1. 実践研究 高齢者における各体力要素と歩行様式の関連性 大西史晃 * ** 飯田祐士 * 渡部一郎 * 佐藤裕務 * 抄録 歩行能力 ( 歩行速度 歩幅 ) は 寿命と関連があり 歩行速度や歩幅が優れている人の方が寿命は長いとされており 歩行能力は寿命に影響する体力要素を表す指標とされる 本研究

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方向の3 成分を全て合成したもので 対象の体重で除して標準化 (% 体重 ) した 表 1を見ると 体格指数 BMI では変形無しと初期では差はなく 中高等度で高かった しかし 体脂肪率では変形の度合が増加するにつれて高くなっていた この結果から身長と体重だけで評価できる体格指数 BMI では膝 O

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が必要であるということが示唆されている (10) このことは高齢者に対しても当てはまり 筋力トレーニングは ADLの向上に寄与するとともに 代謝機能を向上させ 心身ともに健康で豊かな生活を営むのに有効であることが示唆されている (7) そこでストレッチング ベンチステップ運動 筋力トレーニングを組み

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はじめに握力は全身の健康状態を表すと報告されている. 握力が低いほど, 身体機能低下や日常生活動作障害の発生率や, 死亡率が高いことが報告されている (Newman ら 2006). 文部科学省の 平成 12 年度体力 運動能力調査 の概要からも死亡率の高い高齢者や小児は握力が低いことが報告されてい

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2. 若わか筋トレプログラム 腕の筋トレ 目標 :10~20 回繰り返しましょう ポイント 呼吸を止めないで 動かしている筋肉を意識する 筋や関節に違和感がある時は無理しない しわ合わせ 胸の筋肉 ( 大胸筋 ) を鍛えます 手のしわを合わせて 互いの手で押しあいます 10 秒間 力を入れましょう

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1. 実践研究 高齢者における各体力要素と歩行様式の関連性 大西史晃 * ** 飯田祐士 * 渡部一郎 * 佐藤裕務 * 抄録 歩行能力 ( 歩行速度 歩幅 ) は 寿命と関連があり 歩行速度や歩幅が優れている人の方が寿命は長いとされており 歩行能力は寿命に影響する体力要素を表す指標とされる 本研究では下肢筋群と歩行能力の関係性を明らかにするとともに その向上を目的としたトレーニングプログラムの効果検証を行うことを目的とした 健康な 65 歳以上の男女 20 名 (72.4±4.1 歳 159.9±10.5cm 56.1±9.6kg) を被験者とし 体組成 ( 体脂肪率 体幹 四肢の筋量 ) 長座体前屈 股関節伸展可動域 立ち上がりテスト 立ち幅跳び 2 ステップテスト 最大歩行速度の測定を行った その結果よりグループ分け ( 介入群 対照群 ) を行い 介入群は 4 種目のトレーニングを週 2 回 6 週間行った後 その効果を検証した また 各項目の効果量を算出し 比較した 歩行能力と関連がみられたのは体脂肪率および立ち幅跳びであった また 介入後の変化については 両群で股関節伸展可動域の低下 (p<0.02) と 2 ステップ値の向上 (p<0.03) がみられ 最大歩行速度に関しては 対照群に有意な低下 (p<0.01) がみられた 研究結果より 高齢者における歩行速度と関連が高い体力要素は筋力および筋パワーであることが示唆された また それらの要素の向上を目的とした介入トレーニングによって 歩行速度の低下を抑えることはできたものの 向上させるには至らなかった しかしながら 効果量からはプログラムとしては一定の効果があったことが示唆された キーワード : 高齢者 筋機能 トレーニング 歩行能力 * 特定非営利活動法人 NSCA ジャパン ** 早稲田大学スポーツ科学研究科 36 平成 30 年度健康 体力づくり事業財団研究助成

1. はじめに歩行能力 ( 歩行速度 歩幅 ) は 寿命と関連があり 歩行速度が速い または歩幅が長い人の方が寿命は長いとされている 1 )2) その一方で 歩行能力の低下や歩行頻度および歩行距離の減少は身体活動の減少や体調不良を表すとされる 2) これは 歩行動作が筋骨格系や神経系 循環器系等の働きと密接に関係するものであり 歩行能力は寿命に影響する体力要素を表す指標と考えることができる 2) 加齢による歩行能力の低下は顕著であり 20 歳時を 100% とすると 80 歳時における歩行能力は 40~60% 低下するという報告 3) もある また 高齢者の運動能力を測る上で最大歩行速度が有効な評価項目であるとされており あわせて筋力低下に起因する歩行能力の低下は転倒リスクが高まることに繋がるとされている 4 )5) なお 股関節伸展筋群のひとつである大殿筋は大きな力を発揮する筋であり 6) それら股関節伸展筋群の活動は特に歩行時の荷重脚から逆脚への荷重移行の際に増加する 7) また 下肢筋群で抗重力筋である大殿筋は加齢により能力が低下しやすい 8) ことを考慮すると 股関節を中心とする下肢の筋機能と歩行の関連性を明らかにすることは 歩行能力の向上を目指したトレーニングプログラムの開発に繋がり それによって人々の歩行能力の向上に伴う寿命の延伸に貢献でき 将来的な医療費削減 健康寿命延伸といった課題の解決に繋がると考えられる また アスリートではない一般の人でもそれらのトレーニングプログラムを日 常に取り入れて行うことを可能とするためには 自宅でも実施可能であることや安全に配慮したものであることが必要と考えられる そこで 本研究では歩行時に使われる下肢筋群と歩行能力の関係性を明らかにするとともに 自体重エクササイズを用いた適切なトレーニングプログラムの開発とその効果の検証を行うことを目的とした 2. 方法 (1) 研究の手順本研究は 研究協力を承諾した被験者に対し 体力測定を行い 結果より体力要素と歩行能力との関連を明らかにした その後グループ分けを行った上で介入トレーニングを行い その効果を並行群間試験にて検証した (2) 対象者運動を行うにあたって健康状態に問題のない 65 歳以上の男女 20 名 ( 72.7±4.3 歳 159.5±10.3cm 55.5±9.6kg) を被験者とした なお 本研究は早稲田大学 人を対象とする研究に関する倫理審査委員会 から承認を得た上で 被験者には予め研究の説明を行い 書面による研究参加への同意を得た上で実施した (3) 体力測定 A. 体力測定実施について NSCA ジャパンヒューマンパフォーマンスセンター ( 千葉県流山市 ) を会場とし 測定を介入前後で二回行った なお 測定時は室温 20.7~21.6 および湿度 28~43% であり トレーニング時のガイドライン 9) の推奨範囲内であった 平成 30 年度健康 体力づくり事業財団研究助成 37

測定の手順は 形態測定を行った後に既定のウォーミングアッププログラムを行い 続いて柔軟性測定 パフォーマンス測定の順で行った B. 測定項目について a. 形態測定測定項目は 身長 体重 体脂肪率 筋肉量 ( 四肢 体幹 ) であった 身長は壁に貼付し固定したテープメジャー ( テープメジャー 50m DW) により測定し その他は体組成計 (MC-780A ポールタイプ タニタ ) を用いて行った b. 柔軟性測定測定項目は 長座体前屈と股関節伸展可動域であった 長座体前屈は長座体前屈測定器 ( 竹井機器工業 ) を用いて測定し 測定方法はアメリカスポーツ医学会のガイドライン 10) を参考にし 測定中は被験者の膝関節が伸展した状態を保つようにした 股関節伸展可動域は 被験者が腹臥位となり 1 名の測定者が殿部を押さえ もう 1 名の測定者が角度計 ( デジタルプロトラクター シンワ測定 ) を用いて行った 測定にあたり 床面と平行な線を基本軸 大腿骨を移動軸とし 被験者には自動動作で可能な限り大腿を挙上し 限界となるところで静止するように指示した このときの基本軸と移動軸がなす角度を測定角度とした 股関節伸展可動域に関する全ての測定は 同じ測定者が担当した c. パフォーマンス測定測定種目は 立ち上がりテスト 2 ステップテスト 立ち幅跳び 最大歩行速度であった 立ち上がりテストは 立ち上がりテストボックス ( アルケア社 ) を用 い 日本整形医科学会が提唱する方法 11) で行った 最大歩幅として 2 ステップテストを採用し 2 ステップテストシート ( アルケア社 ) を用いて日本整形医科学会が提唱する方法 11) で行った 立ち幅跳びは 文部科学省の新体力テストの方法 12) に倣い実施し テープメジャー ( テープメジャー 50m DW) を用いて測定した 最大歩行速度は 大渕らの方法 13) に倣い 11m の歩行コースを設置し その間の 3m 地点から 8m 地点の距離となる総距離 5m を最大努力で歩行するのに掛かった時間を光電管 (TC timing system, BROWER) により測定した (4) 介入トレーニング A. グループ分け介入前の体力測定の結果に基づき参加者を対照群 10 名 ( 年齢 :71.2±4.0 歳 身長 :163.0±9.2cm 体重 :57.1±8.2kg) と介入群 10 名 ( 年齢 :73.7±3.6 歳 身長 :156.4±10.3cm 体重 :54.9±11.0kg) の 2 つのグループに分けた 介入トレーニング開始の時点で 両群には全ての測定項目において有意となる差はなかった B. 介入トレーニングの内容 a. 対照群対照群には 介入期間は通常の日常生活を継続し 日常行動以上の負荷が掛かる身体活動は行わないように指示した b. 介入群介入群は NSCA ジャパンヒューマンパフォーマンスセンターにて NSCA 認定資格をもつトレーニングの専門家の下 週 2 回 6 週間 合計 12 回のトレーニングセッションに参加した なお このセッション以外には 通常の日常生活を継 38 平成 30 年度健康 体力づくり事業財団研究助成

続し 日常行動以上の負荷が掛かる身体活動は行わないように指示した c. ウォーミングアップ & クーリングダウンウォーミングアップでは傷害予防 クーリングダウンでは回復の促進等を目的 14) としてトレーニング前後で静的ストレッチング ( 大殿筋 ハムストリングス 股関節内転筋群 大腿四頭筋 下腿三頭筋 ) ( 図 1~6) を 30 秒 1 セット行った Delavier の方法 15) に倣い 自然なリズ ムでの呼吸を心掛け ゆっくりと筋を伸ばすことを意識させた C. トレーニングプログラムプログラム内容は表 1 のとおりである 歩行時の股関節伸展の際に大殿筋が行うような短縮性筋活動は 70 歳代で 20 歳と比較して 20% 程度低下すること 16) から 股関節の筋機能を中心にトレーニングすることは 歩行能力の改善に繋がると考えられ 股関節伸展動作を中心に膝関節 足関節筋群を動員する動作を用いたトレ 図 1. 大殿筋のストレッチング 図 2. ハムストリングのストレッチング 図 3. 股関節内転筋群のストレッチング ( 膝関節進展位 ) 図 4. 股関節内転筋群のストレッチング 図 5. 大腿四頭筋のストレッチング 図 6. 下腿三頭筋のストレッチング 平成 30 年度健康 体力づくり事業財団研究助成 39

表 ウォームアップ ( 静的ストレッチング ) 各 30 秒 1 セット トレーニング * ( 自体重エクササイズ ) クールダウン ( 静的ストレッチング ) 各 30 秒 1 セット 表 1. トレーニングプログラム 1 ハムストリングス 2 大殿筋 3 股関節内転筋群 ( 膝関節屈曲位 ) 4 股関節内転筋群 ( 膝関節伸展位 ) 5 大腿四頭筋 6 下腿三頭筋 1 パラレルスクワット 2 リバースランジ 3 ヒップリフト 4 カーフレイズ 1 大殿筋 2 ハムストリング 3 股関節筋群 ( 膝関節伸展位 ) 4 下腿三頭筋 * 1~2 週目 :8 回 3 セット 3~4 週目 :10 回 3 セット 5~6 週目 :12 回 3 セット ーニングを行うこととした なおプログラムの内容及び漸進は表 1 のとおりである 本来ならば ダンベルやバーベルといった外的な負荷を用いて強度を増加させることも考えられたが 高齢者が日常的に実施でき かつ安全に実施できるという観点から 自宅等でも実施可能な自体重エクササイズの漸進として 推奨範囲内での回数増加という形で対応した 17) a. スクワット ( パラレル )( 図 7) スクワット動作は 日常生活で頻繁に行われる動作であり 18 )19) 股関節および膝関節周囲筋群を強化できる点で 歩行動作にも利益を与える スクワット種目を導入するにあたり 大きな可動域で動作を行い 股関節伸展筋が大きな力発揮を伴うフルスクワット ( 股関節が膝関節よりも下に位置するまで腰を落とす ) 20 ) ではなく ややしゃがみこみが浅いパラレルスクワットを採用した その理由は 低体力者である高齢者において安全に実施できることを考慮し 膝関節への圧迫 力の増大 18) を避けるためである b. リバースランジ ( 図 8) 足を揃えた状態から 片足を後方へと踏み出し 膝が地面に触れる直前で踏み出した足を元の位置に戻す種目である スクワット同様 股関節ならびに膝関節の屈曲 伸展を用いるが 片脚支持となることで 固有受容器系への刺激が増し 結果 下肢の動作の安定性向上に繋がる 21) また より一般的な種目であるフォワードランジを採用しなかった理由として フォワードランジは 特に筋力が不足した場合 膝関節を中心としたバランス調整に失敗し 怪我をする可能性があることが挙げられる 22) ためである c. ヒップリフト ( 図 9) 仰臥位になり 膝を屈曲した状態で股関節伸展を行う種目で大殿筋を主働筋とする 歩行時の立脚時において 大殿筋は股関節伸展動作に最も貢献するとともに膝関節伸展の際にも貢献するとされている 23) 実施に際しては Contoreras 5) 荒木 24) の方法に倣い ハムストリングス 40 平成 30 年度健康 体力づくり事業財団研究助成

の貢献を弱めるために膝関節を屈曲させ 5) お尻を締めるようにして 大腿と体幹が一直線になるまで挙げるように指示を出した 24) d. カーフレイズ ( 図 10) 立位でかかとを上げるようにし 足関節の底屈動作を行うことで下腿三頭筋を動員する種目である これによって 加齢に伴う歩行中の足関節底屈筋の力発揮の変化 25) や足関節可動域の減少 26) の軽 減を目的とした D. 統計処理体力要素と歩行能力との関係については 各要素の測定結果を偏相関係数によってその関係を検討した なお 制御変数は 年齢 とした これは 後期高齢者 の区分となる 75 歳を境に体力の低下が著しくなると考えられ 27) その影響を考慮したためである トレーニング効果については 二元配 図 7. パラレルスクワット 図 8. リバースランジ 図 9. ヒップリフト 図 10. カーフレイズ 平成 30 年度健康 体力づくり事業財団研究助成 41

置分散分析 ( 被験者内因子 : 介入前 / 介入後 被験者間因子 : 介入群 / 対照群 ) を行い 各因子間の主効果の有無を検討した なお 統計的有意差は p<0.05 とした これらの計算は 統計解析ソフト SPSS バージョン 25( 日本アイ ビー エム社製 ) を用いて行った また トレーニング効果に関して それぞれの項目における介入前後の効果量として Glass のΔを算出した なお 効果量比較に際し 体脂肪率の平均値を基に介入群を 2 群に分け 介入 - 体脂肪高群および介入 - 体脂肪低群とし 各群間で比較した 3. 結果と考察介入前後の相関分析の結果は表 2~3 のとおりである 特に介入前の歩行能力との関係を直接表す項目として 最大歩行速度は体脂肪率 (r=-0.692 p=0.001) と中程度の負の相関関係 および立ち幅跳び (r=0.657, p=0.002) と中程度の正の相関関係が認められた 先行研究では 歩行能力に影響を与えるとされているのは膝関節 股関節の屈曲と伸展 および足関節の底屈動作であり 28) 本研究内でそのすべてを含むのは 2 ステップテストおよび立ち幅跳びである 2 ステップテストの動作は低速で行われる一方 立ち幅跳びは高速での動作となる よって立ち幅跳びでは筋パワーの要素が含まれるため それが歩行速度と強く関連があることが分かった このことに加えて 2 ステップテスト等にみられる歩行動作の歩幅を大きくすることは より大きな股関節の屈曲 伸展が必要となり 高い柔 軟性や筋力が要求される 特に片足を大きく前方に踏み出した際 後方の足を前方に引き寄せるためには 前方の足の高い股関節伸展能力が重要であるとされる 6) これらのことから歩行能力には筋力や筋パワーといった筋機能の優劣が強く関係していることが示唆される トレーニング効果については 左右の股関節伸展可動域で被験者内因子における有意な主効果 ( 右 :p=0.026 左: p=0.017) 2 ステップ値で被験者内因子における有意な主効果 (p=0.022) 最大歩行速度における有意な交互作用 (p=0.009) がみられた 交互作用がみられた最大歩行速度に関しては その後の単純主効果検定で対照群に有意な低下 (p=0.006) がみられた その他の項目については有意な差はみられなかった ( 表 2 3 図 11 参照 ) 本研究では介入群に対し 股関節筋群を動員するエクササイズを行った 下肢筋群の筋力向上のためには スクワットが効果的とされているが 18) 下肢筋力の向上に加え 各動作そのものの質の向上には身体が負荷に対して特異的に適応するという SAID(Specific Adaptation to Imposed Demand: 要求に対する特異的適応 ) の原則 29) が重要となる 股関節伸展可動域測定で行った動作については 身体後方に向かって伸展を行うものであり 伸展筋群である大殿筋の筋力と同様に拮抗筋となる股関節屈曲筋群の柔軟性も重要となる 本研究で用いた介入トレーニングでは その股関節屈曲筋群のストレッチングを行わなかったこと またヒップリフトにおいても 安全性確保の 42 平成 30 年度健康 体力づくり事業財団研究助成

表 2. 各項目における最大速度との相関関係ならびに平均値 ( 介入前 ) 項目平均標準偏差 rxy z 最大速度 (m/ 秒 ) 2.40 0.28 0 立ち幅跳び (cm) 122.55 31.73 0.657 ** 2 ステップ値 ( 歩幅 cm/ 身長 cm) 1.49 0.12 0.207 左立ち上がりテスト ( 点 ) 0.90 0.83 0.414 右立ち上がりテスト ( 点 ) 0.95 0.80 0.436 両立ち上がりテスト ( 点 ) 4.62 0.50 0.008 股伸展角度左 ( 度 ) 20.46 5.31-0.329 股伸展角度右 ( 度 ) 19.31 5.56-0.340 長座体前屈 (cm) 25.99 6.93-0.058 左脚筋肉量 (kg/cm 2 ) 0.025 0.003 0.211 右脚筋肉量 (kg/cm 2 ) 0.025 0.003 0.216 左腕筋肉量 (kg/cm 2 ) 0.007 0.001 0.398 右腕筋肉量 (kg/cm 2 ) 0.007 0.001 0.432 体幹筋肉量 (kg/cm 2 ) 0.157 0.016 0.353 筋肉量 40.63 8.70 0.508 * 体脂肪率 23.60 6.29-0.692 ** 体重 55.50 9.60 0.284 身長 159.45 10.34 0.549 年齢 72.74 4.30 n=20 rxy z: 偏相関係数 *=p<0.05 5 m 最大歩行速度 3.0 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 2.49 2.30 2.30 2.36 介入前 介入後 0.0 対象群 介入群 図 11. 5m 最大速度歩行における介入前後の平均値 検定の結果 対照群において介入前後で有意差が認められた (p=0.006) 平成 30 年度健康 体力づくり事業財団研究助成 43

観点から 大腿と体幹が一直線になる位置を越えて股関節伸展を行わないように指示したことから 股関節伸展可動域が改善しなかったという結果は股関節屈曲筋群の静的および動的柔軟性のいずれにもアプローチできていなかったことに起因していると考えられる また 介入トレーニング種目であるリバースランジにおいても その動作は股関節屈曲位から伸展 0 度までの動作であり 股関節伸展可動域測定のように大腿が身体後方に向かうような伸展を行う動作ではなかった点で特異的な適応が起こるのに十分な刺激となる設定ではなかった可能性が考えられる 次に 2 ステップテストは 前方に片足を大きく踏み出す動作で これはスクワットやヒップリフトには含まれない動作である SAID の原則を考える と 類似動作となるリバースランジのトレーニング効果によって向上したものと考えられる 最大歩行速度においては 対照群で有意に低下した 一方 介入群はトレーニングの効果によって能力の低下を抑制することができたと考えられる なお トレーニングを指導するにあたり 適切なフォームができることに重点を置いたため 動作速度に関しては 速く動かすことを避けること を指示した 歩行動作で動員する股関節筋群に対し 歩行に必要な筋群 動作自体に刺激を与えられた結果 歩行速度は低下しなかったが 有意に向上させるだけの特異的な刺激が十分ではなかった可能性が考えられる その他の項目については有意な差がみられなかった 特に立ち上がりテストに 表 3. 各項目における最大速度との相関関係ならびに平均値 ( 介入後 ) 項目 平均 標準偏差 rxy z 最大速度 (m/ 秒 ) 2.33 0.24 立ち幅跳び (cm) 123.73 29.21 0.505 * 2 ステップ値 ( 歩幅 cm/ 身長 cm) 1.53 0.11 0.388 左立ち上がりテスト ( 点 ) 1.05 0.76 0.337 右立ち上がりテスト ( 点 ) 1.00 0.79 0.377 両立ち上がりテスト ( 点 ) 4.70 0.47-0.417 股伸展角度左 ( 度 ) 17.23 5.32-0.361 股伸展角度右 ( 度 ) 16.25 5.43-0.325 長座体前屈 (cm) 27.19 7.44-0.171 左脚筋肉量 (kg/cm 2 ) 0.025 0.003 0.381 右脚筋肉量 (kg/cm 2 ) 0.025 0.003 0.335 左腕筋肉量 (kg/cm 2 ) 0.007 0.001 0.298 右腕筋肉量 (kg/cm 2 ) 0.007 0.001 0.315 体幹筋肉量 (kg/cm 2 ) 0.152 0.025 0.368 筋肉量 40.00 8.30 0.415 体脂肪率 23.67 6.64-0.259 体重 55.32 9.55 0.361 身長 160.24 10.83 0.421 年齢 72.70 4.38 n=20 rxy z: 偏相関係数 44 平成 30 年度健康 体力づくり事業財団研究助成 *=p<0.05

おいては 介入群 10 名のうち 9 名が改善を示さなかった 片脚の立ち上がりテストは片脚でのスクワット動作と同等の動作であり 20cm ではほぼフルスクワットに近い動作となる この動作を行うには片脚で大きな筋発揮と優れた股関節と膝関節 および足関節の柔軟性が必要となり 難易度の高い動作であったと考えられる 本研究では 片脚での動作としてリバースランジを行ったが 動作範囲は立ち上がりテストでの下肢関節の可動域に比べると狭く 十分な刺激とならなかったと考えられる また介入群を体脂肪率の高低で 2 群に分け 対照群を含めた各群で項目ごとの効果量を比較した結果 2 ステップ値において体脂肪低値群 (0.83: 効果大 ) は体脂肪高値群 (0.54: 効果中 ) および対照群 (0.36: 効果小 ) より効果量が大きかった このことは 体重に占める筋量の割合が多いほど トレーニング効果が高かったことを示唆する これにより 体脂肪率の高い人や筋量が相対的に少ない人に対しては まず筋肥大 体脂肪減少といった基礎体力の向上を目的としたトレーニングを行い その後最大歩幅や歩行能力に関わる筋力 筋パワー系のトレーニングに移行することが肝要となると考えられる これはアスリート同様 トレーニング効果を最大化するためには期分けが重要であることを示唆している 30) 4. まとめ本研究結果より 高齢者における歩行速度と関連が高い体力要素は立ち幅跳びに表される筋力および筋パワーといった 筋機能であることが示唆された また それらの要素の向上を目的とした介入トレーニングによって 歩行速度の低下を抑えることはできたものの 向上させるには至らなかった これは 限定的な負荷となる自体重を採用したこと および継続的なトレーニングを行っていない状態の身体に対するプログラム設定など トレーニング効果を得るために十分な刺激負荷を加える前段階として安全に配慮したことが一因と考えられる しかしながら 効果量からはプログラムが狙った体力因子に対して一定の効果があったことが示唆されたことから 筋機能に着目したトレーニングにより歩行能力の維持が可能になると考えられた なお アスリートではない一般人であっても 更には身体機能が低下傾向にある高齢者であっても 日常的な運動習慣を身に付け 基本的な体力を備えることで様々な身体動作を支えるトレーニングを適用することが可能となる 効率的で安全なトレーニングプログラムの開発とともに 運動習慣を育む社会づくりを目指すことも今後の課題である 引用文献 1)Hardy SE et al. Improvement in Usual Gait Speed Predicts Better Survival in Older Adults. J Am Geriatr Soc. 55:1727 1734, 2007. 2)Studenski S et al. Gait Speed and Survival in Older Adults. JAMA. January 5; 305(1): 50 58. 2011. 3) 島田裕之. サルコペニアと運動 -エビデンスと実践 -. 医歯薬出版株式会社. 平成 30 年度健康 体力づくり事業財団研究助成 45

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25) 藤原勝夫. 運動 認知機能改善へのアプローチ. 市村出版.95-96,2008. 26)Ludwig O. 実践にいかす歩行分析 - 明日から使える観察 計測のポイント -. 医学書院.112,2016. 27) 岩崎房子. 高齢者とフレイル一超高齢社会におけるフレイルケアに関する一考察一. 鹿児島国際大学福祉社会学部論集 36(2):1-16.2017. 28) 市橋則明. 身体運動学 - 関節の制御機構と筋機能 -. メジカルビュー.422, 2019. 29) 篠田邦彦.NSCA 決定版ストレングストレーニング & コンディショニング第 4 版第 17 章. ブックハウス HD.480, 2017. 30) 篠田邦彦.NSCA 決定版ストレングストレーニング & コンディショニング第 4 版第 21 章. ブックハウス HD.632-636, 2017. 本研究は 平成 30 年度健康 体力づく り事業財団健康運動指導研究助成事業 の助成金を受けて実施しています 平成 30 年度健康 体力づくり事業財団研究助成 47