩類土壌 酸性硫酸塩土壌 ( 林地の例 ) ( 不毛地の例 )
酸性硫酸塩土壌 キーワード 強酸性 干拓地 第三紀丘陵地 マングローブ土壌 パイライト 微生物 ( 鉄酸化細菌や硫黄酸化細菌 ) 土地利用 開発 保護 保全など
A. S. S. とは?
酸性硫酸塩土壌 Acid Sulfate Soil 特徴 (1) 強い酸性 (ph3 前後 ) を示す (2) ある特定の湖や海の下にたまった泥 ( 湖成 海成堆積物 ) が陸化すると生成する (3) 酸性の原因物質が硫酸であることから 酸性硫酸塩土壌 と呼ばれている (4) 日本における A.S.S. の分布域は 主に干拓地と第三紀丘陵地の一部に限られている 世界では問題土壌として広く分布 * 第三紀 : 約 6400 万年前 ~170 万年前
A.S.S. は 世界的分布 アフリカ 43.6% 東南アジア 38.2% 南アジア 16.6% の割合で世界の低湿地や沿岸浅海域に多くが分布する問題土壌
マングローブ地域 世界の A.S.S. の分布は 約 1,200 万ヘクタールに及ぶ その大部分が アフリカ 東南アジアの熱帯マングローブ mangrove ( 熱帯 ~ 亜熱帯の海岸 入り江 河口に生育する常緑の低木 ~ 高木の群落やそれを構成する植物の総称 ) 地域に存在する 東南アジアに分布する ASS 地帯は 潜在的農地とされるが 強酸性であるために放置されていることが多い
日本における A.S.S. 問題 日本では かつては海面干拓地においてのみで問題視されていた 近年 農地造成や宅地造成に際し 造成機械が大型化するにつれ 火山成由来の丘陵地土壌が酸性硫酸塩土壌となる例がみられる
A.S.S. 形成メカニズム
なぜ A.S.S. ができる? 土壌硫酸の生成には 2 つのプロセスがある (1) 酸性化の原因となる硫化物が蓄積する過程 (2) 硫化物が酸化され硫酸が生成する過程 ( 物理的酸化 微生物的酸化 )
(1) 酸性化の原因となる硫化物が蓄積する過程 A.S.S. には その生成過程により 海成 と 火山成 に分けることができる 沿岸域や湖沼域で問題化する A.S.S. は 海成由来 この土壌が強酸性化する原因物質は 沿岸浅海域等に堆積した土壌が強い還元的環境下で 有機物と海水中の硫酸イオンが大量に存在することにより生成した硫黄化合物 主としてパイライト pyrite(fes 2 )
(2) 硫化物が酸化され硫酸が生成する過程 ( 物理的酸化 微生物的酸化 ) 土壌中の硫黄化合物が干陸等により酸素が供給される環境下に置かれることで酸化し 硫酸が生成され 結果的に ph3 以下にまで土壌が強酸性化 パイライト pyrite(fes 2 ) が酸化され硫酸が生成する過程 とくに初期的酸化過程では化学的酸化と微生物的酸化がともに関与し 微生物 ( 鉄酸化細菌や硫黄酸化細菌 ) の働きが触媒として極めて大きな役割を果たしている
FeS 2 Pyrite 化学的酸化 O FeS 2 +7/2O 2 +H 2 Fe 2+ +2SO 2-4 +2H + 2 FeSO 4 7H 2 O Melanterite 化学的酸化 Fe 3+ SO 2-4 H + FeS 2 +2Fe 3+ 3Fe 2+ +2SO 0 S 0 Fe 2+ 化学的酸化 Fe 3+ SO 2-4 H + Fe 2+ 微生物的酸化 (T. thiooxidans and T. ferrooxidans ) O 2 酸化初期では重要な酸化剤 酸化初期では重要な酸化剤 2S 0 +3O 2 +2H 2 O 2SO 2+ 4 +4H + Fe 2+ Fe 3+ 2S 0 +12Fe 3+ +8H 2 O 12Fe 2+ +2SO 2+ 4 +16H + 微生物的酸化 (T. ferrooxidans) O 2 Fe 2+ 1/4O 2 +H + Fe 3+ +1/2H 2 O Fe 3+ 3H 2 O Fe(OH) 3 +3H + ph4 加水分解 有機配位子の酸化 Fe(OH) 3 Ferrihydrite 3Fe(OH) 2+ +2SO 2-4 K + KFe(SO 4 ) 2 (OH) 6 KFe 3 (SO4) 2 (OH) 6 Jarosite 風化脱水蒸発? α-feooh Goethite ph 4 加水分解加水分解? FeSO 4 4H 2 O Rozenite FeSO 4 H 2 O Szomolnokite パイライト酸化の終了 土壌酸性化の停滞後, 土壌の中和過程へ移行 溶解 酸化 酸化 加水分解 Fe 2+ Fe 3+ 4(SO4) 6 (OH) 2 20H 2 O 溶解脱水 再配列 Copiapite 脱水 再配列 α-fe 2 O 3 Hematite SO 2-4 H + 図 1 パイライトの酸化と関連鉱物の生成過程概要 ( 参考 :Nordstrom,1982 および日本化学学会,1999)
A.S.S. の現場 ( 例 )
沿岸域沼地 / 湿地の起源 は約 6 千年前 1. 地形と土壌の特徴 (1) 熱帯 ~ 亜熱帯の沿岸地帯の 潟湖 (Lagoon) (2) マングローブを伴う汽水環境下で土砂堆積 (3) 沼沢植生 ( 木本 ) が母材となった泥炭地が形成 2. 気象と水理の特徴 (1) 乾期と雨期の一年を大きく分ける季節を伴う (2) 乾期は 高い気温下で 蒸発量 降雨量 (3) 雨期は 集中降雨が豊富な地下水流を生む (4) 潮汐の影響を強く受けている 3. 熱帯泥炭土壌の存在 (1) パイライト (Pyrite;FeS 2 ) を含む汽水圏の堆積 (2) 土壌微生物の働きで酸性硫酸塩土壌が生成 地域の野生動植物や農業生産に重大な影響を与えている
東南アジアの泥炭 /A.S.S. 1. 泥炭土壌がある (1) しばしば洪水を受け 地下水位が高い (2) 木本 ( 樹木 ) が倒伏 枯死 腐植した状態 (3) 粘土 シルト 砂を混在させた サンドイッチ様土層構造 が存在する 2. 繊細な自然環境がある (1) 地下水環境 (2) 土壌環境 (3) 野生生物環境 3. その地域の経済 社会情勢がある (1) 無計画な破壊 (2) マングローブ林の抜開 造成 (3) エビ養殖池の造成 その他沿岸域の開発 4.( 農地 ) 開発の留意点 (1) 適正な土地利用 (2) 排水と地下水位制御 (3) 適正な肥培管理 土層改良 客土など
熱帯 ~ 亜熱帯の湿地 泥炭 /A.S.S. の問題点発掘 1. 土壌の物理 化学性の視点 (1) 高い地下水位と洪水の影響を受けている (2) 急速な表土の沈下が懸念されている (3) 作物生産に有毒な有機物が存在している (4) 下層のパイライトを酸化させると表土が酸性化する (5) 無機的肥料分 ( 化学肥料 ) の不足と肥効の不均衡がある (6) 地下水の動態が変化し 土壌環境が改変される
熱帯 ~ 亜熱帯の湿地 泥炭 /A.S.S. の問題点発掘 2. 問題地帯の環境保全と管理 (a) 地下水位の制御や客土などによる泥炭土壌沈下対策が必要 (b) 排水と灌漑などによる用水管理が必要 (c) 適正作物選択や輪作 / 混作による栽培システムが必要 (d) 有害昆虫の排除や微生物の制御が必要 (e) 酸性化と肥培管理の相対する肥培管理の検討が必要 (f) 土壌 地理調査による環境影響因子の評価が必要 (g) 社会的要求の評価が必要 (h) 適切な土地分類の検討が必要
Acid Sulfate Soil in rice production for Negara Brunei Darussalam in 2011
ブルネイ国での研修項目 ( 現地調査について ) 1) 安全第一 2) 酸性硫酸塩土壌 (A.S.S.) の存在を 視る 聞く 嗅ぐ 触る 考える 3) A.S.S. 発生のメカニズムを考える 4) 水田圃場の構造を考える 5) 灌漑 排水の役割と重要性を考える 6) 現地調査法を学ぶ 7) 水田の土層構造を調べる 8) A.S.S. 問題の改善点を考える 9) 調査グループのチームワークと相互信頼を堅くする
A.S.S. team
A.S.S. field
A.S.S. field
Setting of groundwater observation system
Setting of groundwater observation system
Setting of groundwater observation system
Pond which was affected excessively of A.S.S.
Jarosite and crack on the surface at rice field
Jarosite and crack on the surface of rice field
本講義ノートは 農地工学研 HP http://www.bio.mie-u.ac.jp/kankyo/chiiki/ryuiki/