最優秀賞 内部収益率を活用した金融商品の比較 評価方法と活用事例 川副聖規 相談者から 定期預金が満期になったので それを原資に新たな投資商品を探している いろいろな商品を勧められたがどれが良いかわからない これらを同じモノサシで簡単に比較できないのか と問われた この問いに対し 即座に回答できなかったので 後日回答とさせていただいた いろいろと思考していたところ その答えは意外にも日常行っている設備投資のコンサルティング業務の中で見つけることができた 設備投資の有効性を評価する際 内部収益率 ( 以下 IRR という ) で評価することがあり 金融商品の比較 評価にも活用できる 本稿では IRR の概要と上記相談での活用例を記載する 1. はじめに金融商品等を相互に比較する場合 将来の経済動向 各個人のライフプラン 投資目的などの定性要素と投資時期や投資額 利回りなどの定量要素を総合的に評価する必要があるが 現実にはそれらを客観的に比較して評価するのは難しい そこで これらの要素のうち定量条件について IRR での評価方法を適用すると 性質の異なる金融商品でも投資と収益を上に展開できれば 同一のモノサシで客観的に比較できる 2. 内部収益率 (IRR) とは IRR を説明する前に IRR と関係の深い正味現在価値 ( 以下 DCF という ) を使った評価方法について説明する 不動産投資を行う際などに DCF による投資評価を行うことがある DCF は あらかじめ 割引率 ( 期待利回り ) を設定して 投資とその投資が創出するの現在価値の合計額が投資額より大きければその投資は有効と評価する方法である 以下に DCF の計算式を示す n DCF=Σ n=1 n 年後の収支 (1+ 割引率 ) n IRR は 投資とその投資が創出するの現在価値の合計額が投資額と同じとなる割引率のことである つまり 前述の式で DCF が投資額と同額となる割引率が IRR で この IRR が投資の実質利回りと理解してよい 具体例として 表 -1 に表面金利 1%(1 年複利 金利課税 2%) の定期預金に 1 万円を投資した場合のを示す 1 年複利なのででは 当該年に発生した金利は金利が支払われるのと同時に再投資され それらの金利は満期時に一括して受け取る形で整理される ここで 表 -1 の ( 年収支 ) で IRR を計算すると表の下段に記載のとおり.8% となる 年収支で 1 年目の収益 1,74,344 円を IRR (.8%) で現価計算をすると 1,74,344 円 (1+.8%) 9 年 = 円となり 1 年目の投資額 (- 円 ) と同額となる この式中に示す.8% が IRR で実質利回りと理解してよい 表 -1 金利 1%(1 年複利 ) 定期預金 表面金利 : 1.% 投資額 収益額 金利収入 年収支 1 - - 2-8, 8, 3-8,64 8,64 4-8,128 8,128 5-8,193 8,193 6-8,259 8,259 7-8,325 8,325 8-8,391 8,391 9-8,458 8,458 1 1,65,818 8,526 1,74,344 * 期末基準 内部収益率 (IRR).8% 3. 内部収益率法 (IRR) の活用例冒頭の相談事例で IRR 法の活用例を紹介する なお ここで使用する数値は一般に販売されている金融商品等を参考に筆者が想定 入力し 1
たもので 投資時期や地域 入力条件の設定によりが異なる (1) 相談内容相談内容は 定期預金が満期になり 3 万円が手元にある 1 定期預金 2 太陽光発電での売電収入 3 住宅ローン繰上げ返済 4 ワンルームマンション投資の 4 つの投資を考えている どれに投資したら良いか? ということであった また 高収益を確実に得たいので 国が補助金を出し売電価格を約束している 2 の太陽光発電が良いのではないか と考えているということであった (2) 個々の投資対象の IRR 計算結果表 -2 の 各投資対象商品の表と IRR の内容を以下に示す 1 定期預金 ( 複利 ).4% の利率で 1 年複利の商品なので 税引後の金利を再投資することで 1 年間の IRR は.32% となる 定期預金は 変動 ( リスク ) がなく将来の受取額と時期が確定しているので 他の投資と比較するベースとなる つまり 他の商品の IRR がこの定期預金の IRR より低ければ その投資に有効性はない 2 太陽光発電 ( 売電 ) 以下の条件で設備を設置し 15 年間 売電収益を得る場合の IRR は -.82% となる 設置規模 :4kW( 設備利用率 :11%) 投資額 : 当初設備設置費 18 万円 ( 補助金を考慮 ) 1 年目パワーコンディショナー取替え :2 万円 売電単価 :42 円 /kwh( 当初 1 年 ) 売電収入 : 58, 円 / 年 (11 年目 ~15 年目 ) 投資期間 :15 年 3 住宅ローン繰上げ返済以下の条件の住宅ローン残債があり 現時点で 3 万円を繰上げ返済した場合のローン支払い低減効果額の IRR は 2.% となる なお 住宅ローン減税への影響は軽微なので考慮しない 借入残額 :1, 万円 残期間 :12 年 金利 :2.%( 元利金等返済 固定金利 ) 4 不動産投資 ( 賃貸マンション ) 以下の条件での投資で 1 年間運営後のマンションの売却収入 諸費用も考慮した場合 基本ケース ( 満室率 8%) の IRR は 2.23% 悲観ケース ( 満室率 7%) の IRR は.89% となる 投資額 :26 万円 家賃収入 ( 月額 ):2.8 万円 満室率 : 8%( 基本ケース ) 7%( 悲観ケース ) 初期経費 ( 年額 ):39 万円 年経費 :7.8 万円 臨時経費 (3 年毎 ) :13 万円 1 年後売却価格 :19 万円 (3)IRR での総合評価まず 相談者が最も良いと考えている 2 太陽光発電は 約 1 年後にパワーコンディショナー ( 直流 - 交流変換器 ) の取替え費用が影響し IRR がマイナスとなるため 投資の対象からは外れる そもそも 太陽光発電の魅力は補助金 ( 税金 ) と売電価格 ( 電気料金 ) である 国は設備設置者を助成する仕組みを思考しており 儲けさせる仕組みにはしていないはず 次に 3 の住宅ローンの繰上げ返済であるが 固定金利なので変動リスクがなく IRR が 2.% となり比較のベースである 1 の定期預金よりも効果が大きく有効と評価できる なお 繰上げ返済は債務の低減であり 資産を得るものではないので ここでの視点は 投資による収益ではなく総支出の低減 ( 将来の貯蓄額の増 ) と理解しておく必要がある 最後に 4 のワンルームマンションへの投資であるが 満室率 8% の基本ケースで IRR が 2.23% と前述 3 繰上げ返済と比べて若干高い結果となる しかし 満室率 7% の悲観ケースでの IRR が.89% となるリスクを合わせて考えると推奨できる投資とは考え難い 仮に相談者がこの不動産投資への志向性が強いとしても 不動産投資信託 (REIT) が 5% 程度の利益率を示す現状で 有効な投資と推奨できない したがって IRR での比較 評価では 3 の住宅ローンの繰上げ返済が最も有効と評価できる なお 住宅ローン繰上げ返済で返済期間短縮型での IRR 評価 及び他の金融商品について 2
も IRR で評価してみたが 相談者が思考する 確実な収益性 を考慮すると 3 住宅ローンの繰上げ返済と比べて有効性のある商品にはたどり着けなかった 表 -2 各投資対象商品の表と IRR 1 定期預金 ( 複利 ) 経過年 投資額 金利収益 ( 税引後 ) - - 1-9,6 9,6 期間 1 年 2-9,631 9,631 初期投資額 - 円 3-9,662 9,662 利回り.4% 4-9,692 9,692 税率 2% 5-9,723 9,723 6-9,755 9,755 7-9,786 9,786 8-9,817 9,817 9-9,849 9,849 内部収益率 (IRR).32% 1 3,97,394 3,97,394 2 太陽光発電 ( 売電 ) 経過年 投資額 売電収入 -1,8, -1,8, 1 161,885 161,885 期間 15 年 2 161,885 161,885 初期投資額 -1,8, 円 3 161,885 161,885 発電出力 4kW 4 161,885 161,885 発電利用率 11.% 5 161,885 161,885 PC 取替え費用 -2, 円 6 161,885 161,885 *PC: ハ ワーコンテ ィショナー ( 耐用年 :1 年 ) 1 年目に取替えが必要 7 161,885 161,885 8 161,885 161,885 9 161,885 161,885 売電単価 (1 年目まで 42 円 /kwh 1-2, 161,885-38,115 売電収入 (11 年以降 ) 58, 円 11 58, 58, 発電期間 ( 年 ) 15 年 12 58, 58, 廃棄物処理費 円 13 58, 58, 14 58, 58, 内部収益率 (IRR) -.82% 15 58, 58, 経過年支払額 ( 現状 ) 支払額 ( 繰上返済 ) 3 住宅ローン繰上げ返済 - - 1 945,596 661,917 283,679 借入残額 1,, 円 2 945,596 661,917 283,679 借入残期間 12 年 3 945,596 661,917 283,679 借入金利 2.% 4 945,596 661,917 283,679 繰上げ返済額 円 5 945,596 661,917 283,679 返済方法 元利均等返済 6 945,596 661,917 283,679 繰上げ返済方法 返済額軽減 7 945,596 661,917 283,679 8 945,596 661,917 283,679 9 945,596 661,917 283,679 1 945,596 661,917 283,679 11 945,596 661,917 283,679 内部収益率 (IRR) 2.% 12 945,596 661,917 283,679 4-1 不動産投資 ( 賃貸マンション ) 基本ケース 経過年 投資額 家賃収入 -2,99, -2,99, 1-78, 268,8 19,8 期間 1 年 2-78, 268,8 19,8 初期投資額 -2,6, 円 3-78, 268,8 19,8 初期経費 ( 年額 ) -39, 円 4-28, 268,8 6,8 年経費 -78, 円 5-78, 268,8 19,8 臨時経費 (3 年毎 ) -13, 円 6-78, 268,8 19,8 家賃収入 ( 月額 ) 28, 円 7-78, 268,8 19,8 満室率 8% 8-28, 268,8 6,8 1 年後売却価格 1,9, 円 9-78, 268,8 19,8 内部収益率 (IRR) 2.23% 1-78, 2,168,8 2,9,8 4-2 不動産投資 ( 賃貸マンション ) 悲観ケース 経過年 投資額 家賃収入 -2,99, -2,99, 1-78, 235,2 157,2 期間 11 年 2-78, 235,2 157,2 初期投資額 -2,6, 円 3-78, 235,2 157,2 初期経費 ( 年額 ) -39, 円 4-28, 235,2 27,2 年経費 -78, 円 5-78, 235,2 157,2 臨時経費 (4 年毎 ) -13, 円 6-78, 235,2 157,2 家賃収入 ( 月額 ) 28, 円 7-78, 235,2 157,2 満室率 7% 8-28, 235,2 27,2 11 年後売却価格 1,9, 円 9-78, 235,2 157,2 内部収益率 (IRR).89% 1-78, 2,135,2 2,57,2 4,, - - - -4,, 収支 - 額 - - - - -4,, - - - - - -4,, - - - -4,, 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 11 12 13 14 15 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 1 11 11 12 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 3
(4) 相談者へのアドバイス今回 相談者からの質問に対しては 前述までの説明で一応の回答は整うが FP のアドバイスとしては 冒頭記載のとおり 相談者の定性的な状況を加味する必要がある 相談者との面談で 4 年後の子供の大学進学に備えて 学資保険に加入しているものの 教育資金が心配である リスクのない確実な収益を確保したい とのお話があった そこで ライフプランに基づく表の作成と保険の加入状況を整理し以下の検討を加えた なお 住宅ローンが固定金利なので 将来 市中金利上昇時に 定期預金の有効性が出てくる可能性もあり 段階的に繰上げ返済する方法もある 旨説明したが 相談者は 3 万円を 1 度に繰上げ返済する方法を選択された a. 繰上げ返済 の大学進学費用への影響繰上げ返済は 住宅ローン総額の低減効果はあるが その効果が現れるのに一定期間を要する 今回 3 万円の繰上げ返済により年間 283,679 円の返済額低減となる つまり 3 万円の返済効果は約 11 年後に現れるので 繰上げ返済後約 1 年間は貯蓄に対しマイナスに作用する もし 直近で教育費など相当額の現金が貯蓄額以上に必要となる場合は 別の借入が発生するなど むしろ家計には厳しく作用することもある 相談者の表を見ると 幸いなことに子供の大学進学時点で十分な貯蓄を確保できる見込みであったため 繰上げ返済の実行について問題はないと評価した b. 繰上げ返済によるリスク評価相談者は団体信用生命保険に加入されており 繰上げ返済によりその死亡保障も低下することが懸念された これについては必要十分な保険に加入されていることを確認できたので問題ないと評価した c. 学資保険契約内容と相談者のニーズとの合致学資保険についての相談者の理解とニーズは貯蓄であり また 別の保険で子供のケガなどへの保障も十分であることも分かった この状況を踏まえ 学資保険 の内 特約部分は不要と評価し解約した場合の効果を IRR で計算した結果 表 -3 に示すとおり 現状の運用利回り.279% が.436% に向上することが評価できたのでアドバイスに加えた 表 -3 学資保険による内部収益率 (IRR) 評価 年 保険料支払額 特約分 満期保険額 計 H9-116,91-8,64-125,55 H1-155,88-11,52-167,4 H11-155,88-11,52-167,4 H12-155,88-11,52-167,4 H13-155,88-11,52-167,4 H14-155,88-11,52-167,4 H15-155,88-11,52-167,4 H16-155,88-11,52-167,4 H17-155,88-11,52-167,4 H18-155,88-11,52-167,4 H19-155,88-11,52-167,4 H2-155,88-11,52-167,4 H21-155,88-11,52-167,4 H22-155,88-11,52-167,4 H23-155,88-11,52-167,4 H24-155,88-11,52-167,4 H25-155,88-11,52-167,4 H26-116,91-8,64 2,874,45 内部収益率 (IRR).279% 現状の 年 保険料支払額 特約分 満期保険額 計 H9-116,91-8,64-125,55 H1-155,88-11,52-167,4 H11-155,88-11,52-167,4 H12-155,88-11,52-167,4 H13-155,88-11,52-167,4 H14-155,88-11,52-167,4 H15-155,88-11,52-167,4 H16-155,88-11,52-167,4 H17-155,88-11,52-167,4 H18-155,88-11,52-167,4 H19-155,88-11,52-167,4 H2-155,88-11,52-167,4 H21-155,88-11,52-167,4 H22-155,88-11,52-167,4 H23-155,88-2,88-158,76 H24-155,88-155,88 H25-155,88-155,88 H26-116,91 2,883,9 内部収益率 (IRR).436% H23~ 満期まで特約を解約した場合の 4
4. まとめほとんどの金融商品は 投資額 投資時期などに係らず IRR というモノサシで相互に比較 評価できる また IRR は Excel で簡単に計算できるため 入力条件を変えることで 金融商品の最適設計にも活用できる つまり IRR は金融商品の相互比較 評価 及び最適設計に力を発揮するツールである ただし 入力条件次第で IRR は変わるため 不動産投資のように入力条件に幅があるような投資には基本ケースと悲観ケースの 2 段階 または 3 段階で評価する方が望ましい IRR での評価方法は FP のアドバイスツールとして有効である 不動産の投資評価 金融商品の比較 評価 保険の最適設計などに活用されることを推奨する 5