1 章細胞の概要
細胞の大きさ 数研出版 視覚でとらえる生物図録 より
細胞 Cell 数研出版 視覚でとらえる生物図録 より
細胞説 Cell doctrine 数研出版 視覚でとらえる生物図録 より
生物の特徴 1. リン脂質二重層からなる膜で囲まれた 細胞 とよばれる単位からできて いる 数研出版 視覚でとらえる生物図録 より 2. 遺伝物質DNAによって 自己を複製する 3. 環境からの刺激に応答する 4. 環境からエネルギー物質 アデノシン 三リン酸 ATP) を合成し そのエネ ルギーを用いて生活 成長する
細胞の分類 現在までに地球上に見い出されている細胞は その主要な諸性質から 二つのグループに分類される 原核生物 prokaryote と真核生物 eukaryote である プレスコット 細胞生物学 より Karyote は核を意味し pro- は 以前と云う意味から核としての輪郭を持たない つまり核膜がない細胞を意味する eu- は真を意味するので 核膜を持つ核がハッキリと存在する細胞である
原核細胞は 遺伝情報や膜組成から大きく二つのグループに細分される 1. 真正細菌 eubacteria 細菌とよばれるものの多くは 真正細菌である 原核細胞 prokaryote 円筒形の形あるいは球形や螺旋形の形になる壁を持つ細菌もいる 2. 古細菌 archaebacteria 古細菌とは メタン菌 高度好塩菌 好熱菌といった極限環境微生物が含まれる DNA 複製やタンパク質合成系の機構は むしろ真核生物に近い
原核細胞の構造 原核細胞は 構造的に単純な細胞である 多糖 ペプチド 脂質からなる細胞壁 cell wall が細胞の外側を囲んでいる 例外的に マイコプラズマとして知られる小さな細菌は細胞外壁がないものもいる 大腸菌の細胞壁のすぐ内側には 細胞膜 plasma membrane があり 細胞全体を包ん でいる 原核細胞では 核がハッキリしないの で 通常 核様体 nucleoid とよばれる
光合成細菌 真正細菌は さらに非光合成細菌と光合成細菌にわけられる 光合成細菌はおそらく進化のごく初期の課程で非光合成細菌から分化したものであり 多くの場合 絶対光独立栄養生物 obligate photoautotroph である 光独立栄養とは 光 水 無機イオンと炭酸ガス のみを要求するものをいい 絶対とは 成長の為 に光が不可欠であることを意味する これらの細菌は糖のような有機化合物をエネルギ ー源として利用できない 淡水 海水 土壌中に広く分布して大気の酸素の 多くを生産している 写真は 藍藻の電子顕微鏡写真であるが 細胞内部 には核様態の他にチラコイド膜 (CM) やリボソームが 観察される また 細胞壁 (CW) は ペプチドグリカン からなる 藍藻には ユレモやネンジュモなどが含まれる プレスコット 細胞生物学 より
共生説
膜進化説 内膜系が発達内包化 核膜や小胞体を形成
真核細胞 eukaryote 全ての真核細胞は ある基本的な性質を共通にもっている しかし にも関わらず 真核生物は 極度に多様である 真核細胞では 細胞が異なると それぞれ特別な特徴を持つので 特殊な細胞機能と構造を調べる実験に適している 酵母 Sacchaomyces 酵母は菌類に分類される単細胞真核 生物である 細胞の大きさ 構造的 体制など さまざまな面から真核細 胞の中で最も単純なものとして実験 によく用いられている 酵母の一種 Saccharomyces cerevisiae は 卵形で 最大直径が 6 μm である その名は 糖を意味す る saccharo 菌のギリシャ語 myces と ビールのラテン語 cerevisia から 来ている プレスコット 細胞生物学 より
酵母細胞の特徴 酵母には2つの主要な区画がある 核と細胞質である 細胞質は 核以外の全ての部分である 1. 核 nucleus: 核膜という2 重膜により取り囲まれている 核膜孔をもち その内部には染色体をもつ 2. 細胞壁 cell wall: 細胞壁は堅く セルロースに近い多糖類からなる 細胞の形を保ち保護している 3. ミトコンドリア mitochondria: 2 重膜構造であり クリステ cristae という褶曲した内膜をもち この部分にエネルギー生産に必要な酵素群をもつ また外膜は比較的透過性が高く エネルギー生産に必要なイオンやその他の分子を通過させる機能をもつ 4. リソソーム lysosome: 細胞内消化に関わる一重膜の小胞 5. 脂質小滴 lipid droplet: 酵母の細胞質には 脂質小滴があり エネルギーを生み出す為に必要とされる脂質分子の貯蔵庫となっている
核 nucleus 数研出版 視覚でとらえる生物図録 より
ミトコンドリア mitochondorion 数研出版 視覚でとらえる生物図録 より
リソソーム lysosome 数研出版 視覚でとらえる生物図録 より
アメーバ Amoeba 大きな淡水アメーバは酵母と対照的で 真核細胞の中で最も大きく 最 も複雑なものである 酵母が菌類であるのに対し アメーバは原生生物に属する 中でも Amoeba proteus は最も良く研究されて いる材料であるが アメーバは単純な原始的細胞であるという一般的な 考え方は正しく無い Proteus という言葉は 第一位というギリシア語 proteios に由来していることからも 細胞のとりうる複雑な機能を全て発現させているといって良い程複雑な細胞である この細胞は流動している形態で伸びている時は 1 mm またはそれ以上の長さになり 酵母の体積の 5000 倍 大腸菌の 30 万倍にあたる プレスコット 細胞生物学 より
アメーバ細胞の特徴 1 細胞表面は細胞壁の代わりに 炭水化物やタンパク質から成る外皮を持つ 外皮 核は 異常に大きい ( 直径 30μm) 楕円形で 通常数個の核小体が見られる また核には 核薄板 nuclear lamina とよばれる蜂の巣状構造があり 核膜を安定化すると共に染色体を結合する役割がある 核膜孔も存在する プレスコット 細胞生物学 より
アメーバの細胞質は酵母より複雑で リボソーム リソソーム ミトコンドリア に加えて 膜で仕切られた小胞が多数集合したような小胞体 endoplasmic reticulum が顕著に観察される リボゾームを表面にもつ粗面小胞体は 酵母にも存在するが タンパク質の合成に関係している タンパク質は細胞表面に運ばれる また ゴルジ体 golgi complex が観察される これも膜系の複合体であるが 小胞体中で合成された高分子を加工処理して 濃縮し小胞に詰め込む働きをしている アメーバ細胞の特徴 2 プレスコット 細胞生物学 より
ゴルジ体 Golgi apparatus 数研出版 視覚でとらえる生物図録 より
リボソーム ribosome と粗面小胞体 rough ER 数研出版 視覚でとらえる生物図録 より
タンパク質合成の流れ 核 細胞質 DNA 転写 mrna 翻訳 Protein 数研出版 視覚でとらえる生物図録 より
外皮は アメーバ運動や食作用 phagocytosis で細胞の表面が入れ替わるために絶えず更生されている 食作用は食べる phagein と細胞 cytosis というギリシャ語に由来する 食作用においては 細胞の一部が餌生物を取り囲んで 食胞 food vacuole を細胞質内に形成する 食作用で餌が取り込まれると 新たにできる食胞にリソソームが融合する これにより 消化酵素が食胞に移り そこで取り込まれた餌が消化される 消化された分子 ( アミノ酸 ヌクレオシド 糖 脂肪酸など ) は食胞の膜を通って細胞質で利用される 食胞 phagosome プレスコット 細胞生物学 より
収縮胞 contractile vacuole アメーバで 細胞内のオルガネラと比べてあまり研究されていないのが 収縮胞である 一団の小胞が集まって融合することにより 大きな液胞となる この液胞が細胞膜と融合し 内容物を 細胞外に放出する 液胞は潰れて消失し 新しい液胞がその古い液胞の残骸の中心に形成され始め る この収縮胞は細胞へ入ってくる水をくみ出すことにより 細胞の浸透圧を調節している Heuser et al. 1993, JCB121 より
細胞骨格cytoskeleton 他の真核生物のようにアメーバの細胞質中には微小管とミクロフィラメント アクチン として知られる繊維状成分が含まれる 数研出版 視覚でとらえる生物図録 より
植物細胞 plant cells 大部分の植物細胞は厚くて堅い細胞壁 cell wall で囲まれている 細胞壁は細胞 の機械的損傷を防ぎ 浸透的な膨潤から 細胞を守っている この壁は多糖とタンパ ク質を主成分とした基質 とその中に埋め 込まれたセルロース繊維で構成されてい る 細胞壁の材料は 細胞内で合成され 細胞膜のすぐ内側に貯まり 細胞から放 出されて細胞壁に沈着する 植物細胞に特徴的に観察されるのは 葉 緑体 chloroplast であり 教科書的には 中心液胞 central vacuole もまた その 特徴の一つとされている 数研出版 視覚でとらえる生物図録 より
葉緑体 chloroplast 葉緑体は ミトコンドリアのような複数の膜からなるオルガネラで 外膜と その内側に密に並んだ内膜から成る 内膜で囲まれた空間には多くの酵素が含まれ 層状の別の膜系 ( チラコイド ) がオルガネラを満たしている この層状の内膜には 葉緑素 ( クロロフィル ) が結合し 光エネルギーを吸収する 同じく その膜に含まれるものは 光エネルギーを化学エネルギーに変換する酵素的装置である ミトコンドリアのように 葉緑体にもリボソームや DNA が存在する とはいえ ある種の機能タンパク以外は 葉緑体もミトコンドリアもその大部分のタンパク質は核内の遺伝子にコードされている 数研出版 視覚でとらえる生物図録 より
有色体 白色体 退化した葉緑体 (etioplast) 有色体 : 花弁や果皮などの細胞にみられ 黄色や橙色の色素 ( カロテノイド ) を含む 白色体 : 根や茎の内部の細胞に見られる 色素を含まず白色で 内部の膜状構造は未発達 アミロプラスト : 白色の小体で デンプン合成にはたらく 数研出版 視覚でとらえる生物図録 より
動物細胞 animal cells 哺乳類のような複雑な動物は 約 200 種類の異なる細胞から構成され ている それぞれの細胞種は 発生過程で特殊化 分 化 して動物の多様な組織 tissue を構 成し 特殊な機能を発現させている 動物細胞の細胞質には リボソーム ミトコンド リア ゴルジ体 小胞体 リソソーム 脂 質小滴 および 真核細胞に一般的に 存在するが 今までとりあげなかった五 つの構造 1. 微小管 2. ミクロフィラメント 3. 中間系フィラメント 4. ミクロボディ 5. 中心体 が見られる 数研出版 視覚でとらえる生物図録 より
細胞膜 cell membrane 細胞膜は他の細胞同様に タンパ ク質を組み込んだ脂質2重層から なる アメーバの場合と同様に 動物細胞の膜表 面には 糖を結合したタンパク質 糖タンパク 質 glycoprotein が存在する 細胞表面の 糖タンパク質の機能は 細胞同士の接着を可 能とすることである 膜結合タンパク質の多くは 培地から栄養物 を吸収する働きがある 担体 チャンネル その他の膜タンパク質は ホルモンのような 信号の受容体としてはたらく 数研出版 視覚でとらえる生物図録 より
中心体 centriole 中心体は 直径約 150 nm 長さ 300 500 nm の円筒形で 3 連の微小管 microtubule が 9 個くっついて出来た筒である 有糸分裂の時の微小管の重合中心 として働く 分裂準備期の細胞には 2 対の中心体が生じ 一個づつ娘細胞に分配され る 数研出版 視覚でとらえる生物図録 より
微小管 microtubule 微小管は 直径が約 25 nm で中空な構造体である チューブリン tubulin と呼ばれるタンパク質が重合してできたものである 微小管は束または単独で細胞質に存在し 細胞に堅さと形を与える このことから 細胞骨格 cytoskeleton と呼ばれる 一般的に微小管は不安定な構造で細胞の形の変化に伴って 重合したり脱重合したりしている 細胞分裂の時に活躍する 分裂装置 mitotic apparatus は そのかなりの部分が微小管から構成される 教育社 細胞の分子生物学 より
ミクロフィラメント microfilament ミクロフィラメントは 直径が 7 nm の細長いタンパク繊維である 単一のミクロフィラメントは 片方の端で細胞質に付着する その主成分は 筋細胞の収縮装置の一つの主要タンパク質 アクチン actin である アクチンフィラメントは アメーバ運動やその他の細胞運動にとってとても重要な繊維である 教育社 細胞の分子生物学 より
中間径フィラメント intermediate filament 中間系フィラメントは 大部分の真核生物に存在するが その組成は見つかった場所によって異なっており しばしば何種類ものタンパク質が一つの繊維に含まれている いわば中程度の直径をもつ繊維の総称のようなものである 直径約 10 nm 程である 表皮細胞では ケラチンが多量に含まれ 神経細胞では 3 種類のタンパク質からなるフィラメントを形成する 役割としては 構造的支持であり 細胞の質の異なる部分を結び付けているようである 教育社 細胞の分子生物学 より
ミクロボディ microbody 直径 0.5 2 μm の小胞で 1 重膜で囲まれた顆粒状基質をもつ 過酸化水素の生産が観察されるが これはミクロボディ中の酸化作用の結果生じたものである 現在では ぺルオキシソーム peroxisome と呼ばれている 過酸化水素は強い酸化剤で細胞毒性が強い この過酸化水素は カタラーゼ catalase とよばれるペルオキソーム中の酵素により分解されて水と酸素に変わり 無毒化されている 現在までに 脂肪酸代謝に関わることが報告されている 教育社 細胞の分子生物学 より
細胞の構造のまとめ 数研出版 視覚でとらえる生物図録 より
機能の概観 1) 自己維持 self-maintenance 損傷を受けた生体分子を置き換える為に新しい分子を常に合成すること タンパク質 ( 酵素やリボソームなど ) や膜系 その他の部分は イオンや分子の活発な運動で常 に損傷を受けやすい状態である 実際に損傷回復の情報を担う核を除去すると 早くて 12 時間 遅くても 18 時間後には タンパク質の合成は観察されなくなる 2) 細胞運動 cell motility 原形質流動 細胞内小器官 ( オルガネラ ) や顆粒の運動 細胞外形の動的変化 ア メーバ運動 繊毛 鞭毛運動 筋収縮などがある 全ての形の運動は 一連の特定タ ンパク質 ( 細胞骨格 ) の機能に基づき いくつかのタンパク質の相互作用で運動を生み 出している 細胞運動では 化学エネルギーを必要とする 3) 細胞成長と増殖 cell growth and reproduction 成長により細胞は代謝装置と構成成分の量を増やし 細胞分裂で 2 分割し 娘細胞に 分配する 細胞成長でもっとも顕著な事の一つは 無数の異なるタンパク質の合成で ある それは細胞の諸構造間においても正確に調節され 非常に複雑な相互作用が行 われ この機能を統合している まだ解明されていない
栄養の概観 1 細胞によって行われる全ての活動は まわりからのエネルギーの供給で賄われ 多くの分子を作るのに必要な炭素 C 水素 H 窒素 N リン P 硫黄 S および他の成分の外界依存の上に成り立っている このような外界への依存は細胞の種類によって異なり 2 3 のグループに分けられる 1) 独立栄養生物 autotroph すべての有機分子を二酸化炭素 C0 2 から作る事ができる細胞 光合成細胞とある種の細菌が独立栄養生物である 2) 従属栄養生物 heterotroph 炭素源を糖のような有機分子の形で科学的に還元された炭素としてのみ 利用できる細胞 大部分の非光合成細菌 菌類 原生動物 動物細胞は 従属栄養生物である
栄養の概観 2 また 外界からエネルギーを獲得する方法によっても分類される 1) 光栄養生物 phototroph 光栄養生物は 光合成によって光のエネルギーを利用して糖を作る細胞で 光合成生物とも呼ばれる 2) 化学栄養生物 chemotroph 化学栄養生物は 通常 炭水化物をより単純な化合物に分解する化学 反応でエネルギーを得るものであり 化学合成生物と呼ぶ ほとんど全ての光栄養生物は 独立栄養生物である しかし光栄養生物の中には 1つまたは有機分子を必要とするものがおり これを光従属栄養生物 photoheterotroph と呼ぶ この例に当たるのが 藻類のユーグレナ ( ミドリムシ ) で ユーグレナは ビタミンとしてチアミン B 12 が必要である