<4D F736F F D F4390B388C4817A C A838A815B8358>

Similar documents
図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

報道発表資料 2006 年 6 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 アレルギー反応を制御する新たなメカニズムを発見 - 謎の免疫細胞 記憶型 T 細胞 がアレルギー反応に必須 - ポイント アレルギー発症の細胞を可視化する緑色蛍光マウスの開発により解明 分化 発生等で重要なノッチ分子への情報伝達

のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

ごく少量のアレルゲンによるアレルギー性気道炎症の発症機序を解明

2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

図アレルギーぜんそくの初期反応の分子メカニズム

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

<4D F736F F D20322E CA48B8690AC89CA5B90B688E38CA E525D>

Microsoft Word - 最終:【広報課】Dectin-2発表資料0519.doc

汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

報道発表資料 2007 年 4 月 30 日 独立行政法人理化学研究所 炎症反応を制御する新たなメカニズムを解明 - アレルギー 炎症性疾患の病態解明に新たな手掛かり - ポイント 免疫反応を正常に終息させる必須の分子は核内タンパク質 PDLIM2 炎症反応にかかわる転写因子を分解に導く新制御メカニ

統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

Untitled

化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

八村敏志 TCR が発現しない. 抗原の経口投与 DO11.1 TCR トランスジェニックマウスに経口免疫寛容を誘導するために 粗精製 OVA を mg/ml の濃度で溶解した水溶液を作製し 7 日間自由摂取させた また Foxp3 の発現を検討する実験では RAG / OVA3 3 マウスおよび

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

本研究成果は 2015 年 7 月 21 日正午 ( 米国東部時間 ) 米国科学雑誌 Immunity で 公開されます 4. 発表内容 : < 研究の背景 > 現在世界で 3 億人以上いるとされる気管支喘息患者は年々増加の一途を辿っています ステロイドやβ-アドレナリン受容体選択的刺激薬の吸入によ

研究成果の概要 今回発表した研究では 独自に開発した B 細胞初代培養法 ( 誘導性胚中心様 B (igb) 細胞培養法 ; 野嶋ら, Nat. Commun. 2011) を用いて 膜型 IgE と他のクラスの抗原受容体を培養した B 細胞に発現させ それらの機能を比較しました その結果 他のクラ

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

スライド 1

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

研究の詳細な説明 1. 背景細菌 ウイルス ワクチンなどの抗原が人の体内に入るとリンパ組織の中で胚中心が形成されます メモリー B 細胞は胚中心に存在する胚中心 B 細胞から誘導されてくること知られています しかし その誘導の仕組みについてはよくわかっておらず その仕組みの解明は重要な課題として残っ

<4D F736F F D DC58F49288A6D92E A96C E837C AA8E714C41472D3382C982E682E996C D90A78B408D5C82F089F096BE E646F6378>

<4D F736F F D208DC58F498F4390B D4C95F189DB8A6D A A838A815B C8EAE814095CA8E86325F616B5F54492E646F63>

60 秒でわかるプレスリリース 2006 年 4 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 敗血症の本質にせまる 新規治療法開発 大きく前進 - 制御性樹状細胞を用い 敗血症の治療に世界で初めて成功 - 敗血症 は 細菌などの微生物による感染が全身に広がって 発熱や機能障害などの急激な炎症反応が引き起

別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手

2019 年 3 月 28 日放送 第 67 回日本アレルギー学会 6 シンポジウム 17-3 かゆみのメカニズムと最近のかゆみ研究の進歩 九州大学大学院皮膚科 診療講師中原真希子 はじめにかゆみは かきたいとの衝動を起こす不快な感覚と定義されます 皮膚疾患の多くはかゆみを伴い アトピー性皮膚炎にお

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

結果 この CRE サイトには転写因子 c-jun, ATF2 が結合することが明らかになった また これら の転写因子は炎症性サイトカイン TNFα で刺激したヒト正常肝細胞でも活性化し YTHDC2 の転写 に寄与していることが示唆された ( 参考論文 (A), 1; Tanabe et al.

年219 番 生体防御のしくみとその破綻 (Immunity in Host Defense and Disease) 責任者: 黒田悦史主任教授 免疫学 黒田悦史主任教授 安田好文講師 2中平雅清講師 松下一史講師 目的 (1) 病原体や異物の侵入から宿主を守る 免疫系を中心とした生体防御機構を理


汎発性膿庖性乾癬の解明

難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

制御性 T 細胞が大腸がんの進行に関与していた! 腸内細菌のコントロールによる大腸がん治療に期待 研究成果のポイント 免疫細胞の一種である制御性 T 細胞 1 が大腸がんに対する免疫を弱めることを解明 逆に 大腸がんの周辺に存在する FOXP3 2 を弱発現 3 する細胞群は がん免疫を促進すること

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

記 者 発 表(予 定)

<4D F736F F D DC58F4994C5817A C A838A815B83588CB48D F4390B3979A97F082C882B5816A2E646F6378>

<4D F736F F F696E74202D DC58F4988C4817A82B93F82F182BB82AD83743F838C815B834C8C6F984894AD8CA C668DDA E >

Microsoft PowerPoint - 新技術説明会配付資料rev提出版(後藤)修正.pp

RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

<4D F736F F D F D F095AA89F082CC82B582AD82DD202E646F63>

Microsoft Word - PRESS_

考えられている 一部の痒疹反応は, 長時間持続する蕁麻疹様の反応から始まり, 持続性の丘疹や結節を形成するに至る マウスでは IgE 存在下に抗原を投与すると, 即時型アレルギー反応, 遅発型アレルギー反応に引き続いて, 好塩基球依存性の第 3 相反応 (IgE-CAI: IgE-dependent

るマウスを解析したところ XCR1 陽性樹状細胞欠失マウスと同様に 腸管 T 細胞の減少が認められました さらに XCL1 の発現が 脾臓やリンパ節の T 細胞に比較して 腸管組織の T 細胞において高いこと そして 腸管内で T 細胞と XCR1 陽性樹状細胞が密に相互作用していることも明らかにな

られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

論文の内容の要旨

4. 発表内容 : [ 研究の背景 ] 1 型糖尿病 ( 注 1) は 主に 免疫系の細胞 (T 細胞 ) が膵臓の β 細胞 ( インスリンを産生する細胞 ) に対して免疫応答を起こすことによって発症します 特定の HLA 遺伝子型を持つと 1 型糖尿病の発症率が高くなることが 日本人 欧米人 ア

< 研究の背景と経緯 > 私たちの消化管は 食物や腸内細菌などの外来抗原に常にさらされています 消化管粘膜の免疫系は 有害な病原体の侵入を防ぐと同時に 生体に有益な抗原に対しては過剰に反応しないよう巧妙に調節されています 消化管に常在するマクロファージはCX3CR1を発現し インターロイキン-10(

卵管の自然免疫による感染防御機能 Toll 様受容体 (TLR) は微生物成分を認識して サイトカインを発現させて自然免疫応答を誘導し また適応免疫応答にも寄与すると考えられています ニワトリでは TLR-1(type1 と 2) -2(type1 と 2) -3~ の 10

く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

界では年間約 2700 万人が敗血症を発症し その多くを発展途上国の乳幼児が占めています 抗菌薬などの発症早期の治療法の進歩が見られるものの 先進国でも高齢者が発症後数ヶ月の 間に新たな感染症にかかって亡くなる例が多いことが知られています 発症早期には 全身に広がった感染によって炎症反応が過剰になり

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 佐藤雄哉 論文審査担当者 主査田中真二 副査三宅智 明石巧 論文題目 Relationship between expression of IGFBP7 and clinicopathological variables in gastric cancer (

生物時計の安定性の秘密を解明

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

< 背景 > HMGB1 は 真核生物に存在する分子量 30 kda の非ヒストン DNA 結合タンパク質であり クロマチン構造変換因子として機能し 転写制御および DNA の修復に関与します 一方 HMGB1 は 組織の損傷や壊死によって細胞外へ分泌された場合 炎症性サイトカイン遺伝子の発現を増強

Untitled

研究の詳細な説明 1. 背景病原微生物は 様々なタンパク質を作ることにより宿主の生体防御システムに対抗しています その分子メカニズムの一つとして病原微生物のタンパク質分解酵素が宿主の抗体を切断 分解することが知られております 抗体が切断 分解されると宿主は病原微生物を排除することが出来なくなります

ランゲルハンス細胞の過去まず LC の過去についてお話しします LC は 1868 年に 当時ドイツのベルリン大学の医学生であった Paul Langerhans により発見されました しかしながら 当初は 細胞の形状から神経のように見えたため 神経細胞と勘違いされていました その後 約 100 年

Microsoft Word - 【変更済】プレスリリース要旨_飯島・関谷H29_R6.docx

RN201402_cs5_0122b.indd

平成14年度研究報告

平成24年7月x日

ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク (FABP)4 FABP 5 の影響 糖尿病 肥満の病態解明と脂肪幹細胞再生治療への可能性 ポイント 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP5( 表皮型 ) が発現亢進し 分泌されることを確認しました トランスク

第6号-2/8)最前線(大矢)

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

研究内容 心不全は 心臓の筋肉が障害されることにより心臓のポンプ機能が低下し 肺や全身の臓器に必要な血液量を送り出すことができない病態です 心不全患者の一部において 左心房の血圧の上昇が肺に血液を送り出す動脈 ( 肺動脈系 ) に影響し 肺動脈の収縮や肥厚 ( リモデリング ) が引き起こされ 肺高

平成 2 3 年 2 月 9 日 科学技術振興機構 (JST) Tel: ( 広報ポータル部 ) 慶應義塾大学 Tel: ( 医学部庶務課 ) 腸における炎症を抑える新しいメカニズムを発見 - 炎症性腸疾患の新たな治療法開発に期待 - JST 課題解決型基

研究の背景と経緯 植物は 葉緑素で吸収した太陽光エネルギーを使って水から電子を奪い それを光合成に 用いている この反応の副産物として酸素が発生する しかし 光合成が地球上に誕生した 初期の段階では 水よりも電子を奪いやすい硫化水素 H2S がその電子源だったと考えられ ている 図1 現在も硫化水素

<4D F736F F D DC58F4994C A5F88E38A D91AE F838A838A815B835895B68F FC189BB8AED93E089C82D918189CD A2E646F63>

平成24年7月x日

平成24年7月x日

平成 29 年 6 月 9 日 ニーマンピック病 C 型タンパク質の新しい機能の解明 リソソーム膜に特殊な領域を形成し 脂肪滴の取り込み 分解を促進する 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長門松健治 ) 分子細胞学分野の辻琢磨 ( つじたくま ) 助教 藤本豊士 ( ふじもととよし ) 教授ら

<4D F736F F D F4390B38CE3816A90528DB88C8B89CA2E646F63>

2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

<4D F736F F D EA95948F4390B3817A938C91E F838A838A815B835895B68F F08BD682A082E8816A5F8C6F8CFB939C F

胞運命が背側に運命変換することを見いだしました ( 図 1-1) この成果は IP3-Ca 2+ シグナルが腹側のシグナルとして働くことを示すもので 研究チームの粂昭苑研究員によって米国の科学雑誌 サイエンス に発表されました (Kume et al., 1997) この結果によって 初期胚には背腹

1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

Peroxisome Proliferator-Activated Receptor a (PPARa)アゴニストの薬理作用メカニズムの解明

< 研究の背景と経緯 > ヒトの腸管内には 500 種類以上 総計 100 兆個以上の腸内細菌が共生しており 腸管からの栄養吸収 腸の免疫 病原体の感染の予防などに働いています 一方 遺伝的要因 食餌などを含むライフスタイル 病原体の侵入などや種々の医療的処置などによって腸内細菌のバランスが乱れると

いることが推測されました そこで東京大学医科学研究所の氣駕恒太朗特任研究員 三室仁美 准教授と千葉大学真菌医学研究センターの笹川千尋特任教授らの研究グループは 胃がんの発 症に深く関与しているピロリ菌の感染現象に着目し その過程で重要な役割を果たす mirna を同定し その機能を解明しました スナ

統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異の同定と病態メカニズムの解明 ポイント 統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異 (CNV) が 患者全体の約 9% で同定され 難病として医療費助成の対象になっている疾患も含まれることが分かった 発症に関連した CNV を持つ患者では その 40%

博士学位論文審査報告書

るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

Microsoft PowerPoint - 資料6-1_高橋委員(公開用修正).pptx

本成果は 以下の研究助成金によって得られました JSPS 科研費 ( 井上由紀子 ) JSPS 科研費 , 16H06528( 井上高良 ) 精神 神経疾患研究開発費 24-12, 26-9, 27-

共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

平成 28 年 12 月 12 日 癌の転移の一種である胃癌腹膜播種 ( ふくまくはしゅ ) に特異的な新しい標的分子 synaptotagmin 8 の発見 ~ 革新的な分子標的治療薬とそのコンパニオン診断薬開発へ ~ 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 髙橋雅英 ) 消化器外科学の小寺泰

ストレスが高尿酸血症の発症に関与するメカニズムを解明 ポイント これまで マウス拘束ストレスモデルの解析で ストレスは内臓脂肪に慢性炎症を引き起こし インスリン抵抗性 血栓症の原因となることを示してきました マウス拘束ストレスモデルの解析を行ったところ ストレスは xanthine oxidored

<4D F736F F D208DC58F4994C581798D4C95F189DB8A6D A C91E A838A838A815B83588CB48D EA F48D4189C88

平成18年3月17日

Microsoft Word - 運動が自閉症様行動とシナプス変性を改善する

さらにのどや気管の粘膜に広く分布しているマスト細胞の表面に付着します IgE 抗体にスギ花粉が結合すると マスト細胞がヒスタミン ロイコトリエンという化学伝達物質を放出します このヒスタミン ロイコトリエンが鼻やのどの粘膜細胞や血管を刺激し 鼻水やくしゃみ 鼻づまりなどの花粉症の症状を引き起こします

Transcription:

PRESS RELEASE 平成 28 年 9 月 1 日愛媛大学 世界初アレルギー炎症の新規抑制メカニズムを発見 ~ アレルギー疾患の新規治療法の開発に期待 ~ 愛媛大学大学院医学系研究科の山下政克 ( やましたまさかつ ) 教授らの研究グループは 世界で初めて免疫を正常に保つ作用のある転写抑制因子注 1) Bach2( バック2) が アレルギー炎症の発症を抑えるメカニズムを解明しました これまで Bach2 がアレルギー炎症の発症や悪化を防ぐ働きを持っていることは知られていましたが そのメカニズム ( 背後にある分子機構 ) については解明されていませんでした 今後 今回の研究成果を利用し このメカニズムを制御する方法を開発することで アレルギー疾患の予防法や新しい治療法の確立に繋がることが期待されます 本研究成果は 英国科学誌 Nature Communications に掲載され 日本時間の 9 月 1 日付けオンライン版で公開されました 注 1) 転写因子 : 特定の DNA 配列を認識して DNA に特異的に結合し 遺伝子の転写 (DNA を鋳型に mrna をつくる ) を制御する一群のタンパク質 転写を抑制するものを転写抑制因子 活性化するものを転写活性化因子という 記 掲載誌 :Nature Communications DOI: 10.1038/NCOMMS12596 論文目録 :Bach2-Batf interactions control Th2-type immune response by regulating the IL-4 amplification loop ( 和文 )Bach2 と Batf の複合体は IL-4 増幅ループを制御することで Th2 型免疫応答を調節する 共同研究者 : 愛媛大学大学院医学系研究科教授山下政克愛媛大学医学部附属病院先端医療創生センター助教桑原誠大阪大学免疫学フロンティア研究センター教授黒崎知博愛媛大学プロテオサイエンスセンター教授澤崎達也 講師武森信暁愛媛大学大学院医学系研究科教授安川正貴千葉大学大学院医学研究院教授中山俊憲公益財団法人かずさ DNA 研究所副所長小原収 学生中心の大学地域とともに輝く大学世界とつながる大学

研究の背景と経緯アレルギー疾患は 国民の3 人に1 人が罹患しているにもかかわらず 未だに効率の良い予防法や根治療法は開発されていません そのため アレルギー疾患は一旦発症すると慢性化する場合が多く 患者の肉体的 精神的 経済的負担が極めて大きいため 現代医学が解決すべき注 2) 重要な課題の一つとなっています アレルギー疾患の発症や病態には ヘルパー T(Th) 細胞 サブセットの1つである Th2 細胞の過剰な活性化が深く関わっています Th 細胞は免疫反応の司令塔とも言える細胞であり 産生するサイトカインの種類によって Th1 Th2 Th17 細胞などの少なくとも3 種類に分類されます ( 図 1) また 免疫反応の収束や抑制に関わる 制御性 T (Treg) 細胞も同定されています これらの T 細胞は 通常は互いにバランスを取りながら免疫反応を担っていますが サブセット間のバランスが崩れて Th2 細胞優位になった場合に アレルギー疾患が発症すると考えられています 図 2に示したように Th2 細胞は 抗原とインターロイキン (IL)-4 の働きによってつくられ IL-4 IL-5 IL-13 といったサイトカイン (Th2 サイトカイン ) を分泌することで IgE 産生や好酸球の遊走 組織浸潤 気道過敏性の亢進を誘発してアレルギー疾患を引き起こすことから Th2 細胞はアレルギー疾患の発症の根幹に位置する細胞であると言えます 山下教授らのグループは この Th2 細胞の分化や機能を制御することによりアレルギー反応の抑制が可能となり 将来的にはアレルギー疾患 ( 特に慢性や難治性のタイプ ) の根治療法の開発につながるとのではないかと考え 研究を行ってきました

研究の内容 Bach2( バック2:BTB and CNC homology basic leucine zipper transcription factor 2) は 免疫担当細胞の中でも T 細胞 B 細胞や肥満細胞に主に発現している転写抑制因子です これまでの研究から Bach2 はアレルギーを抑える働きを持っていることは分かっていましたが 前述したどの細胞の Bach2 が大切なのか また どのようなメカニズムでアレルギーを抑制しているのかについては分かっていませんでした そこで 本共同研究グループは Bach2 によるアレルギー抑制機構を解明することが 新たなアレルギー疾患の制御法の開発や発症予防に結びつくと考えて研究を行いました まず どの細胞の Bach2 がアレルギーを抑えるのに大切なのかを明らかにするため 遺伝子操作により T 細胞のみが Bach2 をつくれないマウス (T-Bach2 KO マウス ) を作製したところ T-Bach2 KO マウスは 慢性のアレルギー性気道炎症 ( 喘息 ) を自然発症することが明らかとなりました ( 図 3A 3B) T-Bach2 KO マウスの肺のヘルパー T 細胞を調べたところ 野生型マウスに比べ Th2 細胞が非常に多くなっており 大量の Th2 サイトカイン (IL-4 IL-5 IL-13) を産生することが分かりました ( 図 4) また 遺伝子操作により T-Bach2 KO マウスの Th2 細胞の分化を抑制すると アレルギー炎症は発症しなくなることが確認されました 次に研究グループは Bach2 発現 機能調節によるアレルギー性気道炎症発症抑制の可能性について検討するため T 細胞特異的に Bach2 を過剰発現するマウスを作製し 卵白アルブミン (OVA) 誘発のアレルギー性気道炎症モデルの発症変化について検討を行ないました マウスを OVA で免疫した後 経気道的に OVA を吸入させて喘息反応を誘導したところ 予想通りアレルギー反応が抑制されました これらの結果は Bach2 はヘルパー T 細胞が Th2 細胞の分化に対して抑制的に働いていることを示唆しています

アレルギー炎症発症抑制における Bach2 の作用について さらに詳しく解析したところ Bach2 は Batf( ビーエーティーエフ :Basic leucine zipper ATF-like transcription factor) という別の転写因子と結合して働いていることが分かりました Bach2-Batf 複合体は Th2 サイトカイン遺伝子座 (Th2 細胞が産生する Il4 Il5 Il13 遺伝子が存在しているゲノム領域 ) の制御領域に結合し 過剰な Th2 サイトカインの発現を抑制します ( 図 5) また 一連の解析結果から Bach2 が DNA に結合するためには Batf が必要であること Bach2-Batf 複合体は Th2 サイトカイン産生を促進する Batf-Irf4( アイアールエフ4:Interferon regulatory factor 4) 複合体と競合的に AP-1( エーピーワン ) 配列と呼ばれる共通 DNA 配列に結合することなどが明らかとなりました ( 図 5)

図 5に示した様に Batf は Bach2-Batf( 抑制複合体 ) と Batf-Irf4( 活性化複合体 ) の双方の構成因子です このことから Batf をなくすことで T-Bach2 KO マウスの慢性アレルギー性気道炎症が起こらなくなることが予想できます ( 活性化も抑制も共に起きないため ) そこで T 細胞で Bach2 と Batf の両方が発現しないマウス (T-Bach2/Batf dko マウス ) を作製したところ 予想通り慢性のアレルギー性気道炎症の自然発症は認められなくなりました ( 図 6A) また Bach2 欠損マウスの肺 CD4 T 細胞における Th2 サイトカイン過剰産生も Batf 欠損により正常レベルまで低下しました ( 図 6B)

さらに研究グループは Batf 自身も Bach2-Batf 複合体と Bach2-Irf4 複合体のバランスによって制御されていることを見いだしました 一方 Bach2 の発現は ヘルパー T 細胞が持続的な抗原 ( アレルゲン ) や IL-4 刺激を受けることにより低下します これらの結果は 持続的な抗原 ( アレルゲン ) 曝露による Bach2 発現量や機能の低下は アレルギー疾患の発症を誘発するだけでなく アレルギー反応の抑制経路の消失につながり アレルギー症状の慢性化を引き起こす可能性を示唆しています ( 図 7) 今後の展開以前 山下教授らの研究グループは T 細胞における Bach2 の発現低下が加齢に伴う炎症疾患の増加や易感染性に関与している可能性を見いだし 報告しています (Kuwahara et al. Nature Communications 2014 doi: 10.1038/ncomms4555.) このことは Bach2 の発現や機能を制御する研究は アレルギー疾患の新規治療法 / 予防法の開発だけでなく 加齢に伴う免疫系の機能低下の防止法の開発に結びつく可能性があることを示唆しています 現在 同研究グループは 精力的に Bach2 の発現や機能を制御できる低分子化合物を探索しています

補足説明注 1) 転写因子 : 特定の DNA 配列を認識して DNA に特異的に結合し 遺伝子の転写 (DNA を鋳型に mrna をつくる ) を制御する一群のタンパク質 転写を抑制するものを転写抑制因子 活性化するものを転写活性化因子という 注 2) 免疫応答に関与するリンパ球 T 細胞 の1つ 抗原の情報を別のリンパ球である B 細胞へ伝えて抗体の産生を促したり 免疫応答を誘導する液性因子を放出したりすることで 免疫反応の司令塔として働く細胞