~ 肺がん ~ ( 内科治療 )
肺がんの疫学 診断と 現在の内科治療 大阪警察病院呼吸器科
肺がんの疫学
肺がんの発症数 胃がんの罹患率は減少傾向 肺がんは増加 厚生労働省 : 人口動態推計より
2009 年度部位別がん死亡率 肺がんは死亡者数も増加 がんの統計 2005 年度版 ( 財団法人がん研究振興財団発行 ) より
肺がんの死亡率の年次的推移 男女ともに肺がんの死亡率は年々増加 厚生労働省 : 人口動態推計より
肺がんによる世界的死亡率の推移 1950 年代から 肺がんは世界的に増加 肺がん死亡率の推移の国際比較 (WHO mortality database; 世界標準人口による年齢調整死亡率 ) 男性女性 100 人口 10 万対 英国 ハンガリー 100 人口 10 万対 死亡率 10 アメリカ フランス韓国香港イタリア スウェーデン 死亡率 10 英国 香港 アメリカハンガリースウェーデン 日本 イタリア フランス 韓国 日本 1 1950 1960 1970 1980 1990 2000 ( 年 ) 1 1950 1960 1970 1980 1990 2000 ( 年 ) 米英はピークを越えたが 日本はこれからがピーク WHO mortality database, http://www.ciesin.org/ic/who/mortalitydatabase.html 7
5 4 喫煙とがんの関係 ' 男性 ( 非喫煙者群のがん罹患リスクを1とした場合の禁煙者群および喫煙者群の相対リスク 4.5 非喫煙者群禁煙者群喫煙者群 3 相対リスク 2 1.4 1.6 2.2 1.6 1.7 1.3 1.4 1 1 1 1 1 0 全がん 肺がん胃がん大腸がん がんの統計 2008 年度版 ( 財団法人がん研究振興財団発行 ) より 8
5 4 喫煙とがんの関係 ' 女性 ( 非喫煙者群のがん罹患リスクを1とした場合の禁煙者群および喫煙者群の相対リスク 3.7 4.2 非喫煙者群禁煙者群喫煙者群 3 相対リスク 2 1 1 1.5 1.5 1 1 0.7 1.3 1 1.3 1.4 1 1.1 1.7 0 全がん 肺がん 胃がん 大腸がん 乳がん がんの統計 2008 年度版 ( 財団法人がん研究振興財団発行 ) より 9
喫煙率と肺癌死亡者数 30 年のタイムラグ 肺がんの死亡率のピークは 30 年遅れてやってくる
禁煙の意義 喫煙と肺がんの因果関係は明らかとされている 喫煙と関係の薄い肺腺がんは治療法が進歩し 予後も改善してきている 一方 喫煙と関係の深い肺扁平上皮がん 小細胞肺がんはこの 20 年間の進歩は乏しい だからこそ 今できる最大の肺がんの予防的治療は禁煙である
肺がんの種類
上葉 右肺 肺の構造と働き 気管主気管支 左肺 上葉 右肺と左肺 葉気管支 中葉 下葉 中葉 上葉 縦隔 上葉 下葉 右肺 左肺 下葉 心臓 気管分岐部 食道 下葉 右肺 上葉 中葉 下葉左肺 上葉 下葉 右肺は上 中 下の3 葉に 左肺は上 下の2 葉に分かれる 肺は胸膜に包まれている 左右の肺の間の空間を縦隔という その中に気管や食道 心臓が位置している 13
気管と気管支 気管支分岐 分岐次元気管 0 1 気管支 2 3 4 気管支の構造 終末細気管支 呼吸細気管支 肺胞道 17 18 19 20 気管や太い気管支の前側壁は馬蹄形の軟骨が存在する 後壁は平滑筋や結合組織からなる 肺胞 23 14
肺がんの発生部位とタイプ がんができた場所による分類 肺門型 ( 中心型 ) 肺の入り口 ( 肺門 ) 近くに発生特徴 : 喫煙との関連が多い血痰が出ることがある このタイプの組織型に多いのは扁平上皮がん小細胞がん 肺野型 ( 末梢型 ) 肺門から遠いところ ( 肺野 ) に発生特徴 : 喫煙との関連が少ない このタイプの組織型に多いのは腺がん大細胞がん 肺の中で心臓に近い部位を肺門部という 心臓より離れた部位は肺野や 末梢肺と呼ばれる
肺がんの分類 組織分類 多く発生する場所 特徴 非小細胞肺がん 腺がん 肺野部 扁平上皮がん肺門部 女性の肺がんで多い症状が出にくい 喫煙との関連が大きい 大細胞がん肺野部増殖が速い 小細胞肺がん小細胞がん 他にも多形がん 神経内分泌がんあり 肺門部 喫煙との関連が大きい転移しやすい
肺がんの検査
肺癌診断の流れ 肺がんの疑い
胸部 X 線検査 利点簡単に行える ( 約 1~2 分程度 ) 頻用されている腫瘍の位置がわかる 欠点ある程度の腫瘍の大きさが必要 約 2cm 以上死角になる部分が存在する 特徴 肺野末梢型肺がんには有用平面的にしか映らないため適切な条件設定が必要読影に経験が必要である 19
正常な胸部 X 線写真 気管 鎖骨 心臓 右の横隔膜 ( この下に肝臓がある )
胸部 CT 検査 ' 胸部 CT スキャン ( 利点死角になる部分が少ない非常に淡い陰影 小型病変も発見可能 CT の撮り方 線源 欠点費用が高く 大掛かりな機器が必要放射線の被曝量が多い ベッドが移動 検出器 特徴 病変の存在診断において 最も有効な検査方法である 特に Multi-detector CT の出現によりさらに高分解能の画像が得られるようになった 21
PET 検査 PET 検査とは 18 F-FDG( ブドウ糖 + 放射能 ) を投与 がん細胞は 正常細胞の 3~8 倍のブドウ糖を消費する がんが存在すると そこに吸収された 18 F-FDG から正常細胞よりもたくさんの放射線が放出されるので これを計測する ただし 正常の脳細胞も多量のブドウ糖を消費するので 正常でも脳からはたくさんの放射線が放出される 脳にも集積が見られる がん細胞に FDG がたくさん集まって がんが光って見える 写真提供 : 東芝メディカルシステムズ株式会社 写真提供 : 医療法人社団ゆうあい会 22
腫瘍マーカー
肺がんの確定診断法
気管支鏡検査 気管支鏡検査では 口や鼻から直径 5mm 程度の内視鏡を挿入して気管 気管支の状態を観察し 検査のための組織や細胞を採取 内視鏡が届く範囲の気管支 ' 肺門部 ( に病変がある場合は直接観察することができる それよりも奥 ' 末梢 ( にある場合には レントゲンで確認しながら 組織や細胞を採取するための器具だけを内視鏡の中をとおして挿入
透視下気管支鏡 2F 透視室での透視下気管支鏡検査 2 階透視室での気管支鏡検査の件数は 平成 24 年度で 305 件 月 火 木曜日に施行
超音波気管支鏡 (EBUS)
胸腔鏡検査 胸腔鏡検査は外科手術の一種で 胸腔鏡や手術器具を入れるために 通常は数 cm の皮膚切開を 3 ヵ所に行う 気管支鏡検査や経皮肺生検で十分な組織が採取できなかった場合や 胸水が溜まっている場合などに行うことがある
経皮肺生検 経皮肺生検では レントゲンや CT で確認しながら 皮膚を通して病変に細い針を刺し 組織を採取する 気管支鏡検査で診断がつかなかった場合や 病変が小さくて気管支鏡検査では組織がうまく採取できない場合などに行われる
肺がんの病期判定
肺癌と診断確定 病期診断 ' 肺がんの広がり具合を調べる (
例 : 腫瘍の大きさ (T 因子 )T1
腫瘍の大きさ (T 因子 )T2a
腫瘍の大きさ (T 因子 )T4
リンパ節転移の範囲 (N 因子 )N1
リンパ節転移の範囲 (N 因子 )N2
リンパ節転移の範囲 (N 因子 )N3
遠隔転移 (M 因子 )
治療方針
肺がんの内科的治療
肺がんの種類によって治療法が変わる 抗がん剤に対する反応性の違いによって がんを以下のように大別する 1. 非小細胞かつ非扁平上皮がん ' 大半が腺がん ( 2. 扁平上皮がん 3. 小細胞肺がん 使用する薬剤や予後が変わってくる
肺がんで用いられる抗がん剤と分子標的製剤一覧 プラチナ製剤 肺がん全種類 シスプラチン プラチナ製剤 肺がん全種類 カルボプラチン 第 3 世代抗がん剤 肺がん全種類 パクリタキセル 第 3 世代抗がん剤 非小細胞肺がん ドセタキセル 第 3 世代抗がん剤 非小細胞肺がん ナベルビン 第 3 世代抗がん剤 非小細胞肺がん ジェムザール 第 3 世代抗がん剤 肺がん全種類 カンプト 第 4 世代抗がん剤 非小細胞肺がん アブラキサン ' 改良パクリタキセル ( その他 小細胞肺がん エトポシド その他 非小細胞肺がん カルセド その他 非小細胞 & 非扁平上皮 アリムタ 経口抗がん剤 非小細胞肺がん UFT' テガフール ウラシル ( 経口抗がん剤 非小細胞肺がん TS-1' テガフール ウラシル ギメラシル ( 分子標的製剤 非小細胞 & 非扁平上皮 イレッサ 分子標的製剤 非小細胞肺がん タルセバ 分子標的製剤 非小細胞 & 非扁平上皮 ザーコリ 分子標的製剤 非小細胞 & 非扁平上皮 アバスチン
肺がんの内科的 ( 薬物 ) 治療 現在 がんで使われる薬物は 大きく抗がん剤と分子標的製剤に分類される 抗がん剤は分裂する勢いが強い細胞を無差別に攻撃 破壊する ' 殺細胞性 ( 分子標的製剤は 細胞の特定の部位に作用し この機能を阻害し 結果としてがん細胞の増殖を阻害する 分子標的製剤には特定の遺伝子変異に対して作用するものがある
進行肺がんの寿命は延びてきている わずか 20 年前 進行 4 期肺がんの 1 年生存率は 30% 程度だった 新規抗がん剤の開発 補助療法の進歩 ' 抗がん剤の副作用を減らして 十分量の投薬ができるようになった ( によって 少しずつ 改善してきた 特に腺がん ' 非小細胞肺がん 非扁平上皮がん ( においては 分子標的製剤の登場と 維持療法の普及によって 長足の進歩を遂げている
進行肺 ( 腺 ) がんの平均生存期間 ( 寿命 ) 1980 年代 BSC 4.5ヶ月 1990 年代抗癌剤 6ヶ月 前半 1990 年代 第三世代抗癌剤登場 11~14ヶ月 後半 2000 年代 EGFR 遺伝子変異陽性症例 24~30ヶ月
ドライバー ミューテーションとは? 肺がん 特に腺がんでは ある種の遺伝子変異の存在ががんの発生と大きくかかわっていることがわかってきた このがん化と深く関わる遺伝子変異のことをドライバー ミューテーションと呼ぶ EGFR 遺伝子変異が存在する肺がんでは イレッサの効果が高いことが判明するなど ドライバー ミューテーションの有無と それに対する治療薬があるかないかで 肺がんの予後は大きく変わった
肺がんのドライバー ミューテーション 腺がん 扁平上皮がん
ドライバー ミューテーションが明らかになり それに対する薬剤が開発された腺がんでは 治療の選択肢が増えている 他方 扁平上皮がんや小細胞肺がんでは選択肢は限定されている
肺腺がんの最近の薬剤 ' 非小細胞 & 非扁平上皮がん (
プラチナ製剤 + アリムタ 現在 肺腺がんの抗がん剤治療にける代表的な標準的治療薬 通常はプラチナ製剤 ' シスプラチンやカルボプラチン ( と併用して 4~6 コース投与する 近年は更にアリムタ単独で 治療効果がある限り投与を続ける 維持療法 が普及しつつある
アバスチン ( 分子標的製剤 ) がん組織では異常血管ができやすい この新生を促す成分の作用を阻害し がんに栄養が送る血管が生まれにくくする薬剤である 遺伝子変異とは直接関係はない がん組織内の血管の構造も変えてしまい 抗がん剤ががん組織に到達しやすくする作用がある だから抗がん剤とアバスチンを併用すると 抗がん剤の効果が高まり がんが縮小しやすくなる
イレッサ & タルセバ ( 分子標的製剤 ) 誰のいうこともきかないぜ!! がん細胞は自分で勝手に増殖して病気を悪化させる 増殖 EGFR: 上皮成長因子受容体 細胞膜 がん細胞の表面には EGFR' 上皮成長因子受容体 ( というタンパク質が発現していることが多く このタンパク質からの信号が細胞内に伝わるとがん細胞が増殖する 癌細胞 イレッサやタルセバはがん細胞を直接攻撃するのではなく この信号の伝達を止 めることで がん細胞の増殖を抑える または がんを小さくする イレッサタルセバ イレッサタルセバ
EGFR 遺伝子変異 肺腺がんの発症には この上皮成長因子受容体 'EGFR( の遺伝子変異が関係していることがある EGFR 遺伝子変異があると イレッサやタルセバの他 抗がん剤治療でも高い有効性が期待される 当院では腺がん症例については 全例 EGFR 遺伝子変異の有無を確認する
ALK 遺伝子変異 腺がんに関わる別の遺伝子変異として ALK 遺伝子変異がある ALK 遺伝子変異があると ザーコリという分子標的製剤の高い有効性が期待される ALK 遺伝子変異と EGFR 遺伝子変異が同時に存在することはほとんどない
ザーコリ ( 分子標的製剤 )
扁平上皮肺がんの 最近の抗がん剤治療
扁平上皮がんの抗がん剤治療 1980 年代 BSC 4.5ヶ月 1990 年代抗癌剤 6ヶ月 前半 1990 年代 第三世代抗癌剤登場 11~14ヶ月 後半 扁平上皮がんの治療の主役はまだ 1990 年代後半の抗がん剤が主体 2000 年代 EGFR 遺伝子変異陽性症例 24~30ヶ月
2000 年代以降に登場した薬 :TS-1 非扁平上皮がん TS-1 という抗癌剤投与で 特に扁平上皮 がんで良好な治療成績が得られた 扁平上皮がん 生存率 ( % ) 100 80 60 40 20 CBDCA/TS-1 15.5 カ月 CBDCA/Paclitaxel OS 中央値 13.9 カ月 00 10 20 30 40 50 経過観察期間 ' 月 ( 100 80 60 40 20 CBDCA/TS-1 CBDCA/Paclitaxel 00 10 20 30 40 50 Journal of Clinical Oncology 29(Suppl; abstr 7552), 2011 OS 中央値 14.0 カ月 10.6 カ月
2000 年代以降に登場した薬肺扁平上皮癌とnab-PTX : アブラキサンパクリタキセルはかつて 肺がん抗がん剤治療で最も使用された薬剤 このパクリタキセルを改良したアブラキサンと パクリタキセルの治療効果を比較した国際的臨床試験が行われた アブラキサン治療群の方が奏効率で大きく上回り '33% vs 25%( 特に扁平上皮がんで有意に高い奏効率を得た'41% vs 24% ( 少しずつだが 扁平上皮がんでも改良は重ねられている
小細胞肺がんの抗がん剤治療
小細胞肺がんの治療 小細胞肺がんは初回治療は強い効果が得られることが多いため 多少 病状が重くても抗がん剤治療を行うことがある このため 抗癌剤が効きやすい というイメージがあるが 再発もしやすい 実質 小細胞肺がんの抗がん剤治療は この 1 0 年間ほとんど進展がない 新規薬剤の開発が望まれる
まとめ この年間で進行肺がんの治療は進歩を遂げてきた 特に分子標的製剤の登場は 一部の症例に限られるものの 劇的な予後の改善をもたらした しかし そうした恩恵を受けられないがんにおいても 従来の治療を工夫して予後の改善を目指していく
終