施設キュウリ ( 抑制栽培 ) のミナミキイロアザミウマの IPM 体系マニュアル

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農林水産省登録第 号 2014 年 1 月版 製品名スワルスキープラス ( 吊り下げ型パック製剤 ) 販売 アリスタライフサイエンス株式会社 製造場 コパートビーブイ ベヘーア工場 小分製造場 アリスタライフサイエンス株式会社バイオシステムズ お問い合わせ先 IPM 営業本部東京都中央区

バンカーシート 利用マニュアル 2017年版(第一版)

殺虫数(頭(2) 京田辺市におけるフェロモントラップへの誘殺虫数 (7 月第 6 半旬 ~8 月第 5 半旬の合計値 ) は81.0 頭で 平年の22.4 頭を上回っている (+)( 図 1) また 本年度からフェロモントラップを設置した亀岡市および京丹後市でも 8 月第 4 半旬から誘殺数が急増し

微生物殺虫剤 < 商品のお問合せは アリスタライフサイエンス株式会社 > 天敵放飼後のレスキュー ( 臨機 ) 防除剤としては 天敵への影響が少ない微生物殺虫剤が効果的です 天敵に悪影響を与えないだけでなく 効果のある化学殺虫剤を 切り札剤 として温存することができますので

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5月の病害虫発生予想と防除のポイント

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(1) 未発生圃場では本種の寄生した苗を持ち込まない (2) 施設栽培では施設内への成虫侵入を防止するため 施設開口部に 1mm 程度の目合いの防虫ネットを張る (3) 施設栽培では周辺の畑作物や雑草にも寄生するので 早めに除草を行う (4) 本種の発生した施設栽培では収穫終了後 10 日以上密閉し

平成19年度事業計画書


情報01-1.xlsx

イチゴの殺虫剤 ( 福岡県 ) 使用香港と同等台湾と同等共通 6 月アーデント WP (2,-ND,ND) ランネート 45DF (1,ND,2) 7 月ロディー EC (5,5,1) アタブロン EC (2,ND,0.5) マトリック FL (0.5,ND,ND) ランネート 45DF (1,ND

ナスにおける天敵の利用法

すると死滅する 露地では水稲との輪作を行い, ハウス栽培では夏の休閑期に湛水あるいは2~3 週間ハウスを密閉してサウナ処理 (10a 当り石灰窒素 100~150kg, 稲わら1,500~2,000kg施用, 小畦を造ってフィルムで被覆し, 土壌が湿る程度に注水後 10 日以上湛水, ただし土壌 p

農薬成分数およびカウント数一覧 ( 作物別 ) 作物名項目使用目的農薬名成分数カウント数 小麦 ビート 殺菌剤殺虫剤育苗期殺菌剤殺虫剤 種子伝染病ベンレート T コート 2 2 眼紋病 うどんこ病ユニックス顆粒水和剤 除草剤 赤さび病アミスター 20 フロアブル 1 1 うどんこ病赤さ

アザミウマ類の薬剤検定1

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5月の病害虫発生予想と防除のポイント

びきすメにトがゅマロいううわりりかトン トップジン M 水和剤の混用事例 -1-(1) - 目作物名農薬名 ぶかり項なもどんうもごし小粒核果類おうすあうもんときめもずうかキウイフルーツいちんじきくつ(2018 年 7 月作成 ) ミなピたねはレニーまくトタママねさトすンぎぎいス殺虫剤エスマルク (D

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土着天敵を保護するネギ栽培体系導入事例 オオムギ間作によるネギアザミウマの防除技術 : 静岡県での事例 1. 静岡県での事例静岡県では県西部 中部を中心に全県にわたりネギが栽培され 生産額では県産野菜の上位を占める重要品目となっている 中でも夏期が生育期にあたる秋冬どり根深ネギ栽培に

病害虫名

01イチジク

中晩柑の病害虫

圃場試験場所 : 県農業研究センター 作物残留試験 ( C-N ) 圃場試験明細書 1/6 圃場試験明細書 1. 分析対象物質 およびその代謝物 2. 被験物質 (1) 名称 液剤 (2) 有効成分名および含有率 :10% (3) ロット番号 ABC 試験作物名オクラ品種名アーリーファ

茨城県 消費者ニーズに応えるイチゴ産地の育成 活動期間 : 平成 22 年度 ~ 継続中 1. 取組の背景鉾田地域は, メロン, ピーマン, イチゴ, トマト, 葉菜類などの野菜類の生産が盛んな, 県内有数の野菜園芸産地である 経営体の多くが複数の園芸品目を組み合わせ, 大規模な複合経営を行っている

穫 7 日 前 ) ハダニ 対 策 : 発 生 が 見 られれば サンマイトフロアブル( 収 穫 21 日 前 ) 等 で 防 除 する 4. 白 ねぎ 春 まき 夏 秋 秋 冬 どり 土 寄 せ: 梅 雨 に 備 え 土 寄 せを 行 いうね 間 に 排 水 溝 を 設 ける 但 し 土 寄 せ

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30年防除基準.indb

平成 30 年産米づくりのポイント ~ 水稲種子の消毒時の注意点について ~ JA 全農ちば営農支援部今年も水稲栽培に向けた準備の時期がやって来ます イネばか苗病や細菌性の苗立枯病など種子伝染性の病害の発生を防ぐためには 薬剤による種子消毒を中心とした対策が必要不可欠のため しっかりとした対策を実施

08びわ

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本年 10 月 11 日 ~11 月 10 日の間に登録登録されたされた新農薬 ( 適用拡大を含む は 次の通りですりです 下線部が適用拡大適用拡大になりましたになりました 登録日 薬剤名 10/24 テルスタ - フロアブル 登録内容 ( 適用拡大を含む のあらまし 対象作物内容 もも 対象害虫の

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濃度 (ppm) 濃度 (ppm) 濃度 (ppm) 濃度 (ppm) 濃度 (ppm) 濃度 (ppm) 濃度 (ppm) 濃度 (ppm) 濃度 (ppm) 濃度 (ppm) 濃度 (ppm) 濃度 (ppm) 濃度 (ppm) 濃度 (ppm) 濃度 (ppm) 濃度 (ppm) 濃度 (pp

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石原の農薬登録情報 2 登録変更に関するお知らせ 2016 年 4 月 12 日 5 月 13 日までの間に登録された弊社の新農薬 ( 適用拡大を含む ) は 次の通りです ( 下線部が適用拡大になりました ) 4/20 付け適用拡大トアロー 和剤 CT 作物名適用病害虫名希釈倍数 10a 当り散布

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Ⅲ 麦 1 赤 かび 病 (1) 予 報 の 内 容 発 生 量 :やや 多 発 生 時 期 ( 感 染 時 期 ): 早 1 大 麦 小 麦 の 生 育 は 平 年 より 10 日 程 度 進 んでいる 2 5 月 10~11 日 に 降 雨 があり 気 温 も 高 めで 開 花 期 に 遭 遇

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病害虫発生予察情報(11月予報)

殺虫剤 協友ダントツ 粒剤クロチアニジン 0.50% 種類名 / クロチアニジン粒剤登録番号 / 第 号 * 毒性 / 普通物有効年限 / 4 年包装 / 1kg 12 3kg 6 10kg 特 長 浸透移行性に優れ カメムシ目 ハエ目 コウチュウ目 チョウ目 バッタ目 アザミウマ目の各

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190号.indb

また 被害拡大の速度も速く 防除を怠ると くり園周辺の広葉樹林にも容易に被害が広がる (2) 発生消長平成 24 年 岩手県一関市で行った粘着板による調査では 1 齢幼虫の発生は 7 月 10 月の年 2 化であった (3) 防除試験マシン油乳剤やDMTP 乳剤による防除が知られているが 平成 24

リンゴ黒星病、うどんこ病防除にサルバトーレME、フルーツセイバーが有効である

**************************************** 2017 年 4 月 29 日 日本植物病理学会殺菌剤耐性菌研究会 耐性菌対策のための DMI 剤使用ガイドライン 一般的な耐性菌対策 1. 薬剤防除だけに頼るのではなく 圃場や施設内を発病しにくい環境条件にする 1)

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(10) マンゴーア殺菌剤, イ殺虫剤 農薬名 成分名 病 病 殺 菌 剤 I C ボ ル ド ー 6 6 D 塩基性硫酸銅 無機殺菌 アミスター 1 0 フロアブルアソ キシストロヒ ン ストロヒ ルリン オーソサイド水和剤 8 0 キャフ タンその他 ジマンダイセン水和剤マンセ フ 有機硫黄 ペ

H30栽培管理履歴様式(高槻)

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NO.523

農薬の使用基準のポイント 農薬を使用して病害虫防除や植物の成長調整等を行なう場合は 容器に記載されているをよく読み 農作物ごとに定められた使用量 希釈倍数 使用時期 使用回数および同一成分の総使用回数等を厳守し 安全で安心な農作物の生産を心がけましょう 使用方法の遵守 容器のラベルに表示されている内

スライド 1

「公印省略」


(2018 年 10 月 31 日現在の内容 ) 住友化学の農業支援サイト :i- 農力 クロチアニジン粒剤 農林水産省登録第 号性状 : 類白色細粒毒性 : 普通物危険物 : ダントツ 粒剤有効年限 :5 年包装 :1kg 12 3kg 6 12 kg 1 有効成分

スダチ栽培におけるマイナー害虫の被害と防除 徳島県立農林水産総合技術支援センター病害虫防除所兼田武典 Takemichi Kaneda はじめに スダチ (Citrus sudachi Hort.ex Shirai; 図 1) は徳島特産の緑色が美しい小型の香酸カンキツである 近年の食生活の多様化と

( ウ ) 薬剤散布後の状況 マシン油乳剤 3 通りの倍率でマシン油乳剤を散布し 定期的に状況を観察した 本種はチョコレート色の蝋物質 ( 殻 ) に覆われており 外観は月日の経過とともに少しずつ黒ずんできたように思われたが 内部の成虫の生死や産卵の有無などの判断は難しく 防除効果の確認は幼虫発生期

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平常時対策 成虫対策 屋内に らないようにする 網 の利 ( 締り 法の確認 ) 平常時対策 成虫対策 屋内に ってきたら 蚊取マット 液体蚊取 ワンプッシュ式蚊取も有効 59

平成 28 年度 害獣 ( 野鼠 モグラ ) 防除農薬一覧 JA 山形おきたま野菜振興会 野鼠の防除 耕種的 物理的防除秋季 ( 根雪前 ) 春季 夏季に 野鼠が侵入 定着しないよう ほ場や周辺の清掃 除草や隠れ場所となるような資材の撤去を行う 野鼠の増殖を抑制するため ほ場内に餌となる農作物残渣

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CONTENTS Q1. の特長を教えてください... 2 Q2. の有効成分について教えてください... 2 Q3. 登録内容を教えてください... 3 Q4. 対象病害虫について教えてください... 3 Q5. 効果試験などあれば教えてください... 4 Q6. 使い方を教えてください... 6

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試験中 試験中 試験中 12 月下旬 試験中 試験中 試験中 12 月下旬 試験中 試験中 試験中 1 月中旬 試験中 試験中 試験終了 12 月中旬 試験中 試験中 試験中 1 月上旬 試験中 試験中 試験中 1

2 写真 1:4 齢幼虫写真 2: すす病発生ほ場写真 3: 成虫 写真 4: 新芽に群がる成虫 写真 5: 衣服に付着した成虫 3. 防除対策 (1 未発生地への拡散防止策 1 車や機械による拡散の防止成虫は人や機械が近づくと舞い上がり作業者の衣服や機械等に付着し ( 写真 5 そのまま人や機械と

( ア ) 殺菌剤 を付した病害虫は 薬剤耐性もしくは抵抗性個体群が出現している ( 詳細は 24~ ページを参照 ) ( 小麦 : 殺菌 ) 毒魚処理濃度 量新性毒 ( ) は分類名 等性 眼紋病 赤さび病 褐色雪腐病 規 改訂 茎葉散布劇 A 他合成 ヘ ンソ イミタ ソ ール 1

クビアカツヤカミキリの生態と防除対策

キノンドー顆粒水和剤 2 年目 継続 1. 目的製剤変更による効果確認 樹齢 20 年生栽植密度 m 20 本 /10a (6) 試験内容試験面積 40 a 試験区 20 a 対照区 20 a 7/2 キノンドー顆粒水和剤 1,000 倍 500 リットル 7/2 キノンドーフロアブ

○H29-3 表紙_バジルべと病(案2)

エチレンを特定農薬に指定することについてのこれまでの検討状況 1 エチレンについて (1) 検討対象の情報 エチレン濃度 98.0% 以上の液化ガスをボンベに充填した製品 (2) 用途ばれいしょの萌芽抑制のほか バナナやキウイフルーツ等の果実の追熟促進を目的とする 2 検討状況 (1) 農林水産省及

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表 30m の長さの簡易ハウス ( 約 1a) の設置に要する経費 資材名 規格 単価 数量 金額 キュウリ用支柱 アーチパイプ ,690 直管 5.5m 19mm ,700 クロスワン 19mm 19mm ,525 天ビニル 農 PO 0.1mm

26愛媛の普及原稿 軽 Ⅱ

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資料 2 セイヨウオオマルハナバチの代替種の利用方針 について 環境省農林水産省

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H27年度2月表紙チンゲンサイ白さび病

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栽培面積は減少した そこで 平成 8 年に就農者を全国から募るための農業公社が設立され 2 年間の研修生の受け入れが開始された その結果 新規就農者が確保 育成されるようになり 栽培面積は年々増加し 現在ではピーク時 ( 昭和 52 年 ) を超える面積となっている 農家の平均年齢は48 歳で うち

11ブドウ

04 栽培履歴管理表(別添B)岩農H30 A科

3 園芸作物 < 果菜類 > 1-1 トマト [ ハウス ] ア導入すべき持続性の高い農業生産方式の内容 トマトは主に道央 道南および道北の施設で栽培され 作型は促成 ( ハウス加温 マルチ ) 半促成 ( ハウス マルチ ) 抑制 ( ハウス ) などである 品種は 桃太郎 ハウス桃太郎 桃太郎

Transcription:

施設キュウリ ( 抑制栽培 ) のミナミキイロアザミウマの IPM 体系マニュアル

b) a) c) d) 表紙の写真 a) ミナミキイロアザミウマ成虫 b) 赤色ネットの展張 c) アザミウマ類幼虫を捕食するスワルスキーカブリダニ d) ミナミキイロアザミウマによるキュウリ果実の被害 = 問合せ先 = 地方独立行政法人大阪府立環境農林水産総合研究所食の安全研究部防除グループ 583-0862 大阪府羽曳野市尺度 442 TEL: 072-958-6551 FAX: 072-956-9691 発行元 ( 平成 30 年 3 月作成 )

はじめに 農作物の病害虫では農薬に対する耐性菌や抵抗性害虫の出現により, 農薬のみに依存した病害虫防除が困難になっている そこで, 病害虫防除の分野では IPM(Integrated Pest Management, 総合的病害虫管理 ) が推進されている IPM とは, あらゆる適切な病害虫防除技術を相互に矛盾しない形で使用し, 経済的被害を生じるレベル以下に病害虫を減少させ, それを維持するシステムである 基本的な病害虫防除法として下記が挙げられる 1. 化学的防除法 --- 農薬, 忌避剤など 2. 物理的防除法 --- 光, ネット, 紫外線除去フィルム, マルチ, 太陽熱, 袋かけ, 湛水など 3. 耕種的防除法 --- 輪作, 混作, 抵抗性品種, 対抗植物, 接木, 栽培時期管理, 肥培管理など 4. 生物的防除法 --- 天敵利用 ( 生物農薬 ), 土着天敵の保護利用, フェロモンによる交信攪乱など 大阪府の施設キュウリ ( 抑制栽培 ) では, ミナミキイロアザミウマ, タバココナジラミ, アブラムシ類などの害虫が発生する これらの害虫は農薬に対する抵抗性が発達しているため, 化学合成農薬のみでの防除は困難となっている とくに, ミナミキイロアザミウマは有効な農薬が少なく, 現場では防除に苦慮している ミナミキイロアザミウマに対しては, 侵入防止のための赤色ネットおよび捕食性天敵であるスワルスキーカブリダニが有効であることが知られている そこで,( 地独 ) 大阪府立環境農林水産総合研究所では, 防除資材と天敵を併用した施設キュウリの IPM 体系を開発するとともに, 研究所内および現地圃場で実証試験を行い, これらの研究成果をマニュアルとしてまとめた なお, 現地圃場での実証試験は南河内農と緑の総合事務所および農政室推進課病害虫防除グループの協力を得て実施した ミナミキイロアザミウマ ミナミキイロアザミウマ 雌成虫は体長 1.3mm 程度で体色は橙黄色 施設内で越冬可能 成虫と幼虫は葉や果実に生息し, 土中で蛹化する ナス, ピーマン, キュウリ等の果菜類を加害する 多発生すると, 葉では葉脈沿いに食害痕 ( シルバリング ) を生じる 果実では果皮やがくに縦の線状あるいは不規則な傷を生じる ( 写真の白矢印 ) また, メロン黄化えそウイルス (MYSV) およびスイカ灰白色斑紋ウイルス (WSMV) を媒介し, キュウリなどウリ科作物で被害が発生する アザミウマ類の天敵 スワルスキーカブリダニ ヒメハナカメムシ類 キュウリの果実被害

侵入防止 : 赤色ネット アザミウマ類は体長約 1.3mm の微小害虫であり, 侵入を防ぐためにはネットの目合を細かくする必要がある 赤色ネットは 0.8mm 目合でも 0.6mm 目合の白色ネットとほぼ同等の防除効果を発揮し, 通気性が確保できる 遮光率は白色ネットが 10% であるのに対し, 赤色ネットは 25% とやや高いが, 生育への悪影響はない 現在, サンサンネット e- レッドシリーズ ( 日本ワイドクロス ( 株 ), 品番 :SLR2700,SLR3200) が市販されている = 処理方法 = 施設の側面開口部と出入口に展張 捕食性天敵 : スワルスキーカブリダニ スワルスキーカブリダニは, アザミウマ類, コナジラミ類, チャノホコリダニなどを捕食する天敵で, 花粉も餌となるので, アザミウマ類が低密度でも定着する 害虫の密度抑制効果が高いため, 全国的に果菜類を中心に普及しつつある 合成ピレスロイド系殺虫剤や殺ダニ剤など, この天敵に悪影響をおよぼす農薬があるので, 放飼前後は影響の少ない農薬を選択する = 生態 = 雌成虫体長 : 約 0.4 mm 活動温度 :15 ~35 ( 最適 28 ) 湿度 :60% 以上 ( 高湿度を好む ) 1 世代 : 卵 ~ 成虫まで 5~6 日 (26,70%R.H.) 成虫は約 30 日生存産卵数 :1~2 卵 / 日捕食量 : アザミウマ類 ---1 齢幼虫 5~6 個体 ( 成虫と幼虫では幼虫を好む ), コナジラミ類 --- 卵 10~15 個 = スワルスキー ( ボトル剤 ) の適用表 = 作物名 害虫名 使用量 野菜類 ( 施設 ) アザミウマ類コナジラミ類チャノホコリダニ 250~500mL/ 10a (25,000~50,000 個体 / 10a) ナス ( 露地 ) 豆類 ( 種実, 施設 ) イモ類 ( 施設 ) 果樹類 ( 施設 ) マンゴー ( 施設 ) 花き類 観葉植物 ( 施設 ) アザミウマ類 チャノホコリダニ アザミウマ類コナジラミ類チャノホコリダニ ミカンハダニ チャノキイロアザミウマ アザミウマ類 250mL/ 10a (25,000~50,000 個体 / 10a) 250~500mL/ 10a (25,000~50,000 個体 / 10a) 2.5~10mL/ 樹 (250~1,000 個体 / 樹 ) 2.5mL/ 樹 (250 個体 / 樹 ) 500mL/10a (50,000 個体 / 10a) 葉上放飼 放飼のポイント 放飼前の害虫密度はゼロに 購入後すぐに使用する 放飼前にボトルを回転させる 悪影響のある農薬を使用しない 放飼後 1~2 週間は葉かきを控える

施設キュウリ ( 抑制栽培 ) のミナミキイロアザミウマに対する IPM 体系 赤色ネット展張によるミナミキイロアザミウマの侵入防止 ~ 定植 スワルスキー放飼 < 前作終了後 > 土壌消毒剤を処理 キルパー等で前作の病害虫を防除 < 育苗期後半 ~ 定植時 > 粒剤 灌注剤を処理 育苗期後半にモベントフロアブルを灌注 定植時にベリマークSCかプリロッソ粒剤を処理 ミナミキイロアザミウマの密度を限りなくゼロに < 天敵放飼直前 > 有効な農薬で密度抑制 : スワルスキー放飼区 : 対照区 < 天敵放飼後 > 天敵に影響の小さい農薬 ( 化学農薬, 生物農薬 ) ミナミキイロアザミウマに対する有効な農薬 ( アファーム乳剤等 ) をスワルスキー放飼 7 日前に使用 スワルスキーカブリダニについて モベントフロアブル潅注後は, 約 3 週間放飼できないので, 注意 8 月下旬 ~9 月上旬に放飼 定着が悪いときは適宜追加放飼 ( スワルスキー放飼 2~3 週間後に 1 個体 /1 葉程度の生息がめやす ) 赤色ネット展張のみ, またはスワルスキー放飼のみでも有効です 取り組みやすいものから利用しましょう 赤色ネット展張とスワルスキー放飼によりミナミキイロアザミウマの生息密度を抑制し, 農薬使用を削減

赤色ネットと天敵を利用した防除のメカニズム アザミウマ類の生活環 IPM 体系 成虫はハウス外から侵入して, 葉を加害し, 産卵する 侵入阻止白色ネットに比べて赤色ネットは侵入防止効果が高い 成虫 侵入 アザミウマ類がいないとき, スワルスキーカブリダニは花粉を食べる 赤色ネット スワルスキーカブリダニ 幼虫 捕食スワルスキーカブリダニはアザミウマ類幼虫を捕食する 幼虫は葉や果実を吸汁して成長した後, 蛹化のために土壌へ移動する 羽化 蛹化 蛹は 4~5 日で羽化し, 羽化した成虫は葉へ移動する 蛹

( 地独 ) 大阪府立環境農林水産総合研究所 天敵を活用した施設キュウリ ( 抑制栽培 ) の害虫防除体系 < ポイント > 施設開口部には 0.8mm 目合の赤色ネットを展張 天敵導入前 ( 育苗期含む ) はアディオン, アグロスリン, トレボンなど長期間影響が残る合成ピレスロイド系殺虫剤を使用しない スワルスキーの放飼 7 日前にはアファーム乳剤などを丁寧に散布して, アザミウマの類の密度を限りなくゼロに ( ゼロ放飼 ) 天敵は注文してから納入まで 1~2 週間かかるので, 防除計画をしっかり立てる 天敵は生き物なので, 到着後ただちに放飼し, 保存しない スワルスキーはムラのないようにすべての株の上中位葉に放飼 (1 本で 400~500 株の処理が可能 ) 天敵放飼後は影響のある薬剤を使用しない ( 別表参照 ) 作成協力 : 南河内農と緑の総合事務所農の普及課農政室推進課病害虫防除グループ 7 月 8 月 9 月 10 月 11 月 12 月 ~ 播種 ~ 育苗 定植 (8 月上 ~ 中旬 ) スワルスキー 収穫終了 アザミウマ類 青色ホリバー 100-200 枚 /10a コナジラミ類 黄色ホリバー 50-100 枚 /10a アブラムシ類 ウリノメイガヨトウムシ類 ハダニ類 病害 育苗期 ~ スワルスキー放飼の害虫密度を限りなくゼロに モベントフロアブル ( 育苗期後半 ) 処理約 3 週間後にスワルスキー放飼可能 研究所内の調査では,17 日後でも可能 ベリマーク SC( 育苗期後半 ~ 定植当日 ) 処理翌日以降にスワルスキー放飼可能 プリロッソ粒剤 ( 育苗期後半 ~ 定植時 ) 処理翌日以降にスワルスキー放飼可能 = アザミウマ類 / コナジラミ類が発生した場合 = ハチハチ乳剤 ( 放飼 40 日以上前に散布 ) ハチハチ乳剤は虫体にかかることで効果を発揮するので, 丁寧にムラなく散布 アファーム乳剤 ( 散布 7 日後にスワルスキー放飼 ) 影響表 ( 別紙 ) をよく確認し, 長期間影響が残る薬剤 ( 合成ピレスロイド系殺虫剤など ) は使用しない = 放飼前にアザミウマ類が発生した場合 = スタークル / アルバリン顆粒水溶剤散布 ( 散布 2 日後にスワルスキー放飼 ) スワルスキー放飼 2 本 / 10a (8 月下 ~9 月上旬 ) 放飼前にボトルをゆっくりと回すフタの中央部を外して 1 株ずつ放飼 スワルスキーの定着を安定させるために 放飼後 1~2 週間は 農薬散布をさける 葉かきを最低限にする病気の葉以外は枯れるまで株元に放置してスワルスキーを温存する 放飼後に併用できる殺虫剤 影響なし ミナミキイロアザミウマ プレオフロアブル, ベストガード水溶剤など アザミウマ類 スタークル / アルバリン顆粒水溶剤など 影響表 ( 別紙 ) を参照 放飼後に併用できる殺虫剤 コナジラミ類 影響なし スタークル / アルバリン顆粒水溶剤, ベストガード水溶剤など 影響小 コルト顆粒水和剤など 影響表 ( 別紙 ) を参照 ウララ DF, チェス顆粒水和剤など プレバソンフロアブル 5, フェニックス顆粒水和剤, BT 剤など カネマイトフロアブル, スターマイトフロアブルなど ジマンダイセン / ペンコゼブ水和剤, リドミルゴールド MZ, モレスタン水和剤, トップジン M 水和剤, ゲッター水和剤などの使用は避ける

スワルスキーに対する殺虫剤 殺菌剤の影響 ( 目安 ) 殺虫剤 系統 スワルスキーへの影響 影響日数 ウララDF 他 カスケード乳剤 IGR カネマイトフロアブル ダニ スタークル / アルバリン顆粒水溶剤 ネオ スタークル / アルバリン粒剤 ネオ スターマイトフロアブル ダニ ダニサラバフロアブル ダニ ダントツ水溶剤 ネオ チェス顆粒水和剤 他 ニッソラン水和剤ダニバリアード顆粒水和剤ネオ フェニックス顆粒水和剤プリロッソ粒剤併用可能 0 日 プレオフロアブル 他 プレバソンフロアブル5 ベストガード水溶剤 ネオ ベネビアOD ベリマークSC マイコタール 生物 マッチ乳剤 IGR マトリックフロアブル IGR デルフィン顆粒水和剤 BT アクタラ顆粒水溶剤ネオアクタラ粒剤 5 ネオ 約 28 日 アドマイヤー 1 粒剤ネオ アプロード水和剤 IGR 少し影響ありコルト顆粒水和剤他約 7 日 ベストガード粒剤 ネオ マイトコーネフロアブル ダニ アドマイヤー顆粒水和剤ネオ約 14 日 ボタニガードES 生物 1 日なるべく使用しないモスピラン顆粒水溶剤ネオ約 7 日 アーデント水和剤 合ピレ 2~3ヶ月 アグロスリン乳剤 合ピレ 2~3ヶ月 アディオン乳剤 合ピレ 2~3ヶ月 アニキ乳剤 アベル 約 3 日 アファーム乳剤 アベル 約 7 日 コテツフロアブル 他 約 14 日 コロマイト乳剤 アベル 約 7 日 サンマイトフロアブルダニ約 30 日 スピノエース顆粒水和剤スピノ約 14 日使用不可スミチオン乳剤有リン 2~3ヶ月 ダニトロンフロアブル ダニ 約 30 日 トレボン乳剤 合ピレ 1~2ヶ月 ディアナSC スピノ 約 14 日 ハチハチ乳剤 他 約 40 日 バロックフロアブル ダニ 約 30 日 ピラニカEW ダニ 約 30 日 モベントフロアブル 他 約 30 日 殺菌剤 アフェットフロアブルアミスター 20フロアブルアミスターオプティフロアブルオーソサイド水和剤 80 ガッテン乳剤カリグリーンカンタスドライフロアブルザンプロDMフロアブルジャストミート顆粒水和剤ストロビーフロアブルスミブレンド水和剤セイビア フロアブル20 ダイマジンダコニール1000 ドーシャスフロアブルトリフミン乳剤パンチョTF 顆粒水和剤ピクシオDF ファンタジスタ顆粒水和剤フェスティバルC 水和剤フルピカフロアブルプロポーズ顆粒水和剤ベジセイバーベトファイター顆粒水和剤ベルクート水和剤ホライズンドライフロアブルライメイフロアブルラリー水和剤ランマンフロアブル Zボルドージーファイン水和剤ロブラール500アクアイオウフロアブルエトフィンフロアブルゲッター水和剤サプロール乳剤トップジンM 水和剤ベンレート水和剤ジマンダイセン / ペンコゼブ水和剤ポリオキシンAL 乳剤ポリベリン水和剤モレスタン水和剤リドミルゴールドMZ スワルスキーへの影響 併用可能 少し影響あり なるべく使用しない 使用不可 影響日数 0 日 約 7 日 約 7 日約 21 日約 7 日約 14 日約 21 日約 21 日約 30 日約 21 日約 21 日約 14 日約 30 日 気門封鎖型薬剤 アカリタッチ乳剤エコピタ乳剤オレート液剤サンクリスタル乳剤粘着くん液剤ムシラップ 展着剤 まくぴかブレイクスルースカッシュニーズアプローチBI クテミングラミン スワルスキーへの影響 なるべく使用しない スワルスキーへの影響 ~ ~ 機能性展着剤の使用は避け, 一般展着剤 ( クテミン, グラミンなど ) を使用する 気門封鎖剤のようなの資材の混用は避ける 表での略称 有リン 合ピレ ネオ アベル 薬剤系統 有機リン 合成ピレスロイド ネオニコチノイド アベルメクチン スピノ スピノシン IGR IGR( 成長阻害 ) ダニ BT 生物 : 天敵と併用可能 : 天敵に少し影響あり 殺ダニ剤 BT 剤 生物農薬 : 天敵に影響あり なるべく使わない : 天敵に影響大 使用不可 影響日数 1 日 影響日数 天敵の農薬影響は, 現場の知見や製造メーカーの資料を参考に作成しています 今後変更になる可能性があります 1 日 0 日