乳癌基礎研究 Vol マウス乳癌好発系 C57BL /6MT(+) の樹立 鈴木悠加 1) 平岩典子 2) 螺良愛郎 3) 坂倉照妤 4) 1) 三重大学大学院地域イノベーション学 2) 理研 BRC 験動物開発室 3) 関西医科大学病理学第二講座 4) 三重大学 はじめに マウス

Similar documents
Untitled

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

H27_大和証券_研究業績_C本文_p indd

化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

イルスが存在しており このウイルスの存在を確認することが診断につながります ウ イルス性発疹症 についての詳細は他稿を参照していただき 今回は 局所感染疾患 と 腫瘍性疾患 のウイルス感染検査と読み方について解説します 皮膚病変におけるウイルス感染検査 ( 図 2, 表 ) 表 皮膚病変におけるウイ

学位論文要旨 牛白血病ウイルス感染牛における臨床免疫学的研究 - 細胞性免疫低下が及ぼす他の疾病発生について - C linical immunological studies on cows infected with bovine leukemia virus: Occurrence of ot

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 松尾祐介 論文審査担当者 主査淺原弘嗣 副査関矢一郎 金井正美 論文題目 Local fibroblast proliferation but not influx is responsible for synovial hyperplasia in a mur

大学院博士課程共通科目ベーシックプログラム

論文の内容の要旨

Microsoft PowerPoint - 4_河邊先生_改.ppt

東邦大学学術リポジトリ タイトル別タイトル作成者 ( 著者 ) 公開者 Epstein Barr virus infection and var 1 in synovial tissues of rheumatoid 関節リウマチ滑膜組織における Epstein Barr ウイルス感染症と Epst

論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 佐藤雄哉 論文審査担当者 主査田中真二 副査三宅智 明石巧 論文題目 Relationship between expression of IGFBP7 and clinicopathological variables in gastric cancer (

モノクローナル抗体とポリクローナル抗体の特性と

博士学位申請論文内容の要旨

結果 この CRE サイトには転写因子 c-jun, ATF2 が結合することが明らかになった また これら の転写因子は炎症性サイトカイン TNFα で刺激したヒト正常肝細胞でも活性化し YTHDC2 の転写 に寄与していることが示唆された ( 参考論文 (A), 1; Tanabe et al.

PowerPoint プレゼンテーション

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小川憲人 論文審査担当者 主査田中真二 副査北川昌伸 渡邉守 論文題目 Clinical significance of platelet derived growth factor -C and -D in gastric cancer ( 論文内容の要旨 )

大学院博士課程共通科目ベーシックプログラム

Microsoft Word - FHA_13FD0159_Y.doc

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

一次サンプル採取マニュアル PM 共通 0001 Department of Clinical Laboratory, Kyoto University Hospital その他の検体検査 >> 8C. 遺伝子関連検査受託終了項目 23th May EGFR 遺伝子変異検

長期/島本1

Microsoft Word - 【最終】リリース様式別紙2_河岡エボラ _2 - ak-1-1-2

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

Microsoft PowerPoint - 601 群馬大学 原田先生.ppt

く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

Microsoft Word - 【広報課確認】 _プレス原稿(最終版)_東大医科研 河岡先生_miClear

Microsoft PowerPoint - 資料6-1_高橋委員(公開用修正).pptx

PowerPoint プレゼンテーション

1. 研究の名称 : 芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍の分子病理学的研究 2. 研究組織 : 研究責任者 : 埼玉医科大学総合医療センター病理部 准教授 百瀬修二 研究実施者 : 埼玉医科大学総合医療センター病理部 教授 田丸淳一 埼玉医科大学総合医療センター血液内科 助教 田中佑加 基盤施設研究責任者

博士の学位論文審査結果の要旨

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

妊娠認識および胎盤形成時のウシ子宮におけるI型IFNシグナル調節機構に関する研究 [全文の要約]

計画研究 年度 定量的一塩基多型解析技術の開発と医療への応用 田平 知子 1) 久木田 洋児 2) 堀内 孝彦 3) 1) 九州大学生体防御医学研究所 林 健志 1) 2) 大阪府立成人病センター研究所 研究の目的と進め方 3) 九州大学病院 研究期間の成果 ポストシークエンシン

Slide 1

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

平成14年度研究報告

Microsoft Word - tohokuuniv-press _02.docx

がん免疫療法モデルの概要 1. TGN1412 第 Ⅰ 相試験事件 2. がん免疫療法での動物モデルの有用性がんワクチン抗 CTLA-4 抗体抗 PD-1 抗体 2

遺伝子治療用ベクターの定義と適用範囲

乳腺病理の着実な進歩-これからの課題 乳癌不均質性に関する考察

1. Caov-3 細胞株 A2780 細胞株においてシスプラチン単剤 シスプラチンとトポテカン併用添加での殺細胞効果を MTS assay を用い検討した 2. Caov-3 細胞株においてシスプラチンによって誘導される Akt の活性化に対し トポテカンが影響するか否かを調べるために シスプラチ

Untitled

検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 P EDTA-2Na( 薄紫 ) 血液 7 ml RNA 検体ラベル ( 単項目オーダー時 ) ホンハ ンテスト 注 外 N60 氷 MINテイリョウ. 採取容器について 0

Untitled

別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手

本成果は 以下の研究助成金によって得られました JSPS 科研費 ( 井上由紀子 ) JSPS 科研費 , 16H06528( 井上高良 ) 精神 神経疾患研究開発費 24-12, 26-9, 27-

437“ƒ

Microsoft Word doc

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

大腸癌術前化学療法後切除標本を用いた免疫チェックポイント分子及び癌関連遺伝子異常のプロファイリングの研究 

Untitled

TuMV 720 nm 1 RNA 9,830 1 P1 HC Pro a NIa Pro 10 P1 HC Pro 3 P36 1 6K1 CI 6 2 6K2VPgNIa Pro b NIb CP HC Pro NIb CP TuMV Y OGAWA et al.,

-119-

た遺伝子を切断し修復時に微小なエラーを生じさせて機能を破壊するノックアウトと 外部か ら任意の配列を挿入して事前設計した通りの機能を与えるノックインに大別される 外来遺伝 子をもった動物の作成や遺伝子治療には後者の技術が必要である しかし 動物胚への遺伝子ノックインには マイクロインジェクション法

遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

01.PDF

<4D F736F F F696E74202D2095B68B9E8BE68E7396AF8CF68A4A8D758DC D18F4390B3816A2E B8CDD8AB B83685D>

<4D F736F F F696E74202D CF697A E58A774A B5A8F7090E096BE89EF816992C A81464B E707074>

ランゲルハンス細胞の過去まず LC の過去についてお話しします LC は 1868 年に 当時ドイツのベルリン大学の医学生であった Paul Langerhans により発見されました しかしながら 当初は 細胞の形状から神経のように見えたため 神経細胞と勘違いされていました その後 約 100 年

芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍における高頻度の 8q24 再構成 : 細胞形態,MYC 発現, 薬剤感受性との関連 Recurrent 8q24 rearrangement in blastic plasmacytoid dendritic cell neoplasm: association wit

, , & 18

2

現し Gasc1 発現低下は多動 固執傾向 様々な学習 記憶障害などの行動異常や 樹状突起スパイン密度の増加と長期増強の亢進というシナプスの異常を引き起こすことを発見し これらの表現型がヒト自閉スペクトラム症 (ASD) など神経発達症の病態と一部類することを見出した しかしながら Gasc1 発現

Microsoft Word - 運動が自閉症様行動とシナプス変性を改善する

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 花房俊昭 宮村昌利 副査副査 教授教授 朝 日 通 雄 勝 間 田 敬 弘 副査 教授 森田大 主論文題名 Effects of Acarbose on the Acceleration of Postprandial

ウイルス (endogenous retrovirus, ERV) を用いました レトロウイルスは通常体細胞に感染しますが 稀に生殖細胞に感染することがあります 生殖細胞に感染したレトロウイルスは 宿主ゲノムの一部として子孫へと遺伝によって受け継がれ ERV となります ある個体で生殖細胞ゲノムの特

EBウイルス関連胃癌の分子生物学的・病理学的検討

小児の難治性白血病を引き起こす MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見 ポイント 小児がんのなかでも 最も頻度が高い急性リンパ性白血病を起こす新たな原因として MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見しました MEF2D-BCL9 融合遺伝子は 治療中に再発する難治性の白血病を引き起こしますが 新しい

Untitled

<4D F736F F F696E74202D20838C D B8358B08A B93C782DD8EE682E890EA97705D>

血漿エクソソーム由来microRNAを用いたグリオブラストーマ診断バイオマーカーの探索 [全文の要約]

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

本成果は 主に以下の事業 研究領域 研究課題によって得られました 日本医療研究開発機構 (AMED) 脳科学研究戦略推進プログラム ( 平成 27 年度より文部科学省より移管 ) 研究課題名 : 遺伝子改変マーモセットの汎用性拡大および作出技術の高度化とその脳科学への応用 研究代表者 : 佐々木えり

< F2D382E8D9596D198618EED82C982A882AF82E98B8D94928C8C9561>

を行った 2.iPS 細胞の由来の探索 3.MEF および TTF 以外の細胞からの ips 細胞誘導 4.Fbx15 以外の遺伝子発現を指標とした ips 細胞の樹立 ips 細胞はこれまでのところレトロウイルスを用いた場合しか樹立できていない また 4 因子を導入した線維芽細胞の中で ips 細

「組換えDNA技術応用食品及び添加物の安全性審査の手続」の一部改正について

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

2. PleSSision( プレシジョン ) 検査の内容について 網羅的ながん遺伝子解析とは? 月 木新患外来診療中 現在 がん は発症臓器 ( たとえば肺 肝臓など ) 及び組織型( たとえば腺がん 扁平上皮がんなど ) に基づいて分類され 治療法の選択が行われています しかし 近年の研究により

トランスジェニック動物を用いた遺伝子突然変異試験の開発 改良 ( ) トランスジェニック動物遺伝子突然変異試験は, 突然変異検出用のレポーター遺伝子をゲノム中に導入した遺伝子組換えマウスやラットを使用する in vivo 遺伝子突然変異試験である. 小核試験が染色体異常誘発性を検出

ス化した さらに 正常から上皮性異形成 上皮性異形成から浸潤癌への変化に伴い有意に発現が変化する 15 遺伝子を同定し 報告した [Int J Cancer. 132(3) (2013)] 本研究では 上記データベースから 特に異形成から浸潤癌への移行で重要な役割を果たす可能性がある

H26_大和証券_研究業績_C本文_p indd

抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

免疫不全マウス移植モデル作製試験結果 多発性骨髄種細胞株 (JJN-3) ならびに急性骨髄性白血病細胞株 (HL-60, SKM-1, KG-1a) 日本チャールス リバー株式会社 2015 年 1 月 本資料は お客様のご厚意によりご提供いただきました 0

<4D F736F F D20322E CA48B8690AC89CA5B90B688E38CA E525D>

博士学位論文審査報告書

がん登録実務について

能性を示した < 方法 > M-CSF RANKL VEGF-C Ds-Red それぞれの全長 cdnaを レトロウイルスを用いてHeLa 細胞に遺伝子導入した これによりM-CSFとDs-Redを発現するHeLa 細胞 (HeLa-M) RANKLと Ds-Redを発現するHeLa 細胞 (HeL


STAP現象の検証結果

A MNU ip X //////////////////// ( 週齢 ) B X //////////////// 3 7 ////// : 基礎食あるいはキサントフィル含有食の摂餌 I I: 基礎食の摂餌 X : 解剖, 乳腺組織と発生した乳癌の摘出 図 1 A: 発癌のイニ

Untitled

検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 P EDTA-2Na( 薄紫 ) 血液 7 ml DNA 検体ラベル ( 単項目オーダー時 ) ホンハ ンテスト 注 JAK2/CALR. 外 N60 氷 採取容器について

研究目的 1. 電波ばく露による免疫細胞への影響に関する研究 我々の体には 恒常性を保つために 生体内に侵入した異物を生体外に排除する 免疫と呼ばれる防御システムが存在する 免疫力の低下は感染を引き起こしやすくなり 健康を損ないやすくなる そこで 2 10W/kgのSARで電波ばく露を行い 免疫細胞

( 図 ) 自閉症患者に見られた異常な CADPS2 の局所的 BDNF 分泌への影響

DVDを見た後で、次の問いに答えてください

Transcription:

マウス乳癌好発系 C57BL /6MT(+) の樹立 鈴木悠加 1) 平岩典子 2) 螺良愛郎 3) 坂倉照妤 4) 1) 三重大学大学院地域イノベーション学 2) 理研 BRC 験動物開発室 3) 関西医科大学病理学第二講座 4) 三重大学 はじめに マウス乳癌ウィルス (mouse mammary tumor virus; MMTV) は 1936 年に乳汁因子として Bittner により発見された 1) MMTV は哺乳類 で最初に発見された RNA 腫瘍ウィルスである MMTV は DBA/2 マウス C3H マウスのよう に乳汁に発現して 乳汁を介して仔マウスに水 平伝達される外来性ウイルス (exogenous virus) として存在するもの GR マウスのようにマウ スのゲノム中に遺伝子座を持ち内在性ウイルス (endogenous virus) として存在し 垂直伝達さ れるとともに乳汁中に発現し水平伝達もするも の マウスゲノム中に遺伝子座をもち内在性ウィ ルスとして存在するが ほとんど発現しない不活 性型 MMTV の三つに大きく分けられる 2) C57BL/6 は 乳癌を移植しても抵抗性を示し また嫌発性である 3) 今回 我々が保有し 維持 している C57BL/6MT(+) は乳癌好発系を示すの で 報告する 材料と方法 乳癌好発系の樹立 経産マウス ( 日本 SLC) の 1 匹に乳癌が見つかっ たため このマウスの仔を兄妹交配により 16 世 代以上交配した 連絡先 : 三重大学 地域イノベーション学研究科 514-8507 三重県津市栗真町屋町 1577 三重大学 地域イノベーション研究開発拠点 高層棟 5F SNPs および SSLP によるゲノム解析 C57BL/6MT(+) および C57BL/6CrSlc の尾より自動 DNA 抽出機を用いてDDNAを抽出した 12 の SNP loci(rs13477019, rs13478783, rs13480122, rs13480759, rs13481014, rs13481734, CEL-14-116404928, rs165065, rs13483055) を用いた SNP 解析とexon 7-11Nnt gene を用いた allele frequenvies 解析を行った 病理標本腫瘍確認後 屠殺し腫瘍を採取し 病理学的検討を行った 病理学的検討には ホルマリン固定後に HE 染色 MMTV のエンベロープ糖蛋白質であるgp52を抗 gp52 抗体を用いて 免疫組織学染色を行った ウィルス粒子の確認のために 腫瘍をオスミウム固定後 透過型電子顕微鏡観察を行った 前癌病変の有無を調べるため 乳腺を採取し 脱脂後ヘマトキシリン染色を行い whole mount 標本を作成した 内在性ウィルスの検出 C57BL/6MT(+) C57BL/6CrSlc GRS/A SHN および C3H/HeN の尾より自動 DNA 抽出機を用いて DNA を抽出した Endogenous mouse mammary tumor virus Mtv1(AF228550/C3H/ HeN 9851 bp) の LTR gag pro pol env および sagltr 部域のプライマーを作成し PCR により内在性ウィルスの存在を調べた キーワード : 乳がん モデル動物 乳癌ウィルス 53

腫瘍を発生しない系統を里親とした仔の腫瘍の 発症 C57BL/6MT(+) を交配し 妊娠 19.5 日で帝王 切開を行い BALB/cAJcl nu/+( 日本クレアか ら購入 理研 BRC 飼育中 腫瘍発生は確認され ていない ) の母親に里仔につけ 離乳後 雄と 交配 1 産後 雌のみ 6 カ月以上飼育し 腫瘍の 発生を調べた 結 果 SNPs および SSLP によるゲノム解析 SSLP および SNPs マーカーを用いた遺伝背景 検査 4) によりC57BL/6MT(+) はC57BL/6CrSlc であることが示された ( 図 1 ) 乳癌発生率経産マウス103 匹中乳癌発生匹数は 94 匹 発生率は91.2% で平均発生年齢 ( 日 ) は273.8 日であった 未産マウスでは 46 匹中 乳癌を発生したのは1 匹であり 乳癌発生率は 2% 発生年齢 ( 日 ) は 317 日であった ( 表.1 ) 乳癌組織像乳癌組織は C3Hに似たタイプ A 腺癌であることが認められた ( 図 3 ) 免疫染色により 乳癌組織が MMTV のエンベロープ糖蛋白質 gp52 陽性であることが確認された ( 図 4 ) 図 1. C57BL/6N 亜系統の遺伝的違いを区別できる SNPs 表 1. C57BL/6 M T( + ); 乳癌発生率 54

図 2. C57BL/6 M T( + ) の乳癌組織像 図 3. C57BL/6 M T( + ) の乳腺前癌病変像 55

図 4. C57BL/6 M T( + ) の乳癌組織における抗 gp52 抗体による免疫染色 図 5. C57BL/6 M T( + ) の乳癌組織における透過型電子顕微鏡像 56

ウィルス粒子の確認乳癌組織を透過型電子顕微鏡を用いて観察すると 細胞質内に乳癌ウィルス粒子の存在が確認された ( 図 5 ) 内在性ウィルスの検出内在性 MMTV を調べた結果 GRS/A は gag pro pol env および sagltr 部域を持ち SHN は全ての部域を持ち C3H/HeN は gag と sagltr 部域を持っていた C57BL/6MT(+) C57BL/6CrSlc は gag と sagltr 部域を持つ C 3 H / H e N 型を示した ( 図 6 ) 腫瘍を発生しない系統を里親とした仔の腫瘍の発生 4 腹 16 匹の雌が得られたが 乳癌発生した個体はいなかった 考察乳癌はマウスにおける自然発生腫瘍のうち最も多い腫瘍の 1つである ミルク中に確認される乳癌ウィルス (MMTV) が主な発症原因である MMTV は ゲノムに挿入し, 挿入部位の遺伝子変異や周辺遺伝子の発現異常によって, 癌を誘 発する これはウィルス挿入による遺伝子の変異や遺伝子発現の変化によるものであることが知られている 本研究の結果から 我々の保有するC57BL/ 6MT(+) の乳癌は 好発系で C3H 様の腺癌であった 更に 妊娠より乳癌発生率が促進された 乳癌発生原因は ミルクを通じて仔マウスに水平伝達される MMMT であることが判明した また C57BL/6MT(+) はゲノム的に乳癌を自然発生しない元系統であるC57BL/6NCrSlc であることも確認した C57BL/6MT(+) は C57BL/6NCrSl と同様 宿主 DNA 中に MMTV がプロウィルスゲノムの状態で組み込まれていることを確認した 更にC3HおよびDBA/2 のマウス乳癌ウィルスのようにミルクに発現し ミルクを通じて仔マウスに水平伝達される外来性として存在するのか GR マウスのようにマウスゲノムの中に内在性ウィルスとして遺伝子座を持ち垂直伝達されると同時にミルク中にも発現して水平伝達するのかを検討が期待される ヒト乳癌発症はウィルスの可能性を示唆する報告はあるが いまだ証明はされていない しかし マウスで得られた乳癌発症プロセスからの知見をヒトの乳癌の診断 予防 治療にめざした臨 図 6. MMTV 遺伝子構造と PCR による検出領域 57

床的研究に役立てることを目標にしている 謝辞理研 BRC 実験動物開発室目加田和之博士のご尽力頂き 感謝いたします 参考文献 1 )Bittner, JJ; Some possible effects of nursing on the mammary tumor in mice, Science 84, 1936 2)Hilger, J and Bentvelzen, P: Murine mammary tumor virus.interaction between viral and genetic factors in murine mammary cancer, Adv Cancer Res 26, 1978 3)Pucillo, C et al; Expression of a MHC class II transgene determines both superantigenicity and susceptibility to mammary tumor virus infection, J Exp Med 178, 1993 4 )Mekada, K et al; Genetic differences among C57BL/6 substrains, Exp Anim 54, 2009 58