平成 19 年 (7 年 )9 月 13 日 ~ サブプライム住宅ローン問題に端を発する金融 資本市場の混乱が続く ~ サブプライム住宅ローンの焦げ付き問題は 信用不安やリスク資産からの資 金流出を引き起こし 金融 資本市場が混乱に陥っている 実体経済について も 最近発表された経済指標は 弱含みを示唆するものが少なくない 住宅市 場の冷え込みが一段と進行していることに加え 一連の問題の根源であるサブ プライム住宅ローンの延滞も増加を続けていることが明らかとなった また これまで良好な状態を維持してきた雇用環境にも変調がみられるなど 景気の 下支え要因は その数を減らしつつある こうした状況に対し 米連邦準備制度理事会 (FRB) は警戒感を強めている FRB は 短期金融市場への流動性供給や公定歩合の引き下げを行い さらに追 加措置の準備がある旨を表明している FRB は 昨年後半以降 インフレ警戒 に軸足を置いて金利据え置きを続けてきたが そうしたスタンスは大きく転換 したといえる 9 月 18 日に開催予定の連邦公開市場委員会 (FOMC) において FF 金利の引き下げが行われる可能性が高まってきた 1. 金融市場の動向 金融 資本市場では サブプライム住宅ローン問題に端を発する混乱が続い ている サブプライム住宅ローン関連投資の損失拡大懸念を背景に 信用不安 が高まり 資金調達環境は大幅にタイト化している 代表的な基準金利の一つ ( 注 1) であるLIBOR( ロンドン銀行間貸出金利 ) は 8 月 9 日以降急上昇し 足 元は 5.7% 前後で推移している ( 次頁第 1 図 ) 信用不安の影響は コマーシャ ルペーパー (CP) 市場にも拡がり CP 発行残高は減少が続いている ( 次頁第 図 ) CP の中でも特に 住宅ローン債権等を担保として発行される資産担保 CP (ABCP) が発行難に陥っており 過去 週間で ABCP の発行残高は 11.5 億ド ル減少した ABCP は 住宅ローン会社の主要な資金調達手段であるため ABCP の発行難によって資金繰りに行き詰る住宅ローン会社が増加している 1
( 注 1)8 月 9 日は 欧州の金融機関が傘下の複数のファンドについて 解約停止等を発表したことをきっかけに 信用不安が急速に高まった. 5.5 第 1 図 :LIBOR(3 ヵ月物 ) の推移.5. 第 図 :CP 発行残高の推移 ( 兆ドル ) ABCP ABCP 以外 1.5 5. 1..5.5. /1 / /7 /1 7/1 7/ 7/7 ( 年 / 月 ) ( 資料 )FRB,Federal Reserve Bulletin より三菱東京 UFJ 銀行経済調査室作成. /1 / /7 /1 7/1 7/ 7/7 ( 年 / 月 ) ( 資料 )FRB,Federal Reserve Bulletin より三菱東京 UFJ 銀行経済調査室作成 また 株価も軟調が続いている 足元のダウ平均株価は ピーク (7 月 19 日 の 1,. ドル ) から 1, ドル近く低下しており S&P5 指数もピーク (7 月 19 日の 1,553.1) を約 1 ポイント下回る水準で推移している ( 第 3 図 ) 株 価下落は 程度の差はあるものの全業種に亘っており リスク回避の動きの拡 がりが窺われる ( 第 図 ) 15, 1, 13, 1, 11, 1, 9, ( ドル ) 第 3 図 : 株価の推移 ダウ平均 S&P5 右目盛 (191-3=1) /1 /7 7/1 7/7 ( 年 / 月 ) ( 資料 )Bloomberg より三菱東京 UFJ 銀行経済調査室作成 1,7 1, 1,5 1, -1-1 1,3 1, - - - -8 第 図 :S&P5 業種別株価下落率 (7 月 19 日ピーク比 ) 全体 一般消費財 生活必需品 エネルギー金融 ヘルスケア 工業 I T 素材 通信 電気 ガス等 ( 資料 )Bloomberg より三菱東京 UFJ 銀行経済調査室作成 こうしたなか FRB は 景気下ぶれ懸念を強めている バーナンキ議長は 8 月 31 日に行った講演の中で 金融市場の混乱拡大は 経済全体に影響を及ぼす 可能性がある と 先行きに対する警戒感を表明するとともに 必要な追加 措置をとる準備がある と 景気悪化の回避に向けて行動する姿勢を示した FRB はこれまでにも 短期金融市場に対する大規模な流動性供給 ( 注 ) や公定 歩合引き下げ ( 注 3) 等の対応策を打ち出してきたが 信用不安解消に十分な成果
が上がっているとは言い難い状況にある そのため FRB の次の一手として FF 金利の引き下げが行われるとの観測が高まっている 8 月 31 日の講演でバー ナンキ議長は 実体経済の動向を見極める上で ヒアリング情報や最もタイム リーな指標に特段の注意を払っていくと述べており それらの情報が景気下ぶ れ懸念の強まりを示唆するものであった場合 FF 金利引き下げの可能性が高ま ろう ( 注 )8 月 9 日に. 億ドル 8 月 1 日に 38. 億ドル 9 月 日に 31.5 億ドル等 ( 注 3)8 月 17 日に 公定歩合を.5% ポイント引き下げ 5.75% とした. 実体経済の動向 (1) 住宅 ~ 住宅市場は環境悪化が続く ~ サブプライム住宅ローン問題の震源地である住宅市場は 環境悪化が続いて いる 9 月 5 日に発表された 7 月の中古住宅販売契約指数は 89.9( 前月比 1.%) と 年 9 月以来の低水準となった ( 第 5 図 ) 同じく 9 月 5 日に発 表された 地区連銀景況報告 ( ベージュブック ) でも 住宅ローンの貸出基準 厳格化によって 住宅市場が大きく下押しされている と 住宅市場の冷え込 み継続が報告された ( 注 ) また 9 月 日に米抵当銀行協会 (MBA) が発表した 住宅ローン延滞率統 計によると 第 四半期のサブプライム住宅ローンの延滞率は 1.8%( 前期比 +1.5% ポイント ) と 1998 年の統計開始以来 番目の高さとなった ( 第 図 ) ( 注 5) 延滞の増加は サブプライム住宅ローンを原資産として発行される住宅ロー ン担保証券 (RMBS) や債務担保証券 (CDO) の価値毀損要因となるため 信用 不安のさらなる深刻化につながる可能性がある 13 第 5 図 : 中古住宅販売契約指数の推移 (1=1) 1 第 図 : 住宅ローン延滞率の推移 1 1 1 11 1 1 8 全体サブプライムローンプライムローン 9 8 1 3 5 7 ( 資料 )NAR Pending Home Sales Index より三菱東京 UFJ 銀行経済調査室作成 98 99 1 3 5 7 ( 資料 )MBA,National Delinquency Survey より 三菱東京 UFJ 銀行経済調査室作成 ( 注 )9 月 5 日発表のベージュブックは 8 月 7 日までのヒアリング情報に基づいて作成されている ( 注 5) サブプライム住宅ローン延滞率の過去最高値は 年第 四半期の 1.9% 3
() 雇用 消費 ~8 月の非農業雇用者数は 年ぶりに減少に転じる~ 雇用環境は これまで良好な状態が続いてきたが 足元で変調の動きが出ている 9 月 7 日発表の雇用統計では 失業率は前月比横ばいの.% に留まったものの 非農業雇用者数が前月比. 万人となり 年ぶりに減少に転じた ( 第 7 図 ) 個別業種では 住宅市場の影響を強く受ける 建設業( 前月比. 万人 ) や製造業 ( 同. 万人 ) で減少が目立った 製造業については 自動車メーカーの人員削減 ( 同 1.1 万人 ) も影響した また 政府部門の雇用減少 ( 同.8 万人 ) も大きな下押し要因となった なお 今回の雇用統計では 7 月の非農業雇用者数も下方改定され 8 月にかけて雇用の鈍化が進んできたことが示された ( 前月差 千人 ) 第 7 図 : 非農業雇用者数と失業率の推移.5 3 1-7 月下方改定分. 5.5 5. -1 - 非農業雇用者数失業率 右目盛 3 5 7 ( 資料 ) 米国労働省,Monthly Labor Review より三菱東京 UFJ 銀行経済調査室作成.5. FRB は 8 月 7 日に開催された前回の FOMC の声明文で 景気の下支え要因として良好な雇用 所得環境と堅調な海外景気の二つを挙げていたが 8 月の雇用統計によって そのうちの一つが揺らいだといわざるを得ない (3) 企業活動 ~ 足元は底堅いが 先行きには不透明感 ~ 企業部門は 比較的底堅さを保っているが 先行きについてはやや不透明感も出始めている 8 月の ISM 指数は 製造業 (5.9%) 非製造業(55.8%) ともに 業況悪化 改善の分岐点である 5 を上回ったものの 春先からの持ち直し傾向には歯止めが掛かった形となった ( 次頁第 8 図 )
7 第 8 図 :ISM 指数の推移 5 非製造業 55 5 5 製造業 1 3 5 7 ( 出所 ) 全米供給管理協会,ISM Reports On Business より三菱東京 UFJ 銀行経済調査室作成 なお 在庫循環をみると 足元は在庫調整が一巡したばかりであり 通常であれば 在庫積み増しの動きを受けた生産活動の活発化によって 雇用や設備投資の増加が展望される局面である ( 第 9 図 ) しかし 金融 資本市場の混乱が続く中で 企業が積極的に在庫積み増しに動くとは考えにくい 8 月にかけての雇用の鈍化が企業マインド全般の慎重化の表れである可能性も否定できず 企業部門の先行きにも不透明感が漂い始めた兆候と捉えるべきであろう 8 第 9 図 : 出荷在庫バランスの推移 ( 製造業 + 卸小売業 ) 在庫積み増し局面 - - - 在庫調整局面 -8 1 3 5 7 ( 注 ) 出荷在庫バランス = 出荷伸び率 - 在庫伸び率 ( ともに前年比 ) ( 資料 ) 米国商務省,Survey of Current Business より三菱東京 UFJ 銀行経済調査室作成 3. 金融政策の動向 FRB は 昨年 月までの連続利上げによって FF 金利を 5.5% まで引き上げ その後は据え置きを続けてきた ( 次頁第 1 図 ) 金利据え置きを継続する中での FRB の金融政策運営スタンスは 緩やかな景気拡大が持続するとの予想に基づき インフレ警戒に軸足を置くものであった 5
9 8 7 5 3 1 FF 金利公定歩合 第 1 図 :FF 金利と公定歩合の推移 9 91 9 93 9 95 9 97 98 99 1 3 5 7 ( 資料 )FRB,Federal Reserve Bulletin より三菱東京 UFJ 銀行経済調査室作成 しかし サブプライム住宅ローン問題をきっかけとする金融 資本市場の混乱が深刻さを増したことにより FRB のスタンスは大きく転換した 8 月 17 日の公定歩合引き下げの際に発表した声明で FRB は 経済成長に対する下ぶれリスクが明らかに高まった と従来の見通しを下方修正するとともに 必要に応じて行動する準備がある との文言で FF 金利引き下げの可能性を示唆した FRB のスタンス変更は 前述した 8 月 31 日のバーナンキ議長の講演でも改めて示され より明確なものとなった こうした動きを受け 金融市場では利下げ期待が高まっており 9 月 18 日の FOMC で.5~.5% ポイントの利下げが行われるとの見方が大勢を占めるようになっている 当室はこれまで FRB は当面 FF 金利の据え置きを続けるとの見方をメインシナリオとしてきた しかし 最近の FRB のスタンス変更や雇用統計を始めとする経済指標の軟化を踏まえ FF 金利据え置き継続の可能性は大きく後退したと判断する FRB は リアルタイムの情報を重視する構えであり 今後の情報によって左右される余地は残されているものの 現時点では 9 月 18 日の FOMC で FF 金利の引き下げが実施される公算が大きいとみる なお その場合の利下げ幅は.5% ポイントとなる可能性が高いとみている.5% ポイントの可能性も排除できない訳ではないが 企業部門が少なくとも足元では底堅さを保っていることに加え FRB が景気下支え要因の一つとみてきた 堅調な海外景気も今のところ健在であるなかでの利下げであるため まずは.5% ポイントの利下げが妥当であろう また 最近の原油価格上昇にみられるように これまで金融政策上の主たる懸念とされてきたインフレリスクも完全には後退していない そのため FRB は 金融緩和が行き過ぎたものとならないよう 慎重に行動せざるを得ないところであろう
( 円ドル相場動向については 経済マンスリー 日本 に記載しております ) 照会先 : 経済調査室 ( 次長佐久間 ) TEL:3-3-3 E-mail: koji_sakuma@mufg.jp 当資料は情報提供のみを目的として作成されたものであり 何らかの行動を勧誘するものではありません ご利用に関しては すべてお客様御自身でご判断下さいますよう 宜しくお願い申し上げます 当資料は信頼できると思われる情報に基づいて作成されていますが 当室はその正確性を保証するものではありません 内容は予告なしに変更することがありますので 予めご了承下さい また 当資料は著作物であり 著作権法により保護されております 全文または一部を転載する場合は出所を明記してください また 当資料全文は 弊行ホームページ http://www.bk.mufg.jp/ でもご覧いただけます 7