( 独 ) 国 際 農 林 水 産 業 研 究 センター 山 岡 和 純 世 界 は 今 食 料 価 格 危 機 再 燃 の 前 夜 にある 世 界 の 穀 物 価 格 決 定 構 造 が 変 化 し 食 料 インフレが 常 態 化 している 世 界 の 次 世 代 を 養 う 穀 物 生 産 力 の 向 上 と 安 定 化 のためには 地 球 上 で 最 大 の 水 資 源 利 用 者 である 灌 漑 農 業 の 一 層 の 開 発 が 不 可 欠 だ しかし 世 界 の 灌 漑 開 発 は 今 世 紀 に 入 り 急 ブ レーキが 掛 かっている 経 済 的 動 機 づけを 超 えたアイデンティティー 志 向 の 共 有 資 源 管 理 を 実 現 す るため 農 民 参 加 型 の 灌 漑 開 発 管 理 に 注 目 したい 1. 地 球 の 持 続 可 能 な 発 展 と 水 資 源 20 世 紀 を 振 り 返 ると 長 い 間 石 油 資 源 土 地 資 源 に 代 表 される 資 源 争 奪 をめぐる 国 家 間 対 立 さらにはイデオロギー 対 立 による 核 戦 争 が 地 球 を 破 滅 に 導 く 最 大 の 要 因 として 危 惧 されていた こ れは 裏 を 返 すと 戦 争 のない 平 和 な 社 会 を 築 くこ とさえできれば 経 済 成 長 にも 人 類 の 繁 栄 にも 限 界 がないと 多 くの 人 々が 信 じていたとも 言 える しかし 1970 年 にローマクラブが 成 長 の 限 界 を 報 告 して 以 降 平 和 の 確 立 は 人 類 や 地 球 を 破 滅 から 救 う 必 要 条 件 であるが 十 分 条 件 ではないこ と 即 ち 将 来 世 代 にわたり 人 類 が 生 き 延 びるた めには 国 家 間 の 平 和 の 構 築 に 加 えて 地 球 全 体 のサステナブル デベロップメント( 持 続 可 能 な 発 展 )が 必 要 不 可 欠 であるとの 認 識 が 人 々に 徐 々 に 共 有 されてきたのである これは 言 い 換 えれば 我 々の 地 球 が 宇 宙 船 地 球 号 という 運 命 共 同 体 であるとの 認 識 である そこには 勝 者 も 敗 者 もいない 極 論 すれば 数 世 代 後 には 全 体 としての 成 功 または 失 敗 しか 選 択 肢 は ないのである そして これを 成 功 に 導 くための キーワードが 地 球 資 源 の 有 限 性 を 前 提 とした 物 質 およびエネルギーのフローの 大 幅 な 削 減 であり その 中 で 個 々の 生 活 水 準 と 社 会 全 体 の 豊 かさを 維 持 するための 技 術 革 新 と 制 度 革 命 ( 意 識 改 革 )な のである こうした 問 題 意 識 が 目 指 している 望 ましい 持 続 可 能 な 社 会 とは 経 済 活 動 を 絶 えず 拡 大 し 富 を 蓄 積 することによってのみ 種 々の 問 題 を 解 決 しよう とする 従 来 型 社 会 のアンチテーゼでもある 持 続 可 能 な 社 会 では 常 に 長 期 目 標 と 短 期 目 標 のバラ ンスが 重 要 であり 経 済 活 動 や 産 出 量 の 多 寡 より も 限 りある 資 源 をいかに 分 配 するのか その 十 分 さや 公 正 さ 生 活 の 質 などが 重 視 される 生 産 側 のシステムだけではなく 資 源 を 消 費 するライ フスタイルそのものが 問 われ 人 間 の 幸 福 観 を 再 構 築 するという 創 造 的 なチャレンジが 求 められる このため 技 術 革 新 に 加 えて 制 度 革 命 ( 意 識 改 革 ) の 面 が すなわち 単 なる 生 産 性 や 技 術 の 枠 を 超 え て 人 間 的 社 会 的 成 熟 人 々の 協 働 や 相 互 扶 助 の 心 あるいは 信 頼 や 智 慧 をベースとした 絆 や 繋 が りなどの 要 素 が 重 要 となってくる そして 21 世 紀 はまさに 水 の 世 紀 とも 言 われ ている それは 生 命 の 維 持 に 必 要 不 可 欠 な 必 需 財 である 水 資 源 までもが 地 球 上 の 各 地 で 需 給 逼 迫 に 陥 り その 争 奪 をめぐり 世 界 の 各 地 で 人 々 の 対 立 が 激 化 する 可 能 性 が 危 惧 されているからで ある 現 実 には 水 資 源 そのものをめぐる 武 力 衝 突 等 による 争 奪 という 形 に 加 えて 水 資 源 に 依 存 す る 地 球 上 の 膨 大 な 経 済 活 動 が 市 場 を 舞 台 に 競 争 を 繰 り 広 げる 中 で 水 資 源 の 確 保 がその 消 長 を 握 る という 場 面 が 現 れる 度 毎 に 間 接 的 に 事 実 上 の 争 奪 が 展 開 される そうした 政 治 や 経 済 の 軋 轢 の 積 み 重 ねによる 分 野 内 外 国 家 間 の 緊 張 や 水 をめ ぐる 国 際 紛 争 や 地 域 紛 争 の 拡 大 を 防 ぐため 地 球 上 の 各 地 域 社 会 の 各 分 野 において 水 資 源 の 利 用 効 率 を 速 やかに かつ 大 幅 に 改 善 し サステナ ブルな 水 利 用 システムを 構 築 することが 求 められ ている 1
2000/1 2001/1 /1 2003/1 2004/1 2005/1 2006/1 /1 2008/1 2009/1 2010/1 2011/1 2012/1 2. 世 界 の 食 料 生 産 消 費 の 構 造 変 化 と 需 給 逼 迫 一 方 近 年 世 界 の 食 料 需 給 にこれまでにない 異 変 が 起 きており 穀 物 価 格 などが 高 騰 を 繰 り 返 し ている 年 から 2008 年 にかけての 世 界 食 料 価 格 危 機 は その 直 後 の 世 界 金 融 危 機 によって 投 機 熱 が 冷 めたことから 2008 年 3 月 6 月 頃 をピ ークに いったん 沈 静 化 に 向 かい 価 格 が 反 転 下 落 した しかし 2010 年 半 ばから 前 回 の 急 騰 を 上 回 る 勢 いで 再 び 上 昇 に 転 じ 現 在 は 食 料 インフ レ ともいうべき 高 騰 が 世 界 中 の 食 卓 を 襲 ってい る 世 界 の 食 料 価 格 が 高 騰 した 理 由 には 新 興 国 の 経 済 成 長 や 人 口 増 加 による 食 料 消 費 の 増 加 過 去 の 食 料 危 機 の 局 面 にはなかった 原 油 価 格 高 騰 との 連 動 や 気 候 変 動 バイオ 燃 料 の 需 要 増 穀 物 市 場 への 投 機 マネーの 流 入 水 資 源 の 不 足 期 末 在 庫 水 準 の 低 さ 輸 出 規 制 価 格 統 制 など 複 合 的 な 要 因 が 考 えられる したがって これまでのよ うな 短 期 的 な 異 常 気 象 による 農 産 物 生 産 の 豊 凶 やその 見 通 しへの 投 機 といった 一 過 性 の 要 因 に 留 まらず 将 来 へ 向 けて 恒 常 的 に 食 料 需 給 の 逼 迫 基 調 を 強 める 中 長 期 的 要 因 の 影 響 が 以 前 よりも 強 ま ってきているという 食 料 の 価 格 決 定 構 造 の 変 化 に 着 目 する 必 要 がある そういう 変 化 の 中 で 2012 年 の 夏 にアメリカを 襲 った 熱 波 と 旱 魃 によって トウモロコシ 価 格 が 急 騰 し これに 連 動 してダイズ ロシアで 不 作 と なったコムギなどの 先 物 価 格 が 急 騰 し 現 在 のと ころ 現 物 価 格 も 過 去 最 高 水 準 に 達 している 国 際 通 貨 基 金 (IMF)が 毎 月 発 表 している 主 要 商 品 取 引 価 格 をもとに 04 年 の 平 均 を 100 とした 指 数 に 変 換 して 見 ると 図 -1 に 示 すように 2012 年 7 月 の 穀 物 取 引 価 格 指 数 は トウモロコシが 過 去 最 高 の 315.8 ダイズも 過 去 最 高 の 252.7 コム ギは 過 去 最 高 だった 2008 年 3 月 の 292.1 には 及 ばないが 229.7 となっている この 趨 勢 が 続 けば 今 年 の 秋 以 降 家 畜 飼 料 用 トウモロコシ ダイズ やコムギの 不 足 により 肉 類 乳 製 品 食 用 油 パン 麺 類 豆 腐 等 広 範 囲 にわたる 食 品 の 価 格 が 高 騰 する 恐 れが 強 く 懸 念 されている さらに 発 展 途 上 国 で 主 食 となっているトウモ ロコシ 価 格 が 上 昇 すると その 時 点 で 割 安 感 のあ るコメやコムギへ 消 費 がシフトし これらの 消 費 量 が 増 大 する また アメリカなどでは 飼 料 用 穀 物 で 同 様 のシフトが 起 きる さらにコメやコムギ の 生 産 者 は 価 格 が 上 昇 し 収 益 性 が 向 上 したトウ モロコシの 生 産 へとシフトさせようとする この ように 需 給 両 面 からの 圧 力 の 結 果 として コメや コムギなどの 穀 物 価 格 が 一 層 上 昇 する 特 に コ メは 多 くの 国 で 生 産 量 の 大 部 分 が 国 内 消 費 に 充 て られ 世 界 のコメ 生 産 量 のわずか 7%しか 国 際 市 場 で 取 引 されていない このため 先 の 世 界 食 料 価 格 危 機 の 際 には 前 出 の 価 格 指 数 が 2008 年 4 月 に 一 時 的 に 478.1 という 極 めて 異 常 な 高 値 にまで 急 騰 した( 図 -1) 主 要 なコメ 輸 出 国 が 国 内 の 需 要 を 満 たすことを 優 先 して コメの 輸 出 に 厳 しい 規 制 を 課 したことも 影 響 したと 見 られる 500 450 400 350 300 250 200 150 100 50 0 とうもろこし 米 大 豆 小 麦 注 : 年 -2004 年 の 平 均 を 100 として 筆 者 が 再 集 計 した データ: IMF Primary Commodity Prices Prepared by the Commodities Team of the Research Department (http://www.imf.org/external/np/res/commod/index.aspx) この 数 年 来 の 世 界 の 穀 物 価 格 決 定 構 造 の 変 化 に より 今 や 食 料 インフレ が 常 態 化 しており その 中 で 食 料 価 格 の 異 常 な 高 騰 がいつでも 再 現 さ れ 易 い 状 況 が 続 いている 世 界 の 穀 物 生 産 力 の 向 上 と 安 定 化 は 先 送 りのできない 急 務 の 課 題 とな っている 図 -1 世 界 の 主 要 穀 物 価 格 指 標 の 推 移 (2000 年 1 月 -2012 年 7 月 ) 2
3. 世 界 最 大 の 水 資 源 利 用 - 農 業 用 水 地 球 上 における 水 資 源 の 最 大 の 利 用 者 は 人 類 の 食 料 を 生 産 する 農 業 である 世 界 の 年 間 の 淡 水 使 用 量 ( 取 水 量 ベース)3 兆 5,720 億 トンのうち 約 7 割 の 2 兆 5,040 億 トンが 農 業 用 水 として 不 可 避 的 に 使 用 されている 特 に 世 界 人 口 の 約 6 割 が 集 中 するアジアでは 図 -2 に 示 すように 農 業 用 水 利 用 量 がこの 地 域 の 水 資 源 利 用 量 の 約 82%を 占 めており その 多 くがコメの 生 産 に 必 要 な 水 田 灌 漑 用 水 の 利 用 である この 地 域 の 農 業 用 水 利 用 量 は 都 市 や 工 業 での 利 用 を 含 む 世 界 の 水 資 源 全 体 の 利 用 量 の 実 に 約 半 分 を 占 めている (%) 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 2505.6km 3 (64.1%) 17.9% アジアの 農 業 用 水 だけで 世 界 の 水 資 源 全 体 の 利 用 量 の 約 半 分 を 占 める 82.1% アジア 5 48.0% 生 活 用 水 工 業 用 水 発 電 用 水 795.2km 3 (20.3%) 362.3km3 218.8km 3 27.4km 3 (9.3%) (5.6%) (0.7%) 72.1% 27.9% アメリカ ヨーロッパ アフリカ データ:AQUASTAT main country database (http://www.fao.org/nr/water/aquastat/dbase/index.stm) 世 界 平 均 オセアニア 図 -2 地 域 別 の 年 間 水 資 源 取 水 量 ( 全 用 水 )およびこれに 対 する 農 業 用 水 取 水 量 の 割 合 農 業 での 水 の 利 用 が 都 市 での 水 の 利 用 と 異 な る 点 は 水 を 利 用 する 現 地 である 耕 地 への 降 水 を 利 用 できることである 降 水 量 が 豊 富 な 湿 潤 多 雨 地 域 では 降 水 だけに 頼 る 天 水 農 業 が 可 能 である しかし 降 水 量 が 多 すぎて 水 はけが 悪 いと 一 般 の 農 作 物 は 酸 欠 で 根 が 腐 る このような 土 地 には 葉 から 採 り 入 れた 空 気 を 体 内 の 空 隙 を 通 じて 根 に 届 け 耕 地 が 水 浸 しでも 根 が 腐 らないイネが 適 し ている しかも 土 地 が 水 没 することで 一 般 の 雑 草 の 繁 茂 を 抑 制 できる 一 方 作 物 への 水 分 補 給 がお 天 気 任 せの 天 水 水 田 稲 作 では 頼 みの 雨 が 降 らないと 収 穫 が 激 減 する そこで 安 定 した 生 産 15.7% 84.3% 26.2% 73.8% 農 業 用 水 生 活 用 水 工 業 用 水 発 電 用 水 29.8% 農 業 用 水 70.2% を 図 るため 干 天 が 続 いた 渇 水 時 の 備 えとして 水 資 源 を 貯 えておく 工 夫 が 畦 畔 で 囲 まれた 水 田 に 水 を 貯 える 湛 水 である それより 規 模 が 大 きい ものがため 池 やダムによる 貯 水 である こうした 湛 水 や 貯 水 には 大 量 の 水 が 必 要 となり 各 現 地 へ の 降 水 だけでは 不 足 する そのため 渓 流 湧 水 河 川 湖 沼 などから 引 水 し あるいは 場 合 によっ ては 地 下 水 を 揚 水 し 用 水 路 によって 各 現 地 へ 配 水 する これが 水 資 源 を 利 用 する 灌 漑 農 業 であ る 湿 潤 多 雨 地 域 よりも 一 般 的 に 降 水 量 の 少 ない 半 乾 燥 地 域 などでの 畑 作 の 場 合 は 耕 地 への 湛 水 ではなく 灌 水 により 土 壌 に 水 分 を 蓄 える 点 が 異 な る 以 外 は 同 様 である このように 灌 漑 は 常 時 の 降 水 不 足 の 補 完 や 渇 水 時 の 備 えとしても 重 要 であるが それだけでな く 積 極 的 に 灌 漑 を 行 って 土 壌 の 水 分 を 上 手 にコ ントロールすると 作 物 の 収 量 が 大 幅 に 向 上 する 耕 地 に 化 学 肥 料 を 施 したとき 土 壌 水 分 が 十 分 に あると 肥 料 成 分 の 作 物 吸 収 が 活 発 になり 肥 料 の 効 きが 格 段 に 良 くなる また 多 収 量 品 種 は 土 壌 水 分 が 十 分 にあるとその 能 力 を 存 分 に 発 揮 できる が 逆 に 水 分 不 足 の 環 境 では 低 収 量 の 在 来 品 種 は 何 とか 収 穫 できても 多 収 量 品 種 は 枯 死 してし まい 収 穫 がゼロとなることさえある 多 収 量 品 種 の 導 入 は 天 水 農 業 ではハイリスク となるため 灌 漑 農 業 が 前 提 となる 多 収 量 品 種 を 導 入 し 化 学 肥 料 を 効 果 的 に 施 用 できる 灌 漑 農 業 では 収 量 を 飛 躍 的 に 増 大 させることができる 現 に 灌 漑 耕 地 は 世 界 の 全 耕 地 面 積 15 億 3,353 万 ha の 約 20%にすぎないが 世 界 の 穀 物 の 約 4 割 を 生 産 し 人 類 の 食 料 需 要 を 支 えている 次 世 代 を 養 う 世 界 の 穀 物 生 産 力 の 向 上 と 安 定 化 のため には 灌 漑 農 業 の 一 層 の 開 発 が 不 可 欠 だが これ を 進 めるほど 大 量 の 水 資 源 が 必 要 となってくる 4. 世 界 の 灌 漑 開 発 の 動 向 及 び 単 収 増 との 関 係 しかし 世 界 の 灌 漑 開 発 は 今 世 紀 に 入 り 急 ブ レーキが 掛 かり 局 面 打 開 のための 効 果 的 な 方 策 が 待 ち 望 まれている 1960 年 代 以 降 灌 漑 耕 地 は 3
1962 世 界 の 食 料 供 給 の 大 きな 部 分 を 賄 ってきた 図 -3 に 示 すように 1960 年 代 から 20 世 紀 末 まで 年 間 平 均 程 度 の 拡 大 を 続 けてきた 世 界 の 灌 漑 面 積 は 2004 年 以 降 毎 年 その 増 加 率 が 1%を 下 回 り 続 け 2009 年 にはついに まで 落 ち 込 ん だ これは 世 界 レベルではこの 半 世 紀 間 経 験 した ことのない 低 水 準 である ている 灌 漑 耕 地 の 拡 大 が 穀 物 単 収 の 増 加 に 寄 与 するこ とは 多 く 指 摘 されている ここでは それを 定 量 的 に 地 域 別 に 分 析 した FAOSTAT によると 2009 年 の 世 界 の 耕 地 面 積 ( 永 年 生 作 物 栽 培 面 積 を 含 む 以 下 同 じ)15 億 3,353 万 ha のうち 灌 漑 耕 地 面 積 が 占 める 割 合 (これを 灌 漑 耕 地 面 積 率 と 呼 ぶ - 灌 漑 耕 地 面 積 増 加 率 の 急 低 下 以 下 同 じ)は 20.3%である 1961 年 から 2009 年 までの 49 年 間 で 世 界 の 耕 地 面 積 は 11.8% 増 加 し たが 灌 漑 耕 地 面 積 は 99.8% 増 加 しほぼ 2 倍 に 拡 大 した 一 方 世 界 の 穀 物 単 収 は 同 じ 期 間 に 1.35t/ha から 3.56t/ha に 向 上 した これら 49 年 間 のデータを 耕 地 面 積 と 灌 漑 面 積 を 独 立 変 数 穀 物 単 収 を 従 属 変 数 として 重 回 帰 分 析 により 検 討 データ:FAOSTAT2012 年 7 月 (2011 年 7 月 21 日 最 終 更 新 )のデ ータより 著 者 作 成 ( 以 下 図 -4~ 図 -8 も 同 様 ) 図 -3 世 界 の 耕 地 面 積 及 び 灌 漑 耕 地 面 積 の 年 間 増 加 率 の 推 移 (1962-2009) 1960 年 代 から 20 世 紀 末 まで 世 界 ベースでは 安 定 した 拡 大 を 続 けてきた 灌 漑 面 積 だが 地 域 別 に 見 ると 大 きな 波 がある まず 図 -4 に 示 すよう に 第 二 次 オイルショックの 影 響 により 北 中 央 アメリカ 州 では 1980 年 代 に 急 激 な 落 ち 込 みを 経 験 し 数 年 間 はゼロ 成 長 ないし 縮 小 傾 向 が 続 き 1988 年 以 降 回 復 し 20 世 紀 末 まで 安 定 成 長 したが 21 世 紀 に 入 り 再 び 低 迷 している この 間 も 図 -5 に 示 すように 南 アメリカは 概 ね 年 率 以 上 の 成 長 が 続 いた 逆 に 図 -6 に 示 すように 1988 年 以 降 は 冷 戦 終 結 後 の 混 乱 により 欧 州 で 急 激 かつ 深 刻 な 落 ち 込 みが 始 まり 灌 漑 面 積 の 縮 小 傾 向 が 現 在 まで 続 いている その 中 でも 東 欧 は 特 に 深 刻 な 状 況 にある また 図 -7 に 示 すように アフリ カは 順 調 な 拡 大 を 続 けていたが 2003 年 以 降 ゼ ロ 成 長 に 近 い 深 刻 な 水 準 に 落 ち 込 み 現 在 に 至 って いる 唯 一 無 傷 であったアジアでも 図 -8 に 示 す ように 西 アジアでのマイナス 成 長 への 落 ち 込 み したところ 独 立 変 数 ( 耕 地 面 積 )の 係 数 をゼロ とする 帰 無 仮 説 を 有 意 水 準 5%で 棄 却 できない この 場 合 穀 物 単 収 は 灌 漑 面 積 のみに 依 存 し 世 界 の 灌 漑 面 積 が 781 万 ha 拡 大 する 毎 に 0.1t/ha の 単 収 増 が 達 成 されるとの 結 果 を 得 た 一 方 穀 物 全 体 の 生 産 量 に 対 する 三 大 穀 物 と 呼 ばれるトウモロコシ コメ コムギの 合 計 生 産 量 が 占 める 割 合 は 年 々 増 加 し 1961 年 の 73.3%か ら 2010 年 に 89.1%に 達 した そこで この 間 の 灌 漑 の 対 象 穀 物 はほぼ 三 大 穀 物 であったと 考 え 従 属 変 数 を 三 大 穀 物 の 平 均 単 収 とすると 同 じ 帰 無 仮 説 を 有 意 水 準 5%で 棄 却 でき 得 られた 重 回 帰 式 より 世 界 の 耕 地 面 積 と 灌 漑 面 積 が 各 々8,197 万 ha 719 万 ha 拡 大 する 毎 に 0.1t/ha の 単 収 増 が 達 成 されるとの 結 果 を 得 た アフリカでは 同 じく 各 々135 万 ha 17 万 ha 拡 大 する 毎 に また 灌 漑 耕 地 面 積 率 が 既 に 41%に 達 しているアジア ( 中 央 アジアを 除 く)では 同 じく 各 々952 万 ha 847 万 ha 拡 大 する 毎 に 0.1t/ha の 単 収 増 が 達 成 される との 結 果 が 得 られた これにより 灌 漑 耕 地 面 積 率 が 低 い 地 域 を 中 心 に 灌 漑 面 積 を 拡 大 させれば 世 界 の 穀 物 単 収 を 効 果 的 に 向 上 させ 得 ることが 示 唆 された と 年 率 2%を 超 えていた 東 南 アジアの 拡 大 に 陰 りが 見 え 始 め 2005 年 以 降 は 年 率 1%を 割 り 続 け 4
1962 1962 1962 1962 1962 7.0% 6.0% 5.0% 4.0% - - 図 -4 北 中 央 アメリカの 収 穫 耕 地 面 積 及 び 灌 漑 耕 地 面 積 の 年 間 増 加 率 の 推 移 (1962-2009) 図 -8 アジアの 収 穫 耕 地 面 積 及 び 灌 漑 耕 地 面 積 の 年 間 増 加 率 の 推 移 (1962-2009) - 世 界 の 穀 物 価 格 決 定 構 造 が 変 化 したことにより 今 後 中 長 期 にわたり 穀 物 価 格 の 高 値 安 定 あるい はさらなる 上 昇 が 見 込 まれることは 急 激 に 落 ち 込 んだ 灌 漑 投 資 をV 字 ターンさせる 呼 び 水 になる その 際 に 留 意 すべきなのは 灌 漑 システムを 効 率 的 に 機 能 させ 生 産 力 の 向 上 を 実 現 するための さ - 図 -5 南 アメリカの 収 穫 耕 地 面 積 及 び 灌 漑 耕 地 面 積 の 年 間 増 加 率 の 推 移 (1962-2009) らにはその 持 続 性 を 強 固 にするための 受 益 農 家 の 体 制 構 築 を 同 時 に 行 うことである 何 故 なら 灌 漑 投 資 による 増 産 効 果 は 数 十 年 という 長 期 間 発 現 されるべきものであり その 間 の 穀 物 価 格 の 変 動 に 柔 軟 に 対 応 して 持 続 的 に 利 用 されるシステムが 望 まれるからである そこで 注 目 すべきものが 農 民 参 加 型 の 灌 漑 開 発 管 理 である これを 上 手 く 活 用 することにより 水 利 共 同 体 へのエンパワー メントと 経 済 的 動 機 づけを 超 えたアイデンティ ティー 志 向 の 長 期 にわたる 安 定 した 共 有 資 源 管 理 を 実 現 することができるのである - 図 -6 ヨーロッパの 収 穫 耕 地 面 積 及 び 灌 漑 耕 地 面 積 の 年 間 増 加 率 の 推 移 (1962-2009) 5. 湿 潤 多 雨 気 候 下 の 参 加 型 灌 漑 管 理 年 間 降 水 量 が 概 ね 1500mm 程 度 を 越 えるモン スーン アジアの 国 々は 世 界 の 陸 地 面 積 の 14% を 占 めるに 過 ぎないが 世 界 人 口 の 54%という 巨 大 な 人 口 を 擁 する この 人 口 を 支 える 食 料 の 生 産 は この 地 域 の 各 地 で 水 田 稲 作 を 中 心 に 2000 年 以 上 も 前 から 続 けられてきた 湿 潤 な 気 候 下 で の 水 田 稲 作 は 乾 燥 地 域 が 抱 える 土 壌 の 塩 類 集 積 や 地 下 水 の 枯 渇 あるいは 畑 作 に 宿 命 的 な 連 作 図 -7 アフリカの 収 穫 耕 地 面 積 及 び 灌 漑 耕 地 面 積 の 年 間 増 加 率 の 推 移 (1962-2009) 障 害 などの 問 題 を 生 じない 環 境 に 優 しい 持 続 可 能 な 生 産 システムである しかし これを 活 かす 5
ことのできる 持 続 可 能 な 社 会 は 農 業 水 利 を 通 じて 人 と 人 を 繋 げ 人 と 社 会 を 繋 いだ 人 々の 叡 智 協 働 や 相 互 扶 助 の 心 が 築 いたものである 欧 米 を 中 心 とする 近 代 的 畑 作 農 業 における 農 業 水 利 と 日 本 をはじめ 湿 潤 気 候 下 のモンスーン ア ジア 諸 国 の 農 業 水 利 は 本 質 的 に 異 なる 目 的 意 識 と 技 術 体 系 のもとで 発 展 した 即 ち 欧 州 では 村 落 単 位 の 共 同 体 的 な 低 位 安 定 型 三 圃 式 農 業 が 根 菜 類 や1 年 生 豆 科 牧 草 をとり 入 れて 酪 農 と 結 合 し た 地 力 維 持 型 有 畜 経 営 としての 輪 栽 式 農 法 に 取 っ て 代 わられ 共 同 体 的 営 農 の 必 要 性 が 薄 れて 個 別 経 営 が 確 立 していった 第 二 次 世 界 大 戦 後 個 別 経 営 の 基 盤 のもとに 資 本 の 蓄 積 が 進 展 し さらに 専 門 性 の 高 い 農 業 経 営 が 発 展 した その 延 長 線 上 にある 米 国 カナダなど 新 大 陸 の 大 規 模 畑 作 農 業 経 営 さらには 大 規 模 水 田 稲 作 を 含 めて 生 産 性 の 向 上 を 目 的 として 発 展 した 欧 米 の 近 代 的 な 農 業 水 利 も 一 部 コミュニティーベースのものを 除 い てこれら 個 別 経 営 体 へのサービス 事 業 としての 性 格 が 強 い 一 方 モンスーン アジア 諸 国 では 温 暖 湿 潤 な 気 候 下 で 洪 積 台 地 河 岸 段 丘 谷 地 自 然 堤 防 湿 地 等 が 入 り 組 む 風 土 に 適 合 した 労 働 集 約 的 な 小 規 模 水 田 稲 作 が 発 展 した ここでは 天 水 稲 作 洪 水 灌 漑 減 水 灌 漑 近 代 的 灌 漑 システムなど 様 々な 水 田 水 利 の 形 態 が 見 られるが いずれにお いても 多 くの 場 合 農 業 生 産 活 動 における 個 の 確 立 とともに 水 利 ガバナンスと 呼 ぶべき 協 働 協 治 に よって 資 源 や 財 を 管 理 する 仕 組 みが 発 達 し ソー シャル キャピタルが 蓄 積 され 共 生 社 会 基 盤 が 形 成 されている つまり 温 暖 湿 潤 な 気 候 下 で 多 数 の 小 規 模 農 業 経 営 が 存 在 し 畑 作 と 異 なり 水 田 では 田 面 に 貯 留 した 水 を 越 流 させて 下 流 で 再 利 用 できるという 条 件 下 で 通 常 は 涸 れることなく 地 表 を 流 下 する 水 によって 必 然 的 に 人 々の 繋 がりが 形 成 された そ してさらに 度 重 なる 洪 水 や 渇 水 への 集 団 的 対 応 の 経 験 を 通 じて 個 よりも 全 体 の 利 益 を 重 視 して 個 々の 調 整 を 図 る 水 利 共 同 体 が 成 立 発 展 したの である ここでは ローカル コモンズとしての 水 資 源 の 需 給 が 逼 迫 していない 常 時 における 経 済 学 的 合 理 性 とともに 水 資 源 の 需 給 が 逼 迫 する 渇 水 時 における 独 特 の 水 利 秩 序 あるいは 水 利 慣 行 に よる 別 途 の 経 済 学 的 合 理 性 が 成 立 している 6.コモンズの 悲 劇 とローカル コモンズ コモンズの 悲 劇 は 米 国 の 生 態 学 者 ギャレ ット ハーディンが 1968 年 にサイエンス 誌 に 発 表 した 論 文 "The Tragedy of the Commons"で 紹 介 され 広 く 知 られるようになった 概 念 で 地 球 環 境 問 題 もしばしばコモンズの 悲 劇 に 擬 えて 説 明 さ れている 限 りある 地 球 資 源 を 人 類 が 好 き 勝 手 に 使 えば やがてそれが 枯 渇 して 人 類 を 含 む 生 態 系 全 体 が 立 ち 行 かなくなるとされている ここで 限 りある 地 球 資 源 とは いわゆる 伝 統 的 な 資 源 経 済 学 での 経 済 活 動 の 使 用 収 益 に 充 てられる 資 源 だけ ではない すなわち 経 済 活 動 に 伴 って 排 出 され 汚 染 源 となる 廃 棄 物 質 の 自 然 環 境 による 同 化 吸 収 能 力 あるいは 生 物 多 様 性 など 物 的 資 本 の 範 疇 を 越 えた 非 物 質 的 な 価 値 をも 含 む 自 然 資 本 が 対 象 となる そして コモンズの 悲 劇 が 起 こるのは 後 にハーディンが 修 正 したように かかる 自 然 資 本 がオープンアクセス( 非 排 除 的 )であるときに 限 る 誰 でも 自 由 に 利 用 できる 状 態 の 自 然 資 本 が 最 も 危 険 であるといえる これに 対 し 限 定 された 利 用 者 によって 収 益 を 分 配 するために 利 用 される 排 除 性 のある 共 有 資 源 は ローカル コモンズと 呼 ばれている また 定 められた 管 理 ルールが 機 能 せずにコモンズの 悲 劇 が 起 こる 場 合 には 資 源 が 一 斉 に 枯 渇 して 利 用 者 が 同 時 に 破 綻 するのではなく 枯 渇 の 進 行 とと もに 競 争 力 が 低 い 利 用 者 から 順 に 脱 落 し 最 後 ま で 生 き 残 った 利 用 者 が 枯 渇 寸 前 の 資 源 を 独 占 的 に 利 用 することになる 自 由 競 争 市 場 のもと 過 度 な 廉 売 競 争 によって 市 場 参 入 者 が 次 々と 体 力 を 消 耗 し 独 占 市 場 が 形 成 されていく 過 程 と 同 様 の 現 象 が 起 こると 考 えられる 一 般 的 にローカル コモンズの 管 理 には 利 用 6
者 を 限 定 するか あるいは 不 特 定 多 数 による 利 用 の 排 除 が 困 難 な 場 合 には 各 利 用 者 に 利 用 のルー ルを 遵 守 させるシステムが 考 えられる このうち 一 般 に 環 境 と 呼 ばれている 物 的 資 本 の 範 疇 を 越 えた 同 化 吸 収 能 力 や 生 物 多 様 性 などに 代 表 され る 非 物 質 的 な 価 値 は 取 引 市 場 が 存 在 しないため 市 場 を 通 じた 需 給 の 管 理 ができない しかも コ ミュニティなどの 範 囲 に 利 用 者 を 限 定 することや 利 用 の 排 除 性 を 確 保 することが 極 めて 難 しい こ れら 環 境 の 管 理 には 各 利 用 者 に 利 用 のルールを 遵 守 させるシステムが 有 効 である そうしたシス テムの 下 で 国 際 社 会 や 国 家 権 力 が 管 理 するか あ るいは 利 用 者 が 自 ら 管 理 しながら 利 用 することに より コモンズの 悲 劇 を 防 ぐことができる 7.アイデンティティー 重 視 の 参 加 型 開 発 管 理 近 代 社 会 において これらのローカル コモン ズを 持 続 的 に 利 用 管 理 するシステム すなわちコ ミュニティ 内 の 独 自 の 取 決 めや 運 営 組 織 といった 経 済 的 社 会 的 な 仕 組 みと それを 維 持 する 人 間 の 価 値 観 や 意 志 は 一 見 時 代 遅 れのもののように 見 える 確 かに 近 代 社 会 の 発 展 の 方 向 は ユニバ ーサルな 制 度 としての 市 場 原 理 に 基 づく 私 有 財 の 取 引 市 場 の 拡 大 発 展 と 近 代 的 民 主 主 義 にベース を 置 く 政 府 あるいは 専 門 技 術 集 団 による 公 共 財 の 創 出 と 管 理 という 公 と 私 の 分 業 システムの 高 度 化 であった それは より 効 率 的 な 経 済 活 動 が 他 を 凌 駕 していくという 市 場 経 済 の 仕 組 みの 中 で 公 共 財 の 創 出 と 管 理 についても 規 模 の 経 済 性 が 重 視 されたからである このため ローカル コモ ンズの 持 続 的 利 用 管 理 という 仕 組 みの 多 くは 結 局 効 率 性 の 観 点 からシステムの 変 更 を 余 儀 なくさ れ 効 率 的 に 発 展 した 私 有 財 の 市 場 経 済 に 呑 み 込 まれていくか 近 代 的 な 政 府 組 織 や 専 門 管 理 組 織 の 業 務 に 吸 収 されていったのである しかしこうした 近 代 的 なシステムの 最 大 の 弱 点 は ローカル コモンズの 持 続 的 利 用 管 理 にあ たり ほぼ 経 済 的 動 機 づけのみに 頼 らざるを 得 な いということである 世 界 的 な 経 済 の 低 迷 がネッ クとなり 灌 漑 投 資 は 今 世 紀 に 入 り 急 激 に 落 ち 込 んでいる 20 世 紀 における 農 産 物 国 際 市 場 をめぐ る 欧 米 の 競 争 が 経 営 規 模 の 拡 大 による 欧 米 農 業 の 価 格 競 争 力 の 向 上 と 同 時 に 農 産 物 市 場 価 格 の 低 迷 をもたらしたため 経 済 成 長 が 好 調 な 新 興 国 等 にとっても 灌 漑 投 資 は 魅 力 の 薄 いものになっ ていたのである では 人 間 が 自 らを 含 む 一 定 の 集 団 が 共 有 する 資 源 の 持 続 可 能 な 管 理 に 積 極 的 な 関 心 を 持 つのは どのような 時 であろうか? 人 間 は 他 の 動 物 のよ うに 本 能 だけに 導 かれて 群 れるのではなく 社 会 生 活 を 営 む 過 程 の 中 で 自 らが 形 成 した 社 会 の 一 員 であるというアイデンティティーを 肉 体 と 共 に 成 長 する 理 性 の 中 に 確 立 させていく 逆 に 人 は 何 らかの 理 由 でこのアイデンティティーの 確 立 がで きないとき 社 会 に 自 分 を 位 置 づける 理 性 の 力 を 失 う 理 性 の 力 なくしては 人 はその 社 会 の 一 員 としてローカル コモンズの 持 続 可 能 な 管 理 に 係 わる 意 義 を 見 失 う 水 は 個 人 の 財 産 でも 企 業 の 財 産 でもなく 大 気 陸 地 海 洋 を 循 環 するなかで 人 類 全 体 が 利 用 し 次 世 代 にも 受 け 継 ぐべき 共 有 財 である 個 人 や 企 業 はこうした 水 資 源 の 大 循 環 の 一 局 面 を 私 的 財 と して 利 用 している これからの 人 類 が 共 存 し 全 ての 生 物 と 共 生 していくためにも 地 球 の 水 資 源 をローカル コモンズと 捉 えて 世 界 の 人 々が 協 力 し 合 ってきめ 細 かく 開 発 利 用 していく 必 要 があ る これは 地 球 環 境 を 人 類 が 利 益 を 分 かち 合 う ために 営 む 共 同 事 業 の 場 と 考 えれば 様 々な 地 球 環 境 問 題 にもそのまま 適 用 できる 考 え 方 であろう その 中 で 重 要 なのは 制 度 的 な 仕 組 みを 作 ること と 共 に 個 の 利 益 を 優 先 しがちな 個 々 人 の 価 値 観 や 意 志 をどのようにコントロールするかである 日 本 を 含 むモンスーン アジアの 農 村 に 存 在 す る 水 田 水 利 システムは そこに 暮 らす 人 々が 共 有 する 資 源 の 持 続 可 能 な 管 理 に 積 極 的 に 係 わること で 世 代 を 超 えて 維 持 されてきたものである こ の 水 利 システムをはじめとする 農 村 に 存 在 する 水 土 里 資 源 は 人 々がその 農 村 の 一 員 であることを 7
自 覚 するアイデンティティーを 育 み 持 続 可 能 な 農 村 社 会 の 重 要 な 要 素 となっている また その 存 在 が 可 視 化 されていることによって 個 々 人 の 価 値 観 や 意 志 をコントロールし 人 と 人 との 絆 や 心 の 繋 がりの 重 要 性 を 思 い 起 こさせ その 結 果 と して 世 代 を 超 えて 維 持 管 理 されてきた 共 生 社 会 基 盤 であるとも 言 えよう この 農 村 における 可 視 化 された 水 土 里 資 源 あるいは 農 村 の 人 々を 繋 ぐ 水 土 里 の 共 生 社 会 基 盤 ともいうべきものに 相 当 する ものが 今 まさに 地 球 と 人 類 に 必 要 なのではない だろうか 参 考 文 献 1 Hardin, G(1968): The Tragedy of the Commons, Science, 162, pp.1243-1248. 2 Hawken, P., Lovins, Amory B. and Lovins, L. Hunter(1999): Natural Capitalism: The Next Industrial Revolution, Nature, 402(6757), p13. 3 宇 沢 弘 文 (1995): 地 球 温 暖 化 の 経 済 学, 岩 波 書 店,219pp. 4 Kazumi Yamaoka et.al (2008 ) Social capital accumulation through public policy systems implementing paddy irrigation and rural development projects, Paddy and Water Environment, 6(1), pp.115~128 5 山 岡 和 純, 小 山 修 (2012):フード&ウオータ ーセキュリティ 未 来 世 代 を 養 う 食 料 と 水 の 展 望, 地 球 環 境 データブック,ワールドウォ ッチジャパン,pp.147~213 (242p) 6 山 岡 和 純 (2012):サブサハラアフリカ 稲 作 水 管 理 研 究 の 意 義 および 現 状 と 課 題, 農 業 農 村 工 学 会 誌 水 土 の 知,80(8),pp.7-10 8