37 英 語 の 変 容 とアメリカ 英 語 およびその 他 の 地 域 の 英 語 English Varieties and American English Abstract 松 倉 信 幸 * Nobuyuki MATSUKURA The new cultural environments for the use of English have caused considerable changes: the advent of loan words and new expressions, changes of meanings, and so on. Languages are always changing their forms such pronunciations, words, and structures. These variations are to a large extent independent from the other ones because the use of English is individually affected by interference from the speakers mother tongues. We also should take into account regional varieties because each variation is connected with the educational and cultural backgrounds of the speakers. For example, we associate baseball and basketball with American English. On the other hand, people in India and Malaysia usually learn British English. Finally we must remember that the more English becomes a dominant global language, the more endangered languages will disappear from the earth. Keywords: English Varieties, American English, British English 1.はじめに 言 語 は 発 音 語 彙 そして 文 法 において 常 に 変 化 が 生 じる この 言 語 の 変 化 によって 生 じたものを 変 種 (Varieties)という 大 英 帝 国 が 世 界 の 覇 権 を 握 ったころより イギリス 英 語 によって 英 語 圏 が 拡 大 すると 共 に 英 語 の 変 種 (English Varieties)を 数 多 く 誕 生 させるに 至 っ た また ヨーロッパの 言 語 からだけではなく 大 英 帝 国 の 植 民 地 の 言 語 からも 英 語 は 多 くの 借 用 語 を 増 大 させた 英 語 が 世 界 語 あるいは 国 際 語 (International Language or World Language)と 呼 ばれる 所 以 はこれらの 点 からである 今 日 では 20 世 紀 におけるアメリカ 経 済 発 展 の 影 響 によるところも 大 きいが 国 際 社 会 に おいて 英 語 はイギリス アメリカ カナダ オーストラリア ニュージーランド 南 アフ リカ 共 和 国 インド パキスタン マレーシア シンガポール フィリピンそしてカリブ 海 諸 国 の 第 1 言 語 あるいは 公 用 語 等 で 用 いられており 加 えて 第 2 言 語 の 世 界 における 使 用 者 の 人 口 およびインターネット 情 報 のやり 取 りに 用 いる 英 語 の 圧 倒 的 な 優 位 性 によって 世 界 の 英 語 としての 様 相 を 呈 している 本 稿 ではイギリスを 発 端 にアメリカ そしてこれら 以 * 本 学 教 授 英 語 学 (English Linguistics)
38 鈴 鹿 国 際 大 学 紀 要 CAMPANA No.19,2012 外 の 地 域 にも 拡 大 し 変 容 していった 英 語 について 具 体 的 な 言 語 事 実 を 取 り 上 げ 考 察 を 行 う 2. 後 期 近 代 英 語 と 大 英 帝 国 の 繁 栄 1700 年 から 1900 年 までが 後 期 近 代 英 語 の 時 期 で それ 以 前 の 初 期 近 代 英 語 とを 区 別 する ブリテン 島 の 小 さな 島 国 イギリスは 17 世 紀 に 植 民 地 支 配 が 始 まり 19 世 紀 後 半 までに 世 界 の 覇 権 を 握 る 大 英 帝 国 を 打 ち 立 てた この 200 年 間 をローマ 帝 国 の 黄 金 期 パックス ロマー ナにならいパックス ブリタニカ(イギリスの 平 和 )と 呼 んだ 最 盛 期 には 文 字 通 り 世 界 の7つの 海 を 制 して アフリカではエジプトから 南 アフリカ アジアではインド マレーシ ア および 現 在 のミャンマー 北 米 ではカナダ 南 半 球 ではオーストラリアとニュージーラ ンド そして 太 平 洋 や 大 西 洋 の 島 々を 統 治 し 世 界 中 に 植 民 地 を 持 つ 日 の 沈 まない 帝 国 を 築 いた この 時 代 に 君 臨 したのがビクトリア 女 王 であり 大 英 帝 国 の 繁 栄 とはすなわちビクト リア 女 王 が 在 位 した 1837 年 から 1901 年 までの 期 間 といっても 過 言 ではない イングランドでは 15 世 紀 の 後 半 に 導 入 された 印 刷 術 が ロンドンで 用 いられていた 英 語 を 広 く 普 及 させたばかりか つづり 字 や 文 体 をも 定 着 させたり 文 体 の 統 一 を 図 る 上 で 貢 献 した また 正 しいつづりや 正 書 法 がほぼ 今 日 の 形 式 に 落 ち 着 いたが 正 しい 英 語 の 手 本 とな る 書 物 が 現 れた それがジョンソン(Samuel Johnson)とラウス(Robert Lowth)の 書 である 8 年 の 歳 月 を 費 やしてジョンソンは 1755 年 に A Dictionary of the English Language を 出 版 した 彼 の 独 断 と 偏 見 とも 思 われることばの 定 義 がことばの 面 白 さを 伝 え 共 感 を 与 えた その 有 名 な 記 述 が oat(カラス 麦 )の 定 義 である A grain, which in England is generally given to horses, but in Scotland supports the people. (イングランドではふだん 馬 に 与 えるが スコットランドでは 人 を 養 う 糧 である ) この 英 文 にはイギリス 人 のユーモアが 込 められていると 言 えよう 次 に1762 年 にラウスは A Short Introduction to English Grammar を 出 版 した 彼 は 正 しい 英 語 を 追 求 する 規 範 文 法 の 立 場 を 取 る 文 法 家 で 現 在 非 標 準 の 二 重 否 定 は 間 違 った 用 法 であると 指 摘 した その 後 マ レー(Lindley Murray)が 1795 年 に English Grammar, Adapted to the Different Classes of Learners: with an Appendix を 出 版 した この 文 法 書 はラテン 語 文 法 の 影 響 を 基 にして 書 かれたもので あるが 英 語 の9 品 詞 ( 名 詞 動 詞 形 容 詞 副 詞 接 続 詞 前 置 詞 代 名 詞 冠 詞 間 投 詞 )が 取 り 上 げられ 現 代 まで 影 響 を 及 ぼし 今 日 の 学 校 文 法 や 伝 統 文 法 の 規 則 は 多 くの 点 でマレーに 由 来 する
英 語 の 変 容 とアメリカ 英 語 およびその 他 の 地 域 の 英 語 39 3.イギリス 英 語 3.1. 標 準 イギリス 英 語 標 準 イギリス 英 語 の 代 表 は Received Pronunciation( 容 認 発 音 )と 呼 ばれ 略 して RP と 言 う イギリスは4つの 地 域 から 成 立 しているため 標 準 イギリス 英 語 には RP に 加 えて ス コットランド 英 語 ウェールズ 英 語 北 アイルランド 英 語 がある RP はロンドンを 中 心 と したイングランド 南 部 で パブリックスクールおよび 大 学 程 度 の 教 育 を 受 けた 人 が 用 いる 発 音 である イギリスでは 学 歴 や 職 業 によって 話 す 英 語 が 違 うことで 知 られているが この RP は 地 域 なまりを 持 つ 人 たちの 感 情 を 刺 激 することが 最 も 少 ない 発 音 であるという 理 由 か ら BBC( 英 国 放 送 協 会 )のアナウンサーによって 話 される 英 語 で 知 られている また 英 国 王 室 英 国 国 教 会 議 会 そして 法 曹 界 において 用 いられる しかし 実 際 には 人 口 の 約 3%にも 満 たない 人 々しか 話 さない 英 語 である 具 体 的 には bird や teacher の[r]が 階 級 が 高 い 人 ほど 発 音 されず それとは 反 対 に 階 級 の 低 い 人 ほど 発 音 される また [h] 音 も 階 級 の 低 い 人 ほど 発 音 しない 特 徴 がある 3.2.コックニーの 英 語 コックニー(Cockney)は cock s egg( 雄 鶏 の 卵 )に 由 来 する 意 気 地 無 し, あまえっこ とい う 意 味 があり ロンドンの 下 町 イーストエンドの 一 角 チープサイド(Cheapside)にあるボウ 教 会 (St. Mary-le-Bow)の 鐘 の 音 が 聞 こえる 地 域 に 育 った 人 々が 用 いる 英 語 を 言 う 実 際 にはこ のイーストエンド 地 区 に 住 む 労 働 者 階 級 の 人 々が 話 す 英 語 である このコックニーの 英 語 を 矯 正 する 映 画 でよく 知 られるバーナード ショウの 戯 曲 ピグマリオン が 原 作 とされる マ イフェアー レディー では 青 物 市 場 の 花 売 り 娘 イライザのひどいコックニーなまりを 聞 いた 言 語 学 者 のヒギンズ 教 授 が 彼 女 のコックニーを 見 事 矯 正 したことで 知 られる ヒギンズ 教 授 が 矯 正 のため 用 いた 英 文 が 下 記 (1)と(2)の 例 で コックニーの 音 声 の 特 徴 をよく 示 している これらコックニーの 特 徴 は 下 記 の(1)~(4)に 分 類 される (1) 母 音 [ei]が[ai]に 変 化 name, take, wait, face, price など The rain in Spain stays mainly in the plain.(スペインの 雨 は 主 にスペインの 平 野 に 降 る マイフェアー レディー より) (2) 子 音 [h]の 脱 落 hit, have, hear,など In Hertford, Hereford and Hampshire hurricanes hardly ever happen.(ハートフォード ヘ ルホード ハンプシャーでは 台 風 はほとんど 来 ない マイフェアー レディー より) (3) 子 音 [l]が 子 音 の 前 や 語 末 で 母 音 化 あるいは 半 母 音 化 milk, middle, able など
40 鈴 鹿 国 際 大 学 紀 要 CAMPANA No.19,2012 (4) 子 音 [θ],[ ð]が[f],[v]に 変 化 ( 有 声 音 )this, father, ( 無 声 音 )think, three など 4.アメリカ 英 語 4.1.アメリカ 英 語 の 起 源 イギリスからアメリカ 大 陸 に 移 った 最 初 の 移 民 は 1607 年 にヴァージニア 州 ジェームズタ ウン 周 辺 に 約 100 人 で 植 民 地 を 建 設 した 歴 史 的 には 1620 年 にメイフラワー 号 でイング ランドのプリマスから マサチューセッツ 州 プリマスに 11 月 21 日 に 到 着 して 植 民 地 を 建 設 したピューリタン( 新 教 徒 )の 一 団 が 有 名 である この 一 行 は 総 勢 約 100 名 であったが こ の 中 には 宗 教 上 の 迫 害 を 逃 れてやって 来 た35 名 のピューリタンが 中 心 になった その 後 移 民 はこの 北 東 部 からしだいに 中 部 に 拡 大 して 1682 年 にウイリアム ペンをはじめとす るクエーカー 教 徒 の 一 団 によって アメリカ 中 部 大 西 洋 沿 岸 地 方 にも 植 民 が 始 まった 当 初 の 移 民 はニューイングランドと 呼 ばれる 北 東 部 沿 岸 地 域 に 集 中 していたが 後 にこの 地 域 は 独 立 当 初 の 13 州 になったところで 北 東 のメイン 州 から 南 西 のジョージア 州 まで 細 長 くの びている このニューイングランドの 由 来 は 南 部 の 開 拓 者 として 知 られるスミス 隊 長 が 1614 年 にヴァージニア 以 北 の 土 地 を 探 検 して 名 付 けたものである 当 時 アメリカに 渡 った 植 民 者 たちはシェークスピア(1564-1616)が 話 していた 17 世 紀 の イギリス 英 語 を 用 いていた 新 大 陸 にやって 来 た 人 々はこれまで 本 国 で 見 たこともないもの に ネイティブ アメリカンが 用 いていたことばを 借 用 するなどして アメリカ 英 語 の 語 彙 を 増 やしていった アメリカ 英 語 の 方 言 は 移 民 が 入 植 した 地 域 とその 後 の 移 動 に 関 係 すると ころが 大 きい マサチューセッツ 湾 周 辺 の 東 部 (Eastern) ペンシルヴァニア 州 から 西 部 の 太 平 洋 岸 に 至 る 広 大 な 中 西 部 (Middle Western) そしてヴァージニア 州 からテキサス 州 東 部 に 至 る 南 部 (Southern)の3つの 方 言 に 分 けられる この 中 で 最 も 広 大 な 地 域 で 用 いられてい る 中 西 部 のアメリカ 英 語 が 一 般 アメリカ 英 語 (General American) すなわち GA と 呼 ばれてい る 移 民 はこの 北 東 部 からしだいに 南 部 そして 中 西 部 に 拡 大 して 行 った アメリカ 英 語 は 国 土 面 積 が 広 大 な 割 には 方 言 における 地 域 差 や 社 会 的 差 異 はイギリス 英 語 と 比 べて 大 きくな い 4.2.アメリカ 英 語 と 辞 書 ピカリング(John Pickering)が 1816 年 にアメリカ 英 語 の 最 初 の 辞 書 として 語 彙 集 を 出 版 し た 竹 林 滋 他 (1993:103)によると ピカリングはアメリカの 言 葉 がイギリスの 標 準 から 離 れることを 堕 落 ととらえ その 浄 化 のために 問 題 とすべきアメリカ 語 法 を 摘 出 したと 述 べて いる このことから 当 時 はまだ アメリカ 英 語 は 確 立 されておらず イギリス 英 語 のいわ ば 一 方 言 と 考 えられていた
英 語 の 変 容 とアメリカ 英 語 およびその 他 の 地 域 の 英 語 41 アメリカがイギリスから 独 立 した 頃 はまだ 違 いがなかったが アメリカ 独 立 戦 争 の 指 導 者 フランクリンがイギリス 英 語 のつづりをきらい アメリカ 英 語 のつづりを 提 案 したとされる 彼 のアイディアがウェブスター(Noah Webster)に 影 響 を 与 えることになり 愛 国 的 な 立 場 か らアメリカ 人 はアメリカ 英 語 を 学 ぶべきだと 考 え つづり 発 音 そして 文 法 などをまとめ た A Grammatical Institute of the English Language を 出 版 した さらに 彼 は 当 時 のアメ リカでは 地 域 によって 発 音 やつづりが 異 なるため アメリカ 全 体 で 統 一 する 必 要 を 感 じて つづりの 改 良 を 行 ない 1828 年 に An American Dictionary of the English Language を 出 版 した 具 体 的 には イギリスでは colour, honour, traveller とつづられるものが それぞ れ color, honor, traveler となり 現 在 のアメリカ 式 つづりが 確 立 された ウェブスターは そ の 後 のアメリカにおけるつづり 字 法 や 辞 書 編 集 に 大 きな 影 響 を 与 えた 彼 の 改 革 は 新 奇 をて らったものではなく 可 能 な 限 り 語 源 に 正 しく 類 推 し 易 いつづり 字 を 意 図 したものであっ た 4.3.アメリカの 英 語 公 用 語 化 英 語 はアメリカの 公 用 語 ではないが 現 在 アメリカ 英 語 が 事 実 上 世 界 の 共 通 語 になってい る 1980 年 代 に 公 用 語 化 論 争 が 起 きたが この 公 用 語 化 論 争 はノア ウェブスターにまで 遡 ることができる 彼 は 当 時 英 語 をアメリカの 国 語 にすることを 主 張 した また 19 世 紀 末 に は 大 量 の 移 民 が 流 入 し 彼 らの 言 語 や 文 化 の 影 響 を 危 惧 して ルーズベルト 大 統 領 (Theodore Roosevelt)は 移 民 の 国 アメリカを 束 ねるのは one flag, one language であると 述 べた この 後 1963 年 アメリカの 公 立 学 校 で 初 めて 二 カ 国 語 教 育 プログラムを 実 施 したのはデイド カ ウンティであった スペイン 語 が 実 質 上 第 二 公 用 語 に 位 置 づけられ 二 つの 言 語 と 二 つの 文 化 が 共 存 し 発 展 してきた 4.4.アメリカ 英 語 の 特 徴 イギリス 英 語 とアメリカ 英 語 の 顕 著 な 違 いは 発 音 に 見 られる RP と 呼 ばれる 標 準 のイギ リス 発 音 では card や lord の 母 音 の 後 の[r]は 発 音 されないが 広 大 な 中 西 部 地 域 のGA( 一 般 アメリカ 英 語 )ではこの[r]を 発 音 するのが 普 通 である この 母 音 の 後 の[r]の 脱 落 は 17 世 紀 にイングランド 南 東 部 において 生 じたが これとは 反 対 に GA において [r]を 保 った 発 音 がアメリカ 全 土 に 広 まった 発 音 の 違 いは 特 に 母 音 に 見 られる イギリス 英 語 の[ɑː]が[æ]になる 例 と 同 様 に[ɔ]が アメリカ 英 語 では[ɑ]になる 例 が 見 られる (1)イギリス 英 語 の[ɑː]がアメリカ 英 語 では[æ]になる ask, fast, after, pass, laugh など
42 鈴 鹿 国 際 大 学 紀 要 CAMPANA No.19,2012 (2)イギリス 英 語 の[ɔ]がアメリカ 英 語 では[ɑ]になる hot, god, college, doll, not など つづりはアメリカ 英 語 はイギリス 英 語 に 比 べて 出 来 るだけ 発 音 通 りに 表 記 するが 下 記 (4)のアクセントのない 語 尾 や(5)の 余 分 な 文 字 を 省 くことが 特 徴 である また 下 記 の(1)のように 発 音 につづりが 近 い 傾 向 が 強 い (1) 語 尾 -re から er ( 英 )centre, fibre, metre ( 米 )center, fiber, meter (2) 語 尾 -our から or ( 英 )colour, honour, labour ( 米 )color, honor, labor (3) 二 重 子 音 字 から 単 独 子 音 字 ( 英 )waggon, traveller, faggot ( 米 )wagon, traveler, fagot (4) アクセントのない 語 尾 を 省 略 ( 英 )catalogue, envelope, toilette( 米 )catalog, envelop, toilet (5) 余 分 な e を 省 略 ( 英 )axe, annexe, asphalte, ( 米 )ax, annex, asphalt (6) s から z ( 英 )recognise, industrialisation ( 米 )recognize, industrialization (7) x から ct ( 英 )connexion, inflexion ( 米 )connection, inflection 語 彙 におけるアメリカ 英 語 とイギリス 英 語 の 違 いは 興 味 深 い 点 が 多 く 見 られる 特 徴 的 な ものには (1) 同 一 の 語 で 異 なった 意 味 を 表 す (2)それぞれ 異 なった 語 を 用 いる (3) 交 通 輸 送 を 表 す 語 で 異 なった 語 を 用 いる これらの 中 で (4)の 交 通 輸 送 を 表 す 語 がアメリカ 英 語 とイギリス 英 語 の 差 異 を 最 も 際 立 てている 点 である (1) 同 一 語 でそれぞれ 異 なった 意 味 を 表 す corn ( 英 ) 小 麦 ( 米 )とうもろこし pants ( 英 )パンツ ( 米 )ズボン dresser ( 英 ) 食 器 棚 ( 米 ) 化 粧 台 pavement ( 英 ) 舗 装 道 路 ( 米 ) 歩 道 (2) 同 一 の 意 味 を 表 すのにそれぞれ 異 なった 語 を 用 いる ( 英 )apartment( 米 )flat ( 英 )cinema ( 米 ) movie
英 語 の 変 容 とアメリカ 英 語 およびその 他 の 地 域 の 英 語 43 ( 英 )graduate ( 米 )alumnus ( 英 )petrol ( 米 )gas ( 英 )lift ( 米 )elevator ( 英 )luggage ( 米 )baggage (3) 運 輸 交 通 を 表 す 語 で 異 なった 語 を 用 いる ( 英 )underground( 米 )subway ( 英 )railroad ( 米 )railway ( 英 )truck ( 米 )lorry ( 英 )hood ( 米 )bonnet ( 英 )airways ( 米 )airlines ( 英 )motorway ( 米 )expressway (4) イギリスでは 既 に 使 われなくなった 過 去 分 詞 がアメリカではまだ 使 用 されたり 両 方 の 過 去 分 詞 が 併 用 されたりする ( 英 )get, got, got ( 米 )get, got, gotten ( 英 )prove, proved, proved ( 米 )prove, proved, proved ( 英 )strike, struck, struck ( 米 )strike, struck, stricken ( 英 )smell, smelt, smelt ( 米 )smell, smelled, smelled (5) イギリス 英 語 では 助 動 詞 として 使 われる should がアメリカ 英 語 では 省 略 されるが have, need, ought などは 本 動 詞 として 使 用 する ( 英 )I demanded that he should apologise. ( 英 では-ise) ( 米 )I demanded that he apologize. ( 英 ) He hasn t any sisters. ( 米 )He doesn t have any sisters. ( 英 )You needn t help him. ( 米 )You don t need to help him. 4.5.アメリカ 英 語 の 借 用 語 アメリカ 英 語 とイギリス 英 語 の 違 いは 文 法 の 面 ではそれほど 違 いは 大 きくないものの 発 音 と 語 彙 の 面 では 大 きく 異 なっており 特 に 様 々な 言 語 からの 借 用 語 が 豊 富 である (インディオの 言 語 から)moose, raccoon, hickory, sequoia, tomahawk (スペイン 語 から) cafeteria, canyon, mosquito, mustang, plaza (アフリカの 言 語 から) banjo, jazz, jumbo, okra, zombie (オランダ 語 から) cookie, waffle, sleigh, boss, patron (ドイツ 語 から) noodle, hamburger, frankfurter, delicatessen
44 鈴 鹿 国 際 大 学 紀 要 CAMPANA No.19,2012 4.6. 黒 人 英 語 安 く 安 定 した 労 働 力 として 黒 人 は 三 角 貿 易 と 呼 ばれる 奴 隷 貿 易 によって 数 多 くの 黒 人 がアフリカから 運 ばれてきた アフリカで 安 い 工 業 製 品 と 交 換 され 奴 隷 船 で 新 大 陸 に 運 ば れ 現 地 の 原 材 料 を 安 く 入 手 して 持 ち 帰 るのが 三 角 貿 易 であった 19 世 紀 末 まではアメリ カの 黒 人 の 90%が 南 部 に 居 住 していたが 20 世 紀 には 北 部 中 部 西 部 に 移 住 して 行 った 黒 人 英 語 の 特 徴 はまず 母 音 に 見 られ mine や toy の 母 音 [ai]と[ɔi]がそれぞれ[aː]と[ɔː] と 発 音 される また 鼻 音 の 前 では[ɪ]と[ɜ]の 区 別 がなくなり pin と pen は 同 じ 発 音 になる 次 に 動 詞 の 時 制 について 石 黒 編 (1992:63)によると 主 語 の 人 称 にかかわらず be 動 詞 は 現 在 形 には is が 用 いられ 過 去 形 には was が 用 いられる もう 一 方 で 規 則 変 化 の 動 詞 の 場 合 には 現 在 形 および 過 去 形 は 原 形 と 同 じになり 不 規 則 変 化 動 詞 の 過 去 形 は 通 常 過 去 分 詞 形 が 用 いられる (1) 現 在 形 He live in Detroit now. (=He lives in Detroit now.) Is they sick? (=Are they sick?) ( 石 黒 :1992:63) (2) 過 去 形 He live in Detroit last year. (=He lived in Detroit last year.) I drunk too much yesterday. (=I drank too much yesterday) They was acting up and going on. (=They were acting up and going on.) (ibid.) 4.7.イギリス 英 語 のアメリカ 英 語 化 イギリス 英 語 においても アメリカ 英 語 の 影 響 を 色 濃 く 受 けて 表 現 される 下 記 (1)のlike お よび(2)のhaveの 疑 問 文 にdoを 用 いる 例 が 見 られる これらの 例 からもイギリスにおいて ア メリカ 英 語 の 影 響 が 及 んでいることを 示 している (1) I feel like I m getting a cold. (Older British form: I feel as if I m getting a cold.) Swan 295 (2) Do you have today's newspaper? (Older British form: Have you (got) today's newspaper?) (ibid.) 5.その 他 の 地 域 の 英 語 5.1.カナダの 英 語 カナダ 英 語 は 18 世 紀 後 半 のイギリス アイルランド スコットランドで 話 されていたも のが 19 世 紀 初 頭 に 移 住 した 人 々によってもたらされた アメリカ 独 立 戦 争 当 時 アメリカ
英 語 の 変 容 とアメリカ 英 語 およびその 他 の 地 域 の 英 語 45 にはカナダの 独 立 を 推 進 する 愛 国 派 と イギリスに 忠 誠 を 誓 う 王 党 派 がいたが 愛 国 派 から 身 を 守 るため 約 4 万 人 もの 王 党 派 が 現 在 のオンタリオ 州 に 定 住 した この 王 党 派 が 話 す 英 語 が 標 準 カナダ 英 語 (General Canadian)になった カナダ 英 語 の 特 徴 は 石 黒 編 (1992:76-77)によると room や roof の 母 音 が RP では[uː]と 長 母 音 で 発 音 されるのに 対 して [u]と 短 母 音 になる また house や shout の 二 重 母 音 の[au] が[əu]になり 同 様 に life や type の 二 重 母 音 の[ai]は[əi]と 発 音 される 次 にカナダに 移 住 した 人 々は 自 分 たちの 知 らないものに 現 地 固 有 の 名 を 付 けた 例 えば McIntosh(りんご の 一 種 ), crocus(アネモネ), insulin(インシュリン), ski-doo( 雪 上 スクーター), lacrosse(ラ クロス)などの 例 がある しかし 統 語 上 のカナダ 英 語 の 顕 著 な 英 米 語 との 差 異 は 下 記 の 間 投 詞 eh の 例 の 他 はほとんど 見 られない Look at that, eh? Call me John, eh? 5.2.オーストラリア 英 語 オーストラリアの 国 名 はラテン 語 の terra australis incognita( 未 知 の 南 方 大 陸 )に 由 来 する 1770 年 ジェームズ クック(Captain James Cook)による シドニーのボタニー 湾 上 陸 に 始 ま る その 後 ロンドンの 刑 務 所 が 過 密 状 態 になり 収 容 し 切 れなくなった 軽 犯 罪 者 のための 流 刑 地 として 1778 年 から 1840 年 まで 強 制 移 民 が 続 いた オーストラリア 英 語 には Cultivated( 教 養 のある), General( 標 準 の), そして Broad(なま りの 強 い)オーストラリア 英 語 という3つの 社 会 方 言 がある 発 音 はイギリス 英 語 の RP や 特 にコックニーの 影 響 を 受 けており つづりや 文 法 はイギリス 英 語 が 用 いられている (1) 二 重 母 音 の[ei]は[ai]と 発 音 される take, eight, mate, today (2)RPと 同 じように 語 末 のrや 語 中 の 子 音 の 前 のrは 発 音 しない art, teacher (3) 語 頭 のhが 脱 落 することがある hat, habit 語 彙 には(5)のオーストラリア 現 住 民 のアボリジニーの 言 語 からの 借 入 による 場 合 と (6)の 既 存 の 語 彙 の 拡 張 的 な 使 用 の 場 合 が 見 られる (5)boomerang(ブーメラン), koala(コアラ), kangaroo(カンガルー), dingo(ディンゴ), wallaby(ワラビー), wombat(ウォンバット) (6)outback( 未 開 拓 の 奥 地 ), backblocks( 奥 地 ), swagman( 浮 浪 者 ), stockman( 牧 童 ), spinney( 藪 )
46 鈴 鹿 国 際 大 学 紀 要 CAMPANA No.19,2012 5.3.ニュージーランド 英 語 ニュージーランドの 国 名 はオランダの 地 方 名 Nieuw Zeeland(New Zealand)に 由 来 する ジ ェームズ クックがオーストラリアにやって 来 る1 年 前 の 1769 年 にニュージーランドに 上 陸 した ニュージーランドはオーストラリアと 異 なり 当 初 から 自 由 入 植 者 が 作 りあげた 植 民 地 であったため オーストラリアに 見 られるような 顕 著 な 社 会 的 方 言 はないものの 語 彙 において オーストラリア 英 語 と 意 味 が 同 じものが 多 いが 異 なるものも 見 られる また ニ ュージーランドの 英 語 の 語 彙 にはマオリ 語 からの 借 用 語 が 多 く 見 られるのが 特 徴 である hongi( 鼻 を 互 いに 押 し 付 けあう 挨 拶 ) iwi( 人 々 部 族 ) marae( 集 会 場 ) mauri( 命 生 きる 力 ) waka(カヌー) whare( 家 ) 5.4. 南 アフリカの 英 語 18 世 紀 以 降 オランダ フランス イギリスの 領 土 をめぐる 争 奪 の 後 1910 年 にイギリ スはオランダの 植 民 地 をも 併 合 して 南 アフリカが 誕 生 した 南 アフリカの 英 語 はイギリス 英 語 とほとんど 変 わりはないが 発 音 には 興 味 深 い 例 が 見 られる 八 木 克 正 (2007)によると 発 音 における 最 も 顕 著 な 特 徴 は kit, foot, lot などの 短 母 音 と fleece, goose, thought の 長 母 音 の 区 別 がなく すべて 短 母 音 化 される 6. おわりに ブリテン 島 の 小 さな 島 国 イギリスで 17 世 紀 に 植 民 地 支 配 が 始 まり 19 世 紀 後 半 まで 世 界 の 覇 権 を 握 る 大 英 帝 国 を 打 ち 立 てた この 時 期 世 界 に 英 語 圏 が 拡 大 するとともに 英 語 の 変 種 を 数 多 く 誕 生 させた 英 語 はヨーロッパの 言 語 からだけではなく 大 英 帝 国 の 植 民 地 を 始 め 多 くの 言 語 から 借 用 語 を 増 大 させた この 拡 大 によって 今 日 のイギリス 英 語 とアメ リカ 英 語 そしてオーストラリア 英 語 がそれぞれ 異 なる 要 因 になった また 英 語 がグロー バルな 言 語 として 拡 大 を 続 ける 一 方 で 少 数 民 族 が 用 いるいわゆる 危 機 言 語 が 地 上 より 消 滅 することが 懸 念 される 本 稿 では イギリス 英 語 に 端 を 発 して イギリス 英 語 とアメリカ 英 語 の 違 いから さらに 南 半 球 に 拡 大 した 英 語 とその 変 種 について その 都 度 言 語 事 実 を 示 し 説 明 を 加 えた 英 語 は 現 在 上 記 以 外 の 国 や 地 域 では ESL( 第 二 言 語 としての 英 語 :English as a Second Language) および EFL( 外 国 語 としての 英 語 :English as a Foreign Language)として 用 いら れ 現 地 の 言 語 の 影 響 を 受 けながら 英 語 には 今 後 さらなる 変 容 が 予 想 される 参 考 文 献 Crystal, David (1998) English As A Global Language, Cambridge University Press. Crystal, David (2004) Language Revolution, Cambridge University Press.
英 語 の 変 容 とアメリカ 英 語 およびその 他 の 地 域 の 英 語 47 David, Graddol (1997) The Future of English? 山 岸 勝 榮 訳 (1999) 英 語 の 未 来 研 究 社. 石 黒 昭 博 編 (1992) 世 界 の 英 語 小 事 典 研 究 社 出 版. 鈴 木 雅 光 (2009) 危 機 言 語 dialogos 東 洋 大 学 文 学 部 紀 要 第 62 集 英 語 コミュニケーション 学 科 篇 第 9 号. Swan, Michael (2005) Practical English Usage (3 rd Edition), Oxford University Press. 竹 林 滋 東 信 行 高 橋 潔 高 橋 作 太 郎 (1988) アメリカ 英 語 概 説 大 修 館 書 店. 竹 下 裕 子 石 川 卓 編 (2004) 世 界 は 英 語 をどう 使 っているか< 日 本 人 の 英 語 >を 考 えるために 新 曜 社. 若 田 部 博 哉 (1985) 英 語 学 体 系 10-2 英 語 史 ⅢB( 米 語 史 ) 大 修 館 書 店. 八 木 克 正 (2007) 新 英 語 学 概 論 英 宝 社. 八 田 洋 子 (2001) 世 界 における 英 語 の 位 置 文 学 部 紀 要 文 教 大 学 文 学 部 第 14 2 号.
48 鈴 鹿 国 際 大 学 紀 要 CAMPANA No.19,2012