血管炎 / B. 小 中動脈の血管炎 157 B. 小 中動脈の血管炎 vasculitis in small-size and medium arteries 1. 結節性多発動脈炎 polyarteritis nodosa;pn, PAN 発熱, 関節症状, 腎機能障害, 末梢神経障害などを生じる全身性血管炎. 病理組織学的には小 中動脈の白血球破砕性血管炎を呈する. 皮下結節, リベド, 紫斑, 潰瘍など多彩な皮膚所見. 分類以前は筋性動脈を侵す疾患として定義され, 結節性動脈周囲炎 (periarteritis nodosa) とも呼ばれていたが, 現在では以下の 3 疾患に分類されている. 分類以前の PN の疾患概念は, 古典的 PN(classical PN) と呼ばれる. 1 結節性多発動脈炎 (PN): 皮膚を含め, 小 中動脈を侵す全身性血管炎. 2 皮膚型結節性多発動脈炎 (cutaneous PN): 皮膚のみに症状を呈するもの. 3 顕微鏡的多発血管炎 (microscopic polyangiitis;mpa): 細動静脈 小動脈を侵す全身性血管炎. 症状 疫学 30 60 歳代に好発する. 皮膚症状は約 30 60% でみられる. 下肢を中心にリベドがみられることが多い. また, 表在性動脈走行に一致して, 直径 1 2 cm 大の皮下結節や紫斑, 潰瘍を生じる ( 図.7). 慢性に経過し, 再発と寛解を繰り返す. 動脈の閉塞から壊疽をきたすこともある. 全身血管炎の症状としては, 発熱や倦怠感, 体重減少, 関節痛のほか, 腎病変 ( 高血圧など ), 多発性単神経炎, 脳血管障害, 消化器症状, 心筋梗塞, 肺線維症などを生じる. a b 病理所見皮膚病変においては真皮深層から皮下組織の動脈に血管炎を生じる ( 図.1 参照 ). 小 中動脈壁の内膜の膨化, 弾性板の破壊, フィブリノイド変性, 好中球主体の細胞浸潤を伴う ( 図.8). 晩期では肉芽を形成し線維化する. 肉芽腫は形成しない. c 図.7 結節性多発動脈炎 (polyarteritis nodosa) a b c
158 章血管炎 紫斑 その他の脈管疾患 診断 鑑別診断 PN は特定疾患治療研究事業の対象疾患であり認定基準が存在する. 皮膚病変の鑑別診断としては, 結節性紅斑, 硬結性紅斑やリベド血管症, クリオグロブリン血症,SLE などがあげられる. 壊疽をきたした例では壊疽性膿皮症 (p.164) との鑑別を要する. 治療 予後ステロイドの大量投与およびシクロホスファミド投与が基本である. 発症初期では炎症による臓器障害が, 晩期では血管閉塞による虚血性障害 ( 腎不全, 脳梗塞, 肺線維症, 心不全など ) が問題となる. 2. 皮膚型結節性多発動脈炎 cutaneous polyarteritis nodosa 結節性多発動脈炎と同じ皮膚症状を呈するが, 他臓器症状を欠くものをいう. 皮疹はレンサ球菌感染などを契機に反復, 遷延する. まれに全身症状をきたして結節性多発動脈炎に移行する例があるため慎重な経過観察が必要である. 安静および下肢の挙上とともに, 血管拡張薬,NSAIDs,DDS などを用いる. 図.8 結節性多発動脈炎の病理組織像 3. 顕微鏡的多発血管炎 microscopic polyangiitis;mpa 同義語 : 顕微鏡的多発動脈炎 (microscopic polyarteritis) 細動静脈 小動脈を侵す全身性血管炎.P-ANCA 陽性の ANCA 関連血管炎. 糸球体腎炎や間質性肺炎が急激に進行し, 予後不良. 浸潤を触れる紫斑 (palpable purpura) やリベドを認める. 定義 細動静脈 小動脈を侵す全身性血管炎として, 古典的結節性 多発動脈炎から独立した疾患概念である. 抗好中球細胞質抗体 (anti-neutrophil cytoplasmic antibody;anca) の一種である P- ANCA(MPO-ANCA) が高頻度に陽性であり, 後述の C チャーグ hurg-s ストラウス trauss 症候群,W ウェゲナー egener 肉芽腫症とともに ANCA 関連血管炎 (ANCAassociated vasculitis) と呼ばれる.
血管炎 / B. 小 中動脈の血管炎 159 症状皮膚症状としては細動静脈の血管炎を反映して, 浸潤を触れる紫斑 (palpable purpura) を下肢中心に生じる.MPA 患者の 20 60% でみられ, 多くは全身症状の出現後に生じる. 紅斑丘疹, リベド, 結節や水疱なども生じうる. 他臓器病変としては急速進行性糸球体腎炎と間質性肺炎 ( 肺出血 ) が特徴的である. 病理所見 診断 治療真皮を中心に白血球破砕性血管炎を認める. 肉芽腫は形成しない.MPO-ANCA は約 60% で陽性となり診断に有用である. 治療は大量ステロイドおよび免疫抑制薬が基本であるが, 急激に進行して 1 年以内に死亡する例も少なくない. 4.C チャーグ hurg-s ストラウス trauss 症候群 Churg-Strauss syndrome; CSS 同義語 : アレルギー性肉芽腫性血管炎 (allergic granulomatous angiitis;aga) 全身性血管炎の一種. 気管支喘息やアレルギー性鼻炎, 好酸球増多が先行する.P-ANCA 陽性の ANCA 関連血管炎. 間質性肺炎および肺の肉芽腫形成をみる. 紫斑, 蕁麻疹, 浮腫性紅斑, 皮下結節, 血疱など多彩な皮疹を呈する. 治療はステロイド大量投与など. 症状 鑑別診断気管支喘息やアレルギー性鼻炎が, 数年間先行して発症する特徴的な全身性血管炎 ( 図.9). 皮膚症状は約半数の症例でみられる. 種々の深さの血管炎を反映して, 紫斑, 蕁麻疹, 浮腫性紅斑, 皮下結節, 血疱など多彩な皮疹を呈する. 多発性単神経炎, 関節炎, 肺病変, 消化管病変などを生じる ( 表.1). 図.9 Churg-Strauss 症候群 (Churg-Strauss syndrome) 表.1 Churg-Strauss 症候群の主な症状 所見 (American College of Rheumatology の提唱する基準から ) 病理所見細動静脈から中動脈を主体とする白血球破砕性血管炎であるが, 血管外に肉芽腫が認められ, 組織への好酸球浸潤が著明である. 皮膚病変では肉芽腫がはっきりしないことも多い. 検査所見 著明な白血球増多, 好酸球の増多および血清 IgE の上昇がみ
160 章血管炎 紫斑 その他の脈管疾患 られる. 抗好中球細胞質抗体のうち P-ANCA(MPO-ANCA) は約 50% で陽性であり, 陽性例では腎炎や肺胞出血などを合併しやすい. 治療 ステロイドパルス療法などを行う. 難治例では免疫抑制薬を 用いることもある. 5.W ウェゲナー egener 肉芽腫症 Wegener s granulomatosis a 全身性血管炎の一種. 上気道症状, 肺病変, 腎病変の順に出現することが多い. 肉芽腫を伴う血管炎が特徴的である.C-ANCA 陽性の ANCA 関連血管炎. 紫斑, 斑状出血, 丘疹紅斑, 皮下結節など多彩な皮疹をみる. 胸部 X 線で多発性の空洞性病変. ステロイドとシクロホスファミドの併用で予後が改善. b 定義 症状 Wegener 肉芽腫症は,1 鼻, 眼, 耳, 上気道および肺の肉芽腫を伴う血管炎,2 腎の壊死性糸球体腎炎,3 全身小 中動脈の血管炎を特徴とする全身性血管炎である. 上気道 (E) 症状として鼻出血や膿性鼻漏などから始まり, 血痰などの肺 (L) 病変を生じるようになり, その後, 腎 (K) 病変を呈する経過が多い. 関節痛や多発性神経炎などの血管炎症状も出現する. ELK のすべてがそろう全身型と,1 2 臓器にとどまる限局型に分類される. 約半数の症例で皮膚症状を認め, 浸潤を触れる紫斑, 斑状出血, 丘疹紅斑, 皮下結節など多彩な皮疹をみる. 初期には壊疽性膿皮症に類似した皮膚病変が認められることがあり, 早期診断に役立つ ( 図.10). c 図.10 Wegener 肉芽腫症 (Wegener s granulomatosis) a b c 病理所見皮膚病変では, 真皮の白血球破砕性血管炎がみられる. 皮下脂肪組織の小動脈壁や血管外に巨細胞などを伴う肉芽腫を認めることがある. 肉芽腫はとくに上気道や肺病変において観察されやすい. 検査所見胸部 X 線写真上では, 約 50% の例で特徴的な空洞化した円
血管炎 / B. 小 中動脈の血管炎 161 形陰影をみる. 抗好中球細胞質抗体である C-ANCA(PR3- ANCA) は活動期の患者では 90% 以上で陽性になるといわれ, 診断に有用である. 治療 予後病型に応じた用量でステロイドと免疫抑制薬を併用する. 従来は予後不良の疾患とされ,1 年以内に腎不全などで死亡する例が大半であったが, 現在は早期に治療すれば寛解に至ることも珍しくない. 6. 側頭動脈炎 temporal arteritis;ta 同義語 : 巨細胞性動脈炎 (giant cell arteritis) 浅側頭動脈もしくは眼動脈に好発する全身性血管炎の一種. 高齢女性に好発し, 主要症状は不明熱, 拍動性頭痛, 視力障害. 側頭部の索状硬結を認め, 筋肉痛 ( リウマチ性多発筋痛 ) を合併. 治療はステロイド内服. 症状 50 歳以上の高齢女性に多い. 浅側頭動脈が好発部位で, 同部位の索状肥厚, 発赤, 圧痛を認める. 虚血が著しいと被髪頭部の水疱, 壊死や脱毛を認める. 高齢者で拍動性頭痛を訴えた場合は本症の可能性がある. 顎はこう動脈が侵されると, 咀嚼時や会話時の咬筋部痛 咬筋跛行 (jaw claudication) が生じる. 眼動脈およびその分枝が侵された場合は急激な視力障害をきたし, 失明することもある. また, 約 30% の患者でリウマチ性多発筋痛の症状をきたす. 肩, 腰部の硬直感や疼痛を生じる. 検査所見赤沈亢進,CRP 上昇を認める. 病理組織では単核球やマクロファージが血管壁および周囲に浸潤し, 巨細胞の出現や血栓を形成する肉芽腫性血管炎の像を呈する.MRI や FDG-PET 検査で他の血管の病変を評価する. 治療 視力障害を防ぐために早期にステロイド全身投与を行う. 寛 解すれば投与中止も可能である.