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近畿地方整備局 資料配付 配布日時 平成 23 年 9 月 8 日 17 時 30 分 件名土砂災害防止法に基づく土砂災害緊急情報について 概 要 土砂災害防止法に基づく 土砂災害緊急情報をお知らせします 本日 夕方から雨が予想されており 今後の降雨の状況により 河道閉塞部分での越流が始まり 土石流

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2. 急流河川の現状と課題 2.1 急流河川の特徴 急流河川では 洪水時の流れが速く 転石や土砂を多く含んだ洪水流の強大なエネルギー により 平均年最大流量程度の中小洪水でも 河岸侵食や護岸の被災が生じる また 澪筋 の変化が激しく流路が固定していないため どの地点においても被災を受ける恐れがある

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苦難してきた歴史的な経緯をもつ こうした灌漑水源確保に関して 1883 年には安積疏水により流域外に分布する猪苗代湖からの配水により灌漑整備が進められたが 古くより水を効率的に貯水する取り組みもなされている 貯水を行うため 水源になりうる沢地形の谷地に堰を盛り立てることで形成された歴史の長いため池が

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危険度判定評価の基本的な考え方 擁壁の種類に応じて 1) 基礎点 ( 環境条件 障害状況 ) と 2) 変状点の組み合わせ ( 合計点 ) によって 総合的に評価する 擁壁の種類 練石積み コンクリートブロック積み擁壁 モルタルやコンクリートを接着剤や固定材に用いて 石又はコンクリートブロックを積み

第 4 章特定産業廃棄物に起因する支障除去等の内容に関する事項 4.1 特定支障除去等事業の実施に関する計画 (1) 廃棄物の飛散流出防止ア廃棄物の飛散流出防止対策当該地内への雨水浸透を抑制し 処分場からの汚染地下水の拡散防止を図るとともに 露出廃棄物の飛散流出防止を図るため 覆土工対策を実施する

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Q3 現在の川幅で 源泉に影響を与えないように河床を掘削し さらに堤防を幅の小さいパラペット ( 胸壁 ) で嵩上げするなどの河道改修を行えないのですか? A3 河床掘削やパラペット ( 胸壁 ) による堤防嵩上げは技術的 制度的に困難です [ 河床掘削について ] 県では 温泉旅館の廃業補償を行っ

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の洪水調節計画は 河川整備基本方針レベルの洪水から決められており ダムによる洪水調節効果を発揮する 遊水地案 は 遊水地の洪水調節計画は大戸川の河川整備計画レベルの洪水から決めることを想定しており 遊水地による洪水調節効果が完全には発揮されないことがある 瀬田川新堰案 は 瀬田川新堰の洪水調節計画は

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ため池の管理に関する行政評価 監視の結果に基づく通知 ( 概要 ) 調査の背景 中国地方には ため池が 45,608 か所あり 全国 (197,742 か所 ) の 23.1% を占めている 平成 26 年 3 月現在 広島県 :19,609 か所 ( 全国 2 位 ) 山口県 :9,995 か所

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土量変化率の一般的性質 ❶ 地山を切土してほぐした土量は 必ず地山の土量 1.0 よりも多くなる ( 例 ) 砂質土 :L=1.1~2.0 粘性土 :L=1.2~1.45 中硬岩 :L=1.50~1.70 ❷ 地山を切土してほぐして ( 運搬して ) 盛土をした場合 一般に盛土量は地山土量 1.0

No.7 調査地点 : 北山崎 痕跡の種類 : 津波石自然公園 : 陸中海岸国立公園 ( 地種区分 : 特別保護地区 ) 調査日時 : 2011 年 7 月 12 日 15 時 55 分 天気 : 晴れ潮汐 ( 久慈 ) 干潮 06:58 18:19 概要 満潮 15:01 23:45 北山崎から海

はじめに 宅地造成等規制法が昭和 36 年に制定されてからおよそ半世紀を経過しました この間 平成 18 年には同法制定以来初めての抜本改正が行われています この改正は 阪神 淡路大震災 ( 平成 7 年 ) 新潟県中越地震 ( 平成 16 年 ) などで被災例が多かった大規模盛土造成地に対応するの


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4. 堆砂

ダムの運用改善の対応状況 資料 5-1 近畿地方整備局 平成 24 年度の取り組み 風屋ダム 池原ダム 電源開発 ( 株 ) は 学識者及び河川管理者からなる ダム操作に関する技術検討会 を設置し ダム運用の改善策を検討 平成 9 年に設定した目安水位 ( 自主運用 ) の低下を図り ダムの空き容量

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新川水系新川 中の川 琴似発寒川 琴似川洪水浸水想定区域図 ( 計画規模 ) (1) この図は 新川水系新川 中の川 琴似発寒川 琴似川の水位周知区間について 水防法に基づき 計画降雨により浸水が想定される区域 浸水した場合に想定される水深を表示した図面です (2) この洪水浸水想定区域図は 平成

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177 箇所名 那珂市 -1 都道府県茨城県 市区町村那珂市 地区 瓜連, 鹿島 2/6 発生面積 中 地形分類自然堤防 氾濫平野 液状化発生履歴 なし 土地改変履歴 大正 4 年測量の地形図では 那珂川右岸の支流が直線化された以外は ほぼ現在の地形となっている 被害概要 瓜連では気象庁震度 6 強

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利水補給

平成 29 年 7 月九州北部豪雨における流木被害 137 今回の九州北部における豪雨は 線状降水帯 と呼ばれる積乱雲の集合体が長時間にわたって狭い範囲に停滞したことによるものである この線状降水帯による記録的な大雨によって 図 1 に示す筑後川の支流河川の山間部の各所で斜面崩壊や土石流が発生し 大

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目 次 桂川本川 桂川 ( 上 ) 雑水川 七谷川 犬飼川 法貴谷川 千々川 東所川 園部川 天神川 陣田川

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下図は 緊急復旧工事実施箇所のほか 関東地整における大規模な被災が発生した 箇所を加えた計 78 箇所において 治水地形分類図から基礎地盤微地形を判読したものである 大規模災害が生じた箇所の治水地形分類は 自然堤防 旧河道 旧落掘 氾濫平野が多い 大規模災害箇所 ( 東北 関東 )/ 治水地形分類

6 章擁壁工 6.1 プレキャスト擁壁工 6.2 補強土壁工 ( テールアルメ工 多数アンカー工 ) 6.3 ジオテキスタイル工 6.4 場所打擁壁工 場所打擁壁 (1) 場所打擁壁 (2) 1-6-1

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第 3 章切土, 盛土, 大規模盛土, のり面保護工, 自然斜面等 3.1 切土 1. 切土のり面勾配 切土のり面勾配は, のり高及びのり面の土質等に応じて適切に設定するものとします その設定にあたっては, 切土するのり面の土質の確認を前提として, 表.3-1 を標準とします 崖の高さが 5m 以下

資料 -5 第 5 回岩木川魚がすみやすい川づくり検討委員会現地説明資料 平成 28 年 12 月 2 日 東北地方整備局青森河川国道事務所

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現行計画 ( 淀川水系河川整備計画 ): 川上ダム案 治水計画の概要 事業中の川上ダムを完成させて 戦後最大の洪水を 中下流部では ( 大臣管理区間 ) 島ヶ原地点の流量 3,000m 3 /s に対して 川上ダムで 200m 3 /s を調節し 調節後の 2,800m 3 /s を上野遊水地や河道

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9 箇所名 江戸川区 -1 都道府県東京都 市区町村江戸川区 地区 清新町, 臨海町 2/6 発生面積 中 地形分類 盛土地 液状化発生履歴 近傍では1855 安政江戸地震 1894 東京湾北部地震 1923 大正関東地震の際に履歴あり 土地改変履歴 国道 367 号より北側は昭和 46~5 年 南

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平方・中野久木物流施設地区

避難を促す緊急行動 被災した場合に大きな被害が想定される国管理河川において 以下を実施 1. 首長を支援する緊急行動 ~ 市町村長が避難の時期 区域を適切に判断するための支援 ~ できるだけ早期に実施 トップセミナー等の開催 水害対応チェックリストの作成 周知 洪水に対しリスクが高い区間の共同点検

立川市雨水浸透施設設置基準 1. 目的この設置基準は 立川市雨水浸透施設設置補助金交付要綱 ( 以下 要綱 という ) の雨水浸透施設の設置にあたり 必要な事項を定めることを目的とする 2. 用語の定義補助対象の雨水浸透施設とは 雨水浸透ます 及び 雨水浸透管 とし 雨水浸透施設の設置に伴い発生する

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平成 29 年 12 月 1 日水管理 国土保全局 全国の中小河川の緊急点検の結果を踏まえ 中小河川緊急治水対策プロジェクト をとりまとめました ~ 全国の中小河川で透過型砂防堰堤の整備 河道の掘削 水位計の設置を進めます ~ 全国の中小河川の緊急点検により抽出した箇所において 林野庁とも連携し 中

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中 2 数学 1 次関数 H ダイヤグラム宿題プリント H1 A 君は 8 時に家を出発して 12 km 離れた駅へ自転車で行く途中 駅からオートバイで帰ってくる B 君に出会った 8 時 x 分における 2 人の位置を 家から ykm として A 君とB 君の進行のようすを表したものが右のグラフで

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溶結凝灰岩を含む火砕流堆積物からなっている 特にカルデラ内壁の西側では 地震による強い震動により 大規模な斜面崩壊 ( 阿蘇大橋地区 ) や中 ~ 小規模の斜面崩壊 ( 南阿蘇村立野地区 阿蘇市三久保地区など ) が多数発生している これらの崩壊土砂は崩壊地内および下部に堆積しており 一部は地震時に

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【論文】

スライド 1

距離標地点名撮影説明 11km トビアス堰下流方向トビアス堰越流後の河道状況 距離標地点名撮影説明 14km GP8 道路橋付近下流方向橋から下流方向を望む 72

強化プラスチック裏込め材の 耐荷実験 実験報告書 平成 26 年 6 月 5 日 ( 株 ) アスモ建築事務所石橋一彦建築構造研究室千葉工業大学名誉教授石橋一彦

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4. ダム再生事業の概要 38

/27 (13 8/24) (9/27) (9/27) / / / /16 12

Gatlin(8) 図 1 ガトリン選手のランニングフォーム Gatlin(7) 解析の特殊な事情このビデオ画像からフレームごとの静止画像を取り出して保存してあるハードディスクから 今回解析するための小画像を切り出し ランニングフォーム解析ソフト runa.exe に取り込んで 座標を読み込み この

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改定現行備考 堤頂幅 (): 堤頂における堤体の横断方向の幅をいう 設計洪水位 (HWL): 設計洪水流量の流水が洪水吐を流下するときの 堤体直上流における最高水位をいう 常時満水位 (FWL): 非洪水時に貯留することとした貯水の 堤体直上流における最高水位をいう 貯水深 (H ): 常時満水位と

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蓮田市雨水排水流出抑制施設設置基準 平成 26 年 10 月 1 日施行 蓮田市都市整備部道路課 ~1~

第 3 章 間知ブロック積み擁壁の標準図 133

メーション補直接工事費直接工事費壁高 H 壁高 H 強土工テールアルメ工法318 プロダクトサマリー インフォ 1 テールアルメ工法 補強土工 経済性 高い垂直盛土が可能なため 用地が有効利用できる プレキャスト工法なので 工期短縮が可能な上 熟練工も特殊技術も不要 テールアルメ工法は 従来工法に比

2.2 既存文献調査に基づく流木災害の特性 調査方法流木災害の被災地に関する現地調査報告や 流木災害の発生事象に関する研究成果を収集し 発生源の自然条件 ( 地質 地況 林況等 ) 崩壊面積等を整理するとともに それらと流木災害の被害状況との関係を分析した 事例数 :1965 年 ~20

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藤沼貯水池ダム決壊に関する調査速報 調査日 :2011.5.10 報告者 : 中央大学理工学部國生剛治 1949 年に完成した複数の均一型アースフィルダムからなる貯水容量 150 万トンの農水省管轄の潅漑用貯水池で, 福島県須賀川市江花の阿武隈川支流江花川の流域に位置する. 今回の地震で決壊した貯水池北側のダムは, 堤高 17.5m. 堤長 133m, 堤体積 9.9 万 m 3. 竣工以来, 堤体の漏水や浸食の問題が多かったため, 地震前に改良工事をしたとの石碑がダム左岸側の公園に建っている. 決壊した堤体は堤長右岸部が最も浸食されているが, 堤長全体がオーバーフローした水により激しく浸食され, 特に下流側斜面は黒っぽい泥岩質の基盤面が顕れるまで完全に浸食されている. 堤体の土質は砂質系風化土からなり, さらに残留した左岸側堤体斜面には 20~30cm の撒きだし厚さで締め固められた層構造が観察できる. この層構造は上流側では途切れており, そこを境に貯水池側に滑った滑り面のような境界が見られる. また, 右岸側堤体はほとんど流されているが, アバットの石張り部分にも貯水池側に滑った形跡が残されている. 深く浸食された右岸側にはダム直下から上流部に向かって黒色の有機質土 ( 元の田んぼの耕作土? それにしては固結度が高い ) のようなものが水平成層状に見えるが, 堤体材料の転圧層と混在しているようにも見られ, 元のダム基盤面を確認するにはさらに調査が必要である. 貯水池の東側にも主ダムより小規模なやはり均一型アースフィルの副ダムがあり, 地震によって貯水池側斜面が天端道路舗装版を巻き込んで滑り破壊し,100m 以上にわたって崩壊土が貯水池底面に流動的に広がっている. その破壊形態は 1971 年に米国で起きたサンフェルナンド地震の水締め工法で造られた サンフェルナンド下部ダム に似ており, 円弧滑り面が天端から堤体斜面下段まで連続しているように見える. この副ダムが主ダムと同じ撒きだし転圧工法で造られているかどうかは不明である 滑り最上端は下流側斜面に至っておらず, ダム天端の高さは辛うじて保持され, ここでのダム決壊には至っていない. この貯水池は春の田植えに備え冬場は満水位を維持するため, 地震発生時の貯水位はほぼ満水位であったとのことである. 揺れによる貯水の液面揺動が起きたか否かに関してであるが, 左岸側の地山にあったダムの洪水吐きを歩いてみたが, 大量の水が流れた形跡は読み取れなかった. ダムは 3 月 11 日 14 時 46 分頃の本震で決壊したと思われるが, 決壊開始の目撃者は今のところ存在せず, その原因は特定できていない. ただし, 地震からほぼ 20 分後に左岸側まで行き既に決壊ダムが始まった様子を見ていた方は存在した. その目撃談の要旨は以下のとおりである.

地震時の水位は満水位 -15cm くらいであった. 地震が発生してから直ちに帰ろうとした人から, ダムを渡る道路が通れなくなったとの話を聞いたため現場を見に行った. ダム左岸に着いたのは 15:08 頃であった. その時, ダムの天端は全長にわたり最高水位から 1~2m ガン と下がり, 貯水は海みたいに波立ち, ダムの上をうねって流れていた. ただし, この時点では右岸側の方が特に深く浸食されている様子はなかった. ダムから越流した水は滝壺のように唸り, 貯水池の上は霧が立ち込めたようになって, これはただごとではないと恐ろしくなった. ただし, 堤体は簡単に崩れる感じではなく, 流れに対して頑張っている印象だった. 堤体貯水池側に張ってあった石張りに 20m 程度ごとに入れてあった縦目地コンクリートビームが, 沈下した堤体上を越流する水流に洗われていた. ダム現場に来た時, 地震の揺れによる貯水の揺動が起きてダム近辺の道路面が水を被ったような形跡はなかった. この時, 副ダムが崩壊したことは全く気付かず, かなり後になって分かった. したがって主ダム崩壊との時間的関係は分からない. 1944 着工で 1949 年竣工. 近くの農家の義務人夫による建設で, 貯水池敷地はもともとは水田, ダム建設に伴い農家 2 軒が立ち退いた. ダムの盛立材料の土採り場は不明だが, 貯水池内から採った可能性がある. 堤体補強のためのグラウトを平成 4 年ころにやったらしい. 農水省のダムだが, 実際は地元の土地改良区事務所が管理している. ダムから下流の長沼地区までを踏査したが, まず気がつくことは堆積物の少なさと浸食の激しさである. 谷は数 m 以上掘り下げられ, 岩の露頭が連続して見られる. また, 途中ダムより 200m 程下流で, 道路が盛土により谷を渡っており, その下には水抜き管が設置されていたが, 右岸側の盛土が完全に流失していた. その道路盛土より上流側では砂や礫の堆積面が複数確認され, また, 左岸より寄り盛土道路上にオーバーフローの跡が読み取れ, この部分が決壊した水を一時的に貯留し, 次に盛土崩壊が起きたものと考えられる. 流出した土砂を含んだ水は 1km ほど下流の長沼地区滝で江花川支流に達した. 川には 60 度くらいの角度をもって流れ込み, 対岸にある 4 つの家屋を押し流して 8 人の命を奪い (1 人は未だ行方不明 ), 多くの床上浸水被害ももたらした. ここに居られた住民の方の証言では, 洪水は地震後間もなく発生し,2 回のピークがあったとのことである. また, 住民の方が撮っていた 16:06~16:54 の時間帯でのビデオ画像があるが, 後になるほど水流は激しさを増していることが分かる. 以上より判断すると, 主ダム決壊の原因としては, 堤体の揺れによる沈下とその後のオーバーフローが挙げられる. この沈下が起きた理由は, 貯水池側堤体斜面の滑りが考えられる. 決壊後の堤体に残された滑りの痕跡は貯水位の低下による Draw-down でも発生し得

るが, ダム天端が地震後間もなく沈下していたとの目撃談から考えて, 先に水位低下が起きたとは考えにくい. むしろ, 揺れにより堤体上流部の堤体材料または基盤材料の強度低下が生じ, 滑りが起きた可能性が高い. 堤体材料は丁寧に転圧されているように見えるが, ダム基盤層については今後詳細な調査が必要と思われる. ただし, 堤体残留部に残された滑り面の位置はかなり上流側に偏っているように見え, これが直接上方に向かって下流部にまで伸び 1-2m の天端沈下をもたらしたようには見えない. 主ダムの滑りメカニズムを推定する上で副ダムの滑り形態は大いに参考になるが, 副ダムの滑り線は天端道路をほとんど巻き込んでいるのに対し, 主ダムでは上流側に偏っていて直接天端全体を沈下させる位置関係になかったように見られる. むしろ, この最初の滑りが天端付近の崩壊 (2 次的滑りなど ) を誘発した可能性が高い. 滑りは堤長のほぼ全長にわたって発生し, 天端は 1-2m 沈下し全長にわたってオーバーフローが起きた. その後も堤体本体は水圧に対して抵抗力を残していたが時間とともに右岸天端が徐々に浸食され, やがて全貯水量が完全に流出する高さまで浸食が進んだと思われる. その間の経過時間は下流の滝集落でとられたビデオから判断して 16:54 以降の長時間 ( 地震発生から 2 時間以上 ) に及んでいることが分かる. 左岸の丘から見下ろした空の貯水池, 決壊した主ダムと遠方の決壊を免れた副ダム

藤沼貯水池 (Wikipedia) 貯水池北側の藤沼ダム (Wikipedia) 決壊したダムの左岸側に立つ説明看板図 決壊したダムの右岸からの見え方, 下流斜面は基盤まで洗われ松林が倒されている. 残留した左岸側堤体上流部に滑り面らしき撒きだし層の断絶境界が確認できる. 右岸側地山付近にも貯水池側への滑りの形跡が見られる.

堤体は 20~30cm の撒きだし厚で転圧されている. 左岸から右岸地山アバットを見る, 手前左の滑らかな面は左岸側残留堤体の滑り面らしく思える. 左岸側残留堤体上のコンクリート躯体 ( 手前は天端道路舗装の境界コンクリート, 左側に傾斜したの は貯水池内張ブロックの目地コンクリート ). 左岸側から見た残留堤体の眺め. 激しく浸食された右岸側ダム基盤付近. 黒っぽい有機質土の成層構造が見られる. どこまでが堤体 材料でどこから基盤かは不明.

決壊は免れた副ダムの滑り破壊 天端から見た副ダムの滑り破壊 長沼集落への出口付近流下した跡は激しく浸食されている. 途中で道路盛土が谷を渡っていた個所 左岸寄りに残った道路盛土と手前に堆積した砂層