応用化学実験 1 蒸気圧 注意本実験では水銀を用いた真空計 ( 水銀マノメータ ) を使用する 本真空計は, 細いガラス管の中を水銀柱が動いて圧力を表示する 水銀柱がガラス管の端に勢い良く衝突すると破損して, 部屋中に水銀が飛散し, 悲惨なことになる このようなことの無いよう, 内容をよく理解して作業を行い, 水銀マノメータのガラスコックは, 必ずゆっくりと慎重に開閉を行うこと もし破損した場合は, すぐに教員に知らせること 概要 水とエタノールの蒸気圧の温度変化を測定し, 実験結果からクラウジウス-クラペイロン (Clausius-Clapeyron) の式を用いて, 蒸発エンタルピーと蒸発エントロピーの値を求める キーワード 相平衡 蒸気圧曲線 蒸発エンタルピー 蒸発エントロピー クラウジウス-クラペイロンの式 解説 密閉空間の一部に液体を入れ, 温度を一定に保つと容器内の蒸気の圧力は一定となる このとき, 液体表面では蒸発と凝縮が同時に起こり, その速度が等しくなっている ( 相平衡 ) このときの蒸気の圧力を 蒸気圧 または 飽和蒸気圧 という 温度が高くなると蒸気圧は高くなる ( 図 1) また, 液体の蒸気圧と温度の関係をグラフで表したものを 蒸気圧曲線 という 因みに, 気象予報で使用される 湿度 は, 飽和水蒸気量に対して大気中に実際に含まれる水蒸気量の比率である 図 1 メタノールの蒸気圧曲線液体の温度が高くなり外圧と等しくなると, 液体の内部からも気化が起こり気泡の生成がみられる この現象が沸騰でこのときの温度を沸点という 蒸気圧曲線は外圧による沸点の変化を示している 水の沸点は大気圧下では 1 であるが,1 気圧より低い圧力下では 1 以下で水は沸騰する 液体の蒸気圧の測定方法には, 温度を一定に保って蒸気圧を測定する方法 ( 静止法 ) と, 圧力を一定に保ってそれに対応する沸点を測る方法 ( 沸点法 ) がある 本実験では, 迅速に測定できる, 沸点法により蒸気圧測定を行う 1
事前課題 (1) から 1 における水とエタノールの飽和蒸気圧の値を調べておくこと (2) ある年の名古屋市は異常気象の日々が続いた この年の気温 1 の冬の日と気温 4 の夏の日において, 大気の湿度がともに 5% であった それぞれの日において大気 1 L( リットル ) 中に含まれる水蒸気の量を求めよ (3) トルートンの法則について説明せよ ( 教科書の p.9 を参照 ) (4) 温度 T, 圧力 P において, ある物質が気相と液相の平衡の状態にあるとき, 両相においてギブズの自由エネルギーが等しくなることを用いて, 以下のクラウジウス-クラペイロンの式を導出せよ ( 教科書の 8 章を参照のこと ) dp dt S H (1) V T V S S S, H T S ( ただし, g l, V Vg Vl は, それぞれ,1 モル 当たりの蒸発エントロピー変化, 蒸発のエンタルピー変化 ( 潜熱 ), 蒸発の体積変化 ) (5) クラウジウス-クラペイロンの式において,a) 気体と液体の熱容量の差を無視できる, b) 気体の体積に比べ, 液体の体積は小さいので無視できる,c) 気体の圧力が状態方程式に従う, という仮定を用いることにより, 以下の式を導出せよ ln p p H H (2) RT RT (p: 両相の圧力,T: 両相の温度,R: 気体定数,ΔH:1 モル当たりの蒸発のエンタルピー変化 ( 潜熱 ),T,p は積分定数 ( ただし,T は圧力 p における沸点 )) (6) 式 (2) において,p を 1[atm] にとれば,T は 1[atm] における沸点となる すると,(2) 式は次のようになる ln p p H R 1 S T R (3) (3) 式から, 飽和蒸気圧 p の温度依存性を測定することにより, 蒸発エンタルピー H と蒸発エントロピー S が求まることを, 図を使って説明せよ 2
(7) 本実験では, 圧力 ( 真空度 ) の測定に水銀マノメータを使用する U 字型マノメータの仕組みと原理を説明せよ (8) 水銀の危険性について詳しく記せ 実験手順 使用器具 [ 作業台の引出しの中の器具 ] マグネチックスターラー ウォーターバス ( 小 ) ラボジャッキ ナス型フラスコ (1mL) トの字管 15/25 スタンド 2 個ムッフ 3 個クランプ ( 小, 大 ) 3 個ダイヤフラムポンプ フラスコ台 * ダイヤフラムポンプは 2 グループに 1 台しかないので,T 字管を使って両グループの真空ラインを接続する ( 実験開始後は常にスイッチを on にし, 排気時のみガラスコックを開けて使用する ) [ 貸出器具 ( 使用後, 所定の場所に返却 )] 水銀マノメータ デジタル温度計 丸底フラスコ (1mL) ゴム栓 14 号 (L 字管 2 個付 ) 連結管 15/25-8Φ ガラスコック T 字管 3 個 ゴム栓 2 号 ( 温度センサーに付随 ) ゴムホース ( 真空ライン用 : 青色 ) 数本 ゴム管 ( 冷却水用 : 白色 ) 数本 チューブジョイント ( ) ( ゴムホースとゴム管, チューブジョイン トはビニール袋に入れてあるので, 使用後 元にもどすこと ) 試薬 純水, エタノール 3
真空ラインの組み立て (1) 図を参考にして, 蒸気圧測定用の真空ラインを組み立てる このとき, ナス型フラスコには何もいれず, 保温水槽に浸す必要はない また, 冷却管に白いゴム管をつなぐが, 冷却水はまだ流さなくてもよい ( ゴム管はチューブジョイントを使って, 水道水の蛇口のホースに接続する ) 注意事項 ガラス機器は破損しやすいので, 差し込むほうだけでなく, 差し込まれる側も手で持って接続を行うこと 摺合のガラス器具はアピエゾングリースを接続部に塗って使用する 青いゴムホースとガラス機器 ( ガラスコック,T 字管など ) の接続には, 安価なシリコングリースを少量塗布する グリースは, 指にわずかにとり, ほんの少量をガラス機器の接続部にうすく塗布すること ( 大量に塗っても, リークが止まるわけではなく, お金の無駄である ) 冷却管およびダイヤフラムポンプへの接続は図をよく見て正しい位置に行い, 間違えないようにする 冷却管と連結管 また冷却管とトの字管の接続部には プラスチッククランプを使用する 冷却管につなぐゴム管と水道水のホースの接続には, チューブジョイントを使 4
用する ( 水道水の蛇口に直接つながない ) (2) ガラスコック1を閉じ, ガラスコック2と3を空け, ダイヤフラムポンプのスイッチを on にし, 真空ラインの中を排気する ガラスコックの開閉の向きに注意すること 開いた状態閉じた状態 (3) 水銀マノメータのコックをゆっくりと開け, 全開にしたら数分待って真空ライン内の圧力を測って記録する ( 通常は.8~1.2kPa 程度になるはず ) (4) ガラスコック3を閉じる (5) 5 分程度待つ 水銀マノメータの圧力が変化しなければ OK 圧力が高くなる場合は真空ラインに真空漏れ ( リーク ) があるのでリーク箇所を探してリークを止める 原因としてガラス機器の接続部に隙間があることが多い (6) リーク漏れが無いことが確認できたら, 水銀マノメータのコックを閉じ, さらに ( ガラスコック3を閉じた状態で,) ガラスコック1をゆっくりと開けて真空ラインを大気圧にもどす ( ベントする ) 水の蒸気圧の測定 (1) ナス型フラスコをいったん真空ラインから取り外し, 中に沸騰石を 1 粒程度と純水を約 2mL を入れたのち, 再び真空ラインにセットする また, ナス型フラスコを保温水槽の水に浸す 温度センサーは気体の温度を測るため, センサー先端が純水の水面の 1 cm 程度上になるようにセットする なお, センサーは細くてやわらかいが, 中にケーブルが配線されているので, クネクネ曲げたりせず, なるべく直線に近い形状で使用すること (2) 水道水の蛇口をひねり, 冷却管に水を流す (3) ガラスコック1を閉じ,( ガラスコック2は開いた状態 ), さらに, 水銀マノメータのコックをゆっくりと開ける ( 急に開けると水銀がガラス面に激突して破損するので, 必ずゆっくりと開けること ) (4) ガラスコック3を開けて, 水銀マノメータで圧力を計りながら, 真空ライン内を排気する (5) 真空ライン内の圧力が徐々に下がる 水銀マノメータの圧力が 6 kpa 程度になったところでガラスコック2と3を閉じる 6 kpa ちょうどでなくてもよいが,5.8 ~6.2 kpa の間になるように調整し, 圧力を正確に記録する 水銀は凸型のメニスカスなので, 上面で圧力を読みとるように注意する ( もし, 圧力が低くなりすぎた 5
場合は, いったん水銀マノメータのコックとガラスコック3を閉じて, ガラスコック1をゆっくりと開け, 真空ラインに空気を入れて圧力を大気圧にもどしてから, (3) からやり直す ) (6) マグネチックスターラーの温度を 5 程度にセットしてフラスコ内の水をゆっくりと加熱する 水の温度が上昇すると気泡が観察される 気泡が安定して生じた状態を水が沸騰したと判断し, このときの温度をデジタル温度計で迅速に読み取る ( 沸騰開始を見過ごさないようにすること 沸騰させすぎると, 真空ラインのほうに水が溜まり, あとの実験が困難になるので注意する 温度の読み取りと手分けして行うとよい ) 読み取ったら, すぐに恒温水槽に水を入れ, ラボジャッキを下げて, フラスコ内の水をさます (7) 真空ライン内に水が凝集していないか確認する ゴムホースや三角フラスコに水が溜まっている場合は, 拭き取るなどしてできるだけ除去する 問題なければ, ガラスコック1を空け, 真空ライン内をいったん大気圧にする (8) (2)~(7) の手順により, 再び真空ライン内を排気し, 今度は真空ライン内の圧力を 8 kpa 程度に設定して, 同様に沸点の測定を行う ( 温度は適宜設定する ) (9) さらに,1 kpa,2kpa,3 kpa 下での沸点の測定を同様に行う ( 温度は適宜設定する ) エタノールの蒸気圧の測定 ( 水の場合と手順は同じ ) (1) ゴムホースや三角フラスコに水が溜まっていないか確認する 水が残っている場合は, 少量のエタノールでとも洗いし, 水を除去する (2) ナス型フラスコにエタノール約 2mL と沸騰石を入れ, 温度センサーをセットする 温度センサーは気体の温度を測るため, センサー先端がエタノールの液面の 1 cm 程度上になるようにセットする (3) ガラスコック1を閉じ, ガラスコック2を開け, さらに, 水銀マノメータのコックをゆっくりと開ける ( 急に開けると水銀がガラス面に激突して破損するので, 必ずゆっくりと開けること ) (4) ガラスコック3を開け, 水銀マノメータで圧力を計りながら, 真空ライン内を排気する (5) 水銀マノメータの圧力が 2 kpa 程度に下がったところでガラスコック2と3を閉じる ( 圧力が下がりすぎた場合は, いったんマノメータのガラスコックとガラスコック3を閉じて, ガラスコック1をゆっくりと開け, 真空ラインに空気を入れて圧力を大気圧にもどしてから, やり直す ) (6) フラスコ内のエタノールをゆっくりと加熱し, 沸騰したときの温度をデジタル温 6
度計で迅速に読み取る 読み取ったら, すぐに恒温水槽に水を入れ, フラスコ内の水をさます (7) 真空ライン内にエタノールが凝集していないか確認する 問題なければ, ガラスコック1を空け, 真空ライン内をいったん大気圧にする (8) (2)-(8) の手順により, 再び真空ライン内を排気し, 真空ライン内の圧力を 3 kpa 程度に設定して, 同様に沸点の測定を行う ( 温度は適宜設定する ) (9) さらに,4 kpa 下での沸点の測定を行う ( 温度は適宜設定する ) 後片付け (1) 水銀マノメータのコックを閉じる (2) 保温水槽をラボジャッキで下げて, 水 ( エタノール ) の温度を下げる マグネチックスターラーの温度を下げて, 電源を off にする (3) ( 起動している場合は ) ダイヤフラムポンプを off にする (4) ガラスコック3を開けたのち, ガラスコック1をゆっくりと開け, 真空ラインの中を大気圧にもどす (5) 真空ラインを分解して, ガラス器具, ゴムホースごとに分別して洗浄を行う なお, エタノールは流しに捨ててよい T 字管, ガラスコック, ゴムホースについたシリコングリースは, キムワイプで拭き取るだけでよい ( これらの機器の洗浄は不要 ) その他, 作業台の引き出しの中から持ち出したガラス器具と三角フラスコは, シリコングリースとアピエゾングリースをヘキサンでよく拭き取ったのち, クレンザーで洗浄する 水銀マノメータ, ゴムホース, ガラスコック,T 字管, 三角フラスコ, デジタル温度計等, 作業台以外から持ってきた器具は, 教員の指示にしたがって所定の場所に返却する レポート課題 (1) 水とエタノールに対する実験結果を次の表にそれぞれ, まとめよ p は 1atm として計算する 圧力 p [Pa] 温度 t[ ] 1/T[1/K] ln p / p (2) 表の結果から横軸 : 温度 ( ), 縦軸 : 圧力として飽和蒸気圧の温度変化のグラ 7
フを作成せよ また, 事前課題で調べてきた, 温度と飽和蒸気圧の値を同じグラフに記入し, 違いを比較すること ( グラフは, 水とエタノールを別々に作成する ) (3) 表の結果から, 縦軸 : ln p / p, 横軸 :1/T のグラフに記せ (4) グラフから, 水とエタノールの蒸発エンタルピー H と蒸発エントロピー S を求めよ 考察 (5) 蒸気圧曲線の振る舞いについて, 原理を考察せよ また, 身近な現象との関連を考えよ ( 例えば, 温度が上昇すると蒸気圧が増加する理由を原子 分子の振る舞いから考察する ) (6) 水とエタノールの温度と飽和蒸気圧の関係について, 測定値と調べた値の違いとその原因について考察せよ (7) 水とエタノールの蒸発エンタルピーとエントロピーの値を調べ, 文献値と異なる理由を考察せよ ( 文献値をどこから引用し, また, どのような条件での値かを明記して, 違いが出た理由を考察する ) (8) 水とエタノールの蒸発エントロピーがトルートンの法則から, ずれる理由を説明せよ * 再度の注意 水銀マノメータは水銀がガラス管と衝突して破損しないように, ゆっくりとコックを開けるなど十分取扱に注意すること 万一破損した場合は, 自分たちで対処せず教員をすぐに呼ぶこと 装置の大部分がガラス製なので, 丁寧に必ず両手で取り扱うこと 手順は機械的に行わず, 装置の構造と中身を理解して行うこと 補足 水銀マノメータの圧力の読み方( 右図 ) 目盛りのはいっているバーを上下にずらし 水銀柱の片側に をあわせて 水銀柱から圧力差を読む 8