The Japanese Journal of Pediatric Hematology/Oncology vol. 53(2): 158 164, 2016 3 TOMODACHI-Aflac 佐野弘純 * 社会医療法人北楡会札幌北楡病院小児思春期科 Wonderful Experience as the 3 rd Participant of TOMODACHI-Aflac Program at Aflac Cancer and Blood Disorders Center, Children s Healthcare of Atlanta Hirozumi Sano* Sapporo Hokuyu Hospital, Department of Pediatrics 百聞は一見に如かず 非常にありふれた言葉であるが, 半年間に及ぶ米国での研修を終えた今, 私はまさにこの言葉の意味を噛みしめている. 私は今回の研修で, これまでにうわさでは聞いたことのあった米国の医療や医学研究の現状を目の当たりにすることができ, また同時に日本での医療活動や医学研究についても深く考える機会をいただいた. 私の米国アトランタへの留学は, TOMODACHI-Aflac プログラム の全面的バックアップにより実現した. TOMODACHI イニシアチブ とは, 東日本大震災後の復興支援から生まれた活動で, 教育, 文化交流, リーダーシップなどのプログラムを通して, 日米の次世代のリーダーの育成を目指す 公益財団法人米日カウンシルジャパン と東京の米国大使館が主導する官民パートナーシップであり,Aflac( アメリカンファミリー生命保険会社 ) が TOMODACHI イニシアチブ の一環として展開しているのが, TOMODACHI-Aflac プログラム である. このプログラムでは, 日本で小児がん診療に携わる医師が米国における最先端の小児がん研究の経験を通じ, 日本での治療 研究に役立てることを目的としている. 日本小児血液 がん学会の協力で構成された選考委員会による選考を経て, 細谷要介先生 ( 聖路加国際病院小児科 ) 1), 大島淳二郎先生 ( 北海道大学病院小児科 ) 2) に引き続き, 今回は私が第 3 回の派遣医師として留学をさせていただくことになり,2015 年 8 月から 2015 年 2 月にかけての約半年間, 米国ジョージア州アトランタの小児病院組織 Children s Healthcare of Atlanta (CHOA) 内にある Aflac Cancer and Blood doi: 10.11412/jspho.53.158 * 別刷請求先 : 003-0006 札幌市白石区東札幌 6 条 6 丁目 5-1 社会医療法人北楡会札幌北楡病院小児思春期科佐野弘純 E-mail: hirozumi.sano@gmail.com Disorders Center( アフラック小児がん 血液病センター ) にて臨床研修を行わせていただいた. この半年間という時間は, 短くもとても濃密であり, 私の医師としての価値観, 人生観を大きく変えてしまうものであった. この報告では, この貴重な経験を特に若手の先生方に紹介させていただければと思う. アトランタは米国南東部に位置するジョージア州の州都かつ最大都市であり, 古くは鉄道交通のハブとして, また綿花産業の中心地として栄えた. やがてコカ コーラ, デルタ航空,CNN など多数の大企業が本社を置くようになり, ジョージア州のみならずアメリカ合衆国南部の商業 経済の中心地としての役割を担うようになった.1996 年に夏季オリンピックが開催されたことでも有名である. 2015 年 7 月, 私は妻と 3 人の子供たちともにアトランタに到着した. これまでも学会参加や旅行などで海外に行くことはあったが, 今回のような長期の海外滞在は初めてであり, 英語力の問題も含めて, これから始まる新たな生活に不安半分, 期待半分という気分であった. 夏のアトランタはとても暑い! という話を聞いていたのだが, 確かに日差しはきついものの日本のような蒸し暑さではなく, 比較的過ごしやすい気候であった. また, アトランタは全米でも有数の犯罪多発都市であるとされているが, 私が住み, 研修の拠点となった拠点となったエモリー大学の周辺エリアは比較的治安が良く安心して住むことができた. 余談であるが, 米国ではアトランタに限らず, どこの都市にも貧困層の多いエリアや富裕層の多いエリアなどが分かれて存在しているようで, どこの都市に住むかということよりも, その都市のどのエリアに住むかということがより重要なようである ( 家賃なども住む地域により大きく異なる ).
3 TOMODACHI-Aflac 159 Aflac Cancer and Blood Disorders Center 私の研修したAflac Cancer and Blood Disorders Center (Aflac-CBC) は Children s Healthcare of Atlanta (CHOA) の血液 腫瘍疾患の臨床および研究部門である.CHOA は 2015 年には創立 100 周年を迎えた歴史ある小児病院群であり, エモリー大学エリアに位置する Egleston Hospital と Atlanta の北部に位置するScottish Rite Hospital およびダウンタウンにある Hughes Spalding Hospital の 3 つの病院を核とし, その他多くの診療所を抱える巨大な小児医療組織群である. 現在,Aflac-CBC は主に Egleston と Scottish Rite の二つのキャンパスで診療を行っている ( 写真 1). Aflac-CBC は, 約 60 名の小児血液 がん専門医を擁する巨大な組織であり,1995 年以来 Aflac の強力な支援を受け運営され発展を続け,U.S. News & World Report が毎年発表している Best Hospitals for Pediatric Cancer ( 小児がん診療組織の国内ランキング ) の 2015 年度版では, 全米第 9 位にランクインしている. 同センターは設立以来, Dr. William G. Woods が Director を務めていたが,2015 年からはその職が Dr. Douglas K. Graham に引き継がれた. 同センターは, 非腫瘍性血液疾患部門, 白血病 リンパ腫部門, 固形腫瘍部門, 脳腫瘍部門, 血友病 凝固部門, 鎌状赤血球賞部門, 造血細胞移植部門, 長期フォロー 内分泌部門などの専門領域に分かれていた. 日本では多くの小児血液 腫瘍専門医は上記のように特化した専門分野に限定せず, 手広く診療を行っているケースが多いと思われるが, 米国では拠点病院化 集約化が進んでいることもあってか, 専門が細かく分かれており, その専門性の高さには驚かされた. しかし, これだけの多くの専門分野に分かれているにも関わらず, 各部門間の意思疎通や協力体制はしっかりと確保されており, 複数の部門に関わる疾患を持つ患児も安心して専門的な治療を受けることができる体制 になっていた. 小児血液 がん専門医以外にも, 小児血液 がん専門医を目指しトレーニングを受けている 1 ~ 4 年目のフェロードクター, 血液 腫瘍領域に限らず各部門をローテーションしているレジデントドクターが診療にあたっていた. さらに各病棟には Pediatric Nurse Practitioner (PNP),Physician Assistant (PA) などの上級職ナースに加え,Registered Nurse ( 一般ナース ),Child Life Specialist (CLS), Social Worker ( 社会福祉士 ),Pharmacist( 病棟薬剤師 ), Nutritionist ( 栄養士 ) が配置されており, 一人一人の患児に対する日々の治療方針は, 上記スタッフが参加して開かれるカンファレンスでの徹底したディスカッションを通して決定され, 結果として各患児に高度な医療およびケアが提供されていた. 日本でも最近は多職種が参加するカンファレンスが一般的になってきていると思われるが, CHOA での日々のカンファレンスでは,Nurse だけでなく Pharmacist や Nutritionist も医師と対等に積極的に議論に加わり, 患者さんにとってどういう治療 ケアの方針が最善なのか, 各々の専門性を生かして徹底的に議論していることに感銘を受けた. また, スタッフや施設の充実以外にも, 入院中の患児の心理面でのサポートやアメニティーの充実も素晴らしく ( 写真 2), ボランティアの活動も活発であり病棟内では季節に応じて様々なイベントが開かれていた. Egleston および Scottish Rite の各キャンパスには Aflac 血液 がん病床として約 30 の病床 ( 全室個室 ) があり新規小児がん症例を年間約 400 例受け入れていた. また, Egleston キャンパスには 10 床のベッドを有する造血細胞移植病棟があり, そこで年間約 65 例にも及ぶ造血細胞移植が行われていた. ジョージア州 ( 人口約 1,000 万人 ) では,Aflac-CBC の他にも小児血液 がん患者の診療を行っている施設が 2 ~ 1 Children s Healthcare of Atlanta at Egleston の正面玄関 2 入院中の患児とプレイルームにて
160 53 2 2016 3 施設あるとのことであったが, 患者数の8 割以上は Aflac-CBC に集中しているとのことであった. このことからも米国での小児がん診療の集約化は非常に進んでいることがおわかりいただけると思う. 教育プログラムは fellowship program の責任者でもある Dr. Michael Briones と相談の上決めていただいた. ある程度希望に沿ったデザインをすることが可能であるとのことであったので, 私が支持療法全般および造血細胞移植の合併症管理に興味がある旨をお伝えしたところ, 以下のようなスケジュールで研修スケジュールを組んでいただいた. 2015 年 8 月 ~ 9 月 CHOA@Egleston での造血細胞移植病棟での研修 10 月 CHOA@Egleston での入院病棟での研修 ( 主に白血病 リンパ腫部門と固形腫瘍部門 ) 11 月 CHOA@Egleston での造血細胞移植外来での研修 12 月 CHOA@Scottish Rite での脳腫瘍部門外来での研修 2016 年 1 月 ~ 2 月 CHOA@Egleston での臨床研究 ( 造血細胞移植部門 ) また, 留学中の2015 年 10 月にはDallas で行われた Children s Oncology Group (COG) の Fall Meeting に,12 月には Orlando で開かれた米国血液学会 (ASH) に参加することができた.ASH では, Prophylactic Use of Voriconazole for Invasive Fungal Infection in Children and Adolescents with Acute Myeloid Leukemia と題してポスター発表を行った ( 写真 3). 私自身, 米国での医師免許を持っていなかったため, 研修の中心は, 連日病棟で行われる多職種カンファレンスや回診に参加し, 担当の Attending Physician らと意見交換をすることや, 早朝や夕方に週 3 回程度開かれるスタッフおよびフェロー向けのセミナー (Tumor Board, Research Conference など ) に参加することであった. 最初は, 日米の医療事情の違いに戸惑い, 英語にも自信がなかったことから, 思い通りに質問をするのも難しかったが, 慣れてくると米国とは異なる日本の実情を伝え,Attending Physician とディスカッションすることもできるようになった. 特に 3 Orlandoで開かれた米国血液学会 (ASH) でのポスター発表印象に残ったのは, 一人一人の患者の治療方針を決める際に, 一人の担当医師が方針を決めるのではなく, 同じ部門の他の医師はもちろん, 他部門や他科の医師, さらには PNP や PA をはじめとする多職種を含めた徹底した議論が行われることであった. 例えば, 造血細胞移植病棟でのカンファレンスでは,10 名程度の入院患者の治療方針を決めるために, 連日 2 時間程度の時間を割いていた. また, 最近では Family-centered Care の一環として, カンファレンスや回診時に家族もディスカッションに加ってもらうように工夫されつつあり, 日々の治療方針決定に家族も主体的に参加できるような取り組みが行われていた. これは, 私たちが日々の診療で大切にしている, Informed Consent という概念を越えた, さらに先進的な取り組みであると思われ, とても感銘を受けた. / Aflac-CBC では, 組織を成熟し発展させていくために, フェローをはじめとする若手スタッフへの教育にとても重点を置いており, カンファレンスやセミナーが非常に充実していた. 月曜早朝 (7:30 ~) の Aflac Faculty Meeting では,Aflac 全グループの医師が集合し連絡事項の伝達や症例検討, 特別講演が行われ, 水曜夕方の Tumor Board では, フェローたちが興味深い症例についてプレゼンテーションし文献的考察を加えて報告したうえで, 病理医や放射線科医を交えて熱い議論がかわされていた. また, 木曜夕方には Research Conference があり, そこでは基礎研究部門の研究成果の発表が行われたり, 外部から招聘されたスペシャリストによる特別講演が催された. そして金曜朝には Egleston,Scottish Rite 各キャンパスにおいて,PNP や PA も参加して全入院患者の状況報告, 新規発症例, 再発症例, 残念ながら亡くなられた児の経過などが報告された.
3 TOMODACHI-Aflac 161 Egleston と Scottish Rite の両キャンパスは車で 30 分ほどの離れた距離にあるが, それぞれのカンファレンスルームにテレビカメラとマイクが設置されスタッフはどちらの施設にいても相互にモニターを観ながらリアルタイムでディスカッションすることが可能となっていた. Aflac-CBC でのフェローシップは採用時の競争率も高く, 特に優秀な医師が全米から集まってきているということもあるのだろうが, 私が今回の研修で出会ったフェローたちのレベルの高さには驚かされた. 診療能力はもちろんのこと, 研究を遂行する能力やプレゼンスキルも非常に高く, 私自身フェローたちとの触れ合いを通して, 大変刺激を受け自分自身ももっと頑張らなければならないと痛感した. 私の研修は,Egleston キャンパスの造血細胞移植病棟から始まった ( 写真 4). 当病棟は血液 腫瘍性疾患患児が入院している病棟とは独立し,10 床の個室病床を有している. 週に 1 ~ 2 例の同種および自家造血幹細胞移植が行われており, 年間移植件数は 65 例前後で, うち同種造血幹細胞移植が約 40 例, 自家造血幹細胞移植が約 25 例を占めている. 移植を必要とする患者は,Aflac の他部門 ( 白血病 リンパ腫, 固形腫瘍, 脳腫瘍, 鎌状赤血球症, 非腫瘍性血液疾患 ) や CHOA の免疫部門や代謝部門から紹介されてくるほか, 近隣の小児血液 腫瘍診療施設からも紹介されてくる. 紹介後はクリニック ( 外来 ) レベルで複数回にわたり移植部門の Attending Physician から移植についての説明を受け, 十分納得したうえで同意書にサインをすることになり, 同意までに最低でも 3 回の面談を経るシステムになっていた. 移植は非常にリスクの高い治療法であ ることから, 患者家族には十分に必要性と危険性を理解したうえで移植にのぞむよう臨めるように配慮されていた. また, 外来レベルで移植前の精査や中心静脈カテーテルの挿入 ( 日帰り手術 ) を終了しており, 入院後にはすぐに前処置が開始されることになる. 幹細胞輸注後, 順調に生着して特に大きな合併症がなければ, 移植後 20 ~ 30 日ほどで退院することも多く, 日本と比べて入院期間の短さには驚かされた. ただ, 退院後もしばらくは抵抗力が弱い時期が続き, 週 2 ~ 3 回程度の外来通院も必要となることから, 患児は病院からほど近い Ronald McDonald House に 1 ~ 2 か月程度滞在することになる. この施設は, ハンバーガーで有名なあの McDonald により運営されている病児とその家族のための滞在施設であるが,McDonald のみならず, 多くの会社や団体の援助を受けており, 入居者は非常に充実したサービスが受けられるようになっていた.CHOA からの退院時には, 内服薬のみならず, まだ輸液や注射薬の投与を必要とする児も多いのだが, そういった輸液 注射薬の投与については, 親が十分に指導を受けたうえで, 自分たちで滞在施設あるいは自宅での投薬を行っていた. こういった日本との違いの背景には, 日本と比べて入院医療費がとても高い, などの社会的事情が大きく関わっていると思われるが, 自由と自己責任の国, アメリカ のひとつの側面を垣間見たような気がした. 移植に対する医学的なアプローチに, 大きな差はないように感じられたが, まだ日本には導入されていないような新規薬剤が多数使用されていた. また移植領域でいくつかの臨床試験が現在進行中であり, そういった試験のアプローチの仕方もとても勉強になった. 移植後の患児に対する Nutritionist による栄養管理, あるいは院内の疼痛コントロールチーム 緩和ケアチームによる鎮痛管理は非常に充実しており,CLS を中心に提供される心理面でのサポートも含め, 多職種が患児のために力を合わせて最善の治療 ケアを行っていることがとても良くわかった. Aflac Inpatient Ward 4 造血幹細胞移植部門の Dr. Chiang およびフェローの Dr. Summers,PNP の Ms. Bryson と Egleston キャンパスには約 30 床のベッドからなる病棟があり, そこで多くの血液 腫瘍性疾患の患児が治療を受けていた. 日本ではまずめったに見ることのない, 鎌状赤血球症の患者さんが常時数人入院していることが特徴的でその管理を学ぶという貴重な体験をすることもできた. 入院に要する医療費 ( 患者負担分 ) が日本と比べて格段に高いこともあり, 米国では日本では考えられないくらい入院期間が短く抑えられている. 小児がん診療においてもそれは同様であり, 急性リンパ性白血病の標準リスクの初発の患児が入院から 5 日目に退院したのを見て目を丸くした. 日本では, 抗がん剤治療後に抵抗力が落ちている時期
162 53 2 2016 は感染症のリスクも高いので入院して過ごす というコンセプトなのに対し, 米国では, なにも治療介入しない間は入院している必要はなく, 自宅で感染症に注意しながら過ごしてもらい, もし熱など発熱の徴候などがあれば早めに病院に受診し, 必要なら入院してもらう というようなポリシーのようであった. こういったところにも 自由と自己責任の国, アメリカ らしい一面が垣間見られた. そういったことも影響してか, 患者さんには 自分の健康は人任せにしないで自分で守らないといけない という意識が, とても高いように感じられた. 医師から患者家族への治療の説明の際にも, 日本だと説明の後に, なにか質問はありませんか? という問いかけをしても, 特にありません. 詳しいことはよくわからないので, 先生にお任せします というように, 患者さんは特に質問をぶつけることなく Informed Consent が終了することもあるように思われるが, こちらの患児やそのご両親は, 病気についてとても良く勉強してきたうえで, わからないところや納得のいかないところはとことん質問をしていた. 医師もそういった質問にしっかり答えられるように事前の情報収集にとても多くの時間を割いていた. 患者さんにとってどういう治療やケアが一番よいだろうか ということに対して, 医療者同士で十分に議論することは当然であるが, 医師と患者家族が徹底的に議論して, ともに良い医療を作り上げていくという姿勢は, 今後日本でも見習っていかなければならないところだと思われた. アトランタ北部に位置する Scottish Rite キャンパスの脳神経腫瘍外来でも研修を行わせていただいた. 脳腫瘍治療医が 1 ~ 2 人と PNP が 1 人で 10 ~ 15 名程度の患児を診療するのだが, 脳腫瘍患児では内分泌学的合併症や心理的問題を抱えていることも少なくないため, 小児内分泌科医や精神科医 心理士, ソーシャルワーカーといった多職種が関わりあいながら診療が行われており, 外来をベースとしたトータルケアが実践されていた. 一人一人の診療にとても多くの時間が割かれており, 患児やその家族の疑問や悩みごとに至るまで Attending Physician はとても話をよく聞き, 家族が納得のいくまで十分な説明がなされていた. 一週間に一度開かれる脳腫瘍チームのカンファレンスでは脳腫瘍内科医, 脳神経外科医, 放射線診断医, 放射線治療医による徹底した議論が行われ, それぞれの患児についての情報共有と治療方針の決定が行われていた. 入院治療が診療の中心となる日本とは異なり, 米国では外来を中心に診療方針が決定され, 治療が実施されていた. そのため外来は忙しくもあるが非常に密度の濃い診療が行われており, 大変勉強になった. 研修を開始したころにフェローシップの責任者である Dr. Briones から 何か臨床研究をしてみないか? と問われたため, 是非やりたいと希望した. 今回の研修では造血細胞移植チームを重点的に研修させていただいたこと, 私自身が支持療法に興味があることなどから, 移植チームの Dr. Horan と研究テーマについての検討を重ね, 最終的に サイトメガロウイルス血症とそれに対する ganciclovir 治療介入が, 同種造血細胞移植後血流感染症のリスク因子となるかどうか? ということについて検討することとした. 2005 年から 2014 年の 10 年間に CHOA にて同種造血細胞移植を行った 306 人に対する 335 回の造血細胞移植を対象とした研究で,Dr. Horan の手厚いサポートのもと, 研究計画の立案から Institutional Review Board への研究計画書提出,chart review を中心としたデータの収集, 解析まで主体的に取り組ませていただいた. 連日研修をこなしつつ, 電子カルテをはじめとする膨大なデータベースから解析に必要な情報を抜き出す作業は大変骨の折れる作業であった. 時には必要なデータを見つけきれないこともあり, 多くの移植チームの医師の協力を得ながら 2016 年 1 月上旬にようやくデータの収集を終えた.Dr. Briones が臨床研究遂行のために, 研修スケジュールをアレンジしてくださり,1 月は丸々臨床研究に時間を費やすことができた. データの解析では,Dr. Horan の他にも, 移植チームの Dr. Qayed や Dr. Chiang,Division of Infectious Disease の Dr. Hilinski にも貴重なご意見をいただき, 連日彼らとディスカッションを繰り返すことで研究内容を深めていくことができた. なんとか研修期間終了までにひと通りの解析を終えることができ,Dr. Woods および Dr. Briones のご配慮で, 帰国前の Tumor Board で研究成果をプレゼンテーションする機会を設けていただいた. 拙い英語でのプレゼンテーションであったが, 聴衆にはとても興味を持っていただき, 多くの質問や意見をいただくことができた. 英語力の問題から, 質疑応答には十分な対応ができたとは言い難かったが, 最後は温かい拍手をいただき, 多くの医師からも個別に 良かったよ! と声を掛けていただいた. この経験は今回の留学で最高の思い出となった. この研究内容については考察をさらに深める必要があるが, 是非論文という形にまとめたいと考えている. 1 Aflac-CBC での研修を開始して間もなく, 医療スタッフの充実ぶりに大変驚かされた. 多くの専門医を擁していることはもちろん, 日本にはない PNP や PA といった職種が
3 TOMODACHI-Aflac 163 あり, 彼女たちはほとんどフェローたちと変わらない仕事をこなしていた. 患者の問診, 診察のあと, アセスメントを経て治療プランを立て処方もする. 簡単な病状説明も彼女らによって行われていた. また, 骨髄穿刺や腰椎穿刺といった処置も多くは彼女たちの手により行われていた. 彼女らの医療行為は Attending Physician の指示のもと行われることが原則なのでカルテや処方箋に医師の承認が必要ではあるが, その仕事ぶりはほとんど医師と同様であった. Attending Physician は週替わりで, 同じ医師がずっと病棟や外来にいるわけではないが,PNP や PA は基本的にずっと同じ病棟や外来で働いているので, 病棟患者の事情にとても詳しく, 非常に頼りになる存在である. 実際彼女たちはレジデントやフェローの教育にも大きく貢献していた. 毎週 Attending Physician が入れ替わりながらも一定の医療水準が確保されているのには彼女たちの貢献がとても大きい. 彼女たちのおかげで, 医師たちは日常業務に忙殺されることなく, ディスカッションに向けての情報収集や臨床決断という医師に本来求められる仕事に専念できていた. PNP や PA の他にも実に多様な職種があり, それぞれに誇りと責任を持って自らの職務を全うしていた. 同時に他業種の業務には干渉せず, また自分の専門分野の限界に関しても明確であった. 日本では一般的に医師にはオールラウンドな能力が求められる傾向があるように思う. 例えば主治医というものはその患児の全てを把握しているべきで, 全ての責任を負うべきだとする観念が私の中にもあった. しかし, 個人の持つ能力の限界を知り, 多くの人材 他職種からの協力を得て, 個人の能力や努力に依存しない持続可能な診療体制を確立していくことは, 患児たちにとっても有益なものだと感じた. る という観点で情報を包み隠さず開示しているのは, 権利と自主性を重んじる米国らしいやり方だと思った. 国民性やお国柄が違う日本で急に同様の取り組みができるとは考えにくいところであるが, 家族も積極的に治療方針決定に参加するチャンスがあるということは, 悪いことではないと考えさせられた. 3 That s America... これは私の偏見かもしれないが, 米国は日本と比べると, 悪く言うとルーズで, 良く言うとおおらかなところであった. 渡米当初は, 生活環境の整備のためいろんな手続きに追われていたが, いろいろな場面でその洗礼にあった. 渡米初日に予約していたレンタカーを借りに店を訪れたところ, 予約していた車種は出払っていてない と言われ全く規模の違う巨大な車を借りることになったり, インターネット接続の契約では工事予定日を二度すっぽかされたり, アパートで雨漏りしたので連絡したがすぐに来てくれず, やっと来たと思っても雨漏りは止まらなかったり. 通勤バスは予定よりやってくるのが遅れるどころか, 一本丸々やって来なかったり. こういった出来事について, エモリー大学の先輩日本人留学生に愚痴をこぼしたところ, そんなのアメリカでは日常茶飯事だよ! との声が. 渡米当初は肩に力が入りすぎ, 日本と同様のサービスを期待しすぎていたのかもしれない. だんだん慣れてきて肩の力が抜けてくると, 少々のハプニングにも動揺しなくなっていった. いい加減なところは本当にいい加減な米国であるが, 本当にバイタリティにあふれる国で, 滞在期間中には日本では味わえない刺激をたくさん受けた. 2 Aflac-CBC は全室個室であり, 特に病状説明のための部屋は設けられておらず, 病状説明や治療方針の説明についてはベッドサイドにて行われていた. 難しい, 深刻な話であっても患児がいる横で包み隠さず話をする様子には, 最初とても驚いた. ちょうど私の研修中に,Aflac-CBC では Family-centered Care の一環として新たな取り組みが行われているところであった. それは, 毎朝の回診あるいはカンファレンスに患児の親が参加するというものである. 医師が担当看護師から報告を受け, 皆で治療方針について議論する際に, 親も同席し疑問を持てばその場で質問し, 必要なら直接希望を述べられるようにするという画期的なものであった. 実際, 患者家族はこの機会を大切にして医療チームに積極的に意見していたのが印象的であった. 病状説明にしても, 回診 カンファレンスへの家族の参加にしても, 患児に関する情報は患児や家族のものであ 本当に, あっという間の半年間であった.Aflac-CBC のスタッフは本当に良くしてくださり, 私をチームの一員として扱ってくださった. 言葉の問題もあり, 特に最初のころは苦労もしたが, 私の拙い英語にも嫌な顔をせずに耳を傾けてくれたおかげで, 次第にコミュニケーションもとれるようになり, 充実した研修生活をおくることができた. 日米の医療の違いについて Attending Physician たちとともにディスカッションをした経験は私の今後の人生にとってとても大きな財産である. 米国と日本では, 保険制度の違いなどから実際の医療には大きな違いがあった. 日本の医療制度は国民皆保険を背景に誰もが安心して標準的な医療を受けられるという素晴らしい面があるが, 米国では加入している民間医療保険により受けられる医療が変わってきてしまう. しかし, CHOA などの大病院では圧倒的なマンパワーや資金力を
164 53 2 2016 背景に, 基礎および臨床研究に非常に力を入れている. また, 米国では無保険者や十分な民間医療保険に加入できない患者は, 無料で治療を受けることのできる治験への参加を積極的に希望することも多く, 非常に臨床研究を進めやすい環境となっている. 小児がん診療に関しては, 患者の集約化も進んでおり, 医師の各部門の専門性は非常に高く, 臨床研究に対する意識もとても高い. 一方の日本では,( これはいいことでもあるのだが ) 臨床研究に対して安全性の面からより慎重であり, 新規治療の開発という面で日本は米国と比べてずいぶん遅れを取っていると言わざるを得ない. 日本の医療制度の素晴らしい点は維持しつつ, どうすれば効率よく臨床試験を進め, 新規治療を効率よく開発していけるか考えていく必要がある. 診療レベルの向上に加え, 医学研究の効率化のためにも小児がん診療施設の集約化について検討していく必要があるように思われた. 研修を終え, 最後に臨床研究の成果を発表させていただいた際に, 尊敬する Dr. Woods から Hiro はこれからもずっと我々 Aflac ファミリーの一員だから, 何か困ったことがあればいつでも連絡をしなさい という大変温かい言葉をいただいた. また, 大変お世話になった Dr. Briones からも, これはお別れではない. 我々は仲間だからこれからも互いに連絡を取り合っていこう と言っていただいた. これから小児がん診療に携わっていく身として, 遠く離れた米国に仲間や味方がいるということは大変心強くありがたいことである. また, 造血幹細胞移植部門の Dr. Horan, Dr. Haight,Dr. Chiang,Dr. Qayed の各先生からは, 今回の臨床研究を機に, これからも是非共同研究を進めていこうとのお言葉もいただいた. 今後もこの分野の研究に継続して取り組んでいきたいと思っている. 病棟業務が多忙な中, 私を快く送り出してくださった札幌北楡病院小児思春期科の小林良二先生をはじめ, 諸先生方および病棟のスタッフには深く感謝を申し上げたい. また, 今回の留学では Aflac の強力なバックアップのおかげで大変貴重な経験をさせていただいた. こうした機会をいただけたことにあらためて深く感謝を申し上げるとともに, この経験を今後, 小児がんと闘う患児とそのご家族のために生かしていかなければならないと決意を新たにしている. 米国滞在中に大変お世話になった米国 Aflac 社のトラメル様, 出発準備から帰国までご尽力いただいた日本 Aflac 社の大元様,Aflac インターナショナルの青柳様, ゴールドリボンネットワークの山本様,US-Japan council のMr. Lassman, 宇多田様, 私を選考してくださった選考委員会の先生方,Aflac-CBC でお世話になった Dr. Meacham とその母 Roxie 様, その他多くのスタッフ,CHOA 小児集中治療部の Dr. Tarquinio, 米国滞在中に我々家族を助けてくれたエモリー大学日本人留学生のご家族の皆様, そして一緒に渡米し私を支え続けてくれた妻と三人の子どもたちに深く感謝を申し上げる. この拙文が, 今後留学を考えている若手小児血液 腫瘍担当医にとって少しでも参考になれば幸いである. 文献 1) 細谷要介 : アトランタ小児病院アフラック小児がん 血液病センター留学報告 ~ 第 1 期 Aflac-TOMODACHI プログラムに参加して~. 日本小児血液 がん学会雑誌 51: 172 176, 2014. 2) 大島淳二郎 : アトランタ小児病院アフラック小児がん 血液病センター留学報告 ~ TOMODACHI Aflac プログラム第 2 回派遣医師として~. 日本小児血液 がん学会雑誌 52: 165 171, 2015.