Jpn,J,nviron,ntomol,Zool,26(2):55-61(2015) 環動昆第 26 巻第 2 号 :55-61(2015) 資 料 東京都港区におけるアオドウガネ成虫の発生状況第 4 報 - 近年の発生数と各種食餌植物の適合性について - 105-0014 東京都港区芝 ( 受領 2015 年 2 月 17 日 ; 受理 2015 年 4 月 14 日 ) Occurrence of green chafer, Anomala albopilosa albopilosa (Hope), adults in Minato-ku in Tokyo: fourth report. -Occurrence in recent years and fitness on food plants- Keiichi Nakano. Shiba, Minato-ku, Tokyo,105-0014 Japan 緒言アオドウガネ Anomala albopilosa albopilosa (Hope, 1839) は, 体長 17.5~25.0mm, 背面がつやのある緑色, 腹面は緑色光沢のある赤銅色のコガネムシである. 本州の中部以西, 四国, 九州, 琉球列島などに広く分布しており, 琉球列島では数種の亜種が確認されている. 近年, 本種の北上傾向が認められ, 以前は見られなかった関東地方でも生息数が増加している ( 酒井 藤岡, 2007; 港区,2010; 川上,201. 筆者は東京都港区で 2004 年からアオドウガネ成虫 ( 以下, 特に表記がない場合はアオドウガネとする ) の調査を行ってきた ( 中野,2005,2008,2010,2012). 本報告は港区のような東京都心部の環境において, アオドウガネの食餌植物, 生息個体数および発生数の年次変動を把握するため,2004~2011 年に引き続き調査を行った結果をまとめたものである. 調査方法 Abstract Seasonal prevalence and food plants for adults of the green chafer, Anomala albopilosa albopilosa (Hope), were investigated along a canal in a garden in Minato-ku,Tokyo. Adults of green chafer occurred from late Jun to early October from 2012 to 2014. Longevity of male adults was 62.5 days on average, ranging between 42 and 83 days; that of females averaged 69.6 days, ranging between 23 and 131 days. Adult longevity was greater when fed on glossy privet, Ligustrum lucidum Aiton. than on other plants. Five plant species were newly recorded as food plants of these adult beetles. Key words: seasonal occurrence, pheromone trap, food plants, longevity アオドウガネ成虫の季節消長と食餌植物について, 2012~2014 年に東京都港区の運河沿いの公園において調査を行った. 本種は 6 月下旬 ~10 月上旬にかけて確認された. 羽化成虫の平均生存期間は, 雄は 62.5 日 ( 最短 42 日, 最長 83 日 ), 雌は 69.6 日 ( 最短 23 日, 最長 131 日 ) であった. 生存日数は食餌植物がトウネズミモチの方が他の植物より長くなった. また, 本種が港区内で新たに 5 種の植物を摂食することを確認した. 1. 運河沿いの区立公園における目視調査 2012~2014 年にアオドウガネが発生している東京都港区芝浦にある運河沿いの区立 N 公園 (450 m2 ) で, 本種の発生消長を把握するため, 目視調査を行った. 公園は一辺が約 30m の三角形の緑地である. 中央にある芝生周囲にシャリンバイ Rhaphiolepis indica(l.) Lindl. var. umbellata(thunb.)h. Ohashi, アジサイ Hydrangea macrophylla (Thunb.) ser.f. macrophylla, ヒラドツツジ Rhododendron pulchrum Sweet などが植えられている. 運河沿いのフェンス側にはキョウチクトウ Nerium oleander.var.indicum (Mill) O.Deg.et.Greenwell, カナリーキヅタ Hedera canariensis Willd., シャリンバイなどが植えられており, トウネズミモチ Ligustrum lucidum Aiton. やサンゴジュ Viburnum odoratissimum Ker-Gawl. var. awabuki(k.koch)zabel, アオガシ Machilus japonica Siebold et Zucc. ex Blume なども自生している ( 中野,2008). 方法は前報 ( 中野,2012) と同様である.6 月から週 1 回の頻度で, 午前 6:00~ 8:10 の時間帯に固定ルートである公園の外周および園内の周回路約 90m を歩きながら, 植物上で摂食や静止しているアオドウガネを記録した.2012 年 (6 月 30 日 ~10 月 28 日 ) は 18 回,2013 年 (6 月 23 日 ~10 月 27 日 ) は 19 回,2014 年 (6 月 1 日 ~10 月 25 日 ) は 19 回調査を行った. 年次別の調査期間中の観察個体数の総数 ( 総観察数とする ) と総観察数 / 調査日数 = 調査日当たりの観察個体数 ( 日観察数とする ) を算出した. Corresponding author: dzq01452@nifty.com - 55 -
2. フェロモントラップによる捕獲調査フェロモントラップ ( 以下, トラップとする ) による成虫の捕獲調査を同公園で 6 月から週 1 回の頻度で, 2013 年に 12 回,2014 年に 14 回行った. トラップは富士フレーバー製のニューウィンズパック ( アオドウガネ用ルアー ) を 2 個使用し, 区立公園の両端 2 箇所 (A: 東側,B: 北西側 ) で運河との境にあるフェンスの約 1m の高さに吊下した.A は公園のカナリーキヅタに隣接していたが,B は公園の縁から約 15m 続いているシャリンバイに近接した場所である. なお, トラップは毀損や滅失を防止するため, 午後 20:00 以降に設置し, 翌日午前 8:00 までに回収した. 毎回の設置時間は 8 時間以内であった. 3. 野外個体の食餌植物別の生存日数アオドウガネ成虫は多数の植物を摂食するが, 累代飼育で成虫にとって適切な食餌植物を把握するため, 2012~2014 年に野外で捕獲したアオドウガネ成虫を数種類の食餌植物で飼育し, 生存日数を記録した. 飼育には, プラスチック製容器 ( 縦 8 cm 横 15 cm 高さ 12cm, 蓋はスリット状に開口 ) を使用し,3~4 個体をひとつの容器に収容した. 容器には清掃を容易にするため, 底にティッシュペーパーを敷き, 成虫の休息場所のために培養土を入れたプラスチック容器 (8 cm 6 cm 2.5cm) を置いた. 植物の保水は切り口に水を含んだティッシュペーパーを巻き, 外側をアルミホイルで包んだ. なお, 成虫の雌雄は外観からは判定が難しいため, 死亡時に生殖器を確認した. 供試虫には飼育個体ではなく, 野外の食餌植物上で捕獲した個体, フェロモントラップに誘引された個体, 夜間灯火に誘引された個体を使用した. これらの成虫は生理生態的に異なった個体群の可能性がある. 毎年 8 月中旬に食餌植物上で捕獲した個体は概ね同時期に発生した個体群と考えるが, 日齢は不明である. 2012 年 8 月 19 日に港区台場にある海浜公園で捕獲した個体は, ハナゾノツクバネウツギ ( アベリア )Abelia grandiflora (Rovelli ex André) Rehder, ヒラドツツジ, カナリーキヅタで飼育した. 2013 年 8 月 17 日にトラップで捕獲した個体は, ヘクソカズラ Paederia foetidau L., サンゴジュ, アジサイ, カナリーキヅタで飼育した. 同日, ビルの公開空地で捕獲した個体はシャリンバイ, アジサイ, トウネズミモチで飼育した.2013 年 8 月 31 日に JR 浜松町駅に隣接した屋外通路のサザンカ Camellia sasanqua Thunb. の植込みにある街灯に飛来した個体をサザンカで飼育した.2014 年 8 月 16 日に芝園橋の交差点にある植込みで捕獲した個体は, クロガネ モチ Ilex rotunda Thunb, 花弁のついたムクゲ Hibiscus syriacus L., ヒナタイノコズチ Achyranthes bidentata Blume var.fauriei (H.Lév.et Vaniot), トウネズミモチで飼育した. 4. 羽化個体の生存日数と摂食量 2013 年に捕獲した成虫が室内飼育で産卵し, 孵化した幼虫をクワガタ用の培養土 ( 発酵 U-マットテクニカルアート RTN 事業部 ) を入れたプラスチック容器 (8cm 径, 高さ 8cm 透明 ) で飼育した. 土壌内での成虫の羽化確認日と地上に出現した日を記録した.2014 年 6 月から 7 月に羽化した 9 個体 ( 未交尾 ) を, トウネズミモチを食餌植物に個別飼育し, 生存日数を記録した. トウネズミモチは 2013 年に行った食餌植物別の飼育で生存日数が長い結果が得られ, 成虫の食料に適すると考えた. 飼育方法は, 野外個体とほぼ同じであるが, 食餌植物は茎ごと水を入れたプラスチック製の管びん ( 直径 2.5cm, 長さ 5cm) に挿して給水させた. 食餌植物はほぼ毎日, 摂食前と摂食後の重量を電子天秤 (L120 SHIMADZU) で計量し, 摂食前後の差を 1 日当たりの摂食量として記録した. しかし, 高温による蒸散や植物の水分吸収の状態によって, 植物が萎縮した場合や摂食後の重量が増加した場合は欠測とした. 食餌植物は摂食状況に応じて適宜交換した. 5. 成虫の食餌植物調査都市におけるアオドウガネの食餌植物を把握するため,2013 年と 2014 年に本種が摂食している植物を記録した. 食餌植物の判断には, 本種による植物への摂食行動と食痕を確認した. 6. 気象データ 2008~2014 年の月毎の平均気温と降水量は, 東京の観測点で記録された気象庁のデータを使用した ( 気象庁,2015). 7. 植物の和名と学名植物の和名と学名については,YList 植物名検索に従った ( 米倉 梶田,2015). 結果と考察 1. 運河沿いの区立公園の目視調査結果 2012 年の総観察数は 779 匹, 日観察数は 43.3 匹 / 日であった.2013 年の総観察数は 1342 匹, 日観察数は 70.6 匹 / 日であった.2014 年の総観察数は 2088 匹, 日観察数は 109. 9 匹 / 日であった ( 表. この 3 年間の - 56 -
東京都港区におけるアオドウ成虫の発生状況 : 第 4 報 降水量 ml 450 400 350 300 250 200 150 100 50 0 30 29 28 27 26 25 24 2008 年 2009 年 2010 年 2011 年 2012 年 2013 年 2014 年降水量 7 月降水量 8 月平均気温 7 月平均気温 8 月 図 1 7 月と 8 月の平均気温と降水量 (2008-2014 年 ) 日観察数は, 毎年およそ 1.6 倍ずつ増加した. 以前の日観察数は,2008 年,65.9 匹 / 日 ;2009 年,58.4 匹 / 日 ;2010 年,97.3 匹 / 日 ;2011 年,41.4 匹 / 日であった ( 中野,2010;2012). それらの結果と比較して 2014 年は観察数が多かった.2008 年から 2014 年において成虫発生の多い 7 月と 8 月の平均気温と降水量を比較した ( 図.2012 年以降,7,8 月の降水量は減少し, 平均気温の差が大きくなっている. アオドウガネの日観察数が多かった 2010 年は降水量が少なく, 気温が高い年であった. 成虫の発生は前年の幼虫の生育や食餌植物の生育状況など複数の要因が影響すると思われるが, 気象的には高温乾燥する年に多くなる可能性も考えられる. この公園における主な食餌植物はアジサイ, カナリーキヅタ, ツツジ, シャリンバイである. その他の植物としてトウネズミモチ, ヘクソカズラ, サンゴジュ, ヤマノイモ Dioscorea japonica Thunb., ツユクサ Commelina communis L., トベラ Pittosporum tobira(thunb.)w.t. Aiton が確認されている.2013 年には, 地面に落ちていた飴玉を摂食するアオドウガネを確認した ( 表. 2. フェロモントラップによる捕獲結果トラップによる捕獲数は,2013 年では 6 月下旬から 8 月上旬まで 22 匹 ( 設置場所 A,20;B,2),2014 年では 6 月中旬と 8 月上中旬の 12 匹 ( 設置場所 Aのみ ) であった. 捕獲は主に設置場所 A であり,B ではほとんどできなかった. また, 捕獲数は観察数に比較して少数であったが,8 月に誘引数が多くなった ( 表 2). 過去に行われたフェロモントラップ ( ニトルアーブイブイ日東電工製 ) によるアオドウガネの誘殺数のピークは7 月中旬であった ( 山下ら,1996, 1998). また, 今回使用したアオドウガネ用ルアーは発生初期の予察が可能で, それ以降は捕獲数が少なくなると報告されており ( 富士フレーバー,2015), 誘引の多い時期 平均気温 表 1. 目視調査による食餌植物上のアオドウガネ個体数 ( 区立公園 ) 調査年月日 時刻気温 食餌植物 a.m. アジサイキヅタシャリンバイツツジその他 計 6/30 7:00 23.1 0 7/7 7:12 25.0 1 1 7/14 6:30 26.3 1 1 7/22 7:25 22.4 9 21 30 7/28 7:50 30.4 12 1 9 22 8/4 6:20 27.6 40 1 22 63 8/11 6:50 29.9 40 3 53 96 8/18 6:50 27.9 36 65 5 27 4 137 8/25 6:50 28.5 126 77 1 3 3 210 2012 9/1 7:00 28.1 11 100 2 113 9/11 6:50 28.3 4 47 1 1 25 78 9/15 7:00 28.0 枯死状態 6 1 7 9/22 6:45 22.0 剪定 8 2 10 9/29 6:35 23.9 2 2 4 10/6 6:25 23.3 5 1 6 10/13 7:03 17.5 1 1 10/20 7:30 16.9 0 10/28 7:30 16.9 0 計 280 310 9 145 35 2) 779 6/23 6:40-1 1 6/29 6:10-0 7/6 5:50 28.0 5 3 8 7/13 6:00 29.4 1 3 1 5 7/20 6:10 22.4 8 11 17 36 7/28 7:00 26.3 78 33 1 15 20 147 8/3 6:10 25.9 69 160 16 9 254 8/10 6:00 29.8 21 191 1 36 4 253 8/17 6:30 30.6 2 87 14 1 104 2013 8/24 6:00 28.0 18 207 13 238 8/31 7:13 30.1 7 53 5 65 9/7 6:25 26.6 8 92 34 134 9/14 6:45 32.7 30 11 3 44 9/21 6:30 24.6 8 11 9 28 9/28 6:31 18.0 8 3 11 10/6 8:05 23.4 5 6 11 10/12 6:30 26.7 3 1 3) 4 10/19 6:47 20.3 0 10/27 6:50 18.0 0 計 217 888 2 187 36 4) 1342 6/1 7:00 27.0 0 6/15 5:30 23.8 0 6/21 6:05 26.3 0 6/28 6:15 27.0 2 1 2 5 7/6 6:18 24.1 8 1 9 7/13 6:15 28.0 14 1 15 7/19 5:50 24.0 18 2 2 18 1 41 7/26 6:10 29.1 7 2 1 6 7 23 8/2 6:35 34.1 15 14 37 5 71 2014 8/9 7:30 26.8 154 534 12 2 36 738 8/16 6:10 29.5 411 7 51 11 480 8/23 6:00 27.3 9 126 35 46 3 219 8/30 7:50 22.4 23 45 34 63 165 9/6 6:30 27.7 25 30 44 23 122 9/13 7:00 23.3 40 38 7 34 119 9/28 6:25 19.1 27 3 1 26 57 10/4 8:00 25.6 4 11 6 21 10/18 7:40 18.8 3 3 10/25 7:10 21.0 0 計 347 1207 156 312 66 5) 2088 デジタル温度計 DAILY 8RDA64で測定 4) ヘクソカズラ ( サンゴジュ (20) トウネズミモチ (13) ヤマノイモ (9) ツユクサ (4) 2) トウネズミモチ (34) ヘクソカズラ ( 5) トベラ (2) ヤマノイモ (7) トウネズミモチ (36) ヘクソカズラ (2) サンゴジュ (26) 3) 地面に落ちていた飴玉 が異なっていた. 今回の誘引結果は, トラップの設置時間が毎回 8 時間程度と短いため, 成虫が十分反応しなかったと思われる. また, 食餌植物上で多数の雌雄個体が摂食している状態では, 中野 玉木 (1986) が指摘したようにフェロモントラップと雌成虫との間に競合が起こり, トラップへの誘引が減少したことが考えられる. - 57 -
表 2. フェロモントラップによる捕獲調査結果 調査年 設置回収捕獲数日時刻日時刻 A B 計 6/28 21:30 6/29 6:10 1 1 7/5 22:40 7/6 5:50 1 1 2 7/12 21:50 7/13 6:00 1 1 7/19 21:15 7/20 6:10 8/2 21:30 8/3 6:10 2 2 2013 8/9 22:00 8/10 5:50 1 1 8/16 21:25 8/17 6:30 13 13 8/23 22:00 8/24 6:00 1 1 8/30 22:00 8/31 7:13 1 1 9/6 21:50 9/7 6:20 9/13 22:00 9/14 6:45 9/20 22:20 9/21 6:30 計 20 2 22 5/31 20:30 6/1 7:00 6/13 22:20 6/14 5:50 1 1 6/14 20:10 6/15 5:30 6/20 22:40 6/21 6:05 7/5 22:45 7/6 6:18 7/12 20:30 7/13 6:15 2014 7/20 22:00 7/21 6:20 7/25 22:30 7/26 6:10 8/8 21:30 8/9 7:30 3 3 8/16 20:30 8/17 6:10 3 3 8/22 21:25 8/23 6:00 5 5 8/29 22:30 8/30 7:50 9/5 21:30 9/6 6:30 9/27 10:10 9/28 6:25 計 12 0 12 3. 野外個体の食餌植物別の生存日数 平均生存日数が 8 日以内の食餌植物はサンゴジュ, アベリア, シャリンバイ, サザンカであった ( 表 3). これらの植物はいずれも摂食が少なかった. 街灯下に あった植え込みのサザンカの葉には夜間飛来した成虫 による多数の食痕が見られたが, 飼育では摂食が少な かった. 平均生存日数 ( 最短 ~ 最長 ) が 9~20 日の食餌植物 はヒナタイノコズチ, ヘクソカズラ, クロガネモチ, アジサイ ( 植物上の捕獲個体 ) であった ( 表 3). 平均生存日数 ( 最短 ~ 最長 ) が 21~112 日の食餌植 物はアジサイ ( トラップ捕獲個体 ), カナリーキヅタ, ムクゲ, ヒラドツツジ, トウネズミモチであった ( 表 3). 今回の飼育結果では, 食餌植物によって生存日数が 異なった. 平均生存日数が 8 日以内と短かった食餌植 物のうちサンゴジュ, サザンカ, シャリンバイ, アベ リアは常緑樹である. クロガネモチ, カナリーキヅタ, トウネズミモチ, ヒラドツツジも常緑樹であるが, 前 者の樹木より生存日数が長かった. 表 3. 食餌植物ごとの生存日数 植物名雌雄個体数平均標準偏差最短最長供試虫 アベリア 7 5.9 0.9 4 7 A ヒラドツツジ 6 48.8 19.8 9 63 A カナリーキヅタ 4 21.8 9.9 7 28 2 41.5 26 57 A 1 34.0 3 33.3 4.0 29 37 B アジサイ 2 29.0 27 31 1 24.0 B 4 15.3 9.4 6 26 1 12.0 C ヘクソカズラ 3 14.7 3.1 12 18 B サンゴジュ 3 4.3 0.6 4 5 B シャリンバイ 4 6.5 5.1 3 14 2 5.5 5 6 C トウネズミモチ 3 30.0 14.5 15 44 3 112.3 11.5 101 124 C 1 79.0 1 76.0 サザンカ 3 7.4 0.6 7 8 5 7.3 3.2 5 12 D ヒナタイノコヅチ 2 9.0 7 11 5 15.4 7.9 7 23 クロガネモチムクゲ ( 花 ) 3 1 12.0 37.0 5.6 7 18 3 4 19.8 41.0 6.9 9.5 12 34 28 54 A:2012 年 8 月 19 日に捕獲した個体 ( ヘクソカズラ等を摂食 ) B:2013 年 8 月 17 日にフェロモントラップで捕獲した個体 C:2013 年 8 月 17 日に捕獲した個体 ( アジサイを摂食 ) D:2013 年 8 月 31 日に灯火に飛来して捕獲した個体 :2014 年 8 月 16 日に捕獲した個体 ( アジサイとイケマ, ヘクソカズラを摂食 ) 今回はアオドウガネの休息, 産卵用にカブトムシ用の培養土 ( 兜土 KABUDO テクニカルアート RTN 事業部 ) を使用したが, 産卵後の孵化幼虫はすべて育たなかった. 4. 羽化個体の室内飼育による生存日数と摂食量羽化した 9 個体の平均生存日数は, 雄 (n=2) では 62.5 日 ( 最短 42 日, 最長 83 日 ), 雌 (n=7) では 69.6 日 ( 最短 23 日, 最長 131 日 ) であった ( 表 4). 2011 年にアジサイを食餌植物に羽化個体を飼育した平均生存日数は, 雄 (n=3) では 29.3 日 ( 最短 21 日, 最長 41 日 ), 雌 (n=4) では 45.8 日 ( 最短 35 日, 最長 60 日 ) であった ( 中野,2012). また, 比嘉ら (1978) によるガジュマル Ficus microcarpa L.f. を食餌植物にした飼育でのアオドウガネの寿命は, 雌では平均 26.8 日, 最長 82 日, 雄では平均 16.1 日, 最長 61 日であった. トウネズミモチの平均生存日数は, アジサイより雄で 2.1 倍, 雌で 1.5 倍, ガジュマルより雄で 3.8 倍, 雌で 2.6 倍長くなった. 最長生存日数は, アジサイより雄で 2 倍, 雌で 3.2 倍, ガジュマルより雄で 1.4 倍, 雌で 1.6 倍長くなった. トウネズミモチはトリテルペン oleanolic acid, 糖 mannitol, フェニルエタン配糖体などを含有し, 漢方薬に利用されている ( 水野,2013). これらの成分が本種の生存に影響を与えるかは不明である. 1 日当たりのトウネズミモチの平均摂食量は, 雄 0.435g, 雌 0.48g であった ( 表 4). 土中内での成虫の羽化から地上へ出現するまでの待機日数はおよそ 7 日 - 58 -
東京都港区におけるアオドウ成虫の発生状況 : 第 4 報 表 4. 室内飼育で羽化した未交尾成虫の飼育データ 雌雄 No 2) 1 日あたりの摂食量 g 羽化確認日地上出現日待機日数生存期間生存日数平均標準偏差最小最大 1 不明 6/3-6/3-7/20 42 0.44 0.29 0.09 1.06 3 6/7 6/14 7 6/7-8/29 83 0.43 0.25 0.01 0.96 平均 62.5 0.435 4 6/3 6/10 7 6/3-8/11 64 0.56 0.39 0.06 1.78 5 6/3 6/10 7 6/3-9/27 111 0.55 0.28 0.02 1.18 6 6/10 6/16 6 6/10-8/25 76 0.37 0.21 0.01 0.82 7 6/11 6/19 8 6/11-10/20 131 0.53 0.26 0.01 1.8 8 不明 6/20-6/20-7/20 30 0.42 0.31 0.01 1.19 9 不明 7/17-7/17-9/7 52 0.47 0.32 0.02 1.22 2 6/5 6/12 7 6/5-6/28 23 0.47 0.39 0.12 1.02 平均 7 69.6 0.48 土中で羽化したことを確認した日 2) 成虫が地上に出現した日 であった. アオドウガネの近縁種であるヒメコガネ Anomala rufocuprea Motschulsky の土壌潜伏期間は,5~13 日でである. 瀬戸口 (1982) は, この時期の成虫は羽化後軟弱な鞘翅が硬化し, 飛翔が可能になるまで土壌内に潜伏しているもので, 摂食や飛翔する成虫とは異なるステージであると報告しているが, アオドウガネも同様な状態と推測する. 5. 食餌植物調査新たに成虫の食餌植物として,2013 年にツユクサ科のツユクサ,2014 年にモチノキ科のイヌツゲ Ilex crenata Thunb., アオイ科のムクゲの花, スズカケノキ科のモミジバスズカケノキ Platanus acerifolia (Aiton) Willd., バラ科のタチバナモドキ ( ピラカンサ ) Pyracantha angustifolia (Franch.)C.K.Schneid 計 5 種の植物を確認した. ムクゲの花とピラカンサの摂食が観察された場所は, 芝園橋の交差点にある植込みで, ムクゲとピラカンサの木立につる植物のイケマ Cynanchum caudatum (Miq.)Maxim. とヤブガラシ Cayratia japonica (Thunb.) Gagnep. が繁茂して藪状態になった環境である. 成虫はイケマの葉を激しく加害し, ピラカンサの葉を齧っていた. また, ムクゲの花の中に潜り込み, 花弁と花柱, 雄蕊を食害していた. ヤブガラシではその扁平な集散花序を摂食していた. 港区でアオドウガネが摂食した植物は,2002~2012 年までの調査で,25 科 42 種類を記録している ( 中野, 2008,2010,2012).2014 年までの結果を加えると 29 科 47 種類になる. 以前の食餌植物リストは YList ( 倉梶田,2015) に基づいて修正し表 5に示した. 6. 成虫の嗜好と食餌植物の特徴アジサイ, カナリーキヅタ ( セイヨウキヅタの一種 ) は昆虫に加害されることが少ないが, 両者はアオドウガネが街中で摂食することが多い植物である. アジサイは喫食することで食中毒を起こす有毒成分 ( 青酸配糖体ではない ) を含んでおり ( 厚労省,2008), セイヨウキヅタはサポニンを含んでいる ( 水野,2013). さらに, 食餌植物であるイケマも強心利尿薬となるシナンコゲニンなどのプレグナン配糖体を含んでいる ( 水野, 2013). イケマはアサギマダラ Parantica sita niphonica Moore の食草で, 幼虫は葉を食して体内に有毒物質を蓄積している ( 佐竹,2012). アオドウガネはこれらの有毒植物を好んで食するが, 有毒成分をどのように解毒あるいは利用しているのかはまだ不明である. アオドウガネは, 蜜が多いムクゲやヤブガラシの花を摂食した. また, 地面に落ちていた飴玉を摂食する個体も観察され, アオドウガネは糖分を好むと考えられる. アオドウガネは主に摂食している植物の周辺にある植物に移動して摂食することがよく見られる ( 中野, 2012). また, 発生の最盛期には特有な糞臭が漂っている ( 中野,2005). 吉田ら (197 は, アオドウガネの近縁種であるドウガネブイブイ A.cuprea Hope について, 葉が成虫の糞や吐出した体液で汚染されると他の個体をひきつけ, 予想外の植物に被害を起こす可能性を述べている. また, 安居ら (2004) はアオドウガネの亜種であるサキシマアオドウガネ Anomala albopilosa sakishimana Nomura の糞の臭気が天敵への防衛や成虫の集団形成に関わっている可能性を示唆している. 今後は本種の食餌植物と成虫の摂食行動についてひ - 59 -
表 5. 東京都港区でアオドウガネの摂食を確認した植物 (2002~2014 年 ) 科 Family 種名 Scientific name 木本植物 ヤマモモ科 Myricaceae ヤマモモ Morella rubra Lour. ニレ科 Ulmaceae エノキ Celtis sinensis Pers クスノキ科 Lauraceae アオガシ Machilus japonica Siebold et Zucc.ex Blume ツバキ科 Theaceae ヤブツバキサザンカ サカキヒサカキヒメシャラ Camellia japonica L. Camellia sasanqua Thunb. Cleyera japonica Thunb. urya japonica Thunb.var. japonica Stewartia monadelpha Siebold et Zucc. スズカケノキ科 Platanaceae モミジバスズカケノキ Platanus acerifolia (Aiton)Willd. ユキノシタ科 Saxifragaceae アジサイ Hydrangea macrophylla (Thunb.) ser.f. macrophylla トベラ科 Pittosporaceae トベラ Pittosporum tobira (Thunb.) W.T.Aiton バラ科 Rosaceae シャリンバイ カマツカクサイチゴヤマブキソメイヨシノタチバナモドキ Rhaphiolepis indica (L.) Lindl. var. umbellate (Thunb.) H.Ohashi Pourthiaea villosa (Thunb.) Decne. var. villosa Rubus hirsutus Thunb. Kerria japonica (L.)DC. Cerasus yedoensis (Matsum.) A.V.Vassil. Pyracantha angustifolia (Franch.) C.K.Schneid トウダイグサ科 uphorbiaceae アカメガシワ Mallotus japonicus (L.f.) Müll.Arg. ユズリハ科 Daphniphyllaceae ユズリハ 2) Daphniphyllum macropodum Miq. トチノキ科 Hippocastanaceae トチノキ 2) Aesculus turbinate Blume モチノキ科 Aquifoliaceae クロガネモチ イヌツゲ Ilex rotunda Thunb. Ilex crenata Thunb. var. crenata ブドウ科 Vitaceae ブドウ Vitis spp. ツタ Parthenocissus tricuspidata (Siebold et Zucc.) Planch. アオイ科 Malvaceae ムクゲ Hibiscus syriacus L. ミズキ科 Cornaceae アオキ Aucuba japonica Thunb. var. japonica ウコギ科 Araliaceae カナリーキヅタ 2) Hedera canariensis (Willd.) ツツジ科 ricaceae ヒラドツツジ サツキ Rhododendron pulchrum Sweet Rhododendron indicum (L.) Sweet エゴノキ科 Styracaceae ハクウンボク 2) Styrax obassia Siebold et Zucc. モクセイ科 Oleaceae トウネズミモチ Ligustrum lucidum Aiton スイカズラ科 Caprifoliaceae サンゴジュ ハコネウツギハナゾノツクバネウツギ Viburnum odoratissimum Ker-Gawl. var. awabuki (K. Koch) Zabel Weigela coraeensis Thunb. Abelia grandiflora (Rovelli ex Andre) 草本植物 キク科 Compositae センダングサ Bidens biternata (Lour.) Merr.et Sherff アカネ科 Rubiaceae ヘクソカズラ Paederia foetida L. ガガイモ科 Asclepiadaceae イケマ Cynanchum caudatum (Miq.) Maxim. アカバナ科 Onagraceae オオマツヨイグサ Oenothera glazioviana Micheli トウダイグサ科 uphorbiaceae エノキグサ Acalypha australis L. タデ科 Polygonaceae イシミカワイタドリ Persicaria perfoliata ( L.) H.Gross Fallopia japonica (Houtt.) Ronse Decr. var. japonica ヒユ科 Amaranthaceae ヒナタイノコズチ Achyranthes bidentata Blume var. fauriei (H.Lév.et Vaniot) ブドウ科 Vitaceae ヤブガラシノブドウ Cayratia japonica (Thunb.) Gagnep. Ampelopsis glandulosa (Wall.)Momiy. var. heterophylla (Thunb.) Momiy. ヤマノイモ科 Dioscoreaceae ヤマノイモ Dioscorea japonica Thunb. ツユクサ科 Commelinaceae ツユクサ Commelina communis L. カンナ科 Cannaceae ハナカンナ Canna generalis L.H.Bailey 飼育を行った食餌植物 2) 葉脈だけを残して葉を網目状に摂食することがある - 60 -
東京都港区におけるアオドウ成虫の発生状況 : 第 4 報 きつづき野外観察と室内での飼育実験を行い, 都市環境での発生状況を把握していく必要がある. また, 十分な供試虫を確保するためにも累代飼育が検討課題である. 謝辞フェロモントラップについては, 富士フレーバー株式会社エコモン事業部にご協力をいただいた. 厚くお礼を申し上げる. 引用文献比嘉俊昭 照屋林宏 玉城俊吉 (1978) コガネムシの生態と防除に関する研究 2. 宮古島におけるアオドウガネ成虫の生態. 九病虫研会報 24:132-135. 富士フレーバー (2015) ニューウィンズパック詳細 http://www.fjf.co.jp/jp/ecomon/product/winspac/index. html (2015.1.29 アクセス ). 川上洋一 (201 東京消える生き物増える生きもの. メディアファクトリー, 東京. 気象庁 (2015) 気象統計情報. http://www.data.jma.go.jp/oba/stats/index.php (2015 年 2 月 15 日アクセス ). 厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課長 (2008) アジサイの喫食による食中毒について. 食安監発第 0818006 号平成 20 年 8 月 18 日. 港区環境 街づくり支援部環境課 (2010) 港区のみどりと生きもの 2010. 港区, 東京. 水野瑞夫監修 (2013) 薬用植物学改訂第 7 版. 南江堂, 東京. (2005) 東京都港区におけるアオドウガネの 発生状況 (2004). 鰓角通信 (10):17-20. (2008) 東京都港区におけるアオドウガネ成虫の発生状況. 環動昆 19:145-153. (2010) 東京都港区におけるアオドウガネ成虫の発生状況第 2 報. 環動昆 21:177-180. (2012) 東京都港区におけるアオドウガネ成虫の発生状況第 3 報. 環動昆 23:37-41. 中野勇樹 玉木佳男 (1986) ヒメコガネ (Anomala rufocuprea Motschulsky) の発生調査のための性フェロモントラップの利用. 応動昆 30:260-267. 酒井香 藤岡昌介 (2007) 日本産コガネムシ上科図説第 2 巻食葉群 Ⅰ. 昆虫文献六本脚, 東京. 佐竹元吉監修 (2012) 日本の有害植物フィールドベスト図鑑 16 学研教育出版, 東京. 瀬戸口脩 (1982) ヒメコガネの発生生態 Ⅱ 室内における成虫の摂食と産卵. 九病虫研会報 28:172-175. 山下琢也 瀬戸口脩 上和田秀美 櫛下町鉦敏 (1996) 鹿児島県における合成性フェロモンによるコガネムシ類の誘殺消長. 九病虫研会報 42:75-78. 山下琢也 瀬戸口脩 上和田秀美 櫛下町鉦敏 (1998) 南九州におけるアオドウガネの発生経過. 九病虫研会報 44:67-71. 安居拓恵 深谷緑 若村定男 新垣則雄 (2004) コガネムシ類の行動制御因子 : 臭覚刺激と視覚刺激. 植物防疫 58:351-356. 吉田正義 西垣定治郎 浅井秀一 (197 ドウガネブイブイの生態学的研究 ( 西遠地方における成虫の食餌植物. 関西病害虫研究会報 (13):14-20. 米倉浩司 梶田忠 (2015)[BGPlants 和名 - 学名インデックス ](YList). http://bean.bio.chiba-u.jp/bgplants/ylist.main.html (2015 年 4 月 19 日アクセス ). - 61 -