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事例研究 SNS 操作体験型教材を活用した情報モラル教育の実践とその効果 中学校技術 家庭科技術分野の学習を通した態度形成 三田正巳 宮川洋一 濱端航大 抄録本研究では,SNS 操作体験型教材 SNS Chat! を開発 活用し, 中学 1 年生向けの 4 時間扱いの題材を構成して実践した その結果, 実践後の 95.7% の学習者のワークシートに, 個人の特定に繋がる書き込みの内容について考え,SNS を利用していこうとする記述が認められた また,91.4% の学習者のワークシートに, 個人の特定に繋がる情報発信 ( 書き込み 写真の掲載 ) を踏まえ GPS 機能に留意することをはじめとして, 自らへの危険を回避しつつ SNS を利用していこうとする記述が認められた これらのことから,SNS の良い使い方を考え, それを実践していこうとする態度形成に対して,SNS 操作体験型教材 SNS Chat! を組み込んだ本実践の一定の教育的効果が確認された キーワード 操作体験型教材, 情報モラル教育,SNS, 題材開発, 技術科 Practice and Benefit about Information Morals Education that utilized SNS Operation and Experience-based Educational Material Through Learning in Junior High School Technology Home Economics Technology Field Masami Mita,Yoichi Miyagawa,Kodai Hamabata Abstract In this study,we developed and utilized an SNS-operated (Social Networking Service-operated) experience-based teaching aid called SNS Chat! and formulated and implemented four-hour themes for first-year junior high school students. As a result,after the implementation,descriptions such as thinking about the contents of the writing that could lead to the identification of individuals and willingness to use SNS were identified in the worksheets of 95.7% of the learners. Furthermore,in the worksheets of 91.4% of the learners,we also identified descriptions referring to considering the use of SNS while avoiding any danger to oneself,including paying attention to GPS functions based on information transmission that could lead to the identification of individuals (writing,inserting photographs). From these, we have confirmed a certain educational effect of the practice of incorporating the SNS-operated experience-based teaching aid SNS Chat! with respect to thinking of good ways of using SNS and the attitude formation tied to the willingness to implement it. Keywords: Experience-based teaching material, Information moral education, SNS Subject development, Technology education 1 はじめに スマートフォンに代表されるモバイルツール, インターネットを利用した様々な Web サービスの普及により, ソーシャル ネットワーク サービス ( 以下, SNS) の利用が急速に拡大している 例えば, 平成 27 年度に I 県立総合教育センターで実施した 情報モラルに関するアンケート では, 児童生徒のスマートフォンを含む携帯談話の所有率は, 小学校 22.8%, 中学校 28. 3%, 高等学校 98.4% となり, 高等学校になる段階で所有率の急激な上昇が確認されている また, 中学校 高等学校において, 電子メールの利用に比べて LINE の利用が上回っており, 特に高等学校においては,97.0% の生徒が LINE を日常的に利用している このような生徒の実態に鑑みると, 中学生の早い段階から, 実践的 体験的に SNS の操作を通して, 情報モラルすなわち 情 連絡先 : 岩手大学教育学部 Contact:miyagawa@iwate-u.ac.jp 報社会で適正な活動を行うための基になる考え方と態度 [1] を形成していく学習が必要なのではないかと考えられる 情報モラルの醸成における操作体験の有効性については, 例えば長谷川ほかが, ネットコミュニケーションのスキルアップにチャットの実体験が有効であることを報告している [2] また, 安藤ほかは, 中学生を対象としたストーリー形式のシナリオゲーム型教材を開発し, 授業実践をした結果,SNS 使用に関わる判断力の育成に, 開発教材が有効であることを報告している なおこの際,SNS の良い使い方への意識については, 日常の SNS 使用の有無により効果が分かれたことを報告し, 操作体験型教材などを追加する必要性を指摘している [3] これらの先行研究は, ネットや SNS の操作体験の少ない児童生徒に対して, 実体験や操作体験の学習を実施することが情報モラル教育に有効な手立てとなり得ることを示唆しているものと考えられる 一方, 中学校の授業時間内において既存の SNS を用 60

いて実体験させることは, 学習途上で発生することが想定される様々な不適切な発言, 未学習から起こりえる権利侵害等, 情報発信の責任という観点から難しい側面があり, 教室内に限定できる操作体験型教材を用意した上で, 具体的な題材を設定する必要がある 中学校段階における情報モラル教育では, 平成 20 年 3 月公示中学校学習指導要領の解説総則編において, 小学校段階で身に付けた知識 技能を基に, 技術 家庭科の技術分野において, 情報手段の構成 仕組みなどを理解させ, それらを基にした情報モラル, 情報技術の活用にかかわる能力 態度を身に付けさせる [1] となっている ここで, 技術 家庭科技術分野 ( 以下, 技術科 ) に着目すると, 同中学校学習指導要領の解説技術 家庭編では, 著作権や, 情報の発信に伴って発生する可能性のある問題と, 発信者としての責任について知ることができるようにするとともに, 情報社会において適正に活動する能力と態度を育成する と示されている [4] なお, 平成 29 年 3 月公示中学校学習指導要領の解説技術 家庭編においても, 学習内容として 情報セキュリティ等に関わる基礎的な技術の仕組み及び情報モラルの必要性について理解すること が示され, 情報通信ネットワーク上のルールやマナーの遵守, 危険の回避, 人権侵害の防止など, 情報に関する技術を利用場面に応じて適正に活用する能力と態度を身に付ける必要性 を理解させることになっており, この際に発信者としての責任についても, これまでと同様に取り扱うことになっている [5] 室伏は, 技術科は情報モラル教育の指導が最も期待されている教科 分野であると述べる一方, 技術科における情報モラルの研究は活発ではない と指摘する [6] このように, 児童生徒向けの SNS 操作体験型教材を開発し, 中学生に対して具体的な題材を設定した上で授 業実践を行い, より良い態度形成に対する教育的効果を検証している研究は, 充分とはいえない現状がある 堀田は, 初等中等教育における情報教育の政策については, その立案の段階において, 実践的かつ学術的な研究成果のエビデンスが求められると述べており, エビデンスを示した小 中 高等学校における実践研究の積み上げの必要性を指摘している [7] 以上を踏まえ, 本研究では SNS 操作体験型教材 SNS Chat! ( 以下, 教材 SNS Chat! ) を開発した上で, この教材を組み込んだ 4 時間の題材を中学 1 年生向けに開発して授業実践を行い, その教育的効果を検討することにした 2 実践と検証のデザイン 2.1 教材 SNS Chat! の開発新規に開発した教材 SNS Chat! は,HTML5 を基盤とした VBScript で記述されたプログラムであり, JavaScript,jQuery,jQuery Mobile の機能を利用するサーバサイドアプリケーションである 本アプリケーションを Web サーバ上にインストールして無線ルーターと接続し, 利用者側からはスマートフォン, タブレット,PC 等の端末から利用する トーク (Fig. 1) では, メッセージだけでなく, 画像や動画などのコンテンツもアップロードすることができる 管理者ページ (Fig. 2) では, スマートフォンやタブレットに標準装備されている GPS 機能を利用して写真撮影された画像データから,JavaScript により位置情報 (Exif 情報 ) を取得できる また, この位置情報 (Exif 情報 ) からのマッピング機能も備えており, 撮影された画像の場所を地図上に示すことができる 本教材には, あらかじめ 50 名分のサンプルユーザ ( ユーザ ID とパスワード ) が登録されている 授業者は, 管理者ページから1 限定されたメンバー(5 人 1 Fig. 1 トーク画面 Fig. 2 管理者ページにおけるメニュー ( 一部 ) 61

Fig. 3 自由グループメンバー関係図 Fig. 4 人あてゲーム 学習シート 組 10 グループ ) でのみ利用できる設定, 2 全員 ( 最大 50 名 ) が参加することができる設定, 3 各ユーザが自由にグループを作成して利用できる設定 のいずれかを, 目的に応じて選択することができる 3の設定では, ユーザが自由にクループを作成して, そのメンバーを追加 削除することができる このため, 利用者間の自由なトークを促進できる可能性がある この場合, 管理者のページからは, 自由グループメンバーの関係図を閲覧することができる (Fig. 3) 一方, 実際に利用させる場合には, 教育的配慮が必要である いずれの場合も, 学習者の誰にどのユーザ ID が割り当てられたのかを, 学習者相互に知らせないようにすれば匿名型 SNS として, 学習者の誰にどのユーザ ID が割り当てられたのかを, 学習者に知らせれば実名型 SNS として機能する なお, 本教材 SNS Chat! については, 岩手県立総合教育センターの Web ページよりダウンロードすることができ, 情報モラル教育の目的であれば, 誰でも自由に利用することができる [8] 2.2 題材の構成本研究では教材 SNS Chat! の機能を活かしつつ, 本教材を初めて使用する中学 1 年生に対する 4 時間の題材を構想した (Table 1) その際, 指導目標である SNS の良い使い方を考え, それを実践していこうとする態度形成 の本題材における具体的な評価規準 ( 題材の目標 ) を,1 個人の特定に繋がる書き込み内容について考え,SNS を利用していこうとしている,2 個人の特定に繋がる GPS 機能に留意し,SNS を利用していこうとしている と設定し, 本研究にて検証する教育的効果とした なお, 技術科の指導時間で実施するため,GPS を含めた情報通信ネットワークについての簡 単な仕組みについても扱っている 2.3 実践と検証の手続き 2.3.1 実践対象者 I 県中学校 1 年生 2 クラス ( 男子 40 名, 女子 40 名, 計 80 名 ) を対象として調査 実践を行った 該当の中学校に対しては, 事前に本研究の目的を説明した上で, 4 時間の指導案 (Table 1 の題材展開をさらに詳細に記したもの ) を事前に提示し, 指導内容について助言を得るとともに, その内容を共有した 2.3.2 検証方法教材 SNS Chat! を組み込んだ 4 時間の題材展開 (Table 1) 及びその指導が, 設定した題材の目標を達成したかどうかを検証するために, 次の 2 点から検討を加えることにした 1 点目は, 設定した題材の目標を達成するための前提となる情報モラルに対する意識の水準を本実践前後において量的に把握するため, 宮川ほかの 情報モラルに対する意識尺度 [9] を用意した 本尺度は, 平成 20 年 3 月公示の中学校学習指導要領の解説総則編に示されている情報モラルの具体的な内容例 他者への影響を考え, 人権, 知的財産権など自他の権利を尊重し情報社会での行動に責任をもつこと ( 内容 1 因子 ), 危険回避など情報を正しく安全に利用できること ( 内容 2 因子 ), コンピュータなどの情報機器の使用による健康とのかかわり ( 内容 3 因子 ) に対する意識 ( 以上, 情報モラルに対する意識因子 ) を測定するよう 20 項目で構成されている 本尺度は, 中学生を対象に因子分析など適切な尺度構成の手続きに即して作成されており, 情報モラルに対する意識の水準を本授業前後において量的に把握する上で, 適当な尺度であると考えた なお, 質問に対 62

Table 1 教材 SNS Chat! を活用した情報モラル教育の題材( 全 4 時間 ) 時 主な学習活動 主な指導の留意事項 SNS Chat! へログインして, 簡単なメッセージと事前に各自が撮影して 5 人 1 組グループ で実施する 人あてゲーム で 1 きた風景をアップロードする方法を理解する. 5 人 ( 一部 4 名 ) のグループ ( ただし, メンバーが誰であるかはわからない匿名型 ) にて自由にトークを行い, 誰が同一グループのメンバーであるかを推察するゲーム 人あてゲーム (Fig. 4) を行う. は, トークする際に実名, 出席番号, あだ名, 住所, 電話番号, メールアドレスは NG ワード ( 使用してはならないこと ) として進めさせる. 2 3 4 第 1 時の活動から SNS Chat! のような SNS のメリット デメリットを考え, グループ 学級全体で意見交換を行う. 情報通信ネットワークの簡単な仕組み,IP アドレス,Mac アドレスについて知り, 使用している端末の IP アドレスを確認する. 情報通信ネットワークの構成と IP アドレスについて説明し, 管理者側では端末情報によっても使用者が特定できる可能性が高いことを理解させる. 第 1 時にアップした写真から, 管理者が位置情報を取得できる機能を利用 GPS 機能のメリット デメリットを検討させた後, して, 撮影場所を特定できることを知る. 端末で位置情報サービスの設定方法を指導する. こ GPS 機能, 写真に埋め込まれている位置情報 (Exif 情報 ) について知り, れらの設定は自分で必要に応じて判断し, 利用するこれらのメリット デメリットを考え, グループ 学級全体で意見交換をことが大切であることを理解させる. 行う. 学習問題 SNS とどのように付き合っていけばよいだろう について, 前 SNS や GPS のデメリットのみの議論とならないよう時までの 3 時間の内容に着目して考え, グループ 学級全体で意見交換をに, メリットに関することも含まれるよう留意する. 行う. まとめの質問紙を実施する. 学習のまとめのプリントに,4 時間の学びの振り返りを行う. する回答方法については, とてもそう思う(5) まったくそう思わない (1) の 5 件法である (Table 2) 2 点目は, 設定した評価規準に達したかどうかを具体的に探るために, 第 2 時末では 1,2 時間目を通して学習したこと, 第 4 時末では 4 時間の学習を通して とした自由記述欄を設けたワークシートを準備した 2.3.3 手続き授業実践 2 週間前には, 実践対象者の情報機器,SNS の利用状況, 情報モラルに対する意識尺度 を用いた事前調査を実施した 授業実践 1 週間前には, 各学級 1 日端末を持ち帰り, 写真を 1 枚撮影してくるよう指示した この画像は, 授業において場所を特定する ( このことは生徒には伝えていない ) ことになるため, 生徒のプライバシーに配慮して自宅内や自宅の外観は撮影しないこと, また, 肖像権の問題もあるため他人, 店舗内外ではなく, 風景または公園等の公共施設とすること, 撮影の際には, 安全に十分配慮することなどを指導した 授業は, 最初に全 4 時間のうち前半の第 1 時と第 2 時 ( 各 50 分計 100 分, 途中 10 分の休憩 ) を実施した 次に 1 週間後, 後半の第 3 時と第 4 時 ( 各 50 分計 100 分, 途中 10 分の休憩 ) を実施した ワークシートの自由記述欄の記述については, 第 2 時と第 4 時に 今回の学習でわかったこと, 感じたこと等を自由に記入してください と指示して記入させた また, 情報モラルに対する意識尺度 を用いた事後調査は第 4 時の終末に実施した 3 結果と考察 3.1 分析対象者と群分け Table 2 使用した質問項目 内容 1 因子 1 本人に断らずに, 電子メールのアドレスを人に教えてもよいと思う 2 友達の住所や電話番号ぐらいなら, 本人に断らずに, 人に教えてもよいと思う 3 時々なら, 人あてに来た電子メールを断り無しに見てもよいと思う 4 電子メールの場合, 送り主の許可を得ずに, そのメールをそのまま人に送ってもよいと思う 5 友達の個人情報を他人に伝えるときは, めんどうでも必ず許可を得てからにしたいと思う 6 コンピュータソフトは, 買わずにコピーして済ませればよいと思う 7 テレビゲームなどのゲームソフトをコピーすることができたら迷わずそうするだろう 8 自分の好きなキャラクタであっても, ホームページに勝手に掲載しないようにしたい 9 好きなイラストをインターネットからコピーして, 自分のホームページに掲載したい 内容 2 因子 1 プライバシーを侵害するような内容のホームページは, 見ないようにしたい 2 知らない人からの電子メールは, 開かないようにしたい 3 よくわからないホームページは, 開かないようにしたい 4 学校裏サイトへ, 友達のことは書き込まないようにしたい 5 自分のホームページに友達の顔写真を勝手に載せないようにしたい 6 インターネット上で, 個人攻撃の内容を見つけたら, 身近な大人に相談する 7 プライバシーの侵害になる記事をのせている雑誌は買わないようにしている 8 インターネット上の有害情報を取り締まるための法律をつくるべきだと思う 内容 3 因子 1 コンピュータを使用するときには, 休憩を入れながら利用するようにしたい 2 コンピュータを使うときには, ときどき目を休めるようにしたい 3 コンピュータに向かうときには, 体の姿勢に気をつけたい 一連の手続きにおいて, 授業の一部を欠席した学習者や質問紙のデータに欠損が認められる学習者のデータは分析から除外した その結果, 分析対象者は男子 35 名, 女子 35 名, 計 70 名となった なお, 授業前における 63

LINE の使用状況については,36 名 (51.4%) の分析対 象者が利用していると回答していた LINE を利用して いる群を LINE 使用経験有群, 利用していない群を LINE 使用経験無群とした 3.2 結果 3.2.1 情報モラルに対する意識の変容 情報モラルに対する意識尺度 を用いて収集したデー タについて, 逆転項目の処理を実施した上で, それぞれ選択された数値を得点とした その上で,LINE の使用経験有群と同無群における実践前後の各因子の尺度得点の平均と標準偏差を算出した (Table 3) Table 3 LINE の使用経験の有無 実践前後情報モラルに対する意識因子の尺度得点の平均値と標準偏差 因子 内容 1 内容 2 内容 3 Mean SD Mean SD Mean SD 使用経験有群 Na = 36 使用経験無群 Nb = 34 実践前実践後実践前実践後 4.38 0.61 4.37 0.54 3.93 1.01 4.58 0.50 4.62 0.40 4.27 0.95 4.36 0.56 4.43 0.49 4.14 0.96 4.69 0.48 4.72 0.32 4.56 0.57 2 要因分散分析の結果, いずれの因子にも交互作用が認められず ( 内容 1 因子 :F (1,68) = 1.913 ns, 内容 2 因子 :F (1,68) = 0.096 ns, 内容 3 因子 :F (1,68) = 0.312 ns), 実践前後の主効果のみが有意であった ( 内容 1 因子 : F (1,68) = 34.131 p<.001, 内容 2 因子 :F (1,68) = 20.837 p<. 001, 内容 3 因子 :F (1,68) = 29.257 p<.001) 3.2.2 自由記述の状況 (1) 自由記述 1,2 時間目を通して学習したこと 第 1,2 時間目学習は,IP アドレスを含めた情報通信ネットワークについての簡単な仕組みについて理解し, SNS のメリット, デメリットを考えつつ,SNS の良さを実感したり,SNS を利用していこうとしたりする姿をねらいとしていた そこで, この観点による記述がみられるかどうかを筆者のうち 2 名で判定した (Table 4) その結果, 第 1,2 時間目の目標に対する評価規準を満たす記述は 67 名 (95.7%) に認められた さらに, 授業で取り上げた情報通信ネットワークに関する記述は 46 名 (65.7%), 学習活動として取り組んだ SNS のメリット, デメリットに関する記述は 62 名 (88.6%) に認められた Table4 の1 3を満たすと判定した記述例を示す SNS では使ってみると話すのに比べ時間はかかるが Table 4 1,2 時間目を通して学習したこと の自由記述の状況評価規準と取り上げた学習内容に関する観点度数 (%) 1 個人の特定に繋がる書き込み内容について考え,SNS の良さを実感したり,SNS を利用 67 名 (95.7%) していこうとしたりしている記述 2 SNS のメリット デメリットに関する記述 62 名 (88.6%) 3インターネットにおける IP アドレスにより 46 名 (65.7%) 発信元が特定できることの記述 自分の質問に返してくれるのが楽しくて時間がすぐにすぎてしまった SNS のメリットは相手と気軽に話せることで, デメリットは話している内容がうそだったり流されてしまうことだと思う なぜ, 人あてゲームで相手を特定することができたのかというと, 自分のほしい情報に対しての答えを相手が教えてくれたりして, それに自分の持っている情報をてらし合わせることで答えがわかるからだと思う うそをついても IP アドレスなどでわかってしまうが, その場ではうそか本当にわからないので,SNS を使う時にはそれが絶対にうそとは限らないことを心におきこれから使用していきたい (A 生 ) (2) 自由記述 4 時間の学習を通して 第 3,4 時では, 写真に埋め込まれた位置情報に着目した GPS のメリット, デメリットを考えつつ, 今後の SNS 利用のあり方を考える姿をねらいとしていた この観点による記述がみられるかどうかを (1) と同様に判定した (Table 5) その結果, 個人の特定に繋がる情報発信 ( 書き込み 写真の掲載 ) 及びこれらを踏まえて GPS 機能に留意 (GPS というキーワードを含んでいる ) し,SNS を利用していこうとしている記述は 58 名 (82.9%) に認められた また,GPS というキーワードは記述されていないものの,SNS の良い使い方を危険回避という観点 ( 危険 安全 セキュリティ 流出というキーワードを含んでいる ) から考え, それを実践していこうとする記述を含めると,64 名 (91.4%) に認められた 他の 6 名 (8.6%) については, 個人情報の扱い, 情報の取捨選択の必要性という観点から SNS の良い使い方を考え, それを実践していこうとする記述がなされ Table 5 4 時間の学習を通して の自由記述の状況評価規準と取り上げた学習内容に関する観点度数 (%) 1 個人の特定に繋がる情報発信 ( 書き込み 写真の掲載 ) 及びこれらを踏まえて GPS 機能 58 名 (82.9%) に留意し,SNS を利用していこうとしている記述 2 GPS という記述はないものの, 危険回避という観点に留意し,SNS を利用していこうとす 64 名 (91.4%) る記述 3 個人情報の扱い, 情報の取捨選択の必要性という観点から SNS の良い使い方を考え, そ 6 名 (8.6%) れを実践していこうとする記述 64

ていた Table5 の1を満たすと判定した記述例を示す 今回 SNS,GPS について学び, 最初の授業で誰かもわからない人とチャットをしてみて, 初めは誰かもわからなかったのに会話をしていくうちに誰かが特定できて怖いと思いました しかしそんな SNS でも世界中のだれとでも会話ができるという便利な機能があるので使い方に気を付けて使用したいと思いました GPS 機能も SNS と同様に位置情報を知られるという怖いところもありますが, 探し物や人を見つけたりするときは便利であるので機能の ON と OFF に気を付けて有効活用していきたいと感じました (B 生 ) 3.3 考察情報モラルに対する意識因子の尺度得点については 3 因子とも交互作用が認められず, 実践前の得点がやや高かったものの, 実践前後の主効果のみが有意となった よって, このことのみで, 本実践の学習効果の有効性について即断することはできないと考えられるが, 本実践は, 学習者の LINE の使用経験の有無には影響されず, 情報モラルに対する意識を高めうる実践であったことが示唆された 次に, 第 2 時末, 第 4 時末の自由記述においては, 個人の特定に繋がる書き込み内容について考え,SNS を利用していこうとしている記述, 個人の特定に繋がる GPS 機能に留意し,SNS を利用していこうとしている記述が多数の学習者に認められ, 設定した題材の目標については概ね達成できたのではないかと考えられる また,A B 生のアンダーライン部の記述は, 匿名型 SNS としつつ限定されたメンバー (5 人 1 組 ) でのみ利用できるという教材 SNS Chat! の機能を活用して, 個人を推定させる 人あてゲーム の操作体験から得られた反応,B 生の二重アンダーライン部の記述は, アップロードした画像の Exif 情報から位置情報を知られてしまうという問題点を, 操作体験から実感したことにより得られた反応であり, いずれも教材 SNS Chat! を組み込んで実施した本題材の効果ではないかと示唆された 以上のことから,SNS の良い使い方を考え, それを実践していこうとする態度形成に対して,SNS 操作体験型教材 SNS Chat! を組み込んだ本実践の一定の教育的効果が確認されたものと考える 4 まとめと今後の課題以上,SNS 操作体験型教材 SNS Chat! を活用した, 中学 1 年生向けの情報モラル教育の題材及び授業実 践に一定の教育的効果が認められたのではないかと考える 一方, 本研究では開発した教材 SNS Chat! の機能の一部を活用した授業実践及びその効果の検証しかできていない 例えば, 教材 SNS Chat! の機能である各ユーザが自由にグループを作成し, 利用者を自由にコントロールできる機能を利用した学習について, 実際の学習場面でどのように導入していけばよいのか, また, その際の指導上の留意点を明確にしていくことが必要であると考える この点については, 教材 SNS Chat! 活用方法も含めて更なる検討が必要であると考える また, 小学生 高校生の場合には, 適時性から鑑みてどのような展開をすればより効果的な情報モラル教育となり得るのかを, 校種間接続という観点から検討し, 実践 実証の積み上げをしていく必要がある これらは, いずれも今後の課題としたい 付記本研究は, 日本教育工学会第 31 回全国大会で発表した研究 ( 三田 宮川 2016) を発展させ, その成果をまとめたものである 謝辞本研究の一部は, 科研費 (16K04651) の助成によるものである 参考文献 [1] 文部科学省, 中学校学習指導要領解説総則編, 株式会社ぎょうせい,2008 [2] 長谷川春生, 久保田善彦, 中里真一, 情報モラル指導におけるネットコミュニケーション体験の効果, 日本教育工学会論文誌,34,4,2011,pp.407-416 [3] 安藤明伸, 潟岡冴子, 鈴木哲朗, 橋渡憲明, 佐藤陽, 村松浩幸, 中学生を対象にした SNS 使用に関わる判断力を育成するシナリオゲーム型教材の開発, 日本教育工学会論文誌, 39,Suppl,2015,pp.65-68 [4] 文部科学省, 中学校学習指導要領解説技術 家庭編, 教育図書株式会社,2008,p.34 [5] 文部科学省, 中学校学習指導要領解説技術 家庭編, http: //www. mext. go. jp/component/a_menu/education/ micro_detail/ icsfiles/afieldfile/2017/10/31/1387018_9pdf, 参照日 2017 年 12 月 25 日 [6] 室伏春樹, 技術科における情報モラル教育の課題と対応策の考察, 静岡大学教育学部研究報告教科教育学篇,47 巻, 2015,pp.121-130 [7] 堀田龍也, 初等中等教育における情報教育, 日本教育工学会論文誌,40,3,2016,pp.131-142 [8] 岩手県立総合教育センター,SNS Chat! 2.0,http://www1. iwate-ed. jp/tantou/joho/material/sns_chat/index. html, 参照 65

日 2017 年 12 月 25 日 [9] 宮川洋一, 森山潤, 道徳的規範意識と情報モラルに対する意識との関係, 日本教育工学会論文誌,35,1,2011,pp. 73-82 2018.2.27 受理 2018.4.4 掲載決定 著者略歴 三田正巳 ( みたまさみ ) 現在の所属 : 岩手県立総合教育センター 専門分野 : 教育工学, 情報教育 濱端航大 ( はまばたこうだい ) 現在の所属 : 岩手県釜石市立釜石中学校 専門分野 : 技術科教育 宮川洋一 ( みやがわよういち ) 現在の所属 : 岩手大学教育学部 専門分野 : 技術科教育, 情報教育, 教育工学 主な著書 : 学習者の思考力を高めるプログラミング教育の学習支援 ( 共著 ), 風間書房,2016 66