YAKUGAKU ZASSHI 130(12) 1655 1661 (2010) 2010 The Pharmaceutical Society of Japan 1655 Review 名 城 大 学 薬 学 部 での 症 例 に 基 づく 統 合 型 PBL 教 育 と 実 践 加 藤 美 紀, 大 津 史 子, 永 松 正, 灘 井 雅 行 Development of New Problem-based Learning to Promote Problem-solving Ability in Therapeutics at Meijo University Miki KATOH, FumikoOHTSU, TadashiNAGAMATSU, and Masayuki NADAI Faculty of Pharmacy, Meijo University, Yagotoyama 150, Tenpaku-ku, Nagoya 468 8503, Japan (Received August 31, 2010) Pharmacy students in the six-year education system are expected to combine their knowledge obtained from many lectures and to develop problem-solving abilities in therapeutics. These two expectations are considered to be di cult in the conventional education system. Therefore we introduced a new problem-based learning (PBL) method in the class on ``pharmacotherapeutics,'' which was held in the ˆrst semester of the fourth year. In the PBL modules, students studied the etiology, pathology, and appropriate drug therapeutics of a given disease and obtained the knowledge and skills necessary for monitoring patients during treatment. We conducted 12 PBL modules, and students studied one case per module, each lasting a week. To encourage constructive group work and to generate original input formats to provide students with a problem-solving road map, we developed new systems including a class review and portfolio. The new PBL method also included lectures on the overview of each disease and the therapeutic agents (action mechanism, physical properties, pharmacokinetics, and monitoring of the e cacy and adverse reactions). By integrating their knowledge and skills, we hope that the students will be able to acquire problem-solving abilities in therapeutics when they become pharmacists. Key words education system; problem-based learning (PBL) method; pharmacotherapeutics 1. 6 年 制 薬 学 教 育 の 課 題 と 薬 物 治 療 学 わが 国 の 薬 学 部 における 教 育 は, 薬 剤 師 に 対 する 社 会 のニーズに 応 えるため, 平 成 18 年 度 より, 従 来 の 4 年 制 教 育 課 程 から, 薬 剤 師 教 育 を 主 眼 に 置 い た 6 年 制 教 育 課 程 に 移 行 した.これまでの 4 年 制 教 育 課 程 では, 縦 割 りのカリキュラムが 主 体 で, 各 講 義 科 目 の 連 携 はほとんどなかった.しかし, 社 会 が 求 める 薬 剤 師 職 能 を 発 揮 するためには, 縦 割 りの 知 識 だけではなく,それぞれの 講 義 で 得 られた 知 識 を 統 合 し, 臨 床 現 場 で 患 者 に 適 応 できる 問 題 解 決 能 力 を 身 につけることが 求 められる.しかし,この 問 題 解 決 能 力 の 育 成 は, 従 来 の 講 義 型 のみの 教 育 では 難 しい. 一 方, 近 年 の 医 学 部 では, 医 学 教 育 改 革 にお いて,PBL (Problem-Based Learning) 形 式 の 学 習 名 城 大 学 薬 学 部 ( 468 8503 名 古 屋 市 天 白 区 八 事 山 150) e-mail: nadai@meijo-u.ac.jp 本 総 説 は, 日 本 薬 学 会 第 130 年 会 シンポジウム S25 で 発 表 したものを 中 心 に 記 述 したものである. 形 態 が 導 入 され,その 有 用 性 が 報 告 されている. 1,2) 医 学 部 は 学 生 数 に 比 して 教 員 数 が 多 く,PBL の 実 施 に 十 分 な 時 間 と 人 員 を 確 保 し 易 い.しかし, 名 城 大 学 を 始 めとする 薬 学 系 私 立 大 学 の 定 員 数 は, 医 学 部 と 比 較 して 多 く( 本 学 の 定 員 数 は,1 学 年 250 名 ), 学 生 個 々の 基 礎 学 力 やモチベーションにも 差 がある.さらに, 臨 床 系 教 員 数 も 限 られており, 医 学 部 の PBL 形 式 を 導 入 しても, 種 々の 運 用 上 の 問 題 が 起 こると 予 測 された.また,PBL は 学 生 の 自 主 学 習 を 基 本 にしているため, 知 識 の 習 得 不 足 や 学 生 間 の 格 差 拡 大 の 可 能 性 も 指 摘 されている. 3,4) そこで, 名 城 大 学 薬 学 部 では,Fig. 1 に 示 すよう に 1) 疾 患 を 理 解 する,2) 薬 物 を 理 解 する,3) 患 者 を 理 解 する,の 3 つの 視 点 から 薬 物 治 療 を 理 解 す ることを 目 的 として,PBL 形 式 の 学 習 形 態 を 導 入 した 症 例 に 基 づく 統 合 型 カリキュラム 薬 物 治 療 学 を 創 設 した.この 科 目 では, 学 生 は 代 表 的 な 疾 患 毎 に 提 示 された 症 例 に 対 して PBL を 行 うことによ り, 学 生 自 らが 疾 患 の 発 症 メカニズムと 病 態, 適 切
1656 Vol. 130 (2010) Fig. 1. Study Content in ``Pharmacotherapeutics'' Fig. 2. Time Table of ``Pharmacotherapeutics'' Table 1. Lecture Content in ``Pharmacotherapeutics'' な 薬 物 治 療 を 理 解 し, 治 療 経 過 のモニタリングに 必 要 な 知 識 と 技 能 を 能 動 的 に 習 得 することを 目 標 とし ている.また 本 講 義 の 実 践 にあたって, 薬 学 部 にお いて 効 果 的 な 教 育 を 行 うための 薬 学 型 PBL 教 育 シ ステムを 構 築 した. 2. 薬 物 治 療 学 の 内 容 と 講 義 スケジュール 薬 物 治 療 学 は 4 年 次 前 期 の 火 曜 日 から 金 曜 日 までの 4 日 間 を 使 った 統 合 型 科 目 ( 半 期 12 単 位, 必 須 科 目 )である. 学 習 形 式 は 1 週 間 1 疾 患 1 症 例 を 1 モジュールとした PBL 形 式 で,3 モジュール を 1 クールとして 4 クール(12 モジュール)を 実 施 した.モジュールで 取 り 上 げた 項 目 は, 高 血 圧, 心 筋 梗 塞 狭 心 症 ( 脂 質 異 常 症 ), 気 管 支 喘 息, 肺 炎, 急 性 リンパ 性 白 血 病, 胃 潰 瘍, 潰 瘍 性 大 腸 炎, 糖 尿 病,ネフローゼ 症 候 群 ( 小 児 ), 関 節 リウマチ ( 高 齢 者 ),うつ 病, 肺 がんである. 薬 物 治 療 学 の 1 週 間 の 時 間 割 を Fig. 2 に 示 す. まず 学 生 は 提 示 された 症 例 について,SGD (Small Group Discussion)により 学 生 自 身 の 不 足 し ている 知 識 を 抽 出 し 調 査 を 行 う. 次 に, 症 例 に 対 す る 薬 物 治 療 上 の 問 題 を 抽 出 し,その 評 価 と 適 切 な 薬 学 的 介 入 法 をファーマシューティカルケアプランと して 提 案 する.この 過 程 において 学 生 が 既 に 履 修 し た 基 礎 科 目 の 知 識 を 統 合 できるように, 症 例 に 関 す る 疾 患 の 概 要 や 薬 物 療 法 の 講 義 ( 薬 物 の 作 用 機 序, 物 性, 体 内 動 態, 有 効 性 副 作 用 モニタリングな ど)を SGD 進 行 に 合 わせて 組 み 込 んだ. 各 講 義 の 内 容 は Table 1 に 示 した. なお, 実 際 に PBL を 行 う 1 グループの 学 生 数 は 8 名 とし, 全 25 グループにて 講 義 を 行 った.ま 病 態 生 理 疫 学 診 断 基 準 リスクファクター, 合 併 症 病 因 疾 病 概 論 予 後 予 防 治 療 ガイドライン 薬 物 療 法 以 外 の 治 療 法 ( 代 替 療 法 含 む) 薬 物 療 法 概 論 1 病 態 生 理 のしくみと 薬 物 の 作 用 機 序 物 性 や 製 剤 上 の 特 徴 薬 物 療 法 概 論 2 基 本 構 造 による 分 類 と 作 用 副 作 用 体 内 動 態 の 特 徴 (クラスレビュー) 患 者 背 景 を 考 慮 した 投 与 設 計 ( 腎 障 害, 肝 障 害, 高 齢, 妊 婦, 小 児 ) 薬 物 療 法 概 論 3 病 態,リスクファクター, 背 景 に 応 じた 薬 剤 選 択 相 互 作 用 有 効 性 モニタリングの 指 標 とゴール 副 作 用 モニタリングの 指 標 ( 代 表 的 薬 物 療 法 概 論 4 な 症 状 や 検 査 )とゴール EBM トピック 演 習 臨 床 検 査 トピック( 外 部 講 師 ) 関 連 講 義 及 び 臨 床 医 によるトピック た,グループ 毎 のチューターは 導 入 せず,コアタイ ムの 出 席 確 認 のみで 学 生 主 導 のグループワークとし た. 3. 薬 物 治 療 学 における 薬 学 型 PBL 教 育 シス テム 新 たに 創 設 した 薬 物 治 療 学 を 効 果 的 に 実 施 し,
No. 12 1657 Fig. 3. Pharmaceutical PBL Education System in ``Pharmacotherapeutics'' 教 育 効 果 を 十 二 分 に 引 き 出 すための 薬 学 型 PBL 教 育 システムとして,ファイルサーバーや 既 存 の LMS (Learning Management System),さらにオリ ジナルシステムの 構 築 など, 種 々の ICT (Information and Communication Technology)によるシス テムを 導 入 した. 今 回 導 入 した 薬 学 型 PBL 教 育 システムの 概 略 を Fig. 3 に 示 した. 3-1. 効 果 的 なグループワークのための 薬 学 型 PBL 教 育 システム 3-1-1. 学 習 支 援 フォーマットとファイルサー バーの 利 用 薬 物 治 療 学 における PBL は 毎 週 火 曜 日 午 後 のコアタイム 1 から 始 まる. 本 学 で 実 施 してきたこれまでの PBL 教 育 の 経 験 から, 学 生 の 知 識 レベルが 低 い 場 合,PBL の 成 果 が 調 べた 内 容 の 発 表,すなわち 学 生 の 問 題 解 決 のみで, 症 例 の 問 題 解 決 に 至 らないことが 多 かった.そこで, コアタイム 1 では 学 生 の 知 識 不 足 をラーニングイシ ュー(LI) として 挙 げさせ, 調 査, 情 報 共 有 を 行 わせた. 翌 日 のコアタイム 2 では, 症 例 の 問 題 点 を 1 つずつ 吟 味 できるように 整 理 するための 学 習 支 援 フォーマット プロブレム 識 別 シート を 用 意 し, グループ 毎 にチェックさせ, 患 者 の 抱 える 問 題 点 を ディスカッションし LI として 挙 げさせた.LI, はフォーマット コアタイムワークシート に 記 入 し, 大 学 共 用 のファイルサーバーへ 提 出 させた. 担 当 教 員 は 各 グループから 提 出 された プロブレム 識 別 シート の LI, の 内 容 から SGD の 方 向 性 にずれや 不 足 がないかを 確 認 し,さらに PBL 実 施 時 間 中 に 各 グループを 巡 回 し, 必 要 に 応 じて 不 足 し ている 知 識 や 考 え 方 のヒントをアドバイスした. 金 曜 日 のケースカンファレンスでは,グループワーク で 識 別 した 症 例 の 問 題 点 について 調 査 内 容 を 共 有 し た 上 で, 現 状 を 評 価 し, 薬 物 治 療 のゴールを 設 定 し て 介 入 方 法 を 提 案 する ファーマシューティカルケ アプラン ( 以 後,ケアプラン)をフォーマットに 従 って 作 成 させた.ケアプランと 発 表 用 プロダクト はファイルサーバーに 提 出 させ, 翌 週 火 曜 日 のケー スプレゼンテーションで 発 表 させた. このように 薬 物 治 療 学 の PBL では,グルー プワークを 効 率 的, 効 果 的 に 進 行 させる 学 習 支 援 フ ォーマットを 利 用 し,その 学 習 成 果 としてファイル サーバーに 提 出 させた 内 容 を 担 当 教 員 が 確 認, 指 導 することで, 学 生 の 学 習 行 程 と 学 習 内 容 がほぼ 統 一 され,グループ 毎 のチューターを 必 要 とせず PBL を 行 うことが 可 能 となった. 3-1-2. クラスレビューシステムの 構 築 薬 物 治 療 においては, 臨 床 現 場 に 供 されている 多 数 の 医 薬 品 の 中 からその 患 者 の 状 態 に 最 も 適 した 医 薬 品 を 選 択 する 能 力 が 求 められる.そこで, 薬 物 治 療 学 の PBL 教 育 システムでは, 代 表 的 な 医 薬 品 の 物 性, 薬 理 作 用, 体 内 動 態, 使 用 上 の 注 意, 副 作 用, 薬 価 などを 協 同 作 業 で 入 力 する 医 薬 品 レビューシス テムを 構 築 した.システム 画 面 の 一 部 を Fig. 4 に 示 したが, 医 薬 品 の 情 報 を 比 較 したい 項 目 でソート し, 症 例 に 最 も 適 した 医 薬 品 を 比 較 検 討 することが 可 能 である. 医 薬 品 の 情 報 は 1 グループに 1 医 薬 品 を 割 り 当 て,25 グループで 協 同 入 力, 共 同 利 用 さ せた. 3-1-3. 低 学 年 からの 必 須 薬 物 の 学 習 効 果 的 なグループワークの 基 盤 として, 基 礎 学 力 差 の 是 正 が 必 要 であると 考 えた.そこで, 利 用 頻 度 の 高 い 薬 物 220 種 を 選 び,1 年 次 には 一 般 名, 商 品 名, 薬 効 分 類 を,2 年 次 では 適 応, 薬 理 作 用 を,3 年 次 では 用 量, 主 な 副 作 用 と 低 学 年 からの 段 階 的 な 学 習 を 指 示 し,WebClass で 確 認 試 験 を 実 施 した. 3-2. 効 果 的 な 自 己 学 習 を 進 めるための 薬 学 型 PBL 教 育 システム 3-2-1. モジュールにおけるプレテスト,ポスト テストの 実 施 火 曜 日 午 後 のコアタイム 1 におけ る 症 例 提 示 前 に, 学 習 目 標 に 沿 ったプレテストを, 解 答 の 集 計 や 正 解 の 開 示 がすぐに 行 えるクリッカー を 利 用 した EduClick 5) により 行 い,モジュールの
1658 Vol. 130 (2010) Fig. 4. Part of the Class Review System in ``Pharmacotherapeutics'' 学 習 目 標 を 認 識 させた.ケースプレゼンテーション 後 には,ポストテストで 学 習 成 果 を 確 認 させた. 3-2-2. 試 験 問 題 及 び 講 義 教 材 の 公 開 1 クー ル(3 モジュール) 終 了 毎 の 試 験 (モジュールテス ト)は,CBT (Computer-Based Testing)の 出 題 形 式 で 行 い, 試 験 実 施 後 は 学 生 に 問 題 を 公 開 して, 場 所 と 時 間 の 制 約 なく, 繰 り 返 し 学 習 できる 環 境 を 提 供 した.また 講 義 資 料 は WebClass を 利 用 して WEB 上 に 公 開 し, 常 に 閲 覧 可 能 とした. 3-2-3. e-ポートフォリオの 構 築 学 習 内 容 を 記 録 し, 学 習 目 標 毎 に 自 己 評 価 を 行 う e-ポートフ ォリオシステムを 構 築 し,1 クール 終 了 後 に 3 モジ ュール 分 のポートフォリオを 入 力 させた(Fig. 5). 同 時 に 教 材 としての 症 例 の 評 価 も 行 わせ, 担 当 教 員 にフィードバックした. 学 生 の 自 己 評 価 結 果 は, 自 己 啓 発 をうながせるよう, 全 体 の 平 均 と 比 較 して レーダーチャートで 閲 覧 できるようにした. 3-3. 教 材 の 質 の 確 保 と 発 展 のための 薬 学 型 PBL 教 育 システム 3-3-1. 症 例 のデータベース 化 による 質 の 確 保 吉 田 ら 6) は,PBL の 成 功 の 鍵 はシナリオの 充 実 で あるとしているが, 内 容 に 不 備 やまちがいがあると 学 生 が 混 乱 し, 学 習 成 果 が 半 減 する.そこで 薬 物 治 療 学 担 当 教 員 のために 症 例 作 成 フォーマットを 用 意 し, 症 例 の 難 易 度,ボリューム, 学 生 に 学 んでほし いポイントなどを 明 確 にすることで, 教 材 としての 症 例 の 質 と 量 の 確 保 を 図 った. 作 成 した 症 例 は, 症 例 データベースを 構 築 し, 蓄 積 した. 4. 教 育 実 践 による 改 善 成 果 薬 物 治 療 学 の 全 クール 終 了 時 に, 講 義 内 容 及 び 薬 学 型 PBL 支 援 システムに 対 するアンケート 調 査 を 行 った.その 結 果 は Fig. 6 に 示 した( 回 収 率 93.5%, 186 名 ).また, 薬 物 治 療 学 の 学 習 に 対 する 評 価 は,モジュール 毎 に,ポストテストとモジ ュールテストを 用 いて 個 人 評 価 を,ケアプランの 内 容 でグループ 評 価 を 行 った. 4-1. 効 果 的 なグループワークの 実 施 94.1% の 学 生 が,グループワークが 学 生 自 身 の 学 習 に 効 果 的 であったと 答 えた.また, プロブレム 識 別 シー ト や ケアプラン などのフォーマットの 有 用 性 に 対 する 評 価 はいずれも 高 かった.グループワーク の 成 果 であるケアプランの 内 容 は,それぞれのモジ ュール 担 当 教 員 2 名 で 評 価 したが, 単 なる 知 識 の 羅 列 ではなく, 調 査 した 内 容 を 症 例 に 当 てはめ, 必 要 とされる 薬 物 治 療 の 本 質 に 踏 み 込 んだ 検 討 が 行 われ ているものがほとんどであった. 第 1 クールにおけ る 3 モジュールでは, 教 員 のケアプラン 評 価 点 の 平 均 は 4.5 点 中 0.8 点 であったが, 第 4 クールには 2.8 点 と 向 上 した. ケアプラン のプロブレム ( 学 生 が 識 別 した 症 例 の 薬 物 治 療 の 問 題 点 ) 抽 出 数
No. 12 1659 Fig. 5. Part of the E-portfolio in ``Pharmacotherapeutics'' Fig. 6. Results of the Questionnaire about ``Pharmacotherapeutics'' Number represents actual count.
1660 Vol. 130 (2010) Fig. 7. Change in Number of the Problem and Characters of the ``Care Plan'' along with Proceedings of the Study in ``Pharmacotherapeutics'' は PBL を 重 ねる 毎 に 増 加 し, 第 1 クールでの 平 均 5.7 個 から, 第 4 クールでは 平 均 10.7 個 まで 増 加 し た(Fig. 7).また, ケアプラン に 記 載 された 薬 物 治 療 の 現 状 評 価 及 び 介 入 計 画 の 平 均 文 字 数 は 第 1 クールでは 平 均 645.7 字 であったのに 対 し, 第 4 クールでは 5170.2 字 と 飛 躍 的 に 増 加 し た.これらの 結 果 は, 学 生 が PBL を 繰 り 返 すこと によってグループワークを 効 率 的, 効 果 的 に 行 うこ とが 可 能 となり,より 深 い 学 習 内 容 を 習 得 すること ができたことを 示 唆 するものと 考 えられた. グループワークの 成 果 であるケアプランの 評 価 点 と,そのグループに 所 属 する 学 生 のモジュールテス トの 平 均 点 の 相 関 性 を 検 討 したところ, 第 1 第 3 クールまでは 有 意 な 相 関 は 認 められなかったが, 第 4 クールでは,ピアソン 相 関 係 数 r=0.43 (p<0.05) と 有 意 な 相 関 が 認 められた.この 結 果 は,グループ のケアプランの 評 価 点 が 高 いほど,そのグループに 属 した 学 生 のモジュールテストの 平 均 点 が 高 い,す なわち 薬 物 治 療 学 の PBL におけるグループワー クの 成 果 が, 個 々の 学 生 の 知 識 の 習 得 につながって いることを 示 唆 するものと 考 えられる. 薬 物 治 療 学 における PBL 教 育 の 環 境 は, 多 人 数 の 学 生 と グループ 毎 のチューターを 配 置 しないという 通 常 で は 絶 対 的 に 不 利 と 考 えられる 状 況 であったが, 薬 学 型 PBL 教 育 システムにおいて,フォーマットの 活 用 など ICT による 種 々の 学 習 支 援 を 行 うことで, 効 率 的, 効 果 的 なグループワークが 実 現 できたと 考 える. 学 生 の 薬 物 治 療 学 に 対 する 受 講 態 度 としては, 87.2%が 積 極 的 にグループワークに 参 加 していたと 答 えた.しかし,PBL に 積 極 的 に 取 り 組 む 学 生 と, 消 極 的 な 学 生 の 教 育 効 果 の 乖 離 を 防 ぐために は,グループワークに 対 する 学 生 の 自 覚 と 責 任 を 明 確 にする 必 要 がある.そこで, 現 在, 調 査 した 内 容 をグループ 内 に 公 開 し, 学 習 の 軌 跡 を 目 に 見 える 形 にすることを 目 的 にコアタイムワークシートを 基 に WIKI 型 ディスカッションシステムを 構 築 中 であ る. 一 方, クラスレビュー については, 学 生 の 約 半 数 があまり 効 果 的 でなかったと 評 価 した.これ は, 入 力 作 業 で 精 一 杯 であったこと,グループ 毎 に 入 力 した 医 薬 品 情 報 の 精 度 が 不 明 確 で 情 報 源 として 十 分 に 使 いこなせなかったことが 原 因 と 考 えられ る. 今 後 は, 本 システムを 利 用 して 医 薬 品 を 比 較 さ せる 機 会 を 設 定 したいと 考 えている. 4-2. 効 果 的 な 自 己 学 習 の 実 践 各 モジュール における プレテスト ポストテスト の 実 施 は, 93.5%の 学 生 が 効 果 的 であったと 答 えた.Web- Class に 公 開 された 薬 物 治 療 学 での 各 講 義 の 教 育 資 料 は 129 コンテンツであったが, 教 材 の 公 開 は 91.9%の 学 生 が 効 果 的 であったと 答 え,1 コンテン ツに 学 生 がアクセスした 平 均 数 は 119.9 回,1 学 生 の 平 均 アクセス 数 は 77.7 回 であった.この 結 果 は 今 回 構 築 した 薬 学 型 PBL 教 育 システムによって, 個 々の 学 生 が 効 果 的 に 学 習 できる 環 境 を 提 供 できた ことを 示 唆 するものと 考 えられる. e-ポートフォリオ については,あまり 効 果 的 ではないとの 否 定 的 な 意 見 が 多 かったが,これは 学 習 経 過 の 記 録 を 求 めたため 煩 雑 であったこと,また 記 録 の 時 期 がモジュール 毎 でなくクール 終 了 後 であ ったため, 自 己 評 価 の 時 期 に 適 していなかったこと が 原 因 と 考 えられた. 今 後 は,ケアプランのピアレ ビューを 導 入 し,1 モジュール 毎 の 振 り 返 りの 時 間 を 設 けることで,e-ポートフォリオへの 学 習 記 録 の 蓄 積 と 自 己 評 価 を 効 果 的 に 行 い, 知 識 の 定 着 を 促 進 したいと 考 えている. 一 方,e-ポートフォリオの 学 生 の 省 察 には,モジュール 毎 の 学 生 の 取 り 組 みや 反 省 が 蓄 積 されており,これを 担 当 教 員 にフィードバ ックした. 省 察 には 3 年 生 までは 3 年 間 に 学 習 し た 膨 大 な 知 識 がなんとも 現 実 味 のない, 漠 然 とした ものに 感 じられていたが, 今 は 各 教 科 の 内 容 が 1 つ につながり, 疾 患 の 病 理 から 治 療 まで 全 体 像 がはっ きりするようになった といった 積 極 的 な 省 察 が 多 くみられた. 今 後,この 省 察 に 対 して 担 当 教 員 から
No. 12 1661 コメントすることで, 学 生 のモチベーションの 確 認 や 維 持 に 利 用 していく 予 定 である. 4-3. 教 材 の 質 の 確 保 と 発 展 教 材 としての 症 例 に 対 する 学 生 の 評 価 では, 症 例 の 難 易 度 とボリ ュームはモジュールにより 若 干 の 差 があったが, 適 切 性 は 平 均 87.4%が 適 切 ほぼ 適 切 と 評 価 し た. 今 回 作 成 した 12 症 例 のうち, 検 査 値 などの 誤 りの 訂 正 は 2 回 のみであり, 症 例 作 成 フォーマット の 利 用 とデータベース 化 は, 症 例 の 質 の 確 保 に 貢 献 したと 考 えている. 4-4. 薬 物 治 療 学 の 教 育 効 果 PBL 形 式 に よる 症 例 に 基 づく 統 合 型 カリキュラム 薬 物 治 療 学 が, 薬 物 治 療 の 理 解 に 効 果 的 であったと 答 えた 学 生 は 94.7%, 満 足 であると 答 えた 学 生 は 94.1%であ った.また, 薬 物 治 療 を 一 言 で 表 すと と 言 う 問 いに 学 べば 学 ぶほど, 自 分 が 何 も 知 らなかったこ とに 気 づく, 気 づけば 気 づくほどまた 学 びたくな る という 答 えが 最 も 印 象 的 であった.また 今 回, 本 講 義 の 実 践 にあたって, 薬 学 部 において 効 果 的 な 教 育 を 行 うことを 目 的 として 必 要 に 応 じて 柔 軟 に ICT による 支 援 を 取 り 入 れ 構 築 した 薬 学 型 PBL 教 育 システムは, 効 率 的 かつ 効 果 的 なグループワーク の 実 施 につながり, 高 い 教 育 効 果 の 確 保 に 大 きく 貢 献 するものであった. 5. まとめ 薬 学 6 年 制 教 育 への 変 革 を 機 に, 名 城 大 学 薬 学 部 では PBL 形 式 の 学 習 形 態 を 導 入 した 症 例 に 基 づく 統 合 型 カリキュラム 薬 物 治 療 学 を 創 設 した. 本 科 目 において, 学 生 は 学 習 支 援 のための 薬 学 型 PBL 教 育 システムを 有 効 に 利 用 して, 提 示 された 症 例 に 対 する PBL をグループワークとして 行 うこ とで, 疾 患, 薬 物, 患 者 の 視 点 から, 患 者 に 最 も 適 切 な 薬 物 治 療 を 提 案 するために 必 要 な 知 識 と 技 能 を 能 動 的 に 習 得 することができた.このように 様 々な 薬 学 の 基 礎 知 識 と 技 能 を 統 合 することにより, 将 来 薬 剤 師 として 適 切 な 薬 物 治 療 が 構 築 できる 能 力 を 身 につけることが 期 待 される. REFERENCES 1) Gurpinar E., Musal B., Aksakoglu G., Ucku R., BMC Med. Educ., 5, 7(2005). 2) Suzuki Y., Shimozawa N., Takahashi Y., Kaneko H., Fukao T., Inoue R., Katoh Z., Orii K., Teramoto T., Isogai K., Kondo N., J. Pediatr. Pract., 65, 29 34 (2002). 3) Hitchcock M. A., Mylona Z. H., Teach Learn Med., 12, 52 57 (2000). 4) Tsuchida A., Yamashina A., Gekkann Yakuji, 50, 305 308 (2008). 5) Suzuki H., Takesada M., Hikihara T., Yamada K., Hosokawa T., Onodera A., J. Higher Education and Lifelong Learning, 16, 1 17 (2008). 6) Yoshida I., Onishi H., ``Jissen PBL Tutorial Guide,'' Nanzando Co., Ltd., Tokyo, 2004, pp. 3 108.