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ったからである デジタルコヒーレント技術は 前述の伝送信号に対応するため非常に複雑化しデジタル信号処理量は増大の一途を辿っている 我々は この増大した負荷を軽減できることも視野に含め 光の位相を制御することで様々に多様化した光伝送信号をホモダイン検波する研究を行っている 水鳥明 ( Akira MIZUTORI ) 大分大学理工学部創生工学科助教 (Research Associate, Faculty of Science and Technology, Oita University) 電子情報通信学会正員日本音響学会正員 受賞 : 電子情報通信学会通信ソサイエティ論文賞 (2012 年 ) 研究専門分野 : 光通信システムデジタル信号処理 あらまし 光通信における伝送容量の拡大は 急務の 課題となっている その一解決法である稠密波長多重 伝送方式は 周波数利用効率を格段に上げる 本稿で は 光の位相同期制御という観点から稠密波長多重さ れた信号をホモダイン検波することを試みた ナイキ ストフィルタリングは シンボルレート周波数と同等 な帯域幅に信号帯域を抑圧できる これにより ガー ド帯域幅 ( 隣接チャネルとの混信を防ぐための余白帯 域 ) を 0Hz に設定した 3 波稠密配置の信号光を作り送 信する 受信側でこの中央の信号光をホモダイン検波 することに成功した 同時に隣接するキャリアの信号 に対しても周波数推定することなく簡単なデジタル処 理で信号を再生できた これまでに BPSK 信号に対し受信信号の位相を 2 倍する回路を使った COSTAS ループによるホモダイン検波に成功し その後位相 4 倍回路へと進展させ QPSK や 16QAM 信号の光ホモダイン検波へと進めてきた [1]-[3] さらに 偏波多重 QPSK 信号においても X-Y のいずれかの偏波信号に対して検波することで 他方の偏波も位相同期していることを検証した [4] 本稿では 波長多重された QPSK 信号に対してもホモダイン検波が可能であることを検証したので ご報告する 2. ナイキストフィルタと波長多重ナイキストフィルタは デジタル信号処理で実現される FIR(Finite Impulse Response) である その特徴は大きく 2 点ある ひとつ目は その周波数帯域にあり 任意の遮断周波数で急峻に遮断できることである デジタル信号を矩形波で伝送すると シンボルレート周波数の数倍の高調波が発生し 隣接チャネルへのクロストークとなる このため 波長間隔をシンボルレート周波数の数倍程度にしなければならない しかし ナイキストフィルタを通した波形で伝送すれば 高調 1. 研究の目的 背景近年 増大するインターネットトラヒックに対し 光通信の伝送容量増大が求められている この要求に応えるべく 位相変調による BPSK から QPSK さらに直交ベクトル変調による多値化や偏波多重 波長多重など 様々な伝送容量増大のための方式が研究されている そして これらの方式で伝送された光信号を受信することを可能にしたデジタルコヒーレント技術の発展が全てを支えている なぜなら 無線通信で行 われているホモダイン検波技術を光に応用することが 非常に困難であり 光の位相を制御することが困難だ 図 1. ナイキストフィルタの周波数特性 1 TELECOM FRONTIER No104 2019 SUMMER

波は発生せず波長間隔を大幅に狭めることが可能になる 結果として 稠密配置が可能となる 本研究では 波長間隔をシンボルレート周波数にまで縮めて実証を行った 図 1 に ナイキストフィルタによる周波数特 性を示す 図中の横軸は シンボルレート周波数 f sym で規格化された周波数であり縦軸はゲインである ロールオフ率 b=0.1 のときチャネル 0( 黒線 ) と隣接チャネル 1( 赤線 ) を示している チャネル 0 のキャリア周波数を基準 ( 横軸 =0) とすれば チャネル 1 のキャリア周波数はキャリア間隔 ( 横軸 =1 に相当 ) を隔てている ふたつ目は 時間領域での符号間干渉が原理的にないことである 図 2 にアイパターンを示す 図 2(a) は 通常の矩形波でのアイパターンであり 図 2(b) がナイキストフィルタを通した擬似ランダム波形のアイパターンである 通常のアイパターンとは異なり 1 シンボル周期の中央 1 点でのみ全ての信号が +1 か-1 を通過している このように 符号間干渉のない信号を生成できる 3. 稠密波長多重信号同期検波の実証 3.1 実験系の構成実験系の構成図を図 3 に示す 送信側では 3 基の半導体レーザを用いてキャリア光を発生し稠密波長多 図 2. アイパターン比較重を行う この 3 基の半導体レーザは 光周波数コム基準 OFCR *1 ( 中心波長 1552.52nm コム間隔 2.5GHz) にヘテロダイン位相同期させ 周波数 位相ともに変動しないようにしてある これにより 波長間隔は 2.5GHz としている 各キャリア光に対し 異なるベクトル変調器により光 QPSK 変調を施す このとき シンボルレート周波数は 2.5GHz としている すなわち 隣接するチャネル間に隙間はなく ガード帯域幅は 0Hz である 従って ナイキストフィルタのロールオフ率が隣接チャネルへのクロストークになる条件で検証している 送信時に隣接チャネル へ (to) のクロストークを少なくすために ナイキストフィルタリングを施すが 受信時にも隣接チャネル から (from) のクロストークを遮断するためにフィルタリングしたい しかし 図 3. 光稠密波長多重通信実験系構成図 2 TELECOM FRONTIER No104 2019 SUMMER

符号間干渉が発生しない特徴は ナイキストフィルタを 1 回通したときだけであり 2 回通すことはできない 2 回通すことは 逆に符号間干渉を発生させることになる このため 通常は図 4 に示すようなルートナイキストフィルタを用いる ルートナイキストフィルタは 2 回使用することでナイキストフィルタと同等の役目を果たす 図 4(a) に示すように 通常のナイキストフィルタで送信し 受信側で何も施さなければ 隣接の信号も混入してしまうが 図 4(b) のように ルートナイキストフィルタを送受信の双方で使用することにより 所望のチャネルの信号のみを取り出すことが可能となる ルートナイキストフィルタリングもデジタル信号処理により可能ではあるが ホモダイン検波系の COSTAS ループ内にはリアルタイム処理で無いため使用できない 受信系は 局発光レーザとレシーバモジュール IRM( 光 90 度ハイブリッド回路と差動ホトダイオード アンプから成る ) 低域遮断フィルタ 位相 4 倍回路 (Phase Quadruple circuit) とループフィルタで構成される ホモダイン検波後の受信信号としては IRM の出力 I, Q 信号を分岐してオシロスコープで観測したデータを使用する 一方 COSTAS ループは この IRM の出力信号をマイクロストリップラインで基板上に構成した楕円フィルタに通す この楕円フィルタは ナイキストフィルタの代替としての低域遮断フィルタである その後 位相 4 倍回路で位相誤差信号に変換し ループフィルタを通して局発光源レーザにフィードバックする構成になっている COSTAS ループによるホモダイン位相同期達成後に IRM から分岐した出力信号をデジタルオシロスコープにより観測したものを用いて オフラインでデジタル信号処理する 図 5 に示すように デジタル信号処理は 2 段階に構成されている 第 1 段階を図 5(a) に示す 観測したデータは 3 分岐され 一つは周波数オフセットを与えずにルートナイキストフィルタに通される ( 図中の中段 ) これにより 中央のチャネル信号が抽出される 並行して +2.5GHz, -2.5GHz の周波数オフセットを与えた後にルートナイキストフィルタリングすることで 隣接チャネル信号を各々抽出できる 第 2 段階では 図 5(b) に示す処理で通常のデジタルコ ヒーレント処理であり ダウンサンプリング 周波数オフセット推定 & 補正 位相オフセット推定 & 補正を行うという構成になる 図 4. ルートナイキストフィルタ図 5. ホモダイン検波後のデジタル信号処理 3.2 実験条件波長多重数は 3 波長とし 波長間隔は 2.5GHz である 変調方式は 3 波ともに 2.5GSymbol/s の QPSK である 従って 3 波合わせて 15Gbit/s の伝送を 7.5GHz の帯域を使って行う実験となる ベクトル変調器に入力する変調信号は I, Q ともに異なる系列の擬似乱数 (I は 13 次 Q は 11 次の PRBS 系列 ) のインパルス列をルートナイキストフィルタリングして 予め計算して作成しておく 使用するロールオフ率は b=0.01~1.0 の 11 パターンを用意した この信号を任意波形発生装置 (AWG:Arbitrary Waveform Generator) から出力し 分岐 遅延 増幅して 3 台のベクトル変調器を駆動する 各変調器への信号は いずれも数シンボル分 (12.5Symbol/m) の遅延が与えられており 相関が無いように設定されている 3 TELECOM FRONTIER No104 2019 SUMMER

使用する AWG の最大サンプリング周波数は 16GSample/s であったが OFCR のコム間隔 2.5GHz の最大整数倍 (6 倍とした ) である 15GSample/s とした ゆえに 信号は 6Sample/Symbol 2.5GSymbol/s である さらに 3 つの変調信号光は その光強度が等しく成るように合波されて送信される 受信側では 受信信号光と局発光が IRM に入力され電気信号に変換される IRM の帯域は 40GHz である 従って 3 波長の信号は同時に全て観測される IRM 出力で分岐された一方は オフラインでデジタル処理するための観測信号としてオシロスコープにより 100GHz でサンプリングされる 他方では ホモダイン検波のために遮断周波数 1.45GHz の楕円フィルタを通って位相 4 倍回路へ行き 位相誤差信号が出力される. 位相 4 倍回路を構成する IC 群は いずれも帯域 20GHz で動作する 得られた位相誤差信号は ループフィルタを通して局発光の注入電流源に直接フィードバックされ局発光を制御する 位相同期後には 先のオシロスコープで観測したデータを 100GHz から 15GHz へとダウンサンプリングしてから図 5 に示したデジタル信号処理を行う 図 6. 位相同期後のコンステレーションマップ上段 : チャネル分離後下段 : デジタル処理後いずれもロールオフ率 b = 0.02 図 6 下段のデジタル処理後の結果から いずれも周波数オフセット推定値は 0Hz となっており 位相オフセットのみが補正されていた 次に ロールオフ率による影響を図 7, 8 に示す 3.3 実験結果ロールオフ率 b=0.01~1.0 の全てのパターンに対して位相同期は達成された 位相同期後に観測したデータから 既知の周波数シフトとルートナイキストフィルタリング ( 図 5(a) に示した方法 ) で処理した結果を図 6 上段に その他のデジタル信号処理 ( 図 5(b) の処理 ) の結果を図 6 下段に示す 左から周波数オフセット (a)-2.5ghz,(b) 0GHz,(c)+2.5GHz であり 横軸に I 信号 縦軸に Q 信号を取り コンステレーションマップにした 上段はダウンサンプリング前のデータであり 信号の遷移状態まで見ることができる 影の濃い部分が符号点になる また 周波数オフセット推定 位相オフセット推定もしていないが (b) の位相同期させたキャリアの信号に対して周波数も位相もオフセットは無いと判断できる 周波数や位相が同期していないときは 影が同心円状に見える しかし (a)(c) の隣接キャリアの信号に対しては 周波数オフセットは見られないが 位相オフセットは明らかに存在する 図 7. ロールオフ率 b とコンステレーションマップ 図 8. ロールオフ率 b に対する Q 値 4 TELECOM FRONTIER No104 2019 SUMMER

いずれも位相同期をかけた中央のキャリア信号のみの結果である 図 7 は ロールオフ率 b=0.02,0.10,1.0 の場合を図 6 と同じくコンステレーションマップで示した ロールオフ率が大きくなるほど符号点の広がりが大きくなり 最大のb =1 のときは その広がりが隣接符号と重なっている 図 8 に 分布の広がりを統計処理により算出した Q 値 (Quality factor) を縦軸にロールオフ率 b を横軸 ( 対数軸 ) にして示す 直線近似線 ( 図中点線 ) で示しているように ロールオフ率 b を小さくするほど Q 値は大きくなる 今回の実験では b=0.02 で Q=21.3dB を達成した b が小さいほど帯域制限が厳しくなり 結果としてクロストークが小さくなるため Q 値が大きくなった しかしながら b=0.0 は FIR フィルタのタップ数が無限大になり 理論的に実現不可能である また b=0.01 においても すでに限界に近い なぜなら 図 2(b) に示したナイキストフィルタリング波形のアイパターンから符号点を通過する際の傾きが急峻に成るためである これは ダウンサンプリング時のわずかなタイミングのずれが符号点をずらすことになるからである 4. まとめ本稿では 3 波稠密波長多重信号に対してホモダイン検波できることを実証した ナイキストフィルタリングにより 急峻に帯域制限された信号であってもホモダイン検波できたことの意義は大きい また 周波数オフセット推定の必要も無く 受信側で中央チャネルに位相同期しただけで簡単に両側の隣接チャネル信号をも検出できた これは 送信側の各キャリアが光周波数コム基準 OFCR にロックしていることが大きな要因になっている おわりに本研究を精力的に推し進めてこられ本課題の責任者でもあった故古賀正文先生に深謝致しますとともに ご冥福をお祈り致します また これまで古賀先生に多くの御協力を頂いた全ての皆様に感謝致します 用語解説 *1 OFCR(Optical frequency Comb Reference): 高精度に安定化された基準光源をもとにコム化したもの参考文献 [1] M. Koga, and A. Mizutori, Decision-Directed Costas Loop Stable Homodyne Detection for 10- Gb/s BPSK Signal Transmission,IEEE Photonics Technology Letters, Vol.26, No.4, PP.319-322, 2014. [2] M.Koga, Y. Shigeta, F. Shirazawa, H. Ohta and A. Mizutori, Costas Loop Homodyne Detection for 20-Gbit/s QPSK Signal on the Optical Frequency Synchronous Network IEEE Journal of Lightwave Technol. JLT-17639-2015. [3] 阿部, 小玉, 水鳥, 古賀,2016 年電子情報通信学会ソサイエティ大会,B-10-25, 北海道,2016 [4] 阿部, 小玉, 水鳥, 古賀,2017 年電子情報通信学会ソサイエティ大会,B-10-27, 東京,2017 関連文献末次, 水鳥, 片山,2019 年電子情報通信学会ソサイエティ大会, 大阪,2019( 投稿済 ) 5. 将来展望これまでに完成されている様々な光通信方式に対して 光位相同期制御という観点からホモダイン検波を実証してきた 今後は 現在もなお研究され続けているスーパーナイキストや直交周波数分割多重 (OFDM) などの方式による光信号に対しても 位相同期検波が可能であることを実証したいと考えている この研究は 平成 27 年度 SCAT 研究助成の対象と して採用され 平成 28~30 年度に実施されたもの です 5 TELECOM FRONTIER No104 2019 SUMMER