【論文】

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西日本豪雨 市民への緊急メッセージ 記者発表会 防災学術連携体幹事会 趣旨 防災に関わる56の学会ネットワークである防災学術連携体は 平成 30 年 7 月豪雨による西日本を中心とした豪雨災害に関して緊急集会を行い 地球環境の変化は自然災害として身近に迫っており 今後 夏後半から秋にかけては大雨が降

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1.2 主な地形 地質の変化 - 5 -

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近畿地方整備局 資料配付 配布日時 平成 23 年 9 月 8 日 17 時 30 分 件名土砂災害防止法に基づく土砂災害緊急情報について 概 要 土砂災害防止法に基づく 土砂災害緊急情報をお知らせします 本日 夕方から雨が予想されており 今後の降雨の状況により 河道閉塞部分での越流が始まり 土石流

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横書き 2組

第 7 章砂防第 1 節砂防の概要 秋田県は 北に白神山地の二ツ森や藤里駒ケ岳 東に奥羽山脈の八幡平や秋田駒ヶ岳 南に鳥海山など 1,000~2,000m 級の山々に三方を囲まれています これらを水源とする米代川 雄物川 子吉川などの上流域は 荒廃地が多く 土砂の発生源となっています また 本県の地

地すべり学会関西支部大豊地すべり調査 調査報告 メンバー高知大学笹原克夫, 日浦啓全 ( 名誉教授 ) 徳島大学西山賢一京都大学松浦純生, 末峯章, 土井一生国土防災技術 ( 宮本卓也, 井上太郎 相愛山崎尚晃, 松田誠司 四国トライ松尾俊明, 吉村典宏長崎テクノ 讃岐利夫木本工業株西森興司町田博一

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PowerPoint プレゼンテーション

第 7 章砂防 第 1 節 砂防の概要 秋田県は 北に白神山地の二ツ森や藤里駒ヶ岳 東に奥羽山脈の八幡平や秋田駒ヶ岳 南に鳥海山など 1,000~2,000m 級の山々に三方を囲まれています これらを水源とする米代川 雄物川 子吉川などの上流域は 荒廃地が多く 土砂の発生源となっています また 本県

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新潟県連続災害の検証と復興への視点

溶結凝灰岩を含む火砕流堆積物からなっている 特にカルデラ内壁の西側では 地震による強い震動により 大規模な斜面崩壊 ( 阿蘇大橋地区 ) や中 ~ 小規模の斜面崩壊 ( 南阿蘇村立野地区 阿蘇市三久保地区など ) が多数発生している これらの崩壊土砂は崩壊地内および下部に堆積しており 一部は地震時に

2.2 既存文献調査に基づく流木災害の特性 調査方法流木災害の被災地に関する現地調査報告や 流木災害の発生事象に関する研究成果を収集し 発生源の自然条件 ( 地質 地況 林況等 ) 崩壊面積等を整理するとともに それらと流木災害の被害状況との関係を分析した 事例数 :1965 年 ~20

深層崩壊危険斜面抽出手法マニュアル(素案)

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土砂災害防止法よくある質問と回答 土砂災害防止法 ( 正式名称 : 土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関 する法律 ) について よくいただく質問をまとめたものです Ⅰ. 土砂災害防止法について Q1. 土砂災害は年間どれくらい発生しているのですか? A. 全国では 年間約 1,00

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写真 -1 南阿蘇村阿蘇大橋地区の斜面崩壊発生状況 ( 国際航業株式会社 株式会社パスコ撮影 ) 図 -2 平成 24 年九州北部豪雨災害時及び熊本地震時の土砂移動分布図 図 -3 平成 24 年九州北部豪雨災害時及び熊本地震時の土砂移動分布図 ( 阿蘇山外輪部の一部を拡大 ) 図 -2に示すとおり

平成 29 年 12 月 1 日水管理 国土保全局 全国の中小河川の緊急点検の結果を踏まえ 中小河川緊急治水対策プロジェクト をとりまとめました ~ 全国の中小河川で透過型砂防堰堤の整備 河道の掘削 水位計の設置を進めます ~ 全国の中小河川の緊急点検により抽出した箇所において 林野庁とも連携し 中

(6) 災害原因荒廃渓流の源頭部にある0 次谷の崩壊は 尾根付近から発生している 尾根部は山腹斜面に比べ傾斜が緩やかであるが 記録的な集中豪雨 (24 時間雨量 312.5mm( 平成 30 年 7 月 6 日 6 時 ~ 平成 30 年 7 月 7 日 6 時まで ) 累積雨量 519.5mm(

平成30年7月豪雨による都市域の斜面災害

Microsoft PowerPoint - 九州支部村上_平成30年7月豪雨

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豪雨災害対策のための情報提供の推進について

農地等斜面災害緊急調査表 ( 案 ) 巻末 -1

国土技術政策総合研究所 研究資料

新都市社会技術融合創造研究会研究プロジェクト 事前道路通行規制区間の解除のあり方に関する研究

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図-2 土砂移動発生箇所 国土地理院の判読結果 4による 図-3 傾斜区分と土砂移動発生箇所 国土地理院の判読結果 4に よる の関係 根谷川 AMeDAS三入観測点 太田川 可部東地区 広島市安佐北区 八木地区 緑井地区 広島市安佐南区 地質区分 産業技術総合研究所シームレス地質図より関 図-4

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Microsoft PowerPoint - CS立体図による危険地把握e(HP用)

2. 急流河川の現状と課題 2.1 急流河川の特徴 急流河川では 洪水時の流れが速く 転石や土砂を多く含んだ洪水流の強大なエネルギー により 平均年最大流量程度の中小洪水でも 河岸侵食や護岸の被災が生じる また 澪筋 の変化が激しく流路が固定していないため どの地点においても被災を受ける恐れがある

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土砂災害防止法ホームページの改造について

Microsoft PowerPoint - 参考資料 各種情報掲載HPの情報共有

平成 29 年 7 月 20 日滝川タイムライン検討会気象台資料 気象庁札幌管区気象台 Sapporo Regional Headquarters Japan Meteorological Agency 大雨警報 ( 浸水害 ) 洪水警報の基準改正 表面雨量指数の活用による大雨警報 ( 浸水害 )

目次 1. はじめに 1 2. 協議会の構成 2 3. 目的 3 4. 概ね5 年間で実施する取組 4 5. フォローアップ 8

リサーチ ダイジェスト KR-051 自然斜面崩壊に及ぼす樹木根系の抑止効果と降雨時の危険度評価に関する研究 京都大学大学院工学研究科社会基盤工学専攻特定教授杉山友康 1. はじめに 鉄道や道路などの交通インフラ設備の土工施設は これまでの防災対策工事の進捗で降雨に対する耐性が向上しつつある一方で

この台風による和歌山県全域での被害をみると, 人的被害は, 死者 56 人 ( うち災害関連死 6 人 ), 行方不明者 5 人, 負傷者 9 人, 物的被害は, 全壊 371 棟, 半壊 1,842 棟, 一部破損 171 棟, 床上浸水 2,680 棟, 床下浸水 3,147 棟, 浸水被害 1

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2 6.29災害と8.20災害 空中写真による災害規模の比較 5 土石流流出位置 災害時の空中写真 3 3 平成26年8月豪雨による広島土砂災害 三入の雨量グラフ 災害時の空中写真 可部地区 山本地区 八木 緑井地区 三 入 では雨量 強度 8

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1.3 風化 侵食状況

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177 箇所名 那珂市 -1 都道府県茨城県 市区町村那珂市 地区 瓜連, 鹿島 2/6 発生面積 中 地形分類自然堤防 氾濫平野 液状化発生履歴 なし 土地改変履歴 大正 4 年測量の地形図では 那珂川右岸の支流が直線化された以外は ほぼ現在の地形となっている 被害概要 瓜連では気象庁震度 6 強

Microsoft PowerPoint JpGU2014年広島豪雨土砂災害について.pptx

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地盤の被害:斜面の被害

災害調査報告

2019 年1月3日熊本県熊本地方の地震の評価(平成31年2月12日公表)

佐賀県の地震活動概況 (2018 年 12 月 ) ( 1 / 10) 平成 31 年 1 月 15 日佐賀地方気象台 12 月の地震活動概況 12 月に佐賀県内で震度 1 以上を観測した地震は1 回でした (11 月はなし ) 福岡県 佐賀県 長崎県 熊本県 図 1 震央分布図 (2018 年 1

~ 二次的な被害を防止する ~ 第 6 節 1 図 御嶽山における降灰後の土石流に関するシミュレーション計算結果 平成 26 年 9 月の御嶽山噴火後 土砂災害防止法に基づく緊急調査が国土交通省により実施され 降灰後の土石流に関するシミュレーション結果が公表された これにより関係市町村は

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Microsoft Word - j-contents5.doc

平成29年7月九州北部豪雨の概要 7月5日から6日にかけて 停滞した梅雨前線に暖かく 湿った空気が流れ込んだ影響等により 線状降水帯 が形成 維持され 同じ場所に猛烈な雨を継続して 降らせたことから 九州北部地方で記録的な大雨と なった 朝倉では 降り始めから10数時間のうちに500ミリを 超える豪

東日本大震災における施設の被災 3 東北地方太平洋沖地震の浸水範囲とハザードマップの比較 4

ハザードマップポータルサイト広報用資料

9 箇所名 江戸川区 -1 都道府県東京都 市区町村江戸川区 地区 清新町, 臨海町 2/6 発生面積 中 地形分類 盛土地 液状化発生履歴 近傍では1855 安政江戸地震 1894 東京湾北部地震 1923 大正関東地震の際に履歴あり 土地改変履歴 国道 367 号より北側は昭和 46~5 年 南

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2009年7月防府市・山口市豪雨災害において花崗岩斜面に発生した土石流と斜面崩壊の特徴; Characteristics of Debris Flow and Slope Failure on Granite Slopes Caused by Heavy Rainfall on July 2009

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「活断層の補完調査」成果報告書No.H24-2

目次 動作環境について... 2 山地災害危険箇所マップとは... 3 更新情報を見る... 5 関連サイトのリンク情報を見る... 6 利用上の留意事項を確認する... 7 山地災害危険箇所マップを参照する... 8 地図の表示範囲を変更する ( 拡大 縮小 移動 )... 9 地図の表示内容を変

重ねるハザードマップ 大雨が降ったときに危険な場所を知る 浸水のおそれがある場所 土砂災害の危険がある場所 通行止めになるおそれがある道路 が 1 つの地図上で 分かります 土石流による道路寸断のイメージ 事前通行規制区間のイメージ 道路冠水想定箇所のイメージ 浸水のイメージ 洪水時に浸水のおそれが

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熊本地震の緊急調査報告

Microsoft Word - 概要版(案)_ docx

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平成16年度 台風災害調査報告書(WEB).indd

NMM-DDAによる弾塑性解析 およびその適用に関する研究

特集 平成 30 年 7 月豪雨 西日本豪雨による広島県南部の土石流と 警戒区域での災害 広島大学大学院文学研究科後藤秀昭 新殿栞 1 はじめに 2018 年 7 月 6 日 17 時 10 分に気象庁から大雨特別警報が九州北部地域に発令され 19 時 40 分には広島県 岡山県と続き 8 日までに

気象庁 札幌管区気象台 資料 -6 Sapporo Regional Headquarters Japan Meteorological Agency 平成 29 年度防災気象情報の改善 5 日先までの 警報級の可能性 について 危険度を色分けした時系列で分かりやすく提供 大雨警報 ( 浸水害 )

22年2月 目次 .indd

3.[ トップ画面 ] データ放送連携トップ画面 トップ画面には ゆめネットデータ放送と連携した情報が表示されます " メニュー部分を左右に移動させると様々な情報メニューが表示されます " 情報メニューをタップすると内容が表示されます " データ放送以外の情報は 下部のタブメニューをタップすると他の

浸水深 自宅の状況による避難基準 河川沿いの家屋平屋建て 2 階建て以上 浸水深 3m 以上 緊急避難場所, 近隣の安全な建物へ水平避難 浸水深 50 cm ~3m 緊急避難場所, 近隣の安全な建物へ水平避難上階に垂直避難 浸水深 50 cm未満 緊急避難場所, 近隣の安全な建物へ水平避難 自宅に待

地区概況 7-6 ( 旧 ) 平三小学校 大字 平蔵 米原 小草畑 概要市の南東部に位置し 長南町 大多喜町に接している 丘陵地と平蔵川沿いの低地からなり 丘陵地にはゴルフ場が複数立地し 低地では 民家や農地が分布する 地区を南北に国道 297 号が通り 国道 297 号沿いには小規模な造成宅地があ

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04_テクレポ22_内田様.indd

気象庁技術報告第134号表紙#.indd

地すべり地形判読 地すべり地形判読 地すべり地形とは 地すべり地形判読のためには, 地すべりの定義をはっきりさせておく必要がある. まず, 重力を主な駆動力として斜面で発生する物質の移動を 斜面変動 あるいは 砕屑物の集団移動 という. この斜面変動の一形態が地すべりである. 地すべりとは, 斜面物

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A B) km 1 0 0km 50km 50km (A)(B) 2,600 13,100 11,800 2,600 13,100 11,800 ( 2,476) (12,476) (11,238) 9,190 8,260 7,3

火山活動解説資料平成 31 年 4 月 14 日 17 時 50 分発表 阿蘇山の火山活動解説資料 福岡管区気象台地域火山監視 警報センター < 噴火警戒レベルを1( 活火山であることに留意 ) から2( 火口周辺規制 ) に引上げ> 阿蘇山では 火山性微動の振幅が 3 月 15 日以降 小さい状態

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1 吾妻町 平成18年3月27日に東村と合併し東吾妻町になりました 2 六合村 平成22年3月28日に中之条町に編入しました 5.2-2

Transcription:

平成 31 年 2 月 22 日 宍粟市一宮町公文地区の斜面崩壊に対する現地調査結果 ( 速報 その 2)) 1. はじめに 平成 30 年 6 月 28 日から 7 月 8 日にかけて, 西日本を中心に中部地方や北海道など全国的に広い範囲で集中豪雨が発生した. これにより, 多くの地域において, 土砂災害や河川の氾濫および浸水害が発生し, 死者数が 200 人を超える甚大な災害となった. 災害直後に, 著者らが中国や近畿地方などの地域で発生した複数の土砂災害に対する現地調査を実施したので, ここで兵庫県宍粟市公文地域で発生した斜面崩壊および広島県福山市駅家町で発生したため池の決壊に対する調査結果を報告する. なお, 詳細な調査は継続中であるため, 今後本報告の内容が一部変更される可能性がある. 2. 宍粟市の斜面崩壊平成 30 年 7 月の豪雨によって, 宍粟市一宮町公文地区において, 斜面崩壊が発生した ( 写真 -1, 2). 斜面崩壊の正確な発生時刻は不明であるが, 地元住民の証言によると,7 月 7 日の早朝に発生したと推測される. (1) 地質 地形図 -1 は国土地理院による当地区の地形図である. 今回の斜面崩壊の源頭部および崩土の堆積範囲を図中に赤線で示す. この崩壊は, 二つの谷に挟まれている斜面において発生した. 崩壊の滑落崖は約 480m の等高線附近に位置し, 崩壊土砂の末端は 410m の等高線附近に達し, 斜面下部にある民家や田畑が被災した. レーザー距離計で求めた斜面崩壊の比高は約 72m である. 崩壊の滑落崖から末端までの距離 ( 約 160 m) から計算すると, 崩壊の見掛け摩擦角度 (arctan(70/160)) は約 23.6 度となる. 写真 -1 斜面崩壊の発生場所 (google earth より ) 写真 -2 宍粟市一宮町公文地区の斜面崩壊 (2018 年 7 月 14 日撮影 ) 1

崩壊斜面の脚部附近の幅は約 46m で, 中腹付近の幅は約 57m であった. また, 崩壊斜面の右側の側面から崩壊土砂の土層厚は 5~7m, 崩壊源頭部の斜面長は約 60 m 程度であった. したがって, 移動土層は約 3 万立米弱と推測される. 図 -1 斜面崩壊地および周辺地形図. 赤線 : 斜面崩壊および崩土堆積区域 ( 国土地理院電子国土 Web に加筆 ) 図 -2: 崩壊地域の地質図 ( 産業総合技術研究所より加筆 ) 産業総合技術研究所の地質図 Navi によると, 斜面崩壊が発生した地域には流紋岩が分布し, その周辺地域には古生代ペルム紀の花崗閃緑岩が分布している ( 図 -2). 初回の踏査の時 (2018 年 7 月 14 日 ) には, 詳細な地質調査できなかったが, 二回目の調査において, 源頭部に露出した流紋岩が確認された. 崩壊の源頭部には, 大量の崩壊土砂が堆積しており ( 写真 -3). その中に,~10cm ぐらいの礫が散見されるが, 殆どは, 完全に風化してできた真砂土である. また, 崩壊斜面の中腹付近から湧水が確認され, 崩壊地底面の両側から流下している. 崩壊土塊の下位にある堅固な基盤岩が露出している. 源頭部には平滑なすべり面が露出して, その上に薄いすべり面粘土層が附着している ( 写真 -4). 滑落崖の背後斜面においては, 斜面崩壊に伴うクラックなどの形成は認められなかったが, 急斜面の形成により, 背後斜面の安定性が低下しているものと思われる. (2) 斜面崩壊発生 運動 2015 年 4 月 2 日の Google earth 写真によると, 枝葉の成長前の時期になるために, 地表状況が明瞭に伺えるこ 2

とができる ( 写真 -5). この写真より, 赤い矢印で示す箇所は, 今回発生した斜面崩壊の滑落崖の位置になる. これらの矢印で示す箇所の周辺は, 凹地地形を呈しており, 一方, 下部は, 二つの沢地形が認められる. すなわち, 斜面崩壊が発生する前の長い間にこの斜面では, クリープ的な変形が発生しており, 斜面が不安定状態であったことが想定される. 源頭部に露出したすべり面から採取した土試料に対するせん断実験は現在進行中であるが, 地すべり土塊から採取した試料に対する飽和非排水せん断実験を実施した結果 ( 図 -3) から, 斜面崩壊が発生した後に, 飽和土層において, 崩土の運動に伴って, 更なる高い水圧が発生し, 崩壊土砂を流動化させたと考えられる. 以上により, 崩壊土砂が斜面の真下にある緩い斜面や畑を流下し, 住宅を潰した後に, 広い範囲で堆積物を広げたものと推察される. 写真 -3 源頭部に堆積している崩土 写真 -4 源頭部に露出したすべり面 写真 -6 には, 斜面崩壊地周辺の様子を示す. 図 -1 と写真 -6 から, 崩壊斜面に隣接する南側の斜面においては, 過去に大きな斜面崩壊が発生したことが推測される. 丘陵地や山地の扇状地において, 古くから存在している集落では, 住宅を建設する時には, 一般的 ( 経験的 ) にできるだけ土石流災害の恐れがある渓流の出口を避けて計画されていると推測されるが, 今回の土砂災害は, 山地における住宅の建設場所の選定に対しては新たな問題を提起したと考えている. 3

写真 -5 斜面崩壊発生前の斜面状況 (2015 年 4 月 2 日 )(Google earth より ) 図 -3 地すべり土塊から採取した試料に対する飽和非排水せん断実験結果 写真 -6 斜面崩壊発生前の周辺斜面状況 (2015 年 4 月 2 日 )(Google earth より ) 4

4. まとめ上記の調査結果を纏めると, 以下になる. 1. 宍粟市公文地域において発生した斜面崩壊は, 強風化した流紋岩斜面において発生したものであり, 崩壊前の斜面においてクリープ変形が発生しており, 不安定状態にいることがわかった. こういった地形的な特徴を抽出することが, 同じく流紋岩地域の斜面崩壊発生場の予測高度化に貢献することを期待する. 2. 平成 30 年 7 月の豪雨は異常気象をもたらした現象だと想われている. 将来的には, 日本の降雨は, 強雨の発生頻度や総雨量が増加する傾向にある. また, 巨大地震の発生確率も高くなっている. 即ち, 降雨や地震による複合災害の発生危険度も極めた高い. これにより, 今までと異なる場所や規模および被災範囲での土砂災害の発生を助長する. こういった土砂災害の防止及び軽減には, 山地斜面に対する高精度計測を行い, 地形変動情報や地質および土質特性などの基盤データを整備し, 斜面災害の発生機構を究明した上で, より精度の高い土砂災害予知 軽減手法の開発が不可欠である. 謝辞 : 本災害により犠牲となった方々のご冥福をお祈りするとともに, 被害を受けられた皆様にお見舞い申し上げます. そして, 一日も早い復興をお祈りいたします. 本報告では, 国土地理院による地理院地図を用いました. 斜面崩壊地域の土地利用や地形特徴などについて, 富山県立大学の古谷元准教授に議論を頂きました. 記して感謝いたします. 注 : 初回調査団団員 (2018 年 7 月 14 日 ): 神戸大学 : 芥川真一教授株式会社ダイヤコンサルタント : 鏡原聖史様中央復建コンサルタンツ株式会社 : 金村和生様京都大学大学院工学研究科 : 北岡貴文助教京都大学防災研究所 : 王功輝 二回目調査団団員 (2018 年 9 月 7 日 ): 京都大学防災研究所 : 松浦純生教授, 王功輝京都大学大学院理学研究科大学院生 : 常承睿 ( 文責 : 京都大学防災研究所 王功輝 ) 5