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原著北里医学 2016; 46: 19-23 廣畑 俊成, 安部学朗, 工藤雄大 北里大学医学部膠原病 感染内科学 目的 : シェーグレン症候群は涙腺 唾液腺の分泌障害に基づく眼乾燥症状と口腔乾燥症状を主症状とする原因不明の慢性炎症性疾患である 本症の実態については不明の点が多い 本研究においては, 東京都におけるシェーグレン症候群の実態について解析を行った 方法 : 平成 19 年 4 月から平成 20 年 3 月までに東京都で新規に認定された患者の調査票 58 名分を解析した 結果 : 男女比は 2 : 56 (1 : 28), 発症年齢は 52.6 ± 15.5 歳 (mean ± SD), 罹病期間は 5.34 ± 5.65 年であった 25 例に関節リウマチが,6 例にその他の膠原病 自己免疫疾患が合併していた 家事労働以上の社会活動をしているのは 74.5%, 日常生活上ほとんど制限のないものが 83.6% であった 腺症状では, 口腔乾燥症状と眼球乾燥症状がそれぞれ 43 例 (74.1%),36 例 (62.1%) であった 腺外症状では, 間質性肺炎 (11 例 ), 甲状腺機能低下症 (8 例 ), 末消神経症状 (7 例 ),hyperviscosity syndrome (3 例 ), クリオグロブリン血症 (1 例 ), 間質性腎炎 (1 例 ) がみられた 抗 SS-A 抗体と抗 SS-B 抗体の陽性率はそれぞれ 72.4%,46.6% であった 25 例 (43.1%) の患者でステロイドの全身投与治療が行われていた 腺症状に対してステロイドの全身投与が行われていたのは 13 例であった 結論 : 以上より, 本症は女性に圧倒的に多い疾患であることが確認された また, 今回の検討の結果, 認定を受けている本症患者の社会活動や日常生活の制限はあまり大きくないものが大半を占めることから, 本症は長期経過をとるものの概ね経過は安定しているという臨床像が推察された Key words: シェーグレン症候群, 東京都, 疫学 はじめに シェーグレン症候群は涙腺 唾液腺の分泌障害に基づく眼球乾燥と口腔乾燥症状を主症状とする原因不明の疾患である 1 本症には, 全身的薬物療法を必要とする諸臓器の病変や, 関節リウマチや膠原病を合併することも少なくない 1 東京都では, 全国に先駆けて本症を都の特定疾患に指定して医療助成を行ってきたが, 特に近年は,QOL (quality of life) を障害する高度の腺症状をきたした患者と全身的薬物療法を必要とする臓器病変や自己免疫疾患を合併したものを助成対象とするようになった 本疾患は国の特定疾患から外れていたために, これまで本症に合併する臓器病変や自己免疫疾患の詳細については未だ明らかにされていない 本研究においては, 東京都で新規認定されたシェーグレン症候群の患者の調査票を解析することにより, 東京都における本症の臨床像 検査データ 治療経過などの特徴および患者の QOL などを解析することにより, 本疾患の疫学像をあきらかにすることを目的とする 対象と方法 東京都福祉保健局保健政策部疾病対策課より貸与された平成 19 年 4 月から平成 20 年 3 月までに新規認定されたシェーグレン症候群患者の臨床個人調査票について, 年齢 性別等の疫学的事項, 臨床所見 ( 特に障害された臓器 ) 参考となる検査データ, 合併する膠原病や関節リウマチなど, さらに治療法 ( 特にステロイドの量と免疫抑制薬の使用の有無 ) および患者の QOL との関係について検討を行った 調査票はすべて東京都の診断書番号により連結匿名化され, 個人情報の特定ができぬよう配慮された 対象は東京都の 1999 年のシェーグレン症候群の認定基準を満たすものとした すなわち, 厚生労働省のシェーグレン症候群の診断基準 2 を満たし, 関節リウマチ ( 抗リウマチ薬の必要なもの ) 膠原病 ( ステロイド治療の必要なもの ) または甲状腺疾患 ( 甲状腺ホルモン補充または抗甲状腺薬の必要なもの ) を合併した患者, またはステロイド治療の必要な腺症状 腺外症状の合併があるか涙腺プラグ 涙点閉鎖術 ( 焼灼術 ) を行った患 Received 29 January 2016, accepted 12 February 2016 連絡先 : 廣畑俊成 ( 北里大学医学部膠原病 感染内科学 ) 252-0374 神奈川県相模原市南区北里 1-15-1 E-mail: shunsei@med.kitasato-u.ac.jp 19

廣畑俊成, 他 図 1. シェーグレン症候群患者の日常生活と社会活動 図 2. シェーグレン症候群患者の病型分類 20

者とした 結 平成 19 年 4 月から平成 20 年 3 月までに新規に認定された患者は 58 例であった その認定時の年齢は 57.9 ± 14.5 歳 (mean ± SD), 発症年齢は 52.6 ± 15.5 歳, 男女比は 1 : 28 であった また, 罹病期間は 5.34 ± 5.65 年 (0 22 年 ) であった 家事労働以上の社会活動をしているのは 74.5%, 日常生活上ほとんど制限のないものが 83.6% であった ( 図 1) 部分介助を要したのは 7 名で, 全面介助を要したものは 2 名であった この 2 名も, 合併する関節リウマチ, 骨折のために介助が必要となっていたもので, シェーグレン症候群が原因とは考えられなかった 58 例中 27 例が原発性シェーグレン症候群で, 残りのうち 25 例に関節リウマチが,6 例にその他の膠原病 自己免疫疾患 ( 全身性エリテマトーデス [SLE], 全身性硬化症 [SSc], 自己免疫性溶血性貧血 [AIHA], 免疫性血小板減少性紫斑病 [ITP]) が合併していた ( 図 2) 腺症状としては, 口腔乾燥症状と眼球乾燥症状がそれぞれ 43 例 (74.1%),36 例 (62.1%) で見られた 腺外症状では, 間質性肺炎 (11 例 ), 甲状腺機能低下症 (8 例 ), 末消神経症状 (7 例 ),hyperviscosity syndrome ( 過粘度症候群 ) (3 例 ), クリオグロブリン血症 (1 例 ), 間質性腎炎 (1 例 ) などがみられた 間質性肺炎の合併は原発性と二次性でほぼ同等の割合だったが, 末消神経障害, hyperviscosity syndrome ( 過粘度症候群 ), 間質性腎炎はすべて原発性の患者に合併していた ( 図 3) 口唇唾液腺生検で導管周囲に 50 個以上の細胞浸潤を認める所見を 果 呈したものは 93.3% であった また, 抗 SS-A 抗体と抗 SS-B 抗体の陽性率はそれぞれ 72.4%,46.6% で, 抗 SS-B 抗体の陽性者はすべて抗 SS-A 抗体陽性であった 治療に関しては,25 例 (43.1%) の患者でステロイドの全身投与治療が行われていた 腺症状に対してステロイドの全身投与が行われていたのは 13 例 (22.4%) であったが, 間質性肺炎 多発単神経炎をはじめとする末梢神経障害 間質性腎炎などの腺外症状では, ほぼ全例にステロイドの全身投与が行われていた 考 平成 19 年度の東京都のシェーグレン症候群の認定にあたっては,1999 年に改定された厚生労働省の診断基準 2 が用いられ,(1) 口唇小唾液腺の生検組織でリンパ球浸潤がある,(2) 唾液分泌量の低下がガムテスト, サクソンテスト, 唾液腺造影, シンチグラフィーなどで証明される,(3) 涙の分泌低下がシャーマーテスト, ローズベンガル試験, 蛍光色素試験などで証明される,(4) 抗 SS A 抗体または抗 SS B 抗体が陽性である, この 4 項目の中で 2 項目以上が陽性であればシェーグレン症候群と診断される このうち東京都の認定基準では,(4) の抗 SS A 抗体か抗 SS B 抗体のうち, 抗 SS B 抗体のみしか認めていない 抗 SS A 抗体はシェーグレン症候群以外にも陽性となる疾患が多いことから 3, 東京都の認定基準のほうがより false positive が少ないものと考えられる 今回の研究の結果から, 男女比は約 1 : 30 で, 本症は女性に圧倒的に多い疾患であることが確認された 本症の患者数は正確には明らかにされていないが, 軽症 察 図 3. シェーグレン症候群患者の腺外症状 21

廣畑俊成, 他 も含めると 10 30 万人と推定されている 本研究で明らかになった 1 年間の認定数は 58 例で, 東京都におけるベーチェット病の新規認定患者数の約 60% である ベーチェット病の本邦の患者数が約 18,000 人であるといわれていることからすると 4, シェーグレン症候群は約 10,000 人ということになる しかし, 東京都のシェーグレン症候群の認定基準では, 厚生労働省の改定基準を満たすだけでなく, これに加えてステロイド治療などの必要な高度の腺症状, 治療を要する腺外症状, 関節リウマチあるいは膠原病 自己免疫疾患の存在が必要とされている 従って, 東京都で認定されている本症患者は, 全体の患者の約 10 30% 程度ではないかと考えられる そうすると, 全国におけるシェーグレン症候群の患者数は約 30,000 100,000 人と推定される これは厚生労働省の研究班による推定患者数 (66,300 人 ) と概ね一致している 2015 年 1 月よりシェーグレン症候群は国の指定難病に指定された これにより, 今後はより正確な有病率が明らかにされるものと期待される 今回の検討の結果, 認定を受けている本症患者の社会活動や日常生活の制限はあまり大きくないものが大半を占めていた 特に, 今回対象とした患者はシェーグレン症候群の中でも最も重症度の高い 10 30% の群であることを考え合わせると, 本症は長期経過をとるものの概ね経過は安定しているという臨床像が推察された 本症の臨床症状は多岐にわたるものの, 特に治療が必要な合併症として, 間質性肺炎 5 と末梢神経障害 6 が重要であることが明らかになった 間質性腎炎や hyperviscosity syndrome も本症の特有な臨床症状として知られているが 1, それほど頻度は高くはないことが示唆された 一方, 本症においては甲状腺機能低下症 ( おそらく橋本病に続発するものと考えられる ) の合併が多 いことも裏付けられた 1 これまで本邦におけるシェーグレン症候群の疫学調査は十分な精度でもって行われたとは言い難い 本研究は東京都で認定された患者を対象としている 東京都の人口は日本全国の約 10% をしめており, また膠原病診療の専門施設も日本全国で最多であり, その診療レベルも十分信頼できるものであると考えられる したがって, 本研究の結果は本邦における本疾患の実像をかなり正確に反映しているものと考えられる しかし, 症例数が 58 例とそれほど多くないことから, 今後も症例を蓄積して検討してゆく必要がある さらに, 本研究では集積した例数が少なかったため, 本疾患に合併が多いとされる悪性リンパ腫 7 の症例は今回は含まれず, その正確な発症率は今後症例を蓄積して検討してゆく必要があろう 文 1. Talal N. Overview of Sjögren's syndrome. J Dent Res 1987; 66: 672-4. 2. Fujibayashi T, Sugai S, Miyasaka N, et al. Revised Japanese criteria for Sjögren's syndrome (1999): availability and validity. Mod Rheumatol 2004; 14: 425-34. 3. Franceschini F, Cavazzana I. Anti-Ro/SSA and La/SSB antibodies. Autoimmunity 2005; 38: 55-63. 4. 廣畑俊成. 第 108 回日本内科学会講演会 : 教育講演 12. Behçet 病の診断と治療の進歩. 日内会誌 2011; 100: 2662-6. 5. Parambil JG, Myers JL, Lindell RM, et al. Interstitial lung disease in primary Sjögren syndrome. Chest 2006; 130: 1489-95. 6. Gøransson LG, Herigstad A, Tjensvoll AB, et al. Peripheral neuropathy in primary sjogren syndrome: a population-based study. Arch Neurol 2006; 63: 1612-5. 7. Theander E, Henriksson G, Ljungberg O, et al. Lymphoma and other malignancies in primary Sjögren's syndrome: a cohort study on cancer incidence and lymphoma predictors. Ann Rheum Dis 2006; 65: 796-803. 献 22

Epidemiological analysis of patients with Sjogren's syndrome in Tokyo Shunsei Hirohata, Gakuro Abe, Takeo Kudo Department of Rheumatology and Infectious Diseases, Kitasato University School of Medicine Objective: To delineate the epidemiologic features of Sjogren's syndrome (SS) in Tokyo. Methods: We analyzed the clinical application forms of 58 patients with SS who were approved as patients with an intractable disease by the Tokyo metropolitan government between April 2007 and March 2008. Results: The male to female ratio of the patients was 1:28, and the ages of the onset were 52.6 ± 15.5 years (mean ± SD) with disease duration of 5.34 ± 5.65 years. Among the 58 patients, 25 and 6 patients were complicated with rheumatoid arthritis and with other autoimmune diseases, respectively. As many as 83.6% of the patients were free from any restriction of activities of daily living with 74.5% having housework or some kinds of equivalent jobs. Dry mouth and dry eye were present in 74.1% and 62.1%, respectively. Extraglandular manifestations included interstitial pneumonitis (11 patients), hypothyroidism (8), peripheral neuropathy (7), hyperviscosity syndrome (3), cryoglobulinemia (1), and interstitial nephritis (1 patient). The positive rates for anti-ss-a and for anti-ss-b were 72.4% and 46.6%, respectively. Systemic administration of corticosteroid was given to 25 patients, among whom 13 patients had only glandular manifestations. Conclusions: The results confirm that SS is much more prevalent in females. The data also indicate that a majority of the patients are free from disabilities affecting activities of daily living, suggesting an overall fair prognosis. Key words: Sjogren's syndrome, Tokyo metropolitan government, epidemiology 23