第 17 回 企 業 法 務 研 究 会 ( 平 成 24 年 1 月 16 日 )レジュメ1 楽 天 対 TBS 株 式 買 取 価 格 決 定 申 立 事 件 最 高 裁 決 定 ( 最 高 裁 三 小 平 成 23.4.19 決 定 ) インテリジェンス 株 式 買 取 価 格 決 定 申 立 事 件 最 高 裁 決 定 ( 最 高 裁 三 小 平 成 23.4.26 決 定 ) ~ 株 式 買 取 請 求 権 に 係 る 公 正 な 価 格 の 意 義 ~ きっかわ 法 律 事 務 所 弁 護 士 今 城 智 徳 第 1 基 本 事 項 の 確 認 1 株 式 買 取 請 求 権 とは 会 社 の 基 礎 の 変 更 等 の 行 為 ( 組 織 再 編 事 業 譲 渡 等 )に 反 対 する 株 主 が 会 社 に 対 し 自 己 の 有 する 株 式 を 公 正 な 価 格 で 買 い 取 ることを 請 求 することにより 投 下 資 本 の 回 収 を 図 る 権 利 1 2 公 正 な 価 格 での 株 式 買 取 請 求 権 が 問 題 となる 場 面 全 部 取 得 条 項 譲 渡 制 限 等 の 定 款 変 更 ( 会 社 法 116 条 ) 事 業 譲 渡 ( 同 法 469 条 ) 組 織 再 編 ( 合 併 分 割 株 式 交 換 株 式 移 転 )( 同 法 785 条 797 条 806 条 ) 3 株 式 買 取 請 求 権 の 行 使 期 間 全 部 取 得 条 項 譲 渡 制 限 等 の 定 款 変 更 事 業 譲 渡 吸 収 型 再 編 ( 吸 収 合 併 吸 収 分 割 及 び 株 式 交 換 )( 会 社 法 116 条 469 条 785 条 797 条 ) 効 力 発 生 日 の20 日 前 の 日 から 効 力 発 生 日 の 前 日 までの 間 新 設 型 再 編 ( 新 設 合 併 新 設 分 割 及 び 株 式 移 転 )( 会 社 法 806 条 ) 新 設 合 併 等 の 通 知 公 告 の 日 から20 日 以 内 4 株 式 買 取 請 求 権 が 行 使 された 場 合 会 社 は 株 主 との 間 で 買 取 価 格 の 決 定 について 協 議 し 協 議 が 整 った 場 合 効 力 発 生 日 から60 日 以 内 にその 支 払 いをしなければならない 効 力 発 生 日 ( 新 設 型 再 編 の 場 合 は 設 立 会 社 の 成 立 の 日 )から30 日 以 内 にその 協 議 が 調 わないときは 株 主 また は 会 社 は その 期 間 の 満 了 の 後 30 日 以 内 に 裁 判 所 に 対 し 価 格 の 決 定 の 申 立 て 2 を することができる( 会 社 法 117 条 470 条 786 条 798 条 807 条 ) 1 江 頭 憲 治 郎 株 式 会 社 法 第 4 版 ( 有 斐 閣 )774 頁 2 他 に 裁 判 所 に 対 し 価 格 決 定 の 申 立 てを 行 う 場 合 として 新 株 予 約 券 権 買 取 請 求 権 全 部 取 得 条 項 付 き 種 類 株 式 の 取 得 などがある 1
第 2 楽 天 対 TBS 株 式 買 取 価 格 決 定 申 立 事 件 最 高 裁 決 定 ( 最 高 裁 三 小 平 成 23.4.19 決 定 判 例 タイムズ 1352 号 140 頁 ) 資 料 1 1 事 案 (1) 概 要 X( 株 式 会 社 東 京 放 送 ホールディングス)を 吸 収 分 割 株 式 会 社 A( 株 式 会 社 TBS テ レビ)を 吸 収 分 割 承 継 株 式 会 社 とする 吸 収 分 割 に 反 対 した X の 株 主 である Y( 楽 天 株 式 会 社 )が 相 手 方 に 対 し Y の 有 する 株 式 を 公 正 な 価 格 で 買 い 取 るよう 請 求 したが そ の 価 格 の 決 定 につき 協 議 が 調 わないため X 及 び Y が 会 社 法 786 条 2 項 に 基 づき そ れぞれ 価 格 の 決 定 の 申 立 てをした 事 案 (2) 事 実 関 係 の 概 要 ( 原 決 定 原 々 決 定 で 認 定 された 事 実 を 含 む ) H17.8~ Y グループが X の 株 式 の 取 得 を 開 始 H17.10.13 Y は X に 対 し 両 者 の 経 営 統 合 及 び 業 務 提 携 を 提 案 H17.11.30 X と Y は 両 者 の 経 営 統 合 及 び 業 務 提 携 につき 協 議 するため 覚 書 を 締 結 H19.12.21 放 送 法 等 の 一 部 を 改 正 する 法 律 改 正 認 定 放 送 持 株 会 社 制 度 3 の 導 入 H20.4.1 放 送 法 等 の 一 部 を 改 正 する 法 律 の 施 行 Y は 下 記 株 主 総 会 決 議 に 反 対 する 旨 を X に 通 知 H20.12.16 X 株 主 総 会 決 議 吸 収 分 割 の 方 法 により X がテレビ 放 送 事 業 及 び 映 像 文 化 事 業 に 関 して 有 する 権 利 義 務 を 完 全 子 会 社 である A に 承 継 させ A から X に 対 して 何 ら 対 価 を 交 付 しないこと 等 を 内 容 とする 吸 収 分 割 契 約 書 を 承 認 する 旨 の 決 議 Y 決 議 に 反 対 H21.3.31 Y は X に 対 し 保 有 株 式 3777 万 0800 株 (19.86%)の 株 式 買 取 請 求 H21.4.1 X が 認 定 放 送 持 株 会 社 の 認 定 を 受 ける 吸 収 分 割 の 効 力 発 生 Y 株 式 の 買 取 価 格 について XY 間 で 協 議 H21.5.1 X が 裁 判 所 に 対 し 価 格 決 定 の 申 立 て H21.5.14 Y が 裁 判 所 に 対 し 価 格 決 定 の 申 立 て 3 総 務 大 臣 の 認 定 を 受 けることで 複 数 の 事 業 者 を 子 会 社 とすることができるようになった( 放 送 法 159 条 1 項 参 照 ) 認 定 放 送 持 株 会 社 では 特 定 株 主 の 議 決 権 割 合 が 100 分 の 33 を 超 えることとなるときには 原 則 として その 割 合 を 超 える 部 分 に 相 当 する 株 式 は 議 決 権 を 有 しない 株 式 となる( 放 送 法 164 条 ) 2
2 原 決 定 の 判 断 東 京 高 裁 H22.7.7 決 定 ( 判 例 タイムズ 1330 号 70 頁 ) 資 料 2 (1) 結 論 抗 告 棄 却 (1 株 につき 1294 円 とするのが 相 当 と 判 断 ) (2) 理 由 注 最 高 裁 判 決 の 中 では 以 下 のとおり 要 約 されている ⅰ 完 全 子 会 社 を 吸 収 分 割 承 継 株 式 会 社 とする 吸 収 分 割 に 際 し 吸 収 分 割 株 式 会 社 の 反 対 株 主 が 株 式 買 取 請 求 をした 場 合 における 株 式 の 公 正 な 価 格 は 吸 収 分 割 契 約 を 承 認 する 旨 の 株 主 総 会 の 決 議 がなかったとしたらその 株 式 が 有 していたであろう 価 格 を 基 礎 として 算 定 すべきであり 公 正 な 価 格 を 定 める 基 準 日 は 株 式 買 取 請 求 期 間 の 満 了 日 とするのが 相 当 である ⅱ そして 本 件 株 式 は 上 場 株 式 であるから 当 該 市 場 における 株 式 の 価 格 ( 以 下 市 場 株 価 という )が 企 業 の 客 観 的 価 値 を 反 映 しないなどの 特 段 の 事 情 がない 限 り 市 場 株 価 を 算 定 の 基 礎 に 用 いるのが 相 当 であり また 相 手 方 の 認 定 放 送 持 株 会 社 化 と 連 動 した 本 件 吸 収 分 割 が 相 手 方 の 企 業 価 値 又 は 株 主 価 値 を 毀 損 したものとは 認 められないから 本 件 における 公 正 な 価 格 は 株 式 買 取 請 求 期 間 の 満 了 日 の 市 場 株 価 を 上 回 るものではあり 得 ない 本 件 における 株 式 買 取 請 求 期 間 の 満 了 日 は 平 成 21 年 3 月 31 日 であるところ 東 京 証 券 取 引 所 における 相 手 方 の 株 式 の 同 日 の 終 値 は1 株 1294 円 であるから これをもって 本 件 株 式 の 公 正 な 価 格 と 認 め るのが 相 当 である 3 本 判 決 の 概 要 (1) 結 論 抗 告 棄 却 (2) 理 由 ⅰ 反 対 株 主 に 公 正 な 価 格 での 株 式 の 買 取 りを 請 求 する 権 利 が 付 与 された 趣 旨 は 吸 収 合 併 等 という 会 社 組 織 の 基 礎 に 本 質 的 変 更 をもたらす 行 為 を 株 主 総 会 の 多 数 決 により 可 能 とする 反 面 それに 反 対 する 株 主 に 会 社 からの 退 出 の 機 会 を 与 えるとと もに 退 出 を 選 択 した 株 主 には 吸 収 合 併 等 がされなかったとした 場 合 と 経 済 的 に 同 等 の 状 況 を 確 保 し さらに 吸 収 合 併 等 によりシナジーその 他 の 企 業 価 値 の 増 加 が 生 ずる 場 合 には 上 記 株 主 に 対 してもこれを 適 切 に 分 配 し 得 るものとすることに より 上 記 株 主 の 利 益 を 一 定 の 範 囲 で 保 障 することにある ⅱ 吸 収 合 併 等 によりシナジーその 他 の 企 業 価 値 の 増 加 が 生 じない 場 合 には 増 加 した 企 業 価 値 の 適 切 な 分 配 を 考 慮 する 余 地 はないから 吸 収 合 併 契 約 等 を 承 認 する 旨 の 株 主 総 会 の 決 議 がされることがなければその 株 式 が 有 したであろう 価 格 ( 以 下 ナ カリセバ 価 格 という )を 算 定 し これをもって 公 正 な 価 格 を 定 めるべきであ 3
る ⅲ 消 滅 株 式 会 社 等 の 反 対 株 主 が 株 式 買 取 請 求 をすれば 消 滅 株 式 会 社 等 の 承 諾 を 要 す ることなく 法 律 上 当 然 に 反 対 株 主 と 消 滅 株 式 会 社 等 との 間 に 売 買 契 約 が 成 立 した のと 同 様 の 法 律 関 係 が 生 じ 消 滅 株 式 会 社 等 には その 株 式 を 公 正 な 価 格 で 買 い 取 るべき 義 務 が 生 ずる 反 面 ( 前 掲 最 高 裁 昭 和 48 年 3 月 1 日 第 一 小 法 廷 決 定 参 照 ) 反 対 株 主 は 消 滅 株 式 会 社 等 の 承 諾 を 得 なければ その 株 式 買 取 請 求 を 撤 回 するこ とができないことになる( 会 社 法 785 条 6 項 )ことからすれば 売 買 契 約 が 成 立 したのと 同 様 の 法 律 関 係 が 生 ずる 時 点 であり かつ 株 主 が 会 社 から 退 出 する 意 思 を 明 示 した 時 点 である 株 式 買 取 請 求 がされた 日 を 基 準 日 として 公 正 な 価 格 を 定 めるのが 合 理 的 である 仮 に 反 対 株 主 が 株 式 買 取 請 求 をした 日 より 後 の 日 を 基 準 として 公 正 な 価 格 を 定 めるものとすると 反 対 株 主 は 自 らの 意 思 で 株 式 買 取 請 求 を 撤 回 することができないにもかかわらず 株 式 買 取 請 求 後 に 生 ずる 市 場 の 一 般 的 な 価 格 変 動 要 因 による 市 場 株 価 への 影 響 等 当 該 吸 収 合 併 等 以 外 の 要 因 による 株 価 の 変 動 によるリスクを 負 担 することになり 相 当 ではないし また 上 記 決 議 が された 日 を 基 準 として 公 正 な 価 格 を 定 めるものとすると 反 対 株 主 による 株 式 買 取 請 求 は 吸 収 合 併 等 の 効 力 を 生 ずる 日 の20 日 前 の 日 からその 前 日 までの 間 に しなければならないこととされているため( 会 社 法 785 条 5 項 ) 上 記 決 議 の 日 か ら 株 式 買 取 請 求 がされるまでに 相 当 の 期 間 が 生 じ 得 るにもかかわらず 上 記 決 議 の 日 以 降 に 生 じた 当 該 吸 収 合 併 等 以 外 の 要 因 による 株 価 の 変 動 によるリスクを 反 対 株 主 は 一 切 負 担 しないことになり 相 当 ではない そうすると 会 社 法 782 条 1 項 所 定 の 吸 収 合 併 等 によりシナジーその 他 の 企 業 価 値 の 増 加 が 生 じない 場 合 に 同 項 所 定 の 消 滅 株 式 会 社 等 の 反 対 株 主 がした 株 式 買 取 請 求 に 係 る 公 正 な 価 格 は 原 則 として 当 該 株 式 買 取 請 求 がされた 日 におけ るナカリセバ 価 格 をいうものと 解 するのが 相 当 である ⅵ ナカリセバ 価 格 を 算 定 するに 当 たり 吸 収 合 併 等 による 影 響 を 排 除 するために 吸 収 合 併 等 を 行 う 旨 の 公 表 等 がされる 前 の 市 場 株 価 ( 以 下 参 照 株 価 という )を 参 照 してこれを 算 定 することや その 際 上 記 公 表 がされた 日 の 前 日 等 の 特 定 の 時 点 の 市 場 株 価 を 参 照 するのか それとも 一 定 期 間 の 市 場 株 価 の 平 均 値 を 参 照 するのか 等 については 当 該 事 案 における 消 滅 株 式 会 社 等 や 株 式 買 取 請 求 をした 株 主 に 係 る 事 情 を 踏 まえた 裁 判 所 の 合 理 的 な 裁 量 に 委 ねられているものというべきである ま た 上 記 公 表 等 がされた 後 株 式 買 取 請 求 がされた 日 までの 間 に 当 該 吸 収 合 併 等 以 外 の 市 場 の 一 般 的 な 価 格 変 動 要 因 により 当 該 株 式 の 市 場 株 価 が 変 動 している 場 合 に これを 踏 まえて 参 照 株 価 に 補 正 を 加 えるなどして 同 日 のナカリセバ 価 格 を 算 定 する についても 同 様 である 吸 収 合 併 等 により 企 業 価 値 が 増 加 も 毀 損 もしないため 当 該 吸 収 合 併 等 が 消 滅 株 式 会 社 等 の 株 式 の 価 値 に 変 動 をもたらすものではなかったときは その 市 場 株 価 は 4
当 該 吸 収 合 併 等 による 影 響 を 受 けるものではなかったとみることができるから 株 式 買 取 請 求 がされた 日 のナカリセバ 価 格 を 算 定 するに 当 たって 参 照 すべき 市 場 株 価 として 同 日 における 市 場 株 価 やこれに 近 接 する 一 定 期 間 の 市 場 株 価 の 平 均 値 を 用 いることも 当 該 事 案 に 係 る 事 情 を 踏 まえた 裁 判 所 の 合 理 的 な 裁 量 の 範 囲 内 にある ものというべきである 原 審 が 本 件 買 取 請 求 がされた 平 成 21 年 3 月 31 日 のナカリセバ 価 格 を 算 定 し たことは その 合 理 的 な 裁 量 の 範 囲 内 にあるものということができる 第 3 インテリジェンス 株 式 買 取 価 格 決 定 申 立 事 件 最 高 裁 決 定 ( 最 高 裁 三 小 平 成 23.4.26 決 定 判 例 タイムズ 1352 号 140 頁 ) 資 料 3 1 事 案 (1) 概 要 Y( 株 式 会 社 インテリジェンス)を 株 式 交 換 完 全 子 会 社 A( 株 式 会 社 USEN) を 株 式 交 換 完 全 親 会 社 とする 株 式 交 換 に 反 対 した Y の 株 主 である X らが Y に 対 し X らが 各 保 有 する 株 式 を 公 正 な 価 格 で 買 い 取 るよう 請 求 したが その 価 格 の 決 定 に つき 協 議 が 調 わないため X ら 及 び Y が 会 社 法 786 条 2 項 に 基 づき それぞれ 価 格 の 決 定 の 申 立 てをした 事 案 (2) 事 実 関 係 の 概 要 ( 原 決 定 原 々 決 定 で 認 定 された 事 実 を 含 む ) H20.7.1 A 及 び Y は A を 株 式 交 換 完 全 親 会 社 Y を 株 式 交 換 完 全 子 会 社 とする 株 式 交 換 を 行 う こと 等 を 内 容 とする 基 本 合 意 書 を 締 結 市 場 取 引 終 了 後 に 公 表 H20.7.10 A 及 び Y は 株 式 交 換 比 率 の 約 定 を 含 む 株 式 交 換 に 関 する 契 約 を 締 結 市 場 取 引 終 了 後 に 公 表 Y は 下 記 株 主 総 会 決 議 に 反 対 する 旨 を X に 通 知 H20.8.28 Y 株 主 総 会 決 議 A を 株 式 交 換 完 全 親 会 社 Y を 株 式 交 換 完 全 子 会 社 とする 株 式 交 換 を 行 うこと 等 を 内 容 とする 株 式 交 換 契 約 を 承 認 する 旨 の 決 議 X 決 議 に 反 対 X らは Y に 対 し 保 有 株 式 の 株 式 買 取 請 求 H20.9.30 株 式 交 換 の 効 力 発 生 Y 株 式 の 買 取 価 格 について XY 間 で 協 議 H20.11 X 及 び Y は それぞれ 裁 判 所 に 対 し 価 格 決 定 の 申 立 て 5
2 原 決 定 の 判 断 東 京 高 裁 H22.10.19 決 定 ( 判 例 タイムズ 1341 号 186 頁 ) 資 料 4 (1) 結 論 原 決 定 を 変 更 1 株 につき 6 万 7791 円 とする (2) 理 由 注 最 高 裁 判 決 の 中 では 以 下 のとおり 要 約 されている ⅰ 株 式 交 換 により 企 業 価 値 ないし 株 主 価 値 が 毀 損 された 場 合 において 株 式 交 換 完 全 子 会 社 の 株 主 による 株 式 買 取 請 求 に 係 る 公 正 な 価 格 は 裁 判 所 の 裁 量 により 株 式 交 換 の 効 力 発 生 日 を 基 準 として 株 式 交 換 がなければ 上 記 完 全 子 会 社 の 株 式 が 有 していたであろう 客 観 的 価 値 を 基 礎 として 算 定 するのが 相 当 である そして 相 手 方 の 企 業 価 値 ないし 株 主 価 値 は 本 件 株 式 交 換 により 毀 損 されている 4 から 公 正 な 価 格 は 本 件 株 式 交 換 の 効 力 発 生 日 を 基 準 として 本 件 株 式 交 換 がなければ 相 手 方 の 株 式 が 有 していたであろう 客 観 的 価 値 を 基 礎 として 算 定 すべきである ⅱ 上 記 の 客 観 的 価 値 は 上 記 効 力 発 生 日 にできるだけ 近 接 し かつ 本 件 株 式 交 換 の 影 響 を 排 除 できる 市 場 株 価 である 本 件 株 式 交 換 の 計 画 公 表 前 の 市 場 株 価 を 参 照 して 算 定 するのが 相 当 であるが 同 計 画 公 表 後 も 上 記 の 市 場 株 価 には 市 場 の 一 般 的 な 価 格 変 動 要 因 による 影 響 が 及 んでいる 以 上 同 計 画 公 表 後 における 市 場 全 体 業 界 全 体 の 動 向 その 他 を 踏 まえた 補 正 を 加 えるなどして 上 記 の 客 観 的 価 値 を 算 定 す るのが 合 理 的 である そこで 回 帰 分 析 の 手 法 を 用 いて 上 記 補 正 をした 上 で 偶 発 的 要 素 による 影 響 を 排 除 するために 本 件 株 式 交 換 の 効 力 発 生 日 前 1か 月 間 の 補 正 後 の 株 式 価 格 の 平 均 値 をもって 相 手 方 の 株 式 の 有 する 効 力 発 生 日 の 客 観 的 価 値 を 判 断 すると 本 件 における 公 正 な 価 格 は 1 株 につき6 万 7791 円 とするのが 相 当 である 3 本 判 決 の 概 要 (1) 結 論 破 棄 差 戻 し (2) 理 由 ⅰ ( 楽 天 対 TBS 事 件 理 由 ⅰ 及 びⅱと 同 旨 を 述 べた 上 で ) 以 上 と 異 なる 原 審 の 前 記 判 断 には 裁 判 に 影 響 を 及 ぼすことが 明 らかな 法 令 の 違 反 がある この 趣 旨 をい う 論 旨 は 理 由 がある ⅱ なお 上 場 されている 株 式 について 反 対 株 主 が 株 式 買 取 請 求 をした 日 のナカリセ 4 変 数 間 の 相 関 関 係 を 分 析 して 定 量 化 する 統 計 的 手 法 であり 上 場 株 価 の 予 測 変 動 率 を 求 めるとすれば 日 経 平 均 株 価 等 の 市 場 インデックス 等 を 用 いてこれと 当 該 株 式 の 株 価 との 相 関 関 係 を 分 析 することにより 株 価 の 変 動 につき 市 場 の 一 般 的 価 格 要 因 に 起 因 する 当 該 株 式 の 変 動 率 を 算 定 するというもの 6
バ 価 格 を 算 定 するに 当 たり 株 式 交 換 を 行 う 旨 の 公 表 等 がされる 前 の 市 場 株 価 を 参 照 することや 上 記 公 表 等 がされた 後 株 式 買 取 請 求 がされた 日 までの 間 に 当 該 吸 収 合 併 等 以 外 の 市 場 の 一 般 的 な 価 格 変 動 要 因 により 当 該 株 式 の 市 場 株 価 が 変 動 して いる 場 合 に これを 踏 まえて 参 照 した 株 価 に 補 正 を 加 えるなどして 同 日 のナカリセ バ 価 格 を 算 定 することは 裁 判 所 の 合 理 的 な 裁 量 の 範 囲 内 にあるものというべきで ある そして このことは 株 式 買 取 請 求 期 間 中 に 当 該 株 式 の 上 場 が 廃 止 されたと しても 変 わるところはない 第 4 本 判 決 の 検 討 1 公 正 な 価 格 の 意 義 について 公 正 な 価 格 とは 1 株 主 総 会 の 決 議 がされることがなければその 株 式 が 有 したであろう 価 格 ( 以 下 ナカリセバ 価 格 という ) 2 組 織 再 編 によるシナジーその 他 の 企 業 価 値 の 増 加 を 適 切 に 反 映 した 価 格 ( 以 下 シナジー 適 正 分 配 価 格 という ) 1と2の 具 体 的 な 適 用 場 面 については 吸 収 合 併 等 によりシナジーその 他 の 企 業 価 値 の 増 加 が 生 じない 5 場 合 1 吸 収 合 併 等 によりシナジーその 他 の 企 業 価 値 の 増 加 が 生 じる 場 合 2 6 2 ナカリセバ 価 格 の 算 定 基 準 日 (1) 基 準 日 に 関 する 学 説 裁 判 例 の 状 況 1 組 織 再 編 行 為 の 承 認 決 議 がされた 日 を 基 準 日 とする 見 解 2 株 式 買 取 請 求 権 が 行 使 された 日 であるとする 見 解 3 株 式 買 取 請 求 期 間 の 満 了 日 であるとする 見 解 4 組 織 再 編 行 為 の 効 力 発 生 日 であるとする 見 解 5 裁 判 所 が 裁 量 的 に 基 準 日 を 定 めること ができるとする 見 解 など (2) 本 決 定 株 式 買 取 請 求 権 が 行 使 された 日 を 基 準 日 (2の 見 解 ) (3) 基 準 日 を 議 論 する 意 義 いつ 時 点 の 市 場 株 価 で 公 正 な 価 格 を 算 定 するのかという 問 題 か? 企 業 再 編 がなかった 場 合 に 当 該 株 式 がどの 時 点 で 有 していたであろう 価 格 を 問 題 とすべきかという 問 題 5 企 業 価 値 の 増 加 が 生 じない 場 合 とは 企 業 価 値 が 増 加 が 存 在 しない(ゼロ) 場 合 と 企 業 価 値 が 毀 損 されている (マイナス) 場 合 を 含 む TBS 対 楽 天 事 件 は 前 者 であり インテリジェンス 事 件 は 後 者 であった 6 こちらについては 明 示 的 には 述 べられていないが 公 正 な 価 格 を1と2に 分 けるのであれば このようになるも のと 推 測 される 7
3 ナカリセバ 価 格 の 具 体 的 算 定 方 法 (1) 算 定 方 法 についての 前 提 裁 判 所 による 買 取 価 格 の 決 定 は 裁 判 所 の 合 理 的 な 裁 量 に 委 ねられている( 最 判 昭 和 48 年 3 月 1 日 民 集 27 巻 2 号 161 頁 ) 合 理 的 な 算 定 方 法 が 一 つしかないわけではない (2) 具 体 的 な 算 定 方 法 の 例 7 上 場 されている 株 式 について 市 場 株 価 が 企 業 の 客 観 的 価 値 を 反 映 していないこと をうかがわせる 事 情 がない 場 合 に 市 場 株 価 を 算 定 に 用 いること 株 式 買 取 請 求 がされた 日 の 市 場 株 価 株 式 買 取 請 求 がされた 日 に 近 接 する 一 定 期 間 の 市 場 株 価 の 平 均 値 吸 収 合 併 等 を 行 う 旨 の 公 表 等 がされる 前 の 市 場 株 価 を 参 照 4 本 決 定 の 射 程 範 囲 について (1) 吸 収 分 割 株 式 交 換 以 外 の 場 合 の 株 式 買 取 請 求 ( 上 記 1 2 3の 射 程 ) 吸 収 合 併 消 滅 会 社 について 決 定 文 に 明 文 の 記 載 あり 組 織 再 編 事 業 譲 渡 について 本 決 定 の 射 程 外 とする 理 由 はないのではないか ただ 新 設 型 再 編 の 場 合 には 株 式 買 取 請 求 権 の 行 使 期 間 が 異 なっているため 射 程 外 となる 可 能 性 もある 定 款 変 更 について これが 単 独 で 行 われる 場 合 には 企 業 価 値 の 増 減 が 想 定 しにくく 本 決 定 の 射 程 外 か ただ 上 記 2についてはあてはまる 可 能 性 (2) シナジー 適 正 分 配 価 格 の 算 定 基 準 日 ( 上 記 2の 射 程 ) 楽 天 対 TBS 事 件 理 由 ⅲはシナジー 適 正 分 配 価 格 の 場 合 にも 当 てはまる 可 能 性 (3) 組 織 再 編 の 前 に 株 式 の 公 開 買 付 けが 行 われていた 場 合 ( 二 段 階 買 収 ) 公 正 な 価 格 は 公 開 買 付 け 価 格 を 下 回 ることはないとする 見 解 8 公 開 買 付 け 価 格 を 下 回 らないとすると 株 主 はその 後 の 公 開 買 付 け 及 び 組 織 再 編 以 外 の 要 因 による 価 格 変 動 のリスクを 負 担 しないことになるか( 楽 天 対 TBS 事 件 理 7 裁 判 例 では シナジーが 生 じている 事 案 において 基 準 時 に 近 接 した 効 力 発 生 日 前 1 ヶ 月 間 の 終 値 出 来 高 加 重 平 均 値 をもって 算 定 したもの( 東 京 地 決 平 成 21.4.17 及 び 東 京 地 決 平 成 21.5.13 金 判 1320 号 31 頁 協 和 発 酵 キリン 事 件 ) 企 業 価 値 が 毀 損 されている 事 案 において 組 織 再 編 計 画 公 表 日 前 1 か 月 間 の 終 値 出 来 高 加 重 平 均 値 をもって 算 定 した もの( 東 京 地 決 平 成 22.3.31 金 判 1344 号 35 頁 テクモ 事 件 )などがある ただ これらの 裁 判 例 の 中 は 買 取 請 求 の 時 点 を 基 準 日 としていないものが 多 く これらの 方 法 が 今 後 も 妥 当 するかは 検 討 の 余 地 がある 8 公 開 買 付 け 価 格 は 組 織 再 編 から 生 ずるシナジーを 織 り 込 んだものとして 設 定 されたものと 推 認 されること 公 開 買 付 け 価 格 を 下 回 ると 公 開 買 付 けに 応 じるように 強 いられるおそれがあること( 強 圧 性 ) 等 が 根 拠 とされる 経 済 産 業 省 の 企 業 価 値 の 向 上 及 び 公 正 な 手 続 確 保 のための 経 営 者 による 企 業 買 収 (MBO)に 関 する 指 針 も 強 圧 性 を 理 由 に 同 様 の 指 摘 をしている 裁 判 例 としては 東 京 地 決 平 成 21.3.31 判 タ 1296 号 118 頁 ( 日 興 コーディアルグルー プ 株 式 買 取 価 格 決 定 申 立 事 件 ) 等 8
由 ⅲに 反 するか) 5 本 決 定 の 問 題 点 本 決 定 のように 基 準 日 を 株 式 買 取 請 求 権 の 行 使 日 とする 場 合 反 対 株 主 が 複 数 存 在 す る 場 合 その 株 式 買 取 請 求 権 の 行 使 日 ごとに 別 個 の 買 取 価 格 が 観 念 されうる その 場 合 各 株 主 の 納 得 感 を 得 つつ 買 取 価 格 の 協 議 を 調 えることは 困 難 であるとの 指 摘 そもそも 買 取 価 格 を 個 別 に 算 定 するのは 煩 瑣 であるとの 指 摘 がなされている 参 考 資 料 資 料 1 資 料 2 資 料 3 資 料 4 最 高 裁 三 小 平 成 平 成 23 年 4 月 19 日 決 定 東 京 高 裁 平 成 22 年 7 月 7 日 決 定 最 高 裁 三 小 平 成 23 年 4 月 26 日 決 定 東 京 高 裁 平 成 22 年 10 月 19 日 決 定 9
第 17 回 企 業 法 務 研 究 会 ( 平 成 24 年 1 月 16 日 )レジュメ2 きっかわ 法 律 事 務 所 弁 護 士 山 下 惠 美 第 1 信 用 組 合 関 西 興 銀 事 件 最 高 裁 二 小 平 成 23.4.22 判 決 ( 最 高 裁 平 成 20 年 ( 受 ) 第 1940 号 判 時 2116 号 53 頁 資 料 5 53 頁 ) 1 事 案 (1) 概 要 中 小 企 業 等 協 同 組 合 法 に 基 づいて 設 立 された 信 用 協 同 組 合 であるYに 対 して 各 50 0 万 円 の 出 資 をしたXら( 法 人 2 名 個 人 2 名 )が Yが Xらの 出 資 の 約 1 年 9か 月 後 に 金 融 機 能 の 再 生 のための 緊 急 措 置 に 関 する 法 律 8 条 に 基 づく 金 融 整 理 管 財 人 によ る 業 務 及 び 財 産 の 管 理 を 命 ずる 処 分 を 受 けて 経 営 が 破 綻 し 出 資 金 の 払 い 戻 しを 受 けら れなくなったことについて 出 資 勧 誘 の 際 の 説 明 義 務 違 反 等 を 主 張 して Yに 対 し 出 資 金 相 当 額 及 び 遅 延 損 害 金 の 支 払 いを 求 めた 事 案 (2) 事 実 の 経 過 ( 本 件 における 認 定 事 実 以 外 の 事 実 を 含 む 資 料 6 29 頁 以 下 参 照 ) H6 監 督 官 庁 の 立 入 検 査 資 産 の 回 収 可 能 性 等 を 基 に 査 定 された 欠 損 見 込 額 を 前 提 とする 自 己 資 本 比 率 の 低 下 を 指 摘 される H8 監 督 官 庁 の 立 入 検 査 資 産 の 大 部 分 を 占 める 貸 出 金 について 欠 損 見 込 額 が 巨 額 になってお り 自 己 資 本 比 率 が-1.80%であって 実 質 的 な 債 務 超 過 の 状 態 にある 等 の 指 摘 を 受 ける Y 自 己 資 本 比 率 増 強 のための 出 資 勧 誘 H11.3.2 Xらが 各 500 万 円 の 出 資 H12.9.11 H11 年 3 月 末 を 基 準 日 とする 監 督 官 庁 の 立 入 検 査 結 果 受 領 同 検 査 結 果 に 基 づく 追 加 償 却 引 当 て 額 をふまえれば Y は780 億 円 の 債 務 超 過 である ことが 見 込 まれ その 自 己 資 本 比 率 は 早 期 是 正 措 置 制 度 における 業 務 停 止 の 対 象 (0% 未 満 )に 該 当 する 自 己 資 本 充 実 策 につき 報 告 を 求 める H12.12.16 金 融 機 能 の 再 生 のための 緊 急 措 置 に 関 する 法 律 8 条 に 基 づく 金 融 整 理 管 財 人 による 業 務 及 び 財 産 の 管 理 を 命 ずる 処 分 を 受 け 経 営 破 綻 H13.7~ 出 資 者 99 名 が 順 次 Y には 出 資 勧 誘 時 に 大 幅 な 債 務 超 過 があることについて 説 明 義 務 違 反 があったとして 損 害 賠 償 請 求 訴 訟 を 提 起 H13 末 までには 集 団 訴 訟 も 提 起 された H13.7~H13.9 主 要 全 国 紙 5 社 他 において 出 資 者 らの 提 訴 の 動 きにつき 新 聞 報 道 10
H14.1~2 H17.2~ H18.3~ H18.9.8 Y の 代 表 理 事 ら 背 任 罪 で 告 訴 され 一 部 は 起 訴 された 先 行 訴 訟 に 関 する 第 一 審 判 決 先 行 訴 訟 に 関 する 控 訴 審 判 決 X ら 本 件 訴 訟 提 起 H18.9~H21.11.2 先 行 訴 訟 とは 別 の 出 資 者 12 グループ 24 名 (X ら 含 む)が 訴 訟 提 起 ( 資 料 6 34 35 頁 参 照 ) (3)Xらの 主 張 の 根 拠 主 位 的 請 求 不 法 行 為 に 基 づく 損 害 賠 償 請 求 ( 出 資 契 約 の 詐 欺 取 消 し 又 は 錯 誤 無 効 を 理 由 とする 不 当 利 得 返 還 請 求 ) 予 備 的 請 求 債 務 不 履 行 に 基 づく 損 害 賠 償 請 求 契 約 締 結 上 の 過 失 責 任 契 約 の 準 備 交 渉 過 程 において 交 渉 当 事 者 の 一 方 の 責 めに 帰 すべき 行 為 によって 相 手 方 に 損 害 が 発 生 した 場 合 に 信 義 則 に 基 づき 契 約 責 任 と 同 様 の 法 的 保 護 を 認 める 考 え 方 想 定 されている 事 例 契 約 交 渉 が 行 われたが それが 中 途 で 破 棄 され 無 用 な 出 費 をまねいた 契 約 締 結 過 程 で 不 当 な 勧 誘 が 行 われ 本 来 望 まない 契 約 をさせられた etc 法 的 性 質 契 約 責 任 説 契 約 規 範 を 契 約 締 結 未 了 段 階 にまで 拡 張 する 考 え 方 不 法 行 為 責 任 説 ドイツほど 不 法 行 為 の 要 件 が 厳 格 でない 我 が 国 においては わざわざ 契 約 責 任 とする 必 要 なし 従 前 の 裁 判 例 契 約 準 備 段 階 における 信 義 則 上 の 注 意 義 務 違 反 に 基 づく 損 害 賠 償 請 求 を 認 める 最 高 裁 判 例 下 級 審 判 例 は 多 数 あり その 法 的 性 質 に 関 しては 不 法 行 為 責 任 と 構 成 するものが 多 数 信 義 則 上 の 義 務 違 反 とだけ 説 示 して 不 法 行 為 責 任 であるか 契 約 責 任 であるか 明 示 しない ものも 少 なくない 契 約 責 任 とするものも 少 数 ながら 存 在 最 高 裁 においては 不 法 行 為 責 任 を 認 めた 原 審 の 判 断 を 是 認 したものがある が 契 約 責 任 に 基 づく 損 害 賠 償 請 求 権 の 発 生 がありうるかについて 正 面 から 判 断 したものはなし 11
2 原 審 の 判 断 大 阪 高 判 H20.8.28 判 決 (3) 結 論 控 訴 棄 却 ( 出 資 者 らの 請 求 一 部 認 容 ) 契 約 責 任 を 認 めるも 法 人 の 請 求 については 商 事 消 滅 時 効 が 成 立 するとし 個 人 の 債 務 不 履 行 に 基 づく 請 求 についてのみ 認 容 した 一 審 判 決 を 是 認 法 人 不 法 行 為 ( 時 効 ) 個 人 不 法 行 為 ( 時 効 ) 債 務 不 履 行 ( 時 効 ) 債 務 不 履 行 (4) 理 由 注 最 高 裁 判 決 の 中 では 以 下 のとおり 要 約 されている ⅰ Yが 実 質 的 な 債 務 超 過 の 状 態 にあって 経 営 破 綻 の 現 実 的 な 危 険 があることを 説 明 しないまま Xらに 対 して 本 件 各 出 資 を 勧 誘 したことは 信 義 則 上 の 説 明 義 務 に 違 反 する ⅱ 本 件 説 明 義 務 違 反 は 本 件 各 出 資 契 約 が 締 結 される 前 の 段 階 において 生 じたもので あるが およそ 社 会 の 中 から 特 定 の 者 を 選 んで 契 約 関 係 に 入 ろうとする 当 事 者 が 社 会 の 一 般 人 に 対 する 不 法 行 為 上 の 責 任 よりも 一 層 強 度 の 責 任 を 課 されることは 当 然 の 事 理 というべきであり 当 該 当 事 者 が 契 約 関 係 に 入 った 以 上 は 契 約 上 の 信 義 則 は 契 約 締 結 前 の 段 階 まで 遡 って 支 配 するに 至 るとみるべきであるから 本 件 説 明 義 務 違 反 は 不 法 行 為 を 構 成 するのみならず 本 件 各 出 資 契 約 上 の 付 随 義 務 違 反 として 債 務 不 履 行 をも 構 成 する 3 本 判 決 の 概 要 (3) 結 論 破 棄 自 判 Y 敗 訴 部 分 を 取 り 消 す ( 興 銀 側 勝 訴 ) (4) 理 由 ⅰ 契 約 の 一 方 当 事 者 が 当 該 契 約 の 締 結 に 先 立 ち 信 義 則 上 の 説 明 義 務 に 違 反 して 当 該 契 約 を 締 結 するか 否 かに 関 する 判 断 に 影 響 を 及 ぼすべき 情 報 を 相 手 方 に 提 供 し なかった 場 合 には 9 上 記 一 方 当 事 者 は 相 手 方 が 当 該 契 約 を 締 結 したことにより 被 った 損 害 につき 不 法 行 為 による 賠 償 責 任 を 負 うことがあるのは 格 別 当 該 契 約 上 の 債 務 の 不 履 行 による 賠 償 責 任 を 負 うことはないというべきである ⅱ なぜなら 上 記 のように 一 方 当 事 者 が 信 義 則 上 の 説 明 義 務 に 違 反 したために 相 手 方 が 本 来 であれば 締 結 しなかったはずの 契 約 を 締 結 するに 至 り 損 害 を 被 った 場 合 に 9 従 前 契 約 締 結 上 の 過 失 責 任 の 問 題 として 例 示 的 に 挙 げられてきた 事 例 の 全 てについて 債 務 不 履 行 責 任 は 発 生 し 得 ないとする 趣 旨 かは 不 明 と 考 えられる 千 葉 勝 美 裁 判 官 の 補 足 意 見 参 照 契 約 交 渉 過 程 にお いて 提 供 される 情 報 のうち 契 約 を 締 結 するか 否 かの 判 断 にかかわらない 情 報 を 誤 って 伝 えたような 場 合 には 債 務 不 履 行 責 任 を 認 める 余 地 ありか?( 資 料 6 38 頁 参 照 ) 12
は 後 に 締 結 された 契 約 は 上 記 説 明 義 務 違 反 によって 生 じた 結 果 と 位 置 づけられ るのであって 上 記 説 明 義 務 をもって 上 記 契 約 に 基 づいて 生 じた 義 務 であるという ことは それを 契 約 上 の 本 来 的 な 債 務 というか 付 随 義 務 というかにかかわらず 一 種 の 背 理 といわざるを 得 ないからである 契 約 締 結 の 準 備 段 階 においても 信 義 則 が 当 事 者 間 の 法 律 関 係 を 規 律 し 信 義 則 上 の 義 務 が 発 生 するからといって その 義 務 が 当 然 にその 後 に 締 結 された 契 約 に 基 づくものであるということにならないこと はいうまでもない 4 本 件 で 法 的 性 質 を 論 じる 意 義 (1) 不 法 行 為 責 任 と 契 約 責 任 の 差 異 ~ 時 効 期 間 不 法 行 為 の 場 合 3 年 債 務 不 履 行 の 場 合 10 年 ( 商 事 5 年 ) 本 件 では 不 法 行 為 を 根 拠 にすると 消 滅 時 効 が 成 立! (2) 不 法 行 為 に 基 づく 損 害 賠 償 請 求 権 の 消 滅 時 効 の 起 算 点 別 件 - 最 高 裁 ニ 小 平 成 23.4.22 判 決 ( 最 高 裁 平 成 21 年 ( 受 ) 第 131 号 判 時 2116 号 61 頁 資 料 5 61 頁 ) H12.3.27 出 資 H19.3.5 訴 訟 提 起 の 事 案 同 事 件 の 控 訴 審 が 不 法 行 為 に 基 づく 請 求 に 関 し 消 滅 時 効 の 成 立 を 否 定 するとい う 同 種 案 件 の 他 の 控 訴 審 と 異 なる 判 断 をし 債 務 不 履 行 に 基 づく 請 求 が 可 能 かに ついては 触 れなかったため 不 法 行 為 に 基 づく 損 害 賠 償 請 求 の 消 滅 時 効 の 起 算 点 が 争 点 となった 損 害 及 び 加 害 者 を 知 った 時 ( 民 法 第 724 条 前 段 )とは? 控 訴 審 被 害 者 において 単 に 加 害 者 の 行 為 により 損 害 が 発 生 したことを 知 った だけではなく その 加 害 行 為 が 不 法 行 為 を 構 成 することをも 知 った 時 先 行 訴 訟 の 一 部 において 別 件 刑 事 事 件 の 訴 訟 記 録 の 写 しが 書 証 と して 提 出 された 平 成 16 年 1 月 から 相 当 期 間 経 過 した 後 最 高 裁 被 害 者 において 加 害 者 に 対 する 賠 償 請 求 をすることが 事 実 上 可 能 な 状 況 の 下 に それが 可 能 な 程 度 に 損 害 及 び 加 害 者 を 知 った 時 同 種 の 集 団 訴 訟 が 提 起 された 後 の 平 成 13 年 末 第 2 採 用 内 々 定 の 取 消 福 岡 高 裁 平 成 23.2.16 判 決 ( 判 時 2121 号 137 頁 資 料 7 ) 労 働 契 約 締 結 過 程 の 問 題 1 事 案 (1) 概 要 Yからいわゆる 内 々 定 を 受 けたXが Yにおいて その 後 内 々 定 を 取 消 したこ 13
とから その 違 法 を 理 由 に Yに 対 し 慰 謝 料 等 の 損 害 賠 償 を 求 めた 事 案 (2) 事 実 の 経 過 H20.6.13 H20.7.3 H20.7.7 X 会 社 説 明 会 に 参 加 最 終 面 接 内 々 定 通 知 X 入 社 承 諾 書 に 記 名 押 印 して 返 送 H20.9.25 人 事 担 当 者 が X に 架 電 内 定 式 は 行 わないが 採 用 内 定 通 知 の 授 与 を Y 事 務 所 で 行 うこ とを 伝 えて X の 都 合 を 尋 ね 内 定 通 知 の 授 与 は 同 年 10 月 2 日 に 行 われることとなった H20.9.26 H20.9.30 Y において 内 々 定 取 消 を 決 定 内 々 定 取 消 通 知 2 判 断 (1) 結 論 一 部 認 容 (2) 理 由 ⅰ 本 件 内 々 定 は 内 定 とは 明 らかにその 性 質 を 異 にするものであって 内 定 までの 間 企 業 が 新 卒 者 をできるだけ 囲 い 込 んで 他 の 企 業 に 流 れることを 防 ごうとする 事 実 上 の 活 動 の 域 を 出 るものではないというべきである したがって Y が 確 定 的 な 採 用 の 意 思 表 示 をしたと 解 することはできず また X はこれを 十 分 理 解 していたと いえるから X 及 び Y が 本 件 内 々 定 によって 確 定 的 な 拘 束 関 係 に 入 っていないこと が 明 らかといえる 本 件 において 始 期 付 解 約 権 留 保 付 労 働 契 約 が 成 立 したとはいえ ない ⅱ 契 約 当 事 者 は 契 約 締 結 のための 交 渉 を 開 始 した 時 点 から 信 頼 関 係 に 立 ち 契 約 締 結 という 共 同 目 的 に 向 かって 協 力 関 係 にあるから 契 約 締 結 に 至 る 過 程 は 契 約 上 の 信 義 則 の 適 用 をうけるものと 解 すべきである かかる 法 理 は 労 働 契 約 の 締 結 過 程 に おいても 異 ならない ⅲ 労 働 契 約 締 結 過 程 の 一 方 当 事 者 である Y としては X らにつき 内 々 定 取 消 しの 可 能 性 がある 旨 を 人 事 担 当 者 である に 伝 えて X ら 内 々 定 者 への 対 応 につき 慰 労 な きよう 期 すべきものといえるところ Y はかかる 事 情 を に 告 知 せず このため 同 人 において 従 前 の 計 画 に 基 づき 本 件 連 絡 をなしたもので かかる Y の 対 応 は 労 働 契 約 締 結 過 程 における 信 義 則 に 照 らし 不 誠 実 といわざるを 得 ない ( 不 法 行 為 に 基 づく 損 害 賠 償 請 求 を 認 める ) 14
3 検 討 (1) 採 用 内 定 について 始 期 付 解 約 権 留 保 付 労 働 契 約 成 立 説 ( 最 判 昭 和 54.7.20 判 決 資 料 8 最 判 昭 和 55.5.30 判 決 ) 採 用 内 定 取 消 は 既 に 成 立 した 労 働 契 約 の 解 約 (2) 内 々 定 について 東 京 高 判 H16.1.22 判 決 資 料 9 採 用 内 々 定 の 段 階 では 被 控 訴 人 が 確 定 的 な 採 用 の 意 思 表 示 をしたと 解 することは できず それ 故 採 用 内 々 定 時 に 被 控 訴 人 と 控 訴 人 の 間 において 控 訴 人 の 採 用 に 関 し 労 働 契 約 の 予 約 あるいは 解 約 権 の 留 保 付 労 働 契 約 その 他 いかなる 法 的 効 力 の 合 意 も 成 立 したと 認 めることはできない [ 参 考 資 料 ] 資 料 5 最 高 裁 平 成 23 年 4 月 22 日 判 決 ( 判 時 2116 号 53 頁 61 頁 ) 資 料 6 石 井 教 文 桐 山 昌 己 信 用 組 合 関 西 興 銀 訴 訟 判 決 の 概 要 ( 金 融 法 務 事 情 1928 号 29 頁 ) 資 料 7 福 岡 高 裁 平 成 23 年 2 月 16 日 判 決 ( 判 時 2121 号 137 頁 ) 資 料 8 最 高 裁 昭 和 54 年 7 月 20 日 判 決 ( 判 時 938 号 3 頁 ) 資 料 9 東 京 高 判 平 成 16 年 1 月 22 日 判 決 15