相続税対応策と土地活用 ~ これだけは押さえておきたい ~ ラジオ NIKKEI 公開録音土地活用セミナー 2014 年 7 月 26 日 税理士奥村眞吾 http://www.okumura.ne.jp
Ⅰ 相続税 贈与税の大改正 1. 来年から相続税の基礎控除の引下げ 相続税の基礎控除を 5,000 万円 +1,000 万円 法定相続人の数 から 3,000 万円 +600 万円 法定相続人の数 に引き下げ 相続税の再分配機能の回復を図ることとされ 遺産額から差し 引いて税負担を軽減できる基礎控除額が 40% 削減されることになります 平成 26 年 12 月 31 日まで ( 定額控除 ) ( 法定相続人比例控除 ) 5,000 万円 +1,000 万円 法定相続人の数 平成 27 年より ( 定額控除 ) ( 法定相続人比例控除 ) 3,000 万円 +600 万円 法定相続人の数 改正後 相続財産 課税遺産総額 5,000 万円 +1,000 万円 法定相続人数 課税遺産総額 基礎控除 改正後 3,000 万円 +600 万円 法定相続人数 基礎控除 は 定額控除部分の 5,000 万円に 法定相続人 1 人当たり 1,000 万円を加算した金額が控除できますが 改正後は 定額部分が 3,000 万円 法定相続人 1 人当たりの部分が 600 万円に引き下げられます したがって 夫婦と子 2 人の標準世帯で夫が亡くなり 妻と子 2 人が遺産を相続する場合 であれば 8,000 万円 (5,000 万円 +1,000 万円 3 人 ) まで相続税はかかりませんでしたが 平成 27 年からは 相続税がかからないのは 4,800 万円 (3,000 万円 +600 万円 3 人 ) までとなります もっとも 妻が相続する場合は 配偶者の軽減措置がありますので 従来同様 課税遺産総額が 1 億 6,000 万円までなら相続税はかかりません 1
夫が亡くなり 相続人は妻と子 2 人の場合 改正後 (H27 年 1 月 ~) 遺産 1 億円 課税対象 2,000 万円 基礎控除 5,000 万円 + 1,000 万円 3 =8,000 万円 4 割圧縮 課税対象 5,200 万円 基礎控除 3,000 万円 + 600 万円 3 =4,800 万円 法定相続人分で割る 妻 1/2 2,600 万円子 1/4 1,300 万円子 1/4 1,300 万円 630 万円 相続税の総額 税金はかからない は 100 万円なので 215 万円の増税 妻は配偶者控除があるので を反映して税額を計算 各相続人に適用される控除 315 万円 ( 実子際 2 の人納分付 ) 税額 改正で新たに相続税の負担が生じる場合とは? 相続人の区分 平成 27 年から 相続人が妻 ( 配偶者 ) と子 2 人の場合 相続人が子 2 人の場合 8,000 万円超 7,000 万円超 4,800 万円超 4,200 万円超 相続税がかかる 妻 ( 配偶者 ) と子 2 人が相続する場合は? 遺産の課税価格 の税額 改正後の税額 増税額 7,000 万円 0 112.5 万円 112.5 万円 1 億円 100 万円 315 万円 215 万円 3 億円 2,300 万円 2,860 万円 560 万円 5 億円 5,850 万円 6,555 万円 705 万円 10 億円 1 億 6,650 万円 1 億 7,810 万円 1,160 万円 2
2. 相続税の構造の改正 ( 最高 50% から 55% に ) 平成 27 年から 相続税の最高を 50% から 55% に引き上げられるとともに 構造は 6 段階から 8 段階となります 法定相続分に応ずる取得金額が 5,000 万円超 1 億円以下のは 従前同様 30% と変わりありませんが 改正後は 2 億円以下の金額は 40% 3 億円以下が 45% 6 億円以下が 50% 6 億円超が 55% と 課税強化が図られています 相続税の構造法定相続分に応ずる取得金額 平成 27 年から 1,000 万円以下の金額 10% 同左 3,000 万円 15% 5,000 万円 20% 1 億円 30% 3 億円 40% 3 億円超の金額 50% 2 億円以下の金額 40% 3 億円 45% 6 億円 50% 6 億円超の金額 55% 相続税の速算表 平成 27 年から 法定相続人に応ずる取得金額 (%) 控除額 ( 万円 ) 法定相続人に応ずる取得金額 (%) 控除額 ( 万円 ) 1,000 万円以下 10 1,000 万円以下 10 3,000 万円以下 15 50 3,000 万円以下 15 50 5,000 万円以下 20 200 5,000 万円以下 20 200 10,000 万円以下 30 700 10,000 万円以下 30 700 30,000 万円以下 40 1,700 20,000 万円以下 40 1,700 30,000 万円超 50 4,700 30,000 万円超 45 2,700 60,000 万円超 50 4,200 60,000 万円超 55 7,200 3
3. 贈与税のの見直し 若年世代への早期資産移転をより一層推進する観点から 相続の見直しと併せて 若年世代を受贈者とする贈与税の構造が見直されることになりました 相続との兼ね合いから 贈与税の最高は 50% から 55% に引き上げられます 相続時精算課税制度の対象とならない暦年課税の贈与財産に係る贈与税の構造について 次の改正が行われます 20 歳以上の者が直系尊属から贈与を受けた場合のが緩和され 1,000 万円以下の金額に対する 40% が 30% に 1,000 万円超の金額に対する 50% が 1,500 万円以下の 40% に 3,000 万円以下 45% 4,500 万円以下 50% に緩和され 4,500 万円超が 55% と細分化されました また この 20 歳以上の者が直系尊属から贈与を受けた場合の とは別に 一般の贈与 が設けられ 贈与税に二種類のが設けられることになりました (1)20 歳以上の者が直系尊属から贈与を受けた財産に係る贈与税の構造 20 歳以上の者が直系尊属 ( 父母 祖父母 養父母等 ) から贈与を受けた財産に係る贈与税の構造については 生前贈与による財産の有効活用を図る観点から 次のように緩和されました 改正後 基礎控除及び基礎控除及び配偶者控除後の課税価格配偶者控除後の課税価格 200 万円以下の金額 10% 同左 300 万円 15% 400 万円以下の金額 15% 400 万円 20% 600 万円 20% 600 万円 30% 1,000 万円 30% 1,000 万円 40% 1,500 万円 40% - 3,000 万円 45% 1,000 万円超の金額 50% 4,500 万円 50% - 4,500 万円超の金額 55% (2) 上記 (1) 以外の贈与財産に係る贈与税の構造 上記 (1) 以外の贈与財産に係る贈与税の構造については 相続税の最高の引上げ に合わせ 次のように改められました 4
基礎控除及び配偶者控除後の課税価格 200 万円以下の金額 10% 300 万円 15% 400 万円 20% 同左 600 万円 30% 1,000 万円 40% 改正後 基礎控除及び配偶者控除後の課税価格 - 1,500 万円以下の金額 45% 1,000 万円超の金額 50% 3,000 万円 50% - 3,000 万円超の金額 55% 上記 (1) と (2) の贈与がある場合は それぞれの金額に応じてあん分計算をすること になります 贈与税の速算表 1 20 歳以上の者が直系尊属から贈与を受けた場合の贈与税の速算表 基礎控除及び配偶者控除後の課税価格 (%) 控除額 ( 万円 ) 基礎控除及び配偶者控除後の課税価格 改正後 (%) 控除額 ( 万円 ) 200 万円以下 10 200 万円以下 10 300 万円以下 15 10 400 万円以下 15 10 400 万円以下 20 25 600 万円以下 20 30 600 万円以下 30 65 1,000 万円以下 30 90 1,000 万円以下 40 125 1,500 万円以下 40 190 1,000 万円超 50 225 3,000 万円以下 45 265 2 上記 1 以外の一般の贈与税の速算表 基礎控除及び配偶者控除後の課税価格 (%) 控除額 ( 万円 ) 4,500 万円以下 50 415 4,500 万円超 55 640 基礎控除及び配偶者控除後の課税価格 改正後 (%) 控除額 ( 万円 ) 200 万円以下 10 200 万円以下 10 300 万円以下 15 10 300 万円以下 15 10 400 万円以下 20 25 400 万円以下 20 25 600 万円以下 30 65 600 万円以下 30 65 1,000 万円以下 40 125 1,000 万円以下 40 125 1,000 万円超 50 225 1,500 万円以下 45 175 3,000 万円以下 50 250 4,500 万円超 55 400 5
4. 相続時精算課税制度の適用要件の見直し (1) の相続時精算課税制度の適用要件 相続時精算課税制度とは 65 歳以上の親から 20 歳以上の子に対して行う生前贈与で その 際に納めた贈与税を 親が亡くなった際に納める相続税額から控除するというものです この 相続時精算課税制度の贈与税の特別控除 ( 非課税枠 ) は 2,500 万円とされています 適用対象者 贈与者は満 65 歳以上の親 受贈者は満 20 歳以上の子である推定相続人 贈与税額 ( 贈与を受けた財産の価額 -2,500 万円 ) 20%( 一律 ) (2) 平成 27 年からの相続時精算課税制度の適用要件若年世代への資産の早期移転を促進する観点から 相続時精算課税制度について 受贈者に 20 歳以上の孫 ( 20 歳以上の子である推定相続人のみ ) を追加するとともに 贈与者の年齢要件を 60 歳以上 ( 65 歳以上 ) に引き下げることとされます 平成 27 年から 受贈者 20 歳以上の子である推定相続人 20 歳以上の子である推定相続人または 20 歳以上の孫 贈与者 65 歳以上の親 ( 父または母 ) 60 歳以上の 2 親等以内の直系尊属 ( 父母または祖父母 ) 6
5. 小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例の見直し 小規模宅地等の相続税の課税価格算入額の計算式 ( 特例適用による減額 ) 小規模宅地等の特例適用宅地の相続税評価額 200 m2 ( または 240 m2 400 m2 ) までの部分の特例適用対象宅地面積 = 宅地の通常の -A 評価額 (A) その宅地の面積 減額割合 利用形態別の減額割合及び特例対象面積 宅地等上限面積軽減割合 事業用 居住用 事業継続 400 m2 80% 不動産貸付 200 m2 50% 居住継続 240 m2 80% 居住用宅地の適用対象面積の見直し 特定居住用宅地等に係る特例の適用対象面積を 330 m2 ( 240 m2 ) までの部分に拡充しま す 改正案 上限 240 m2 330 m2 減額割合 上限面積 H27.1 以降 特定居住用宅地 80% 240 m2 特定事業用宅地 80% 400 m2 不動産貸付用宅地 50% 200 m2 330 m2 変わらず 変わらず 7
Ⅱ 使いやすくなった相続時精算課税制度を利用する 20 歳以上の子が 65 歳以上の親 ( 父又は母 ) から受ける贈与について 贈与時に軽減された贈 与税を納付し 相続時に相続税で精算する制度が 暦年課税による従来の制度との選択性です 平成 27 年からは親だけでなく 祖父母からの贈与にも適用されます ( 贈与者 ) ( 受贈者 ) 65 歳以上の 20 歳以上の 親 子 ( 課税の仕方 ) 従来の贈与税制度 相続時精算課税制度 なお 贈与時の非課税枠は 累積で 2,500 万円を限度として 複数年にわたって使用すること ができます また 非課税枠を超える部分については 一律 20% ので課税されます 注意点!! 贈与者 受贈者の年齢は 贈与を受けた年の 1 月 1 日の満年齢により判定します 相続時精算課税制度 を選択した場合の税額の求め方 贈与時の税額計算 贈与財産 の合計額 2,500 万円 - 20% = 贈与税 ( 非課税枠 ) (1) 住宅取得資金贈与に係る相続時精算課税制度住宅の取得又は増改築に充てる資金を贈与により取得した場合には 65 歳未満の親 ( 父又は母 ) からの贈与についても 相続時精算課税制度を選択できる特例があります なお この場合の非課税枠は 2,500 万円に 1,000 万円 ( 省エネ等住宅 その他は 500 万円 ) を上乗せした 3,500 万円とされています 相続時精算課税制度 一般の場合 と 住宅取得資金贈与の場合 の比較 相続時精算課税制度一般の場合住宅取得資金贈与の場合 年齢制限 贈与者 65 歳以上の親親 ( 年齢制限なし ) 受贈者 20 歳以上の子 非課税枠 2,500 万円 3,500 万円 ( または 3,000 万円 ) 適用期間恒久的措置平成 26 年中 8
Ⅲ 今後の資産運用と相続税対策 (1) アパートを建てると なぜ相続税対策になるのか相続税額を減らすポイントは 相続財産を減らすことですが 相続財産の量を減らすことができないのであれば その評価額を引き下げる方法を考えることです そうすれば 相続財産の価格は減少します あるいは 借入金などの債務を増やして 全体として債務控除を利用して 相続財産を減少させることができます この両方のメリットを活かした方法が アパート経営なのです ( 対策 ) ( その結果 ) ( そのメリット ) アパート経営 1 財産の評価額が下がる 2 借入金などで債務が増加する 相続財産が少なくなる 土地は 有効利用しないと 相続税をはじめ 固定資産税や都市計画税などの税負担に耐え られなくなります 将来も 遊休地のままで持ちつづけるのであれば 今 いくら安くても 売却した方が次世代のためになります 財産は 活用できてこそ価値がでるものです 1 アパートを建てると 評価額が下がる訳は? 土地は 遊休地としてそのままにしておくより アパートなどを建てて利用する方が相続評価額が下がります その訳は その土地が 貸し家建付地 となるためで 更地としての評価額から 借地権割合 借家権割合 賃貸割合 が差し引かれるからです 土地は 都会地の場合 一般に 路線価 で評価されますが 建物の場合は 市役所などが発行する 固定資産税評価額 を基本にして評価します 通常 固定資産税評価額 は 実際にかかった建築代金の 60% くらいが目安になります さらに この建物をアパートや貸家にすると 貸家評価 になり 自家用家屋の評価額より 借家権割合 賃貸割合 のぶんだけ評価額が下がります アパートやその敷地を相続した場合の相続評価の仕方 ( 区分 ) アパート ( 貸家 ) 固定資産 税額評価 1.0 = 借家権 賃貸 アパートやマン 1 - ションは 通常 割合 割合 100% 貸家建付地 自用地の 評価額 借家権借家権賃貸アパートやマン 1- ションは 通常割合割合割合 100% 9
コラム 借地権割合 借家権割合 賃貸割合 とは? 借地権割合 地域によってまちまち だいたい 50%~70% が目安 借家権割合 通常 30% 賃貸割合 相続時に賃貸されている各独立部分の床面積の合計 その家屋の各独立部分の床面積の合計 2 アパートを建てると相続税対策になる理由このように 遊休地にアパートを建てると 土地 建物ともに 相続税評価額が引き下げられますので それだけ相続財産の評価額が引き下げることになります したがって 土地を有効に活用した上 なおかつ 相続財産の評価額を引き下げる効果もあるわけです 3 アパートを建てると どれだけ評価額が下がるか 評価額 1 億円の遊休地にアパートを建てると? 路線価評価額 1 億円の遊休地を所有 この土地に 1 億 5,000 万円のアパートを 自己資金 1,000 万円 銀行からの借入金 1 億 4,000 万円で建てると? ( 遊休地 ) 建築代金 1 億 5000 万円 1 億円貸家建付地 借地権割合 60% 借地権割合 30% 賃貸割合 100% アパートの固定資産税評価額 9,000 万円 (=1 億 5,000 万円 60%) 計算 ( 区 分 ) 1 建物 ( アパート ) の相続税評価額 ( 固定資産税評価額 ) ( 借家権割合 )( 賃借割合 ) ( 相続税評価額 ) 9,000 万円 (1-30% 100%) =6,300 万円 アパート 2 土地 ( 貸家建付地 ) の相続税評価額 ( 路線価 ) ( 借地権割合 )( 借家権割合 )( 賃貸割合 ) 土地 +)1 億円 (1-60% 30% 100%)=8,200 万円 =1 億 4,500 万円 3 差引課税価格 銀行からの借入金を債務控除する (1+2) ( 銀行からの借入金 ) ( 差引課税価格 ) 1 億 4,500 万円 - 1 億 4,000 万円 = 500 万円 10
計算結果の判定メリット : 何もしないでおくと 1 億円の評価であった財産が なんと 500 万円になります これでおわかりのように アパートを建てるということは 土地の評価減を行うための最も有効な手段だといえます デメリット : このデメリットは たった一つです 銀行借入金を返せるだけの家賃収入が見込めるかどうかということです もっとも 借入金によらず 自前の資金でアパートを建てるなら リスクはありません ただし 借入金で建てようが 自前の資金で建てようが 相続税対策の効果は変わりません (2) 固定資産税 都市計画税対策にもなるアパート経営 1 固定資産税の課税方法は 固定資産税は 毎年 1 月 1 日現在の土地や家屋を持っている人に対して課税されます は 1.4% で 土地や家屋の毎年の固定資産税評価額に対して課税されます ただし 市街地区域内の土地や家屋には 別途 0.3% を上限とする都市計画税が課税され 固定資産税と併せて納めることになっています ( 税額 ) 固定資産税 ( 課税標準 ) = 固定資産税評価額 ( 標準 ) 1.4%( 最高 2.1%) 土地の固定資産税は 3 年毎に評価の見直しが行われますが 宅地の評価は その宅地が住宅用地かそうでないかによって 大きく税負担が異なります 住宅用地は わかりやすくいえば その土地の上に家を建てて 誰かが住めば その土地は 住宅用地 になります 一戸建て住宅はもちろんのこと 分譲マンションの敷地やアパート 寮や社宅の敷地も住宅用地になります 住宅用地は 固定資産税が減額される!! 住宅用地には 更に税額が下がる課税標準の特例が設けられています 区分税額の軽減額 固定資産税 6 分の 1 に軽減 11 戸当り 200 m2以下の小規模な住宅用地 都市計画税 3 分の 1 に軽減 固定資産税 3 分の 1 に軽減 21 戸当り 200 m2を超える一般の住宅用地の場合 都市計画税 3 分の 2 に軽減 家屋の床面積の 10 倍までが限度 11
例えば 1,000 m2の土地に 6 室のアパートを建てると? 1,000 m2の土地に 6 室のアパートを建てると 1 戸当り床面積が 200 m2以下の敷地だから 1,000 m2 6 室 =166.67 m2<200 m2敷地全体の固定資産税は 6 分の1になる 2 相続時精算課税制度の応用 ( 賃貸住宅を建てて生前贈与を考える ) 相続税対策の必要性にせまられている資産家の A(67 才 ) は以下の所有地に 8,000 万円 の賃貸住宅を建設して長男の B(35 才 ) に相続時精算課税制度を利用して生前贈与をすす められています どのようなしくみなのか教えて下さい アパート 1 億円 (300 m2 ) 土地の相続税評価額 1 億円 (300 m2 ) 建物価額 8,000 万円 ( 全額 預金取崩し ) 借地権割合 60% 借家権割合 30% 賃貸割合 100% A 氏は 67 才で相続税対策をする年ではまだ余裕があります また 8,000 万円のアパート建設 資金も銀行借入金に頼らず 自己資金で調達出来るということから相続時精算課税を選択する と有利になると考えられます (1) 従来からのオーソドックスな手法遊休地にアパートを建てると 土地 建物ともに 相続税評価額が引き下げられますので それだけ相続財産が減少することになります したがって 土地を有効活用した上 相続税対策 固定資産税対策にも効果があるわけです 土地は 遊休地としてそのままにしておくより アパートなどを建てて利用するとなぜ相続税評価額が下がるのかといえば その土地が遊休地から 貸家建付地 となるためで 更地としての評価額から 借地権割合 借家権割合 賃貸割合 が差し引かれるからです 土地は 都市周辺の場合 一般に 路線価 で評価されますが 建物の場合は 市役所などが発行する 固定資産税評価額 を基本にして評価します 通常 建物の 固定資産税評価額 は実際にかかった建築代金の 60% くらいが目安になります さらに この建物をアパートや貸家にすると 貸家評価 になり 自家用家屋の評価額より 借家権割合 賃貸割合 の分だけ評価額が下がります 12
次のようになります アパートやその敷地を相続した場合の財産評価方法 アパートアパート ( 貸家 ) 貸家建付地 評価額 = 建物の固定資産税評価額 (1- 借家権割合 賃貸割合 ( 通常は 100%)) 評価額 = 自用地の評価額 (1- 借地権割合 借家権割合 賃貸割合 ( 通常は 100%)) 設例では次のようになります アパート 8,000 万円 建物 ( アパート ) の相続税評価額 ( 固定資産税評価額 ) ( 借家権割合 )( 賃貸割合 ) ( 相続税評価額 ) 8,000 万円 0.6 (1-30% 100%)= 3,360 万円 自用地価額 1 億円 土地 ( 貸家建付地 ) の相続税評価額 ( 路線価 ) ( 借地権割合 )( 借家権割合 )( 賃貸割合 ) ( 相続税評価額 ) 1 億円 (1-60% 30% 100%)= 8,200 万円 上記のようにアパートを経営してまもなく相続が発生すると 更地 1 億円 建物 3,360 万円 ( 貸家評価 ) アパート 土地 8,200 万円 ( 貸家建付地 ) 借入金又は 預金の減少 8,000 万円 3,560 万円 このように 遊休地 更地のままで保有していると 相続税評価額 1 億円であったものが 8,000 万円のアパートを建てることによって 3,560 万円の相続税評価額になり 何と 6,500 万円もの評価差額が生じます 但し アパート建設後 ほどなく相続が発生するとは限りません もしこのアパートの収益が良く オーナーが 20 年も 30 年も長生きしたらどうでしょうか アパートから生じる収益は全てオーナーのものとなり 相続税対策どころか逆に新たな相続財産を創ってしまうことにもなりかねません (2) 相続時精算課税制度を使ったアパート建設 前述のような 8,000 万円のアパートを建設して アパートが貸家に該当することになれば その建物のみを子 (20 才以上 ) に相続時精算課税制度を選択して贈与します 13
アパート 親 アパート 子 親 親 相続時精算課税制度を選択した子が納める贈与税額の計算 ( 建築価額 ) ( 借家権割合 )( 賃貸割合 )( アパート ( 貸家 ) の相続税評価額 ) 8,000 万円 0.6 (1-30% 100%)= 3,360 万円 固定資産税評価額 ( 特別控除 ) 3,360 万円 - 2,500 万円 = 860 万円 ( 贈与 )( 納める贈与税額 ) 860 万円 20% = 172 万円 この計算のように親が 8,000 万円で建てたアパートを子が 172 万円の贈与税を納めるだけで子の所有建物になります その後 親との間で子が地代を払わない土地の使用貸借契約書 ( 但し 土地の固定資産税は負担 ) を締結することになります 設例では建物のみの贈与になっていますが その敷地の贈与も可能です ただ地価下落傾向が続いている間は控えた方が得です 贈与時点の時価で相続財産に取り入れられるからです いずれにしても わずかな贈与税を支払うことにより 1 贈与以降 アパートの家賃収入は全て子のものになり 親への蓄積を止めることができる 2 子は家賃収入を貯めることによって 相続税の納税資金の確保ができる (3) 賃貸住宅を建てて子に贈与する時の注意点 1 建物完成後すぐ実行しないあくまでも親の名義で登記完了後 入居者が生活しアパート経営事業を開始してからの建物贈与にしないと 建設資金の贈与とみなされる恐れがあります 2 負担付贈与にしないこと設例では 自己資金で賃貸住宅の建設を行うということで問題がありませんが 全額あるいは一部 借入金によっている場合に気を付けねばならないのは 借入金を子に負担させてはいけません 負担付贈与があった場合には 贈与された財産の評価額から 負担額を差し引いた価額に相当する財産の贈与があったものとして取扱われます この場合 不動産等を負担付贈与により取得した場合には その財産は相続税評価額には 14
よらず その取得時における通常の取引価額 ( 時価 ) によって評価することとされています 設例のように建築してまもなく贈与したのであれば その建築価額が通常の取引価額ということになります 以上のことから もし建築資金の一部を借入金によっているなら 借入金はあくまでも親の債務として残すこと 又 当該建物に担保等が付されているなら 担保の付け替えも考えるべきでしょう 次に入居者から預っている敷金 保証金です 敷金 保証金は契約解約等の際には返金しなければなりませんから家主からすれば債務です これを子に建物を贈与する際 引き継がせると負担付贈与に該当する恐れがあります したがって 贈与時に精算してしまうか 当初の入居者からは 敷金 保証金をとらないか 何らかの方法を考えなくてはなりません (4) 相続時精算課税制度のメリット デメリット [ メリット ] 1 将来値上がりする財産を贈与した場合相続時精算課税制度は 生前贈与した時点の時価が相続税を精算する際に取り込まれます したがって贈与時点より相続時点の方が値上がった場合でも 贈与時点の時価で相続税が計算される 2 オーナー会社の持株贈与による移転贈与税が高いので親の持株が相続時まで譲れない そのため高齢オーナーに代わって 子が実質経営者であるにもかかわらず 保有株式なきオーナー経営者である場合が多い ところが相続時精算課税制度を利用すれば 20% の生前贈与の概算払いだけで 社会的にも実質オーナー経営者として地位を高めることが出来 配当の受取りも親でなく子に入るようになる 3 収益物件を生前贈与することによって親の財産形成を阻止することができる収益が期待できる財産を いつまでも親の元に存置しておくと 親の財産がそれだけ増大し 親の所得税 地方税も累進課税で負担がふくらむ それを生前に子に移転しておくことで 親にたまる財産が子に行くので相続税対策になる 4 相続税があまり心配でない人も利用できる住宅取得資金贈与の相続時精算課税制度では従来の贈与額 550 万円に比べて 3,500 万円という非課税枠を使うことによって 子が住宅ローンを負担することなくマイホームを取得することができ ゆとりある生活がエンジョイできる 5 遺産分割で紛争が生じないようにできる遺言書を書くという以外に 死後の自分表示ができなかったのに比べ 20% の相続税の前払いをすることによって 親が生きている間に 子に財産分割ができる 15
[ デメリット ] 1 生前贈与した財産が値下がったとき贈与時の時価が高い自社株 仮に評価が 5 億円の株式を 1 億円の贈与税を払って子に贈与したとします しかし何年後かに贈与者である親が亡くなった時点では 世の中も変わり その会社は債務超過で明日でも倒産しかねなく株価評価がゼロになっている場合でも 相続財産に合算する自社株は 5 億円です 会社がなくなってしまっても 5 億円プラスされ 納税資金にも問題が生じることになります 2 生前に財産を贈与してほしいと要求される従来は贈与税負担が大きいので 子が親に生前もっとくれと要求することが少なかったのですが 贈与税も 20% となると 生前に親から 10 億円贈与を受けるのに そのうち 2 億円現金で受け取ることによって 納税の心配はいりません 不肖の子供を持つ親にとって悩みが増えるかもしれません さらには兄弟姉妹間で 生前贈与の分どり合戦が繰り広がる恐れがあり 親の死後 相続財産でもめたのが 生前でもめるようになる危険があります 3 基礎控除 ( 毎年 110 万円 ) を放棄することになる従来の贈与税は受贈者 1 人 1 年間に 110 万円の基礎控除があります 相続時精算課税制度は 2,500 万円の特別控除がありますが 相続時には生前贈与分の財産は贈与時の時価で相続財産に合算されます しかし生前に受けた 2,500 万円の特別控除はなくなり 5,000 万円 + 1,000 万円 法定相続人数の相続税の基礎控除だけとなります ところが従来の贈与税を適用すると 相続発生前 3 年以内の贈与は別にして毎年 110 万円の基礎控除を有効に使い切ることになります 従来の贈与税のは 10%~50% の累進ですが 基礎控除後 200 万円までのは 10% です 例えば 310 万円を贈与すると 310 万円 -110 万円 =200 万円 200 万円 10%=20 万円となり 310 万円の贈与で 20 万円の贈与税となります 仮に子や孫あわせて年間 10 人に計 3,100 万円の贈与をすると 200 万円の贈与税になり それを 10 年間続けると 3 億 1,000 万円贈与して贈与税額は累計で 2,000 万円となります からすると 6% 強で済むことになり 相続時には合算されません つまり毎年 1 人 110 万円の基礎控除もバカにならないということです 4 新制度下の贈与財産は物納できない従来の贈与制度では 相続開始 3 年以内の贈与財産は相続財産に加算されますが 物納の申請は可能です また その贈与財産により取得した財産も物納対象となります しかし 相続時精算課税制度で生前贈与した財産は 贈与時の時価で相続財産に合算されますが 物納の対象とはなり得ません 16