血栓止血誌 (6):594~598, 2012 西村仁 * 1, 平井秀憲 * 2, 宮田敏行 * 2 Structure and function of blood coagulation factor XI Hitoshi NISHIMURA * 1, Hidenori HIRAI * 2, T

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血栓止血誌 (6):594~598, 2012 西村仁 * 1, 平井秀憲, 宮田敏行 Structure and function of blood coagulation factor XI Hitoshi NISHIMURA * 1, Hidenori HIRAI, Toshiyuki MIYATA factor XI, apple domain, serine protease, thrombin, polyphosphate 1. 凝固系は, 外因系 (extrinsic pathway) と内因系 (intrinsic pathway) に大別される ( 1). 外因系は組織因子 (TF) が血流に露出することで開始される.TF は血中の VII 因子 (FVII) または活性型 FVII(FVIIa) と結合し,FVIIa-TF 複 合体が IX 因子 (FIX) および X 因子 (FX) を活性化する. 一方, 内因系は, 陰性電荷物質に結合した XII 因子 (FXII) の活性化によって惹起される. 活性型 FXII(FXIIa) は, 高分子キニノーゲン (HMWK) を介して陰性電荷上に濃縮された XI 因子 (FXI) を活性化する. これらの陰性電荷表 * 1 摂南大学理工学部生命科学科 572-8508 大阪府寝屋川市池田中町 17-8 Department of Life Science, Faculty of Science and Engineering, Setsunan University 17-8 Ikeda-Nakamachi, Neyagawa, Osaka 572-8508, Japan Tel: 072-800-1152 Fax: 072-838-6599 e-mail: nishimura@lif.setsunan.ac.jp 国立循環器病研究センター分子病態部 565-8565 大阪府吹田市藤白台 5-7-1 Department of Molecular Pathogenesis, National Cerebral and Cardiovascular Center 5-7-1 Fujishirodai, Suita, Osaka 565-8565, Japan Tel: 06-6833-5012 Fax: 06-6835-1176 e-mail: hirai.hidenori.ri@mail.ncvc.go.jp, miyata@ri.ncvc.go.jp

西村, ほか : 凝固 XI 因子の構造と機能 595 陰性電荷表面 HMWK FXI 内因系 (intrinsic) FXIIa FXIa FXIa IIa 外因系 (extrinsic) 血管の損傷や炎症性刺激による TF の露出 TF FVIIa TF FVII HMWK IIa 各ドメインに結合するリガンド HMWK ヘパリン GPIb FIX FXIIa -S-S- 607 残基 A1 A2 A3 A4 セリンプロテアーゼドメイン FIX FIXa FIXa FIX FVIIIa FX Fbn 共通 (common) 面における一連の反応は 接触相における活性化 と呼ばれる. 生成した活性型 FXI(FXIa) は, 外因系由来の FVIIa-TF と同様に FIX を活性化してトロンビンの生成に至る. 2. FXI FXI( 単量体 ) は 607 アミノ酸残基から成るセリンプロテアーゼ前駆体であり, 分子量 160kDa のホモ 2 量体として存在する.FXI の単量体は, タンパク質レベルでプレカリクレインと高い相同性を示す. 血漿中における FXI の濃度は 3~ 7μg/mL, 半減期は 52 時間である 1)2). FXI は,N 末端側より 4 個のアップル (A1 ~A4) ドメインと 1 個のセリンプロテアーゼ (SP) ドメインから構成されている ( 2) 3) 5). A1~A4 ドメインは,PAN(Plasminogen-Apple- Nematode ) モジュールファミリーに属しており, 活性化因子や基質タンパク質, 補助因子の結合部位となっている ( 2) 1). 例えば,A1 ドメイ IIa 1 凝固系カスケード反応と XI 因子の位置づけ内因系 ( 緑色の四角 ) は陰性電荷表面, 外因系 ( 黄色の四角 ) は組織因子 (TF) の血流への露出で惹起される. 両経路は IX 因子 (FIX) を IXa 因子 (FIXa) へと活性化する反応で合流し, 共通の経路 ( 青色の四角 ) でトロンビン (IIa ) を生成する.XI 因子 (FXI) は内因系で機能するタンパク質で, 活性型 FXI(FXIa) が FIX を活性化する.FVII,VII 因子 ;FVIIa, 活性型 FVII; HMWK, 高分子キニノーゲン ;FXIIa, 活性型 XII 因子 ; FVIIIa, 活性型 VIII 因子 ;FX,X 因子 ;FXa, 活性型 FX;FVa, 活性型 V 因子 ;II, プロトロンビン ;Fbg, フィブリノーゲン ;Fbn, フィブリン FXa Fbg FVa II A1 A2 A3 A4 ンにはトロンビン (FXI の結合部位は残基 45-70) と HMWK( 残基 56-86),A2 ドメインには HMWK,A3 ドメインには FIX( 残基 183-191) や血小板糖タンパク質 Ib(GPIb)( 残基 248-263), ヘパリン ( 残基 252-255), および A4 ドメ インには FXIIa( 残基 317-350) がそれぞれ結合 する. 一方,FXI の SP ドメインはトリプシン 型で, 活性部位を構成するアミノ酸は His413, Asp462, および Ser557 である. -S-S- 607 残基セリンプロテアーゼドメイン 16% 9% 14% 15% 32% Arg369 Ile370 全ての変異における割合 S S FXIIa, トロンビン,FXIa 2 XI 因子のドメイン構造と機能 XI 因子は, アップル第 4 ドメイン (A4) 中の Cys321 を介した S-S 結合で 2 量体を形成している. また,A4 ドメインとセリンプロテアーゼドメイン (SP ) の間にある Arg369-Ile370 結合が活性型 XII 因子 (FXIIa ), トロンビン, または活性型 XI 因子 (FXIa ) で分解されると,XI 因子は活性化される. 上段は各アップルドメインに結合するリガンド, 下段はこれまでに報告された XI 因子の全変異に対する各ドメインの変異の割合を示している. なお, 全変異の中にはプロモーター領域やシグナル配列中の変異などが含まれるので, 図中の変異の割合の合計は 100% にならない.HMWK, 高分子キニノーゲン ; IIa, トロンビン ;GPIb, 血小板糖タンパク質 Ib;FIX, IX 因子 ;A1~A3, アップル第 1~ 第 3 ドメイン 3. FXI FXI の A1~A4 ドメインは,90 または 91 個の アミノ酸残基から成る 3) 5). アップルドメインは 7 本のβ 鎖が逆並行に並んで ゆりかご 状のシートを構成し,1 本のαへリックスがシートの凹面 ( ゆりかごの赤ん坊が入る場所 ) に位置している ( 3A ).A1 ドメインと A2 ドメインが縦に並び,180 反転して A3 ドメインと A4 ドメインが並んでいる. その結果,A1-A2 と A3-A4 は

596 日本血栓止血学会誌第 23 巻第 6 号 (A) A1 A2 (C) 活性部位 A4 Cys321 A3 Cys321 A4 A3 (B) セリンプロテアーゼドメイン 70 活性部位 S-S 結合で結ばれた 2 本鎖タンパク質となる ( 2).2 量体化 A4 ドメインの NMR 法による解析では,X 線結晶解析法で決定された A4 ドメインに比べ,C 末端部に 1 本のαへリックスが新たに形成されていた 8). この NMR の結果に加え, X 線小角散乱法や電子顕微鏡観察における結果より, 活性化された FXIa ではドメイン間に大きな空間的再構成が行われ, よりコンパクトな構造になることが明らかにされた. セリンプロテアーゼドメイン v A1 A2 3 XI 因子の立体構造 (A) アップル第 1~ 第 4 ドメイン (A1~A4) の立体構造. それぞれのアップルドメインは 7 本の β 鎖と 1 本の α らせんで構成されており,4 個のアップルドメイン全体で平面構造をとっている.(B) セリンプロテアーゼドメインの立体構造. セリンプロテアーゼドメインは球状構造をしている.(C)XI 因子全体の立体構造. セリンプロテアーゼドメインは A1~A4 上に位置していることから, XI 因子全体の構造は cup( セリンプロテアーゼドメイン ) & saucer(a1~a4) に例えることができる. 図 C 中の青色の四角は, フィンガー様ループ構造を示している 逆並行になり, これら 4 個のドメインは平面構造をとる ( 3A). 平面の中央には大きな窪みが形成され, 塩基性アミノ酸と芳香族アミノ酸が集中している. 球状の SP ドメイン ( 3B) はその平面の上に位置している. したがって,FXI の立体構造は,SP ドメインをコーヒーカップ, A1~A4 ドメインをその受け皿に見立てた cup & saucer 構造になっている ( 3C). FXI の 2 量体は, 単量体が Cys321 を介した分子間 S-S 結合で連結した構造をとる.2 個の単量体の接触面は Cys321 を含むフィンガー様ループ構造をしており,2 量体は 70 の角度でつながった逆 V 字形をしている ( 3C). また,2 量体の形成には Leu284,Ile290, および Tyr329 を含む疎水結合や片方の単量体の Lys331 と別の単量体の Glu287 の間で形成される静電結合が必要である 4) 7). このように, それぞれの単量体は A4 ドメインだけで互いに接触している. FXI が活性化される際, それぞれの単量体は Arg369-Ile370 結合の限定水解を受け, 分子内 4. FXI 2 FXI はホモ 2 量体を形成している点で他の凝固因子と異なっているが, その意義についていくつか報告がある. まず,Phe283 が Leu に置換している FXI 欠損症では単量体型が細胞内に蓄積して分泌されないことから ( 1) 2)9),2 量体化が細胞内における FXI ポリペプチド鎖の成熟または細胞内輸送に重要と思われる. 次に, 単量体型の活性化速度は 2 量体型に比べて低いことから, 2 量体化によって FXIa へ効率よく活性化されることが考えられる 6).Wu らは,FXI 活性化因子が片方の単量体に結合して, 別の単量体を活性化するというトランス活性化機構を提唱している 6). Smith らは 2 量体の片方のみが活性化された FXIa を同定し,2 量体がともに活性化された FXIa と区別する意味で 1/2-FXIa と名付けた 10). 1/2-FXIa は血漿中でその存在が確認されたので, 凝固系の反応初期における活性型 FXI は, 1/2-FXIa が主要な分子種かもしれない. 1/2-FXIa では, 活性化していない単量体に補助因子等が結合し, 活性化している単量体には基質が結合するモデルが考えられる. 実際,FXIa の基質である FIX は,FXI ではなく FXIa とのみ結合する 11). 対照的に,GPIb は FXIa ではなく FXI の A3 ドメインと結合する 1). 血小板上で FXIa が FIX を活性化するかどうかは不明だが, 1/2-FXIa の意義を考える上で, 基質 補助因子と FXI または FXIa の結合性の差異は興味深い. 5. FXI FXI 欠損症は, その表現型より I 型および II

西村, ほか : 凝固 XI 因子の構造と機能 597 型に大別される ( 1) 1)2).I 型は FXI の抗原量がゼロもしくはほとんどない欠乏症で,FXI の活性も低い. このタイプは,I-1(FXI の生合成低下 ),I-2(FXI の 2 量体化不全による分泌低下 ), および I-3( 異常単量体と正常単量体の 2 量体化による分泌低下 ) に分類される. 一方,II 型は FXI の抗原量が正常であるにもかかわらず, 活性が低い分子異常症である. このタイプは II-1 (FXI の活性化異常 ) および II-2(FXIa による FIX の活性化異常 ) に分類される. FXI 欠損症における変異は, 各ドメインに分散している ( 2). 1 は I 型欠乏症と II 型分子異常症について, 変異と表現型を示したものである 1)2).II 型分子異常症では, 補助因子である HMWK(Gly155Glu 変異,A2 ドメイン ) や血小板 (Ser248Phe 変異,A3 ドメイン ) との結合低下, および基質である FIX との結合低下 (Ser576Arg 変異,SP ドメイン ) 等,FXI の構造 - 機能相関に重要な情報を与えている. 6. FXI 凝固系カスケード機構が発見されてしばらくの間,FXIIa が生理的な FXI の活性化因子と考え られていた 1)12)13). しかし,FXI 欠損患者はある 程度の出血症状を示すにもかかわらず,FXII 欠損症では出血傾向が見られない. また, 血漿カリクレインや HMWK など, 内因系凝固反応に関係する他の分子の欠損症も FXII と同様に出血傾向を示さないことから 1),in vivo における FXI の活性化因子は FXIIa 以外にも存在すると考えられた. 14) 1991 年, 内藤と藤川および Gailani と Broze 15) は, トロンビンが FXI を活性化することを報告した. また, プロトロンビンからトロンビンへの活性化過程で生じるメイゾトロンビンも FXI を活性化することがわかった 16). ただ, トロンビン単独では FXI の活性化速度が低く, トロンビンが生理的な活性化因子かどうかについて議論があった.2010 年,Maas らは, 活性型 V 因子 (FVa) がトロンビンによる FXI 活性化の補助因子であることを見出した 17). この結果, トロンビンが FXI を活性化し,FXIa が FIX の活性化を通じてトロンビン生成を増強するフィードバック機構が生体内で起こるものと考えられた ( 1). さらに, FXIa も FXI を自己活性化すると報告されている ( 1 および 2) 14)18). 1 FXI 欠損症の分類と原因 欠損症の型 分類 変異 ドメイン 分子レベルにおける原因 I 型欠乏症 1 Glu117 * A2 肝臓における FXI の生合成量の低下 2 Phe283Leu A4 2 量体化の低下による細胞外への分泌低下 3 Ser225Phe A3 変異型と正常型ポリペプチドの 2 量体形成による細胞外への分泌低下 II 型分子異常症 FXI の活性化異常 1 Gly350Ala A4 2 量体化の不全による FXI のトランス活性化の阻害 1 Gly155Glu A2 HMWK との結合低下 1 Val371Ile SP 活性化ループの変異 1 Ser248Phe A3 血小板との結合低下 FXIa による IX 因子の活性化異常 2 Ser576Arg SP FIX との結合低下 2 Gly555Glu SP 触媒部位周辺の静電的環境の変化 2 Thr575Met SP Ser557 との新しい水素結合の形成 2 Pro520Leu SP FXIa の触媒活性の低下 FXI,XI 因子 ;A, アップルドメイン ;SP, セリンプロテアーゼドメイン ;HMWK, 高分子キニノーゲン ;FXIa, 活性型 FXI;FIX,IX 因子. アミノ酸番号は成熟タンパク質のアミノ末端残基を 1 として表記した. アミノ酸変異は Human Genome Variation Society が推薦する表記にしたがった (http://www.hgvs.org/mutnomen/recs-prot.html).

598 日本血栓止血学会誌第 23 巻第 6 号 7. FXI FXII の活性化には陰性電荷物質が必要とされる 1)12)13).in vitro の研究では, ガラスやカオリン, エラジン酸などの非生体物質, および細胞外 RNA や硫酸化糖脂質, タンパク質凝集体,I 型コラーゲン, グリコサミノグリカンなどの生体物質が FXII 活性化能をもつ. 以前より,FXII の活性化に血小板が重要であると指摘されており 1)13), 血小板が放出する物質が FXII の活性化に関係すると予想されていた 19). ポリリン酸は無機リン酸が直鎖状に結合したポリマーで, 血小板の活性化に伴い濃染顆粒からカルシウムイオンや ADP, セロトニンとともに放出される. ポリリン酸は, 内因系凝固反応の促進, 線溶系の遅延, 太いフィブリン線維の形成, といった性質を持ち, 凝固促進因子として注目されている.2009 年,Müller らは, マウスモデルを用いて, ポリリン酸が生体内でも凝固系やキニン系の活性化を惹起すると報告した 19). さらに 2011 年, ポリリン酸存在下で FXI がトロンビンまたは FXIa で活性化されることが示された 20). ポリリン酸が凝固系で機能する際, その鎖長は大変重要である 21). 例えば, 微生物が産生するポリリン酸 ( 数百 ~ 数千個のリン酸基 ) は非常に高い内因系活性化能を示す. 一方, 血小板が放出するポリリン酸 (60~100 個のリン酸基 ) がもつ内因系活性化能は, 長鎖ポリリン酸 (1,000~2,000 個のリン酸基 ) の数千分の一程度である. 興味深いことに,V 因子 (FV) の活性化や組織因子経路インヒビター (TFPI) の阻害, トロンビンによる FXI 活性化などの効果では, 血小板由来ポリリン酸は微生物由来ポリリン酸と同等かそれ以上である. 血小板由来のポリリン酸は, 内因系の活性化と比べ, トロンビン生成のフィードバック機構により深く関係しているかもしれない. Disclosure of Conflict of Interests The authors indicated no potential conflict of interest. 1)He R, Chen D, He S:Factor XI:Hemostasis, thrombosis, and antithrombosis. Thromb Res 129:541-550, 2012. 2)http://www.factorxi.org. 3)Fujikawa K, Chung DW, Hendrickson LE, Davie EW:Amino acid sequence of human factor XI, a blood coagulation factor with four tandem repeats that are highly homologous with plasma prekallikrein. Biochemistry 25:2417-2424, 1986. 4)Papagrigoriou E, Mcewan PA, Walsh PN, Emsley J:Crystal structure of the factor XI zymogen reveals a pathway for transactivation. Nat Struct Mol Biol 13:557-558, 2006. 5)Emsley J, McEwan PA, Gailani D:Structure and function of factor XI. Blood 115:2569-2577, 2010. 6)Wu W, Sinha D, Shikov S, Yip CK, Walz T, Billings PC, Lear JD, Walsh PN:Factor XI homodimer structure is essential for normal proteolytic activation by factor XIIa, thrombin, and factor XIa. J Biol Chem 283:18655-18664, 2008. 7)Zucker M, Zivelin A, Landau M, Rosenberg N, Seligsohn U: Three residues at the interface of factor XI (FXI )monomers augment covalent dimerization of FXI. J Thromb Haemost 7: 970-975, 2009. 8)Samuel D, Cheng H, Riley PW, Canutescu AA, Nagaswami C, Weisel JW, Bu Z, Walsh PN, Roder H:Solution structure of the A4 domain of factor XI sheds light on the mechanism of zymogen activation. Proc Natl Acad Sci USA 104:15693-15698, 2007. 9)Peyvandi F, Palla R, Menegatti M, Mannucci PM:Introduction. Rare bleeding disorders:general aspects of clinical features, diagnosis, and management. Semin Thromb Hemost 35:349-355, 2009. 10)Smith SB, Verhamme IM, Sun MF, Bock PE, Gailani D:Characterization of Novel Forms of Coagulation Factor XIa:Independence of factor XIa subunits in factor IX activation. J Biol Chem 283:6696-6705, 2008. 11)Aktimur A, Gabriel MA, Gailani D, Toomey JR:The factor IX γ-carboxyglutamic acid (Gla )domain is involved in interactions between factor IX and factor XIa. J Biol Chem 278:7981-7987, 2003. 12) 宮田敏行, 喜多俊行 :VI. 凝固線溶系 3. 内因系凝固反応と血栓症,Annual Review 血液 2012, 東京, 中外医学社,2012, 236-244. 13)Müller F, Gailani D, Renné T:Factor XI and XII as antithrombotic targets. Curr Opin Hematol 18:349-355, 2011. 14)Naito K, Fujikawa K:Activation of human blood coagulation factor XI independent of factor XII. Factor XI is activated by thrombin and factor XIa in the presence of negatively charged surfaces. J Biol Chem 266:7353-7358, 1991. 15)Gailani D, Broze GJ Jr:Factor XI activation in a revised model of blood coagulation. Science 253:909-912, 1991. 16)von dem Borne PA, Mosnier LO, Tans G, Meijers JC, Bouma BN:Factor XI activation by meizothrombin:stimulation by phospholipid vesicles containing both phosphatidylserine and phosphatidylethanolamine. Thromb Haemost 78:834-839, 1997. 17)Maas C, Meijers JC, Marquart JA, Bakhtiari K, Weeterings C, DE Groot PG, Urbanus RT:Activated factor V is a cofactor for the activation of factor XI by thrombin in plasma. Proc Natl Acad Sci USA 107:9083-9087, 2010. 18)von dem Borne PA, Meijers JC, Bouma BN:Feedback activation of factor XI by thrombin in plasma results in additional formation of thrombin that protects fibrin clots from fibrinolysis. Blood 86:3035-3042, 1995. 19)Müller F, Mutch NJ, Schenk WA, Smith SA, Esterl L, Spronk HM, Schmidbauer S, Gahl WA, Morrissey JH, Renné T:Platelet polyphosphates are proinflammatory and procoagulant mediators in vivo. Cell 139:1143-1156, 2009. 20)Choi SH, Smith SA, Morrissey JH:Polyphosphate is a cofactor for the activation of factor XI by thrombin. Blood 118:6963-6970, 2011. 21)Morrissey JH, Choi SH, Smith SA:Polyphosphate:an ancient molecule that links platelets, coagulation, and inflammation. Blood 119:5972-5979, 2012.