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平成14年度研究報告

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

Peroxisome Proliferator-Activated Receptor a (PPARa)アゴニストの薬理作用メカニズムの解明

るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

PRESS RELEASE (2014/2/6) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

研究背景 糖尿病は 現在世界で4 億 2 千万人以上にものぼる患者がいますが その約 90% は 代表的な生活習慣病のひとつでもある 2 型糖尿病です 2 型糖尿病の治療薬の中でも 世界で最もよく処方されている経口投与薬メトホルミン ( 図 1) は 筋肉や脂肪組織への糖 ( グルコース ) の取り

論文の内容の要旨

ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク (FABP)4 FABP 5 の影響 糖尿病 肥満の病態解明と脂肪幹細胞再生治療への可能性 ポイント 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP5( 表皮型 ) が発現亢進し 分泌されることを確認しました トランスク

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統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

核内受容体遺伝子の分子生物学

のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手

抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

結果 この CRE サイトには転写因子 c-jun, ATF2 が結合することが明らかになった また これら の転写因子は炎症性サイトカイン TNFα で刺激したヒト正常肝細胞でも活性化し YTHDC2 の転写 に寄与していることが示唆された ( 参考論文 (A), 1; Tanabe et al.

犬の糖尿病は治療に一生涯のインスリン投与を必要とする ヒトでは 1 型に分類されている糖尿病である しかし ヒトでは肥満が原因となり 相対的にインスリン作用が不足する 2 型糖尿病が主体であり 犬とヒトとでは糖尿病発症メカニズムが大きく異なっていると考えられている そこで 本研究ではインスリン抵抗性

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報道発表資料 2007 年 8 月 1 日 独立行政法人理化学研究所 マイクロ RNA によるタンパク質合成阻害の仕組みを解明 - mrna の翻訳が抑制される過程を試験管内で再現することに成功 - ポイント マイクロ RNA が翻訳の開始段階を阻害 標的 mrna の尻尾 ポリ A テール を短縮

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

「組換えDNA技術応用食品及び添加物の安全性審査の手続」の一部改正について

生活設計レジメ

44 4 I (1) ( ) (10 15 ) ( 17 ) ( 3 1 ) (2)

I II III 28 29


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RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

記載例 : ウイルス マウス ( 感染実験 ) ( 注 )Web システム上で承認された実験計画の変更申請については 様式 A 中央の これまでの変更 申請を選択し 承認番号を入力すると過去の申請内容が反映されます さきに内容を呼び出してから入力を始めてください 加齢医学研究所 分野東北太郎教授 組

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

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遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

Microsoft Word - 【変更済】プレスリリース要旨_飯島・関谷H29_R6.docx

HYOSHI48-12_57828.pdf

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

平成 28 年 12 月 12 日 癌の転移の一種である胃癌腹膜播種 ( ふくまくはしゅ ) に特異的な新しい標的分子 synaptotagmin 8 の発見 ~ 革新的な分子標的治療薬とそのコンパニオン診断薬開発へ ~ 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 髙橋雅英 ) 消化器外科学の小寺泰

平成18年3月17日

急性骨髄性白血病の新しい転写因子調節メカニズムを解明 従来とは逆にがん抑制遺伝子をターゲットにした治療戦略を提唱 概要従来 <がん抑制因子 >と考えられてきた転写因子 :Runt-related transcription factor 1 (RUNX1) は RUNX ファミリー因子 (RUNX1

ヒトゲノム情報を用いた創薬標的としての新規ペプチドリガンドライブラリー PharmaGPEP TM Ver2S のご紹介 株式会社ファルマデザイン

血漿エクソソーム由来microRNAを用いたグリオブラストーマ診断バイオマーカーの探索 [全文の要約]

多様なモノクロナル抗体分子を 迅速に作製するペプチドバーコード手法を確立 動物を使わずに試験管内で多様な抗体を調製することが可能に 概要 京都大学大学院農学研究科応用生命科学専攻 植田充美 教授 青木航 同助教 宮本佳奈 同修士課程学生 現 小野薬品工業株式会社 らの研究グループは ペプチドバーコー

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

学位論文の要約

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報道発表資料 2001 年 12 月 29 日 独立行政法人理化学研究所 生きた細胞を詳細に観察できる新しい蛍光タンパク質を開発 - とらえられなかった細胞内現象を可視化 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は 生きた細胞内における現象を詳細に観察することができる新しい蛍光タンパク質の開発に成

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

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Hi-level 生物 II( 国公立二次私大対応 ) DNA 1.DNA の構造, 半保存的複製 1.DNA の構造, 半保存的複製 1.DNA の構造 ア.DNA の二重らせんモデル ( ワトソンとクリック,1953 年 ) 塩基 A: アデニン T: チミン G: グアニン C: シトシン U

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化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

の活性化が背景となるヒト悪性腫瘍の治療薬開発につながる 図4 研究である 研究内容 私たちは図3に示すようなyeast two hybrid 法を用いて AKT分子に結合する細胞内分子のスクリーニングを行った この結果 これまで機能の分からなかったプロトオンコジン TCL1がAKTと結合し多量体を形

報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

サカナに逃げろ!と指令する神経細胞の分子メカニズムを解明 -個性的な神経細胞のでき方の理解につながり,難聴治療の創薬標的への応用に期待-

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脂肪滴周囲蛋白Perilipin 1の機能解析 [全文の要約]

れており 世界的にも重要課題とされています それらの中で 非常に高い完全長 cdna のカバー率を誇るマウスエンサイクロペディア計画は極めて重要です ゲノム科学総合研究センター (GSC) 遺伝子構造 機能研究グループでは これまでマウス完全長 cdna100 万クローン以上の末端塩基配列データを

厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患等生活習慣病対策総合研究事業)

本成果は 以下の研究助成金によって得られました JSPS 科研費 ( 井上由紀子 ) JSPS 科研費 , 16H06528( 井上高良 ) 精神 神経疾患研究開発費 24-12, 26-9, 27-

汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

ランゲルハンス細胞の過去まず LC の過去についてお話しします LC は 1868 年に 当時ドイツのベルリン大学の医学生であった Paul Langerhans により発見されました しかしながら 当初は 細胞の形状から神経のように見えたため 神経細胞と勘違いされていました その後 約 100 年

2. 看護に必要な栄養と代謝について説明できる 栄養素としての糖質 脂質 蛋白質 核酸 ビタミンなどの性質と役割 およびこれらの栄養素に関連する生命活動について具体例を挙げて説明できる 生体内では常に物質が交代していることを説明できる 代謝とは エネルギーを生み出し 生体成分を作り出す反応であること

1. Caov-3 細胞株 A2780 細胞株においてシスプラチン単剤 シスプラチンとトポテカン併用添加での殺細胞効果を MTS assay を用い検討した 2. Caov-3 細胞株においてシスプラチンによって誘導される Akt の活性化に対し トポテカンが影響するか否かを調べるために シスプラチ

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

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研究の背景と経緯 植物は 葉緑素で吸収した太陽光エネルギーを使って水から電子を奪い それを光合成に 用いている この反応の副産物として酸素が発生する しかし 光合成が地球上に誕生した 初期の段階では 水よりも電子を奪いやすい硫化水素 H2S がその電子源だったと考えられ ている 図1 現在も硫化水素

生物時計の安定性の秘密を解明

プロジェクト概要 ー ヒト全遺伝子 データベース(H-InvDB)の概要と進展

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( 図 ) 自閉症患者に見られた異常な CADPS2 の局所的 BDNF 分泌への影響

計画研究 年度 定量的一塩基多型解析技術の開発と医療への応用 田平 知子 1) 久木田 洋児 2) 堀内 孝彦 3) 1) 九州大学生体防御医学研究所 林 健志 1) 2) 大阪府立成人病センター研究所 研究の目的と進め方 3) 九州大学病院 研究期間の成果 ポストシークエンシン

平成24年7月x日

博第265号

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 松尾祐介 論文審査担当者 主査淺原弘嗣 副査関矢一郎 金井正美 論文題目 Local fibroblast proliferation but not influx is responsible for synovial hyperplasia in a mur


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( 続紙 1 ) 京都大学 博士 ( 薬学 ) 氏名 大西正俊 論文題目 出血性脳障害におけるミクログリアおよびMAPキナーゼ経路の役割に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 脳内出血は 高血圧などの原因により脳血管が破綻し 脳実質へ出血した病態をいう 漏出する血液中の種々の因子の中でも 血液凝固に関

15K14554 研究成果報告書

研究の詳細な説明 1. 背景細菌 ウイルス ワクチンなどの抗原が人の体内に入るとリンパ組織の中で胚中心が形成されます メモリー B 細胞は胚中心に存在する胚中心 B 細胞から誘導されてくること知られています しかし その誘導の仕組みについてはよくわかっておらず その仕組みの解明は重要な課題として残っ

< 用語解説 > 注 1 ゲノムの安定性ゲノムの持つ情報に変化が起こらない安定な状態 つまり ゲノムを担う DNA が切れて一部が失われたり 組み換わり場所が変化たり コピー数が変動したり 変異が入ったりしない状態 注 2 リボソーム RNA 遺伝子 タンパク質の製造工場であるリボソームの構成成分の

スライド 1

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長期/島本1

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スライド 1

博士学位論文審査報告書

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Transcription:

課題番号 LS102 最先端 次世代研究開発支援プログラム 事後評価書 研究課題名 研究機関 部局 職名 氏名 筋収縮によって骨格筋から分泌される生理活性因子の探索と運動調節性筋内分泌の概念の確立首都大学東京 人間健康科学研究科 教授藤井宣晴 研究目的 本研究は 運動がもたらす多様な健康効果は 収縮中の筋細胞から分泌される生理活性因子 ( 総称してマイオカインと呼ばれる myo = 筋 kine = 作動因子 ) によって 全身に生じる という仮説を検証し 従来はホルモン等の分泌器官とは考えられてこなかった骨格筋を中心とする 運動調節性筋内分泌という新概念を確立することを目的としている この目的を実現するために (I) 骨格筋が分泌するマイオカイン ( 主にタンパク質 ) を 独自に開発した培養骨格筋細胞の電気収縮システムを用いて 網羅的に探索する ( プロテオームおよび DNA マイクロアレイ解析 ) (II) 同定されたマイオカインの中から重要な生理機能を持つことが予測されるものを絞り込み 以後の解析の優先順位を決める ( 同定されたマイオカインのホモログを ショウジョウバエの骨格筋特異的にノックダウンする系統を樹立し その表現型 ( 寿命 自発活動量 運動能力 日内リズム 等 ) を観察することで絞り込む ) (III) 絞り込まれたマイオカインについては遺伝子組み換えマウスを作製し 詳細な生理機能を解析する (IV) マイオカインが 筋収縮をトリガーにして骨格筋から分泌されるかを確認する 総合評価 特に優れた成果が得られている 優れた成果が得られている一定の成果が得られている十分な成果が得られていない 所見 1 総合所見目的は明確であり 本研究の着想に至った動機も優れている 中間評価では未達成の部分もみられたが, 研究期間内に当初の検討課題はほぼ達成されたといえる 独自に開発した細胞収縮システムを用いて, 骨格筋から分泌蛋白 45 分子を同定した 同定したマイオカインの中でショウジョウバエにホモログの存在が確認できたも

のは 31 分子であった これらの中から RNAi ノックダウン系統が国際バンクから入手可能だった 21 分子について 筋特異的 RNAi ノックダウン系統を樹立し表現型を確認した その結果 3 系統で寿命が短縮し (Macrophage Migration Inhibitory Factor(MIF) Peroxiredoxin-6 Slit) 1 系統で寿命が延長する ( 分子 A) ことが確認された さらに MIF は骨格筋から分泌されると骨格筋自身に作用して インスリン刺激や AMP キナーゼ活性化によって生じる骨格筋の糖輸送を 抑制することを明らかにした つまり MIF は糖尿病治療の新たな標的分子になり得ることが示された 筋収縮がトリガーとなって調節性に分泌されるマイオカインは少なく (Interleukin-6 と-15) それら以外は構成性に( つまり恒常的に ) 分泌されることが明らかになった 筋収縮による調節性分泌の存在を明らかにしたのは 本研究が初めてである 骨格筋細胞内のカルニチン ( 脂質の一種 ) が 糖代謝を抑制するアセチル CoA と結合して細胞外に一緒に排出されることを示唆し マイオカインの新たな機能の可能性を提示した 研究実施体制 マネジメントはおおむね適切であり 助成金の執行状況は問題ない 2 目的の達成状況 所期の目的が ( 全て達成された 一部達成された 達成されなかった ) 研究は当初の目的をほぼ全てに関して達成したと判断する (I) 網羅的探索独自に開発した細胞収縮システムと プロテオームおよび DNA マイクロアレイ解析を組み合わせ 網羅的探索を行った 検出されたタンパク質分子および遺伝子の配列情報から バイオ インフォマティクスの手法で分泌構造を持つ分子を予測させた その結果 45 分子が骨格筋からの分泌タンパク質 ( マイオカイン ) として同定できた (II) 重要な機能を持つと予測される分子の絞り込み (I) で同定したマイオカインの中でショウジョウバエにホモログの存在が確認できたものは 31 分子であった これらの中から RNAi ノックダウン系統が国際バンクから入手可能だった 21 分子について 筋特異的 RNAi ノックダウン系統を樹立し表現型を確認した その結果 3 系統で寿命が短縮し (Macrophage Migration Inhibitory Factor(MIF) Peroxiredoxin-6 Slit) 1 系統で寿命が延長する ( 分子 A) ことが確認された (III) 遺伝子組み換えマウスの入手 作製と その解析 (II) の結果を受けて 北海道情報大学および北海道大学のグループから MIF ノックアウトマウス (MIF-KO マウス ) を供与され 表現型の解析を行った その結果 MIF は骨格筋から分泌されると骨格筋自身に作用して インスリン刺激や AMP キナーゼ活性化によって生じる骨格筋の糖輸送を 抑制することが明らかになった つまり MIF は糖尿病治療の新たな標的分子になり得ることが示された また Peroxiredoxin-6 を骨格筋特異的に過剰発現させたマウス (Prx6 TG マウス ) も作製した 現在 解析用に F2 世代の繁殖を行うと同時に体重や血糖値などの基礎データを得おり Prx6 TG マウスでは野生型マウスよりも ケージ内行動量が多い傾向が得られている Slit および分子 A については 前者は骨格筋特異的過剰発現マウス 後者は骨格筋特異的ノックアウトマウスを作製しており, 今後の検討が期待される (IV) 筋収縮で分泌されるか

の確認本研究ではこれまでに知られていない 2 つの重要な現象を発見した 1) 培養骨格筋細胞は 培養液を交換しただけで非特異的に過剰な分泌を起こす その量が多いため 非特異的分泌の影響を排除しないと 筋収縮による分泌はマスクされ検出できない ( 偽陰性 ) 2) 収縮で筋細胞が壊れてしまうと 大量の細胞内タンパク質が培養液に漏出し それがあたかも分泌されたかのように観察されてしまう ( 偽陽性 ) 実際に 1) 2) の問題を取り除いた条件でないと 筋収縮による分泌 は検出できないことを見出した 筋収縮がトリガーとなって調節性に分泌されるマイオカインは少なく (Interleukin-6 と-15) それら以外は構成性に( つまり恒常的に ) 分泌されることが明らかになった 筋収縮による調節性分泌の存在を明らかにしたのは 本研究が初めてである 3 研究の成果 これまでの研究成果により判明した事実や開発した技術等に先進性 優位性が ( ある ない ) ブレークスルーと呼べるような特筆すべき研究成果が ( 創出された 創出されなかった ) 当初の目的の他に得られた成果が( ある ない ) I) 網羅的探索 1 独自に開発した培養骨格筋細胞の収縮システムは改良を重ね 現ヴァージョンでは独立した複数の培養皿に同レベルの電流を与え筋収縮を惹起させる この収縮システムは 共同開発した内田電子株式会社 ( 八王子市 ) によって製品化されている 2 開発した細胞収縮システムと プロテオームおよび DNA マイクロアレイ解析を組み合わせ網羅的探索を行った 検出されたタンパク質分子および遺伝子の配列情報から バイオ インフォマティクスの手法で分泌構造を持つ分子を予測させた その結果 45 分子が骨格筋からのマイオカインとして同定できた 3 マイオカインの種類はタンパク質やペプチドに限定されるものではなく アミノ酸 ( 代謝物 ) や脂質 ( 代謝物 ) も含まれることが最近になって明らかになってきた 当初の目的にはなかったものの本研究においても 骨格筋細胞内のカルニチン ( 脂質輸送体の一種 ) が 糖代謝を抑制するアセチル CoA と結合して細胞外に一緒に排出されることを示唆し マイオカインの新たな機能の可能性を提示した (II) 重要な機能を持つと予測される分子の絞り込み (I) で同定したマイオカイン 45 分子の中でショウジョウバエにホモログの存在が確認できたものは 31 分子であった これらの中から RNAi ノックダウン系統が国際バンクから入手可能だった 21 分子について 筋特異的 RNAi ノックダウン系統を樹立し表現型を確認した 骨格筋特異的に発現する転写促進因子 Gal4 系統と その結合配列 UAS 支配下に各マイオカインの RNAi を組み込んだ系統を それぞれ樹立する

ことができた いずれも 7 世代に渡るバッククロスを完了しており遺伝的背景を統一できた 骨格筋特異的な発現ドライヴは UAS-GFP 系統を作製することで確認した その結果 3 つのマイオカイン分子のノックダウン系統で寿命が短縮した (Macrophage Migration Inhibitory Factor (MIF) Slit Peroxiredoxin 6) また 1 系統で寿命が延長する ( 分子 A) ことが確認された (III) 遺伝子組み換えマウスの入手 作製と その解析 1 (II) の結果を受けて 北海道情報大学および北海道大学のグループから MIF ノックアウトマウス (MIF- KO マウス ) を供与され 表現型の解析を行った 野生型マウスから摘出した骨格筋組織に MIF を直接添加しても糖輸送に影響を与えなかった しかしインスリン刺激や AMP キナーゼ (AMPK) 活性化によって骨格筋の糖輸送が促進している状態で MIF を添加すると 糖輸送は抑制された 逆に MIF-KO マウスの骨格筋では インスリンや AMPK の糖輸送促進作用が増強されていた すなわち MIF は骨格筋から分泌されると骨格筋自身に作用して糖輸送を抑制することが明らかになった MIF は糖尿病治療の新たな標的分子になり得ることが示された 2 MIF は Thioredoxin ファミリーに属するが 同ファミリーのメンバーである Glutaredoxin-1, -2, -3 および Peroxyredoxin-1, -2, -4, -6 も骨格筋から分泌されるマイオカインであることを明らかにした これらのマイオカインに MIF の様な糖輸送調節作用は無いが 細胞外のレドックス調節関わる可能性が示唆された 3 Peroxiredoxin-6 を骨格筋特異的に過剰発現させたマウス (Prx6 TG マウス ) を製し 解析用に F2 世代の繁殖を行うと同時に体重や血糖値等の基礎データを取得中である Prx6 TG マウスでは野生型マウスよりもケージ内行動量が多い傾向が得られている (IV) 筋収縮で分泌されるかの確認 1 本研究は 培養骨格筋細胞の分泌に関する 2 つの新たな特徴を見出した I ) 培養骨格筋細胞は培養液を交換すると 1 時間以内に多量のタンパク質を非特異的に分泌するが 一度その現象が生じると数時間たっても非特異的分泌は生じない II ) 筋収縮による分泌は 細胞培養液 (DMEM) 中では抑制されてしまう I ) は多量の非特異的な分泌によって筋収縮による分泌が覆い隠されてしまうことを また II ) は分泌の観察には異なる種類の培地が必要なことを示めす 今回の検討では 非特異的分泌の除去および KRB の使用という 2 つの要素を組み合わせることで 細胞障害マーカー LDH の上昇無しに 収縮による分泌を観察できることを発見した 同様に IL-15 も収縮によって分泌が促進することを見出した また 同条件においても SPARC 等の分泌は上昇しなかったことから 分泌タンパク質には筋収縮によって調節性に分泌される分子と そうでない分子があることが示唆された これらの結果は 筋収縮によるマイオカインの調節性分泌を始めて示すものであり この発見は 分泌のメカニズムを探るための大きな推進力になる

(V) 当初目標以外の研究成果 1 プロテオーム解析や DNA マイクロアレイ解析は データベースを基盤とした網羅的探索法なため ゲノム上ですでにマッピングされている既知の分子中から標的を探索することになる そこで これまでに全く報告されていない新たなマイオカインの発見に挑むため 次世代高速シークエンサーを用いて骨格筋の転写産物の配列を大量に読み取る新たな試みを加えた この方法は発現している mrna の配列を直接に読み取る同定のため ゲノム中で読み落とされているエキソン領域の新規同定 および遺伝子の新規スプライス バリアントの発見が可能で 全く未知の新たなマイオカインを発見できるポテンシャルを有している 健常な成人男性 3 名から筋生検によって外側広筋を得て そこから mrna を抽出した 次世代高速シーケンス解析 (1 次解析 ) はタカラバイオ ドラゴンジェノミクスセンターに依頼した 現在はジナリス社にて 2 次解析中である 2 次解析では 未知の転写産物の中からタンパク質をコードする物を選出することを最大の焦点として 以下のことを行っている 塩基配列の読み枠を 1 個ずらした計 3 つの読み枠でアミノ酸に変換し 明らかな Coding Sequence を有する物 すなわち明確な Kozak 配列があり かつ 24 アミノ酸以上のタンパク質に変換される物 ( データベース最小のタンパク質が 24 アミノ酸 ) を選出する 4 研究成果の効果 研究成果は 関連する研究分野への波及効果が ( 見込まれる 見込まれない ) 社会的 経済的な課題の解決への波及効果が ( 見込まれる 見込まれない ) この研究課題が完成し運動の効果が科学的根拠を持って明確に示されれば 運動の価値を啓発し人々を運動に向かわせるモチベーションを高めることができると考えられる これもライフ イノベーションへの貢献にあたると考えられる また 国が運動を政策として推進する場合にも その有効性が科学的に証明されているのであれば 国家予算を投入する明確な根拠となる 運動による健康産業や予防医学産業の開拓にもつながる 運動処方として生体に適用可能となると 運動で全身に効果的な貢献が可能となり 重要な研究になると思われる 長寿高齢化社会を迎えた日本にとって 適切な運動処方が健康に果たす役割が明確になれば 社会的 経済的に本研究が果たす役割は 特に厚生労働面で大きいと考えられる 特に今後本研究を生かすためには 臨床医学的分野との結びつきも積極的に行って行く必要があると思われる 5 研究実施マネジメントの状況 適切なマネジメントが( 行われた 行われなかった ) 概ね適切である 指摘事項に対しても適切に対処している 論文掲載は 17 件 学会 学会発表は 18 件である 知的財産の出願はない 新聞掲載 1 件 市民への講演も行っている