食品微生物学 Food Hygiene / Food Sanitation 第 2 章食品の変質 2.2 食品の腐敗 2.3 食品の酸敗 2.4 食品の変質防止 食品微生物学 ( 岸本 ) 1 変質 ( 劣化 ) の 3 要因 1 生物的要因微生物 ねずみ 昆虫など 2 化学的要因酵素 ( 微生物由来 食品由来 ) 脂質の酸化 3 物理的要因 光線 熱による成分の変質 乾燥 凍結による組織破壊 2 1
食品の変質 自己消化食品そのものがもつ酵素で食品中の成分が分解 腐敗タンパク質等が分解され悪臭や有害物質生成 変敗 ( 酸敗 ) 糖質や脂質が変質すること 発酵糖質が分解されアルコールや有機酸が生成 3 食品の変質 可食性を失った状態 微生物作用 / 酵素の作用 / 両者相互の反応 / 色 / 味 / 香り / 外観 / テクスチャーの変化 / ガスの発生 / 有害物質の生成 / 栄養価の低下 / 品質の低下 = 変質 Degeneration 劣化のうち この悪変を劣化といい 通常 くさる という 炭水化物や脂肪が微生物によって分解されて有機酸を産生し酸味や酸臭を呈する変敗 = 酸敗 Rancudity タンパク質などの含窒素成分が微生物の作用で分解され 低分子の悪臭物質 不快あるいは有害物質などを生成する現象 風味が悪くなって 食用に適さない状態になった場合 = 腐敗 Putrefaction = 変敗 Deteriolation 4 2
微生物による変質 食品の変質に関与する微生物は食品の種類 成分 物理的及び化学的性質 温度 水分 ph 酸素量 加工法 保存法によって種類が異なる 5 食品と微生物の関わり 微生物が有害に働く場合 1 生鮮食品やその加工品の腐敗 変敗 2パン, 干物などにおける発黴 3 食品由来の微生物による食中毒など 微生物が有益に働く場合 1 さまざまな微生物を利用した発酵食品 2 微生物タンパクとしての利用など 6 3
腐敗と発酵はどう違う (1) 人間生活に有用な場合 発酵 有害な場合 腐敗腐敗 タンパク質が分解 硫化水素やアンモニアのような 腐敗臭を生成する発酵 糖類が基質となって 乳酸やアルコールなどが 生成されるような場合など 7 腐敗と発酵はどう違う (2) 乳酸菌発酵 ; ヨーグルトや味噌などが製造される場合 腐敗 ; 清酒中で増殖する場合は火落ち バチルス ハムなどの変敗 発酵 ; 納豆を作る発酵菌 腐敗 ; ご飯に生えた場合は腐敗菌 発酵と腐敗という言葉はあくまで人間の価値基準によって便宜的に使い分けられている 8 4
腐敗 腐敗と食中毒はどう違う 食品本来の色や味, 香りなどが損なわれる 食べられなくなる 微生物の種類がとくに限定されない 食品 1g 当たり 10 7 ~10 8 程度の菌数が必要 食べても下痢など特定の症状はみられない 食中毒特定の病原微生物が増殖, または毒素を生産 食べた人に特有の症状を起こす 腐敗を起こさない程度の菌数によっても食中毒は起きる 9 2 2 食品の腐敗 (1) 食品を汚染する微生物の由来 10 5
自然界の微生物 微生物はどこにでもいる 大気中 1m 3 中に数個から数千 土壌中 10 5 ~10 8 個 /g( 10 8 ~10 9 個 /g) 水中 10 3 ~10 4 個 /ml ( 外洋 0.1~10/ml 湖沼 10~ 10 5 個 /ml) ただし VNC(VBNC) 状態の微生物がある! (=Viable but Non-culturable ) 外洋の表層水でも 10 6 個 /ml が蛍光顕微鏡でカウントできる 最近の研究では海洋には 10 29 個の細菌がいて 地球上には 10 30 個の細菌がいるとされている 11 自然界の微生物 動物腸管内微生物 糞便中 10 10 ~10 12 個 /g ノロウイルス腸管出血性大腸菌カンピロバクターウエルシュサルモネラ 12 6
真核微生物 eukaryotic microorganisms 酵母 (yeast) 糸状菌 (filamentous bacterium) (= カビ :mold) ウイルス virus DNA ウイルス ヘルペスウイルス科 : 水痘 帯状疱疹ウイルス RNA ウイルスコロナウイルス科 :SARS ウイルス重症急性呼吸器症候群 :SARS(severe acute respiratory syndrome) レトロウイルス科 : ヒト免疫不全ウイルス (Human immunodeficiency virus, HIV) 後天性免疫不全症候群 ;AIDS(Acquired Immunodefiency Syndeome) オルトミクソウイルス科 : インフルエンザウイルスカリシウイルス科 : ノロウイルス 13 汚染微生物のルーツ 1 家畜, 魚介類, 果実, 野菜などの 生物にもともと付着している一次汚染微生物農畜産食品 : 土壌や空気中および腸内 ( 動物の場合 ) の微生物の影響をうける水産食品 : 水圏や底土, 魚の腸内の微生物の影響を大きく受ける 2 加工流通の過程で二次的に汚染した微生物二次汚染微生物の範囲は特定しにくい加工品の副原料をはじめ, 工場の空気や用水, 製造用機器などのほか, 作業者の衣服や手指などに由来するものも ある 14 7
汚染微生物のルーツ (1) 自然界における分布 大気中 ;1m 3 あたり数個から数千個 土壌中 ;lg 当たり 10 5 ~1O 8 程度の細菌胞子形成細菌であるバチルスや クロストリジウム属の細菌が多い 水中 ; 沿岸域で 10 1 ~10 4 /ml, 外洋で O.1~l0/ml, 河川 湖沼で 10 1 ~10 5 /ml シュードモナス, アルテロモナス, ビブリオなどが大部分で, 低温性のものが多い 15 汚染微生物のルーツ (2) 食品原料における分布 家畜消化管内 : 嫌気性細菌が l0 8 ~10 9 /g, 通性嫌気性菌が 10 6 ~10 8 /g 魚類皮膚 :10 2 ~10 5 /cm 2 10 3 ~10 7 /g( 鯉 ) ( シュードモナス, アルテロモナス, ビブリオ, モラキセラなど ) 魚類消化管 ( 内容物 ):10 3 ~10 8 /g ( ビブリオ, 淡水魚ではアエロモナス クロストリジウムなど ) レタスやキャベツ : 10 4 ~10 7 /g(1~2 葉目 ) キュウリ :10 5 /g, ブドウ :10 5 /g 16 8
汚染微生物のルーツ (3) 調理器具や設備などの付着細菌 1 17 汚染微生物のルーツ (3) 調理器具や設備などの付着細菌 2 18 9
汚染微生物のルーツ (4) 加工工程での汚染 1 19 汚染微生物のルーツ (4) 加工工程での汚染 2 20 10
汚染微生物のルーツ (4) 加工工程での汚染 3 21 汚染微生物のルーツ (5) 食品の微生物汚染の実態 22 11
食品に特有の腐敗細菌 1 23 食品に特有の腐敗細菌 2 24 12
食品の腐敗産物 不要な成分 細胞にとって有害な成分は菌体外へ 微生物の増殖につれて食品中にはこれらの老廃物 が蓄積 タンパク質やアミノ酸 アンモニアやアミン, 硫化水素, インドールなど でんぷんなどの高分子炭水化物 グルコースなどの糖類を経て, 有機酸やアルデヒドなど 海産魚介類に特有な腐敗産物 : トリメチルアミン 海産魚や加工品の腐敗に伴って増える 25 2 2 食品の腐敗 (2) 腐敗による食品成分の変化 26 13
2 2 食品の腐敗 (3) 食品の腐敗判別法 27 初期腐敗の判定は総合的に 1) 官能検査 2) 揮発性塩基窒素 (VBN:volatile basic nitrogen) タンパク質が分解してできるアンモニアやトリメチルアミンなど 鮮魚 5~10mg%: 新鮮 30~40mg% を初期腐敗 (mg%:100 ml 溶液中に含まれる溶質の重量を mg で表わしたもの ) 3) 水素イオン濃度 (ph) 動物性食品 : 低下 上昇 4) 生菌数 10 7 ~10 8 /g で初期腐敗 植物性食品 : 低下 28 14
5)ATP 関連指数としての K 値 ATP:adenosine triphosphate ( アデノシン三リン酸 ) ADP:adenosine diphosphate ( アデノシン二リン酸 ) AMP:adenosine monophosphate ( アデノシン一リン酸 ) IMP: inosine monophosphate ( イノシン酸 ) 魚肉のATPは酵素的に分解されて ATP/ADP/AMP IMP HxR( イノシン ) Hx( ヒポキサンチン ) という順に変化していく この分解の経路はすべての魚で同じであり 一連の反応はIMPの分解速度で左右される K 値 ( モル %)=(HxR+Hx)x100/(ATP+ADP+AMP+IMP+HxR+Hx) K 値は低いほど生鮮度の良いことを意味し 即殺魚では 10% 以下 刺身用には 20% 以下が適当であり 20~60% は調理加工向けの鮮度とされている 29 2 3 油脂の酸敗 (1) 油脂酸敗の促進因子と阻害因子 p,32 表 2-2 (2) 油脂酸敗の判別法 1 酸価 (AV) 2 過酸化物価 (POV) 3カルボニル価 (COV) 30 15
2 4 食品の変質防止 (1) 微生物による食品の腐敗 変敗防止 31 食品の変質の防止 低温貯蔵 ( 冷凍 冷蔵 ) 冷凍温度域 (-2~-20 ) 最大氷結晶生成帯 (-1~-5 ) 冷凍食品貯蔵温度 (-15 以下 : 食品衛生法 ) チルド温度帯 (5~-5 ) 氷温貯蔵温度帯 (-0.1~-3.5 ) 32 16
脱水 ( 乾燥 ) 発育限界水分活性 Aw: 細菌 0.94 ( 好塩菌 0.75) 酵母 0.88 ( 耐浸透圧性酵母 0.61) カビ 0.80 ( 耐乾性カビ 0.65) 自然乾燥 熱風乾燥 噴霧乾燥 凍結乾燥 33 加熱 1 低温殺菌 ( パスツーリゼーション ) 2オートクレーブ ( 高圧滅菌機 ) 3レトルト殺菌 4 間欠殺菌 5 高温短時間殺菌 (HTST) 6 超高温殺菌 (UHT) 34 17
電磁波による殺菌 紫外線 :200~280nm(265nm) に殺菌効果空気中でオゾン 水中で過酸化水素を生成放射線 : 日本では γ 線をジャガイモの発芽抑制目的で使用 くん煙くん煙成分 : フェノール類 アルデヒド類など 真空包装 ガス充填 ( 置換 ) 包装 脱酸素剤封入包装 酸素の除去 油脂 ビタミン等酸化抑制 褐変 変色防止他 マイクロ波加熱による方法 35 浸透圧による方法塩蔵 :10%< 腐敗菌 病原菌の発育が抑制 > 20%< 酵母発育阻止 > 30%< カビ発育阻止 > 糖蔵 :49% 以上 < 細菌の発育阻止 > 食品添加物殺菌料 保存料 防黴剤 酸化防止剤 酸味料など 36 18
2 4 食品の変質防止 (2) 油脂の酸敗防止 1 酸素 2 温度 3 光 4 金属 5 酵素 6 酸化防止剤 7 水分活性 37 19