2018年度税制改正大綱ポイント整理

Similar documents
参考 平成 27 年 11 月 政府税制調査会 経済社会の構造変化を踏まえた税制のあり方に関する論点整理 において示された個人所得課税についての考え方 4 平成 28 年 11 月 14 日 政府税制調査会から 経済社会の構造変化を踏まえた税制のあり方に関する中間報告 が公表され 前記 1 の 配偶

2. 改正の趣旨 背景の等控除は 給与所得控除とは異なり収入が増加しても控除額に上限はなく 年金以外の所得がいくら高くても年金のみで暮らす者と同じ額の控除が受けられるなど 高所得の年金所得者にとって手厚い仕組みとなっている また に係る税制について諸外国は 基本的に 拠出段階 給付段階のいずれかで課

2. 改正の趣旨 背景税制面では 配偶者のパート収入が103 万円を超えても世帯の手取りが逆転しないよう控除額を段階的に減少させる 配偶者特別控除 の導入により 103 万円の壁 は解消されている 他方 企業の配偶者手当の支給基準の援用や心理的な壁として 103 万円の壁 が作用し パート収入を10

平成19年度税制改正.xls

2. 改正の趣旨 背景給与所得控除額の変遷 1 昭和 49 年産業構造が転換し会社員が急速に増加 ( 働き方が変化 ) する中 (1) 実際の勤務関連経費が給与所得控除を上回っても 当時は特定支出控除 ( 昭和 63 年導入 ) がなく 会社員は実際の勤務関連経費がいくら高くても実額控除できなかった

Microsoft Word - ke1106.doc

タイトル

鳩山政権の経済政策の効果

Economic Trends    マクロ経済分析レポート

<4D F736F F D2095BD90AC E937890C590A789FC90B382C98AD682B782E D5F E646F63>

(0830時点)PR版

中小企業の退職金制度への ご提案について

年金繰り下げ受給にも「壁」②

<4D F736F F D2095BD90AC E937890C590A789FC90B382C98AD682B782E D5F E646F63>

改正された事項 ( 平成 23 年 12 月 2 日公布 施行 ) 増税 減税 1. 復興増税 企業関係 法人税額の 10% を 3 年間上乗せ 法人税の臨時増税 復興特別法人税の創設 1 復興特別法人税の内容 a. 納税義務者は? 法人 ( 収益事業を行うなどの人格のない社団等及び法人課税信託の引

2 / 6 不安が生じたため 景気は腰折れをしてしまった 確かに 97 年度は消費増税以外の負担増もあったため 消費増税の影響だけで景気が腰折れしたとは判断できない しかし 前回 2014 年の消費税率 3% の引き上げは それだけで8 兆円以上の負担増になり 家計にも相当大きな負担がのしかかった

PowerPoint プレゼンテーション

税・社会保障等を通じた受益と負担について

<4D F736F F D2095BD90AC E937890C590A789FC90B382C98AD682B782E D5F E646F63>

平成19年度分から

<4D F736F F D2095BD90AC E937890C590A789FC90B382C98AD682B782E D5F E646F63>

第3回税制調査会 総3-2

消費税増税等の家計への影響試算(2018年10月版)

<4D F736F F F696E74202D DB92B789EF8B638E9197BF C CA8F8A8E7B90DD81458DDD91EE B ED2816A817989DB92B789EF8B638CE38A6D92E894C5817A2E707074>

資料9

スライド 1

2018年度税制改正で所得税はどう変わるか

このページを印刷する 2017 年 11 月 23 日森信茂樹 : 中央大学法科大学院教授東京財団上席研究員 副業 兼業の時代 所得税控除見直 し で不公平を正せ 来年度税制改正の作業が 与党税調で始まっている 連日のように改正案の 断片が報道されているが 全体像がいまだよくわからない そこで これ

給与所得控除額の改正前後の比較 改正前 改正後 給与等の収入金額給与所得控除額給与等の収入金額給与所得控除額 180 万円以下 収入金額 40% 65 万円に満たない場合は 65 万円 180 万円以下 収入金額 40%-10 万円 55 万円に満たない場合は 55 万円 180 万円超 360 万

Microsoft PowerPoint - (参考資料1)介護保険サービスに関する消費税の取扱い等について

2017 年度税制改正大綱のポイント ~ 積立 NISA の導入 配偶者控除見直し ~ 大和総研金融調査部研究員是枝俊悟

Microsoft PowerPoint - 問題提起1_日本総研.pptx

配偶者控除の改正で女性の働き方は変わるか

5 配偶者控除等 配偶者控除 配偶者特別控除 扶養控除及び勤労学生控除の合計所得金額の要件 について 一律 10 万円ずつ引き上げられます 6 青色申告特別控除正規の簿記の原則により記帳している者に係る控除額が 55 万円に引き下げられ 正規の簿記の原則により記帳し かつ e5tax 等により確定申

29 歳以下 3~39 歳 4~49 歳 5~59 歳 6~69 歳 7 歳以上 2 万円未満 2 万円以 22 年度 23 年度 24 年度 25 年度 26 年度 27 年度 28 年度 29 年度 21 年度 211 年度 212 年度 213 年度 214 年度 215 年度 216 年度

新旧児童手当、子ども手当と税制改正のQ&A

要件① 雇用者給与等・・・・ (ざっくり) 平成24年度の給与総額と比べて、平成25年以降毎年、一定割合以上給与総額が増えていること。 <雇用者給与等支給額とは> <一定割合とは>

Microsoft Word - N_ 子供手当て.doc

企業中小企(2) 所得拡大促進税制の見直し ( 案 ) 大大企業については 前年度比 以上の賃上げを行う企業に支援を重点化した上で 給与支給総額の前年度からの増加額への支援を拡充します ( 現行制度とあわせて 1) 中小企業については 現行制度を維持しつつ 前年度比 以上の賃上げを行う企業について

図表 1 消費税率引上げに伴う住宅着工の影響 ( 平成 9 年 ) 1995( 平成 7) 年度 1996( 平成 8) 年度 1997( 平成 9) 年度 (4 月 1 日に消費税 (5%) 導入 ) 1998( 平成 10) 年度 住宅着工戸数 前年からの増減 1,485 万戸 - 1,630

< E9197BF88EA8EAE817995F18D D9195DB8E5A92E895FB8EAE8CA992BC82B5816A817A2E786264>

アクタスマネジメントサービス㈱

女性が働きやすい制度等への見直しについて

Microsoft Word - 第53号 相続税、贈与税に関する税制改正大綱の内容

1 検査の背景 (1) 租税特別措置の趣旨及び租税特別措置を取り巻く状況租税特別措置 ( 以下 特別措置 という ) は 租税特別措置法 ( 昭和 32 年法律第 26 号 ) に基づき 特定の個人や企業の税負担を軽減することなどにより 国による特定の政策目的を実現するための特別な政策手段であるとさ

政策課題分析シリーズ16(付注)

2. 改正の趣旨 背景給与所得控除 公的年金等控除から基礎控除へ 10 万円シフトすることにより 配偶者控除等の所得控除について 控除対象となる配偶者や扶養親族の適用範囲に影響を及ぼさないようにするため 各種所得控除の基準となる配偶者や扶養親族の合計所得金額が調整される 具体的には 配偶者控除 配偶

消費税増税等の家計への影響試算(2017年10月版)<訂正版>

所得控除 基礎控除 配偶者控除などの下記の表に記載されたものをいいます それぞれ一定の要件を満たしている場合は 課税所得金額を計算する際に それぞれの控除が受けられます 個人の県民税 個人の市町村民税 12

握の問題 執行面での対応の可能性等を含め様々な角度から総合的に検討する 複数税率の導入について 財源の問題 対象範囲の限定 中小事業者の事務負担等を含め様々な角度から総合的に検討する 施策の実現までの間の暫定的及び臨時的な措置として 簡素な給付措置を実施する つまり 低所得者対策として 給付付き税額

税幅を 1% ずつ小刻みに引き上げるべきであるといった意見も浮上しており 予定通り引上げが実施されるかは 不透明な状況です Q 消費税増税で住宅取得時の税負担は どのくらい増加しますか A そもそも住宅購入にかかる消費税は 土地にはかからず新築物件なら建物部分のみです 仮に図表 1の モデル のよう

第5回基礎問題小委員会 礎5-4

公的年金からの特別徴収制度の見直しについて ( 平成 28 年 10 月以降適用 ) 公的年金からの特別徴収制度の見直しが行われ 平成 28 年 10 月以降に実施 される特別徴収より 下記のとおり制度が改正されました 1 特別徴収税額の算定方法の見直し 年間の公的年金からの特別徴収税額の平準化を図

社会保障・税一体改革による家計への影響試算<改訂版>

< F31322D89FC90B390C C18F578D8692C7985E5B315D2E6A74>

1. 改革の方向性 女性の働き方に中立的な制度整備に当たっては 可処分所得の大幅な減少が生じないよう 負担を最小化 負担増減を円滑化するとともに こうした見直しが 負担増の生じる世帯 個人に ベネフィットとして戻ってくる制度改革とすることが不可欠 改革の進め方についての方針を明示し できるものから早

厚生年金の適用拡大を進めよ|第一生命経済研究所|星野卓也

住宅取得等資金の贈与に係る贈与税の非課税制度の改正

< 参考資料 目次 > 1. 平成 16 年年金制度改正における給付と負担の見直し 1 2. 財政再計算と実績の比較 ( 収支差引残 ) 3 3. 実質的な運用利回り ( 厚生年金 ) の財政再計算と実績の比較 4 4. 厚生年金被保険者数の推移 5 5. 厚生年金保険の適用状況の推移 6 6. 基

法人会の税制改正に関する提言の主な実現事項 ( 速報版 ) 本年 1 月 29 日に 平成 25 年度税制改正大綱 が閣議決定されました 平成 25 年度税制改正では 成長と富の創出 の実現に向けた税制上の措置が講じられるともに 社会保障と税の一体改革 を着実に実施するため 所得税 資産税についても

所得控除 基礎控除 配偶者控除などの下記の表に記載されたものをいいます それぞれ一定の要件を満たしている場合は 課税所得金額を計算する際に それぞれの控除が受けられます 個人の県民税 個人の市町村民税 12

資料8-2 平成29年度文部科学関係税制改正事項

平成18年度地方税制改正(案)について

年金生活者の実質可処分所得はどう変わってきたか

「公的年金からの特別徴収《Q&A

北陸3県、法人税改革に対する企業の意識調査

年金改革の骨格に関する方向性と論点について

Microsoft Word - こども保険に関するFAQ.docx

3. 住宅税制 消費税率の引上げに伴う一時の税負担の増加による影響を平準化し 及び緩和する観 点から 住宅税利について以下のとおり所要の措置を講じます 住宅ローン減税を平成 26 年 1 月 1 日から平成 29 年末まで 4 年間延長し その期間のうち平成 26 年 4 月 1 日から平成 29

年金・社会保険セミナー

Economic Trends    マクロ経済分析レポート

注 1 認定住宅とは 認定長期優良住宅及び認定低炭素住宅をいう 注 2 平成 26 年 4 月から平成 29 年 12 月までの欄の金額は 認定住宅の対価の額又は費用の額に含まれる消費税等の税率が 8% 又は 10% である場合の金額であり それ以外の場合における借入限度額は 3,000 万円とする

平成 31 年度 税制改正の概要 平成 30 年 12 月 復興庁

PowerPoint プレゼンテーション

第2回税制調査会 総2-2

社会保障 税一体改革大綱(平成24 年2月17 日閣議決定)社会保障 税一体改革における年金制度改革と残された課題 < 一体改革で成立した法律 > 年金機能強化法 ( 平成 24 年 8 月 10 日成立 ) 基礎年金国庫負担 2 分の1の恒久化 : 平成 26 年 4 月 ~ 受給資格期間の短縮

平成21年度 厚生労働省税制改正要望項目

Microsoft Word 役立つ情報_税知識_.doc

<4D F736F F D204E5F E7182C782E08EE C482C68F8A93BE90C58F5A96AF90C52E646F63>

参考資料

2019年度税制改正大綱のポイント|第一生命経済研究所|星野卓也

2. 繰上げ受給と繰下げ受給 65 歳から支給される老齢厚生年金と老齢基礎年金は 本人の選択により6~64 歳に受給を開始する 繰上げ受給 と 66 歳以降に受給を開始する 繰下げ受給 が可能である 繰上げ受給 を選択した場合には 繰上げ1カ月につき年金額が.5% 減額される 例えば 支給 開始年齢

1. 復興基本法 復興の基本方針 B 型肝炎対策の基本方針における考え方 復旧 復興のための財源については 次の世代に負担を先送りすることなく 今を生きる世代全体で連帯し負担を分かち合うこととする B 型肝炎対策のための財源については 期間を限って国民全体で広く分かち合うこととする 復旧 復興のため

<4D F736F F D208E9197BF FC90B38A E937D91E58D6A816A2E646F63>

平成19年度市民税のしおり

厚生年金上限引上げ、法人税率引下げを一部相殺

平成16年年金制度改正における年金財政のフレームワーク

平成 29 年 1 月度実施実技試験 ( 保険顧客資産相談業務 ) 73

- 平成 28 年度税制改正について ( 税制改正大綱 の概要解説 ) - 1. 法人税 改正の概要 (1) 法人税率の引下げ等 現行 28 年度 30 年度 法人税率 23.9% 23.4% 23.2% 法人事業税所得割 6.0% 3.6% 3.6% ( 標準税率 ) 法人実効税率 32.11%

第 9 回社会保障審議会年金部会平成 2 0 年 6 月 1 9 日 資料 1-4 現行制度の仕組み 趣旨 国民年金保険料の免除制度について 現行制度においては 保険料を納付することが経済的に困難な被保険者のために 被保険者からの申請に基づいて 社会保険庁長官が承認したときに保険料の納付義務を免除す

第6回税制調査会 総6-3

Microsoft Word - "ç´ıå¿œçfl¨ docx

住宅取得等資金の贈与に係る贈与税の非課税制度の改正

<4D F736F F F696E74202D2095BD90AC E937888D38CA98F F D8E968D80816A5F8DC58F492E >

労働基準法が改正されます

150130【物価2.7%版】プレス案(年金+0.9%)

Microsoft PowerPoint - 7.【資料3】国民健康保険料(税)の賦課(課税)限度額について

【資料1-2】予算及び税制

<4D F736F F D20819A89FC90B38A E937D91E58D6A816A BC78B638CE381A8835A E646F63>

スライド 1

Transcription:

Economic Trends マクロ経済分析レポート 2018 年度税制改正大綱のポイント整理発表日 :2017 年 12 月 15 日 ( 金 ) ~ 家計負担を伴う改正が中心 ~ ( 要旨 ) 第一生命経済研究所経済調査部担当副主任エコノミスト星野卓也 TEL:03-5221-4547 2018 年度の税制改正大綱が与党から示された 1 所得税の所得控除の見直し 2 法人税における賃上げ インセンティブの見直しが主な改正項目だ その他 たばこ税増税や森林環境税 国際観光旅客税の創 設など個人負担増を伴う改正が中心となっている 給与所得控除 基礎控除の見直しにより 22 歳以下の子どもや介護者のいない会社員は年収 850 万円超が増税 自営業者や不動産所得者などは減税になる 一定の仮定に基づいて試算すると 年収 1,000 万円であれば 会社員は年 4.5 万円の増税 自営業者は年 3.3 万円の減税になる 一方 一定以上の高所得者は基礎控除の対象外となり ともに増税となる 年収 3,000 万円であれば 会社員は年 31.0 万円の増税 自営業者は年 18.5 万円の増税となる 公的年金等控除の縮小が実施され 年金収入そのものと年金以外の収入額に応じた所得制限が導入される 公的年金と企業年金を併給している場合を中心に増税となるケースが生じるが 企業年金を退職時に一時金として受け取れば本改正の影響はない 税優遇措置などを背景に既に一時金受取を選択する人は7 割に上るが これがさらに増える方向のインセンティブが働くだろう 法人税の租税特別措置として設けられている 所得拡大促進税制 の見直しが行われる 適用要件は厳しくなるが 賃上げ額に対する税額控除割合は以前より大きくなる 内閣府のディスカッションペーパーは 2015 年度の税額控除が適用された賃上げ分 +3 兆円のうち 同措置の追加的賃上げ効果は約 0.5 兆円としている 税 社会保険料負担も勘案すると家計 可処分所得の増分はさらに減る 適用要件も控除率も異なる今回改正の影響は不透明だが 景気浮揚効果に過度な期待を寄せるべきではないだろう 今回改正による増税分の一部は消費税率引上げの際の軽減税率の財源に充当される見込みだ 大綱内に は更なる不足分の財源確保を 2018 年度末までに行うことが明記されており 来年度の税制改正も増税措 置が中心になりそうだ 税制改正大綱が与党決定 14 日に 与党から 2018 年度税制改正大綱が示された 今年の税制改正の柱は 1 所得税の所得控除の見直し 2 法人税における賃上げインセンティブ ( 所得拡大促進税制 ) の見直しだ これらを中心に その内容と経済への影響を考えたい 所得税は増税改正だが 一定以下所得の自営業者等は減税に今回の税制改正の目玉は所得税の控除の見直しである 1 会社員などに適用される給与所得控除 年金に適用される公的年金等控除をそれぞれ減額し 代わりに全員に適用される基礎控除を増額することで 収入形態によって控除額が変わる現状を是正する ( 子どもや介護者のいる会社員には 増税分と同額の控除が設 1

けられ増減税はない ) 2 給与所得控除の上限額および上限適用年収の引き下げる 3これまで全ての人に適用されていた基礎控除に所得制限を設け 高所得者の控除は縮小 適用外とすること が主なものだ 実施されるのは 2020 年 1 月からとなっている この改正によって 家計の税負担がどのように変わるのかを年収別にみたものが資料 1である 22 歳以下の子どもや介護者のいない会社員の場合 年収 850 万円未満の場合は増減税ゼロである ここを超えると 給与所得控除の縮小の影響で所得税 住民税の負担が増加する 年収 1,000 万円の場合は年間 4.5 万円の負担増に繋がる さらに所得 ( 額面年収 給与所得控除額 ) が 2,400 万円を超えると基礎控除が縮小され 所得が 2,500 万円に達すると基礎控除はゼロになる 年収 3,000 万円の場合は2つの改正が重なり 年 31.0 万円の負担増となる 一方 給与所得控除がそもそも適用されていない自営業者や不動産所得者の場合 基礎控除増額によって減税となる ただし 基礎控除の縮小される所得 2,400 万円を超える場合は 負担増となる 資料 1. 年収別の所得税改革の所得 住民税額への影響試算 ( 年あたり ) ( 注 ) マイナスは減税 会社員は協会けんぽ 厚生年金 雇用保険に加入 自営業は国民健康保険 国民年金に加入するもの とした 給与所得控除 社会保険料控除 基礎控除を勘案 年収 会社員は額面収入 自営業者 フリーランス 不動産所得 者などは必要経費を控除した所得額 子育て 介護なしの会社員 ( 給与所得者 ) ( 万円 ) 自営業者 フリーランス 不動産所得者など 300 0.0-2.0 500 0.0-3.0 800 0.0-3.0 1000 4.5-3.3 2000 6.5-5.0 3000 31.0 18.5 5000 34.2 20.4 ( 出所 ) 自由民主党 公明党 平成 30 年度税制改正大綱 を基に第一生命経済研究所が試算 公的年金等控除縮小 退職金の一括受取が増えそう? 年金収入に適用される公的年金等控除についても 所得制限が設けられる 具体的には1 年金収入そのものが 1000 万円を超える場合 控除額を 195.5 万円で頭打ちにする 2 年金収入 以外 の収入が 1000 万円を超える場合に控除額を 10 万円縮減 (2000 万円超なら 20 万円縮減 ) とする どういう場合が増税の対象となるだろうか 1に関しては 多額の企業年金などを受給している場合が増税対象となりそうだ ( 公的年金 等 控除という名称がついていることが示しているように 年金控除は公的年金のみでなく要件を満たした企業年金も対象となる ) 現行の公的年金制度では 最高等級の保険料を支払い続けるという極端な仮定をおいても年金給付は年 400 万円ほどになり 1,000 万円には届かない 公的年金のみでは年金収入 1,000 万円超という要件に適合することはほぼ不可能であり 公的年金以外の上乗せがあって初めて届く額といえるだろう 2に関しては 年金以外に稼ぎのある年金受給者が増税対象となるが 公的年金のみを受け取る 高齢者が 働いて 所得を得ている場合には 改正前後で影響が出るケースは少なそうだ というのは 年金を受給しながら働く ( 厚生年金保険の被保険者となる ) 場合には 在職老齢年金の枠組みによって既に年金を減額する仕組みが存在するためである 年収 1,000 万円を超えるような高所得者の場合には 厚生年金支給額のほとんどが支給停止となるケースも多いと考えられる 働きながら受け取る年金額は改正後の公的年金等控除の最低保証額の枠内に収まると考えられ 負担は変わらないケースが多いだろう i 2

1の場合も2の場合も 年金以外の収入を多く持つ人が公的年金と企業年金を併せて受け取っている場合は 控除額が減少することで増税対象になるケースが出てくるだろう ただ これは企業年金を 年金 として受け取った場合であり 退職時に一時金として受け取れば本改正の影響はない 厚生労働省の 2013 年調査によれば 企業年金を一時金で受け取る人は7 割近くに上っており 年金での受給は少数派だ この背景として 一時金での受取にも税優遇措置が設けられていることや所得環境の悪化などが指摘されている ii 今回の改正によって年金受給の際の負担が増える結果 一時金での受給がさらに増加する可能性がありそうだ 資料 2. 公的年金等控除 2の影響は誰に及ぶか給与所得が 1000 万円超増税になるケースはまれ公的年金のみ受給 ( そもそも厚生年金のほとんどが支給停止になっているケースが多いと推定される ) 不動産所得 金融所得 事業所 得などが 1000 万円超 増税 公的年金 + 企業年金などを受給増税増税 資料 3. 退職年金をどのように受給したか 年金の全部を年金として受給, 19.5 年金全部を一時金として受給, 68.7 年金の一部を一時金 一部を年金として受給, 11.8 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% ( 出所 ) 厚生労働省 就労条件総合調査 (2013 年 ) 賃上げ促進税制を見直し賃上げ実施企業に税制優遇を行う 所得拡大促進税制 は 要件を厳しくしたうえで税額控除割合の拡大が行われる これまで 大企業の場合は前年度比 +2% 以上の平均給与等支給額増が要件だったが これが +3% に引き上げられる 税額控除額は 従来の 前年度からの増加分 12% から 15% に引き上げられる 人的投資の拡大を実施した場合には 20% まで税額控除を受けられるようにする 現行制度との比較では 適用要件が厳しくなる一方で 税額控除額が拡大する形だ 中小企業の場合は 適用要件が大企業より緩くなっている 財務省は 租税特別措置の適用実態調査の結果に関する報告書 において所得拡大促進税制を含む租税特別措置の適用実績を公表している これによれば 2015 年度の適用件数は 90,594 件 これによる減税額は 2,774 億円となっている このときの税額控除割合は 10% だったので およそ3 兆円程度の賃上げ分が本税制の対象となっていたことになる しかし このすべてが本税制の賃上げ効果と判定するのは過大評価だろう 税制がなくとも元々賃上げするつもりだった企業が 税制優遇を受けているケースも相応に存在すると考えられるためだ 内閣府のディスカッションペーパー (2017) では アンケートベースの 税制が賃上げ実施に影響したと回答した企業割合 を基に 税制による追加的賃上げ効果を+0.4~+0.5 兆円と試算して 3

いる 税 社会保険料負担が伴うことも考慮すれば 家計可処分所得の増分は+0.2~+0.3 兆円 / 年程度と推定される 要件も税額控除額も異なる今回改正が企業行動に与える影響は不透明だが 期間の限定された減税と固定費である人件費の増加は企業にとって時間軸の異なる経営判断だ 税制の賃金押し上げ効果に過度な期待を寄せるべきではないだろう 資料 4. 新 所得拡大税制制度の概要要件税額控除額 平均給与等支給額が前年度から+3% 以上増給与等支給増加額の 15% 国内設備投資額が減価償却費の 90% 以上大企業 平均給与等支給額が前年度から+3% 以上増 ( 資本金 1 億円超 ) 国内設備投資額が減価償却費の 90% 以上給与等支給増加額の 20% 人的投資が前年度から 20% 拡大 平均給与等支給額が前年度から+1.5% 以上増給与等支給増加額の 15% 中小企業 平均給与等支給額が前年度から+2.5% 以上増 ( 資本金 1 億円以下 ) 給与等支給増加額の 25% 人的投資が前年度から 10% 拡大 ( 注 ) 平均給与等支給額 = 適用年の継続雇用者に対する給与等 適用年の月別継続雇用者数の合計人数 来年度も軽減税率財源のための増税措置が中心かその他には たばこ税の増税や国際観光旅客税 森林環境税の創設など 家計負担の伴う改正などが実施される 一連の税制改正のうち 所得税の控除見直しによる増税分 900 億円と たばこ税増税による増税分 2,400 億円は 消費税率引き上げの際の軽減税率実施の財源に充てられるようだ 所得税の見直しも高所得者への増税措置となっており 軽減税率の財源確保は今回税制改正のテーマのひとつであったといえる 軽減税率実施に伴う減収分 1 兆円のうち そのうち 0.6 兆円の財源が未確定の状態であったが 今回の改 正で 0.3 兆円分を確保したことになる 大綱内には 消費税率 10% 引上げを平成 31 年 10 月 1 日に確実に実施するとともに あわせて実施される低所得者への配慮のための軽減税率制度について 安定的な恒久財源を確保するため 平成 30 年度末までに歳入及び歳出における法制上の措置を講ずる と明記されている 残りの 0.3 兆円の財源確保のため 来年度の税制改正も負担増を伴うものが中心になりそうだ 資料 5.2018 年度税制改正大綱の主な内容 所得税の控除見直し 給与所得控除の上限を引き下げ 年収 850 万円超は増税 基礎控除を 10 万円増 給与所得控除 10 万円減 給与所得者以外は減税に 基礎控除に所得制限 年収 2500 万円超は基礎控除ゼロで増税に 公的年金等控除 10 万円減 所得制限を追加 年金収入 1000 万円超の場合は控除頭打ち 年金以外の収入が 1000 万円を超えると 控除縮減 一連の見直しで 900 億円の増税 賃上げ促進税制の見直し 生産性向上投資減税 事業承継税制の拡充 たばこ税増税 国際観光旅客税の導入 森林環境税の導入 現行の所得拡大促進税制を見直し 賃上げ要件を厳格化 税額控除割合を拡大 生産性向上要件を満たす投資 (AI など ) に対する特別償却 or 税額控除 中小企業経営者の株式承継の際の相続税 贈与税を 100% 猶予 ( 現在 80%) 期間は 10 年 700 億円の減税 紙巻 加熱式たばこを段階的に増税 紙巻たばこは 1 本あたり 3 円の増税に 平年度 2400 億円の増税 海外渡航の際に 1 人 1000 円を課税 平年度 400 億円の増税 個人住民税に一人当たり 1000 円を上乗せ 平年度 600 億円の増税 4

( 参考文献 ) 加藤 本橋 堤 アベノミクスにおける賃金 所得関連施策の効果試算 内閣府経済財政分析ディスカッショ ンペーパー DP/17-2 2017 年 5 月 http://www5.cao.go.jp/keizai3/discussion-paper/dp172.pdf i 一階部分の老齢基礎年金は減額対象とならないが これを勘案しても厚生年金部分がゼロであれば 公的年金のみを受け取る給与所得者への影響は限られよう 公的年金等控除の縮減による満額で約 78 万円である 公的年金等控除の最低保証額は現在 120 万円だが改正によってこれが 110 万円に減額される さらに年収 1000 万円超の場合は 100 万 2000 万円超の場合は 90 万円となる 基礎年金満額の 78 万円を上回る控除がある ii 例えば 日本経済新聞 (2015 年 7 月 20 日 )https://r.nikkei.com/article/dgkkasfs24h0c_z10c15a7nn1000?s=1 5