経済学 b 第 9 回
講義について 暫定版の講義資料を できる限り 講義当日の午前 0 時までにホームページにアップするので 必要に応じてダウンロードすること URL: http://tomoinoue.web.fc2.com/index.html 補講は 1/14( 金 ) 2 時限 E-202 教室 2010/12/1 2
前回の復習 投資資本ストック資本減耗率 I = K K + dk t t t 1 t 1 = K ( 1 d ) K 1 t t 2010/12/1 3
前回の復習 新古典派の投資理論では 企業の利潤を最大にするように投資が決定されるとする» 資本ストックを増加させた場合の収入と費用を見て 望ましい資本ストックの水準を決める» 現存の資本ストック ( ストック ) が望ましい資本ストックの水準に等しくなるように設備投資 ( フロー ) の水準を決める 2010/12/1 4
前回の復習 望ましい資本ストックの水準では 資本の限界生産性と資本の使用者費用が等しくなる» 資本の限界生産性は 資本を 1 単位増加させたときの生産量の増加分 資本ストックが増加するにつれて逓減する» 資本の使用者費用は 資本を 1 単位増加させたときの費用の増加分 資本減耗の費用と利子の費用の合計 2010/12/1 5
前回の復習 利子率が増加すると 望ましい資本ストックの水準は減少する 利子率の上昇 資本の使用者費用の増加 資本の限界生産性 < 資本の使用者費用 望ましい資本ストックの水準が減少する 2010/12/1 6
前回の復習 在庫投資とは ある期間中に生産された粗付加価値のうち 最終的な利用者に販売された粗付加価値を除いたもの である» 在庫投資 = 生産量 - 販売量» 在庫投資の変動は大きく 景気循環の分析では 重要な役割を果たしている 2010/12/1 7
本日の内容 貨幣の需要と供給» 貨幣はどんな役割を持っているのか?» 何を貨幣とよぶのか?» 貨幣に対する需要はどのように決まるか?» 貨幣の供給はどのように行われるのか? 2010/12/1 8
貨幣の機能 貨幣は何のために存在しているのか? 1 価値尺度 2 交換手段 3 価値の保蔵手段 2010/12/1 9
貨幣の機能 1 価値尺度» 財 サービスを交換するためには それぞれの組み合わせで交換比率 ( 相対価格 ) を決めなければならない» 財 サービスの数が多くなれば 相対価格の組み合わせの数も膨大になる» あらゆる財の価格を 1 つの共通した貨幣の単位で表せば 価格体系は簡便になる 2010/12/1 10
貨幣の機能 貨幣は何のために存在しているのか? 1 価値尺度 2 交換手段 3 価値の保蔵手段 2010/12/1 11
貨幣の機能 2 交換手段» 物々交換では 欲望の二重一致が満たされないと取引が成立しない» すべての財と交換可能な貨幣が存在することで 交換相手を探すコストが大幅に節約できる 貨幣は欲望の二重一致が成立しない取引を媒介する 2010/12/1 12
貨幣の機能 貨幣は何のために存在しているのか? 1 価値尺度 2 交換手段 3 価値の保蔵手段 2010/12/1 13
3 価値の保蔵手段 貨幣の機能» 貨幣は安全資産である 収益率は低いが安定的» 株式や社債は危険資産である 収益率は高いが不安定» 人々が 危険回避的 であれば 資産を保有する条件として 収益率が平均的に安定していることが重要 2010/12/1 14
貨幣の機能 貨幣は何のために存在しているのか? 1 価値尺度 2 交換手段 3 価値の保蔵手段 2010/12/1 15
何を貨幣とよぶのか? 貨幣の概念 価値の保蔵手段の機能 交換手段の機能 価値尺度の機能日本銀行券現金通貨補助通貨 普通預金預金通貨当座預金 定期預金準通貨 2010/12/1 16
貨幣の概念 貨幣の定義» 日本全体の貨幣の供給量を表す指標は 従来 日本銀行がマネーサプライとして公表されていた» 2008 年に統計の見直しが行われ マネーストックとよばれるようになった 2010/12/1 17
さまざまな貨幣の指標 ( マネーサプライの指標 ) 1 M1 = 現金通貨 + 預金通貨 現金通貨 銀行券発行高及び貨幣流通高から対象金融機関保有分を差し引いたもの 預金通貨 対象金融機関の一般預金 公金預金中の要求払預金 ( 当座 普通 貯蓄 通知 別段 納税準備の各預金 ) 合計から小切手 手形を差し引いたもの 2 M2 + CD = M1 + 準通貨 + 譲渡性預金 準通貨 対象金融機関の一般預金 公金預金の合計から要求払預金を除いたもの 譲渡性預金 対象金融機関譲渡性預金のうち一般法人 個人 公金設定分 3 M3 + CD = M2 + CD + 郵便局の貯金および農協 漁協 信用組合 労働金庫などの預貯金 ( 譲渡性預金を含む ) ならびに国内銀行信託勘定 ( 外銀信託を除く ) の金銭信託 貸付信託元本 4 広義流動性 = M3 + CD + 債券現先 + 金融債 + 国債 + 投資信託 + 金銭信託以外の金銭の信託 + 外債 18
貨幣の概念 M2 M3 + + CD CD M1 M2 + CD 2010/12/1 19
貨幣の概念 マネーストック» M1 = 現金通貨 + 全預金取扱機関に預けられた預金通貨» M2 = 現金通貨 + 国内銀行等に預けられた預金» M3 = M1 + 準通貨 + CD( 譲渡性預金 )» 詳細は http://www.boj.or.jp/type/exp/stat/faqms.htm 参照 2010/12/1 20
貨幣需要の動機 貨幣を需要する代表的な動機としては 以下の 3 つが考えられる 1 取引動機 2 予備的動機 3 資産選択の動機 2010/12/1 21
貨幣需要の動機 1 取引動機» 貨幣は 交換手段として利用される際に必要となる» 経済全体の取引量が増えるほど 取引動機にもとづく貨幣需要は大きくなる 流動性の高い現金通貨や利子率の低い預金通貨は 取引額が増加するほど必要とされる 2010/12/1 22
貨幣需要の動機» ただし 流動性の高い貨幣を保有すると それ以外の資産を保有していれば得られていた利子収入を犠牲にすることになる 利子率が上昇すれば 貨幣保有の機会費用が増加する» 利子率の上昇は 取引動機にもとづく貨幣需要にマイナスの影響を与える 2010/12/1 23
貨幣需要の動機 貨幣を需要する代表的な動機としては 以下の 3 つが考えられる 1 取引動機 2 予備的動機 3 資産選択の動機 2010/12/1 24
貨幣需要の動機 2 予備的動機» 事故や病気 災害などによる不意の支出に備えて いつでも使えるお金を準備しておく必要がある いつでも財 サービスと交換できる流動性の高い貨幣が必要» 将来の不確実性が高いほど 予備的動機にもとづく貨幣需要は大きくなる» ただし 利子率が上昇すれば 貨幣需要は減少する 2010/12/1 25
貨幣需要の動機 貨幣を需要する代表的な動機としては 以下の 3 つが考えられる 1 取引動機 2 予備的動機 3 資産選択の動機 2010/12/1 26
貨幣需要の動機 3 資産選択の動機» 価値の保蔵手段としては 収益性の高い株や債券を保有する方が有効である» しかし 株や債券などの危険資産は損失を生み出す可能性がある 価値が下落することで損失 ( キャピタル ロス ) を生み出す 2010/12/1 27
貨幣需要の動機» 危険分散という観点では 安全資産としての貨幣を資産の 1 つとして保有することも望ましくなる» ただし 他の資産の平均的な収益率が上昇すると 利子がつかない貨幣の機会費用は大きくなる» 利子率の上昇は 資産選択の動機にもとづく貨幣需要にもマイナスの影響を与える 2010/12/1 28
貨幣需要の動機 貨幣を需要する代表的な動機としては 以下の 3 つが考えられる 1 取引動機 2 予備的動機 3 資産選択の動機 2010/12/1 29
貨幣需要関数 貨幣需要の動機から» 取引総額の増加 貨幣需要の増加» 利子率の上昇 貨幣需要の減少 しかし 古典派経済学では 貨幣需要は取引額のみに依存すると考えていた 貨幣数量説 2010/12/1 30
貨幣需要関数 フィッシャーの交換方程式» 貨幣数量説の代表的なものの 1 つ 一定期間における貨幣の流通量 一般物価水準 経済全体の実質総取引量 M V = P T 貨幣の流通速度 貨幣の流通速度 : 貨幣が一定期間中に取引に何回使われたかを表す 2010/12/1 31
貨幣需要関数 MV» 一定期間において 貨幣でどれだけの額の取引が行われたかを示す PT» 一定期間における経済全体の名目取引額を示す 2010/12/1 32
貨幣需要関数 貨幣数量説では 貨幣は物価水準のみを決定すると考える» 流通速度 V は短期的には一定とされる» 実質総取引量 T が名目貨幣量 M とは関係なく決まるとすれば 一般物価水準 P は貨幣量 M と同一の割合で変化することになる 古典派の二分法 2010/12/1 33
貨幣需要関数» 名目総取引額 PT は名目国民所得 PY と安定した関係をもつと考えられる» 国民所得を使ったフィッシャーの交換方程式は M V = P TY 2010/12/1 34
貨幣需要関数 ケンブリッジ方程式» 流通速度の逆数を k (= 1 / V) とすると 国民所得を使ったフィッシャーの交換方程式から 以下の方程式が導かれる マーシャルの k M = 1 PY = kpy V 2010/12/1 35
貨幣需要関数 貨幣需要の動機から» 取引総額の増加 貨幣需要の増加» 利子率の上昇 貨幣需要の減少 一般的には 取引総額 ( 国民所得 ) が増えれば貨幣需要は増加し 市場利子率が上昇すれば貨幣需要は減少する 2010/12/1 36
貨幣需要関数 ケインズ派の貨幣需要関数 L = L( Y, i) 貨幣需要量 利子率» L は Y が増加すると増加する一方で i が増加すると減少するという関係を満たすとされる 2010/12/1 37
演習問題 ある年の名目国民所得が 500 兆円 名目貨幣量が 200 兆円であった また その年の経済全体の総取引額は 名目で 2500 兆円であった (1) 名目取引額を使い この年の貨幣の流通速度を求めよ (2) ケンブリッジ方程式を用いて この年のマーシャルの k の値を求めよ (3) マーシャルの k が一定のとき 10 年後の名目貨幣量が 300 兆円になるとすると 10 年後の名目国民所得はいくらになるか 2010/12/1 38
貨幣の供給 中央銀行が貨幣を供給する» 日本では 日本銀行が貨幣を供給し 貨幣供給量をコントロールする» 貨幣供給量 (M) = 現金通貨 (C) + 預金通貨 (D) 2010/12/1 39
貨幣の供給 ハイパワード マネー» ハイパワード マネー (H) = 現金通貨 (C) + 銀行の預金準備 (R) 預金準備は 市中銀行が預金の引き出しに備えて中央銀行に預けている預金のこと ハイパワード マネーは マネタリー ベースまたはベース マネーとよばれることもある 2010/12/1 40
貨幣の供給 (2009 年 12 月末 残高合計は 106 兆円 ) 2010/12/1 41