はじめに 嚥下機能改善術と誤嚥防止術 ~ 誤嚥防止術を施行した症例 ~ 訪問リハビリで 4 年間継続してリハビリテーションを行っている患者様がいる そして 誤嚥性肺炎により胃瘻を増設し誤嚥防止術を勧め 4 年間で経過が変化したため報告する そのため嚥下機能改善術 誤嚥防止術の知識と共に報告する 佐藤病院リハビリテーション科 理学療法士土岐哲也 H27.11.20( 金曜日 ) 嚥下機能改善術とは 発声機能を温存した状態で経口摂取を可能とすることである 基本的にはいわゆる咽頭期嚥下障害に対する手術であり リハビリテーションのみで経口摂取が確立できない場合に適応となる 嚥下機能改善術 嚥下機能改善術の適応 咽頭期嚥下障害例で嚥下リハビリテーション無効例 嚥下反射があること 全身的に機能があること ( 歩行程度 ADL 合併症の有無 70 歳未満 ) 本人と家族に理解力があること 1. 喉頭挙上術 2. 舌骨下筋群切断術 3. 輪状咽頭筋切除術 4. 咽頭弁形成術 5. 咽頭縫縮術 甲状軟骨側板切除術 6. 声帯正中移動術 咽頭期運動と嚥下機能改善術 喉頭挙上術 a. 鼻咽腔閉鎖不全声帯閉鎖不全 b. 喉頭挙上障害一側咽頭麻痺 c. 食道入口部開大障害 嚥下の咽頭期運動と嚥下機能改善術 咽頭弁形成術声帯内方移動術喉頭挙上 舌骨下筋群切断術咽頭縫縮術 甲状軟骨側板切除術輪状咽頭筋切除術 喉頭挙上術 喉頭挙上障害と舌根部運動障害 1 喉頭蓋による喉頭前庭の閉鎖 2 喉頭閉鎖の強化 3 食道入口部の開大を得る 下顎の運動を利用して食道入口部を随意的に開大させる機能回復術で 輪状咽頭筋切除術と合わせて棚橋法という 1
輪状咽頭筋切除術 輪状咽頭筋 ( 上部食道括約筋 ) を切除 1 食道入口部の弛緩 2 食道入口部の開大 主に停滞障害に対して 輪状咽頭筋を切除して食道入口部を弛緩させ開大する目的 全身麻酔下に頸部皮膚切開を行い 食道入口部を露出 喉頭を捻転し輪状咽頭筋を露出 経口的にバルーンカテーテルを入れ バルーンを膨らませて筋を同定して切除する 粘膜下層からバルーンが薄く透見できる 嚥下機能改善術の合併症 反回神経麻痺 食道粘膜穿孔 縫合糸感染症 血腫 喉頭浮腫 胃食道逆流症 誤嚥性肺炎 誤嚥防止術とは 誤嚥防止術の適応基準 ( パーキンソン症候群の摂食嚥下障害 : 山本敏之 ;2014: 引用 ) 1. 難治性の嚥下障害および誤嚥があり 保存的対処 ( 食形態の工夫 嚥下訓練等 ) により十分な改善が望めない 2. 音声障害でのコミュニケーションが困難で 回復が認めれられない 3. 十分に説明を受け 同意が得られたもの 4. 誤嚥が著明で 誤嚥性肺炎の既往があり 今後も誤嚥性肺炎を併発する可能性が高い 5. 下記のうち 2 つ以上を認める 1) 誤嚥性肺炎を併発する可能性が高い 2) 客痰量が多く 頻回の吸引を必要とし 本人または介護者に疲労している 3) 経口摂取を強く希望している ( パーキンソン症候群の摂食嚥下障害 : 山本敏之 ;2014: 引用 ) 誤嚥防止術における術式別の利点 欠点利点欠点 1 喉頭全摘術 2 喉頭気管分離術 3 喉頭閉鎖術 食道入口部の開大が良好となるので経口摂食にもっとも有利 確立した術式であり 多くの耳鼻咽喉科医が対応可能 理論上は再建により発声が回復できる 術式 ( 食道気管吻合 ) によっては理論上発声も可能 他の術式に比し高侵襲 術後瘻孔形成などの合併リスク 喉頭喪失に対する精神的抵抗感 高齢者では気管軟骨が化骨化しており縫合不全を起こす 術後瘻孔形成リスク 理論上は再建により発声が回復できる 声帯閉鎖部の離解率が 術式(Biller 法 ) によっては理論上発声高く誤嚥による窒息例の報も可能告もある ( パーキンソン症候群の摂食嚥下障害 : 山本敏之 ;2014: 引用 ) 喉頭全摘出術の皮膚切開 2
喉頭全摘出術の基本手技 喉頭全摘出術の基本手技 2 1 気管切開を行い挿管して全身麻酔を行う 2 皮膚切開 (T 字型 U 字型 ) を加え 広頸筋の内面に沿って剥離する 一側の頸部郭清術を伴わせ行う場合には double inverted Y incision または U 皮切の反対側は下半分だけとする皮切を用いる 両側の頸部郭清術を伴わせ行うときには U 皮切の上端を両側の乳様突起先端までとする 3 胸骨舌骨筋 胸骨甲状筋 肩甲舌骨筋を切断する 4 甲状腺を喉頭 期間を剥離する 峡部は気切切開のときに切断する 5 甲状咽頭筋 輪状咽頭筋を起始部で切断する 6 甲状軟骨の後面で下咽頭を喉頭から剥離する 7 上喉頭動静脈を結紮切断する 8 舌骨上縁で舌骨を舌骨上筋群から外す 9 舌骨喉頭蓋靭帯の上面に沿って切離し 喉頭蓋谷に入り 咽頭を開く 10 喉頭蓋谷から披裂喉頭蓋ヒダの後面に沿って粘膜を切開していくと 喉頭は咽頭から切離される 11 喉頭後壁を下咽頭粘膜から 気管後壁を食道から剥離し 気管切開の部で気管を切断すると喉頭が摘出される 12 下咽頭粘膜を縫合して下咽頭を閉じる 13 左右の甲状咽頭筋を縫合して下咽頭前壁を補強する 14 創を洗浄し 抗生物質を注射し 持続吸引用ドレーンを挿入して皮膚を縫合する 気管の断端は周囲を皮膚と縫合して頸部に開いておく 術後 1 週間は経鼻 胃瘻を通して栄養する 誤嚥防止術と嚥下機能改善術の割合 進行性神経疾患での誤嚥防止術割合 誤嚥防止術 24 名 嚥下機能改善術 19 名 進行性神経疾患の割合 13 名多系統萎縮症 進行性神経疾患の摂食可能割合 7 名 13% 37% 50% 全量摂取 経口摂取可能 改善なし 21% 21% 58% 全量摂取経口摂取可能改善なし 15% 8% 8% 15% 23% 16% 15% 進行性核上麻痺脊髄小脳変性症パーキンソン病パーキンソン症候群レビー小体型認知症 14% 14% 72% 全量摂取経口摂取可能改善なし 大脳基底核変性症 ( 重度嚥下障害に対して手術治療を行った 44 症例の検討 : 香取幸夫 ;2013: 引用 ) ( 当院の最近 10 年間の誤嚥防止術の統計 : 伊藤博之 ;2011: 引用 ) ( 神経難病における食道分離術の検討 : 後藤 ;2003: 引用 ) 症例紹介 MRI 50 代男性身長 :166cm 体重 :54 kg 診断名 MD PD 既往歴 : 誤嚥性肺炎 左上腕骨頸部骨折 喉頭全摘術 胆嚢炎 現病歴 平成 23 年 8 月 誤嚥性肺炎を起こし入院 入院中寝たきり状態が長く 頸部が前屈し歩行障害 嚥下障害が起きた リハビリテーションを行い 自宅へ退院 平成 23 年 10 月から訪問リハビリが開始となった 平成 25 年 11 月胃瘻増設 平成 27 年 9 月誤嚥防止術施行 薬剤 メネシット 4 錠 シンメトレル 1 錠 アーテン 1 錠 ピシフロール 3 錠 主訴 食べ物を食べたい 3
経過 嚥下食ピラミッド 平成 23 年 訪問リハ開始 全量摂取可能 平成 26 年 左上腕骨頸部骨折受傷 レベル 0: 嚥下訓練食 ( 重力だけで通過する物 ) レベル 1: 嚥下訓練食 ( プリンなど ) レベル 2: 嚥下訓練食 ( ヨーグルトなど ) レベル 3: 嚥下食 ( ミキサー食 ペースト食など ) レベル 4: 介護職 ( 全粥など ) レベル 5: 常食 平成 25 年 誤嚥性肺炎 胃瘻増設 誤嚥防止術 ( 喉頭全摘術 ) 経過 胃瘻造設後の理学療法評価 ( 平成 25 年 ) 平成 23 年 訪問リハ開始 全量摂取可能平成 25 年誤嚥性肺炎胃瘻増設 平成 26 年 左上腕骨頸部骨折受傷 誤嚥防止術 ( 喉頭全摘術 ) 嚥下機能 RSST1 回フードテスト 3 MWST3 藤島 Gread2 咀嚼筋萎縮 舌萎縮 口腔期と咽頭気期の送り込みと嚥下反射低下鼻咽腔閉鎖不全体重 :43 kg 呼吸機能 MPT14 秒 咳嗽反射 (-) PCF140ml 痰の量増加 脳神経系 胸鎖乳突筋萎縮 僧帽筋正常 舌萎縮 眼球運動 (-) 三叉神経 (+) Yair の分類 3 度 筋緊張 右頸部周囲筋 舌骨上筋群筋緊張亢進 PD 症状 ON OFF 現象 wearing off 現象安静時振戦 薬剤 メネシット 5,5 錠 シンメトレル 1 錠 アーテン 1 錠 手術前 ( 歩行 ) 平成 26 年 9 月 6 日 平成 26 年 9 月 19 日 平成 27 年 2 月 歩行 平成 26 年 9 月 6 日平成 26 年 9 月 19 日平成 27 年 2 月 4
嚥下食ピラミッド 経過 レベル 0: 嚥下訓練食 ( 重力だけで通過する物 ) レベル 1: 嚥下訓練食 ( プリンなど ) レベル 2: 嚥下訓練食 ( ヨーグルトなど ) レベル 3: 嚥下食 ( ミキサー食 ペースト食など ) レベル 4: 介護職 ( 全粥など ) レベル 5: 常食 平成 23 年 訪問リハ開始 全量摂取可能 平成 26 年 左上腕骨頸部骨折受傷 平成 25 年誤嚥性肺炎胃瘻増設 平成 27 年 誤嚥防止術 ( 喉頭全摘術 ) 誤嚥防止術への対応と経過 本人 家族に提案 ( 家族内で相談 )1カ月主治医 ( 神経内科 ) に相談神経内科 耳鼻咽喉科 麻酔科 消化器内科 心臓内科カンファレンス 3か月平成 27 年 9 月に誤嚥防止術施行 全身麻酔のリスク 1 呼吸筋 呼吸補助筋の筋力低下による換気障害,CO 2 に対する感受性の低下などの中枢神経系の異常がある. 嚥下反射低下による誤嚥性肺炎を併発し, 術後呼吸管理に難渋することが多い 2 循環系の問題として, 筋緊張性ジストロフィーでは心筋障害 伝導障害などの心疾患をしばしば合併する 3 副腎機能低下では, 麻酔中のストレスで筋硬直や循環系の異常を生じる可能性があり, 甲状腺機能上進では筋力低下が増悪し, 機能低下では筋硬直が増悪する 喉頭全摘術 (T 字切開法 ) 手術後 ( 姿勢 ) 5
手術後 ( 摂食と歩行 ) 嚥下食ピラミッド レベル 0: 嚥下訓練食 ( 重力だけで通過する物 ) レベル 1: 嚥下訓練食 ( プリンなど ) レベル 2: 嚥下訓練食 ( ヨーグルトなど ) レベル 3: 嚥下食 ( ミキサー食 ペースト食など ) レベル 4: 介護職 ( 全粥など ) レベル 5: 常食 現在の問題点 終わりに 進行性の神経疾患は進行にともない 嚥下障害や誤嚥性肺炎が起こってくる 誤嚥性肺炎を起こすと身体機能や ADL 能力が著しく低下する 予後予測や疾患の特徴などを把握し今後も訪問リハに取り組んでいきたいと思う ご清聴ありがとうございました 6