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九州における液状化リスクマップの構築に関する研究 笠間清伸 九州大学大学院工学研究院社会基盤部門 概要 : 本研究では, 液状化に起因する地盤沈下に着目し, 地盤物性のばらつきを考慮できる地盤の液状化被害率曲線を提案した. さらに, 提案した液状化被害率曲線および九州地盤情報共有データベースをもとに, 福岡市を対象とした液状化ハザードならびにリスクマップを構築した. 得られた液状化ハザードマップと液状化リスクマックを用いて, 液状化リスクの高い地域の特定が可能となった.. はじめに近年, 設計に用いられる最大想定地震動よりも, はるかに大きな地震が世界各地で発生しており, 港湾構造物や海上空港などの災害リスクや危機管理への対応は, 重要な社会的課題となっている. 特に, 地震時に発生する地盤の液状化は, 建物の崩壊, 地盤および土木構造物の不等沈下, 変形, 側方流動など様々な被害をもたらし, 社会 経済的に甚大な損害をもたらす結果となる.20 年に発生した東日本大震災でも, 東京湾の沿岸域を中心にして 地盤の液状化が発生し それによる埋立地, 特に戸建住宅地盤において噴砂, 地盤沈下および側方流動などの大規模かつ広域的被害が発生した それに伴い, 地震保険の判定基準が新たに見直され, 液状化による傾斜 沈下量に応じて, 宅地の被害評価が行われるようになった. 本研究では, 液状化に起因する地盤沈下に着目し, 地盤物性のばらつきを考慮できる地盤の液状化被害率曲線を提案した. さらに, 提案した液状化被害率曲線および九州地盤情報共有データベースをもとに, 福岡市を対象とした液状化ハザードならびにリスクマップを構築した. 2. 地盤の液状化被害率曲線本研究では, 地盤強度のばらつきが液状化被害に与える影響を評価するために, 地盤の非線形地震応答解析を行った. プログラムには FLIP ) を使用した. 土の応力 - ひずみとして, 双曲線モデルを組み合わせたマルチスプリングを用いた. 地盤物性のばらつきが応答におよぼす影響の検討領域として, 高さ 20m, 幅 20m, 要素サイズ.0m.0m の地盤を図 - のように作成した. また, 表 - に解析条件を示す. 一軸圧縮強さ q u の自己相関距離 は, 非常に小さい条件 random と設定した 2). 入力地震は,2005 年に発生した福岡西方沖地震で観測された南北方向 20m 対象領域 20m(=.0 20) 図 - 解析地盤 表 - 解析条件 一軸圧縮強度 qu kpa 50~250 COV qu 0.2~.0 自己相関距離 m random ポアソン比 v 0.33 密度 t/m 3.89 最大減衰定数 h max 0.5 内部摩擦角 30 単位体積重量 kn/m 3 8.5 有効単位体積重量 kn/m 3 8.5 深度 Z(m) 水平方向 X(m) 図 -2 液状化安全率分布 の加速度波形を用いた. そして, 最大入力地震加速度を 50 ~ 300gal とした. 地盤強度のばらつきの指標には, 式 () より算出される平均液状化安全率 F La を用いた. 図 -2 に地盤内の F L の分布を示す 3). FLa 400 FLi i Number[ allelement] ()

図 -3 に平均液状化安全率 F La と地震外力 の関係を示す. いずれの平均地盤強度においても, 地震外力 が増加するほど, 平均液状化安全率 F La は減少した. 平均液状化安全率 F La が.0 を下回る地震外力 は,50kPa の地盤で 75 gal, 00kPa の地盤で 250gal となり,50kPa 以上の地盤では 300gal においても平均液状化安全率 F La は.0 以上を保持した. ただし,50kPa の地盤において地震外力 200gal で平均液状化安全率 F La が上昇する結果となった. これは, 本研究が行った, 信頼性解析手法の一つであるモンテカルロ シミュレーションの誤差によるものと考えられる. 地震時において各要素に作用する繰返しせん断応力比 L は, 道路橋示方書をもとに地表面最大加速度 max を用いて算出した. さらに液状化に起因する地盤のせん断強度 f の低減を表現するため, 地震により上昇した間隙水圧 u を, 共同溝設計指針で示された式 (2) より決定した. 平均液状化安全率 F La 4.5 4 3.5 3 200kPa 地盤平均強度 = 250kPa 2.5 2.5 50kPa 00kPa 50kPa 0.5 00 50 200 250 300 地震外力 (gal) 図 -3 平均液状化安全率算出結果 u / ( F 7 L ) (2) 図 -4 支持力解析地盤地盤平均強度 = 50kPa 最後に, 式 (3) より得られたせん断強度 f を入力値として, 地盤の極限支持力 q f を解析し, 液状化による を式 (4) により算出した 4),5). ( u / ) tan f (3) 0.8 0.2 00kPa 50kPa 200kPa 250kPa 地震 液状化時の支持力 00 00 平常時の鉛直支持力 (4) 図 -5 に地盤の と地震外力 の関係を示す. 地震外力 が増加するほど, いずれの平均地盤強度においても は上昇した. 地震外力 300gal において,50kPa の地盤は が.0, つまり全壊するのに対し,250kPa の地盤は 程度に抑えることが出来る. 図 -6 に地盤強度の変動係数 COV qu の と平均液状化安全率 F La の関係を示す. 平均液状化安全率 F La の減少にともなって, は増加した. 図内には, 支持力低減率 と平均液状化安全率 F La が対数正規分布に従うと仮定し, 作成した近似曲線の結果も示す. この結果より, 平均液状化安全率 F La が.0 を上回る場合でも, 局所的な液状化に起因して支持力 0 00 50 200 250 300 地震外力 (gal) 図 -5 支持力低減率算出結果 0.8 COV qu =.0 0.2 0 0 2 3 4 平均液状化安全率 F La 図 -6 支持力低減率 - 平均液状化安全率

表 -2 地震保険基準による被害率 地震保険基準 被害状況 ( 沈下量 ) 被害率 全壊 30cm 超 00% 大規模半壊 25~30cm 75% 半壊 5cm~25cm 50% 一部損壊 0cm~5cm 5% 表 -3 警固断層南東部パラメータ マグニチュード 7.2 断層上端深さ km モーメントマグニチュード 6.9 断層原点 北緯 33.479 東経 30.523 被害率 K 0.8 0.2 0cm 5cm 初期許容沈下量 = 2cm 0 0 0.2 0.8 図 -7 液状化被害率曲線 が低減することが分かる. 変動係数 の地盤では平均液状化安全率 F La が.0 において, 支持力が 50% 低減した. 地盤のばらつきを考慮した場合, 変動係数 では平均液状化安全率 2.0 以上,.0 では 3 以上にすることで液状化を防ぐ結果となった. 本研究では, 地盤のばらつきの指標として COV qu = を用いた. 本研究では, 液状化被害の指標に沈下量を選択し, 液状化による地盤の沈下量 S を式 (5) より算出した. S ' S S Kiq f ( q / q f ) S ' ' Kiq f ( q f / q f q / q f ) S (5) ここで,S は初期地盤沈下量,q は構造物の重量,q f は平常時における地盤の極限支持力,K i は初期地盤反力係数であり, 各記号にダッシュをつけたものが液状化時のものである.q f / q f は, 液状化による に等しく,q f /q は設計時における構造物の支持力安全率 F Si に相当する. したがって, 液状化による地盤の沈下量 S は, 以下の式で表される. S Ki( )( / F ) Si S ' Ki( / FSi ) (6) 地盤物性のばらつき Monte Carlo Simulation 2 次元地震応答解析 (FLIP) 平均液状化安全率 F La 地盤データ 次元地震応答解析 (SHAKE) 地表面最大加速度平均液状化安全率 Numerical Limit Analysis 被害率 K(F La ) 液状化リスク沈下量 S / S R = K(F La ) C 図 -8 液状化リスクマップ作成フロー A max F La 最後に, 式 (6) より算出した沈下量を用いて, 表 -2 に示した地震保険の液状化被害に関する判定基準をもとに被害率 K(F La ) を算出し, 液状化被害率曲線を作成した. 図 -7 に初期許容沈下量ごとの液状化被害率曲線を示す. プロット点は, 地震保険の基準をもとに算出した支持力低減率と被害率の算出結果である. この結果をもとに, 対数正規分布で仮定した近似曲線が, 本研究の液状化被害率曲線である. 初期許容沈下量 0cm の地盤では支持力低減率が 0.22 となった時, 半壊し,5 で全壊となる. 一方, 初期許容沈下量 5cm の地盤では,5 で半壊,0.8 で全壊という結果となった. 地震保険では, 図内のプロット点で示す 4 段階での評価であったのに対し, 被害率曲線の算出により, 詳細な定量評価が可能となった. 一般に, 初期許容沈下量は市街地で 0cm とされる. 本研究では, 初期許容沈下量 0cm の被害率曲線を採用し, 福岡市を対象としたリスクマップを作成するのに使用した. 3. 地盤のばらつきを考慮した液状化リスクマップの作成図 -8 に本研究の液状化リスクマップ作成フローを示す. 液状化リスクマップの作成において, 液状化リスク R( 液状化に起因した損失期待値 ) を, 地盤物性のばらつきを考慮した地盤の被害率 K(F La ) に, 資産額 C を乗じた式 (7) で定義した. P K( FLa ) C (7)

地表面最大加速度 0gal 300gal 図 -9 地表面最大加速度マップ 平均液状化安全率 3.00 0.00 図 -0 F La ハザードマップ 表 -4 地盤統計値 湿潤単位体積重量 細粒分含有率 平均粒径 COV COV COV 礫質土.73 0.0 2. 0.038.895 砂質土.58 0.0 2 0.044.772 粘性土.6 88.7 0. シルト.56 84.2 0.2 0.038.835 粘土.83 85.3 0.2 0.033.843 有機質土.66 57.8 0.07 39 火山灰質粘性土.64 0.03 54.3 0.5 0.05 0.945 高有機質土 2.4 37.0 0.9 岩石材料 2.06 5.3 0.7 0.09 0.555 地盤の被害率 K は図 -6 と図 -7 を用いて. 地盤の平均的な液状化安全率 F La によって決定すると仮定した. 本研究では提案した被害率曲線を用いて, 地盤物性のばらつきを考慮した福岡市液状化ハザードマップを作成した. 一般に液状化ハザードマップには液状化指数 P L 値が用いられるが, 図 -6 より地盤のばらつきを考慮した場合, 安全率が.0 を上回った場合でも, 支持力が低減した. したがって, 本研究では平均液状化安全率 F La

リスク ( 億円 ) 0 ~ 50 50 ~ 500 500 ~ 000 000 ~ 2000 2000 ~ 3000 図 - 福岡地域資産マップ 資産 ( 億円 ) 0 ~ 50 50 ~ 500 500 ~ 000 000 ~ 2000 2000 ~ 3000 図 -2 液状化ハザードマップ を指標としたハザードマップを作成した. そして, 式 () により算出した液状化リスク R により, 液状化リスクマップを作成した. 対象地震動は, 地震調査員会で想定される警固断層南東部とした. 地震応答解析に用いた地震データを表 -3 に示す. また, 九州地盤情報共有データベース ( ボーリングデータ数 :4,896 本 ) より, 各地点の地盤データを抽出し, 液状化判定を行った. 液状化判定プログラムには一次元地震応答解析プログラム SHAKE を用いた. 土質パラメータは, データベースを利用し, 地盤情報の統計値とした. 表 -4 に土質データの統計値を示す. 資産額 C の算出には, 本研究グループが行った, 福岡県資産マップの構築に用いたデータを利用した. 図 -9 に SHAKE により算出した地表面最大加速度マップを示す. ボーリング情報のない地点についてはクリンギング法による内挿を行った. 警固断層付近および沿岸部で大きな地表面加速度が得られた. 図 -0 に平均液状化安全率 F La を指標としたハザードマップを示す. この結果より, 福岡市内ほぼ全域が平均液状化安全率 F La が.5 を下回る

結果となった. 図 -6 の結果において前述したが, 地盤のばらつきを考慮した場合, 平均液状化安全率 F La が 3.0 以下の地盤は支持力が低下する. したがって, 今回想定した警固断層南東部地震において, 福岡市の全域で, いくらかの液状化被害の可能性があることが分かる. 図 -2 に, 図 - に示す福岡地域資産マップおよび被害率 K(F La ) より算出した液状化リスクマップを示す. この結果より, 資産価値の高いとされる地域の中でも特にリスクの高い地域を特定することが可能となった. 特にリスクの高いとされる地域は, 警固断層付近の中央区および早良区の一部地域と特定され, リスク額は 2000 億円を上回った. 数値極限解析を用いた固化処理地盤の地震時支持力特性, 第 9 回地盤改良シンポジウム論文集, pp.345-350,200. 4. まとめ本研究では, 地盤強度のばらつきを考慮した液状化被害率曲線を提案し, 地盤情報共有データベースを利用した, 福岡市液状化ハザードマップならびにリスクマップを作成した. 得られた結論を以下に示す. ) 被害率曲線の提案により, 地震保険では 4 段階で評価されていた液状化被害率を, より定量的に評価することが可能となった. 構造物の初期沈下量が 0cm とされている市街地では, 支持力が約 25% 低下すると, 上部構造物は半壊し,80% 低下したところで全壊する. 2) 地盤のばらつきを考慮した液状化リスクマップの作成により, リスクの高い地域の特定が可能となった. 福岡市において, 液状化リスクが高いとされる地域は, 中央区および早良区と特定され,2000 億円を超えるリスクを保有することが判明した. 参考文献 ) Iai, S., Matsunaga, Y., & Kameoka, T.: Strain Space Plasticity Model for Cyclic Mobility, Report of the Harbour Research Institute, Vol.29, pp.27-56. 990. 2) Larsson, S., Stille, H. & Ollson, L.: On horizontal variability in limecement columns in deep mixing, Geotechnique, 55(), pp.33-44, 2005 3) 片岡範夫 : 地盤物性に空間的不均質性を有する固化処理地盤の液状化リスク, 自然災害科学研究西部地区部会報,200 4) 忽那惇, 善功企, 陳光斉, 笠間清伸 : 局所的液状化を考慮した砂地盤の支持力解析, 第 8 回地盤改良シンポジウム論文集,pp.237-240,2008 5) 笠間清伸, 善功企, 陳光斉, 久米英輝 : 確率