第 5 章 異文化適応への予防的教育支援 第 1 節渡日前 渡日後 滞在中 修了時 修了後のオリエンテーション 留学生たちが渡日前から物心両面の準備をして留学できるよう 渡日前オリエンテーションを行なってきた 入学前ハンドブックを2 年ごとに更新して冊子化するとともに ウェブ掲載している この数年間でのインターネットの普及はめざましく かなりの割合の学生たちがネット上で様々な情報にアクセスできる状況になっている それでもインターネット情報だけに頼れない環境にいる学生たちもいて 郵送での渡日前ハンドブックの送付も行なっている 留学生センターに所属する学生たちへは 入学前情報の提供とともに 留学生センターでの授業や渡日後の日程についてなどを知らせ メール上で質問を受けたりアドバイスをしたりし 新規渡日生たちが入学前から担当者たちと信頼関係を築くことができるようにしてきた 渡日後は 全学の新規渡日留学生を対象に またG30プログラムの学生は別途時間を設けて 留学生センター教員が中心となって生活オリエンテーションを行なっている センター所属生に対しては 事務部門と日本語 日本文化教育部門と協力してオリエンテーションを行なっている 滞在中のオリエンテーションは 別途報告する留学生センターワークショップの中に取り込んで行なっている 毎期行なっているのは引っ越し準備オリエンテーションと 防災オリエンテーションであり 引っ越し準備についてはここ数年大学生協と協力して行ない 防災については全学の災害対策室や関係部局と共同開催してきた このように 滞在中オリエンテーションはこの6 年間で 大学における留学生の存在を専門的見地から発信しつつ 少しずつ全学体制の中に取り組んでもらえるよう働きかけ その成果が見えているところである 修了時は 帰国に限らず国内での就職や第三国での進学 就職も視野に入れた指導をするようになってきた 逆カルチャーショックについての知識とともに 就職の際の在留手続き等についてもハンドブック等で取り上げ 近年では就職 進路指導に力を入れている ( 別途報告 ) 修了後のオリエンテーションについては 留学生センターに同窓生として登録してもらうほか 全学同窓会を紹介している 個人情報管理の観点からも 希望する人が自ら登録し 名古屋大学の同窓生としての意識を強めてもらうようにしている 短期留学生に関しては設立 15 周年記念にあたって同窓生が来学して講演会を行なうというような繋がりも出ており 今後社会で主導的な役割を持って活躍する元留学生たちが 名古屋大学を母校として応援する立場になることを期待している 第 2 節 スモールワールド コーヒーアワー 1. スモールワールド コーヒーアワーの目的と実績スモールワールド コーヒーアワー ( 以下 コーヒーアワー ) は アメリカにおける留学生支援の先進大学として知られるミネソタ大学のプログラムの実践をもとにして 2005 年後期より導入したプログラムである アメリカ型の教育プログラムをもとに 試行錯誤を重ね 名古屋大学の文脈に沿ったプ
ログラムとなるよう開発を行ってきた 運営は留学生センター教職員と学生ボランティアが協働して行い 留学生 一般学生 教職員などがリラックスした雰囲気の中で コーヒーやお茶を飲みながら対話 交流することのできる場を提供している コーヒーアワーの主たる役割は 1) 参加する留学生が他の学生や教職員とコミュニケーションを取り 情報交換を行ったり 学内におけるネットワークを広げたりすること 2) さらに リラックスした雰囲気の中での対話および交流を通じて 留学生が抱えているものが問題化あるいは深刻化するのを未然に防ぐことにある 留学生相談に訪れた留学生たちにコーヒーアワーへの参加をすすめることで 留学生は新しい人間関係を構築する機会をえることができ キャンパスにおける人的ネットワークを獲得して 異文化への適応が促進されていく 一般学生にとっては コーヒーアワーに参加することによって 国際的な雰囲気を肌で感じながら 異文化理解の促進 学生同士の海外留学情報交換 言語の実践を行うことができ グローバルな感覚を身につけることのできる機会となっている コーヒーアワーは 前期に3 回 後期に3 回 ( 木曜日や金曜日などの16 時半 18 時 ) 留学生センターのラウンジなどを用いて開催している 毎回 学生たちが初めて参加しても交流しやすいような活動やイベントが企画されている 参加者は約 50 100 人前後で 2007 年度から2012 年度まで 約 2,385 名の学生がコーヒーアワーに参加している 学内における国際交流の場として機能しているといえる 表 Ⅲ-5-1 2012 年度 スモールワールド コーヒーアワー開催イベントと参加人数 日時 イベント名 ( 活動 ) 参加人数 2012 年 4 月 27 日 うそつき自己紹介 約 95 名 2012 年 5 月 31 日 ジェスチャーゲーム 約 65 名 2012 年 6 月 30 日 Coffee Hour 縁日 うちわ作り 約 70 名 2012 年 10 月 26 日 自己紹介 BINGO 約 50 名 2012 年 11 月 29 日 利き茶 約 80 名 2012 年 12 月 20 日 習字体験 約 70 名 2013 年 1 月 17 日 日本のお正月を体験しよう! 約 50 名 表 Ⅲ-5-2 コーヒーアワーの開催数と参加人数 (2007 2012 年 ) 年度 開催数 参加人数 2007 年度 6 回 約 295 名 2008 年度 6 回 約 400 名 2009 年度 6 回 約 410 名 2010 年度 6 回 約 400 名 2011 年度 6 回 約 400 名 2012 年度 7 回 約 480 名 計 37 回 約 2,385 名
2. 学生ボランティアスタッフへの教育的影響コーヒーアワーは 学生がボランティアとして関わり 企画や運営を主体的に行っている ボランティア学生たちの力によって コーヒーアワーの規模は年々順調に拡大 充実が図られており 継続的に定期開催されている 学生ボランティアの人数は平均して10 人から15 人程度である ボランティアスタッフの内訳は 留学生よりも一般学生の方がやや多く 学部生だけでなく 大学院生も参加しており 学年や学部を越えて 多様な専門および経験を持つチームとなっている 学生ボランティアたちは コーヒーアワーの企画 運営を通して 多様なスキルを身につけている 具体的には 議事録や報告書を書く力 国際交流イベントをコーディネーションしていく力 参加者をサポートしていく力 チームでコミュニケーションを取っていく力などが挙げられる さらに 名大祭では 毎年フリーマーケットを他の国際交流団体と共同で開催して コーヒーアワーの活動資金の一部としている 大学という場で 教職員に見守られながら ある程度の失敗も許される環境で 国際交流イベントづくりという体験学習の機会を通して それぞれが社会に出て必要とされる資質 能力の向上を図っている 3. 今後の課題コーヒーアワーの動力となっている学生ボランティアの募集と育成が 常に課題となっている 学生ボランティアの多くは海外留学のプログラムに参加することが多く 年度の途中で学生ボランティアの数が少なくなることが多い また教育実習やインターンシップ 就職活動が始まる時期なども 一時的に参加できる学生ボランティアが少なくなる コーヒーアワーの学生ボランティアは随時募集しているが 国際交流に関心を持っている学生はまだまだ多いことが推測され 活動の広報を促進することで そうした潜在的なニーズを掘り起こし 安定的なチーム構成を整えていく必要性があると考えられる 学生ボランティア数の増減に加えて 経験を積んだ学生ボランティアが留学したり 卒業していく際に 学生たちのノウハウや経験知を効果的に共有していけるような場や仕組みづくりの工夫が求められている 毎年 学期末や年度末に活動の振り返りと引き継ぎの機会を設けているが 次の学期に新しく入ってくるメンバーに その内容が継承されていくことは難しく チーム全体としての 経験知 が下がる状況に陥りやすい 今後は引き継ぎ時期における支援の充実を図りたいと考えている 上述のように 本活動は緩やかな人的繋がりを通した活動であることのメリットと課題を抱えている また一方で こうした位置づけの活動だからこそ 現代の学生のニーズにも沿い いつでも参加できて 次第に主体的に関わることができる側面もある 国内外では留学生支援に関するさまざまなプログラムの開発 研究が進められているが 現在の学生のニーズおよび国際交流への動機への分析を進めながら 組織運営および学生支援の在り方を教職員も学び続ける必要がある 第 3 節 ヘルプデスク 1. 活動の目的と概要 ヘルプデスクは有志の在学生による留学支援活動で 主に来日直後の交換留学生の支援を行っている ヘルプデスク活動は短期留学部門および教育交流部門の連携のもと 2005 年度前期から導入された 現
在その活動の中心となるのは新規受け入れ学生の来日から約 3 週間の相談 案内活動である この期間中 留学生センター 1 階のラウンジに机を設置し 新規留学生からの質問 相談への対応を行うほか 学生同士の情報交換や歓談の場を提供している ヘルプデスク活動の目的には 主に以下の三点が挙げられる (1) 在籍学生が主体となった 短期交換留学生および留学生センター所属学生への生活適応支援 (2) 留学生と日本人学生との交流機会の拡大 (3) 名古屋大学の正規学生と前学期から継続して在籍する先輩留学生がともに支援活動を行うことを通じた 学生の自主的活動と相互理解の促進支援活動に参加する学生は 主に国際交流やボランティア活動に関心のある正規学生 海外留学経験のある学生 前学期から継続して在籍している交換留学生 その他の留学生 ( 正規留学生 日本語 日本文化研修生など ) である 参加学生の資格に制限はないため 学年も1 年生から博士課程の学生まで幅広く 国際経験や専門分野についても様々である また ヘルプデスクに参加する学生には スモール ワールド コーヒーアワーやACEなどの他のボランティア活動や 留学生のチューター活動にも参加している学生も多い メーリングリストには約 60 人が登録しているが 留学中や研究等で多忙な学生もおり 実際に活動に参加しているのは20 人前後である 短期留学部門では 留学生のチューターを募集する際にヘルプデスクの募集と説明会も同時に行うほか 他のボランティア団体との合同の説明会も実施している また 活動期間中は週に一回程度のミーティングを開き 参加者の情報交換や反省の機会としている 現在 ヘルプデスクの活動内容は多岐にわたっている 活動の中心は ラウンジに設置した ヘルプデスク における新入留学生への相談対応である 相談内容は生活準備から勉学関係など多様である コミュニケーションノートやホワイトボードを使ったメンバー間の意思疎通 情報交換の強化など 毎学期試行錯誤を繰り返しながら留学生へのより効果的なサポートと学生交流の活性化を目指してきた また 新規留学生の来日時のサポートにも全般的に関わっている 入寮当日には国際嚶鳴館に 出張ヘルプデスク を設置し 来日直後の学生の相談にも対応できるようにしている さらに 近隣のショッピングモールへの買い出しツアーや歓迎パーティー 学食ツアーの企画と実施も行っている 近年 ヘルプデスクはその活動を徐々に広げ 留学生との交流イベントの企画や 他団体との共同で名大祭のフリーマーケットに出店し 活動資金を集めるなどしている さらに 国際交流には興味があるが 留学生センターは敷居が高い という正規学生の声を受け 正規学生を対象とした 留学生センターツアー も企画するなど 留学生センターを拠点とした国際交流活動の活性化を促進している 2. 活動の意義と効果ヘルプデスク活動の意義には 主に (1) 来日時の異文化適応のための短期的支援 (2) 名古屋大学の異文化 国際交流活動の促進への長期的貢献の二点が挙げられる ヘルプデスク活動の主な対象となっている新規交換留学生の中には 日本語がほとんどできない者や 海外経験が初めての者も多く含まれる 特にこのような学生にとっては 日本での留学生活を軌道に乗せる段階は異文化適応においては最初の壁であり この時期に充実したサポート体制があることの意味は非常に大きいと言える また ヘルプデスクは学生が主体となったボランティア活動であるため 携帯やインターネット 食糧や生活用品に関わる生活情報や 授業の履修などの学生生活に関わる情報については むしろ教職員以上に充実した対応が可能であると考えられる 一方 日本語能力がなくても参加できる交換留学プログラムは 多様な国 地域からの留学生の参加
が可能である一方で かれらが日本人学生を中心とした正規学生との接触がほとんどないまま学生生活を送ってしまう可能性も孕んでいる そのため かれらが気軽に立ち寄れる交流の場としての意義もまた大きい さらに本学の学生にも異文化に開かれた国際感覚とコミュニケーション能力が求められる昨今 留学生との交流を通じて多様な価値観や文化と出会うことは 単なる語学学習にとどまらないより豊かな意味での国際化を体感していくことを含意している それゆえ ヘルプデスクは学生たちが異文化交流から学び成長する 場 という 留学生 正規学生双方にとって教育的価値のある活動であるといえるだろう 第 4 節ピア サポーター育成 ファシリテーター研修 ( 多文化交流の会の活動 ) および多文化ピア サポーター研修 多文化交流の会の 2009 年 10 月 ~2011 年 12 月までの参加者 ( 日本人学生と留学生 ) は 延べ約 475 名の参加者となった ファシリテーター研修は 2010 年 2011 年それぞれ2 度 ( それぞれ8 回研修 ) 開催し 21 名の留学生が参加した 多文化ピア サポーター研修には 14 名の留学生が参加した また 2011 年 9 月 5 日には 多文化ピア サポーターとして活動するスキルアップ講座 ( 研修 ) を行った 学生が学生を支える仕組みの構築のためのファシリテーター育成プログラムを2010 年 10 月 ~12 月に またピア サポーター研修プログラムを2011 年 2 月 7 日と2 月 8 日の2 日間実施した ファシリテーター育成プログラムは 11 名が参加登録した ファシリテーター育成プログラムを受講した留学生 1 名は ファシリテーターの実践の場として2010 年後期に開催した多文化遠足の会 ( 学生支援 GP メユット と連携した活動 ) のファシリテーターになった 上記のプログラムはともに 名古屋大学留学生支援事業費によって実施された 多文化ピア サポーター研修を受講した学生のうち3 名は 学生総合相談センターピア サポーター養成講座も受講した 彼らはピア サポーターとして 2011 年 4 月から活動を開始した スキルアップ講座 ( 研修 ) に参加した6 名が多文化ピア サポーターとして2011 年 10 月 ~12 月のG30 学生たちの相談支援を行った 相談件数の合計は 50 件だった 2009 年 2010 年と2011 年のそれぞれの具体的な活動を報告する 2011 年 4 月 ~7 月までの相談件数は 8 件である 多文化ピア サポーター研修を修了した留学生うちの6 名は 2011 年 9 月 5 日に多文化ピア サポーターのスキルアップ講座 ( 研修 ) を受講し 2011 年 10 月 ~12 月のG30 学生たちのピア サポート ( 相談支援 ) を行った 詳細は 第 6 章 第 3 節のピアカウンセリングを参照していただきたい 2012 年からは 毎週研修 ( 講義開講時期 ) を行っており 10 名以上のピアカウンセラーの育成をしている 随時 4-5 名の多文化ピアカウンセラーが活動している