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課題名

リハビリテーションを受けること 以下 リハビリ 理想 病院でも自宅でも 自分が納得できる 期間や時間のリハビリを受けたい 現実: 現実: リ ビリが受けられる期間や時間は制度で リハビリが受けられる期間や時間は制度で 決 決められています いつ どこで どのように いつ どこで どのように リハビリ

はじめに Myotonic dystrophy type DM myotonia DM... DM 対象と方法 対象 DM.. ADL 方法 EHD ml g 図 嚥下造影検査評価用紙

身体障害者診断書 意見書 ( 聴覚 平衡 音声 言語又はそしゃく機能障害用 ) 総括表 氏名 年月日生 ( ) 歳 男女 住所 1 障害名 ( 部位を明記 ) 2 原因となった 交通 労災 その他の事故 戦傷 戦災 疾病 外傷名 自然災害 疾病 先天性 その他 ( ) 3 4 疾病 外傷発生年月日年

平成 29 年度九段坂病院病院指標 年齢階級別退院患者数 年代 10 代未満 10 代 20 代 30 代 40 代 50 代 60 代 70 代 80 代 90 代以上 総計 平成 29 年度 ,034 平成 28 年度 -

基本料金明細 金額 基本利用料 ( 利用者負担金 ) 訪問看護基本療養費 (Ⅰ) 週 3 日まで (1 日 1 回につき ) 週 4 日目以降緩和 褥瘡ケアの専門看護師 ( 同一日に共同の訪問看護 ) 1 割負担 2 割負担 3 割負担 5, ,110 1,665 6,

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図表 リハビリテーション評価 患 者 年 齢 性 別 病 名 A 9 消化管出血 B C 9 脳梗塞 D D' E 外傷性くも幕下出血 E' 外傷性くも幕下出血 F 左中大脳動脈基始部閉塞 排尿 昼夜 コミュニ ケーション 会話困難 自立 自立 理解困難 理解困難 階段昇降 廊下歩行 トイレ歩行 病

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 庄司仁孝 論文審査担当者 主査深山治久副査倉林亨, 鈴木哲也 論文題目 The prognosis of dysphagia patients over 100 years old ( 論文内容の要旨 ) < 要旨 > 日本人の平均寿命は世界で最も高い水準であり

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330 先天性気管狭窄症 / 先天性声門下狭窄症 概要 1. 概要気道は上気道 ( 鼻咽頭腔から喉頭 ) と下気道 ( 気管 気管支 ) に大別される 指定難病の対象となるものは声門下腔や気管に先天的な狭窄や閉塞症状を来す疾患で その中でも先天性気管狭窄症や先天性声門下狭窄症が代表的な疾病である 多

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別記様式第 8 号 ( 第 11 条関係 ) 身体障害者診断書 意見書 ( 聴覚 平衡 音声 言語又はそしゃく機能障害用 ) 総括表 氏 名 大正 昭和 年 月 日生 ( ) 歳 平成 男 女 住所 ( ) 1 障害名 ( 部位を明記 ) 2 原因となった疾病 外傷名 交通 労災 その他の事故 戦傷

通常の市中肺炎の原因菌である肺炎球菌やインフルエンザ菌に加えて 誤嚥を考慮して口腔内連鎖球菌 嫌気性菌や腸管内のグラム陰性桿菌を考慮する必要があります また 緑膿菌や MRSA などの耐性菌も高齢者肺炎の患者ではしばしば検出されるため これらの菌をカバーするために広域の抗菌薬による治療が選択されるこ

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5. 乳がん 当該疾患の診療を担当している診療科名と 専門 乳房切除 乳房温存 乳房再建 冷凍凝固摘出術 1 乳腺 内分泌外科 ( 外科 ) 形成外科 2 2 あり あり なし あり なし なし あり なし なし あり なし なし 6. 脳腫瘍 当該疾患の診療を担当している診療科名と 専

5. 死亡 (1) 死因順位の推移 ( 人口 10 万対 ) 順位年次 佐世保市長崎県全国 死因率死因率死因率 24 悪性新生物 悪性新生物 悪性新生物 悪性新生物 悪性新生物 悪性新生物 位 26 悪性新生物 350

院内がん登録における発見経緯 来院経路 発見経緯がん発見のきっかけとなったもの 例 ) ; を受けた ; 職場の健康診断または人間ドックを受けた 他疾患で経過観察中 ; 別の病気で受診中に偶然 がん を発見した ; 解剖により がん が見つかった 来院経路 がん と診断された時に その受診をするきっ

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330 先天性気管狭窄症 概要 1. 概要気道は上気道 ( 鼻咽頭腔から声門 ) と狭義の気道 ( 声門下腔 気管 気管支 ) に大別される 呼吸障害を来し外科的治療の対象となるものは主に狭窄や閉塞症状を来す疾患で その中でも気管狭窄症が代表的であり 多くが緊急の診断 処置 治療を要する 外科治療を

食道癌手術さて 食道は文字どおり口 咽頭から胃まで をつなぐ管状の器官でまさに食物を運ぶ道です そして縦隔と呼ばれる背骨の前方の狭い領域にあり 大動脈 心臓そして気管などと密に接しています さらに 気管とは私たちの身体が構成される過程で同じところから発生し 非常に密な関係にあります さらに発生の当初

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福島県のがん死亡の年次推移 福島県におけるがん死亡数は 女とも増加傾向にある ( 表 12) 一方 は 女とも減少傾向にあり 全国とほとんど同じ傾向にある 2012 年の全のを全国と比較すると 性では高く 女性では低くなっている 別にみると 性では膵臓 女性では大腸 膵臓 子宮でわずかな増加がみられ

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様式第 1 号 (2)( 第 2 条関係 ) 総括表 身体障害者診断書 意見書 聴覚 平衡 音声 言語又はそしゃく機能障害用 氏名年月日生男 女 住所 1 障害名 ( 部位を明記 ) 2 原因となった交通 労災 その他の事故 戦傷 戦災 自然災害疾病 外傷名疾病 先天性 その他 ( ) 3 疾病 外

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1. ストーマ外来 の問い合わせ窓口 1 ストーマ外来が設定されている ( はい / ) 上記外来の名称 対象となるストーマの種類 7 ストーマ外来の説明が掲載されているページのと は 手入力せずにホームページからコピーしてください 他施設でがんの診療を受けている または 診療を受けていた患者さんを

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2 片脚での体重支持 ( 立脚中期, 立脚終期 ) 60 3 下肢の振り出し ( 前遊脚期, 遊脚初期, 遊脚中期, 遊脚終期 ) 64 第 3 章ケーススタディ ❶ 変形性股関節症ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

Q1 訪問看護の導入時期は どのように判断すればよいでしょうか? A 医療処置や医療機器の管理などが必要な場合は比較的早期に訪問看護の依頼がありますが ADLの維持 向上などの予防的ケアや病気の悪化予防の目的での訪問看護についても できるだけ早期の導入が理想的です また ターミナル時期の利用者の場合

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研究協力施設における検討例 病理解剖症例 80 代男性 東京逓信病院症例 1 検討の概要ルギローシスとして矛盾しない ( 図 1) 臨床診断 慢性壊死性肺アスペルギルス症 臨床経過概要 30 年前より糖尿病で当院通院 12 年前に狭心症で CABG 施行 2 年前にも肺炎で入院したが 1 年前に慢性

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対応策頭部を支持できる車椅子 ( ティルト リクライニング車椅子 ) の使用や介助方法の検討をしましょう 3. 食事を楽しみにしていない 考えられる原因またはこの状態により発生する問題について意識障害 ( 服薬の影響含む ) 認知症 高次脳機能障害 摂食障害 ( 拒食症 過食症 ) 抑うつ状態 薬剤

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2 第 41 回日本嚥下医学会 (2018 年 ) 抄録 tive mechanisms however needs to be transiently suspended to allow its complete opening for transit of swallowed bolus ou

は減少しています 膠原病による肺病変のなかで 関節リウマチに合併する気道病変としての細気管支炎も DPB と類似した病像を呈するため 鑑別疾患として加えておく必要があります また稀ではありますが 造血幹細胞移植後などに併発する移植後閉塞性細気管支炎も重要な疾患として知っておくといいかと思います 慢性


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退院患者数 4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 10 月 11 月 12 月 1 月 2 月 3 月 合計 24 年度 年度

Transcription:

はじめに 嚥下機能改善術と誤嚥防止術 ~ 誤嚥防止術を施行した症例 ~ 訪問リハビリで 4 年間継続してリハビリテーションを行っている患者様がいる そして 誤嚥性肺炎により胃瘻を増設し誤嚥防止術を勧め 4 年間で経過が変化したため報告する そのため嚥下機能改善術 誤嚥防止術の知識と共に報告する 佐藤病院リハビリテーション科 理学療法士土岐哲也 H27.11.20( 金曜日 ) 嚥下機能改善術とは 発声機能を温存した状態で経口摂取を可能とすることである 基本的にはいわゆる咽頭期嚥下障害に対する手術であり リハビリテーションのみで経口摂取が確立できない場合に適応となる 嚥下機能改善術 嚥下機能改善術の適応 咽頭期嚥下障害例で嚥下リハビリテーション無効例 嚥下反射があること 全身的に機能があること ( 歩行程度 ADL 合併症の有無 70 歳未満 ) 本人と家族に理解力があること 1. 喉頭挙上術 2. 舌骨下筋群切断術 3. 輪状咽頭筋切除術 4. 咽頭弁形成術 5. 咽頭縫縮術 甲状軟骨側板切除術 6. 声帯正中移動術 咽頭期運動と嚥下機能改善術 喉頭挙上術 a. 鼻咽腔閉鎖不全声帯閉鎖不全 b. 喉頭挙上障害一側咽頭麻痺 c. 食道入口部開大障害 嚥下の咽頭期運動と嚥下機能改善術 咽頭弁形成術声帯内方移動術喉頭挙上 舌骨下筋群切断術咽頭縫縮術 甲状軟骨側板切除術輪状咽頭筋切除術 喉頭挙上術 喉頭挙上障害と舌根部運動障害 1 喉頭蓋による喉頭前庭の閉鎖 2 喉頭閉鎖の強化 3 食道入口部の開大を得る 下顎の運動を利用して食道入口部を随意的に開大させる機能回復術で 輪状咽頭筋切除術と合わせて棚橋法という 1

輪状咽頭筋切除術 輪状咽頭筋 ( 上部食道括約筋 ) を切除 1 食道入口部の弛緩 2 食道入口部の開大 主に停滞障害に対して 輪状咽頭筋を切除して食道入口部を弛緩させ開大する目的 全身麻酔下に頸部皮膚切開を行い 食道入口部を露出 喉頭を捻転し輪状咽頭筋を露出 経口的にバルーンカテーテルを入れ バルーンを膨らませて筋を同定して切除する 粘膜下層からバルーンが薄く透見できる 嚥下機能改善術の合併症 反回神経麻痺 食道粘膜穿孔 縫合糸感染症 血腫 喉頭浮腫 胃食道逆流症 誤嚥性肺炎 誤嚥防止術とは 誤嚥防止術の適応基準 ( パーキンソン症候群の摂食嚥下障害 : 山本敏之 ;2014: 引用 ) 1. 難治性の嚥下障害および誤嚥があり 保存的対処 ( 食形態の工夫 嚥下訓練等 ) により十分な改善が望めない 2. 音声障害でのコミュニケーションが困難で 回復が認めれられない 3. 十分に説明を受け 同意が得られたもの 4. 誤嚥が著明で 誤嚥性肺炎の既往があり 今後も誤嚥性肺炎を併発する可能性が高い 5. 下記のうち 2 つ以上を認める 1) 誤嚥性肺炎を併発する可能性が高い 2) 客痰量が多く 頻回の吸引を必要とし 本人または介護者に疲労している 3) 経口摂取を強く希望している ( パーキンソン症候群の摂食嚥下障害 : 山本敏之 ;2014: 引用 ) 誤嚥防止術における術式別の利点 欠点利点欠点 1 喉頭全摘術 2 喉頭気管分離術 3 喉頭閉鎖術 食道入口部の開大が良好となるので経口摂食にもっとも有利 確立した術式であり 多くの耳鼻咽喉科医が対応可能 理論上は再建により発声が回復できる 術式 ( 食道気管吻合 ) によっては理論上発声も可能 他の術式に比し高侵襲 術後瘻孔形成などの合併リスク 喉頭喪失に対する精神的抵抗感 高齢者では気管軟骨が化骨化しており縫合不全を起こす 術後瘻孔形成リスク 理論上は再建により発声が回復できる 声帯閉鎖部の離解率が 術式(Biller 法 ) によっては理論上発声高く誤嚥による窒息例の報も可能告もある ( パーキンソン症候群の摂食嚥下障害 : 山本敏之 ;2014: 引用 ) 喉頭全摘出術の皮膚切開 2

喉頭全摘出術の基本手技 喉頭全摘出術の基本手技 2 1 気管切開を行い挿管して全身麻酔を行う 2 皮膚切開 (T 字型 U 字型 ) を加え 広頸筋の内面に沿って剥離する 一側の頸部郭清術を伴わせ行う場合には double inverted Y incision または U 皮切の反対側は下半分だけとする皮切を用いる 両側の頸部郭清術を伴わせ行うときには U 皮切の上端を両側の乳様突起先端までとする 3 胸骨舌骨筋 胸骨甲状筋 肩甲舌骨筋を切断する 4 甲状腺を喉頭 期間を剥離する 峡部は気切切開のときに切断する 5 甲状咽頭筋 輪状咽頭筋を起始部で切断する 6 甲状軟骨の後面で下咽頭を喉頭から剥離する 7 上喉頭動静脈を結紮切断する 8 舌骨上縁で舌骨を舌骨上筋群から外す 9 舌骨喉頭蓋靭帯の上面に沿って切離し 喉頭蓋谷に入り 咽頭を開く 10 喉頭蓋谷から披裂喉頭蓋ヒダの後面に沿って粘膜を切開していくと 喉頭は咽頭から切離される 11 喉頭後壁を下咽頭粘膜から 気管後壁を食道から剥離し 気管切開の部で気管を切断すると喉頭が摘出される 12 下咽頭粘膜を縫合して下咽頭を閉じる 13 左右の甲状咽頭筋を縫合して下咽頭前壁を補強する 14 創を洗浄し 抗生物質を注射し 持続吸引用ドレーンを挿入して皮膚を縫合する 気管の断端は周囲を皮膚と縫合して頸部に開いておく 術後 1 週間は経鼻 胃瘻を通して栄養する 誤嚥防止術と嚥下機能改善術の割合 進行性神経疾患での誤嚥防止術割合 誤嚥防止術 24 名 嚥下機能改善術 19 名 進行性神経疾患の割合 13 名多系統萎縮症 進行性神経疾患の摂食可能割合 7 名 13% 37% 50% 全量摂取 経口摂取可能 改善なし 21% 21% 58% 全量摂取経口摂取可能改善なし 15% 8% 8% 15% 23% 16% 15% 進行性核上麻痺脊髄小脳変性症パーキンソン病パーキンソン症候群レビー小体型認知症 14% 14% 72% 全量摂取経口摂取可能改善なし 大脳基底核変性症 ( 重度嚥下障害に対して手術治療を行った 44 症例の検討 : 香取幸夫 ;2013: 引用 ) ( 当院の最近 10 年間の誤嚥防止術の統計 : 伊藤博之 ;2011: 引用 ) ( 神経難病における食道分離術の検討 : 後藤 ;2003: 引用 ) 症例紹介 MRI 50 代男性身長 :166cm 体重 :54 kg 診断名 MD PD 既往歴 : 誤嚥性肺炎 左上腕骨頸部骨折 喉頭全摘術 胆嚢炎 現病歴 平成 23 年 8 月 誤嚥性肺炎を起こし入院 入院中寝たきり状態が長く 頸部が前屈し歩行障害 嚥下障害が起きた リハビリテーションを行い 自宅へ退院 平成 23 年 10 月から訪問リハビリが開始となった 平成 25 年 11 月胃瘻増設 平成 27 年 9 月誤嚥防止術施行 薬剤 メネシット 4 錠 シンメトレル 1 錠 アーテン 1 錠 ピシフロール 3 錠 主訴 食べ物を食べたい 3

経過 嚥下食ピラミッド 平成 23 年 訪問リハ開始 全量摂取可能 平成 26 年 左上腕骨頸部骨折受傷 レベル 0: 嚥下訓練食 ( 重力だけで通過する物 ) レベル 1: 嚥下訓練食 ( プリンなど ) レベル 2: 嚥下訓練食 ( ヨーグルトなど ) レベル 3: 嚥下食 ( ミキサー食 ペースト食など ) レベル 4: 介護職 ( 全粥など ) レベル 5: 常食 平成 25 年 誤嚥性肺炎 胃瘻増設 誤嚥防止術 ( 喉頭全摘術 ) 経過 胃瘻造設後の理学療法評価 ( 平成 25 年 ) 平成 23 年 訪問リハ開始 全量摂取可能平成 25 年誤嚥性肺炎胃瘻増設 平成 26 年 左上腕骨頸部骨折受傷 誤嚥防止術 ( 喉頭全摘術 ) 嚥下機能 RSST1 回フードテスト 3 MWST3 藤島 Gread2 咀嚼筋萎縮 舌萎縮 口腔期と咽頭気期の送り込みと嚥下反射低下鼻咽腔閉鎖不全体重 :43 kg 呼吸機能 MPT14 秒 咳嗽反射 (-) PCF140ml 痰の量増加 脳神経系 胸鎖乳突筋萎縮 僧帽筋正常 舌萎縮 眼球運動 (-) 三叉神経 (+) Yair の分類 3 度 筋緊張 右頸部周囲筋 舌骨上筋群筋緊張亢進 PD 症状 ON OFF 現象 wearing off 現象安静時振戦 薬剤 メネシット 5,5 錠 シンメトレル 1 錠 アーテン 1 錠 手術前 ( 歩行 ) 平成 26 年 9 月 6 日 平成 26 年 9 月 19 日 平成 27 年 2 月 歩行 平成 26 年 9 月 6 日平成 26 年 9 月 19 日平成 27 年 2 月 4

嚥下食ピラミッド 経過 レベル 0: 嚥下訓練食 ( 重力だけで通過する物 ) レベル 1: 嚥下訓練食 ( プリンなど ) レベル 2: 嚥下訓練食 ( ヨーグルトなど ) レベル 3: 嚥下食 ( ミキサー食 ペースト食など ) レベル 4: 介護職 ( 全粥など ) レベル 5: 常食 平成 23 年 訪問リハ開始 全量摂取可能 平成 26 年 左上腕骨頸部骨折受傷 平成 25 年誤嚥性肺炎胃瘻増設 平成 27 年 誤嚥防止術 ( 喉頭全摘術 ) 誤嚥防止術への対応と経過 本人 家族に提案 ( 家族内で相談 )1カ月主治医 ( 神経内科 ) に相談神経内科 耳鼻咽喉科 麻酔科 消化器内科 心臓内科カンファレンス 3か月平成 27 年 9 月に誤嚥防止術施行 全身麻酔のリスク 1 呼吸筋 呼吸補助筋の筋力低下による換気障害,CO 2 に対する感受性の低下などの中枢神経系の異常がある. 嚥下反射低下による誤嚥性肺炎を併発し, 術後呼吸管理に難渋することが多い 2 循環系の問題として, 筋緊張性ジストロフィーでは心筋障害 伝導障害などの心疾患をしばしば合併する 3 副腎機能低下では, 麻酔中のストレスで筋硬直や循環系の異常を生じる可能性があり, 甲状腺機能上進では筋力低下が増悪し, 機能低下では筋硬直が増悪する 喉頭全摘術 (T 字切開法 ) 手術後 ( 姿勢 ) 5

手術後 ( 摂食と歩行 ) 嚥下食ピラミッド レベル 0: 嚥下訓練食 ( 重力だけで通過する物 ) レベル 1: 嚥下訓練食 ( プリンなど ) レベル 2: 嚥下訓練食 ( ヨーグルトなど ) レベル 3: 嚥下食 ( ミキサー食 ペースト食など ) レベル 4: 介護職 ( 全粥など ) レベル 5: 常食 現在の問題点 終わりに 進行性の神経疾患は進行にともない 嚥下障害や誤嚥性肺炎が起こってくる 誤嚥性肺炎を起こすと身体機能や ADL 能力が著しく低下する 予後予測や疾患の特徴などを把握し今後も訪問リハに取り組んでいきたいと思う ご清聴ありがとうございました 6