1-(1)-1 分水施設の設計手法について 南部建設事務所設計課設計調整係 出川義彦 1. はじめに近年の集中豪雨の発生や都市化の進展による雨水流出量が増大し 浸水被害が度々発生している そのため 当局では 既設管渠から堰等によりバイパス管や貯留管等に分水させ浸水被害の軽減に努めている しかし 標準的な分水方法と分水計算方法が確立されていないことや 計画分水量を取り込むための必要な分水施設の規模 ( 堰長等 ) が 道路形態や地下埋設物状況等により確保できないため 計画分水量が確保されない状況であった このため 水理模型実験を行い 標準的な分水施設の設計手法を検討した なお 今回提案する分水施設は下流管路施設の流下能力超過分を分水させるもので 遮集分水量 ( 遮集量の流入量に対する比率 5~8%) 以上の分水を対象にするものである 遮集分水については分水人孔設計マニュアル ( 案 ) が既に手引き化されている 2. 実験内容今までの施工実績の多い横越流堰による分水 ( 以下 横越流堰方式 図 1 図 3 参照 ) と既設の円形管に分岐管を側方から直接接続して分水する方式 ( 以下 直接分水方式 図 2 図 4 参照 ) の2タイプを抽出し 水理模型実験を行った その中で 各分水方式の計算方法を既存の水理公式から選定し 次いで式中に含まれる流量係数や損失係数などの物理定数を実験により設定し 実験結果と計算結果との対比から分水量の計算方法の妥当性と適用範囲について検証した 図 1 横越流堰方式 図 2 直接分水方式 分水箇所 分水箇所 図 3 横越流堰方式 ( 模型 ) 図 4 直接分水方式 ( 模型 ) - 1 -
表 1 分水方式及び分水対策の分類 分水形態 分水方式 分水対策 定量分水 ピークカット 横越流堰 デフレクター 定率分水 正面越流堰 垂れ壁 直接分水 スリットシル オリフィス ベースカット 底部分水型 背割り 表 2 水理実験の基本条件 分 水 方 法 横越流堰方式 直接分水方式 分 水 形 態 ピークカット - 既設管渠断面 矩形断面 円形断面 既設管渠勾配 流れが安定した常流となる勾配 ( 目安として管渠勾配 1 程度 ) 既設管渠形状 直線区間 一様勾配区間 一様断面区間 分水施設規模 堰長が水路幅の2 倍程度 分水管径が本管の1/2 程度 (1) 横越流堰方式の分水形態概念図 横越流堰による越流形態は 完全越流を対象とした 分水側の水位が高く 不完全越流 もぐり越 流が想定される場合は 本設計手法の適用ができないことに留意が必要である 分水形態は 堰区間 において安定した常流状態の確保できる分水を対象とした ( 図 5 図 6 参照 ) 分水区間 図 5 斜流勾配管渠の場合 ( 対象 ) 分水区間 ( 対策を講ずる ことで対象 ) 分水区間 射流 - 常流については 分 水対策を行うことにより対 象範囲となる 図 6 常流勾配管渠の場合 - 2 -
(2) 直接分水方式における流出形態の分類直接分水方式による流出形態は 分水管側の水位により完全流出 もぐり流出 オリフィス流出を対象にし それぞれの流出形態に応じた分水量を確認する ( 図 7 参照 ) 分水形態は 横越流方式と同様に遮流に遷移する状況が起こりえるが 直接分水方式の場合は分水比率の適用上限を35% としているため 基本的に常流分水が確保されているものと考えられる ( 対象 ) ( 対象 ) ( 対象 ) 図 7 流出形態の分類 また 既設管に対する分水管の接続角度による影響を検証する ( 図 8 参照 ) 図 8 分水管の接続角度 - 3 -
図 9 分水区間上下流の比エネルギー 既設管の分水区間上下流の比エネルギーを計測し 既設管渠と分水管の接続角度による影響を確認するため 90 の場合と60 の場合の2ケースについて比較を行った その結果 分水区間の比エネルギーはほぼ一定であり 接続角度による影響はほとんど見られなかった よって 直接分水方式の設計方法に当たっては 接続角度の影響については考慮しないこととする ( 図 9 参照 ) (3) 分水対策 ( デフレクター 垂れ壁 ) 本設計手法の基本条件の下では 分水比率が横越流堰方式の場合に30% 程度 直接分水方式の場合に15% 程度まで分水対策が不要であるが これを超える分水量を確保するには 分水区間の下流側に分水対策 ( デフレクター 垂れ壁 ) を設置する必要がある これにより 越流水深を大きくし 計画分水量の増量と 分水区間の流下状況を安定させ精度の高い分水を可能にする また 横越流堰方式では分水対策を設けることで 分水堰の堰長を短くでき計画分水量を確保することができる ( 図 10 参照 ) 図 10 分水対策 ( デフレクター 垂れ壁 ) 分水対策 ( デフレクター 垂れ壁 ) 設置位置分水対策の設置位置について実験を行い どの位置が効率的かつ安定した流れになるか確認を行った その結果 分水量への影響がほとんどない 分水区間の下流端から水路幅分 1B だけ離隔した位置に設置することとした ( 図 11 図 12 参照 ) - 4 -
分水比 (%) 分水比 (%) 分水区間に設置した場合 張り出し構造の影響 分水区間より下流に設置した場合 安定した常流分水 張り出し構造による影響範囲 (1.0B 以上離隔 ) 張り出し構造の影響 安定した常流分水 対策有り時の水面形 対策無し時の水面形 水の流れが安定しない 安定した常流分水となる 図 11 分水対策 ( デフレクター 垂れ壁 ) 設置位置 設置位置の検討 ( デフレクター ) 設置位置の検討 ( 垂れ壁 ) 60 60 垂れ壁 ( 開口幅 :1.0m) 50 40 ほぼ横ばい状態 50 40 ほぼ横ばい状態 30 30 20 20 10 対策有 ( デフレクター : 開口幅 1.4m) 対策無 10 対策有 ( 垂れ壁 : 開口幅 1.0m) 対策無 0 0-1.0B 0.0B 1.0B 2.0B 3.0B 4.0B 5.0B 6.0B -1.0B 0.0B 1.0B 2.0B 3.0B 4.0B 5.0B 6.0B 設置位置 設置位置 図 12 分水対策 ( デフレクター 垂れ壁 ) 設置位置既設の水路幅 (1B) 以上の離隔を確保すると それ以上離隔を確保してもほとんど変わらない ( 図 12 参照 ) 3. 水理公式と実験結果下水道施設で採用している横越流堰方式については 簡易式 ( 管渠再構築設計の手引き ) 及び既存の式 ( 分水人孔設計マニュアル ( 案 )) がある また 直接分水方式についても オリフィス流入公式 ( 分水人孔設計マニュアル ( 案 )) があるが どれも 本来 遮集分水時を対象としている 本設計方法においてもこれらの公式を採用することと 実験により基本条件 適用範囲に合致した流量係数 損失係数等の物理定数を求め 水理模型実験の結果と水理公式で求めた分水量を対比して算定手法の妥当性の確認を行った - 5 -
分水比率 (%): 算定値 (1) 横越流堰方式 簡易式と水理模型実験との比較 ( 流量係数 C 補正後 ) 40 30 20 10 0 0 10 20 30 40 分水比率 (%): 実験値 図 13 簡易式と水理模型実験との比較 ( 流出係数 C 補正後 ) 流量係数 C を実験より求めた値に補正することにより 計算式 ( 算定値 ) で算出した値と 実験値 が分水比率 30% までほぼ一致した このことから 流入量に対する分水比率が 30% までは 流量 係数 C を補正することで 簡易式で対応できることが確認できた ( 図 13 参照 ) - 6 -
不等流計算による分水率 (% ) 計算による分水率 (% ) 既存の式と水理模型実験との比較 ( 流量係数 C 補正前 ) 50.0 45.0 40.0 35.0 30.0 25.0 20.0 15.0 既存の式 ( 流量係数 C =1.84) で分水量を算出し 実験結果と対比したところ 分水量が 1~2 割程度多く見積もられていた ( 図 14 参照 ) 10.0 5.0 De Marchi 0.0 0.0 5.0 10.0 15.0 20.0 25.0 30.0 35.0 40.0 45.0 50.0 実験による分水率 (%) 図 14 既存の式と水理模型実験との比較 ( 流出係数 C 補正前 ) 既存の式と水理模型実験との比較 ( 流量係数 C 補正後 ) 50.0 45.0 40.0 35.0 30.0 25.0 20.0 15.0 10.0 5.0 De Marchi 既存の式 ( 流量係数 C =1.35) を補正し 分水量を算出し 実験結果と対比したところ 分水量がほぼ一致した このことから 流入量に対する分水比率が 50% までは流量係数 C を補正することで 既存の式で対応できることが確認できた ( 図 15 参照 ) 0.0 0.0 5.0 10.0 15.0 20.0 25.0 30.0 35.0 40.0 45.0 50.0 実験による分水率 (%) 図 15 既存の式と水理模型実験との比較 ( 流出係数 C 補正後 ) - 7 -
計算による分水比率 (2) 直接分水方式分水比率が15% までは分水対策は不要であり それ以上の分水量が必要な場合は分水対策を行うことにより分水比率 35% まで適用できる 35% 以上の場合は 分水対策箇所の上流において既設管が圧力状態に遷移することから 適用範囲外とした ( 図 16 参照 ) 40 35 適用範囲外 30 分水対策必要 20 15 10 分水対策不要 0 0 10 20 30 40 実験による分水率 (%) 図 16 直接分水方式適用範囲 4. 水理公式の基本条件及び適用範囲 横越流堰方式の基本条件既設管渠の形状管渠断面矩形断面 ( 水路高は水路幅の2 倍以下 ) 管渠勾配流れが安定した常流となる勾配 ( 管渠勾配 1 程度が目安 ) 管渠形状直線区間 一様勾配区間 一様断面区間 ( 流向変化部 勾配変化部 断面変化部による急変流の影響のない箇所に選定 ) 分水施設の諸元横越流堰堰長は水路幅の2 倍以下堰高は水路幅の1/6 以上 横越流堰方式の適用範囲 簡易式流入量に対する分水量の比率 30% まで適用 ( 流量係数は実験結果により提示 ) 既存の式対策工 ( デフレクターや垂れ壁 ) を設置し 流入量に対する分水量の比率 30~50% まで適用 ( 流量係数は実験結果により提示 ) 分水比率 50% 以上は水理模型実験等で検証が必要 - 8 -
直接分水方式の基本条件既設管渠の形状管渠断面円形断面管渠勾配流れが安定した常流となる勾配 ( 管渠勾配 1 程度が目安 ) 管渠形状直線区間 一様勾配区間 一様断面区間 ( 流向変化部 勾配変化部 断面変化部による急変流の影響のない箇所に選定 ) 分水施設の諸元直接分水分水管渠の径は 既設管渠径の1/2 直接分水方式の適用範囲 オリフィス流入公式流入量に対する分水量の比率 15% まで適用対策工を設置し 流入量に対する分水量の比率 15~35% まで適用 ( 流量係数は実験結果により提示 ) 分水比率 35% 以上は水理模型実験等で検証が必要 5. まとめ今回は遮集分水以上の分水施設について 水理模型実験で検証し 横越流堰方式及び直接分水方式の設計手法を確立させることができた また 実験結果や水理公式の適用範囲 計算方法等を整理し 設計者が判断しやすいようマニュアル案を作成した しかしながら まだ 課題も多く 1 分水対策 ( デフレクターや垂れ壁 ) の設置について 施工性や耐久性 維持管理性等の検討 2 分水位置や分水量の多いもの等の 今回定めた基本条件や適用範囲外の場合の判断方法等 実際設計を行うにあたりどのような対策を講じるか十分な検討が必要となる イメージ図 Q U =10.0(m 3 /s) L=6.0(m) a=1.30(m) H L =1.67(m) W=0.85(m) Q div =5.0(m 3 /s) デフレクター 水路高 2.0(m) Q L =5.0(m 3 /s) 水路幅 B=3.0(m) 図 17 横越流堰方式 ( デフレクター設置 ) Q U =15.0(m 3 /s) 分水管渠の径 D div =1.5(m) Q div =4.0(m 3 /s) H div =1.98(m 3 /s) H L =2.65(m) 垂れ壁 Q L =11.0(m 3 /s) 既設管渠の径 D=3.0(m) 図 18 直接分水方式 ( 垂れ壁設置 ) - 9 -