1 え 技 術 紹 介 5 レゾルバーデジタル(R/D)コンバータの 開 発 Development of Resolver-Digital (R/D) Converter 中 里 憲 一 Kenichi Nakazato 航 機 事 業 部 第 一 技 術 部 主 任 渡 邊 真 之 Masayuki Watanabe 航 機 事 業 部 第 一 技 術 部 主 任 西 村 央 志 Hisashi Nishimura 航 機 事 業 部 第 二 技 術 部 キーワード: レゾルバ ディジタル 集 積 回 路 ASIC ハイブリッド 車 電 気 自 動 車 Keywords: Resolver, Digital, Integrated circuits, ASIC, Hybrid car, Electric car 要 旨 レゾルバの 出 力 は レゾルバに 供 給 する 搬 送 波 をレゾルバ 回 転 子 角 度 の 正 弦 波 および 余 弦 波 で 変 調 された 形 をしており 出 力 が 角 度 を 直 接 示 す 一 般 の 角 度 センサとは 異 なり 角 度 を 得 る ための 処 理 を 必 要 とします レゾルバ-デジタル(R/D)コンバー タは そのレゾルバの 出 力 信 号 をデジタルの 角 度 データに 変 換 処 理 する 機 能 を 有 しています このため レゾルバとレゾルバ- デジタル(R/D)コンバータを 組 み 合 わせることにより デジタル 角 度 センサとしての 役 割 を 果 たすことができるようになります レ ゾルバは その 耐 環 境 性 からモータの 角 度 センサとしての 使 用 が 今 後 とも 期 待 されており 今 般 そのレゾルバ 出 力 の 処 理 用 と して 先 に 述 べた 角 度 変 換 機 能 に 加 えて アプリケーション 側 の 利 便 性 及 び 自 己 異 常 検 出 機 能 の 充 実 により 信 頼 性 を 高 めた レゾルバ-デジタル(R/D)コンバータを 開 発 しました SUMMARY The resolver's output has shape that the signal carrier supplied to the resolver is modulated by the sine wave and the cosine wave of the angle of the resolver rotator, and needs the processing to obtain the angle unlike a general angle sensor by which the output shows the angle directly. Resolver-Digital (R/D) converter has a function to convert the output signal of the resolver to a digital angle data. Therefore, they come to be able to play the role as the digital angle sensor by combining the resolver and the resolver-digital (R/D) converter. While use as the angle sensor of the motor is expected from the resistance to environment of the resolver in the future, resolver-digital (R/D) converter for processing of the resolver output was developed this time that improved reliability by convenience on application side and enhancing self-anomaly detection function in addition to angle conversion function described above.
2 1. まえがき 自 動 車 業 界 では 環 境 性 能 向 上 の 観 点 から ハイブリッド 車 電 気 自 動 車 燃 料 電 池 車 等 の 開 発 が 進 められ これにより 効 率 の 高 い IPM(Interior Permanent Magnet: 磁 石 埋 め 込 み 型 )モータの 需 要 が 増 加 しています IPM モータは 回 転 子 の 角 度 に 応 じてきめ 細 かく 電 流 を 制 御 することで 高 い 効 率 を 引 き 出 すことができるモータであるため モータの 需 要 の 増 加 につれて モータの 回 転 角 を 検 出 するための 回 転 角 センサの 需 要 も 増 加 しています 特 に 動 力 系 のモータなど 厳 しい 環 境 で 使 用 される 回 転 角 センサには 高 い 耐 環 境 性 能 を 持 つレゾルバが 用 いられています 当 社 では 可 変 リラクタンス 型 レゾルバを 開 発 していますが レゾルバの 出 力 信 号 からレ ゾルバの 角 度 を 高 精 度 に 検 出 するためには レゾルバ-デジタル(R/D)コンバータを 必 要 とします そこで レゾルバ 出 力 信 号 からレゾルバ 角 度 を 演 算 してデジタル 信 号 として 出 力 する 基 本 機 能 に 加 え モータ 制 御 用 マイクロコンピュータとの 親 和 性 やレゾルバを 含 めた 異 常 を 検 出 する 機 能 を 供 えた レゾルバ-デジタル(R/D)コンバータを 開 発 しました
3 2. レゾルバーデジタル(R/D)コンバータ 2.1 角 度 検 出 原 理 レゾルバは 励 磁 信 号 を 入 力 することにより 回 転 子 の 角 度 に 応 じて 検 出 コイル 1 およ び 検 出 コイル 2 から それぞれsinθ およびcosθに 依 存 した 2 つの 信 号 を 出 力 します( 図 1 図 2) レゾルバの 回 転 角 は この 2 つの 信 号 のアークタンジェントをとることで 算 出 することがで きます ところが アークタンジェントには±90 に 不 連 続 点 があり 連 続 的 に 回 転 角 を 得 る ことが 出 来 ません 1 Ωt=θ: 回 転 子 の 回 転 角 2 図 1 レゾルバ 概 念 図 励 磁 電 圧 V1 V Ex V1 Ωt Ωt sinθ V2 V2 Ωt cosθ 図 2 レゾルバ 波 形
4 そこで 回 転 角 の 検 出 にはトラッキングループを 採 用 しました トラッキングループの 構 成 を 図 3に 示 します 検 出 コイル 1 + A 同 期 検 波 B 制 御 器 角 度 出 力 φ 検 出 コイル 2 - cos table sin table 同 期 クロック 図 3 トラッキングループ 構 成 図 レゾルバ 回 転 子 の 回 転 角 をθ 励 磁 コイルに 供 給 する 励 磁 信 号 を sinωt とすると 検 出 コイル 1 検 出 コイル 2 の 信 号 はそれぞれ 検 出 コイル 1: sin θ sinωt 検 出 コイル 2: cos θ sinωt となります この 信 号 をトラッキングループに 入 力 すると 図 3-A 点 での 信 号 は ( sinθ cosφ cosθ sinφ) sinωt = sin( θ φ) sinωt となり さらに 励 磁 信 号 から 生 成 する 同 期 クロックにて 同 期 検 波 をすることで 図 3-B 点 での 信 号 は 振 幅 が sin( θ φ) に 依 存 した 信 号 となります トラッキングループは B 点 の 信 号 が 0 となるように 動 作 するため 結 果 としてθ = φ となり トラッキングループ 出 力 よりレゾルバ 回 転 子 の 角 度 を 検 出 することが 出 来 ます この 方 式 では 全 周 において 不 連 続 点 がないため 連 続 的 な 角 度 出 力 が 可 能 となりま す
5 2.2 特 徴 今 回 開 発 したR/Dコンバータは 大 きく 4 つのブロックより 構 成 されています( 図 5) それ ぞれのブロックの 特 長 を 以 下 に 記 します 1 角 度 演 算 部 角 度 演 算 には トラッキングループを 採 用 しています トラッキングループの 帯 域 は 600Hz/1.8kHz の 2 種 類 の 切 り 替 えが 可 能 です 角 度 分 解 能 は 12bit 最 大 トラッキングレ ートは 4000rps です 角 度 演 算 時 間 ( 出 力 遅 れ 時 間 )は 1.6μs±0.5μs としています 出 力 遅 れがあると レゾ ルバ 回 転 時 に 角 度 誤 差 が 生 じます ただ この 角 度 誤 差 は 出 力 遅 れ 時 間 が 一 定 であれば レゾルバの 角 速 度 に 比 例 した 量 となり 補 正 することが 出 来 ます そこで 出 力 遅 れ 時 間 の 変 動 量 に 規 定 を 設 け(±0.5μs) 変 動 量 が 小 さくなるように 考 慮 した 設 計 をしています また 励 磁 信 号 とレゾルバ 出 力 信 号 の 位 相 は ±45 までずれていても 自 動 で 補 正 しま す 2 異 常 検 出 部 下 記 の 異 常 を 検 出 する 機 能 を 実 装 しています 検 出 コイル 地 絡 検 出 コイル 断 線 検 出 信 号 振 幅 異 常 励 磁 信 号 異 常 クロック 異 常 トラッキングループ 異 常 これらにより R/D コンバータの 異 常 だけでなく レゾルバの 異 常 およびレゾルバと R/D コ ンバータ 間 の 配 線 の 異 常 まで 検 出 することができます 3 励 磁 信 号 生 成 部 10kHz および 20kHz の 正 弦 波 を 出 力 します 4 入 出 力 I/F 部 設 定 により パラレルモードと シリアルモードを 選 択 できます パラレルモード パラレル 信 号 と ABZ 信 号 *1 またはUVW 信 号 *2 のどちらか 一 方 を 同 時 に 出 力 します シリアルモード シリアル 信 号 (2 系 統 ) ABZ 信 号 UVW 信 号 の 全 ての 信 号 を 同 時 に 出 力 します シリ アル 信 号 は 独 立 したシリアル 通 信 I/F を 2 系 統 実 装 していますので 一 方 を 角 度 出 力 に もう 一 方 を 角 速 度 およびステータス 出 力 に 設 定 することで 角 度 角 速 度 およびステ ータス( 異 常 状 態 モニタ)を 同 時 に 出 力 することが 可 能 です さらに モード 切 り 替 えも シリアル 通 信 I/F から 入 力 して 設 定 することができます
6 ABZ 信 号 には A 相 信 号 とB 相 信 号 のエッジ 間 の 最 小 時 間 を 規 定 する( 図 4) 回 路 を 実 装 しています 例 えばR/Dコンバータが 出 力 するAB 相 信 号 を モータ 制 御 用 マイクロコンピュ ータに 内 蔵 されたカウンタで 読 み 取 る 場 合 通 常 AB 相 カウンタにはA 相 信 号 とB 相 信 号 のエ ッジ 間 の 最 小 時 間 が 規 定 されています A 相 信 号 とB 相 信 号 のエッジ 間 隔 が ここで 規 定 さ れている 時 間 よりも 短 い 場 合 AB 相 カウンタは 誤 動 作 します 今 回 開 発 しました R/D コンバータでは A 相 信 号 と B 相 信 号 の 最 小 エッジ 間 隔 を 規 定 して いますので これを 満 足 できる AB 相 カウンタを 選 定 すれば カウンタでの 誤 動 作 を 防 ぐこと ができます また AB 相 出 力 信 号 の 角 度 分 解 能 を 11bit とする 替 わりに エッジ 間 最 小 時 間 を 2 倍 に するモードも 実 装 しています A 相 B 相 t1 t2 t3 1LSB θ 増 加 θ 減 少 ABZ 分 解 能 t1 t2 t3 4096edge/rev ( 角 度 分 解 能 40ns min 40ns min 90ns min 12bit) 2048edge/rev ( 角 度 分 解 能 80ns min 80ns min 180ns min 11bit) 図 4 ABZ 相 信 号 の AC 特 性
7 5その 他 特 長 アナログ 入 力 部 レゾルバ 信 号 の 入 力 部 には オペアンプを 内 蔵 しています ゲインを 設 定 するための 抵 抗 を 接 続 するだけで 入 力 回 路 を 構 成 することができます 電 源 5V 単 一 電 源 で 駆 動 します IC パッケージ LQFP-48 ピン パッケージサイズは 7mm 7mm です 動 作 温 度 範 囲 -40~+125 であり 車 載 環 境 で 使 用 することが 可 能 です RD コンバータ レゾルバ - + AVCC/2 角 度 演 算 パラレル 出 力 シリアル 入 出 力 ABZ 相 出 力 UVW 相 出 力 + - 入 出 力 I/F モード 選 択 FAIL クリア 異 常 信 号 FAIL 出 力 異 常 検 出 励 磁 信 号 生 成 図 5 R/D コンバータ 構 成 図
8 *1 ABZ 信 号 : A 相 およびB 相 から 出 力 される 信 号 のパルスをカウントすることで 相 対 的 な 回 転 角 度 を 算 出 することができます また A 相 信 号 B 相 信 号 の 位 相 は 90 ずれ ており A 相 とB 相 の 位 相 関 係 が 進 みか 遅 れかにより 回 転 方 向 が 検 出 できます( 図 4) 出 力 角 度 0 の 時 にZ 相 信 号 が 出 力 されるため この 角 度 を 基 準 にしてA 相 B 相 信 号 をカウントすることで 絶 対 角 度 の 検 出 が 可 能 です *2 UVW 信 号 : U 相 V 相 W 相 出 力 から それぞれ 120 ずつ 位 相 のずれた 信 号 を 出 力 します 極 数 を 1~4 まで 設 定 することができ 極 数 1 のときは 出 力 角 度 1 回 転 で 1 周 期 の 信 号 を 極 数 2 3 4 の 時 はそれぞれ 2 3 4 周 期 の 信 号 を 出 力 します( 図 6) 極 数 1 U 相 V 相 W 相 極 数 4 U 相 V 相 W 相 出 力 角 度 1 回 転 図 6 UVW 信 号 波 形
9 2.3 性 能 外 観 主 な 仕 様 を 表 1 に 外 観 を 図 7に 示 します 表 1 R/D コンバータの 主 な 仕 様 項 目 仕 様 角 度 分 解 能 12bit 角 度 精 度 ±4LSB 最 大 トラッキングレート 4000rps 最 大 角 加 速 度 1,000,000rad/s 2 (トラッキングループ 帯 域 1.8kHz 時 ) 角 度 出 力 遅 れ 1.6μs±0.5μs トラッキングループ 帯 域 600Hz または 1.8kHz 励 磁 信 号 出 力 正 弦 波 出 力 ( 周 波 数 :10kHz または 20kHz) 図 7 R/D コンバータの 外 観 3. まとめ モータ 制 御 アプリケーション 等 の 厳 しい 要 求 に 充 分 耐 えうる R/D コンバータとしてご 使 用 いただける 製 品 を 完 成 させることができました 今 後 も 変 化 するニーズ( 高 精 度 化 高 速 化 等 )に 対 応 すべく 開 発 を 推 進 してまいります